2021年3月27日

第992回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:リジェネロンの抗体カクテルは入院死亡を7割削減 
  • COVID-19:VIR/GSKも抗体医薬をEUA申請 
  • COVID-19:アストラゼネカのワクチンの米州試験が成功 
  • COVID-19:EMAもイベルメクチンの使用を推奨せず 
  • BMS、オプジーボと抗LAG-3抗体を併用した第3相黒色腫試験が成功 
  • ノバルティス、放射性医薬品新薬の第3相が成功 
  • ロシュ、テセントリクの肺癌術後地固め試験が成功 
  • tesetaxelが一転して開発中止に 
  • ロシュ、ハンチントン病の第3相を打ち切りへ 
  • 武田薬品、デング熱ワクチンをEUに承認申請 
  • BMS、閉塞性肥大性心筋症治療薬を承認申請 
  • ノボ、オゼンピックの用量追加申請がFDAに受理されず 
  • FDA諮問委員会、抗NGF抗体の安全性を懸念 
  • CHMP、PI3K阻害剤などの承認を支持 
  • ベタニス、神経因性排尿筋過活動に適応拡大 
  • グルカゴン新製剤がまた承認 
  • JNJのS1P1調節剤も承認 
  • キイトルーダが食道癌に適応拡大 
  • FDA、シングリックスのレーベルにギラン・バレー症候群の警告を追加 



【今週の話題】


COVID-19:リジェネロンの抗体カクテルは入院死亡を7割削減
(2021年3月23日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGEN-COV(casirivimabとimdevimabの同梱製品)の第3相試験が成功したと発表した。軽中等症で入院はしていないが重症化リスク因子を持つ患者4567人を偽薬、各剤1200mgずつ、または2400mgずつを一回点滴静注する各群に無作為化割付して、29日COVID-19関連入院・死亡リスクを比較したところ、両用量とも偽薬比有意に優れていた。米国では既にEUA(非常時使用認可)を得ているが、ウイルス抑制効果だけでなく臨床的転帰改善効果も確認されたことから、本承認切替を狙う。欧米以外の地域での承認申請の道も開けた。

1355人を組入れた2400mgずつの群は29日COVID-19関連入院・死亡率が1.3%と偽薬群の4.6%より71%小さかった。736人を組入れた1200mgずつの群は1.0%と、この用量の対照偽薬群の3.2%より70%小さかった。副次的評価項目のメジアン罹病期間は両用量とも10日間で、偽薬群の14日間と有意な差があった。

EUAの用量は各剤1200mgずつだが、今回の第3相のコンパニオン試験とされる第2相ウイルス抑制試験では、最低用量(点滴では300mgずつ、皮注では600mgずつ)でも1200mgずつあるいは2400mgずつと同程度の効果があった。抗SARS-CoV-2抗体のウイルス抑制作用が臨床的転帰改善作用とリンクしていることはこれまでの各社の試験でかなり明確になったので、これらの低用量がEUAではなく正式承認される可能性もあるのではないか。一人当たり点滴量が4分の1に減れば4倍の数の患者に用いることができるので意義が大きい。また、外来治療には皮注のほうが便利だろうから、抗体医薬が中々普及しない現状を打破するのに有効だろう。

リンク: 同社のプレスリリース



COVID-19:VIR/GSKも抗体医薬をEUA申請
(2021年3月26日発表)

サンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)と共同開発販売パートナーのグラクソ・スミスクラインは、VIR-7831/GSK4182136のEUAをFDAに申請した。SARS-CoV-2のスパイク蛋白に結合するモノクローナル抗体で、12歳以上かつ体重40kg以上の軽中等症COVID-19感染症で入院リスクが高い患者に500mgを一回、点滴静注する。第3相試験では入院・死亡リスクが偽薬比85%小さく(p=0.002)、中間解析で成功認定された。

世界各地で脅威となっている英国型、南ア型、ブラジル型、カリフォルニア型、ニューヨーク型の変異株にシュードウイルスを用いたin vitro試験で活性を示した。モノセラピーは抵抗性ウイルスの選択が懸念材料になり得るので、臨床試験のデータを見てみたいものだ。

他社の抗SARS-CoV-2抗体と同様に中等症入院患者の臨床試験はフェールした。合併症が顕著になった段階で抗ウイルス治療を行っても手遅れなのか、それとも、抗体誘導性疾病増強と呼ばれる現象が起きてしまうのか、良く分からない。

リンク: 両社のプレスリリース



COVID-19:アストラゼネカのワクチンの米州試験が成功
(2021年3月25日発表)

