【ニュース・ヘッドライン】
- ASCO:ブレヤンジはCLLにも有効
- ASCO:一次治療におけるReblozylの効果
- cytisiniclineの第3相禁煙試験がまた成功
- 経口高量セマグルチドで体重が15%減
- PTC、フリードライヒ運動失調症試験がフェールも承認申請を検討
- MDM2阻害剤の第3相がフェール
- Mirati社、TAM阻害剤の開発を断念
- カービクティの早期投与をEUで承認申請
- ボノプラザンをFDAに再申請
- DMD遺伝子療法の承認審査が遅延
- CHMP、CDKL5欠乏障害用薬などの承認を支持
- 新規SGLT阻害剤が心不全治療薬として承認
- パキロビッドが米国で本承認
- アシネトバクター用薬が承認
- Ayvakitが緩徐型全身性肥満細胞腫に適応拡大
【新薬開発】
ASCO:ブレヤンジはCLLにも有効
(2023年5月25日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブはASCO(米国臨床腫瘍学会)でキメラ抗原受容体-T細胞療法薬Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の第1/2相TRANSCEND CLL 004試験の結果を発表する。同薬は難治再発大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として21~22年に米日欧で承認されたが、今回は成人のBTK阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ難治再発CLL(慢性リンパ性白血病)を対象とする試験のうち、BTK阻害剤に応答せずbcl-2阻害剤の治療歴も持つ患者49人のデータを発表する。完全反応率は18.4%、メジアン反応持続期間はメジアン21ヶ月追跡しても未達、ORR(客観的反応率)は42.9%でメジアン35.3ヶ月持続した。CAR-Tに付き物のサイトカイン放出症候群の発生率はG3が8.5%、G4/5はゼロ。神経学的イベントはG3/4が18.8%だった。CLLでCAR-Tの有効性が示されたのは初めて。
同社は当局と相談する考え。単群、少人数の試験なので上手くいくか分からないだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO:一次治療におけるReblozylの効果
(2023年5月25日発表)
BMSはIIB型アクティビン受容体融合蛋白Reblozyl(luspatercept-aamt)をベータ・サラセミアやエリスロポイエチン不応不耐骨髄異形成症候群(MDS)による貧血症治療薬として欧米で販売しているが、後者は5月に一次治療向けに適応拡大申請し、日本でも新薬承認申請した。ASCOで裏付けとなるデータが発表される。
第3相COMMANDS試験でエリスロポイエチン歴を持たない成人のvery low/low/intermediateリスクMDSで輸血依存貧血患者を組入れて3週毎皮下注する効果をepoetin alfa週次投与と比較したもので、奏効率(12週間の治療期間中に赤血球輸血を受けずヘモグロビン値がベースライン比1.5g/dL超増加、独立評価委員会判定)が各群58.5%と31.2%となり、有意な差があった。24週間の奏効率も有意に上回った。治療時発現有害事象は疲労や下痢、末梢浮腫が増加した。
FDAはMDS貧血の二次治療における適応をRS(環状鉄芽球)型に限定した。報道によると今回もRS型では大きく上回ったがそれ以外では数値上、下回ったとのことで、各国の審査機関の判断が注目される。
リンク: 同社のプレスリリース
cytisiniclineの第3相禁煙試験がまた成功
(2023年5月23日発表)
Achieve Life Sciences(Nasdaq:ACHV)は、cytisiniclineの二本目の第3相禁煙補助試験が良好な結果になったことを明らかにした。一本目と同様に、米国の施設で約800人の患者を組入れて、3mgを一日三回投与する効果を偽薬と比較した。治療期間は12週間で、試験薬群は6週間投与しその後の6週間は偽薬にスイッチする群も設定された。承認薬と同様に、最後の4週間に呼気CO濃度を行って禁煙成否を判定した。
結果は、12週間コースは禁煙成功率30.3%となり、偽薬群の9.4%のほぼ3倍で統計的に有意。6週間コースは14.8%と6.0%でこちらも有意だった。主な有害事象は不眠や異常夢、悪心、頭痛など。
一本目の試験では12週間コースが32.6%、偽薬群は7.0%、6週間コースは25.3%と4.4%だったので、概ね似たような結果だが、6週間コースの成績は低下したように見える。
