2024年2月10日

第1141回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ハンター症候群の遺伝子療法試験が成功 
  • リリー、デュラグルチドの第2相脂肪性肝炎試験が成功 
  • Vertex、膿疱性線維症新薬の第3相がポジティブな結果に 
  • JNJの抗FcR抗体も筋無力症試験が成功 
  • Blenrep shall return 
  • ギリアド、二剤の第3相がフェール 
  • BMS、オプジーボを肺癌術前術後補助療法として承認申請 
  • PRAC、パキロビッドと一部の免疫抑制剤の併用注意喚起 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ハンター症候群の遺伝子療法試験が成功
(2024年2月7日発表)

米国のRegenxbio(Nasdaq:RGNX)は、RGX-121のハンター症候群(別名ムコ多糖症II型)におけるpivotal試験で主目的を達成したと発表した。24年下期にFDAに加速承認を申請する考え。

ハンター症候群はX染色体劣性遺伝性疾患。ライソソームのI2S(iduronate-2-sulfatase)遺伝子が欠乏し、ヘパラン硫酸などが分解されずに蓄積、発達障害をもたらす。米国では年30~40人の新生児が診断される。治療は週一回、まる一日をかけて酵素補充療法(ERT)を受ける。RGX-121はヒトI2Sの遺伝子をAAV9ベクターを用いて中枢神経系に導入する。第1/2/3相CAMPSIITE試験では5歳までの神経障害性ハンター症候群患者に脳の大槽(一部の患者は脳室内)に一回投与し、その後の48週間、免疫抑制療法を施行した。薬効は、疾病活動性のサロゲート・マーカーとされるヘパラン硫酸のD2S6コンポーネントの脳脊髄液における水準の変化で評価した

用量変動パートでは15人の第16週D2S6が用量に応じて30~78%低下した。追跡期間が長い、最低用量を投与した3人は4年後も低水準を維持した。最大用量の2.9x10^11gc/gを投与した5人中4人はERTが不要になった。最大用量をpivotalパートで10人に投与したところ、第16週D2S6が86%低下し、8人は正常水準に達した。

有害事象はウイルスや細菌の感染症が見られるが、薬物や免疫抑制との関連性は否定されたようだ。pivotalパートでは肝機能検査値異常の深刻有害事象が1例発生したが、ステロイド治療で解消した。

ヘパラン硫酸削減効果に基づく承認は、日本ではJCRファーマの遺伝子組換え酵素補充療法イズカーゴ(パビナフスプアルファ)が21年に承認されているが、米国では本剤が初となる見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


リリー、デュラグルチドの第2相脂肪性肝炎試験が成功
(2024年2月6日発表)

イーライリリーは2023年決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。GLP-1/GIP受容体アゴニストtirzepatideの第2相MASH(代謝障害関連脂肪性肝炎、旧NASH)試験が主目的を達成し、CDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)の第3相前立腺癌試験はフェールした。

tirzepatideは二型糖尿病薬Mounjaroや体重管理薬Zepboundの活性成分で、MASH領域でも期待の新薬だ。第2相SYNERGY-NASH試験ではステージ2と3の患者を偽薬、5mg、10mg、15mgに無作為化割付けして52週間治療し、奏効率を比較した。奏功の定義は、主評価項目ではMASHが解消し線維症が悪化しないこと。副次的評価項目では線維症が1段階以上改善しMASHが悪化しないこと。前者は各群12.6%、51.8%、63.1%、73.9%となり、3用量とも偽薬比統計的に有意だった。MASH領域の他の開発品の数値と見比べても良さそうだ(比較可能性があるとは限らないが)。後者は全用量とも臨床的に意味のある数値が出たとのことだが、統計的に有意とは記されていない(第2相なので検出力がないのかもしれないが)。

