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米国はワクチンの3回目接種を9月から開始
(2021年8月17日報道)
米国連邦政府は、FDAの承認とACIP(CDC<米国疾病管理予防センター>のワクチン接種諮問委員会)の勧奨を条件に、mRNAワクチンの3回目接種を9月20日の週から開始すると発表した。2回目から8ヶ月経った時点で接種する。COVID-19ワクチンの接種頻度は、1~2年に一回で足りることが期待されていたが、季節性インフルエンザ・ワクチンより短くなった。対象年齢はFDAやACIPの判断に委ねる考え。
米国ではジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンの一回接種用のアデノウイルス26型ベクター・ワクチンもEUA(非常時使用認可)を受けているが、ブースター・ショットの有効性が未確認であることや、接種が始まってから5ヶ月しか経っていないことから、9月時点ではBioNTech/ファイザーとModernaのmRNAワクチンを接種した人だけが対象になる。日本ではブースター・ショットを有料化する意見も出ているようだが、米国は無料を続ける。
WHOは、ワクチンの供給が需要に追い付かない現状を踏まえて、低中所得国で接種が進むまで3回目接種を自粛するよう提言しているが、ジョー・バイデン大統領は、アメリカ人を守る責務があることや、外国に総計で6億回分のワクチンを寄付する計画を遂行していることを指摘した。
ワクチンは先進国が『合理的な』価格で大量に購入するからこそ、メーカーが開発投資を回収して低所得国には安価に提供することが可能になる。COVID-19ワクチンの場合、アストラゼネカ/オックスフォード大学とジョンソン・エンド・ジョンソンは利益ゼロで販売しているが、ファイザーは21年の売上高を335億ドル、売上高税前利益率は20%台後半と予想しており、大きな収益貢献をしている。米国政府から様々な開発補助金を得たModernaも21年売上高200億ドルを予想。両社はパテント・クリフならぬワクチン・クリフを懸念しており、低中所得国がmRNAワクチンを今後も安価に取得したければ、先進国にたくさん接種してもらったほうが良いはずだ。
エビデンス
さて、CDC(疾病管理予防センター)などの高官は、記者会見で、3回目接種のエビデンスとして、複数の疫学試験やin vitro免疫原性試験を挙げた。
これらの疫学試験は、ワクチンの効果が経時的に低下することを示唆した。免疫減衰は遅かれ早かれ起こりうることだが、感染力の強いデルタ株の流行も影響したと考えられている。但し、入院するほど重い感染を防ぐ効果は、少なくともこれまでのところは、それほど減衰しない可能性が示唆されている。
一つは、第1010回で取り上げた、BioNTech/ファイザーのワクチンの臨床試験の半年追跡データだ。成人試験と青少年試験のプール分析で、二回目接種の7日後から2ヶ月後の前日までの期間はワクチン効率が96.2%だったが、2ヶ月後から4ヶ月後の前日までの期間は90.1%、4ヶ月後以降は83.7%(74.7-89.9)と、漸減した。
他の三本の疫学研究は、MMWR(疫学週報)に掲載される論文が先行公開された。一番大きな減衰を示唆したのが、Nanduriらが行った、介護施設がCDCに報告しているデータの分析だ。mRNAワクチン二製品の効率はデルタ株が主流になる前の期間(3月1日から5月9日)が74.7%だったのに対して、5月10日から6月2日の中間期間は67.5%、デルタ株が主流になった期間(6月21日から8月1日)は53.1%だった。
介護施設入居者は免疫力が低下していても不思議はなく、その分、効果の減衰も大きいのかもしれない。尚、この研究は未症候性感染もカウントしていることに留意すべき。一般人口にとっては症状がなかったり軽いままだったりする感染はそれほど重要ではないかもしれない。
Rosenbergらは、NYの感染者を分析した。ヤンセンを含む3種類のワクチンの効率は5月3日の週の91.7%から7月12日の週は78.2%、翌週も79.8%と、低下した。一方、COVID-19感染による入院を防ぐワクチン効率は各95.3%、94.8%、95.3%と大きな変化はなかった。
Tenfordeらは18州21病院に入院した患者を分析した。COVID-19感染による入院を防ぐmRNAワクチンのワクチン効率は86%、免疫不全状態の人を除くと90%だった(案外差が小さい)。二回目接種後2-12週間は86%、13-24週間は84%と、ここでも、入院予防効果はあまり減衰していない。但し、感染者の5割がアルファ株でデルタ株は16%に過ぎないことに留意すべき。
論文は未公開のようだが、医療従事者等4000人超のデータ分析でも、症候性・未症候性感染のワクチン効率がデルタ前の92%からデルタ後は64%に低下した。
(後日加筆:MMWRに掲載される論文が8月24日付で先行公開された。リンク: 医療従事者らの疫学研究(Fowlkesら))
免疫原性試験は、デルタ株などを中和するためには欧米の初期株であるD614G変異株より高い抗体価が必要であることを示している。mRNAワクチンのブースター・ショット試験では抗体価が10倍に上昇した。Modernaのワクチンの臨床試験データを分析すると抗体価と感染予防効果の相関性が見られるため、3度目接種で抗体価を挙げれば感染予防効果の減衰を避けることが期待できる。
なぜ8ヶ月?
