【ニュース・ヘッドライン】
- オプジーボとヤーボイの併用、日本の試験で死亡者が想定以上
- RTA 402は腎機能悪化を抑制できず
- バビースモ、米国でもRVOに申請
- FDA諮問委員会、DMD遺伝子療法の評価が分かれた
- FDA諮問委員会が経口避妊薬のOTCスイッチを支持
- 高力価IL-15は承認されず
- アステラスのホットフラッシュ治療薬が米国で承認
- レキサルティがアルツハイマー性アジテーションの治療に適応拡大
- フォシーガが米国でも駆出率低下の限定解除
- EMAも早産予防薬の安全性や効果を検討へ
【新薬開発】
オプジーボとヤーボイの併用、日本の試験で死亡者が想定以上
(2023年4月28日発表)
JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)は、nivolumabとipilimumab(小野薬品/BMSのOpdivoとYervoy)を化学療法と併用した非小細胞性肺癌一次治療試験を中止したと発表した。死亡率が想定を上回ったことなどが理由。致死的な副作用に注意するよう呼びかけた。
このJCOG2007試験は化学療法二剤と4剤併用する便益を化学療法二剤とpembrolizumab(MSDのKeytruda)を併用する標準療法と比較したもの。中間解析で治療との因果関係が否定できない死亡が131人中9人、6.8%と閾値の5%を上回ったため昨年4月に患者登録を一旦停止。除外基準に白血球数が多い患者などを追加して再開したが、順守されず、死亡例が発生してしまったことなどから中止を決めた。治療との因果関係が否定できない死亡は148人中11人、7.4%となり、海外で実施された類似した試験であるCheckMate-9LA試験の2%や、市販後監視試験における4000人中93人、2.3%と比べて高かった。
致死的となった有害事象は肺臓炎、サイトカイン放出症候群、敗血症、心筋炎、血球貪食症候群など。JCOGがプレスリリースを出したのは、このような免疫強化による副作用に注意するよう改めて呼びかける意図のようだ。
この影響で、小野薬品は肺炎領域における今年度の需要が減少すると予想している模様だ。
リンク: JCOGのプレスリリース(和文)
RTA 402は腎機能悪化を抑制できず
(2023年5月10日発表)
協和キリンはReata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)のRTA 402(bardoxolone methyl)を日本市場でライセンス、アルポート症候群治療薬として承認申請するとともに、糖尿病性腎症の第3相試験を実施していたが、後者は望ましい結果が出なかった。前者はReataも欧米で申請したが米国では承認されず欧州でも申請撤回となっており、両社はこれらの領域における開発を断念した。おそらく、他の用途も中止されるのではないか。
RTA 402はNrf2転写因子の発現を増やしNF-kappaBやSTATの経路を抑制する。今回の試験は目標一日用量15mgの便益を偽薬と比較した。主評価項目はeGFR(推定糸球体濾過率)が30%以上低下またはESRD(末期腎疾患)のリスク。有意な差が見られたようだが、臨床的に重要な転帰であるESRDに進行するのを遅らせる効果が見られなかった。PMDA(医薬品医療機器総合機構)もESRDだけの解析を重視していた模様であり、それなら、主評価項目の設定が間違っているのではないだろうか。
FDAや諮問委員会がアルポート症候群における便益を認めなかった主因は、eGFRは改善するものの腎機能低下を抑制する作用は動物試験を含めて確認されていないことや、Reataが実施した第3相糖尿病性腎症試験が心不全のリスクや死亡リスクから中止された過去だ。日本の試験では死亡リスクは見られなかったのだろうか?
