【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- 経口抗ウイルス剤の第3相外来治療試験が成功
- ACIPもブースター接種の対象について意見が分かれた
- EMA、Modernaのワクチンのブースター接種を評価開始
- ロナプリーブの外来/入院治療試験のデータ
- その他の領域:
- キイトルーダ、肝癌加速承認取消のリスクが薄らぐ
- MPO阻害剤の多系統萎縮症試験がフェール
- アミカス、ポンペ病新薬を承認申請
- ノバルティス、前立腺癌の放射性医薬を承認申請
- リジェネロン、抗PD-1抗体を子宮頸癌に承認申請
- 初のアラジール症候群治療薬が承認
- アッヴィ、MSD由来の片頭痛予防薬が承認
- TecartusがCAR-Tで初めて前駆B細胞ALLに適応拡大
【COVID-19関連】
経口抗ウイルス剤の第3相外来治療試験が成功
(2021年10月1日発表)
MSDと米国マイアミ州の新興企業、Ridgeback Biotherapeuticsは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)の第3相COVID-19外来治療試験が中間解析で成功したと発表した。米国でEUA(非常時使用認可)を、海外でも製造販売承認を、申請する考え。経口投与できるので外来治療に向いており、価格も、おそらく、抗SARS-CoV-2抗体より安価に設定されるだろう。効果はやや見劣りする。副作用は大きな問題はなさそうだ。抗SARS-CoV-2抗体同様にセラプティック・ウインドウはそれほど広くない。妊婦など臨床試験の除外条件がそのまま適応外になるかどうかも重要な点だ。
molnupiravirは19年にインフルエンザ治療薬候補として臨床入りしたRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)阻害剤。ポリメラーゼを標的とする点でギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)や富士フィルム富山化学のアビガン(ファビピラビル/JAN、favipiravir/INN)、Atea Pharmaceuticalsがロシュ・グループと共同開発しているAT-527と同系列だ。EIDD-1931のプロドラッグで、血管脳関門透過性や肺分布が良好とされる。
エモリー大学の非営利法人が開発、Ridgebackがライセンスを取得し、20年にMSDが世界開発商業化権を取得、COVID-19の臨床試験を開始した。
今回のデータは第2/3相試験の第3相ポーションに関するもの。発症5日以内で一つ以上の重症化リスク因子を持つ外来患者を800mgを一日二回、5日間経口投与する群と偽薬群に無作為化割付して、29日間の死亡・入院リスクを比較した。中間薬効解析の対象は762人。新規組入れは打ち切られたが既に推定1400人前後の組入れを終えているので、今後、データがアップデートされる可能性がある。
中間解析では偽薬群の死亡・入院率が14.1%であったのに対して試験薬群は7.3%と有意に下回った(p=0.0012)。発症からの日数やリスク因子の内容に関わらず効果が見られた。一部症例でウイルスのシーケンシングを行ったところ、ガンマ、デルタ、ミュー株にも有効だった。偽薬群は8人(2%)が死亡したが試験薬群はゼロだった。薬物関連有害事象発生率は各11%と12%、有害事象による治験離脱率は3.4%と1.3%で試験薬の方が低い。
さて、COVID-19治療薬は承認されている薬でも万能ではなく、疾病進行の度合いだけでなく臨床試験の実施地域や主評価項目、未解明の第3の因子により臨床試験が成功したり曖昧な結果になったりしている。molnupiravirもできることとできないこと、使わない方が良い類型があると推測される。
まず、第2相パートから第3パートに進むに際して行われた組入れ条件の見直しは、まず、入院患者試験は見送られた。第2相で無益判定されたため。外来試験は当初は発症7日以内を組入れたが、第3相で5日以内に変更された。6~7日経った患者の成績が好ましくなかったのではないか。
第2/3相の治験登録を見ると、腎機能や血小板数の大きな低下が除外条件になっている。
妊婦・授乳も除外条件で、妊娠可能年齢の女性やパートナーは性交を控えるか避妊する必要がある。短期間しか服用しない薬だが、アビガンがインフルエンザ治療薬として承認されながらこの用途では殆ど使われていないように、もし催奇性が確認されたら普及の制約になるだろう。尤も、第3相と並行して前臨床催奇性試験が行われただろうから、承認される段階では懸念が解消しているかもしれない。
MSDは21年末までに1000万コース分を生産する予定。低中所得国での普及を促すためにインドのGE薬会社などに製造販売権を供与している。
