【ニュース・ヘッドライン】
- 武田、アイクルシグの新患Ph+ALL試験が成功
- アステラス、抗CLDN18.2抗体の第3相が成功
- 局所性ロフルミラスト、アトピー試験も成功
- ロシュの抗アミロイド・ベータ抗体は第3相フェール
- ファブリー病用薬を再申請
- FDA諮問委員会がテナパノルを支持
- PARP阻害剤の適応がまた縮小へ
- あらあら、一型糖尿病予防薬が遂に承認
- 抗FRアルファ抗体・薬物複合体が承認
【新薬開発】
武田、アイクルシグの新患Ph+ALL試験が成功
(2022年11月17日発表)
武田薬品は、英語のプレスリリースで、Iclusig(ponatinib)のフィラデルフィア転座陽性急性リンパ芽球性白血病(Ph+ALL)一次治療試験が成功したと発表した。適応拡大申請に向かうかどうかは記されていない。
17年に54億ドルで買収したAriad Pharmaceuticalsの製品の一つで、bcr-ablを阻害する。米国での適応は、2種類以上のキナーゼ阻害剤に抵抗/不耐の慢性期CML(慢性骨髄性白血病)、他のキナーゼ阻害剤が適応にならない急性期/ブラスト期CMLまたはPh+ALL、そして、T315I陽性のCMLまたはPh+ALL。発売後に命に係わることもある心筋梗塞などの動脈閉塞性疾患や心不全、そして静脈血栓塞栓のリスクが予想以上に高いことが判明、他に選択肢がない患者に限定された。
今回のPhALLCON試験は、新患Ph+ALLの未承認ながら標準的な治療法であるimatinibと化学療法の併用レジメンと、imatinibの代わりにIclusigを使うレジメンのMRD-CR(微小残存病変陰性完全奏効)をオープンレーベルで比較した優越性試験。体の一部だけの評価なので、各群の上記リスクに偏りがないかも知りたいところだ。
リンク: 同社のプレスリリース
アステラス、抗CLDN18.2抗体の第3相が成功
(2022年11月17日発表)
アステラス製薬はzolbetuximabの第3相SPOTLIGHT試験の成功を発表した。学会や医学誌でデータを公表する予定。
16年にドイツのGanymed Pharmaceuticalsを完全子会社化して入手した、claudin 18.2に結合する抗体医薬。第3相は、この膜貫通型蛋白を発現しher2は陰性の切除不能局所進行性/転移性の胃・食道胃接合部腺腫の一次治療として、mFOLFOX6レジメンに追加する効果を検討した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)も主要副次的評価項目の全生存期間も統計的に有意に延長したとのこと。
リンク: 同社のプレスリリース
局所性ロフルミラスト、アトピー試験も成功
(2022年11月15日発表)
Arcutis Biotherapeutics(Naasdaq:ARQT)はroflumilastの0.15%クリーム製剤を用いた第3相軽中度アトピー性皮膚炎試験の成功を発表した。もう一本の結果が22年末に出る見込みで、成功なら適応拡大申請する考え。
活性成分は2010~11年に欧米でCOPD治療薬Daxas錠として承認されたPDE4阻害剤。元々はドイツのアルタナが開発していたが、医薬品事業譲渡に伴いナイコメッドに移管、その後も変遷して現在はアストラゼネカが権利を持っている。錠剤はGE化したが、Arcutisはアストラゼネカから権利を取得して0.3%クリーム製剤を開発、今年7月に米国で12歳以上の尋常性乾癬の治療薬Zoryveとして承認された。
今回のINTEGUMENT-1試験は6歳以上の軽中度アルツハイマー病患者654人を、一日一回塗布する群とVehicle塗布群に無作為化割付して4週後の転帰を比較した。主評価項目のIGA奏効率は各群32.0%と15.2%となり、統計的に有意な差があった。副次的評価項目のEASI-75達成率も43.2%と22.0%で有意。有害事象による治験離脱は両群1.4%だった。
奏効率は欧米で承認されているファイザーのPDE4阻害剤Eucrisa/Staquis(crisaborole)軟膏と大差ないので、販売力はともかくスペック面では競争力がありそうだ。
Arcutisはroflumilastのフォーム製剤も開発、脂漏性皮膚炎や頭部体部乾癬の第3相が成功しており、まず前者で23年第1四半期に承認申請する考え。アルタナのPOC試験が成功しIRミーティングに参加するため飛行機に飛び乗ってからほぼ四半世紀経ったが、物語はまだ終わっていなかった。
リンク: 同社のプレスリリース
ロシュの抗アミロイド・ベータ抗体は第3相フェール
(2022年11月14日発表)
ロシュはR1450(gantenerumab)の第3相早期アルツハイマー病試験が二本ともフェールしたと発表した。偽薬群との絶対差はエーザイ/バイオジェンの二品と大差ないが、一番重要な相対削減率が一桁に留まり、有意水準に達しなかった。詳細は月末にCTAD(Clinical Trials on Alzheimer's Disease)で発表される予定。エーザイ/バイオジェンのBAN2401(lecanemab)の第3相成績も発表されるので、敗因がアミロイド・ベータ除去作用の多寡なのか、結合するエピトープなのか、静注ではなく皮注であることが関係しているのか、はたまた患者背景(軽度アルツハイマー病患者の構成比など)なのか、活発な議論が期待される。それはそれとして、昭和の名棋士の至言を思い出す・・・どんな勝ちでも勝ちは勝ち!