リンク: 同社の23年第1四半期決算発表リリース
リンク: 協和キリンのプレスリリース(和文)
【承認申請】
バビースモ、米国でもRVOに申請
(2023年5月9日発表)
ロシュは米国でVabysmo(faricimab-svoa)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。VEGF-Aとアンジオポイエチン-2を標的とする二重特異性抗体で糖尿病性黄斑浮腫や中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性の治療薬として承認されているが、CRVO(網膜中心静脈閉塞症)やBRVO(網膜静脈分枝閉塞症)による黄斑変性の治療を追加する。臨床試験ではEylea(aflibercept)と非劣性だった。日本でも中外製薬が4月に申請した。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、DMD遺伝子療法の評価が分かれた
(2023年5月12日発表)
FDAは細胞・組織・遺伝子療法諮問委員会(CTGTAC)を招集し、Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として加速承認を求めている遺伝子治療薬、SRP-9001について意見を聞いた。FDAはエビデンス不足と見なしている模様だが、諮問委員は賛成8人、反対6人と票が分かれた。臨床的便益を支持するエビデンスが不十分である点では一致しているが、賛成派は治療を受けた患者が元気に飛び回るビデオやマイクロジストロフィンが増えれば便益が生まれるはずというエキスパート・オピニオンを重視し、反対派は臨床試験でNSAAスコアの有意な改善が見られなかったことや、3倍の数の患者を組み入れた第3相試験の結果が年内に判明する見込みであることを重視した模様だ。
FDA諮問委員会は多数決制ではないので支持が上回っても最後に決定するのはFDA。承認されるかどうかは不透明だ。同社はDMDのアンチセンス薬二品の加速承認を受けたが、第4相試験のコミットメントを未だ果たしていないため、かって抗癌剤で見られたような新興企業による加速承認の食い逃げに対する懸念もFDAは持っている模様だ。
審査期限は5月29日。審査期限が諮問委員会から1ヶ月以内である場合、審査期限延長になることが多いが、今回はどうだろうか。
SRP-9001はDMD患者で欠損するジストロフィンの遺伝子の一部(マイクロジストロフィン)をアデノ随伴ウイルスをベクターとして患者に導入する。類似した、しかし症状はDMDほどではない、ベッカー型筋ジストロフィーの患者が発現する短縮ジストロフィンをヒントに開発されたもので、全長が3.6kbとジストロフィン遺伝子の1/4程度であるためウイルスベクターに組み込むことができた。オリジンはNationwide Children's Hospital。米国外はロシュ(日本は中外)がライセンスした。
リンク: Sareptaのプレスリリース
FDA諮問委員会が経口避妊薬のOTCスイッチを支持
(2023年5月10日発表)
Perrigo(NYSE:PRGO)は経口避妊薬Opill(norgestrel)のOTCスイッチをFDAに承認申請しているが、諮問委員会の支持を得た。初のOTC避妊薬になりそうだ。
非処方薬諮問委員会と産科・生殖・泌尿器科用薬諮問委員会の共同会議で17人の委員全員が賛成した。プロゲスチン製剤なので乳癌歴や異常出血のある女性は医師に相談すべきであり、また、10代前半の人たちは添付文書の内容を理解できるか分からないが、諮問委員会は、効果の高さや半世紀に及ぶ使用歴、処方薬を入手するハードルの高さなどから、便益が危険を上回ると判定した。
Opillは米国で1973年にOvrette名で承認されたが、05年に安全性や有効性以外の理由で販売中止された。HRA Pharmaが商品名変更・レーベル改訂を申請し17年に承認を取得、22年6月にOTC薬として申請した。PerrigoはOTC薬の大手企業で、同年5月に18億ドルでHRA Pharmaを企業買収した。
リンク: 同社のプレスリリース
高力価IL-15は承認されず
(2023年5月9日発表)
ImmunityBio(Nasdaq:IBRX)は米国でAnktiva(N-803)をBCG不応の局在性NMIBC(筋層非浸潤性膀胱癌)用薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。FDAがCMO(生産受託組織)の承認前査察時に指摘した欠陥が主因のようだ。
