2021年10月15日

第1021回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • MSDがRdRp阻害剤を承認申請 
  • アストラゼネカの中和抗体薬、治療試験も成功 
  • リジェネロン、欧米でロナプリーブを承認申請 
  • FDA諮問委員会、Modernaのワクチンのブースター接種を支持 
  • CureVac、ワクチンの承認取得を断念 
  • その他の領域: 
  • 先天性胸腺症の細胞療法が承認 
  • キートルーダが子宮頸癌一次治療に適応拡大 
  • ベージニオ、早期乳癌の術後補助療法に適応拡大 


【COVID-19関連】


MSDがRdRp阻害剤を承認申請
(2021年10月11日発表)

MSDとRidgeback Biotherapeuticsは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)をEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。RNAウイルスの増殖に必要なRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害するEIDD-1931のプロドラッグで、Emory大の非営利法人が発見、Ridgebackがライセンスして、昨年5月、MSDと共にCOVID-19治療の臨床試験を開始したもの。

第2/3相試験の第3相パートでは、軽中等症COVID-19感染症で発症5日以内の、入院の必要はないが一つ以上の重症化リスク因子を持つ患者に800mgを一日2回、5日間、経口投与して29日間追跡したところ、385人中28人(7.3%)が死亡または入院した。偽薬群の377人中53人(14.1%)と比べて有意に少なかった(p=0.0012)。死亡はゼロ対8人。試験薬関連有害事象発生率は12%対11%で大きな差はなく、有害事象による治験離脱は1.3%対3.4%と下回った。この試験は日本の医療施設も参加した。

SARS-CoV-2の増殖を抑制する抗ウイルス薬はRdRp阻害剤Veklury(remdesivir、和名ベクルリー)や複数の中和抗体が実用化されているが、Vekluryは点滴静注を一日一回、5日間施行、中和抗体は一回投与だが今のところ治療用途では点滴静注が必要と、簡便さに欠ける。molnupiravirは経口投与できるので、核酸/抗原検査が出た後に問診し処方箋を書くだけで終わるので手離れが良い。

今四半期は、ほかにも複数の経口抗ウイルス薬の第3相試験の成否が判明する見込み。RdRp阻害剤ではアテア・ファーマシューティカルズがロシュ・グループと共同開発しているAT-527。発症5日以内の軽中等症患者を外来治療する第3相試験には日本の施設も参加している。主評価項目は症状改善までの期間。日本発のRdRp阻害剤、アビガン(favipiravir)もAppili Therapeutics(TSX:APLI)が陽性判定から72時間以内の軽中等症外来患者1231人を米墨伯の施設で組入れた第3相PRESECO試験の結果が11月頃に判明する見込み。Dr. Reddy'sなど提携先も入院患者の治療試験を行っている。

ファイザーは3CLプロテアーゼ阻害剤PF-07321332の第2/3相高リスク外来患者試験の結果が第4四半期に出る見込み。プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低いのが難点だが、ritonavirブーストにより一日二回服用で足りるようにした。他のプロテアーゼ阻害剤では、オックスフォード大学などがアッヴィのHIV治療薬Kaletra(lopinavir、ritonavir)の大規模な臨床試験を行ったが十分な効果は見られなかった。

上記4品は何れも重症・死亡リスク因子を持つ患者が対象。リスク因子の定義は治験や国により異なる可能性が高いが、リジェネロン・ファーマシューティカルズのREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)の米国の医療従事者用ファクト・シートには以下が列挙されている。

・高齢者(65歳以上など)
・肥満やオーバーウェイト(BMIが25kg/m2超など)
・妊娠
・慢性腎疾患
・糖尿病
・免疫が低下する疾患または免疫抑制治療
・心血管疾患または高血圧
・慢性肺疾患(COPD、喘息症、間質性肺疾患、嚢胞性線維症、肺高血圧症など)
・鎌状赤血球症
・神経発達障害(脳麻痺など)
・医療措置依存(気管切開、胃瘻、陽圧換気など)
・他の要素(人種など・・・米国はアフリカ系の医療が不十分であることが指摘されている)

これらは例示に過ぎないので、実際にはもっと多くの人が適応になるだろう。

リンク: MSDのプレスリリース



アストラゼネカの中和抗体薬、治療試験も成功
(2021年10月11日発表)

アストラゼネカはAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)の第3相TACKLE試験が成功した発表した。日本も参加した症候性COVID-19の外来治療試験で、発症7日以内、陽性判定された検体の採取から3日以内の患者に300mgを一回、筋注した群の重症化/死亡は407人中18人(4.42%)と偽薬群の415人中37人(8.92%)と比べて半分だった。発症5日以内の患者に限定すると3.56%対10.76%と治療効果がもっと大きかった。

先行類薬であるリジェネロン・ファーマシューティカルズのREGEN-COV(casirivimab、imdevimab)は、発症7日以内、陽性判定3日以内で重症化リスク因子を持つ軽中等症外来患者の重症化/死亡を7割抑制した。AZ7442の試験も被験者の9割が重症化リスク因子を持っていたので、似たようなユニバースだが、偽薬群のイベント発生率(REGEN-COVはCOVID-19関連入院/死亡)が倍以上なので、患者背景、あるいは標準療法の内容や手厚さに違いがあるかもしれない。現時点では、AZD7442のほうが効果が低いと断定するのは躊躇される。

リンク: 同社のプレスリリース



リジェネロン、欧米でロナプリーブを承認申請
(2021年10月14日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズは米国でREGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)をBLA(生物学的製剤認可申請)し、受理されたと発表した。審査期限は来年4月13日。適応は入院していないCOVID-19感染患者の治療と、感染者と同居する未感染者/無症候感染者の発症予防を想定している。FDAは諮問委員会招集を考えている由。EUも今月、同適応症で承認審査を開始しており、順調なら年内に結論が出る見込みだ。

REGEN-COVは既にEUA(非常時使用認可)を受けているが、パンデミックが収まったら消滅する。7月に日本で特例承認された時に、米国外の販売を担当するロシュがプレスリリースで世界初承認と記したのは、特例承認とは異なりEUAは正式な承認ではないとの認識からだろう。特例承認は海外で承認された薬が対象なので狐に摘ままれたような話だ。

リンク: リジェネロンのプレスリリース



FDA諮問委員会、Moderna製ワクチンのブースター接種を支持
(2021年10月14日発表)

FDAはワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を招集し、ModernaがEUA申請したCovid-19ワクチンのブースター接種について意見を求めた。プライマリー接種(最初の2回接種)を完了してから少なくとも6ヶ月以上経った、以下に該当する人たちに追加接種することに19人全員が賛成した。

・65歳以上
・18~64歳で感染時の重症化リスク因子を持つ人
・18~64歳で深刻な合併症(重症感染症を含む)のリスクのある職場や施設にいる人(医療従事者など)

Modernaが用意したエビデンスはBioNTech/ファイザーと比べて見劣りし、メーカーが申請したプライマリー接種の半分の用量である50mcgの症例数はさらに少ないため頑強とは言い難いが、委員会は、BioNTech/ファイザーのブースター接種免疫原性試験やイスラエルの持続性疫学研究のデータも参考にするとともに、Modernaだけ承認されなかった場合に起こるであろう混乱にも配慮した様子だ。

尚、Modernaのワクチンは16~17歳にはEUAされていないため、ブースターも対象外。

18歳以上の人口全てにブースター接種を承認する代案については初めから採決対象に上がらず、議論されただけだったが、前回同様に、否定的な意見が多かったようだ。

この日はmRNAワクチンでごく稀に観察される心筋炎・心膜炎に関する疫学研究の報告もあった。リスクが相対的に高いのは18~24歳の男性、1回目より2回目のほうが多い、集中治療を受けた人もいるが多くは保存療法で軽快、但し長期的な転帰はまだ明らかではない。

ブランド間格差が指摘されているが、FDAは、18~25歳のインシデンス・レート・レシオはModerna品もBioNTech/ファイザー品も大差ないと指摘。イベント数が少ないため信頼区間が広く、また、リスク因子の調整が一部しかできなかったようなので、軍配を上げることも引き分けにすることもできなかったのだろう。

当委員会は15日にジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンのブースター接種の検討と、NIAID(米国立アレルギー感染症研究所)が主導した交差接種による免疫原性試験の報告を聞く予定。

リンク: Modernaのプレスリリース



CureVac、ワクチンの承認取得を断念
(2021年10月12日発表)