cytisiniclineは植物アルカロイドで、構造がニコチンと似ており、アルファ4ベータ2ニコチン・アセチルコリン受容体部分作動作用を持つ。同社は、中東欧などで禁煙補助薬として20年以上、2000万人以上の市販歴を持つブルガリアのSopharmaから西欧米国などでの開発・輸入販売権を取得、1.5mg一日6回で開始し漸減という新用量用法で第3相に進んだ。24年に承認申請する考え。
承認されても競争は厳しそうだ。同様な作用機序を持つファイザーのChantix(varenicline)とそのGE薬は、一日一回服用で済む。第3相試験における治療効果(成功率の偽薬群との差)は大差ない。また、物質特許が存在しないので誘導体や塩、投与方法の特許と、すべての新薬に供与される排他権が頼りだ。6週間コースの設定が独自だが、成功率はあまり高くなく、現実の医療では(Chantixの米国レーベルが推奨するように)成功後もしばらくは服用を続けることになるだろうから、セールストークにはなり難そうだ。ニコチンEシガレット使用者の禁煙試験も進行中だが、どの程度の差別化要因になりうるのだろうか。
リンク: 同社のプレスリリース
経口高量セマグルチドで体重が15%減
(2023年5月22日発表)
ノボ ノルディスクは皮下注用semaglutideを二型糖尿病薬Ozempicと肥満症薬Wegovyとして、経口剤を二型糖尿病薬Rebelsusとして、日米欧などで販売しているが、経口剤の第3相肥満症治療試験も年内に欧米で承認申請する計画。今回、第3相OASIS 1試験で統計的に有意な治療効果が見られたことが公表された。
肥満症またはオーバーウェイトで疾病リスク因子を持つ患者667人を偽薬群と50mg群に無作為化割付けして一日一回、68週間治療したところ、体重がベースライン時点の平均105.4kgから偽薬群は2.4%、試験薬群は15.1%低下した(服用中止などがあっても最後まで計測するtreatment policy estimandベース)。中止前までのデータしか考慮しないtrial product estimandベースでも各群1.8%と17.4%減少した。
第3相は日本を含む東アジアで198人を組入れる同様な試験と、中国で200人を組入れて44週間治療する試験が進行中。また、後期第3相として、25mgを偽薬と比較する試験も進行中だ。
semaglutideなどのGLP-1作用剤は米国ではセレブの人気を集めているらしく、日本でもオフレーベル処方する医療施設が出てきたようだ。世界的に品不足になっており、ノボは、肥満症向け経口剤の欧米以外での承認申請は生産能力や取扱品の優先順位次第と記している。
semaglutideシリーズの比較
Ozempic:血糖治療薬。最大1mgを週一回皮下注。
Wegovy:体重管理薬。最大2.4mgを週一回皮下注。体重治療効果は6~12%。
Rybelsus:血糖治療薬。最大14mgを一日一回経口投与。
新薬:体重管理薬。最大50mgを一日一回経口投与。OASIS 1試験における治療効果は16%
リンク: 同社のプレスリリース
PTC、フリードライヒ運動失調症試験がフェールも承認申請を検討
(2023年5月23日発表)
PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はPTC-743(vatiquinone)の第3相MOVE-FA試験の結果を公表した。成人小児のフリードライヒ運動失調症患者143人を組入れてmFARS(修正フリードライヒ運動失調症評価尺度)の上昇を抑制する効果を72週間に亘り検討したところ、有意水準に到達しなかったが、一部の症状や一部の副次的評価項目で名目p値が0.05を若干下回ったことから、当局と承認申請に向けた相談を行う考え。この希少疾患の治療薬は2月にReata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)のnrf2アクティベータ、Skyclarys(omaveloxolone)が承認されたが、不純物対策が承認されるまで発売できない状態にある(審査期限は8月)。
PTC-743はミトコンドリアにおけるエネルギー・酸化ストレス経路を制御する重要な酵素である15-lipoxygenaseの阻害剤。第3相の主評価項目は7~21歳の患者123人だけが対象で、試験薬の上昇は1.22と偽薬群の2.83を下回ったが、p=0.14だった。この尺度は嚥下や構音、上肢下肢の協調、直立安定性を評価するが、幾つかの項目では名目p値が0.02~0.04とボーダーライン上だが閾値下に収まった。また、修正疲労尺度の変化もp0.025だった。更に、最後まで治療を中止しなかった96人だけの解析では上昇が3.08対0.77となり、名目p=0.054と、数値が若干改善した。
p値が0.06ではダメ、0.04ならOK、という訳ではないので、どの解析もボーダーライン上またはアウトと受け止めた方が良さそうだ。FDAの希少疾患における審査ハードルは明らかに低下していることが頼りだ。