AnktivaはIL-15のN72D変異体を受容体や抗体と細胞融合したもの。通常のIL-15より力価や半減期が上回る。BCGと共に尿路カテーテルで週一回膀胱内投与する。臨床試験では完全反応率が71%、メジアン反応持続期間は26.6ヶ月だった。
リンク: 同社のFORM 8-K
【承認】
アステラスのホットフラッシュ治療薬が米国で承認
(2023年5月12日発表)
FDAはアステラス製薬のVeozah(fezolinetant)を閉経期の中重度血管運動神経症状(VMS)の治療薬として承認した。ニューロキニン3受容体を阻害する、この適応症では初めての作用機序を持つ。エストロゲン製剤が有効だが乳癌や子宮癌、血栓性疾患、肝障害など禁忌や要注意があるので、承認薬ではこの薬や、13年に承認されたNoven PharmaceuticalsのBrisdelle(paroxetine)が代替的な選択肢になる。ベルギーのOgeda社を17年に買収して入手したもの。
第3相試験二本では24時間当たり発症頻度がベースラインの11回前後から4週後に6回前後減少し、偽薬群の3~4回減少を有意に上回った。有害事象は腹痛や下痢、不眠などが若干増加した。肝障害リスクがあるため開始前と3、6、9ヶ月経過時点に肝機能検査を行う。禁忌は肝硬変、重度腎障害、CYP1A2阻害薬併用。
同社は1億ドル弱で購入した優先審査バウチャを用いて申請したが、審査期限が延長されたため標準審査と大差ない結果になった。米国の医療技術における費用対効果分析機関であるICERは昨年11月のエビデンス・レポートでこの薬の適正価格を年2000~2500ドルと査定したが、アステラスは3倍前後の価格で販売する考えのようだ。
リンク: FDAのプレスリリース
レキサルティがアルツハイマー性アジテーションの治療に適応拡大
(2023年5月11日発表)
FDAは、大塚製薬がルンドベックと共同開発販売している非定型向精神薬、Rexulti(brexpiprazole)をアルツハイマー患者のアジテーションの治療に用いることを承認した。非定型向精神薬を認知症関連精神症の高齢患者に用いると死亡リスクが高まるという枠付き警告は解除されておらず、他剤より高い可能性すら残っているが、他剤と異なり臨床試験で便益が確認されたことや、医療従事者や介護者のニーズが大きいことなどを重視したのだろう。
既承認用途である統合失調症や鬱病より低用量で開始してゆっくりと増量していく。最大用量は4mgではなく3mg。第3相試験では三本中二本で主評価項目のCMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)総合スコアが偽薬比有意に低下した。このスコアは不適切な言動や暴力的/攻撃的行動、奇声、物を隠すなど29の項目について発生頻度を7段階(7点が一番高い)で評価するもので、最低は29点、最大は203点。臨床試験のベースライン平均値は70~80点で、試験薬群は19~23点低下したが、偽薬群は16~18点の低下に留まり、2~5点の治療効果が見られた。
FDAが実施した非定型向精神薬の高齢認知症関連精神症試験のメタアナリシスでは死亡リスクは1.6~1.7倍だったが、Rexultiの試験では4.16倍だった。数が少ないため有意差は出ていない。メタアナリシスと比べて偽薬群の死亡率が一桁低いので、世間一般の患者より死亡リスクが低い患者が組み込まれた可能性もありそうだ。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース
フォシーガが米国でも駆出率低下の限定解除
(2023年5月9日発表)
アストラゼネカのSGLT2阻害剤Farxiga(dapagliflozin)は、20年に米国で駆出率低下を伴う心不全の治療に適応拡大したが、今回、駆出率を問わずに用いることが承認された。LVEF≦40%の患者を組入れたDAPA-HF試験では心血管死/心不全入院・緊急受診のリスクを26%抑制したが、40%超の患者を組み入れたDELIVER試験でも18%抑制する効果を示し、今回の承認に繋がった。EUでは1月に限定解除、日本でも1月に電子添付文書が改訂された。
リンク: 同社のプレスリリース
【医薬品の安全性】
EMAも早産予防薬の安全性や効果を検討へ
(2023年5月12日発表)
