2022年9月10日

第1067回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 流行が落ち着いたらワクチンが2倍以上に値上がり? 
  • その他の領域: 
  • roflumilastの脂漏性皮膚炎試験が成功 
  • RNAアプタマーの地図状萎縮試験が成功 
  • ファイザー、新規JAK阻害剤を円形脱毛症に承認申請 
  • FDA諮問委員会、ALS用薬の承認を多数が支持 


【COVID-19関連】


流行が落ち着いたらワクチンが2倍以上に値上がり?
(2022年9月9日発表)

COVID-19ワクチンや新規治療薬の多くは、欧米日本などの高所得国では政府が一括調達し医療施設などに無償供給しているが、米国連邦議会がCOVID-19対策予算の抑制を求めるなど、パンデミック対応からエンデミック対応に移行する兆しが現れている。mRNAワクチンを販売するモデルナやBioNTech/ファイザーは、従来から、エンデミックに入ったらワクチンの価格を他の画期的ワクチンと同程度に引き上げる考えを示しており、消費者にとっては、自己負担の発生と合わせてダブルパンチになる。オミクロン株はこれまでの株より重症化リスクが小さいせいか、米国はブースター接種を4~6ヶ月毎ではなく年一回に留める方針のようだ。政府のトーンダウンや金銭的負担から、来年以降は、今以上に接種人数が減少するだろう。

問題は価格がどの程度になるかだ。現状は一回当たり20~25ドル程度でインフルエンザ・ワクチンと大差ないと推測されるが、他の画期的ワクチンの中には300ドルと十倍以上のものもある。メーカーはパンデミックが終わって接種が減少しても値上げで売上規模を維持することを考えており、人口の2~3割を占める高齢者などだけが接種する事態を想定すると、3~5倍の値上げが望ましいことになる。

このような中、モデルナがR&Dデイに際して、米国市場規模のシミュレーションを示した。来年のCOVID-19ワクチンの価格についてはCDC(米国疾病予防管理センター)が64ドルを前提に計画を立てているためマトリクスは価格が64ドル、82ドル、100ドルの何れかであった場合に、接種対象が米国の高リスク者8200万人だけの場合と18歳以上の全2.58億人、但し普及率はインフルエンザワクチン並みの50%の場合を示した。高リスク者だけの場合、64ドルなら52億ドル、100ドルなら82億ドル。全成人の場合、各83億ドルと129億ドルとなっている。

こうして見ると、高リスク者のみに64ドルというのは色々な意味で現実的なセンなのだろう。CDCは接種に伴う診療報酬等を40ドルと前提しており、合計100ドル程度を保険等と本人が分担することになる。消費者は、おそらく、保険料の引き上げにも直面するだろう。

リンク: モデルナのR&Dデイ用プレゼン資料(本件は166頁に記載)

【新薬開発】


roflumilastの脂漏性皮膚炎試験が成功
(2022年9月9日発表)

Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)はroflumilastの第3相脂漏性皮膚炎試験が成功したと発表した。23年第1四半期に米国で承認申請する考え。

同社はroflumilastのクリーム製剤を中重度プラク乾癬治療薬として開発、7月に米国でZoryveクリーム0.3%として12歳以上の患者に承認を取得した。今回の試験は9歳以上の中重度患者457人を新開発の0.3%フォーム製剤を一日一回投与する群と対照群に2対1割付して、8週後のIGA奏効率(治験医の総合評価がクリアまたはほぼクリアで、且つ、ベースライン比2ポイント以上改善)を比較した。結果は各群80.1%と59.2%となり、有意な差があった。痒みを改善する作用も見られた。

roflumilastはドイツのアルタナが喘息症維持療法薬として創製したPDE4阻害剤。既にGE化しているせいか、Zoryveは競合新薬より安価に販売されている。

リンク: 同社のプレスリリース


RNAアプタマーの地図状萎縮試験が成功
(2022年9月6日発表)

米国ニュージャージー州の新興バイオ企業、Iveric Bio(Nasdaq:ISEE)は、Zimura(avacincaptad pegol)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。来年第1四半期に米国などでドライ型(萎縮型)加齢性黄斑変性における地図状萎縮(GA)治療薬として承認申請する考え。

DNA/RNAアプタマーは2000年代に臨床開発が活発化、04年にはファイザーのMacugen(pegaptanib sodium)が米国で滲出型加齢性黄斑変性用薬として承認された。この分野で次々とアウトライセンス契約を決めていたのがArchemix社で、Ophthotech(Iveric社の旧社名)に導出したのがavacincaptad pegolだ。RNAアプタマーで、補体C5が切断され活性化するのを阻害する。

第3相は二本実施した。昨年成功したGATHER1試験は286人を2mg毎月硝子体注射群とシャム群に無作為化割付して12ヶ月間のGAの変化を比較したところ、拡大が27%小さかった。6ヶ月時点の数値も加味したスロープ分析でも27%小さかった。

