2021年10月24日

第1022回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 従来技術のワクチンの第3相が成功 
  • コミナティ、3回目接種で感染を更に95%予防 
  • FDA諮問委員会、ヤンセンのワクチンの二回目接種を推奨 
  • FDA、三ワクチンの追加接種と交差接種をEUA 
  • 肺炎合併入院患者にベータインターフェロンは無効 
  • アテア/ロシュの抗ウイルス薬、第2相が意外な結果に 
  • その他の領域: 
  • バーチャル・リアリティ弱視治療法が承認 
  • bluebird、遺伝子療法の欧州承認を返上 
  • Oncopeptides、多発骨髄腫用薬の加速承認を返上 
  • デュピクセントは結節性痒疹にも有効 
  • 新規SERDの乳癌試験が成功 
  • カルバペネム耐性アシネトバクター治療試験が成功 
  • タケキャブの海外びらん性食道炎試験が成功 
  • バイオジェン、ALS用薬の第3相がフェールしたが承認申請を相談へ 
  • イミフィンジと抗CTLA-4抗体の併用肝癌一次治療試験が成功 
  • Sage/バイオジェン、抗鬱剤を来年下期に承認申請へ 
  • 加速承認申請が一転して認められず 
  • バース症候群用薬の承認申請はやっぱり受理されず 
  • Omeros社、HSCT-TMA用薬が承認されず 
  • UCB、抗IL-17抗体の承認審査が遅延 
  • CHMP、PNH治療薬などの承認を支持 
  • ACIP、肺炎球菌結合型ワクチンの勧奨範囲拡大を支持 
  • 加齢性黄斑変性の治療用インプラントが承認 
  • 禁煙補助成分が新規作用機序のドライアイ治療薬として承認 
  • テセントリクの肺癌アジュバント療法が承認 



【COVID-19関連】


従来技術のワクチンの第3相が成功
(2021年10月18日発表)

フランスのワクチン開発販売会社、Valneva(Euronext Paris:VLA)は、VLA2001が第3相COVID-19予防試験でアストラゼネカのVaxzevriaに匹敵する成績を挙げたことを明らかにした。英国に続いて、EUにも条件付き承認に向けたローリング申請を着手する考え。

このワクチンはS蛋白を高密度化した弱毒化全ウイルス・ワクチン。Dynavax(Nasdaq:DVAX)のCpG 1018アジュバントとアルミを添加して抗原性を高めている。同社の日本脳炎ワクチン、Ixiaroと同様に、ベロ細胞で培養。冷蔵庫で摂氏2~8度で保存できる。

第3相は英国で18歳以上の4012人を組入れて、30歳以上の2972人は対照群であるVaxzevriaと2:1割付けし、30歳未満(副作用懸念から可能ならVaxzevriaは使わない方が良いと英国ではされている)は全員VLA2001に割付けて、4週置いて二回、筋注した。

薬効の主評価項目は、30歳以上でスクリーニング時点で抗体を持っていなかった各群500人弱における中和抗体価(GMT:幾何平均抗体価)。結果は各群803と576となり、GMT比率は1.39、p<0.0001で有意に上回った。尤も、抗体陽転率は両群95%以上で非劣性、探索的評価項目であるCOVID-19感染も両群同程度だったので、実質的には、同程度と考えておけばよいだろう。

忍容性は注射箇所反応発生率が73.2%対91.1%、全身性反応が70.2%対91.1%、深刻有害事象はゼロだった。

COVID-19ワクチンはmRNAリピッド・ナノパーティクル・ワクチンが期待をはるかに上回る臨床成績を上げたため、追いかける会社には高いハードルが出来てしまった。開発の遅れを少しでも補うためには、第1グループ4品と同じように数万人級の臨床試験を行って感染予防効果と稀な副作用を検証するよりは、数千人規模の抗体価非劣性試験でチャチャっと済ませるほうが望ましい。感染予防効果のデータが無いので、先行品と比較されることもない。

問題は、このチャチャっと戦略が承認審査機関に受け入れられるかだ。抗体価とワクチン効率の関連性は他社の臨床試験である程度、明らかになっただろうが、考え方としては全人類が接種する可能性のあるワクチンの安全性を検討するには、数千人では足りないのではないだろうか?英国などで20代にVaxzevriaを使わないようにしているのは、感染時の重症化リスクが低い一方で、血栓性血小板減少症のリスクが他の世代より高いからだが、高いと言っても10万人に一人程度だ。このようなリスクは3万人の試験でも検出するのは困難だが、数千人ではもっと頻度の高い副作用も探知できないだろう。

日本で開発されているワクチンにも同じ疑問を持っている。

リンク: Valnevaのプレスリリース



コミナティ、3回目接種で感染を更に95%予防
(2021年10月21日発表)

BioNTechとファイザーは、BNT162b2(tozinameran、和名コミナティ)の第3相ブースター接種試験が良好な結果になったことを発表した。一部の国では既に開始されているが、初めての明確なエビデンスになり得るので、欧米などの規制機関に提出する考え。

このワクチンを二回接種した16歳以上の1万人超を30mcg一回筋注群と偽薬群に無作為化割付して、7日経過後の症候性感染を観察した。被験者の年齢はメジアンで53歳、二回目接種後の経過期間はメジアン11ヶ月、観察期間はメジアン2.5ヶ月間でデルタ株の流行期だった。

結果は、各群5人と109人が感染し、ワクチン効率は95.6%(95%CI89.3, 98.6)だった。年齢や性別、人種、基礎疾患に関わらず効果が見られた。

二回接種の効果を検討した試験では、メジアン1.5ヶ月の観察期間のワクチン効率は95%だった。メジアン11ヶ月経って効果が最悪ゼロになっていたとしても、ブースターで免疫を再構築できることになる。実際はゼロにはならないだろうし、今回の試験は感染力の強いデルタ株が相手なので、二回接種試験より優れた成績と考えることもできるだろう。