Ridgebackにとっては、新薬承認第2号になりそうだ。第1号はザイール種エボラウイルス感染症の治療薬、Ebanga(ansuvimab-zykl、通称mAb114)。どちらもライセンス品だ。SACキャピタルという一世を風靡したヘッジファンドの出身者が夫妻で設立した会社だ。
リンク: 両社のプレスリリース
ACIPもブースター接種の対象について意見が分かれた
(2021年9月24日発表)
ブースター接種の当否についてはWHOやEMA、ECDC(欧州疾病予防管理センター)が比較的慎重なスタンスを表明しているのに対して、イスラエルや英国、ドイツなどでは高齢者など高リスク層を対象に既に開始した。人口全般を対象とすることにはおそらく皆が否定的、高齢者や免疫力低下者にもう一度接種するのはおそらく皆が肯定的だろうが、どこで線引きすべきかは意見が鋭く分かれている。
米国の場合、FDAが新型ワクチンや適応拡大を承認したら、次はCDC(米国疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン諮問委員会)がどのような人たちに接種勧奨すべきか検討し、CDCが結論をMMWR(罹患死亡週次報告)で公表するのが通常の手順だ。しかし、今回の相手は通常ではないため、政府の対応は異例ずくめだ。
最初に、バイデン大統領がHHS(米国保健福祉省)傘下の関連組織のトップとともに、COVID-19ワクチン接種を完了してから8ヶ月以上経った18歳以上の全員を対象にブースター接種を開始する計画を発表した。BioNTech/ファイザーの承認申請を受けて諮問委員会が開催されたが、6ヶ月以上経った16歳以上全員を適応とすることには18人の諮問委員のうち16人が反対した。追加された諮問事項である、65歳以上と重症合併症のリスクが高い人の接種は全員が賛成した。非公式な採決が行われた、医療や介護に従事する人たちを高リスク層に含めることにも全員が賛成した。
次に、ACIPが開催され、65歳以上の高齢者や介護施設入居者は全員賛成、50~64歳で高リスク基礎疾患(CDCは17種類を列挙)は15人中13人が賛成したが、18~49歳の高リスク基礎疾患は賛成9、反対6、18~64歳の職業的曝露リスクを持つ人(医療従事者や教師など)は賛成6、反対9で評価が割れた。
FDAは諮問委員会の意見に拘束されないので、その後の申請者側との協議や諮問対象外の事項に基づき、違う結論を出すことが珍しくない。一方、CDCがACIPの勧奨を採用しなかったのは18年前に一回あっただけであるようだ。今回、二回目の珍事が起きた。MMWRが刊行されていないので未だ確定した訳ではないが、CDCは、高齢者・介護施設入居者と50~64歳で高リスク基礎疾患は接種すべき(should)、18~49歳の高リスク基礎疾患と18~64歳の職業的曝露は、個々人の便益と危険に応じて、接種することができる(may)と、ACIP勧告を一部変更する考えであることを発表したのだ。
リスク管理は医学的な評価だけでなく行動科学や心理学的な考察も必要になるため、行政の裁量の余地も大きくなる。私見では、今回のワクチン接種で一番ナンセンスだったのは米国でも日本でも州や自治体の人口に応じてワクチンを配布したことだ。感染リスクの高い医療従事者を優先するなら感染者の多い地域も優先するのが王道であるはずだ。地方に住んでいる人の多くは、後回しにされて不快感を持つかもしれないが、そのような人たちでも、首都圏や大都市で流行が収まれば自分たちには波及しないと思っているだろう。だが、選挙区の有権者に都民ファーストと言えるのは東京都の知事や議員だけである。ワクチン接種方針が高速道路の建設と同じ理由で歪められてしまった。
ブースター接種の線引きは専門家のコンセンサスが形成されていないので今まで以上に行政や政治家が主導することになりそうだ。
リンク: CDCのプレスリリース
EMA、Modernaのワクチンのブースター接種を評価開始
(2021年9月27日発表)
EMAは、Moderna社のCOVID-19ワクチン、Spikevaxのブースター接種について評価を開始したと発表した。接種を完了してから6ヶ月以上経った12歳以上に対象人口拡大申請がなされたことを受けたもの。承認審査を開始した、のではない理由は、EMAもECDC(欧州疾病管理予防センター)も、現時点では、人口全体にブースター接種を施行する必要はないと考えているため。必要になった時に備えるだけ、と弁明している。
インフルエンザ・ワクチンは効果の持続期間が短いが、専ら冬に流行するため、年一回の接種で足りる。COVID-19は通年流行するので何ヶ月持つか気になるが、臨床試験の追跡期間が接種完了後2~3ヶ月間と短く、よくわからない。偽薬対照試験を継続できたらよかったのだが、一般接種が始まった後も被験者の接種を禁じるのは倫理に反する可能性があり、できなかった。