リンク: 同社のプレスリリース
MDM2阻害剤の第3相がフェール
(2023年5月22日発表)
Rain Oncology(Nasdaq:RAIN)は、milademetanの第3相脱分化脂肪肉腫試験がフェールしたと発表した。メジアンPFS(無進行生存期間)が3.6ヶ月と、ジョンソン・エンド・ジョンソンがPharmaMarからライセンスして開発した脂肪肉腫用薬、Yondelis(trabectedin)群の2.2ヶ月と大差なく、ハザードレシオ0.89、p=0.53に留まった。用量を減らした患者が対照群より多かったと記しているので、おそらく、忍容性がボトルネックになったのだろう。この用途の開発は断念。MDM2増幅癌など、他の希少腫瘍に対する第2相や第1相がまだ進行中。
腫瘍抑制蛋白であるp53の活性化を抑制するMDM2(murine double minute 2)を阻害しアポトーシスを誘導する経口剤。Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)が第一三共との共同研究を通じて創製、Rainは20年に第一三共からライセンスした。
リンク: 同社のプレスリリース
Mirati社、TAM阻害剤の開発を断念
(2023年5月24日発表)
Mirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)はMGCD516(sitravatinib)の第3相試験がフェールし、他の用途も含めて開発を中止すると発表した。非扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬とチェックポイント阻害剤による治療歴を持つ患者の二次、三次治療としてOpdivo(nivolumab)と併用する群の全生存期間をdocetaxel群と比較したが、有意な差はなかった。
MGCD516は経口マルチキナーゼ阻害剤で、TAMファミリー受容体やVEGFR2、KIT、RETを阻害する。PD-1阻害剤などに抵抗性を生じる微小環境を是正する効果が期待され、第2相単群試験が実施され、ORR(客観的反応率)20%、メジアン生存期間15.1ヶ月という良さそうな結果を出したが、やはり、ORRや単群試験は当てにならないのだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
カービクティの早期投与をEUで承認申請
(2023年5月25日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、キメラ抗原受容体-T細胞療法薬Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)をEUで成人の多発骨髄腫の二次治療に一部変更申請した。一次治療でlenalidomideに難治性を示した患者が対象。22年に米欧日で4~5次治療薬として承認されたが、2次治療で承認されればCAR-Tでは初。
第3相CARTITUDE-4試験で1~3次治療歴を持ちlenalidomide抵抗性の成人患者419人を組入れてPFS(無進行生存期間)を代表的な3剤併用レジメンと比較したところ、中間解析で目的を達成、独立データ監視委員会が盲検解除を推奨した。欧州の学会の抄録が誤って公開されてしまった模様であり、報道によると、ハザードレシオは0.26、完全反応率は各群73%と22%、全生存期間は未成熟であるもののハザードレシオ0.78となった模様。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
ボノプラザンをFDAに再申請
(2023年5月23日発表)
Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)は武田薬品が日本で販売しているカリウムイオン競合的アシッドブロッカー、vonoprazanをライセンスし、22年にピロリ菌除菌療法用薬としてFDAの承認を取得したが、様々な薬で懸念が浮上している癌原性物質の類似物、NVP(N-nitroso-vonoprazan)が微量検出されたため、発売が先送りされた。びらん性食道炎の適応拡大申請も審査完了通知を受領したが、製剤を一部見直し、3ヶ月間の安定性試験の成績と推計モデルにより有効期間(24ヶ月、因みに日本は3年)中に含有量がFDAの許容限度を超えないことを確認、今回、FDAに再承認申請した。6ヶ月審査の見込みで、順調なら第4四半期に審査結果が出ることになる。承認されたら両方の適応症で上市する予定。
3ヶ月で足りるものなのかどうか、全く分からないが、同社は6ヶ月追跡データも提出する予定。もう一つ分からないのは、Phathomの製品はCatalent社が製造するが、日本で販売されている製品は問題ないのだろうか?