プレスリリースには記されていないがこの試験はNCT04955626と推測される。米国やブラジル、南アメリカの施設で、二回目の接種から175日以上経った人を組入れて実施した。

リンク: 同社のプレスリリース



FDA諮問委員会、ヤンセンのワクチンの二回目接種を推奨
(2021年10月15日発表)

FDAはワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会を招集してジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンのCOVID-19ワクチン、Ad26.COV2.Sについて意見を聞いた。19人の委員全員が2ヶ月以上空けてもう一回接種することに賛成した。

このワクチンは26型アデノウィルスにSARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子を組入れたもの。当委員会はmRNAワクチンについては感染時のリスクが高い人に限定して追加接種を推奨したが、ヤンセンのワクチンについては限定しなかった。二回接種試験の結果が判明し、中等症以上の感染予防効果が一回接種試験より向上し米国施設だけのデータはmRNAワクチンに匹敵するものであったからだ、この試験は一回目から2~6ヶ月後に接種したが、FDA/諮問委員会は一番短い2ヶ月以上経った段階での接種が妥当と判定した。mRNAワクチンと同様に、二回接種するワクチンに軌道修正されることになる。

リンク: JNJのプレスリリース



FDA、三ワクチンの追加接種と交差接種をEUA
(2021年10月20日発表)

FDAは、Moderna(Nasdaq:MRNA)及びジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンのCOVID-19ワクチンの追加接種をEUA(非常時使用認可)した。また、BioNTech/ファイザーのComirnatyも含めて、プライマリー接種とは異なる製品を使うミックス・アンド・マッチもEUAした。

Moderna品はComirnatyと同様に、65歳以上と、18~64歳で重症化リスクを持つ、あるいは深刻合併症のリスクがある職場(例:病院)や施設(刑務所や高齢者施設)にいる人が対象。プライマリー接種(最初の二回の接種)が完了して6ヶ月以上経ってからブースター接種を行う。ブースターの用量はプライマリーの半分の50mcg。FDAのリリースによると、ブースター接種ではプライマリー接種時よりも腋窩リンパ節腫脹の発生率が高い由。

ヤンセン品は、18歳以上に一回接種することがEUAされていたが、2ヶ月以上経ってからもう一回、追加された。高リスク者限定ではなく全員が対象なので、事実上、二回接種に変わったことになる。二回目は他の二製品を使ってもよい。

リンク: FDAのプレスリリース



肺炎合併入院患者にベータインターフェロンは無効
(2021年10月18日発表)

NIH(米国立医療研究所)はACTT-3アダプティブ試験のinterfeon beta-1a試験がフェールしたと発表した。治験論文もLancet Respiratory Medicineに刊行された。

この第3相試験は、COVID-19患者ではインターフェロンの低下がみられることから、ベータ・インターフェロンを補充する効果に期待して昨年8月にロンチされた。肺炎を合併し入院している患者969人を米日など5ヶ国の施設で組入れ、remdesivirの最大9日間のコースに偽薬またはinterfeon beta-1aを追加する効果を検討した。承認用途である再発多発硬化症では4.4mcgまたは8.8mcg週三回皮注で開始して第5週の目標用量である22mcgまたは44mcgまで漸増していくが、本試験では最初から44mcgを一日おきに最大4回、皮注した。

主評価項目に設定された回復までの期間は両群ともメジアン5日間で、15日臨床的改善オッズ比も有意差がなかった。尚、ハイフロー酸素投与患者は途中経過データが好ましくなかったため機械的換気患者も含めて昨年9月に組入れが中止されている。

敗因は良く分からないが、合併症が進行した患者はしばしば炎症免疫反応が亢進しているので、油を注いでしまったのかもしれない。

リンク: NIHのプレスリリース
リンク: Kalilらの治験論文(Lancet Respiratory Medicine、オープンアクセス )



アテア/ロシュの抗ウイルス薬、第2相が意外な結果に
(2021年10月19日発表)

アテア・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:AVIR)は、AT-527の第2相COVID-19外来治療試験でウイルス抑制作用に偽薬比有意な差がなかったことを明らかにした。一足先に開始した第3相試験のデザイン変更を検討する。

AT-527は、先日MSDが第3相外来治療試験の成功を発表したmolnupiravirと同様にRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を阻害するだけでなく、ニドウイルスRdRP関連ヌクレオチジルトランスフェラーゼも阻害するデュアル・アクションの経口カプセル剤。ロシュが共同開発、米国外での単独販売権を持っており、日本では子会社の中外製薬が開発している。

第2相は今年6月、高リスク入院患者62人を組入れた試験が中間解析で良好な成果を挙げたことが発表された。550mg群(一日二回、最大5日間投与)の第2日ウイルス量の低下が偽薬群より0.7 log10大きかった。第14日RT-qPCR検出不能率は各47%と22%だった。

今回の第2相軽中等症COVID-19外来治療試験は550mg一日二回と1100mg一日二回の二つのコフォートに各30人を組入れ、ウイルス量の低下を偽薬群40人と比較したが、有意な差はなかった。

molnupiravirの第3相試験は重症化リスク因子を持つ患者だけを組入れた。本試験は軽症や低リスク患者が多かったが、高リスク患者(550mg群は7人、対応する偽薬群は11人、1100mg群は14人、対応する偽薬群は7人)におけるウイルス低下は550mg群も1100mg群も偽薬群より0.5 log10大きかった。サンプルサイズが小さく第三の因子の影響を排除できないだろうから事前に設定された分析だろうが探索的解析だろうが説得力は弱い。しかし、免疫力が強く軽症で済んでいる人は自力で自然軽快してしまい薬の効果が表れにくかったとしても不思議ではないだろう。

