2021年8月7日

第1011回

【ニュース・ヘッドライン】

  • チクングニア熱ワクチンの承認申請用試験が成功 
  • Libtayoの肺癌一次治療化学療法併用試験が成功 
  • ファイザーのJAK阻害剤も円形脱毛症試験が成功 
  • セルビエ、IDH1阻害剤のAML一次治療化学療法併用試験が成功 
  • Dicerna社のRNAi、PH1には有効も肝心のPH2は? 
  • キイトルーダをステージII黒色腫の術後アジュバントに申請 
  • Marinus、CDKL5欠乏障害用薬を承認申請 
  • テセントリクの早期非小細胞性肺癌術後補助療法を承認申請 
  • 韓美のG-CSF、米国では承認されず 
  • イストダックスのPTCL適応、米国で撤回へ 
  • ポンペ病の新らしい酵素補充療法が承認 
  • アストラゼネカ、SLE治療薬が承認 


【新薬開発】


チクングニア熱ワクチンの承認申請用試験が成功
(2021年8月5日発表)

日本脳炎ワクチンIxiaroの開発で知られるフランスのワクチン会社、Valneva(Euronext Paris:VLA)は、VLA1553の第3相免疫原性試験が成功したと発表した。承認申請に向かう見込み。

ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介するチクングニアウイルスによる感染症で、60年前にアフリカで発見され、各地に広がった。日本でも少数の感染例があるが、今のところは渡航時に感染したものと推定されている。VLA1553はゲノムの一部を除去して弱毒化した生ワクチン。米国でファースト・トラック指定とブレークスルー・セラピー指定、EUでもPRIME指定を受けている。

第3相は米国の施設で18歳以上の4115人を組入れ、一回投与後第28日の免疫原性や安全性を検討した。薬効解析対象268人のうち98.5%(95%信頼区間96.2-99.6)が感染予防に必要な中和抗体価を獲得し、FDAが加速承認申請を許容する水準として事前に示唆した70%を上回った。高齢者にもヤングアダルトと同程度の効果が見られた。重度有害事象の発生率は1.6%で、発熱など。

アフリカや南アジアの風土病は欧米の国民にとってはそれほど重要ではないが、油断しているとSARSのように世界的大流行になりかねない。軍事活動や外交、経済活動、娯楽目的で渡航して感染するリスクもある。問題は、価格を高く設定すると購買力に合わず普及しない、かといって、安くすると開発投資を回収できないことだ。

リンク: 同社のプレスリリース



Libtayoの肺癌一次治療化学療法併用試験が成功
(2021年8月5日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)の EMPOWER-Lung 3試験が成功したと発表した。局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療として白金薬ベースの化学療法レジメンに追加する効能を検討した試験で、独立データ監視委員会が中間解析で成功認定した。全生存期間のハザードレシオは0.71、p=0.014、メジアン値は22ヶ月と偽薬追加群の13ヶ月を上回った。欧米で承認申請する予定。

IgG4型の抗PD-1抗体で、当該疾患ではPD-L1高度発現(TPS≧50%)の場合に単剤投与することが欧米で承認されている。化学療法併用が承認されれば、先輩格であるMSDのKeytruda(pembrolizumab)と同じ土俵に立てる。

このセッティングにおけるKeytrudaのデータは抗PD-1/PD-L1抗体の中でずば抜けており、非扁平上皮非小細胞性肺癌試験では全生存期間のハザードレシオが0.49、扁平上皮非小細胞性肺癌試験では中間解析で0.64、最終解析で0.71となっている。患者数で加重平均すると0.6を下回るのではないかと思われるので、Libtayoが急速に浸透するのは難しそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース



ファイザーのJAK阻害剤も円形脱毛症試験が成功
(2021年8月4日発表)

ファイザーは、PF-06651600(ritlecitinib)の後期第2相/第3相重度円形脱毛症試験が成功したことを明らかにした。長期安全性を確認し次第、承認申請に向かうのではないか。命に係わる病気ではないので安全性を十分に検討すべきだろう。

JAK3とTEC(肝細胞腫発現チロシン・キナーゼ)ファミリーの高度選択的阻害剤で一日一回、経口投与する。本試験は、12歳以上の小児・成人で、50%以上の頭部毛髪を喪失した病歴10年以内の円形脱毛症患者718人を7群(偽薬、30mg、50mgの負荷用量(最初の4週間は偽薬/200mg)ありとなしで全6群と10mgの負荷用量なし群)に無作為化割付して30mgと50mgの効果や安全性を偽薬と比較した。