EMAは、フランスの承認審査機関の要請を受けて、ヒドロキシプロゲステロンの安全性や便益の検討を開始した。FDAは便益無しと判定して承認取消を決めたが、EMAは胎児が出生後に癌を罹患する懸念を示す疫学研究も検討する考えだ。副作用に耐えながら受けた治療が実は効果がなかったというだけなら過ぎた話だが、子供に害を及ぼすなら今後も安心できず、酷い話だ。
hydroxyprogesterone caproate、通称17-OHPCはスクイブ社が1956年に米国でDelalutin名で承認を取得、半世紀以上の使用歴がある。当初の適応は流産や中絶の予防だが、2003年にNIH(米国国立衛生研究所)主導試験で早産歴のある妊婦の早産リスクを抑制したことがNew England Journal of Medicine誌に発表され、オフレーベル使用されるようになった。その時点では販売中止されていて薬局調剤品しかなかったが、FDAの開発要請に応じた企業が2011年に加速承認を取得した。ところが、市販後薬効確認試験がフェール。メーカー側が自主的承認返上に応じなかったため、数年に及ぶ公式手続きを経て、今年4月に承認が取消された。
安全性懸念は、今年1月、MurphyらがAmerican journal of obstetrics and gynecologyに疫学論文を刊行、胎児が出生後に癌を罹患するリスクが2.5倍に上昇する可能性を指摘した。1959年から1966年にカリフォルニア州で出生前のケアを受けた18000人以上の記録と癌レジストリーを統合分析したもので、第1トリメスター(妊娠0~12週)に子宮内曝露した人が癌を発症する修正ハザードレシオは2.57(95%信頼区間1.59、4.15)だった。1~2回投与例では1.80だが3回以上では3.07、男性の場合は第2トリメスターや第3トリメスターも曝露した症例では5.51と、曝露量とリスクの相関性も浮上している。但し後者は女性の場合0.30で95%信頼区間が1を跨いでいる。腫瘍別では結腸直腸癌が5.51、前立腺癌は5.10、小児脳腫瘍は34.72だった。
これらの症例は投与目的も開始タイミングも早産予防で使う時とは異なるので、過去20年間に曝露した人たちのリスクとは差異があるかもしれないが、慰めにはならない。キチンと検討して貰いたいものだ。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Murphyらの疫学論文(Am J Obstet Gynecol. ~PubMed Central、フリー・アクセス)
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA:
- 23年5月推 ファイザーのPF-06651600(ritlecitinib、12歳以上の円形脱毛症)
- 23年5月 ファイザーのPF-06928316(60歳以上のRSVワクチン)
- 23年5月 Lexicon PharmaceuticalsのZynquista(sotagliflozin、心不全)
- 23/5/12 ByondisのSYD985(vic-trastuzumab duocarmazine、her2陽性乳癌)
- 23/5/19 Krystal BiotechのVyjuvek(beremagene geperpavec、栄養障害型表皮水疱症)
- 23/5/21 アッヴィのepcoritamab(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫3次治療)
- 23/5/22 アステラス製薬のESN364(fezolinetant、閉経期血管運動神経症状)
- 23/5/22 Blueprint MedicinesのAyvakit(avapritinib、緩徐全身性肥大細胞腫に適応拡大)
- 23/5/29 Sarepta TherapeuticsのSRP-9001(delandistrogene moxeparvovec、デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
- 23/5/29 Entasis Therapeuticsのsulbactam-durlobactam(アシネトバクター感染症)
諮問委員会:
- 23/5/18 VRBPAC:ファイザーのAbrysvo(妊婦接種による新生児RSV予防用ワクチン)
- 23/5/19 GIDAC:Intercept Pharmaceuticalsのobeticholic acid(NASH)
今週は以上です。
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