記者会見では、3回目を8ヶ月後にした根拠について質問が出たが、『ジャッジメント』とのことだ。エビデンスは6ヶ月過ぎから減衰することを示しているが、最も重要な、感染による入院や死亡を防ぐ効果はそれほど変わっていない。とは言え、感染者が増えれば重症者も増えると考えるべきであり、政府の対応が遅れると被害が広がってしまうので、イスラエルなどの状況も参考に、ウイルスに先手を打つことを決めた。
FDAやACIPを軽視?
薬やワクチンの用途用法を決めるのはFDAであり、ワクチンをどのような人たちに接種勧奨するか助言するのはACIPだ。3回目接種はファイザーが追加承認申請したばかりで現在は未だ、内容に不備不足がないか確認する段階だろう。Modernaは未だ申請すらしていない。ACIPは前回の会合でデータの紹介があった程度である。法定手続きが完了していない段階で開始日や接種間隔にまで言及するのは越権行為にならないか?
少なくとも、関連組織のヘッドは今回の施策に同意している。CDC、FDA、NIH(米国立衛生研究所)、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)などのトップが共同声明を発し、9月20日の週から8ヶ月経った接種者向けに開始する予定であることを確認したのだ。勿論、FDAの審査担当者やACIPの委員が反対するなら受け入れるだろうし、対象年齢や、場合によっては2回目からの間隔についても、変更されるかもしれない。
4回目はあるか?
質問が出なかったのは、4回目もあるのか、という点だ。医療ウェブサイトに寄せられたエキスパート・オピニオンによると、接種間隔を開けた方が免疫が長持ちする可能性があり、SARS-CoV-2は季節性インフルエンザほど頻繁に変異しないので、効果が何年も持つ可能性があるようだ。私自身は未だ毎年接種シナリオを捨てていないが、only time will tell。
リンク: ホワイト・ハウスCOVID-19対応チームなどの記者会見筆記録
リンク: 同、プレゼン用スライド(pdfファイル)
リンク: 米保険福祉省と傘下関連組織首脳の共同声明
リンク: BNT162b2の臨床試験の継続追跡データ(C4591001 Clinical Trial Group、medRxiv収載の査読前原稿)
リンク: 介護施設入居者の疫学研究(Nanduriら、MMWR先行公開)
リンク: NYにおける入院リスク疫学研究(Rosenbergら、同上)
リンク: 入院リスク疫学研究(Tenfordeら、同上)
FDA、免疫不全にワクチン三回接種を承認
(2021年8月12日発表)
FDAはBioNTech/ファーザーとModernaのmRNAワクチンのEUA(非常時使用認可)を改訂し、臓器移植レシピエントなどの免疫不全者に三回接種することを承認した。臨床試験で中和抗体力価が二回接種後より上昇したため。三回目は二回接種完了の28日以上後に行う。CDC(米国疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は全員一致で該当者に三回接種を勧奨した。
臓器移植を受けた人は拒絶反応を防ぐため強力な免疫抑制剤を使用しているので、ワクチンを接種しても十分な免疫を誘導できない可能性がある。接種完了後に感染する、ブレークスルー感染の4-5割は免疫不全者だったという研究も出ている。また、SARS-CoV-2に当てはまるかどうかは定かでないが、免疫力の弱い人ではウイルスの抵抗性変異が起きやすい、という指摘もある。
このため、もう一回接種する小規模な試験が複数、実施され、中和抗体価が更に上昇することを明らかにした。現状に対する問題提起と、対策の有効性の確認という両輪が揃ったため、今回の承認/勧奨に至った。
ACIPで用いられたCDC側のプレゼンスライドによると、以下の人たちが対象になる模様。米国の成人の2~3%が該当する模様だ。
・癌(血液癌を含む)の治療中/最近の治療歴
・臓器移植後または最近の造血幹細胞移植
・重度原発性免疫不全
・進行/未治療のHIV感染症
・免疫抑制剤使用(高量コルチコステロイド、アルキル化剤、代謝拮抗剤、TNFブロッカー、その他の免疫抑制的/調停的バイオ薬など)
・無脾症や慢性腎疾患に伴う免疫不全
ワクチン接種が早かったイスラエルや米国では接種完了者の感染も増加している。米国の場合、8月2日時点で1.6億人以上が接種を完了しているが、ブレークスルー感染で入院した人が7101人、死亡例は1507人とのことだ。これらの74%以上は65歳以上とのことなので、高齢者は特に、ワクチン接種後も油断はできない。