同社とノボ ノルディスクのGLP-1作用剤はスタチンや抗PD-1抗体に続く超大型製品に育っている。リリーのTrulicityとMounjaro、Zepboundの合計売上高は22年の79億ドルが23年には124億ドルに増加、同年第4四半期だけ見ると年率160億ドルに膨れ上がり、それでも、(二社とも)供給が需要に追い付かない状態だ。

リンク: 同社の23Q4決算プレゼン用スライド(P.17に関連図表)

一方、Verzenioは第3相CYCLONE-2試験で転移去勢抵抗性前立腺癌にabirateroneと併用する便益を検討したが、PFS(無進行生存期間、放射線学的評価)がabiraterone・偽薬併用群を有意に上回らなかった。

リンク: 同社の23Q4決算リリース


Vertex、膿疱性線維症新薬の第3相がポジティブな結果に
(2024年2月5日発表)

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は膿疱性線維症薬として開発しているトリプル・コンビ・レジメンの第3相試験がポジティブな結果になったと発表した。24年央までにグローバルな承認申請を行う予定。米国では優先審査バウチャを用いて審査期間短縮を図る。

vanza tripleと通称される開発品は、CFTRコレクターのVX-121(vanzacaftor)とVX-661(tezacaftor)及びCFTRポテンシエーターVX-561(deutivacaftor)の配合剤。第3相は、二本の試験に12歳以上のこれらの薬剤に感受する変異型を持つ膿疱性線維症患者を組入れて、一日一回経口投与する便益を、同社の既存製品であるTrikafta(elexacaftor、tezacaftor、ivacaftorの配合剤)を朝に、Kalydeco(ivacaftor)を夕に、経口投与する群と比較した。ラン・イン期間に全員にTrikaftaレジメンによる治療を施行した後の数値との比較なので、新製品にスイッチする当否を検討したわけだ。三剤の用量は、新製品が各20mg、100mg、250mg、Trikaftaレジメンは朝は各100mg、50mg、75mg、夕はivacaftorだけ75mgとなっており、共通成分であるtezacaftorの用量も異なっている。

主目的である第24週のppFEV1(一秒量の予測値比パーセント)は二本とも非劣性解析が成功した。ベースライン値比増減の群間差は二本とも0.2%だった。副次的評価項目である汗中塩化物奏効率(汗中塩化物検査値が膿疱性線維症の診断基準である60mmol/Lを下回った患者の比率)はスイッチ群ではベースライン値の76%から86%に10%改善したのに対して、継続群では74%から76%に微増に留まり、有意な差があった。安全性は大きな群間差はなかった。

もう一本のRIDGELINE 105試験は6~11歳の感受変異型を持つ膿疱性線維症を組入れた単群試験。主目的は安全性だが、副次的評価項目の第24週汗中塩化物はTrikaftaラン・イン後のベースライン値と比べて8.6mmol/L改善。汗中塩化物奏効率はベースラインの84%から95%に改善した。

Trikaftaからスイッチさせるには患者や医師、保健機関などにメリットをアピールする必要がある。塩化物の汗中浸出が減少する意義をどれだけアピールできるか、且つ又、価格でどれだけアピールできるかが課題になりそうだ。同社にとっては、第3者に支払うべき売上ロイヤルティ率が既存製品より低いことに加えて、おそらく知的所有権の有効期間も長いのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


JNJの抗FcR抗体も筋無力症試験が成功
(2024年2月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはJNJ-80202135(nipocalimab)の第3相重症筋無力症(gMG)試験が成功したと発表した。当局と相談する考え。シェーグレン症候群の第2相用量変動試験が良好な結果になったことも明らかにした。

20年にMomenta Pharmaceuticalsを買収して入手した、胎児性Fc受容体(FcRn)に結合するアグリコシル化抗体。抗FcRn抗体は21~22年にargenx(Nasdaq:ARGX)の抗体フラグメント、Vyvgart(efgartigimod alfa-fcab)が、23~24年にはUCBのIgG4型抗体、Rystiggo(rozanolixizumab-noli)も、米日欧で抗アセチルコリン受容体抗体陽性のgMGなどに承認されている。JNJの開発の特徴は様々な用途にテストしていることで、23年に早発性重度胎児新生児溶血性疾患(EOS-HDFN)の第2相が成功、CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)の第2/3相試験も進行中だ。