リンク: 同社のプレスリリース
DMD遺伝子療法の承認審査が遅延
(2023年5月24日発表)
サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)はデュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子療法であるSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec)を米国で承認申請し、5月12日の諮問委員会で多くの支持を受けたが、予想通り、審査期限が5月29日から6月22日に延期された。また、FDAは対象を4~5才の患者に限定する考えを通知してきたとのこと。
通常は3ヶ月延期するところを1ヶ月足らずに抑えたのは、やはり、諮問委員会から17日という短期間で承認手続きを完了するのが困難だったことが主因なのだろう。加速承認される可能性が更に高まったともいえるだろう。
SRP-9001は本来のものより短縮したジストロフィンの遺伝子をアデノ随伴ウイルスに組入れて患者の筋細胞で発現させるもの。臨床試験で症状評価スコアが偽薬群ほど悪化しなかったが有意水準には達しなかった。4~5才の患者では悪化が小さかったが6~8才では偽薬より悪化した。今回の申請はマイクロジストロフィン発現をエビデンスとするもので、臨床的便益は、第4四半期にEMBARK試験の結果が出てから確認することになる。6歳以上における便益も明らかになるだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
CHMP、CDKL5欠乏障害用薬などの承認を支持
(2023年5月26日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。また、ノバルティスの鎌状赤血球病治療薬Adakveo(crizanlizumab)の条件付き承認を取消すよう勧告した。
リンク: EMAのプレスリリース
Marinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)のZtalmy(ganaxolone)は中枢神経選択的GABA Aポジティブ・アロステリック・モジュレーター。脳が正常に機能する上で必須のcyclin-dependent kinase-like 5(CDKL5)の遺伝子に変異を持ち頻繁に癲癇を発症するX染色体性遺伝子疾患、CDKL5欠乏障害の癲癇頻度を減少させる。有害事象は傾眠や発熱など。2~17歳で治療を開始、18歳以降も継続可。
米国では3月に承認され、年13万ドル強の価格で販売されている。欧州ではフィンランドのOrionが販売する。
リンク: EMAのプレスリリース
パリのCurium社のPylclari(piflufolastat (18F))は前立腺癌のPET造影剤。根治治療を受ける患者や根治治療後にPSA値が上昇し再発転移が疑われる患者のステージングや病変部位特定に用いられる。既存の薬剤と比べて、比較的早期段階の癌やPSA値が低い場合でも造影できる。米国ではライセンス元ののLantheus(Nasdaq:LNTH)がPylarify名で承認を取得した。
リンク: EMAのプレスリリース
適応拡大では、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を切除可能非小細胞性肺癌の切除術前化学療法に併用することが支持された。CheckMate-816試験で化学療法・偽薬併用群と比べてEFS(無イベント生存期間、盲検独立評価)のハザードレシオが0.63だった。米国では審査期限の5か月前倒しで承認されたが、CHMPはPD-L1発現(≧1%)に限定している。昨年の学会発表によると、PD-L1陰性癌ではハザードレシオは0.85に留まり、1~49%の腫瘍細胞で発現していたサブグループにおける0.58、50%以上における0.24と比べて見劣りした。
リンク: EMAのプレスリリース
一方、フランスのイプセンが進行性骨化性線維異形成症用薬として承認申請したSohonos(palovarotene)は、5月に否定的意見がまとまり、メーカー側の請求に応じて再審査が行われたが、評価は覆らなかった。臨床試験のデザインや結果が万全でないことや、成長板早期閉鎖リスクが影を落とした。
リンク: EMAのプレスリリース