今回のGATHER2試験は448人を同じ二群に無作為化割付して今回はスロープ分析を主評価項目としたところ、14%小さかった(p=0.0064)。平方根変換法による解析だが、変換前の数値を見ると、試験薬群は1.745mm拡大、シャム群は2.121mmで、差は0.376mm、17.7%だった。

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)が7月に米国で同じ用途に適応拡大申請したC3阻害剤Empaveli(pegcetacoplan)の第3相成績と概ね同程度だ。

副次的評価項目の最高矯正視力の解析では良好なトレンドが見られたとのこと。臨床的便益は確立されていないことになるが、事前にFDAの特別プロトコル評価を得ているので、これでもよいのかもしれない。

安全性面では注射関連反応が見られたが、眼内炎や視神経症は発生しなかった。脈絡膜血管新生は15人(6.7%)で発生した。偽薬群は9人4.1%。最初の第三相は各6人(9.0%)と3人(2.7%)だったので、リスクが再現されたことになる。

Macugenは効果が抗体医薬ほどではないため売上が伸びず、ファイザーは事業譲渡した。ノバルティスがOphthotechからライセンスしたPDGFを阻害するDNAアプタマーは第3相滲出型加齢性黄斑変性試験が二本ともフェールした。アプタマーの人気低下を覆すことができるか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ファイザー、新規JAK阻害剤を円形脱毛症に承認申請
(2022年9月9日発表)

ファイザーはJAK3阻害剤PF-06651600(ritlecitinib)を12歳以上の円形脱毛症の治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国は来年第2四半期、欧州はEMAが来年第4四半期に、結論を出す見込み。経口JAK3阻害剤で、後期第2相/第3相試験で30mg群と50mg群(各一日一回投与)のSALT奏効率(脱毛が頭皮の20%以下に改善)が偽薬を有意に上回った。データは未発表と思われる。

JAK1/2阻害剤ではイーライリリーのOlumiant(baricitinib)も欧米などで承認されている。感染症や心血管疾患、癌、血栓症などのリスクに注意する必要がある。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、ALS用薬の承認を多数が支持
(2022年9月7日発表)

FDAはPCNSDAC(末梢・中枢神経系薬諮問委員会)を招集し、Amylyx(Nasdaq:AMLX)がALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請したAMX0035(sodium phenylbutyrate、taurursodiol)について再び意見を聞いた。3月に開催した時は薬効確立と判定した委員は4人に留まり、否定の6人を僅かに下回ったが、今回は承認するのに十分な薬効のエビデンスがあると回答した委員が7人、否定は2人と多くが支持した。

治験データが大して変わっていないのに諮問委員会が二回、開催されるのは異例。一回目は反対した6人のうち議長を務めたスタンフォード医科大学のT. Montine医学博士を含む4人が賛成に転じたのはサプライズだが、元々、3月の票決でも、多くの委員が困難な判断であったと表明しており、質量ともに僅差だった。

今回、委員たちの肩を押したのは、二人の発言であるようだ。FDAの神経科学系部門のトップであるBilly Dunn医学博士はALSのように深刻な難病に使う薬の承認審査にはフレキシビリティが必要と主張した。AmylyxのCEOはもし第3相試験がフェールしたら承認返上も含め患者に最も良い対応を行うと言明した。

Dunn氏はバイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab-avwa)が21年にアルツハイマー病用薬として承認された時も牽引役だった。但し、上役の調停により承認ではなく加速承認に留められた。今回も実体的には加速承認と似ているので、もう一回ウルトラCを発動するかもしれない。審査期限は今月29日。

薬効のエビデンスは発症18ヶ月以内の患者137人を組入れた第2相試験。ALSFRS-R(機能評価尺度)の悪化が偽薬比有意に小さかった。しかし、ベースライン時点の進行度を加味した感受性分析がフェールしたことや、追跡打切り例が多いこと、試験薬群は治験期間中に承認されている薬の服用を開始した患者が偽薬群より多かったことなど、頑強性に疑問があった。今回、試験後に偽薬群から試験薬にスイッチした患者と比較した全生存解析データが提出されたが、ALSの生存期間は個人差が大きいため、この程度の規模の試験では明確なことは言えないようだ。

第3相のPHOENIX試験は欧米の施設で発症24ヶ月以内の患者600人を48週間治療してALSFRS-Rと死亡リスクを比較する。成否は23年終わりから24年始め頃に判明する見込み。

AMX0035は尿素サイクル異常症の治療に使われているフェニル酪酸ナトリウムを3g、原発性胆汁性肝硬変用薬タウロオルソデオキコール酸を1g含有する合剤。前者は小胞体発の、後者はミトコンドリア発の、神経変性経路を阻害すると考えられている。必要なら合剤の承認を待たなくとも既存製品をオフレーベル投与できるのではないだろうか。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。