イスラエルは50代以上に三回目の接種を勧奨、既に対象人口の半分が終えたようだ。フランス、ドイツでも免疫不全に三回目の接種が始まった。英国も9月に開始する予定。
CDCは、免疫不全者は3回接種後もマスクを着用し、ディスタンス(米国は6フィート≒1.8m)を取り、医師が認めた場合を除いて人込みや空調の悪い室内空間を避けるよう勧奨する考えのようだ。3回接種後の中和抗体価が免疫不全でない人の二回接種後より低い症例が少なくないことを警戒したのかもしれない。
リンク: FDAのプレスリリース
Rigel、Syk阻害剤のEUA認められず
(2021年8月13日発表)
Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)はfostamatinibをCOVID-19治療薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請したが、認められなかった。NIH(米国立衛生研究所)と傘下のNHLBI(米国立心肺血液研究所)が主導した第2相試験をエビデンスとしたのだが、おそらく、症例数が59人と多くないことや、主評価項目が深刻有害事象で、対照群より少なかったが有意な差はなく、副次的評価項目である死亡例もゼロ対3人と、少なかったが有意ではなかったことから、薬効の挙証が不十分と見なされたのだろう。社内外で第3相試験が進行中なので、成功なら再申請することになるのではないか。
経口Syk(spleen tyrosine kinase)阻害剤で、米国ではTavalisse名で、欧州ではTavlesse名で、成人の慢性免疫性血小板減少症用薬として承認されている。日本は18年にキッセイ薬品が開発販売権を取得。
リンク: 同社のプレスリリース
【新薬開発】
ETA/AT1受容体拮抗剤のIgA腎症試験が成功
(2021年8月16日発表)
Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、sparsentanの第3相IgA腎症試験が成功したと発表した。22年上期に米国で加速承認を申請する考え。EUに条件付き承認を申請することも検討中。
Travereは米国カリフォルニア州の新興企業。特許が切れたが一社しか供給していない薬の権利を取得して、思いっきり値上げして儲けるビジネスモデルで悪名をなしたMartin ShkreliによりRetrophinとして設立されたが、逮捕・CEO辞任を経て独立、昨年11月に社名変更した。sparsentanはBMSがBMS-346567として臨床入りさせたエンドテリンA受容体とアンジオテンシンIIタイプ1受容体のデュアル・アンタゴニストで、06年にPharmacopeiaにアウトライセンスした。TravereはPharmacopeiaを買収したLigand Pharmaceuticalsから12年にプラットフォーム全体の権利を取得した。
IgA腎症は腎臓の糸球体に免疫グロブリンAが蓄積、腎機能低下や腎障害、高血圧症などをもたらす。第3相試験は、ACE阻害剤やARBで治療しても蛋白尿が続く患者404人を400mgを一日一回、経口投与する群とARBのirbesartanを300mg、一日一回経口投与する群に無作為化割付した。主評価項目は最初の280人における、第36週時点の尿蛋白/クレアチニン比の低下率。各群49.8%と15.1%となり、p<0.0001だった。
副次的評価項目である全集団の2年後のeGFRは23年下期に結果が判明する見込み。今回の解析では好ましい内容であったようだ。
同剤は原発性FSGS(巣状分節状糸球体硬化症)の第3相も進行中。今回と同様に最初の190人の中間解析で36週蛋白尿部分寛解率がirbesartan群を有意に上回ったが、主評価項目である2年eGFR改善を確認してから承認申請する予定。
リンク: 同社のプレスリリース
中国発の抗PD-1抗体、肺癌一次治療試験が成功
(2021年8月18日発表)
中国のJunshi Biosciences(上海君実生物医薬)は、Tuoyi(toripalimab)の第3相進行非小細胞性肺癌一次治療試験が中間解析で成功したと発表した。中国の医療施設で扁平上皮腫220人と非扁平上皮種245人を組入れて化学療法に試験薬を追加投与する群と偽薬追加群に2:1割付したところ、主評価項目のPFS(無進行生存期間、担当医評価)のハザードレシオが0.58(扁平上皮腫0.55、非扁平上皮腫0.59)、メジアンは各5.6ヶ月と8.3ヶ月だった。副次的評価項目の独立評価PFSも同様な結果だったようだ。全生存期間は未成熟かつ偽薬群の患者は進行後に試験薬にクロスオーバーすることが認められているが、ハザードレシオ0.81と好ましい方向を向いている。