5月に承認申請が撤回されたのは、大塚製薬のAbilify Asimtufii(aripiprazole)。米欧日などで統合失調症などの維持療法に承認されているAbilify Maintenaは月一回筋注だが、Asimtufiiは2ヶ月毎で足りるのが長所。米国では4月に承認されたが、EUはメーカー側の戦略変更により撤回となった。CHMPは、エビデンスとなるべき生物学的同等性試験の対照薬がEUで流通しているAbilify Maintenaではないことに疑問を持っていたとのことだが、初耳であり、詳細は不明。
リンク: EMAのプレスリリース
ロシュも新生血管加齢性黄斑変性治療薬Susvimo(ranibizumab)の申請を撤回した。Lucentisの活性成分を放出するインプラント製品で、6ヶ月に一度リフィルする。米国では21年に承認されたが、シーリングの耐久性に問題が発覚し、22年に自主回収となった。今回の申請撤回も同じ理由の模様だ。
リンク: EMAのプレスリリース
最後に、CHMPは、ノバルティスの抗Pセレクチン抗体、Adakveo(crizanlizumab)の承認取消をECに勧告した。20年に16歳以上の鎌状赤血球症患者の血管閉塞性クリーゼを抑制する薬として条件付き承認されたが、公式な市販後薬効確認試験であるSTAND試験で効果が確認されなかった。
第3相STAND試験と条件付き承認のエビデンスとなった第2相SUSTAIN試験のデザイン上の違いはそれほど大きくなく、明確なのは、新たに12~15才も対象としたこと、2.5mg/kgと5mg/kgではなく5mg/kgと10mg/kgをテストしたこと、組み入れ数が254人と2割程度増えたこと位だ。それなのに、偽薬群の鎌状赤血球性疼痛クリーゼによる受診頻度が前回は年率2.96、今回は2.30とそれほど変わらなかったのに対して、5mg/kg群は前回1.63が今回2.49と偽薬群を上回る水準まで上昇した。在宅治療を含めた副次的評価でも効果は見られなかった。
結果が食い違った理由はよくわからないが、『鎌状赤血球症関連疼痛クリーゼ』の判定は簡単ではない模様で、EUの審査報告書によると、SUSTAIN試験では担当医の認定を独立評価委員会が否定した症例がかなりあり、特に、試験薬群で目立った模様だ。公表されているリスク削減率48%というのは独立評価委員会ベースだが、実際はもっと小さい可能性も否定できない模様。FDAは19年に普通に承認したのにEUが条件付き承認に留め更なるエビデンスを求めたのは、これが一因のように見受けられる。
リンク: EMAのプレスリリース
【承認】
新規SGLT阻害剤が心不全治療薬として承認
(2023年5月26日発表)
Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)のInpefa(sotagliflozin)が米国で心血管疾患リスク抑制薬として承認された。心不全、または、心血管リスク因子を持つ二型糖尿病性慢性腎不全の患者の心血管死/心不全による緊急受診・入院を抑制する。第3相試験では偽薬比3割程度少なかった。
SGLT-2だけでなくSGLT-1も阻害する経口剤で、欧州では一型糖尿病治療薬Zynquistaとして承認されたが後に返上。FDAは糖尿病性ケトアシドーシスを懸念して承認しなかった。サノフィと共同開発していたが、EU承認後に提携解消となった。
リンク: 同社のプレスリリース
パキロビッドが米国で本承認
(2023年5月25日発表)
COVID-19用薬やワクチンは迅速承認に向けて各国が様々な制度を利用した。米国のEUA(非常時使用認可)は公衆衛生に対する脅威が存在する期間だけ有効で、経過措置はあるものの、やがて失効する。既に複数の治療薬が本承認を取得しているが、今回、ファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)が成人の軽中等症COVID-19で入院死亡リスク因子を持つ患者の治療薬として正式に承認された。尚、12~17歳の小児適応はEUAのまま。
EPIC-HR試験で発症5日以内に治療を開始した患者の28日COVID-19入院・全死亡率が0.9%と、偽薬群の6.5%を大きく下回った。但し、本試験はワクチンがまだ普及していない、かつ、現行より重症化率が高い株が流行していた時期に実施されており、現在は治療しないリスクはもっと小さいはずだ。だからといって便益がないわけではなく、EPIC-SR試験では、ワクチン接種していても高齢などリスク因子を持つサブグループでは便益が見られた、
リンク: FDAのプレスリリース
アシネトバクター用薬が承認
(2023年5月23日発表)