また、本試験ではウイルス株やワクチン接種者におけるワクチン銘柄に偏りがあった模様だ。molnupiravirの第3相は、一部の報道によれば、ワクチン接種者は対象外だった。

結局、第3相の成否を占う上で、楽観はできなくなったが諦めるのはまだ早い。但し、組入れ条件や主評価項目の変更を検討するため、結果が出るのは今年下期ではなく来年下期の見込みになった。

現状の第3相試験のデザインは、軽中等症の外来患者1400人を組入れて症状改善までの期間を偽薬と比較する。抗ウイルス剤なので早期に治療を開始したほうがよく、発症から投与まで5日以内、PCR検査で陽性判定から無作為化割付まで72時間以内が組入れ条件になっているが、これは第2相やmolnupiravirの第3相とそれほど変わらない。

リンク: アテアのプレスリリース


【今週の話題】


バーチャル・リアリティ弱視治療法が承認
(2021年10月20日発表)

米国マサチューセッツ州のデジタル・セラピー企業、Luminopiaは、FDAがLuminopia Oneを弱視治療機器としてデ・ノボ発売前承認したと発表した。4~7歳の不同視かつまた軽度の斜視を伴う患者が適応になる。

片方の目の視力が弱い小児は、良い方の目にアイパッチをしたり目薬で霞ませたりして弱い方の目を使わざるをえなくする治療が奏功する可能性がある。代替手法が今回の製品で、自宅でVRヘッドセットを装着してアニメなどのTV番組や映画を一日一時間、週6日、12週に亘って視聴する。眼科医が処方する。臨床試験では視力が有意に向上した。アイパッチなどと比べてアドヒアランスが良好のようだ。

ボストン・チルドレンズ・ホスピタルやマサチューセッツ工科大学ピコワー記憶学習研究所、そしてセサミ・ストリートを製作するSesame Workshop、アニメ制作会社であるカナダのNelvanaやフランスのMillimagesとともに開発した。700時間以上のコンテンツが用意されている。

中学のころ、ビートルズの歌詞は直ぐ覚えるのに英語の教科書の一話丸暗記は中々できないのはなぜだろう、と不思議に思ったことを思い出した。ビートルズでいいじゃないか、と開き直ることが大事なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(Business Wire)
リンク: Xiaoらの治験論文(Ophthalmology、オープンアクセス)



bluebird、遺伝子療法の欧州承認を返上
(2021年10月21日発表)

bluebird bio(Nasdaq:BLUE)は米国におけるex vivo遺伝子療法に事業集中を進めているが、先に承認されたEUでの承認返上を開始した。まず、今年7月にEUで承認されたばかりの脳副腎白質ジストロフィー治療薬Skysona(elivaldogene autotemcel)を返上した。19年に条件付き承認されたベータサラセミア治療薬Zynteglo(betibeglogene autotemcel)も来年初めに取り下げる考えだ。

米国では前者は未承認、後者も9月に承認申請したばかり。なけなしの承認を返上してしまうのは、それだけ、普及に苦戦しているからだろう。Zyntegloは、市場としてはそれほど大きくないものの、ドイツで薬価合意に達せず承認を返上した。また、類似した別の遺伝子療法の被験者が急性骨髄性白血病を発症し、一時的に販売・治験停止になったこともあった。

同社の遺伝子療法は患者から採取したCD34陽性細胞に自己不活化レンチウイルス・ベクターを用いて目的遺伝子を挿入し、患者に返す。レンチウイルスは分裂していない細胞のゲノムにも組み込まれるので、効率は良さそうだが、偶然に変な場所に組み込まれてしまうリスクが付きまとう。投与前のプリコンディショニングに用いる化学療法薬も別の癌を誘導してしまう懸念があり、紛らわしい。

導入する遺伝子はマーカー付きなので、癌細胞のゲノム・シーケンシングを行えばウイルス・ベクターや導入遺伝子が犯人なのかどうか、見当が付き、EMAは、上記症例の犯人は遺伝子療法ではないと判定したが、それでもなお、年1回の血液癌検査を15年間続けることを求めた。

おそらく米国でも前途は多難だろう。

同社はBMSに導出したAbecma(idecabtagene vicleucel)が多発骨髄腫のCAR-T療法として承認されたが、腫瘍学領域を2seventy bio社として11月に株主割当の形でスピンアウトする予定。この社名は、時速270マイルというニューロンの神経伝達速度で革新的な着想を実用化する野望を表している。

リンク: 同社のプレスリリース



Oncopeptides、多発骨髄腫用薬の加速承認を返上
(2021年10月22日発表)

スウェーデンのOncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)は今年2月に米国で加速承認されたばかりの多発骨髄腫サルベージ療法薬、Pepaxto(melphalan flufenamide)の承認を返上した。市販後薬効確認試験で他のレジメンと比べて死亡リスクが高い懸念が浮上したため。FDAは、加速承認の食い逃げを防ぐため、加速承認の段階で市販後コミットメント試験の組入れが相当以上進んでいることを求めている。もし延命またはそれに準じる効果が見られなかった場合、速やかに過ちを正すことができるわけだが、それにしても、8ヶ月でレッドカードとは早い。

Pepaxtoはmelphalanにベプチドを結合して親油性を向上したもの。4次までの治療歴を持ち3種類の代表的な薬に抵抗性を持つ多発骨髄腫にdexamethasoneと併用した試験でORR(客観的反応率)が23.7%、メジアン反応持続期間4.2ヶ月だった。第3相は2~4次治療歴を持ちlenelidomide抵抗性を持つ患者を組入れて、dexamethasoneとセルジーン/BMSのPomalyst(pomalidemide)を併用する群と比較したところ、PFS(無進行生存期間、担当医評価)やORR(客観的反応率)は上回ったものの、全生存期間のハザードレシオ1.104、メジアン生存期間は19.7ヶ月対25.0ヶ月と、統計的に有意ではないものの好ましくない方向のデータが出た。