主評価項目は24週後にSALT(Severity of Alopecia Tool)スコアが20以下になった患者の比率(SALT20達成率)。SALTは頭頂部、後頭部、右側、左側の夫々について毛髪で覆われていない部分の比率(%)を評価し、加重加算するもので、組入れ条件により、ベースライン値は50以上である。データは今後、発表されるが、30mgも50mgも偽薬を有意に上回った由。

前期第2相試験では、142人(平均36歳、66%が女性、SALTスコアは平均88)を偽薬群と試験薬群(最初の4週間は200mg、その後の20週間は50mgを一日一回投与)に無作為化割付してSALTスコアの変化を比較したところ、偽薬比33改善した。37%の患者ではSALTスコアが半減した。

先に第3相試験が成功したインサイト/イーライリリーのJAK1/2阻害剤、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)の第3相重度円形脱毛症試験二本では、偽薬/2mg/4mgの各群のSALT20達成率が一本は3%/17%/33%、もう一本は5%/22%/35%となり、何れも偽薬比有意に上回った。両社は今年下期に適応拡大申請する予定。

Olumiantの試験は日本の施設も参加したので、わが国でも実用化される可能性がありそうだ。尚、過去の複数のJAK阻害剤の試験では、病歴の長い患者は応答しにくい傾向が見られた。ritlecitinibの試験が病歴10年以内を対象にしたのもそのせいだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース



セルビエ、IDH1阻害剤のAML一次治療化学療法併用試験が成功
(2021年8月2日発表)

セルビエは、Tibsovo(ivosidenib)の第3相AGILE試験が成功したと発表した。データは未発表。適応拡大申請に向かうだろう。

TibsovoはIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤。Agios Pharmaceuticalsから18億ドル(及びマイルストーンや売上ロイヤルティ)で取得した腫瘍学事業の柱だ。18年に米国でIDH1変異を持つ(6~10%が該当)再発難治AML(急性骨髄性リンパ腫)に、19年には75歳以上または強化導入療法に適さないIDH1変異陽性未治療AMLに、完全反応率データに基づき承認された。

今回はIDH1変異陽性未治療AMLにazacitidineと併用する効果をazacitidineだけと比較した。主評価項目のEFS(無イベント生存期間)だけでなく全生存期間や完全反応率の解析も成功。独立データ監視委員会の勧奨に基づきこれ以上の組入れは中止した。

TibsovoはEUでも承認申請したが薬効確認不十分と判定され、撤回した。今回、延命に準じる効果が確立したのならば、再申請できのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


【承認申請】


Dicerna社のRNAi、PH1には有効も肝心のPH2は?
(2021年8月5日発表)

Dicerna Pharmaceuticals(Nasdaq:DRNA)はnedosiranの承認申請用原発性高シュウ酸尿症(PH)試験が成功したと発表した。6歳以上の患者35人を米日欧の施設で組入れて月一回、皮注する効果を偽薬と比較したところ、24時間尿中シュウ酸(第90日から180日までの平均曲線下面積)が偽薬比57.5%減少した(p<0.0001)。副次的評価項目である奏効率(正常あるいはそれに近い水準まで減少)も50%対ゼロで有意に上回った。有害事象は注射箇所反応など。試験薬群では23人中一人が有害事象により治験を離脱した。

PHは遺伝子変異によりシュウ酸が過剰に産生、蓄積し、尿路結石や腎障害を招く。原因遺伝子により1型(米国の推定患者数2700人)、2型(1700人)、3型(4100人)に分類されている。昨年、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のRNA介入薬、Oxlumo(lumasiran)が欧米でPH1に承認された。

nedosiranもRNA介入薬だが、グリオキシル酸をシュウ酸に代謝するLDH(lactate dehydrogenase)を標的としており、三種類の型すべてに有効であることが期待されている。

ところが、この試験ではPH1で偽薬比59%減少したのに対して、PH2は、試験薬群5人では微増したのに対し偽薬群1人は40%以上減少と、組入れが少ないことを考慮しても異常な結果になった。

これがノイズであろうがなかろうが、今年第4四半期に予定されている承認申請はPH1だけになりそうだ。Oxlumoと完全にバッティングすることになる。但し、PH3の試験結果が10月頃に判明する見込みなので、対象が広がる可能性は残っている。