第3相gMG試験、VIVACITYは標準療法の効果が不十分な成人の中重度gMG患者を組入れて2週毎静注し、第22~24週のMG-ADLを偽薬群と比較した。データは未発表。第2相では4用量・用法群ともMG-ADL2ポイント低下奏効率が52%と偽薬群の15%を有意に上回った。

リンク: JNJのプレスリリース


Blenrep shall return
(2024年2月5日発表)

GSKは、昨年11月、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)の第3相多発骨髄腫試験、DREAMM-7で主目的を達成したと発表したが、2月のASCO(米国臨床腫瘍学会)Plenary Seriesでデータが発表された。全生存期間のデータが成熟するのを待って承認申請に向かうのでないか。

Blenrepは、協和キリン・グループのBioWaが創製した、骨髄腫細胞のサバイバルを促すBCMAをブロックする抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体。主要4剤を使い果たした再発/難治多発骨髄腫を組入れた第2相で良績を上げス20年に米欧で加速承認/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験である第3相DREAMM-3が22年にフェールし、3次治療におけるPFS(無進行生存期間)がpomalidomide・dexamethasoneを有意に上回るといいう仮説を立証できなかった。全生存期間の解析は未成熟だったがハザードレシオ1.14と数値上、見劣りした。このため、米国では23年2月に加速承認が取り消された。EUでもCHMPが昨年12月に条件付き承認を更新すべきでないという勧告を再確認したため、早晩、取り消されるだろう。

このような経緯があるため今回の試験成功はサプライズだ。難治/再発骨髄腫の二次治療試験で、Velcade(bortezomib)、低量dexamethasone、そしてDarzalex(daratumumab)を併用する標準療法の、daratumumabに代えてBlenrepを併用する効用を検討したところ、中間解析で主評価項目のPFSを達成した。ハザードレシオ0.41、p<0.00001、メジアン期間は36.6ヶ月対13.4ヶ月と、かなり良い。副次的評価項目である全生存期間もハザードレシオ0.57、p=0.00049と大変良い数値が出ているが、中間解析の成功認定基準はp<0.00037と厳しく設定されていたため、統計的に有意とは言えず、引き続き追跡する。

有害事象は血小板減少症や好中球減少症、肺炎などの発生率が対照群を上回った。G3以上の視覚有害事象(霞目やドライアイ、視力低下など)が34%の患者で発生したが、多くは回復した。

リンク: 同社のプレスリリース


ギリアド、二剤の第3相がフェール
(2024年2月6日発表)

ギリアド・サイエンシズは23年第4四半期の決算発表に際して、GS-5245(obeldesivir)の第3相COVID-19試験とGS-4721(magrolimab)の第3相急性骨髄性白血病(AML)試験がフェールしたことを明らかにした。どちらも他の第3相がパッとしない結果だったのでサプライズ感は小さい。

obeldesivirはCOVID-19治療薬Veklury(remdesivir)の類縁体で、肝臓以外にも分布する酵素によって活性化されることから、経口剤として開発されている。第3相OAKTREE試験は米国と日本の施設で陽性判定から3日以内の、重症化リスクが高くなく入院もしていないCOVID-19感染者に350mgを一日2回、5日間投与し、症状改善までの期間を偽薬と比較したが、有意な改善が見られなかった。ウイルスや免疫の変化により流行のピーク時には最大2週間あった罹患期間が1週間足らずになったことも一因と見なされている。

昨年9月には、米国以外の施設で陽性判定から5日以内の重症化リスクが高い非入院COVID-19感染者を対象とする第3相BIRCH試験が組入れ中止になった。感染者数が減少、重症化や死亡例も減少し、組入れが順調に進まなかったことが原因のようだ。