Modernaは、代わりに、偽薬群に割付けられ盲検解除後に接種した遅延接種群と、ワクチン群の、今年7~8月における感染状況を比較する研究を行った。遅延接種群は一回目接種からメジアン8ヶ月が経過した11431人、ワクチン群はメジアン13ヶ月経過した14746人を集計したところ、1000人年当り罹患数は各49.0と77.1で、前者のほうがインシデンスが36%少なかった(95%信頼区間17-52%)。疫学研究では入院・死亡リスク抑制効果に関しては未だ大きな低下がみられていないが、今回の研究では1000人年当り重症例も3.3対6.2で少なかった。
年齢やリスク因子を調整したCox比例ハザードモデルでも同様な結果になったとのこと。感染予防効果が時系列的に低下する証左となり得るが、intent-to-treatではない事後的分析なので、群間の偏りがないとも限らない。BioNTech/ファイザーの承認申請にも言えることだが、今、追加接種しなければならない論拠が曖昧であり、特に、なぜ6ヶ月なのか、8ヶ月や1年ではいけないのか、判断材料が足りない。
リンク: EMAのプレスリリース
ロナプリーブの外来試験と入院試験のデータ
(2021年9月29日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGEN-COV(商標名:casirivimabとimdevimab、和名ロナプリーブ)の第3相COVID-19外来治療試験の論文刊行と、第2/3相入院治療試験の結果概要を発表した。
外来治療試験は昨年11月に米国でEUAされた時のエビデンスで、RT-PCRで感染確定してから3日以内、発症からは7日以内の非入院患者を二剤合計4800mg、同2400mg、または偽薬を一回点滴静注する群に無作為化割付して、死亡またはCOVID-19関連の入院のリスクを29日間追跡した。途中で解析対象を重症・死亡リスク因子を持つ人たちに絞り込むプロトコル変更が行われた。
結果は、4800mg群(1355人)の発生率が1.3%であったのに対して対応する偽薬群は4.6%、相対リスク削減率は71.3%だった。2400mg群(736人)も1.0%で対応する偽薬群の3.2%より低く、相対リスク削減率は70.4%だった。
尚、抗SARS-CoV-2抗体は本試験で見られたように用量応答相関が鈍く、EUA時の承認用量は二剤合計2400mgだったが、その後1200mgに変更されている。また、当初は二剤別々のバイアルに入っていたが、米国では今年6月に配合剤がロンチされた。
さて、REGEN-COVは抗ウイルス薬なので早く投与した方が良さそうに感じられるが、残念ながら、発症/診断確定から投与までの経過日数と治療効果の相関性については言及されていない。診断確定から3日以内に来院/往診で点滴するのはスケジュール的にタイトなので、分析できるほど日数の分布が広がっていないのだろう。
REGEN-COVは抗SARS-CoV-2抗体の補充療法なので、感染又はワクチン接種により抗体を獲得した患者にも有効なのかどうかは曖昧だ。論文著者はベースライン時点で抗体陽性だった患者にも効果があったと述べている。Appendix収載のグラフを見ると、陰性サブグループにおける相対リスク削減率が4800mgは76%、2400mg群は83%であったのに対して、陽性サブグループでは各69%と85%となっており、点推定値は大差ない。しかし、陽性サブグループの信頼区間は著しく広く、上限は1を上回っている。被験者のうち2割と、数が少ないせいで検出力不足だったのかもしれない。
驚かされるのは、抗体陽性が2割しかいなかったこと自体だ。検査・判定方法が同じかどうか分からないが、入院患者試験では、後述の試験でも英国で行われた超大規模試験でも、6割前後だった。入院するほど症状が重くなく、65歳以上などリスク因子を持つ患者層では2割しか抗体陽性でないのだとしたら、陽性陰性を問わずに投与することを肯定する現在の適応が非合理的とは言えないだろう。
次に、入院患者治療試験の成績は、これだけで適応拡大が認められるほど頑強なものではないようだ。組入れが進まず目標の1/3程度で中止してしまったことが響いたのだろう。オックスフォード大学が主導したRECOVERY試験は抗体陰性サブグループに関して成功しているので、今回の試験を支持的証跡とすれば、EUAを取れるのではないか。
組入れが進まなかったのは、おそらく、当初の治験成績がパッとしなかったからだろう。この試験は、昨年10月、独立データ監視委員会がハイフロー酸素投与や人工呼吸器装着患者の新規組入れ停止を勧告した。酸素投与不要またはローフローで足りる患者の組入れは続行したが、今度は、他社の抗SARS-CoV-2抗体の入院治療試験でフェールが相次ぎ、注目がremdesivirやdexamethasoneにシフトしていった。