リンク: 同社のプレスリリース



キイトルーダをステージII黒色腫の術後アジュバントに申請
(2021年8月5日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をステージIIの黒色腫を完全切除した再発リスクの高い患者の術後補助療法に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月4日。

根拠となるKeyNote-716試験が成功したことも発表した。RFS(無再発生存期間)が有意に増加したとのことで、データは今後、発表する。

Keytrudaはリンパ節転移のある黒色腫の完全切除後アジュバント療法として19年に米国で承認されている。ステージIIIの患者を組入れたKeyNote-054試験ではRFSのハザードレシオが0.57となったが、G3-5の治療関連有害事象発生率も14.7%と偽薬群の3.4%を上回った。尚、ステージIIはリンパ節転移がない。

ライバルのOpdivo(nivolumab)もステージIII黒色腫の完全切除後アジュバントに欧米で承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース



Marinus、CDKL5欠乏障害用薬を承認申請
(2021年8月3日発表)

米国ペンシルバニア州のMarinus Pharmaceuticals(Nasdaq:MRNS)は、ganaxoloneをCDKL5(サイクリン依存キナーゼ様5)欠乏障害用薬としてFDAに承認申請した。中枢神経選択的なGABA Aポジティブ・アロステリック・モジュレーターで、2~21歳の101人を組入れた第3相試験では、1800mgを一日三回に分けて経口投与した群の28日主要運動性癲癇頻度がベースライン値と比べてメジアン30.7%減少し、偽薬群の6.9%減と有意な差があった(p=0.0036)。副次的評価項目は何れもトレンドに留まった。

CDKL5欠乏障害は脳が正常に機能する上で必須のCDKL5遺伝子に変異がある。X染色体上の遺伝子なので男児は誕生できず、患者は専ら女性。罹患率は数万出生に一人と推測されている。

同社は、欧州における販売権をフィンランドのOrionにライセンスしたことも発表した。

リンク: 同社のプレスリリース



テセントリクの早期非小細胞性肺癌術後補助療法を承認申請
(2021年8月3日発表)

ロシュは抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を早期非小細胞性肺癌の術後補助療法に用いる適応拡大を米国で申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月1日。

IMpower010試験に基づくもので、ステージII・IIIAでPD-L1陽性のサブグループでは、無病生存期間(治療医評価)のハザードレシオが0.66(95%信頼区間0.50~0.88)、メジアン値は対照群は35.3ヶ月、Tecentriq群は未達だった。もう一つの主評価項目であるPD-L1陽性以外も含む解析も成功したが、今回の申請はPD-L1陽性だけなので、陰性/不明に対する効果は限定的だったのだろう。

G3/4有害事象の発生率は各11.5%と21.8%、Tecentriq群のG5(致死的)有害事象発生率は0.8%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


韓美のG-CSF、米国では承認されず
(2021年8月6日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(Nasdaq:SPPI)はRolontis(eflapegrastim)を化学療法誘導性好中球減少症の治療薬としてFDAに承認申請したが、審査完了通知を受領した。生産体制の欠陥を指摘されたようだ。韓国の韓美薬品からライセンスした長期作用性G-CSFで、元々は18年12月に承認申請したのだが、生産関連の情報不足を指摘され撤回。19年10月に再申請したが、COVID-19の流行によりFDA職員が今年5月まで韓美の施設査察を行えず、審査が大幅に遅延していた。

リンク: 同社のプレスリリース



イストダックスのPTCL適応、米国で撤回へ
(2021年8月2日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブ・グループのセルジーンは、Istodax(romidepsin、和名イストダックス)の二つの適応症のうち再発難治PTCL(末梢T細胞リンパ腫)について、米国で撤回することを発表した。10年前にORR(客観的反応率)データに基づき加速承認されたが、承認後薬効確認試験である第3相PTCL一次治療化学療法アドオン試験がフェールし、延命またはそれに準じる効果を確立できなかったため。

加速承認制度を巡っては、導入された数年後に加速承認の食い逃げ(いつまでたっても薬効確認試験を完了しない)が問題になり腫瘍学薬諮問委員会がFDAを厳しく突き上げたことがある。加速承認の段階で薬効確認試験の組入れが半分以上進捗していること、という条件を導入することで対応したが、バイオジェン/エーザイのアルツハイマー病薬Aduhelm(aducanumab-avwa)のような例外もある。

