【ニュース・ヘッドライン】
- COVID-19関連:
- 中和抗体の入院患者試験が遂に成功
- ブラジルでゼルヤンツの試験が成功
- 抗原ワクチン、米墨第3相も成功
- セルトリオン、中和抗体の第3相が成功
- アストラゼネカ、中和抗体カクテルの曝露後予防試験がフェール
- CureVacのmRNAワクチンは中間解析成功せず
- その他の領域:
- SAGE-217の高用量第3相が成功
- バイオジェン、コロイデレミアの遺伝子療法試験がフェール
- 第10の抗PD-1/PD-L1抗体が承認申請
- 化学療法誘導性好中球減少症予防薬を承認申請
- Orphazyme社、NPC用薬が承認されず
- 全身性肥満細胞症に適応拡大
【COVID-19関連】
中和抗体の入院患者試験が遂に成功
(2021年6月16日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、オックスフォード大学の主導で実施している英国の大規模COVID-19治療試験、RECOVERY試験で、REGN-COV2(casirivimabとimdevimab)が十分な抗体を持っていないCOVID-19肺炎入院患者の死亡リスクを20%抑制したと発表した。抗SARS-CoV-2中和抗体の入院患者試験はこれまで良い結果が出なかったが、第1相、第2相試験の所見に忠実に、自力で抗体を作れない患者にターゲットを絞り込んだことが奏功したのだろう。適応拡大申請する予定。
REGN-CoV2はスパイク蛋白の異なったエピトープに結合する二種類の抗体のカクテル。米国のトランプ前大統領が感染した時の治療に用いられたことがあり、昨年11月に米国で非常時使用認可された。中和抗体は、他社の製品も含めて、入院患者における効果や安全性に懸念があったため、適応は軽中等症で入院の必要がない、但し重症化リスクを持つ患者に限定されている。
RECOVERY試験はマスター・プロトコルで、dexamethasoneなど様々な既存薬や新薬を次から次へとテストしている。医療従事者の負担を緩和するために報告事項を絞り込み、主観の入り込む余地がなく玉石混交の誹りも受けない死亡という決定的な事象を主評価項目に選んでいる。治験の規模が大きく、サブグループ毎の便益をある程度検討できることも長所。過去最大の功績は酸素投与や呼吸補助が必要な患者におけるdexamethasoneの救命効果を確立したことだ。
REGN-COV2のサブスタディは入院患者9785人をREGN-COV2群と偽薬群に無作為化割付した。うち、SARS-CoV2のスパイク蛋白に対するIgG抗体を持つ血清陽性患者が54%、血清陰性が32%を占め、残りは不明だった。ベースライン時点での治療は66%が酸素投与、20%が非侵襲的換気サポート、11%が酸素も換気サポートも不要で、過去の試験で安全性懸念が生じた人工呼吸器/ECMOは2%と極めて少ないことに留意すべきである。
同時使用薬は9割超がdexamethasoneのようなコルチコステロイドを用いていた。remdesivirは26%と少ない。colchicineは21%、aspirinは33%、tocilizumab/sarilumabは13%、azithromycinなどのマクロライドは24%が用いていた。RECOVERY試験は一人の患者を複数のサブスタディに割付けるため、このようなことになる。因みに、この中で成功したのは、ある程度進行した患者を対象としたtocilizumabだけだ。
米国の承認用量は当初は2400mg(一回だけ点滴静注)、現在では1200mgだが、本試験では8000mg。過去の試験では8000mgも2400mgも効果に大差なく、2400mgと1200mgの効果も大差なかったので、
違いを重視する必要はないだろう。
主要評価項目である血清陰性サブグループにおける28日死亡率は試験薬が24%、通常医療だけの群は30%で、率比0.80(95%信頼区間0.70-0.91)、p=0.001だった。カプラン・マイヤー・カーブは1週間経った辺りから分かれている。血清陽性/不明も含めた全集団の解析では20%対21%で大差なかった。陽性サブグループの通常医療群の死亡率は15%と陰性サブグループの半分に留まっている。結局、REGN-CoV2は、インスリンを分泌できない一型糖尿病に遺伝子組換え型インスリンを投与するのと同様な、補充療法ということになる。