Vekluryも23年の売上高が前年比でほぼ半減、前々年比では6割減の21億ドルに留まっており、経口剤の試験フェールは効果というよりは治療の必要性の問題なのだろう。

GS-4271は抗CD47抗体。マクロファージのSIRPアルファ受容体に結合して免疫抑制するのを妨げる。複数の第3相がロンチされたが、23年に高リスクMDS(骨髄異形成症候群)の一次治療azacitidine併用試験とTP53変異AMLのazacitidine併用試験が無益中止となったのに続いて、今回、集中的治療不適なAMLのvenetoclax・azacitidine併用一次治療試験、ENHANCE-3が、中間解析で死亡リスクが見られたことから、中止となった。FDAは治験の完全停止命令を発出、過去にも部分停止命令を出したことがあり、同社は、血液癌における開発を中止する考えだ。

20年にForty Seven社を49億ドルで買収して入手したコンパウンド。その前年に小野薬品が日本などの開発商業化権を取得し、日本で第1相、韓国台湾でAMLの第3相試験中。

リンク: ギリアドの23Q4決算プレゼン用資料(pdfファイル)

【承認申請】


BMS、オプジーボを肺癌術前術後補助療法として承認申請
(2024年2月7日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)をステージIIAからIIIBの非小細胞性肺癌の切除術前と後のアジュバント療法に米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。審査期限は10月8日。EUでは1月に受理されていたことも明らかにした。

CheckMate-77T試験に基づくもの。術前に化学療法と共に360mgを3週毎に4サイクル投与し、術後は480mgを4週毎に1年間投与したところ、Opdivoの代わりに偽薬を投与した群と比べて、EFS(無イベント生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.58と、有意な改善が見られた。副次的評価項目の全生存期間は未成熟。G3/4治療関連有害事象の発生率は試験薬群が32%、偽薬群は25%だった。

昨年10月に米国で適応拡大が承認されたMSDのKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-671試験の成績と見比べると、EFSのハザードレシオは0.58で、こちらは治験医評価なので単純には比較できないものの、まあ似たようなもの。違いはKeytrudaは共同主評価項目である全生存期間のハザードレシオが0.72、p=0.0103と、この中間解析に割当てられたアルファの0.0109と比べると高度に有意とは言い難いものの、効果が確認されていること。

リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、パキロビッドと一部の免疫抑制剤の併用注意喚起
(2024年2月9日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAのファーマコビジランス・リスク評価委員会、PRACは、ファイザーのCOVID-19治療薬Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)と狭安全域の免疫抑制剤に関する併用注意/禁忌を再喚起した。致死例を含む深刻な有害事象が報告されているため。医療従事者向けの直接通知(DHCP)を発出する予定。

PaxlovidはnirmatrelvirのCYP3A4による代謝を遅らせる目的でritonavirを配合しているため、この酵素に影響される薬を同時服用すると、安全性や効果が変わってしまう可能性がある。曝露が少し増えるだけでも深刻有害事象のリスクが高まる、安全域の狭い薬は特に注意が必要だ。PRACは、プレスリリースの中で、併用する場合は血中濃度を密接且つ定期的に監視すべき薬としてカルシニューリン阻害剤(tacrolimusやciclosporin)やmTOR阻害剤(everolimusやsirolimus)を挙げている。監視できない場合は併用してはいけない。更に、voclosporinが併用禁忌であることも再喚起した。

これらの薬は代表的な3A4阻害剤であり、順守されない症例があるのは意外だが、Paxlovidはチェックすべき薬が多すぎるので使い難いという日本の一部医師の声の裏返しなのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)
24年1QロシュのXolair(omalizumab、食物アレルギー適応拡大)
24年1QアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、未治療EGFRm+NSCLC)
24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
24/3/26MSDのMK-7962( sotatercept、肺動脈高血圧症)
24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
24/3/31Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
諮問委員会
24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



今週は以上です。

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