抗PD-1抗体で、中国ては18年に悪性黒色腫の二次治療に条件付き承認され、イーライリリーと共同販売中。上咽頭癌化学療法併用一次治療に続いて、今回の用途でも適応拡大申請する考え。米国のFDAは中国だけの試験に基づいて抗癌剤の承認を取得することは可能と他社の照会に回答した由であり、米国でも初承認申請する予定。北米はCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)がライセンスを取得している。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
MSDの難治慢性咳嗽治療薬は審査期限が延期
(2021年8月9日発表)
MSDは、21年第2四半期の四半期報告書(フォーム10-Q)で、FDAがMK-7264(gefapixant)の承認審査期限を22年3月21日まで3ヶ月延期したことを明らかにした。理由は不明。選択的P2X3受容体アンタゴニストで、難治性または説明不能な成人の慢性咳嗽の治療薬として承認申請していた。日本でも承認申請中。
第3相試験は二本実施され、高用量の45mgを一日二回、経口投与した群は二本とも咳の回数(24時間録音計で測定)がベースライン平均の時間当たり18回から7回に減少、偽薬比有意な差があった。15mgは二本ともフェールした。難点である味覚関連有害事象の発生率は45mg群が6割前後、15mg群は1~2割、偽薬群は1割以下だった。45mg群は2割前後が有害事象により治験を離脱した。
リンク: MSDの10-Q(21年2Q、pdfファイル)
イプセン、FOP治療薬の承認申請を撤回
(2021年8月13日発表)
イプセンは、palovaroteneをFOP(進行性骨化性線維異形成症)治療薬としてFDAに承認申請していたが、撤回したことを明らかにした。臨床試験の追加的分析などが求められたが、現行の審査サイクル内には完了できないため。米国はEUより規制がフレキシブルで、途中でデータを追加提出したり、一旦、審査完了通知を出してもらって必要なデータを後日、提出することも可能なので、申請撤回は珍しい。
FOPは本来とは異なった場所で骨が形成される。palovaroteneはRAR(レチノイン酸受容体)-ガンマ・アゴニストで、ロシュがR667として肺気腫などに開発したが断念。13年にインライセンスしたClementia Pharmaceuticalsをイプセンが19年に買収したが、14歳未満の試験で成長板早期閉鎖のリスクが表面化、FDAが臨床試験の部分的停止を命じた。20年にIDMC(独立データ監視委員会)が第3相試験の中間解析で無益性を認定したこともあり、のれんの減損を余儀なくされたが、解析計画が適切でなかった可能性もあるようで、承認申請を断行した。
希少疾患ということもありNHS(英国国民医療制度)の自然歴試験のデータと比較するプロトコルであったため、細部にたくさんの悪魔が潜んでいても不思議はない。
リンク: 同社のプレスリリース
Sesen Bioの抗体薬物複合体は承認されず
(2021年8月13日発表)
Sesen Bio(Nasdaq:SESN)はoportuzumab monatox-qqrsをNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)用薬として欧米で承認申請したが、米国では審査完了通知を受領した。追加的な臨床/解析データの提出と、承認前検査で指摘された工場問題の対処を求められた模様だ。
膀胱癌の多くで発現する接着分子、EpCAMに結合する抗体の短鎖可変領域フラグメントと細胞毒であるPseudomonas Exotoxin Aをフレキシブル・リンカーで結合した、抗体薬物複合体。ハイ・グレードNMIBCに局所投与した単群試験のBCG不応コフォートで、完全反応率(n=82、3ヶ月時点)が39%だった。他のコフォートを含む133例における深刻有害事象発生率は14%だった。
7月14日付で、late cycle review meetingが無事終わり、工場問題以外は特に問題がなかったと発表していたので、驚かされる。もっと驚かされるのがSTATという生命科学ニュースサイトの報道だ。購読していないので詳細は把握していないが、臨床試験で数多くの不適切な行為や副作用隠しがあった模様だ。
リンク: 同社のプレスリリース
FDAはエベレンゾを承認せず
(2021年8月11日発表)