同社は、適切な患者には無償提供を続ける考え。4月にEUに提出した承認申請は取り下げない考え。欧米の営業活動を止めて研究開発会社に戻る考えなので、EUもすんなり承認されない限り取り下げになるのではないか。

リンク: 同社のDHCPレター


【新薬開発】


デュピクセントは結節性痒疹にも有効
(2021年10月22日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、抗IL4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab、和名デュピクセント)の一本目の第3相結節性痒疹試験が成功したと発表した。来年上期に二本目の結果が出るのを待って適応拡大申請に向かう考え。

結節性痒疹は酷く強い痒みと皮膚病変を伴う。米国の患者数は74000人と推定されている。Dupixentは好酸球などが増加する二型炎症性疾患に強く、これまでに、アトピー性皮膚炎や好酸球性喘息症、鼻ポリープ、蕁麻疹、好酸球性食道炎などに承認・第3相試験成功の成果を挙げている。

今回の第3相は局所ステロイド不応不適の成人患者160人を組入れて、痒みや病変の抑制効果を偽薬と比較した。結果は、主評価項目の12週痒み抑制奏効率が37%対偽薬群22%、p=0.0216となった。24週時点でも58%対20%、第24週病変軽快率(治癒又はほぼ治癒)は45%対16%と良好な結果だ。

有害事象で特徴的なのは、アトピー性皮膚炎試験と同様に結膜炎とヘルペス感染症が偽薬より多かった(どちらも6%対0%)。

リンク: 両社のプレスリリース



新規SERDの乳癌試験が成功
(2021年10月20日発表)

イタリアのメナリーニとアメリカのRadius Health(Nasdaq:RDUS)は、RAD1901(elacestrant)の第3相乳癌二次/三次治療試験が成功したと発表した。データは12月のサン・アントニオ乳癌シンポジウムでの公表を狙っている。22年に欧米で承認する計画。

非ステロイド系のSERD(選択的エストロゲン受容体零落剤)で一日一回、経口投与する。今回のEMERALD試験はエストロゲン受容体陽性、her2陰性の進行/転移乳癌で、内分泌療法による1~2次の治療歴(一回はCDK4/6阻害剤と併用)を持つ466人を、400mg群と標準療法群(筋注用SERDのfulvestrantまたは三種類のアロマターゼ阻害剤の何れか)に無作為化割付して、PFS(無進行生存期間)を比較した。対照薬に筋注用薬と経口剤が含まれているせいかオープン・レーベルになっているが、デザイン論文によるとPFSは独立放射線学的評価委員会が判定するので、ある程度の客観性が保たれていると考えてよさそうだ。全生存期間も副次的評価項目として解析する。

PFSの解析対象は全被験者と、エストロゲン受容体1(ESR1)変異癌サブグループ(被験者の5割弱)の両方が主評価項目に設定され、両方成功した。ESR1変異は内分泌療法を受けた患者で生じがちな抵抗性変異とされる。

Radiusは16年にエーザイからelacestrantの日本国外での権利をライセンス、15年には日本の権利も取得し、更年期障害や乳癌の治療薬として開発してきたが、腫瘍学から撤退することを決め、20年にメラリーニに世界独占開発商業化権を供与した。

リンク: 両社のプレスリリース



カルバペネム耐性アシネトバクター治療試験が成功
(2021年10月18日発表)

Entasis Therapeutics(Nasdaq:ETTX)は、ETX2514SUL(sulbactam、durlobactam)の第3相ATTACK試験が成功したと発表した。17ヶ国の医療施設でアシネトバクター・バウマンニ感染による院内感染細菌性肺炎、人工呼吸器関連細菌性肺炎、人工呼吸器肺炎、菌血症の患者207人を組入れた試験で、薬効主評価項目はカルバペネム抵抗性サブグループ125人における28日全死亡。19.0%でcolistin群の32.3%と非劣性だった(差は-13.2%、95%上限は3.5%)。共同主評価項目である一回以上投与した全被験者の分析でも同様な傾向が見られた(有意とは記されていない)。

テスト・オブ・キュアによる臨床的治癒率は61.9%対40.3%で有意に上回った。また、腎毒性(クレアチニンと糸球体ろ過率で評価)発現率は13.2%対37.6%で有意に低かった。治療関連有害事象発生率も12.1%対30.2%だった。

ETX2514SULは、アシネトバクター・バウマンニに活性を持っていたが耐性菌が増えて使われなくなったsulbactamを、クラスA、C、Dのベータ・ラクタマーゼを広スペクトラム高力価で阻害する新開発のdurlobactamと組み合わせた固定用量合剤。各剤1gずつを6時間おきに3時間点滴静注した。colistinは12時間おきに30分点滴静注。両群ともimipenemとcilastatinも1gずつ6時間おきに1時間点滴静注した。

尚、本試験はパートBでcolistinやpolymyxin Bがフェールした患者28人にETX2514SULレジメンを投与している。22年央に承認申請する計画だが、パートAの一次治療だけでなく二次治療も視野に入れてているのだろう。

Entasisは15年にアストラゼネカの抗菌薬パイプラインを承継してスピンアウトした会社。現時点で開発が最も進んでいるのがETX2514SULで、アジア太平洋地域の権利は上海のZai Lab(Nasdaq:ZLAB)が保有している。

リンク: Entasisのプレスリリース



タケキャブの海外びらん性食道炎試験が成功
(2021年10月18日発表)

Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)は、vonoprazanの第3相びらん性食道炎(EE)試験が成功したと発表した。米国ではピロリ菌除菌療法で承認申請中だが、承認が見込まれる22年上期頃に適応拡大申請する予定。

武田薬品が開発し日本で14年に胃潰瘍治療およびピロリ菌除菌用薬タケキャブ(ボノプラザンフマル酸塩)として承認された、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー。8月に亡くなった山田忠孝氏がパートナーであったFrazier Healthcare Partnersが19年に北米欧州の権利を取得、開発会社として設立したのがPhathomだ。

EE試験は治療期と維持期があり、前者は20mgを一日一回、8週間投与して、内視鏡的完治率を武田が創製したプロトン・ポンプ阻害剤、lansoprazole(30mg)と比較した。結果は、93%対85%で非劣性、探索的な優越性解析も好ましい結果が出た。完治者を再無作為化割付した維持期では、10mg群と20mg群の寛解維持率がどちらもlansoprazole(15mg)比で非劣性。優越性解析は10mg群のpが0.0218、20mg群は0.0068だった。

有害事象は維持期で胃炎や腹痛やlansoprazoleより若干多かった。COVID-19の致死例も含む深刻有害事象に群間の偏りがあったが、試験薬との関連は否定された。

vanoprazanは9月に米国でピロリ菌除菌療法に承認申請された。amoxicillinと併用する(clarithromycin追加も可)。この用途でQIPD(認定感染症製品指定)とファーストトラック指定を受けている。

リンク: Phathomのプレスリリース



バイオジェン、ALS用薬の第3相がフェールしたが承認申請を相談へ
(2021年10月17日発表)

バイオジェンはBIIB067(tofersen)の第3相SOD1変異陽性ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験の結果をANA(米国神経学会)で発表した。主評価項目はフェールしたが、神経学的バイオマーカーの悪化が偽薬群より小さかったことや、オープン・レーベル延長試験も含めた分析で早期の患者において運動機能などの悪化を遅らせる傾向が見られたことから、EAP(FDAの承諾の下、未承認の薬を患者に提供するプログラム)を拡大すると発表した。二匹目のドジョウではないが、承認申請について当局と相談する意向だ。

SOD1(スーパーオキシド・ディスムターゼ1)は抗酸化作用を持つ酵素。変異は家族性ALSの2割程度、ALS全体の2%程度で見られる。BIIB067はSOD1のRNAに介入しタンパク合成を妨げるアンチセンス・オリゴヌクレオチド。18年にIONIS Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスした。第3相VALOR試験では108人を100mg髄腔内投与群と偽薬群に2対1割付した。主評価項目はALSFRS-R総合点の28週間の変化。治験感度を高めるために、変異型やALSFRS-R悪化速度、SVC肺活量に基づいて進行が早いと判定された60人を主評価対象とした。

結果は、試験薬群は8.14低下(悪化)、偽薬群は6.98低下となり、群間差は1.2、p=0.97だった。因みにベースライン値は36。6割の患者がriluzole、5%がedaravoneによる治療を受けていた。

副次的評価項目では、脳脊髄液におけるSOD1蛋白や血漿ニューロフィラメント軽鎖などのバイオマーカーで良好な差が見られ、早期段階の患者では運動機能など複数の評価項目で悪化が遅れる傾向が見られた。

深刻有害事象の発生率は18.1%(偽薬は13.9%)、有害事象により5.6%の被験者が離脱した(偽薬群はゼロ)。試験薬群では2名が脊椎炎を発症、うち1名が死亡したが試験薬との関連はないと判定された。

米国にはRight to Tryという法制があり、深刻な疾患を患い、臨床試験に参加できない患者が、試験薬を供給するようメーカーに要望する道筋が設けられている。今年3月、BIIB067の申請があったため、バイオジェンは延長試験が終了したあとに提供を開始することを決めた。

ALSはアルツハイマー病と比べても深刻度・切迫度が高く、SOD1変異陽性ALSは世界で数千人と患者が少ないため、もし効果が不十分であったとしても、あるいは深刻な副作用のリスクが隠れていたとしても、試してみる権利を尊重する余地はありそうだ。但し、効果がはっきりしないものを高価で販売するのは一歩間違えると詐欺商法になってしまうので、十分な配慮が必要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース



イミフィンジと抗CTLA-4抗体の併用肝癌一次治療試験が成功
(2021年10月15日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)と抗CTLA-4抗体tremelimumab(ファーザーの開発コードCP-675,206)の併用効果を検討したHIMALAYA試験の成功を発表した。治癒的切除や局所性治療が不適な進行肝細胞腫の一次治療として、Imfinziを単独またはtremelimumabと併用するレジメンの全生存期間を検討したところ、併用療法が標準療法であるsorafenibを統計的かつ臨床的に有意に上回った。Imfinzi単剤は非劣性解析が成功、数値上は上回っていた。データは未発表。

Imfinzi単剤は忍容性がsorafenibを上回り、併用群の深刻肝臓有害事象はImfinzi単剤を上回らなかった。

この組み合わせはBMSの抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用レジメンを彷彿させるが、tremelimumabはファイザーの臨床試験が成功せず、開発権を取得したアストラゼネカの第3相もフェールが続いた。しかし、今年に入って、転移非小細胞性肺癌の一次治療として化学療法に二剤を追加したPOSEIDON試験の全生存期間の解析が成功。今回、二本目の成功となった。

用法は若干異なり、前者の試験では化学療法を6サイクルではなく4サイクルに抑えて、Imfinzi(1500mg)とtremelimumab(75mg)を最初は3週毎に、第5サイクルは4週後に、その後はImfinziだけを4週毎に投与した。今回の試験ではtremelimumab(300mg)は一回だけ、Imfinzi(1500mg)は4週毎に投与した。抗CTLA-4抗体は抗PD-1/PD-L1抗体より忍容性が悪いので、併用法に工夫したことが成功につながったのかもしれない。