忍容性は約3500人における72時間以内の点滴反応くらいしか言及されていない。発熱や突発的低血圧、血栓性イベントの発生率が1~2パーセンテージポイント高まる程度だった。試験薬関連と見なされる深刻有害事象は5人で、アレルギー反応(3人)、てんかん発作(2人)、急性飽和度低下(1人)、一時的意識喪失(1人)。
リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: オックスフォード大学のプレスリリース(pdfファイル)
リンク: 治験論文草稿(medRxiv、抄録と全文のリンク)
ブラジルでゼルヤンツの試験が成功
(2021年6月16日発表)
ファイザーは、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)をCOVID-19肺炎の治療に用いたブラジルの臨床試験が成功したと発表した。New England Journal of Medicine誌に論文刊行された。
入院後72時間以内で支持療法だけを受けている患者289人を偽薬群と試験薬群(10mgを一日二回、最大14日間に亘って経口投与)に無作為化割付して28日間の死亡・呼吸不全(ハイフロー酸素または侵襲的換気サポート)のリスクを比較したところ、各群29.0%と18.1%となり、リスク比0.63(95%信頼区間0.41-0.97)、p=0.04となった。全死亡も5.5%対2.8%、ハザード比は0.49(95%信頼区間0.15-1.63)と、好ましい数値が出たが検出力不足で有意差はなかった。
深刻有害事象の発生率は12.0%対14.1%で若干増加。Xeljanzは深刻な感染症を合併している場合は禁忌だが、本試験では深刻感染症の発生率が4.2%と3.5%で高まらなかった。
本試験では89%がdexamethasoneなどのグルココルチコイドを使用していた。remdesivirは本試験が実施されていた当時はブラジルで未承認だった。
JAK阻害剤ではインサイト/イーライリリーのOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)が酸素投与/換気サポートが必要なCOVID-19肺炎用薬として日米で承認/非常時使用認可されており、Xeljanzが有効であっても不思議はない。しかし、本試験は規模が比較的小さく、p値がマージナルだ。他の試験の結果も見てみたいが、ClinicalTrials.govで検索しても更に小規模だったり無作為化割付試験ではなかったり、適切なものが見当たらない。残念だ。
リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Guimaraesらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)
抗原ワクチン、米墨第3相も成功
(2021年6月11日発表)
米国のワクチン開発会社、Novavax(Nasdaq:NVAX)は、NVX-CoV2373の二本目の第3相COVID-19予防試験が成功したと発表した。米国とメキシコの施設で29960人を試験薬と偽薬に2対1割付して21日置いて二回接種し、更に7日間経った後の症候性感染をモニターしたところ、各群14人と63人となり、ワクチン効率は90.4%(95%信頼区間82.9-94.6)とハードルをクリアした。中等症以上の感染はゼロと14人で100%予防。
両群合計の感染者77例のうち54例のウイルス遺伝子分析の結果、CDC(米国疾病管理予防センター)がVoC(懸念される変異)と分類する変異型が35例、VoI(評価は定まっていないが関心のある変異)が9例でVoC/VoIに対するワクチン効率(探索的解析)は93.2%だった。尤も、VoC/VoIの多くはアルファ(英国型)で、それ以外はエプシロン(カリフォルニア型)を含め症例数が少ないため、はっきりしない。その他の株の感染は10例で、全て偽薬群だったため、ワクチン効率は100%となる。
Novavaxは欧州などで承認申請中だが、米墨試験の成功を受けて、米国でも承認申請する予定。