アストラゼネカはAZD1222/ChAdOx1-S (遺伝子組換え)の米州COVID-19予防試験が成功したと発表した。米国でEUA(非常時使用認可)取得に一歩前進しただけでなく、高齢者における良好なエビデンスも確立した。

残念なことに、またゴタゴタが発生した。同社が22日に中間解析結果を発表したところ、独立データ安全性監視委員会(IDSMB)が同社や治験を主導したNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)に書簡を送付、都合の良いデータを選んで発表したと批判した。同社は主解析結果をIDSMBに提示した上で25日に発表したが、このデータも全発症例の査読が完了していない段階のデータであり今後、変更される可能性が残っているようだ。

アストラゼネカのワクチンは元々、ワクチン効率に関する様々なデータがあり、何を採用したらよいのか全然分からない。決定版は米州試験と考えていたが、結局、ノイズが増えただけだった。ここでは、3月25日発表に即して説明する。

米州試験は米国、ペルー、チリで18歳以上の32449人をAZD1222と偽薬に2対1無作為化割付して、症候性COVID-19感染リスクを比較した二重盲検試験。英国試験では二回接種の間隔が3ヶ月以上空いた症例もあったが、今回は4週。結果は、両群合わせて190人が感染し、ワクチン効率は76%、重症・入院に関しては100%だった。英国やEUで承認された時点では65歳以上の接種実績がごく少なかったが、今回は被験者の2割を占め、ワクチン効率は85%と良好だった。

アストラゼネカは4月にもEUAを申請する考え。尚、米国での承認申請が遅れたのは、英国試験で横断性脊髄炎など神経学的有害事象が発生し中断した時、英国と違ってFDAは1ヶ月以上、再開を許可しなかったために、米州試験の進捗が遅れたことや、英国やブラジルの試験ではアフリカ系の組入れが十分ではなかったためと推測される(南アフリカ試験では多かったかもしれないが、おそらく変異ウイルスの影響で、ワクチン効率がひどく低かった)。

欧州でCVST(脳静脈洞血栓症)やDIC(播種性血管内凝固症候群)の懸念が浮上しているが、今回の試験では発生しなかった。欧州での市販後報告頻度は100万人に一人程度なので、3万人の試験で検出できなくても不思議はない。

このワクチンはオックスフォード大学が創製、開発販売企業を募集しアストラゼネカが応じた。オックスフォード大学が英国第2/3相試験を開始した後に、用量選択に過ちがあったことをアストラゼネカが発見、途中で変更した関係で、初回半量レジメンと全量レジメン、両レジメン合計の三つのデータが英国試験には存在する。ブラジル第3相試験は対照群など様々な点で英国試験と異なっているため、ブラジル試験だけのデータや英伯合計のデータもある。投与間隔を広げたほうがよいとの都市伝説まがいの論説もあり、どのデータを信じたらよいのか、そして、どう使ったらよいのかも、分からない。

EMAの評価ではワクチン効率は59.5%となり、リピッド・ナノパーティクルmRNAワクチンの90%超と比べてだいぶ見劣りしていた。米州試験では上向いたので、ワクチンを選り好みできない人たちの不満をある程度和らげる効果があるだろう。但し、ワクチン抵抗性が推測されている南ア型変異やブラジル型変異が欧米で流行した場合、製品毎の明暗がどの程度広がるのかは、分からない。選べるならmRNAワクチンがいいな、と思っている人は多いだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース(中間解析結果を発表、3/22付)
リンク: NIAIDのプレスリリース(上記プレスリリースを批判、3/23付)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース(補足説明、3/23付)
リンク: アストラゼネカのプレスリリース(主解析結果を発表、3/25付)



COVID-19:EMAもイベルメクチンの使用を推奨せず
(2021年3月22日発表)

放線菌の産物を元に開発された寄生虫駆除用薬、ivermectinは、後ろ向き疫学試験や一部の研究者の熱烈な支持を背景に、COVID-19治療薬として期待され、スロバキアやチェコでは承認された。しかし、トップクラスのエビデンスである、よくデザインされた対照試験は行われておらず、それ以外の臨床試験の結果は芳しくない。このため、今年1月にはNIH(米国立衛生研究所)が推奨を中止した。今回、EMAも不支持を表明した。

治療・予防効果を支持する十分なデータはなく、in vitro試験ではSARS-CoV-2の複製を抑制したが、用量を換算すると承認用量よりかなり多く、副作用の増加が懸念されるとのことだ。

リンク: EMAのプレスリリース


【新薬開発】


BMS、オプジーボと抗LAG-3抗体を併用した第3相黒色腫試験が成功
(2021年3月25日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、切除不能/転移悪性黒色腫の一次治療における抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)と、抗LAG-3抗体BMS-986016(relatlimab)の併用効果を検討した第3相RELATIVITY-047試験が成功したと発表した。PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)をOpdivoだけの群と比較した無作為化割付二重盲検試験で、併用群は固定用量合剤を使ったため偽薬の設定はない。