Fibrogen(Nasdaq:FGEN)はroxadustatを慢性腎不全の貧血症治療薬として開発、日本で19年にエベレンゾ錠として承認を取得、EUでも承認されたばかりだが、米国は審査完了通知を受領した。追加試験を求められたようだ。7月に開催された心臓腎臓薬諮問委員会では、透析依存患者に関しては14人の委員中12人が、非依存患者は13人が、承認に反対したので、意外感はない。
HIF2-PH(低酸素誘導因子2-プロリン水酸化酵素)阻害剤。エポエチンの代替品として複数の類薬が開発・承認されているが、臨床試験で重篤な血栓塞栓症が増加する懸念が浮上した。欧米の試験では痙攣発作の懸念も見られた。
日本やEMEA(欧州中東アフリカ)ではアステラス製薬と、中国や米国などではアストラゼネカと、共同開発販売している。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
フォン・ヒッペル・リンドウ病薬が承認
(2021年8月13日発表)
FDAは、MSDのWelireg(belzutifan)をVHL(フォン・ヒッペル・リンドウ)病関連腫瘍に用いることを承認した。成人の手術不要な腎細胞腫、中枢神経系血管芽細胞腫、膵神経内分泌腫瘍が適応になる。
VHL病は米国で1万人、世界で20万人程度の希少疾患で、腎細胞腫などを合併することが多い。サプレッサー遺伝子であるVHLが不活化し、VEGFなどの腫瘍関連遺伝子の転写因子として機能するHIF(低酸素誘導因子)-2アルファが安定化、蓄積することが原因と推測されている。
Weliregは経口HIF-2アルファ阻害薬。19年にPeloton Therapeuticsを10.5億ドル及び目標達成報奨金11.5億ドルで買収して入手した。
腎細胞腫でVHL生殖細胞系変異を持つ61人に投与した第2相試験では、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が49%だった。深刻有害事象は15%で発生し、多いのは重度貧血や重度酸欠、アナフィラキシー、網膜剥離など。HIFの分解を妨げる、正反対の機能を持つ薬は貧血症治療薬として承認されているので、阻害薬で貧血酸欠が起きるのはやむを得ない。胚胎毒性が枠付警告されている。
適応になるとは思わなかったが、中枢神経系血管芽細胞腫(24人)ではORRが63%、膵神経内分泌腫瘍(12人)では83%と、症例数は少ないが数値は腎細胞腫より良い。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース
ダニ媒介脳炎ワクチンが米国でも承認
(2021年8月13日発表)
ファイザーは、TICOVACがFDAに承認されたと発表した。マダニが媒介するフラビウイルス属ウイルスによるダニ媒介脳炎を予防する不活化全ウイルス・ワクチンで、1歳以上が対象。欧州やアジアの一部における風土病で、渡航者や駐在者が接種対象になる。
1970年代以降、欧州アジアなどで1.7億回以上の接種実績を持つが、20年の売上実績は2700万ドルと小さい。米国承認による上乗せも小さいだろし、今更という感じだが、報道によると、米軍が肩を押したようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
ジャディアンスも心不全に承認
(2021年8月18日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を慢性心不全の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。駆出率が低下した症候性患者が適応になる。EUでは7月に承認、日本でも承認申請中。類薬ではアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)が同じ用途で昨年、日米欧で承認されている。
アウトカム試験で心血管死・心不全入院のハザードレシオが偽薬比0.75、二型糖尿病を併発する患者では0.72、それ以外でも0.78だった。メジアン16ヶ月間の追跡で発生率は19.4%と偽薬群の24.7%を大きく下回った。
駆出率を保持している慢性心不全を組入れたEMPEROR-Preserved試験も成功、8月27日にESC(欧州心臓学会)で発表される予定。良好なら症候性慢性心不全全般に用途が広がる。
リンク: イーライリリーのプレスリリース
GSK、抗PD-1抗体が適応拡大
(2021年8月17日発表)