NVX-CoV2373は宿主細胞に融合する前の全長スパイク蛋白を抗原とする昆虫細胞培養型ナノパーティクル・ワクチン。中国以外で開発されている蛋白抗原ワクチンでは最も開発が進んでいる。先に行われた第3相英国試験ではワクチン効率が89.3%、後期第2相南アフリカ試験ではHIVに感染していない人におけるワクチン効率が60%だった。
mRNAワクチンでもベータ変異(南アフリカ型)に対する効果は低下すると考えられており、Modernaなどと同様に、Novavaxもベータ対応のブースターワクチンの開発も進めている。COVID-19ワクチンの効果がどの程度続くのかは不明だが、今後も変異株の種類が増えるだろうから、1~2年に一回程度、再接種することになる可能性は高そうだ。
リンク: 同社のプレスリリース
セルトリオン、中和抗体の第3相が成功
(2021年6月14日発表)
韓国のセルトリオン・ヘルスケアは、CT-P59(regdanvimab)のグローバル第3相試験が成功したと発表した。軽中等症患者1315人を偽薬群と試験薬群(40mg/kgを一回、点滴静注)に無作為化割付して重症化リスクを28日間比較したところ、重症化リスクが高いサブグループにおける入院・死亡率が各11.1%と3.1%となり、p<0.0001と有意な差があった。副次的評価項目の全被験者の解析も8.0%対2.4%、p<0.0001だった。臨床的に重要な有害事象は偽薬群と大差なかった。
regdanvimabは抗SARS-CoV-2中和抗体。ベータ株などに対する中和効果が弱い可能性があり、同社は補完的な抗体も開発中。
セルトリオンはバイオシミラーの開発でグローバル・プレゼンスを持っている。実力があるのは確かなのだが、不思議に思うのは、日本の会社は中和抗体を開発する能力はないのだろうか?
リンク: 同社のプレスリリース
アストラゼネカ、中和抗体カクテルの曝露後予防試験がフェール
(2021年6月15日発表)
アストラゼネカはAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)の第3相COVID-19曝露後予防試験がフェールしたと発表した。過去8日間に感染者と接触した1121人を試験薬群と偽薬群に2対1無作為化割付して予防効果を検討したところ、症候性感染症のリスクを偽薬比33%抑制したが、統計的に有意な水準には達しなかった。事前に設定された評価項目である、PCR検査で陰性だったサブグループでは73%抑制と良い数値が出ており、また、投与後7日未満と比べて7日後以降の感染予防効果の方が高いので、投与前に既に感染していた、あるいはウイルス量が多かった、被験者における効果が十分ではなかったのかもしれない。あるいは、他社の抗体カクテルと比べて効果が低いだけのことかもしれない。
AZD7442はVanderbilt University Medical Centerが回復期血漿から同定した二種類の抗体を装飾し、効果持続期間を6~12ヶ月に長期化すると共に、抗体依存的疾病増強を回避するためにFc受容体結合性を抑制したもの。今回の試験では300mgを一回、筋注した。
被験者は事前に抗体検査を受け、陰性確認したが、PCR検査は投与時に受けたので、もし陽性だとしても判明するのは数日後になる。PCR検査も感染から陽性化までタイムラグがあるが、抗体検査ほどではないので、信頼性はPCRのほうが高い。従って、ワクチンの予防試験では、PCR陰性サブグループだけの解析を主評価項目としている。
しかし、中和抗体による曝露後予防試験は、PCR検査で陽性になったり症状が出る前に目の子で治療を開始する、早期介入法の試験という側面がある。中和抗体は感染後の治療にも有効であるはずなので、投与時点でPCR陽性でも陰性でも分けて考える必要はないだろう。
リジェネロン・ファーマシューティカルズがREGN-COV2で実施した家庭内曝露後予防試験では感染を80%以上抑制した。AZD7442の33%は大きく見劣りする。
リンク: 同社のプレスリリース
CureVacのmRNAワクチンは中間解析成功せず
(2021年6月16日発表)