データは学会などで発表する考え。承認審査機関と相談すると記しているので、全生存期間の解析を待たずに承認申請する可能性もありそうだ。

LAG-3(lymphocyte activation gene-3)はイフェクターT細胞や制御的T細胞が発現する免疫チェックポイント受容体で、主要組織適合性複合体(MHC)などと結合し、T細胞の反応や活性、増殖を抑制する。

17年のASCOでの発表によれば、抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ再発悪性黒色腫に両剤を併用したところ、ORR(客観的反応率)がLAG-3陽性癌では20%、陰性では7%だった。

悪性黒色腫一次治療ではチェックポイント阻害剤の先輩であるYervoy(ipilimumab)とOpdivoの併用が承認されているが、どちらの併用レジメンのほうが優れているのだろうか?

リンク: BMSのプレスリリース



ノバルティス、放射性医薬品新薬の第3相が成功
(2021年3月22日発表)

ノバルティスは企業買収を通じて放射性医薬品領域に進出・強化している。欧米で17~18年に承認され日本でも承認申請されたGEP-NETs(胃腸膵神経内分泌腫瘍)用薬Lutathera(lutetium Lu 177 dotatate)に続いて、177Lu-PSMA-617も第3相試験の成功が発表された。

18年にEndocyte社を買収して入手したパイプラインで、転移前立腺癌の8割超で発現し正常細胞には少ないPSMA(Prostate-Specific Membrane Antigen)に結合する小分子薬とベータ線放出核種を結合したもの。今回の試験は、taxane系抗癌剤とアンドロゲン受容体標的薬による治療歴を持つ転移去勢抵抗性前立腺癌でPETスキャンでPSMA陽性の患者を組入れて、医師が選んだ最良標準療法(支持療法を含む)だけの群と、177Lu-PSMA-617を併用する群のPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)と全生存期間を比較した。

データは学会などで発表する予定。承認申請に向かうだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース



ロシュ、テセントリクの肺癌術後地固め試験が成功
(2021年3月22日発表)

ロシュはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower010試験が成功したと発表した。当局との相談が上手く行けば承認申請に向かうのではないか。

この試験は、ステージIB-IIIA(早期)非小細胞性肺癌を切除しcisplatinレジメンによる術後アジュバント療法を受けた患者を、1200mgを3週毎に最大16回投与する群と観察群に無作為化割付し、DFS(無病生存期間、担当医評価)を比較したもの。主評価項目のうち、PD-L1陽性でステージII-IIIAのサブグループの解析と、全ステージII-IIIAの解析が成功、IBを含むintent-to-treatの解析は未だ有意差が出ていない模様だ。副次的評価項目の全生存期間もまだ成熟していないため治験は続行する。

プレスリリースにはPD-L1陽性サブグループのデータが特に良かったと記されているが、陰性/不明サブグループにも効果があったのかどうかは記されていない。

非小細胞性肺癌は乳がんと異なり早期段階で発見できることは少なく、そのせいか、術後アジュバント試験もあまり行われていない印象だ。直近ではEGFR陽性の早期癌を組入れたTagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)のADAURA試験が成功、昨年12月に米国で適応拡大が承認された。ステージI~IIIAにおけるDFS(担当医評価)ハザードレシオが0.27、2年無病生存率が89%(偽薬群は53%)とい良好な結果だった。

リンク: ロシュのプレスリリース



tesetaxelが一転して開発中止に
(2021年3月22日発表)

米国のOdonate Therapeutics(Nasdaq:ODT)は、tesetaxelの開発を中止し、事業も終息(wind down)することを明らかにした。誰かが買収オファーを持ってくるのを息を潜めて待つ考えなのだろう。

第3相が成功し承認申請に向かうはずだったが、FDAが申請前ミーティングで承認に否定的な見解を示した。買い推奨していたアナリストが売りに転じたことなどから株価が暴落した。

tesetaxelは第一三共からライセンスしたタキサン誘導体(DJ-927)で、経口投与でき、半減期が長いことが特徴。第3相試験ではher2陰性、ホルモン受容体陽性の転移性乳癌でpaclitaxelなどタキサン系薬による治療歴を持つ患者685人をtesetaxel群(27mg/m2、3週毎、低量capecitabine併用)と標準量capecitabine群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価委員会方式)を比較したところ、メジアン値は各群9.8ヶ月対6.9ヶ月、ハザードレシオは0.716、p=0.003だった。有害事象は、タキサンには付き物とは言え、熱性好中球減少症などの発現率が高かった。