今回、問題になっているのは薬効確認試験がフェールした場合の対応だ。サラブレッドが負ける理由と同様に臨床試験がフェールする理由も数多あり、薬のせいとは限らない。前回は新興企業が多かったが今回は大手製薬会社の製品も俎上に挙がっている点で、新たなステージに進んでいる。EUも条件付き承認の後の進捗監視を強化する姿勢を示している。日本も同様な規制強化が行われたが、オリンピックのCOVID-19対策を見てもわかるように、この国は規制を作れば完了で、遵守されるかどうかは問わない傾向がある。

romidepsinはHDAC阻害剤。ゲノムがヒストンにタイトに巻き付くのに必要なヒストン・ジアセチラーゼを阻害して癌細胞の成長増殖を抑制する。藤沢薬品(現アステラス製薬)が発酵天然物からスクリーニング、米国の国立がん研究所が皮膚T細胞リンパ腫に対する活性を発見、04年にGloucester Pharmaceuticalsがライセンス、10年に同社をセルジーンが買収、19年にセルジーンをBMSが買収という経緯。

Istodaxは米国で09年に再発CTCL(皮膚T細胞リンパ腫)に初承認。EUではPTCLで承認申請されたが、対照試験のエビデンスがないこと、延命効果が不明であること、cGMP違反がまだ解消されていなかったことから12年にCHMPが否定的意見を出した。日本では17年にPTCLで承認、18年に薬価収載・上市された。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


ポンペ病の新らしい酵素補充療法が承認
(2021年8月6日発表)

FDAは、サノフィの子会社であるジェンザイムのNexviazyme(avalglucosidase alfa-ngpt)を1歳以上の遅発型ポンペ病の治療薬として承認した。ジェンザイムと言えば06年にMyozyme(alglucosidase alfa)、10年には生産方法を変更したLumizymeを発売したポンペ病酵素補充療法の魁。Nexviazymeは筋細胞のM6P受容体親和性を増強した改良薬で、臨床試験では努力性肺活量の改善がalglucosidase alfaと比べて非劣性だった。優越性解析がフェールしたため、シーケンシャルに行われた副次的評価項目の有意性は成立しないが、6分歩行テストの改善は32メートルと先輩薬の2メートルを大きく上回った。点滴静注頻度は同じ。

同社はLumizymeと同じ価格で発売する予定。EUでも先月、CHMPがNexviadymeという商標名で肯定的意見をまとめたが、新規活性成分とは認められなかったため、再検討を要求しているところ。alglucosidase alfaの特許切れ対策としての意味合いもあるだろうから、新規活性成分に与えられる排他権は重要だ。

日本でも今年1月に承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース



アストラゼネカ、SLE治療薬が承認
(2021年8月2日発表)

アストラゼネカは、Saphnelo(anifrolumab-fnia)がFDAにSLE(全身性エリテマトーデス)治療薬として承認されたと発表した。SLEの第3相試験は中々成功せず、承認されたのはHuman Genome Sciences(後にグラクソ・スミスクラインが買収)が開発した抗BLyS抗体、Benlysta(belimumab、和名ベンリスタ)以来、10年ぶり。

アルファやベータなどのタイプ1インターフェロンのサブユニット1に結合するヒト化抗体で、04年にメディミューン(後にアストラゼネカが買収)がMedarex(後にBMSが買収)からライセンスした。最初の第3相は主評価項目のSRI4(SLE Responder Index 4)奏効率がフェールし数値上は偽薬群より悪かったが、BICLA(British Isles Lupus Assessment Group Composite Lupus Assessment)に基づく奏効率は37%と偽薬群の27%を上回り、差の95%信頼区間は0.6~19.7だった。そこで、二本目は盲検中に主評価項目をBICLA奏効率に変更、各群47.8%と31.5%となり、有意な差があった。第二相のMUSE試験はSRI4もBICLAも良好な結果であり、まとめると、BICLA奏効率は三戦三勝だった。

BICLAはSRI4と比べて症状変化に敏感で、一部の症状がある程度改善するだけでも数値が変動する。このため、薬効評価方法として適している可能性がある。もちろん、全症状が解消するのが望ましいが、有効な治療薬が少ないだけに、ハードルを引き下げる余地がある。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

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