ドイツのCureVac(Nasdaq:CVAC)はCOVID-19のmRNAリピッド・ナノパーティクルワクチン、CVnCoVの後期第2相/第3相試験の第二次中間解析を行ったが、事前に設定されたハードルをクリアできなかったと発表した。最終解析に向かう予定。点推定値自体がそれほど良くなく、原因がワクチンなのか、それとも変異株の影響で多かれ少なかれ他のワクチンにも当てはまることなのか、気になるところだ。高齢者における効果も小さかったとのこと。
CVnCoVはSARS-CoV-2の融合前スパイク蛋白の全長mRNAをリピッド・ナノパーティクルに封入したワクチンで、BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンとの違いは、化学的装飾を行っていないこと。安定性が比較的高く、通常の冷蔵庫で最長3ヶ月間保存できる。また、用量は12mcgと半分以下。28日置いて二回筋注する。
今回の試験はラテンアメリカを中心に欧州の施設も参加して約4万人を組入れた。上記ワクチンは中間解析でワクチン効率が90%超となり成功認定されたが、CVnCoVは47%に留まった。会社側は、変異株の流行が影響したと考えているようだ。感染者134人のうちオリジナルの標準株は一人だけで57%がVoC(感染力や重症化、ワクチンの効果などの点で懸念される変異株)、21%がラムダ株(C.37、ペルーで昨年8月に発見)、7%がB.1.621(コロンビアで発見)だったからだ。
BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンの臨床試験は変異株がまだ多くなかったころに実施されたため、変異株に関する情報は疫学試験や前臨床試験くらいであるが、JNJのアデノウイルスベクター・ワクチンやNovavaxの蛋白抗原ワクチンの臨床試験データも考慮すると、ワクチン効率は、標準株と比べて、アルファ株(英国変異)に0~10パーセンテージポイント低下、ベータ株(南ア変異)やガンマ株(ブラジル/日本変異)は10~40%低下、と思われる。例外はアストラゼネカのワクチンで、ベータ株が流行している南アの臨床試験で成績が悪かったため、南ア政府は接種を見送った。
BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンも今ラテンアメリカや欧州で臨床試験を行えば成績が落ちるのかもしれない。但し、各社の試験は何れにおいても、中等症・重症感染症を予防する効果が軽症も含む症候性感染全てを防ぐ効果より高かった。
最終解析はあと80人が感染した段階で行う計画。実際には、確認待ちの感染症例がたくさんあるようなので、7~8月にも結果が判明するかもしれない。
リンク: 同社のプレスリリース
【新薬開発】
SAGE-217の高用量第3相が成功
(2021年6月15日発表)
Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)と開発販売パートナーであるバイオジェンは、SAGE-217(zuranolone)の第3相大鬱病試験が成功したと発表した。Sageの株価が値下がりしたことからも分かるように、インプレッシブな成績ではなかったが、そもそも2週間だけ治療することにどの程度の意味があるのか、良く分からない。
SAGE-217は経口のGABA-A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータ。GABA-A受容体のGABA-Aとは違う部位に結合し活性化する。類薬であるZulresso(brexanolone)点滴静注用が19年に米国で産後鬱病の治療薬として承認された。
SAGE-217も重症産後鬱の患者に30mgを一日一回、2週間経口投与した第3相外来治療試験が成功したが、20mgと30mgをテストした大鬱病の第3相がフェールしたため、50mgで再挑戦することになった。産後鬱も含め複数、進行しているが、最初に結果が出たのが今回のWATERFALL試験だ。543人を組入れて、偽薬または50mgを一日一回、二週間に亘って経口投与した。傾眠などの副作用を抑制するために夜、服用した。忍容しない場合は減量可。