FDAはEntasis TherapeuticsのXacduro(sulbactam、durlobactam)を承認した。本製品に感受するアシネトバクター・バウマンニ-カルコアセティカス複合体による院内感染細菌性肺炎や人工呼吸器関連細菌性肺炎の治療に用いる。第3相試験で28日死亡率が19.0%となり、colistinを投与した実薬対照群の32.3%と比べて非劣性だった。臨床的治癒率も68.3%対41.9%で非劣性だった。
アシネトバクター・バウマンニは抗生剤抵抗性が高く、新薬のニーズが高い。sulbactamはベータ・ラクタマーゼ産生菌が増え無効になったが、新開発の広域ベータ・ラクタマーセ阻害剤、durlobactamを併用することで蘇った。
同社は15年にアストラゼネカの抗感染症開発品を継承してスピンアウト、22年にInoviva(Nasdaq:INVA)の子会社となった。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Inovivaのプレスリリース
Ayvakitが緩徐型全身性肥満細胞腫に適応拡大
(2023年5月22日発表)
Blueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)は、FDAがAyvakit(avapritinib)の適応拡大を承認したと発表した。20年に欧米で承認されたKIT/PDGFRアルファ阻害剤で、PDGFRアルファにエクソン18変異を持つGIST(消化管間質腫瘍)や進行全身性肥満細胞腫に承認されているが、緩徐型の全身性肥満細胞腫が追加された。臨床試験では症状スコア(患者評価、合計値は0~110の範囲で大きいほど重い)が24週間の治療でベースライン時点の50点から15.3点低下した(偽薬群は9.6点低下)。EUでも申請中。
全身性肥満症の9割超は緩徐型であり、GISTと比べても患者数が一桁多いので、商業的にも大きな適応拡大だ。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
- 23年5月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
- 23/5/31 ファイザーのPF-06928316(60歳以上のRSVワクチン)
- 23年6月推 ファイザーのPF-06863135(elranatama、多発骨髄腫)
- 23/6/15 イプセンのBylvay(odevixibat、アラジール症候群に適応拡大)
- 23/6/16 GSKのmomelotinib(骨髄線維症)
- 23/6/16 BMSのCamzyos(mavacamten、閉塞性肥大性心筋症における中隔縮小治療の必要性の抑制に適応拡大)
- 23/6/17 F2GのF901318(olorofim、侵襲性アスペルギルス症)
- 23/6/20 argenxのefgartigimod(全身性重症筋無力症用薬の皮下注用新製剤)
- 23/6/21 Aldeyra TherapeuticsのADX-2191(methotrexate、硝子体注射用、原発性硝子体網膜リンパ腫)
- 23/6/22 Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
- 23/6/22 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
- 23/6/23 Fabre-Kramer PharmaceuticalsのEXXUA(gepirone、鬱病)
- 23/6/27 Regeneron Pharmaceuticalsのaflibercept 8mg(wAMD、DME)
- 23/6/30 Biomarin PharmaceuticalのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec、重度A型血友病)
諮問委員会:
- 23/6/8 AMDAC:アストラゼネカのnirsevimab(RSV下部気道感染症予防)
- 23/6/9 PCNSDAC:エーザイ/バイオジェンのLeqembiのアルツハイマー病本承認
- 23/6/15 VRBPAC:2023-24シーズンのCOVID-19ワクチン配合株について
- 23/8/13 ODAC:Mesoblastのremestemcel-L(ステロイド難治急性移植片宿主病)
- 23/6/28 EDAC:イプセンのpalovarotene(進行性骨化性線維異形成症)
今週は以上です。
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