組入れ目標変更に合わせたのだろう、主評価項目も抗体陰性で酸素不要またはローフロー酸素投与のサブグループのウイルス量の変化に変更された。統計的に有意な効果があったとのこと。臨床的評価項目も全てで好ましいトレンドが見られた。29日死亡リスクは56%減、陽性を含めても36%減とのことだが、統計的に有意ではなさそうだ。また、陽性だけではどうなのかは明記されていない。
尚、この試験では、初期の臨床試験用量である二剤合計8000mgと2400mgをテストした。
リンク: Weinreichらの治験論文(New England Journal of Medicine、フリー・アクセス)
リンク: リジェネロンのプレスリリース(入院患者試験、9/30付)
【新薬開発】
キイトルーダ、肝癌加速承認取消のリスクが薄らぐ
(2021年9月27日発表)
MSDはKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)のKEYNOTE-394試験が成功したと発表した。進行肝細胞腫の二次治療試験で、全生存期間や副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)が偽薬を有意に上回った。Keytrudaは18年に米国でsorafenib歴を持つ患者に加速承認されたが、市販後薬効確認試験であるKEYNOTE-240試験が二兎も四兎も追ったため多重性補正が祟りフェールした。FDAは承認を取消すべきか今年4月に腫瘍学薬諮問委員会で尋ねたが、全員が取消は早計と判定。期待された通り、今回の試験で答えが出た。
394試験は中国、韓国、マレーシア、台湾の医療施設でsorafenibまたはoxaliplatinによる治療歴を持つ又は不耐な進行肝細胞腫を組入れた。データは未発表。米国ではoxaliplatinを肝細胞腫に用いることは承認されていないので、sorafenib歴を持つ患者だけのサブグループ分析も望ましい結果なのか、知りたいところだ。
抗PD-1抗体はブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)も17年に米国で肝細胞腫二次治療に加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、今年7月に自発的返上した。
一方、ロシュのTecentriq(atezolizumab)は全身性治療未経験の切除不能肝細胞腫にAvastin(bevacizumab)を併用した試験で全生存期間などがsorafenibを有意に上回り、昨年、日米欧で承認された。このレジメン歴を持つ患者にKeytrudaが有効であるかどうかは不明なので、もし普及した場合、本承認されてもKeytrudaの出番は限られるだろう。
リンク: MSDのプレスリリース
MPO阻害剤の多系統萎縮症試験がフェール
(2021年9月27日発表)
Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)は、BHV3241(verdiperstat)の第3相多系統萎縮症(MSA)試験がフェールしたと発表した。40~80歳の患者336人を偽薬または600mgを一日二回経口投与する群に無作為化割付して48週間治療し、修正MSA評定尺度の変化などを比較したが、主評価項目も主要な副次的評価項目も大差なかった。
MSAは希少な、急進行・致死的な神経変性疾患。通常、発症後6~20年で死亡するとのこと。verdiperstatは脳における酸化ストレスや炎症のドライバーとなるミエロペルオキシダーゼ(MPO)を阻害する経口剤、アストラゼネカが300mgと600mgのプルーフ・オブ・コンセプト試験を行なったところ、上記尺度などで用量依存的なシグナルが見られた。Biohavenは18年にライセンス。MSAに加えて、ALSでも第3相試験中で今年第4四半期に組入れ完了する見込み。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
アミカス、ポンペ病新薬を承認申請
(2021年9月29日発表)
アミカスセラピューティクス(Nasdaq:FOLD)はポンペ病の新規併用療法をFDAに承認申請し受理されたと発表した。新開発の遺伝子組換え型アルファ・グルコシダーゼ、cipaglucosidase alfaと、ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのアクテリオンがゴーシェ病I型やニーマン・ピック病C型の薬として販売しているグルコシルセラミド合成酵素阻害剤miglustatを併用することで、前者を安定化・活性増強する狙い。生物学的製剤である前者の審査期限は来年7月29日、小分子薬である後者は来年5月29日と分かれた。