結果は、第15日のHAMD-17トータルスコアがベースライン平均値の26.8から14.1低下、偽薬群は12.3低下した。治療効果は1.7、p=0.0141と高度ではないが有意だった。治療終了後4週間経った第42日時点でも試験薬群は改善の86%を維持していた。忍容性は、治療時発現有害事象が60.1%の被験者で見られ、偽薬群の44.6%を上回った。内容は傾眠、眩暈、頭痛、鎮静など。治療時発現有害事象による治験離脱率は各群3.4%と1.5%、深刻有害事象発生率は両群とも0.7%だった。
精神神経学の薬は病状の改善をリニアに反映するスコアの開発が困難であることや、どの程度の改善なら臨床的に意味があるかどうか判断しかねることから、偽薬比統計的に有意なら臨床的に有意であるかどうかは問わないのが通常だ。私は、治療効果がベースライン値の1割以上ならあれこれ言わないと決め打ちしている。しかし、今回の治療効果は6%なので物足りない。19年にフェールした第3相の治療効果は1.4なので、この二つの試験のデータが比較可能と前提するならば、用量を1.6倍に増やしても0.3ポイント程度しか改善しなかったことになる。
一方、有害事象は増加する。同様な比較をすると、30mgは傾眠の発生率が7%、眩暈は6%だったが、50mgは各15%と14%だった。尚、偽薬群はどちらも2-4%だった。
Zulressoもこの薬も2週間投与して完了する用法だ。完了後4週間経っても改善の86%が維持されたとのことだが、14.1の86%は12.1で、偽薬を2週間投与した後の改善(12.3)と大差ない。会社側は偽薬群のデータを開示しないなど口を濁しているが、治療を止めると治療しなかったのと同じ結果になってしまうのではないか、という疑念を禁じ難い。
2週間しか治療しないことにどのようなメリットがあるのか?良く分からない。同社は1年間のas-needed試験(必要に応じて治療コースを繰り返す)を行っているので、成功するなら頓服的な用法が正当化されるだろう。不眠症を併発する患者の第3相も進行中で、傾眠鎮静の副作用が多彩な便益に反転するかもしれない。何れも、年内に結果が出る見込み。
バイオジェンは30mgの第3相がフェールした後の昨年11月に米日台韓以外での開発販売権を取得した。日台韓の権利は18年に塩野義製薬が取得。
リンク: 両社のプレスリリース
バイオジェン、コロイデレミアの遺伝子療法試験がフェール
(2021年6月14日発表)
バイオジェンは、BIIB111(timrepigene emparvovec)の第3相STARコロイデレミア遺伝子療法試験がフェールしたと発表した。コロイデレミアはX連鎖劣性遺伝で細胞内の不要物搬送に係るREP-1の遺伝子、CHMに機能喪失変異があり、網膜色素上皮や脈絡膜が萎縮、視野障害を招く。BIIB111はAAV2(アデノ関連ウイルス2型)をベクターとしてCHM遺伝子を導入する網膜下注射用薬で、昨年6月にオックスフォード大学発ベンチャーであるNightstar Therapeuticsを8億ドルで買収して入手した。
第3相試験ではETDRS視力表を用いて1年後にBCVA(最良矯正視力)が15字以上改善した患者の比率を非介入群と比較したが、フェール。副次的評価項目もフェールした。前回の第1/2試験では視力低下が自然歴と比べて小さかったのだが、再現されなかった。
よくデザインされた対照試験(well-designed controlled trials)が重要であることを、今までに何度、思い知らされたことか。
リンク: バイオジェンのプレスリリース
【承認申請】
第10の抗PD-1/PD-L1抗体が承認申請
(2021年6月17日発表)
米国マサチューセッツ州の免疫系新薬開発会社、Agenus(Nasdaq:AGEN)は、AGEN2034(balstilimab)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は12月16日。化学療法歴のある難治/転移子宮癌に用いる。第二相試験ではPD-L1陽性癌に対するORRが20%、陰性も含めると15%だった。
PD-1を標的とするIgG4抗体。米国では抗PD-1抗体が既に4製品、抗PD-L1抗体も3製品承認されており、更に抗PD-1抗体2品目が承認審査中なので、順調ならAGEN2034は第10の抗PD-1/PD-L1抗体となる。売上金額は言わずもがな、製品数でもスタチンなどを抜きアンジオテンシンII受容体拮抗剤と並ぶ一大勢力となる。
リンク: 同社のプレスリリース
化学療法誘導性好中球減少症予防薬を承認申請