OpdivoとYervoyのレジメンは米国でsorafenib歴を持つ肝細胞腫に加速承認されている。MSDはKeytruda単剤で同じ適応に加速承認され、市販後薬効確認試験がフェールしたが、中韓馬台で行われた試験の成功が9月に発表された。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



Sage/バイオジェン、抗鬱剤を来年下期に承認申請へ
(2021年10月19日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)とバイオジェンは、FDAとの申請前相談を踏まえて、22年下期にSAGE-217(zuranolone)を鬱病の短期治療薬として米国で承認申請する考えを明らかにした。来年上期にローリング承認申請を開始する。2年前の第3相フェールから何とか立ち直れそうだ。

SAGE-217はGABA-A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーター。benzodiazepinesとは異なり、シナプス外のGABA-A受容体にも作用する。抑制系神経細胞に直接作用するためか、効果発現がSSRI等と比べて早い。18年に塩野義製薬が日台韓で、20年にはバイオジェンが米日台韓以外の市場で、開発商業化権を取得した。同じメカニズムを持つ、経口剤ではなく60時間連続点滴静注用薬であるZulresso(brexanolone)が19年に産後鬱の治療薬として米国で承認されている。

最初の第3相鬱病試験は30mgを一日一回、夜に経口投与する群の第15日のHAM-Dトータルスコアが偽薬比1.4の改善に留まり、フェールした。血中量が検出できず服用しなかった可能性のある症例を除くと1.8の差でp=0.048、ベースライン値が24以上の比較的重いサブグループでは2.3でp=0.032だったが、フェールした試験のサブグループ分析のボーダーライン・シグニフィカンスなので、感銘しない。20mg群は何れも有望な数値ではなかった。

そこで、50mgをテストするWATERFALL試験を実施したところ、成功した。第15日HAM-Dトータルスコアが14.1低下、偽薬と1.7の差があった(p=0.0141)。治療時発現有害事象率は60.1%と偽薬群の44.6%を上回ったが、それにより治験を離脱した患者は全体の3.4%と偽薬群の1.5%を少し上回っただけで、深刻有害事象発現率は両群0.7%だった。

鬱病試験は承認されている薬でもしばしばフェールするので、一本位フェールしても落ち込む必要はない。但し、一般医療に外挿するためには再現性の確認、即ち、もう一本成功させることが必要だ。Sageが直ぐに承認申請しないのは、抗鬱剤と併用するCORAL試験や1年安全性試験の結果が出るのを待つつもりなのだろう。

尚、産後鬱でも30mgの第3相が成功、50mgの第3相が進行中だが、承認申請は鬱病の承認が見込まれる23年上期まで待つ考え。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


加速承認申請が一転して認められず
(2021年10月22日発表)

米国マサチューセッツ州の新興企業、Agenus(Nasdaq:AGEN)は抗PD-1抗体AGEN2034(balstilimab)を化学療法歴のある難治/転移子宮頸癌用薬としてFDAに加速承認を求め、優先審査指定を受けていたが、申請取り下げを余儀なくされた。同じ用途で先に加速承認されていたMSDのKeytruda(pembrolizumab)が、市販後薬効確認試験の成功により正式承認されたため、FDAが取り下げるよう求めたもの。

加速承認は承認された治療薬が存在しない深刻な疾患に対処する薬を一刻も早く患者に提供するために、抗癌剤でいえばORR(客観的反応率)のような、比較的小規模な試験で計測でき、延命またはそれに準じる効果とリンクする可能性のある代理マーカーに基づいて販売承認する制度。市販後に同じまたは類似した適応・用法の薬効確認試験を行なう必要がある。

他社の製品が加速承認されていても、薬効が確立した訳ではないので、加速承認を申請することは可能だ。問題は、申請後に他の製品が正式に承認された場合だ。今回の事例では、Keytrudaの加速承認はPD-L1陽性(CPS≧1)の難治/転移子宮頸がんの二次治療が対象だが、Agenusの申請はPD-L1陽性に限定していなかった様子である。また、Keytrudaの本承認切替は一次治療化学療法併用試験の成功・適応拡大に伴うもので、二次治療試験で延命効果が確認されたわけではない。

制度の趣旨を考えれば、加速承認はダメと言われても仕方ないが、FDAが却下せず自主撤回を求めたところを見ると、グレーゾーンなのだろう。加速承認制度は市販後薬効確認試験がフェールした時の対応など、様々な点で運用が厳しくなっているが、今回の事例も重要な先例になりそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース



バース症候群用薬の承認申請はやっぱり受理されず
(2021年10月20日発表)

Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は8月に米国でMTP-13(elamipretide)をバース症候群用薬として承認申請したが、受理されなかった。第二相無作為化割付偽薬対照試験がフェールし、延長試験は対照試験ではないため、薬効のエビデンスが不十分と判定された。元々アト・リスク申請なので意外感はない。

同社はティッカーシンボルのとおり、ミトコンドリア異常が係る疾患の治療薬を開発している。MTP-13はミトコンドリアのcrdiolipinに結合しミトコンドリア膜の構造を正常化するとされ、原発性ミトコンドリア筋症などの臨床試験が行われたが、良い結果は出ていない。

バース症候群はTAZ遺伝子の変異が係るミトコンドリア障害により心不全や不整脈を合併、白血球減少により敗血症のリスクも高まる。患者数は米国で130人足らずの超希少疾患だ。

P2試験では12人を偽薬または40mgを一日一回皮注する群に割付けて12週間治療したがフェールした。オープン・レーベル延長試験も含めると6分歩行テストなどの改善が見られたため、通算データをジョンズ・ホプキンズの傾向スコアがマッチする自然歴19例と比較したところ、6分歩行テストの改善幅が80メートル対1メートル足らずでp=0.0005だった。