アミカスの会長兼CEOであるJohn Crowleyは、娘二人がポンペ病を発症したのを機にBMSを退社、治療法の研究者やスポンサー探しに奔走し、8年後の06年、遂にMyozyme(alglucosidase alfa)がFDAに新薬承認された。アミカスでは折り畳み異常の蛋白を細胞内のスクラップ場にエスコートする経口ファーマシューティカル・シャペロンの実用化に成功。今回、miglustatブーストでパワーアップを図ったが、成功したと言えるかどうかは微妙だ。
第3相試験では歩行可能で人工呼吸器を装着していない遅発型ポンペ病患者123人を、cipaglucosidase alfa(20mg/kg点滴静注)とmiglustat(260mg経口)を二週毎に投与する群と、新工程で生産されたalglucosidase alfaであるLumizymeと偽薬を二週毎投与する群に2:1割付して、1年後の6分歩行テストの改善を比較した。結果は21メートル対7メートルで併用が上回ったが、優越性解析はp=0.072でフェールした。ベースライン値の355メートルと比べると4%程度の差に過ぎない。副次的評価項目の%努力性肺活量(ベースライン値は70%)は0.9%低下対4.0%低下、p=0.023となったが、主評価項目がフェールしたので統計的に有意とは言えない。
被験者の77%はLumizyme経験者で、治療効果に満足していないから本試験に参加した人が多かったのではないか。もしそうだとしたら、併用法にステップアップしても大差ないことになり、期待外れと言われかねない。尤も、直前まで治療を受けていた95人の事前に設定されたサブグループ分析ではもう少し良い結果が出ており、良く分からない。
深刻な治療時発現有害事象が各群9.4%と2.9%の患者で見られた。
尚、アミカスは18年にCelenex社を1億ドルで買収して参入した遺伝子療法部門をCaritas Therapeuticsとしてスピンアウトする計画を発表した。SPAC(特別買収目的会社)による買収の形をとるが、アミカスは36%を保有する筆頭株主になる予定。Crowley氏は新会社の会長兼CEOとなり、アミカスでは名誉会長兼チーフ・ストラテジック・アドバイザーに就任する。酵素補充療法、ファーマシューティカル・シャペロンに次ぐ第三のモダリティに乗りだすわけだ。
リンク: 同社のプレスリリース
ノバルティス、前立腺癌の放射性医薬を承認申請
(2021年9月28日発表)
ノバルティスは、177Lu-PSMA-617をアンドロゲン受容体標的薬とタクサン系化学療法レジメンによる治療歴を持つ転移性去勢抵抗性前立腺癌に使う薬として米国で承認申請し、受理された。優先審査を受ける。
転移性去勢抵抗性前立腺癌の8割以上で発現する、PSMA(前立腺特異的膜抗原)に分布して腫瘍細胞の近くでベータ線を放出する放射性医薬品。ドイツのDKFZ癌研究所とハイデルベルグ大学病院が共同開発し、ノバルティスは18年にEndocyte社を21億ドルで買収して世界独占権を入手した。
第3相ではPETスキャンでPSMA陽性だった患者を組入れて、標準療法に追加する効果を検討したところ、全生存期間がメジアン15.3ヶ月と標準療法のみの群の11.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)も各8.7ヶ月、3.4ヶ月、0.40となった。G3以上の有害事象発生率は52.7%と対照群の38.0%を上回った。
リンク: 同社のプレスリリース
リジェネロン、抗PD-1抗体を子宮頸癌に承認申請
(2021年9月28日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、Libtayo(cemiplimab-rwlc)を化学療法歴のある難治/転移子宮頸癌に用いる適応拡大を米国で申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は来年1月30日。
第3相EMPOWER-Cervical 1試験では、扁平上皮腫サブグループ477人のメジアン生存期間が11.1ヶ月と化学療法群の8.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.003だった。シーケンシャルな主評価項目である腺腫/腺扁平上皮腫131人も含む全被験者の解析も各12.0ヶ月、8.5ヶ月、0.69、p<0.001と成功した。
深刻有害事象の発生率は各群30%と27%、有害事象治験離脱率は各8%と5%だった。
サノフィと共同開発販売している抗PD-1抗体で皮膚がんの一部で承認されている。本邦未承認だが上記試験は日本の施設も参加したので承認申請されるのではないか。
リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)
【承認】
初のアラジール症候群治療薬が承認
(2021年9月29日発表)
米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)は、Livmarli(maralixibat)がFDAに承認されたと発表した。1歳以上のアラジール症候群患者の胆汁鬱血性掻痒の治療に用いる経口液。この疾患の治療薬が承認されたのは初めて。希少疾患用新薬の承認を得た会社に供与される優先審査バウチャを取得したので、最近の相場では1億ドル程度で売れそうだ。
アラジール症候群は常染色体性優性遺伝性疾患で、胆道の形成不全により胆汁がうっ滞し、肝腎心などに合併症が生じる。睡眠を含め日常生活の差しさわりになるのが痒みだ。米国の対象患者数は2000~2500人と推測されている。Livmarliは回腸胆汁酸輸送体阻害剤で、胆汁が肝臓に戻るのを阻害する。平均年齢5.4歳の31人を組入れた後期第2相試験では、掻痒や血中胆汁酸量が減少した。
この業界はわらしべ物語が多い。筆者が遡れるのは14年にシャイアがLumena Pharmaceuticalsを買収して入手したこと。シャイアはアラジール症候群や原発性硬化性胆管炎の第2相試験を行ったが、何れもフェール、18年にMirumにmaralixibatとvolixibatの権利と前者はファイザー、後者はサノフィの関連知的所有権を譲渡した。
先ごろ武田薬品が日本の権利を取得したが、世が世なら、シャイアを買収した時に一緒に付いてきたはずだったのだ。今となると、なぜシャイアの試験が血中胆汁酸も掻痒もフェールしたのか不思議だ。第2相は140mcg/kgと280mcg/kgをテスト、第3相は190mcg/kgで開始し1週間後に380mcg/kgに増量したので、この違いなのかもしれない。
類薬ではAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)の回腸胆汁酸輸送体阻害剤、Bylvay(odevixibat)が進行性家族性肝内胆汁うっ滞(PFIC)治療薬として今年7月、欧米で承認された。アラジール症候群でも第3相試験中。MirumもPFICで第3相試験中なので、順調に進めば数年後には全面戦争になりそうだ。
リンク: 同社のプレスリリース
アッヴィ、MSD由来の片頭痛予防薬が承認
(2021年9月28日発表)
アッヴィは、FDAがQulipta錠(atogepant)を成人の反復性片頭痛の予防的治療薬として承認したと発表した。
昨年、エクイティバリュー630億ドルで買収したアラガンが15年にMSDから取得した経口CGRP受容体拮抗剤パイプラインの一つ。第3相試験では、片頭痛日数が月4~14日の反復性片頭痛患者を偽薬、10mg、30mg、または60mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して治療効果を比較したところ、ベースライン(月7~9日)比で各群2.5、3.7、3.9、4.2日減少した。半減奏効率は各群29%、56%、59%、61%だった。FDAは全用量を承認しており、開始用量の推奨はない。主な有害事象は悪心、便秘、疲労傾眠など。
リンク: 同社のプレスリリース
TecartusがCAR-Tで初めて前駆B細胞ALLに適応拡大
(2021年10月1日発表)
FDAは、ギリアド・サイエンシズが17年に子会社化したKite PharmaのTecartus(brexucabtagene autoleucel)を難治/再発性前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病に用いる適応拡大を承認した。患者から採取したT細胞にCD19に結合する抗体フラグメントとT細胞に活性化刺激を与える分子の遺伝子を導入することによってテーラーメイド抗癌剤に仕立て上げる、CAR-T療法がこの血液癌に承認されたのは初めて。
20年に欧米で初承認された難治/再発マントル細胞腫は、エビデンスが単群試験の反応率だったため、米国では加速承認、EUでは条件付き承認だった。今回のエビデンスは単群試験の完全寛解率(54人のうち52%)と寛解持続性(過半が12ヶ月以上)なので似ているが、本承認だった。CAR-Tに特徴的な副作用であるサイトカイン放出症候群はG3以上の発生率が26%、神経学的毒性は同35%で、前者はマントル細胞腫の試験より上昇している。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Kiteのプレスリリース
今週は以上です。
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