(2021年6月1日発表)
米国ニューヨーク州のBeyondSpring(Nasdaq:BYSI)はBPI-2358(plinabulin)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は11月30日。
癌の化学療法の副作用で好中球減少症が発生するのを抑制するために、標準的予防薬であるG-CSFと併用する。第3相PROTECTIVE-2試験では第1サイクルにおけるG4好中球減少症の発生率が13.6%と偽薬・G-CSF併用群の31.5%を下回った(p=0.0015)。熱性好中球減少症の発生率や重症度、入院期間も抑制された。G4治療時発現有害事象は偽薬群より20%少なかった。
微小管結合剤で、GEF-H1の分泌を促進し、樹状細胞の成熟や造血幹細胞/前駆細胞の増加をもたらすとのこと。別途、非小細胞性肺癌を治療する第3相も進行中。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
Orphazyme社、NPC用薬が承認されず
(2021年6月18日発表)
デンマークのOrphazyme(Nasdaq Copenhagen:ORPHA.CO、Nasdaq:ORPH)は米国でMiplyffa(arimoclomol)をニーマン・ピック病C型(NPC)用薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効評価方法の妥当性や追加試験の実施を求められたようだ。まあ、順当な結果だろう。
ハンガリーで糖尿病薬候補として発見されたヒート・ショック・プロテイン増幅剤。欧米で2~8歳の患者50人を組入れて一日3回、12ヶ月間に亘って経口投与する効果を検討した第2/3試験で、主評価項目であるNPCCSS(ニーマン・ピックC臨床的重症度スケールのうち5ドメインを使用)が僅かにフェールした。同社は4歳以上の44人だけのp値が0.02となり、また、EUなどで承認されているmiglustat併用例でも0.007であったことに着目して承認申請したが、FDAが事前に要請したCGI-I反応率の解析は58.3%と偽薬群の56.3%と大差なかった。
FDAは、NPCCSS、特に飲み込みドメインの有効性と解釈に関する質的量的証跡を求めるとともに、追加試験などの実施を求めたようだ。arimoclomolの薬効に自信があるなら追加試験を躊躇する理由はないだろう。
arimoclomolは失望的なニュースが続いており、3月には第2/3相特発性封入体筋炎試験が、5月には第3相筋萎縮性側索硬化症試験が、フェールした。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
全身性肥満細胞症に適応拡大
(2021年6月16日発表)
FDAはBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)のAyvakit(avapritinib)を進行性全身性肥満細胞症に用いる適応拡大を承認した。200mgを一日一回、経口投与する。53例の臨床試験ではORR(総合反応率)が57%(完全寛解率28%、部分寛解率28%)、メジアン反応持続期間は38.3ヶ月だった。有害事象は浮腫、下痢、悪心、疲労など。血小板数が50x10^9/L未満の患者には推奨しない。
頭蓋内出血が発生したら重症度に係らず投与を永続中止する。認知障害などの中枢神経有害事象が4割程度で発生するので、重症度に応じて投与継続、一時中止し減量して再開、永続中止を判断する。
AyvakitはKIT/PDGFRアルファキナーゼ阻害剤。全身性肥満細胞症はKITの活性化変異が見られることが多く、KIT阻害作用が寄与するのだろう。
昨年1月に米国でPDGFRアルファにエクソン18変異があり標準療法に反応しない切除不能/転移消化管間質腫瘍に300mgを一日一回、経口投与することが承認された。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Blueprint社のプレスリリース
今週は以上です。
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