前向き対照的介入試験ではないためFDAは承認申請に否定的だったが、Barth Syndrome Foundationが4200人の署名を集めて同社やFDAに請願したことに背中を押されて、承認申請を断行した経緯がある。

今回、FDAは受理しなかった旨のプレスリリースを出した。異例だが、患者や支援団体の熱意に少しでも誠意を示したかったのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース



Omeros社、HSCT-TMA用薬が承認されず
(2021年10月18日発表)

米国シアトルの医薬品開発会社、Omeros(Nasdaq:OMER)は、米国でOMS721(narsoplimab)を造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症(HSCT-TMA)の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。昨年11月の承認申請以降、当初計画されていた諮問委員会上程が行われなかったり、審査期限が3ヶ月延期されたり、今月初めにはFDAから申請に欠陥があるためレーベルや市販後コミットメントの協議に進めない旨の通知があったことが公表されたり、意外な展開が続いたため、サプライズは小さい。

通知には、治療効果を推定するのが困難との指摘があった由。ディスクロージャーが悪い会社なので治験デザインや成績に不明な点が少なくないので良く分からない。主評価項目である完全反応率は臨床検査値評価と臨床評価の複合であるようだが、どちらがどう寄与したのかも不明だ。外部データを対照群に設定した模様だが出典等も不明。

リンク: 同社のプレスリリース



UCB、抗IL-17抗体の承認審査が遅延
(2021年10月16日発表)

UCBはIL-17AとIL-17Fを標的とする二重特性抗体bimekizumabを中重度プラク乾癬の治療薬として日米欧で承認申請し、欧州では8月にBimzelx名で承認されたが、FDAは審査期限の10月15日までには回答できないと通知してきた。米国連邦職員はCOVID-19感染を抑制するために渡航制限が課せられており、承認前に済ませなければならない欧州の工場の査察ができないため。

リンク: 同社のプレスリリース



CHMP、PNH治療薬などの承認を支持
(2021年10月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、夜間ヘモグロビン尿症治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Swedish Orphan Biovitrum(SOBI)のAspaveli(pegcetacoplan)は皮注用C3補体阻害剤。7月にアストラゼネカに買収されたアクテリオンの代表作であるSoliris(eculizumab)の標的であるC5より川上に位置するC3とC3bに特異的に結合する合成環状ペプチドをPEG化したもの。成人の夜間ヘモグロビン尿症(PNH)で、C5阻害剤で3ヶ月以上治療しても貧血が続く不十分応答者に用いる。

米国では5月にEmpaveli名で成人の夜間ヘモグロビン尿症全般に承認された。未治療患者を組入れた第3相が成功したのでEUでも第一選択薬として一部変更申請が行われるのではないか。

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)の開発品で、SOBIは世界共同開発権と米国外での独占販売権を持っている。

尚、SOBIは9月にAdvent International(プライベート・エクイティ)とシンガポール政府投資会社の関連会社の合弁が694億スウェーデン・クローナ(約9200億円)規模の友好的買収オファーを発表している。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのCibinqo(abrocitinib、和名サイバインコ)はJAK1阻害剤。成人の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎に経口投与する。日本では世界に先駆けて9月に承認された。米国はFDAがJAK阻害剤の心血管疾患や感染症、癌のリスクを警戒しているせいか、審査期限が延期されただけでなく超過してしまっている。

リンク: EMAのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-CilagのRybrevant(amivantamab)はEGFRとMETの二重特異性抗体医薬。非小細胞性肺癌の2-3%を占める、EGFR遺伝子のエクソン20挿入活性化変異型に条件付き承認するよう勧告した。米国では5月に加速承認されている。臨床試験ではORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が40%、メジアン反応持続期間は11ヶ月だった。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズが昨年、210億ドルで買収したImmunomedics(sacituzumab govitecan)の唯一の製品であるTrodelvy (sacituzumab govitecan)は抗TROP-2抗体とSN-38(irinotecanの活性代謝物)を結合した抗体薬物複合体。二次以上の治療歴(うち一回は進行がんの治療)を持つ成人の切除不能または転移性のトリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)に用いる。

乳がんはエストロゲン/プロゲスチン受容体を発現するタイプにはホルモン療法、her2陽性癌にはher2阻害剤が適応になるが、TNBCはいずれも高発現してないため治療手段が少ない。TROP-2は8割以上が発現し、正常細胞の発現は少ないため、標的として都合が良い。

医師が選択した化学療法薬(eribulin、capecitabine、gemcitabine、またはvinorelbine)と比較した臨床試験で、全生存期間のハザードレシオが0.51、メジアン生存期間は11.8ヶ月対6.9ヶ月だった。

リンク: EMAのプレスリリース

MSDのVaxneuvanceは15価肺炎球菌結合ワクチン。肺炎球菌による肺炎や関連侵襲性疾患の予防に用いる。18歳以上が対象。肺炎球菌ワクチンはファイザーのPrevnarが各種ワクチンの中でも大きな売上高を挙げている。もう一方の雄(不適切語?)であるPneumovaxを開発したMSDの対抗品がVaxneuvanceだ。しかしファイザーもPrevnarの20価版を開発、米国では承認されEUでも審査中なので、競争条件が良好とは言えないだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、まず、MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)とエーザイがMSDと共同開発販売しているVEGFR阻害剤Lenvima/Kisplyx(lenvatinib、和名レンビマ)の併用療法。治癒目的の手術や放射線療法が適応にならない、白金レジメン歴を持つ成人の進行・難治内膜腫と、成人の進行性腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。前者は日米で、後者は米国で、承認済み。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSkyrizi(risankizumab、和名スキリージ)を成人の活性期乾癬性関節炎に用いることも支持された。DMARDsに十分応答しない患者にMTXと併用する。抗IL-23p19抗体でプラク乾癬の治療薬として日米欧で承認されている。