この二本はアルツハイマー病性軽度認知障害と軽度アルツハイマー病の患者約1965人を組入れて、過去の試験より多い510mgを目標に漸増しながら2週毎皮下注射する群のCDR-SBを偽薬と比較した。116週後の治療効果(悪化が何パーセント小さかったか)は一本が8%、もう一本は6%しかなかった。絶対差は0.31と0.19。アミロイド・ベータに結合して分解を促進する作用機序だが、脳における減少が予想より少なかったと記しているので、ロシュはこれが主犯と疑っているのかもしれない。
CDR-SBは記憶機能や生活機能などの6項目について夫々0、0.5、1、2、3点の何れかに評価し合計したもの(但しパーソナルケア項目は0.5点がない)。大きいほど悪い。BAN2401は1795人を組入れた似たような第3相試験で18ヶ月のCDR-SBの悪化が偽薬比27%、0.45小さかった。また、バイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab)の第3相二本のうち、EMERGE試験では、CDR-SBがベースライン時点の2.5から偽薬群は第78週までに1.74悪化したが、米国で加速承認された高用量群は悪化が0.39小さかった。相対削減率は22%。一方、ENGAGE試験ではベースラインの2.40から偽薬群は1.56低下、高用量群は悪化が0.03小さかったが有意ではなかった。相対削減率は2%。
R1450の第3相は絶対差で見ると治療効果は遜色ない。悪化抑制率が小さいのは偽薬群の悪化がAduhelmや過去の早期アルツハイマー病試験と比べて大きかったためである。ベースライン比3~4ポイント悪化した計算になる。観察期間も長いが、Aduhelmの試験の偽薬群の経時的グラフから想像すると、ラインを116週まで延ばしたとしてもおそらく2~3ポイント程度の悪化に留まるのではないか。
Aduhelmの試験ではApoEエプシロン4陽性サブグループや軽度アルツハイマー病サブグループは悪化がやや大きかった。構成比の違いがあるならそれも考慮しなければならない。学会発表が待望される。
リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: Aduhelmの第3相試験論文(J Prev Alz Dis 2022)
【承認申請】
ファブリー病用薬を再申請
(2022年11月14日発表)
医療用蛋白をニンジンの細胞で量産する技術を持つイスラエルのProtalix BioTherapeutics(TASE:PLX)は、PRX-102(pegunigalsidase alfa)を米国で再承認申請した。EUでは2月に初承認申請しており、おそらく、前後して審査結果が出るのではないか。承認ならChisiが販売する。
PEG化アルファ・ガラクトシダーゼAで、ファブリー病の酵素補充療法に用いる。米国で20年に加速承認を申請したが、審査完了通知を受領した。原因は明確ではないが、COVID-19が流行し米国政府職員の出張規制によりイスラエル工場の査察ができないことや、サノフィのFabrazyme(agalsidase beta)が加速承認から本承認に昇格しunmed medical needsではなくなったため加速承認する必要性が低下したことが影響したのかもしれない。
今回の再申請は何が違うのか明らかではないが、工場査察に関してはやりやすい環境になったかもしれない。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会がテナパノルを支持
(2022年11月16日発表)
FDAの心臓腎臓用薬諮問委員会は、Ardelyx(Nasdaq:ARDX)が高リン血症治療薬として開発したXphozah(tenapanor)を検討し、モノセラピーは13人の委員中9人が、リン結合剤に追加する用法は10人が、便益が危険を上回ると判定した。
FDAは昨年7月に審査完了通知を出したが、Ardelyxが不服を申し立て、諮問委員会の意見を訊くことになった。FDAは諮問委員会後30日以内にArdelyxに回答する。
tenapanorはNHE3(ナトリウム水素交換輸送体3)を阻害する経口剤。便秘型過敏性腸症候群治療薬Ibsrelaとして19年に米国で承認された。透析を受けている慢性腎疾患患者でしばしば発生する高リン血症の治療でも離脱試験などで穏やかな低下作用が示された。副作用は下痢による投与中止や用量減が見られた。
FDAが承認しなかったのは、血清リン濃度の低下が既存薬(リン結合剤など)の半分程度で臨床的な便益に繋がるかどうか曖昧であることが主因。リン濃度というサロゲート・マーカーは心血管疾患のような臨床的に重要なイベントのリスクと関連するが、薬で下げればリスクが低下することを示すエビデンスは確立していない。既存薬ですら確立していないのに、効果の小さい薬まで閾を下げることをFDAは躊躇した模様だ。
一方、諮問委員は、医療の選択肢を増やすことを重視した。リン結合剤は不耐・不快の患者が少なくなく、大きくない錠剤を一日二回服用するだけで済むtenapanorを必要とする患者もいると推測した。
tenapanorは日本では協和キリンが先月、高リン血症治療薬として承認申請したところ。