ドイツのCureVac(Nasdaq:CVAC)は、COVID-19ワクチンの承認取得を断念、第二世代品の開発にシフトすると発表した。同じドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)や米国のModerna(Nasdaq:MRNA)と比べて一年以上後れを取り、効果や安全性の面で差別化できる見込みも立たないため。

CureVacはmRNAワクチンの研究開発におけるパイオニアの一つで、昨年、米国企業が買収するとの噂に驚いたドイツ政府がワクチン安全保障の観点から急遽、出資を決めたことがある。結局、8月にNasdaq上場する形で開発資金調達に目途を立てた。

先行二社のワクチンは効果や安全性を向上するためにSARS-CoV-2のスパイク蛋白のmRNAを一部装飾しているが、CureVacのCVnCoVワクチンはは異なった方法を採用した。そのせいか、それとも一回接種当たり抗原量が12mcgとBioNTech/ファイザーのComirnaty(30mcg)やModernaのSpikevax(100mcg)より少ないせいか、はたまた治験実施地域や流行株の違いのせいか、第2/3相試験のワクチン効率は47%と先行二製品の半分程度に留まり、61歳以上では有意な効果が見られなかった。シーケンシングが行われた18~60歳の感染者187例では、ミュー株(コロンビア型)が42%と一番低かったが、アルファ55%、ガンマ67%、ラムダ53%と、先行二製品では良好に感受したアルファ株でも特別に良い数値は出ておらず、ワクチン自体が一番の問題ではないかと想像せざるを得ない。

最初に壁にぶつかったのは米国だ。FDAは、今年5月、事前相談実施済みのワクチン以外はEUA(非常時使用認可)しない方針を発表したが、CureVacは事前相談していなかった。先行二製品は臨床試験の薬効追跡期間が2ヶ月程度でEUA申請されたが、正式な承認申請となると6ヶ月以上のデータが必要なので、数ヶ月の差が生じる。更に、EUAは申請から認可まで1ヶ月もかからなかったが、正式な承認審査は数ヶ月かかるだろう。

EUは第2/3相試験の成否が判明する前の今年2月にローリング審査を開始。会社側は、順調なら6月にも条件付き承認と期待していたが、今回、撤回した。早くても来年第2四半期に遅れる見込みになったからだ。この頃にはグラクソ・スミスクラインの助けを借りて開発した第二世代品のCV2CoVが第3相入りする可能性があり、動物試験では免疫原性が10倍高かったため、こちらにシフトすることを決めた。同社はEUと2億2500万回分(1億8000万回分を追加可能)の供給で合意していたが、終了した。

同社以外にもCOVID-19ワクチンの開発を進めている企業はあるが、先進国では接種が進み、ワクチン不足も深刻ではなくなったため、大規模な偽薬対照試験をロンチしても患者組入れは難航必至だ。有効なワクチンが存在するのに偽薬対照試験を行うのは人道に反する可能性すらある。一方、低所得国では依然として接種率が低く、CVnCoVのように通常の冷蔵庫でも3ヶ月保存可能な製品のニーズはありそうだが、ワクチンの価格を低く設定せざるを得ないだろうから、投資採算の面で難がある。

プライム接種用途は断念して、ブースター接種用途に特化しても良いのではないか。半年でブースター接種することが認められたのはメーカーにとっては望外のシナリオに違いない。先進国の特需が一巡しても半年毎のブースター需要があれば、2020~21年並みの需要が毎年、期待できるからだ。運命の女神の前髪を掴めなかった会社にもラストチャンスが残っている。

リンク: CureVacのプレスリリース


【承認】


先天性胸腺症の細胞療法が承認
(2021年10月8日発表)

FDAは、大日本住友製薬が2019年にRoivant Sciencesから取得したVANT5社の一つであるエンジバント・セラピューティクスのRethymic(allogeneic processed thymus tissue-agdc)を小児先天性無胸腺症の治療薬として承認した。エンジバントにとっても、この超希少疾患の治療薬としても、初めての承認。