ファイザーのJAK阻害剤Xeljanz(tofacitinib)を活性期強直性脊椎炎の成人で従来療法に十分応答しない患者に用いることも支持された。心血管疾患や癌のリスクを検討した市販後安全性確認試験が好ましくない結果になったことからFDAは他のJAK阻害剤を含め懸念を持っており、この適応拡大も米国では審査期限(第3四半期の初め)を超過してしまった。

多発硬化症用薬として欧米で承認されているS1PR1/5調節剤、Zeposia(ozanimod)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いることも支持された。米国では5月に承認。ブリストル マイヤーズ スクイブが19年に株式価値ベース740億ドルで買収したセルジーンが、15年に72億ドルで買収したReceptosの開発品。

一方、インサイト社がMacroGenics(Nasdaq:MGNX)からライセンスして開発した抗PD-1抗体、 Zynyz(retifanlimab)は、米国で承認されなかっただけでなく、EUでも申請撤回となった。第2相試験に基づいて、白金レジメン不応不耐の局所進行性/転移性肛門管扁平上皮腫に申請されたが、確認ORR(独立中央評価)が14%、メジアン反応持続期間が9.5ヶ月程度の効果では全生存期間又は無進行生存期間を延長できるかどうか明確ではないことや、白金レジメン不耐患者の一次治療は臨床試験の対象に含まれていなかったことなどから、CHMPは否定的に考えていた。、

リンク: EMAのプレスリリース



ACIP、肺炎球菌結合型ワクチンの勧奨範囲拡大を支持
(2021年10月20日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)はACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、新規肺炎球菌結合型ワクチン二製品の接種勧奨範囲について意見を聞いた。一つはファイザーの20価ワクチン、Prevnar 20(以下、PCV20)、もう一つはMSDの15価ワクチン、Vaxneuvance(同PCV15)で、どちらも18歳以上に承認されている。

ACIPは、全員一致で、65歳以上で肺炎球菌ワクチンを未接種または不明な人全員と、19~64歳でリスク因子(糖尿病や喘息症、免疫不全、喫煙、アルコール依存など)を持つ人に勧奨することを勧告した。PCV20を用いる場合は一回筋注、PCV15の場合は一回筋注後にPneumovax(23価莢膜ポリサッカライド肺炎球菌ワクチン、以下PPSV23)でブーストする。

ファイザーの一つ前の製品であるPrevnar 13(以下、PCV13)は乳幼児のワクチン・スケジュールに組み込まれているが、成人向けは限定的だ。代わりにPPSV23が、65歳以上に勧奨(65歳前に接種している場合は5年以上経過してから)、19~64歳は高リスクなら1~2回接種となっており、PCV13は65歳以上では危険と便益を十分検討した上ならば使ってもよい、19~64歳は特に高リスクならPPSV23の前に接種、という立ち位置になっている。

今回のACIPの勧告がCDCに採用されたら結合型ワクチンの対象人口が拡大することになる。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


加齢性黄斑変性の治療用インプラントが承認
(2021年10月22日発表)

ロシュは、FDAがSusvimo(ranibizumab)をwAMD(湿潤性加齢性黄斑変性)の治療薬として承認したと発表した。抗VEGF薬の注射に二回以上応答した患者が適応になる。米国ではジェネンテック、海外ではノバルティスがLucentisとして販売している抗VEGF薬のインプラント版で、目に留置すると、6ヶ月間に亘り活性成分を放出する。6ヶ月毎にリフィルする。必要ならインプラント内にLucentisを注射することもできる。他社の抗VEGF薬の月一回硝子体内注射と比較した試験では、効果が非劣性だった。眼内炎の発生率は2%と通常の抗VEGF薬より高い。

欧州でも承認審査中。

リンク: ロシュのプレスリリース



禁煙補助成分が新規作用機序のドライアイ治療薬として承認
(2021年10月18日発表)

米国ニュージャージー州の新興製薬会社Oyster Point Pharma(Nasdaq:OYST)は、FDAがTyrvaya(varenicline)をドライアイ治療薬として承認したと発表した。二つの点で画期的。第一に、点眼薬ではなく点鼻スプレーであること。第二に、アルファ4ベータ2選択的ニコチン受容体部分作動という、新規作用機序を持っていることだ。

vareniclineはファイザーの禁煙補助薬、Chantix(和名チャンピックス)の活性成分で、Oyster社は米国で眼科あるいは点鼻用に開発する特許実施権を取得した。鼻腔の三叉神経のコリン受容体を刺激して、三叉神経・副交感神経経路を活性化、涙液層を増強する。

軽中重度患者を組入れて一日二回点鼻した臨床試験では、奏効率(シルマースコアが4週間で10mm以上改善)が一本は52%(偽薬群は14%)、もう一本は47%(同28%)だった。これらの試験では0.06mgまでテストしたが、奏効率が大きくは異ならなかったせいか、0.03mg/0.05mLだけが承認された。

リンク: 同社のプレスリリース



テセントリクの肺癌アジュバント療法が承認
(2021年10月15日発表)

ロシュは抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1陽性の早期非小細胞性肺癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。ステージIIからIIIAの癌を摘出し白金ベース化学療法による術後アジュバント療法を行った後に、1200mgを3週毎に最大16回、点滴静注する。抗PD-L1/PD-1抗体のこの適応症の承認は初。

第3相IMpower010試験では、主評価項目であるPD-L1陽性サブグループのDFS(無病生存期間、担当医評価)のハザードレシオが偽薬比0.66だった。メジアン期間は偽薬群は35.3ヶ月、試験薬群は未達。


リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

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