グラクソ・スミスクラインは2014年にノバルティスとアセット・スワップを行い、ワクチン事業を譲り受け腫瘍学事業を譲渡する『選択と集中』を断行した。その後、抗癌剤市場が著しく拡大し大手製薬会社にとって無視できなくなったため、新しいCEOの下、Tesaro社の買収などを通じて再構築を進めている。
その一つである抗PD-1抗体、Jemperli(dostarlimab-gxly)は今年4月に米国で、dMMR(ミスマッチ修復不全)陽性で白金薬レジメンによる治療歴を持つ難治/進行内膜腫に加速承認されたが、今回、dMMR陽性の難治/進行固形癌にも加速承認された。臨床試験では209人中41.6%がORRとなり、完全反応率は9.1%だった。メジアン反応持続期間は34.7ヶ月。
レーベルには二つの適応症が記載されているが、上記209人中103人は内膜腫なのでオーバーラップしている。残りのうち69人は結腸直腸癌、12人は小腸がん、8人は胃癌。残りは症例数がごく少数か、ORRがゼロだった。
dMMRは細胞分裂の過程で発生する複製ミスが十分に修復されていない。本来と異なる蛋白ができると免疫の注意を惹くので、免疫強化療法の応答予測因子として使う余地があり、既に、MSDのKeytruda(pembrolizumab)が同様な適応を得ている。ORRも大差ない。
ロシュ・グループのVENTANA MMR RxDx Panelがコンパニオン診断薬として承認された。
リンク: GSKのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース(8/18付)
キイトルーダとレンビマの併用も腎細胞腫一次治療に承認
(2021年8月11日発表)
FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とエーザイがMSDと共同開発販売しているLenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を進行転移腎細胞腫の一次治療に併用する適応拡大を承認した。Lenvimaと同じVEGFR阻害剤であるsunitinib単剤と比較した第3相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が23.9ヶ月対9.2ヶ月と上回り、ハザードレシオは0.39。メジアン生存期間は両群とも未達だがハザードレシオは0.66で、どちらも統計的に有意だった。G5(致死的)治療関連有害事象の発生率は1.1%対0.3%、G3以上は71.6%対58.8%だった。日本でも一変申請中。
KeytrudaはファイザーのInlyta(axitinib)との併用も承認されており、第3相試験成績はほぼ同程度。Inlytaは25年にGE化する見込み。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース
オキシベートが特発性過眠症に適応拡大
(2021年8月12日発表)
FDAはJazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のXywav(sodium oxybatesにカルシウムやマグネシウム、カリウムを添加した経口液)を特発性過眠症の治療に用いる適応拡大を承認した。
前身であるXyrem(sodium oxybates)よりナトリウム量が少なく、高血圧症や心不全、腎機能低下の患者にも使いやすい。昨年7月に、ナルコレプシーによる日中の眠気や脱力発作を防ぐ薬として承認された。
特発性過眠症は睡眠が足りているのに日中、眠くなる。ナルコレプシーと異なり脱力発作などのREM関連症状が見られず、仮眠しても解消しない。希少疾患で、治療薬の承認は初。
米国で麻薬指定されている覚醒剤で、中枢神経抑圧や乱用、誤用のリスクが枠付警告されている。麻薬取締局の規制はスケジュールIIIなのでそれほどでもないが、oxybatesの別名であるgamma-hydroxybutyrate(GHB)は犯罪に使われたこともあり、最も厳しいスケジュールI指定されている。
XyremはOrpharn Medicalが開発、02年にナルコレプシー治療薬として米国で承認された。Jazzは05年にOrphan社を1.2億ドルで買収、Xyremの販促と値上げ、そして、FDAにオフレーベル販促を摘発されて以降はオンレーベル化に注力し、20年の売上高17億ドル超の大型薬に育てた。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同社のプレスリリース
今週は以上です。
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