この疾患はT細胞が育ち卒業試験を受ける胸腺が欠損しているため感染症のリスクが高い。米国で年20人前後の新生児が罹患、治療しないと余命は2~3年とされる。Rethymicは心臓手術を受ける幼児から採取して加工・培養した他家培養胸腺組織で、デューク大学の医学者が30年近く、症例を集積してきた。患者の体表面積(単位:平方メートル)当り5000~22000平方ミリメートルを一回、大腿内に移植する。27年間に投与された生後1ヶ月から16歳の105人は、1年生存率77%、2年生存率は76%だった。

免疫機能を獲得するまで6~12ヶ月以上かかるため厳格な感染予防を継続する必要があるが、移植後1年間生き延びた患者は、追跡期間の中央値である10.7年後の生存率が94%と、長期予後がよい。一方、処方情報によると、腎機能低下やCMV感染症は死亡リスク因子とのこと。

エンジバントは希少小児疾患優先審査バウチャを取得した。優先審査の対象にならない薬を優先審査してもらうことができ、最近の相場では1億ドル前後で転売することもできる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 大日本住友のプレスリリース(10/11付、和文、pdfファイル)



キートルーダが子宮頸癌一次治療に適応拡大
(2021年10月13日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を子宮頸癌の一次治療に化学療法(bevacizumab併用も可)と併用することを承認した。治癒的手術・放射線療法不適でPD-L1陽性(CPS≧1)の治療抵抗性・再発・転移性の子宮頸癌が適応になる。

エビデンスとなる第3相KEYNOTE-826では、carboplatinまたはcisplatinをpaclitaxel、そして必要ならbevacizumabと併用する標準療法群にKeytrudaを追加するレジメンの全生存期間とPFS(無進行生存期間)を偽薬追加と比較した。ESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると全生存期間のハザードレシオは0.67、メジアン値は24.4ヶ月と16.5ヶ月だったが、今回承認されたのは被験者の9割を占めたPD-L1陽性患者だけだったため、レーベル上は各0.64、メジアン未達、16.3ヶ月になった。PFSはハザードレシオ0.62、メジアン値は10.4ヶ月対8.2ヶ月。

Keytrudaは子宮頸癌の二次治療に単剤投与することが18年に加速承認されているが、上記試験の成功により市販後コミットメントが果たされたため、本承認に切り替わった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース



ベージニオ、早期乳癌の術後補助療法に適応拡大
(2021年10月13日発表)

FDAはイーライリリーのVerzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)を早期乳癌の術後アジュバント療法に用いることを承認した。ホルモン受容体陽性、her2陰性、リンパ節転移があり、再発リスク因子を持ち、且つKi-67スコアが20%以上の成人男女が適応になる。

エビデンスは第3相monarchE試験。内分泌療法(tamoifenまたはアロマターゼ阻害剤)を5~10年施行する標準療法群と、更にVerzenio(150mg)を一日二回、2年間経口投与する群のIDFS(無浸潤疾患生存期間)をオープンレーベルで比較した。中間解析でハザードレシオ0.747、p=0.0096となり、成功認定された。

この試験は陽性腋窩リンパ節が4個以上、腫瘍が5cm以上、Bloom Richardson分類でグレード3、Ki-67インデックスが20%以上、の四つのリスク因子のうち一つ以上を持つ患者を組入れたが、意外なことに、承認されたのはKi-67≧20%だけだった。レーベル上のハザードレシオは0.626(95%信頼区間0.49-0.80)、3年生存率は標準療法群が79.0%、試験薬併用群が86.1%となっている。サブグループのデータが全集団より良いので、おそらく、それ以外の患者のデータが頑強ではなかったのだろう。

Ki-67スコアは癌の増殖能と相関性が指摘されているKi-67蛋白の発現程度をIHC染色法で判定したもの。検査方法が確立していなかったり、再検査すると数値が変わったりするため、確立したスクリーニング手法とは考えられていないようだ。本試験ではオンサイトではなく中央検査・評価しており、また、FDAはAgilent社のアッセイをコンパニオン診断薬として承認したので、この組み合わせに関してはお墨付きとなったわけだが、どの程度普及するだろうか。

尚、男性を組入れた本試験の成功に基づき、Verzenioの全用途について、男性も適応となった。

VerzenioはCDK4/6阻害剤。米国ではホルモン受容体陽性her2陰性の進行/転移乳癌にホルモン療法薬と併用することや上記術後アジュバントが承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース





今週は以上です。

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