リンク: Ardelyxのプレスリリース
PARP阻害剤の適応がまた縮小へ
(2022年11月16日発表)
Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、Rubraca(rucaparib)の適応を自主的に変更するようFDAから要請された。SECに提出した適時情報開示資料で明らかにされた。会社更生法適用申請のリスクがあることを既に開示済みだが、一歩近づいたと言っても過言ではないだろう。
RubracaはPARP阻害剤。米国では難治卵巣癌で白金薬レジメンに完全/部分反応した患者の維持療法と、BRCA悪性変異を持つ転移去勢抵抗性前立腺癌でアンドロゲン受容体志向薬とタキサン歴を持つ患者に用いることが承認されている。
需要が一番大きい用途である卵巣癌二次治療後維持療法のエビデンスはARIEL3試験でPFS(無進行生存期間)が偽薬比有意に上回ったこと。PARP阻害剤が特に適しているBRCA有害変異型癌だけでなく、他の相同組換え修復不全(HRD)のある癌や、それ以外の癌にも有効だった。
ところが、承認から4年経って全生存期間の最終解析がまとまり、腫瘍BRCA有害変異型におけるハザードレシオは0.83に留まり、BRCA変異もHRDもない癌に至っては1を上回った。Clovisは9月にFDAに報告、今回の要請に至った。
PARP阻害剤ではPFSに基づく加速承認/本承認の見直しが相次いでいる。
リンク: 同社のForm 8-K(SEC EDGARデータベース)
【承認】
あらあら、一型糖尿病予防薬が遂に承認
(2022年11月17日発表)
FDAはProvention Bio(Nasdaq:PRVB)のTzield(teplizumab-mzwv)を一型糖尿病用薬として承認した。8歳以上のステージ2一型糖尿病に、一日一回、14日間に亘って点滴静注する。臨床試験でステージ3に進行するのを遅らせた。有害事象は骨髄抑制やラッシュなど。事前に全血球計算と肝機能検査が必要。サノフィが共同販促する。
Ala-Alaなどのニックネームで呼ばれてきた、CD3エプシロン鎖に結合するヒト化抗体。一型糖尿病は自己抗体がインスリン分泌細胞を攻撃する。Ala-AlaはイフェクターT細胞を抑制し制御的T細胞を刺激して免疫を抑制する。MacroGenics(Nasdaq:MGNX)が05年にTolerance TherapeuticsからIP資産を取得、07年にイーライリリーに導出したが、第3相一型糖尿病治療試験がフェールし10年に返還。Provention Bioは18年にIP資産を取得、NIH(米国立衛生研究所)が主導した第2相TN-10試験をエビデンスとして承認申請したもの。
この試験では、ステージ2の一型糖尿病76人を偽薬と試験薬に無作為化割付してステージ3に進行するまでの期間を比較した。FDAによると、51ヶ月間の追跡で偽薬群は32人中72%が進行したが試験薬群は44人中45%に留まった。各群のミッドレンジ値は25ヶ月と50ヶ月で、2倍の差があった。
尚、Prescribing Informationによると、ステージ2の診断基準は、膵島細胞に対する二種類以上の自己抗体陽性、OGTT(経口糖負荷試験)で高血糖ではないが耐糖能異常、そして、二型糖尿病を示唆する病歴がないこと。ステージ3は、Inselらの論文によると、口渇や排尿の増加、原因不明の体重減、霞目、疲労などの症状が現れる。2種類以上の自己抗体が陽性だが血糖値は正常なステージ1から段階的に進行していくと考えられているようだ。Inselらはステージ2の75%が5年内にステージ3に進行すると推定しているが、TN-10試験の偽薬群も整合的な結果になっている。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Inselらの論文(Diabetes Care 2015:PubMed)
抗FRアルファ抗体・薬物複合体が承認
(2022年11月14日発表)
FDAはImmunoGen(Nasdaq:IMGN)のElahere(mirvetuximab soravtansine-gynx)をFR(葉酸受容体)アルファ陽性白金抵抗性卵巣癌用薬として加速承認した。bevacizumabを含む1~3次治療歴を持つ患者が適応になる。修正IBW(理想体重)1kg当り6mgを3週毎点滴静注する。IBWは身長(cm)x0.9-92、修正IBWはIBW+0.4x(体重-IBW)で算出する。
SORAYA試験で104人におけるORR(確認客観的反応率)が31.7%、メジアン反応持続期間は6.9ヶ月だった。FRアルファ発現を評価するコンパニオン診断薬としてVentana Medical SystemsのVENTANA FOLR1 (FOLR-2.1) RxDx Assayも承認された。市販後薬効確認試験としてPFS(無進行生存期間)を医師が選んだ薬を投与する群と比較する第3相MIRASOL試験を実施中。
尚、FRアルファ陽性白金感受卵巣癌の臨床試験は19年にフェールした。
リンク: FDAのプレスリリース
今週は以上です。
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