PFSという薬効評価手法はX線/CT検査のタイミングに影響されるところがあり、症状が悪化しなくても6週毎とか8週毎に定期検査することになっているが、二重盲検でも偽薬だけを投与する群の患者はなぜか初回定期検査より早い時期に続々と進行認定され治験離脱する現象が頻発する。担当医の評価を第三者委員会が査読することである程度、解消できるはずだが、担当医が進行と認めなかった患者は査読に回らないだろうし、そもそも、定期検査以外のタイミングで検査するか否かを決めるのは放射線学的評価委員会ではない。また、委員会が進行認定を否定する症例が増えて治験の検出力が低下してしまうようなこともある。だから、末期癌の試験にPFSを採用するのは私は嫌いだ。今回の試験は偽薬対照ではないが、オープンレーベルなので主観バイアスが影響しなかったかどうか、検証する必要がある。

DJ-927を最初にライセンスしたジェンタ社は、bcl-2アンチセンス薬の承認申請用試験の目標症例数を増やしたため結果判明時期が遅れることを1年ぶりに開催した決算説明電話会議で初めて開示し、アナリストの顰蹙を買ったことがあった。Odonateも、上場企業としてタイムリーにリスク情報を開示したと言えるのかどうか、検証が必要だ。

リンク: Odonate社のプレスリリース



ロシュ、ハンチントン病の第3相を打ち切りへ
(2021年3月22日発表)

ロシュは、RG6042(tominersen)の第3相ハンチントン病試験を打ち切ると発表した。独立データ監視委員会が中間解析に基づき勧告した。安全性に関する新しい兆候は浮上していないようなので、効果が偽薬と大差なかったのだろう。

ハンチントン病は常染色体優性遺伝病。大脳の基底核や皮質が萎縮、不随意運動や精神・行動症状が進行する。tominersenはIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)との共同研究の成果で、17年にライセンスした。病気の原因となるハンチントン蛋白(HTT)の生産を、変異種も含めてすべて、抑制する。第3相試験は18ヶ国で791人を組入れて、120mgを2ヶ月毎または4ヶ月毎に髄腔内投与し、cUHDRSの変化を25ヶ月間に亘り、偽薬と比較するもの。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


武田薬品、デング熱ワクチンをEUに承認申請
(2021年3月26日発表)

武田薬品は、TAK-003をEUで承認申請した。中南米や東南アジアでエンデミックとなっているデング熱のワクチンで、対象年齢は思ったより広く、4-60歳を想定している。EUは医薬品の承認審査体制が整っていない国に代わって評価する制度を持っているが、今回の申請はEU域外だけでなく域内の承認取得も目指している。

4価弱毒化生ワクチンで3ヶ月置いて2回、皮注する。第3相試験ではワクチン効率(二回接種後18ヶ月間のデータ)が73.3%、ベースライン時点で血清反応陽性(過去に感染歴を持つと推測される)患者では76.1%、陰性では66.2%だった。4種類の株のうち1型は69.8%、2型は95.1%、3型は血清反応陽性患者では61.8%と有意なワクチン効率が示されたが、陰性患者や4型に対する効果は確立していない。

デング熱では一回目の感染は軽くても二回目に重症化する現象が見られ、サノフィが開発したワクチンでは自然感染歴のない人が接種後に感染すると重篤化する抗体依存的増強リスクが表面化した。武田のワクチンではどうなのか、長期追跡データの発表が待たれる。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)



BMS、閉塞性肥大性心筋症治療薬を承認申請
(2021年3月19日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、mavacamtenを症候性閉塞性肥大性心筋症用薬としてFDAに承認申請し、受理されたと発表した。審査期限は22年1月28日。優先審査指定されなかったのは意外だ。何か、簡単には結論を出せない問題があるのだろう。

昨年11月に買収したMyoKardia社の開発品で、心臓ミオシンのアロステリック・モジュレータ。肥大性心筋症におけるミオシンとアクチンの過剰な架橋を抑制し、心筋収縮性を調整する。251人の患者を組入れた第3相試験では、臨床的反応率(30週後のNYHA分類や心肺運動負荷試験における最大酸素摂取量から判定)が36.6%と偽薬群の17.2%を有意に上回った(p=0.0005)。NYHAクラスが1段階以上改善した患者の比率は各群65%と31%だった。

リンク: BMSのプレスリリース



ノボ、オゼンピックの用量追加申請がFDAに受理されず
(2021年3月23日発表)

ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤のベストセラーであるOzempic(semaglutide、和名オゼンピック)の高用量(2mg週一回皮注)をFDAに追加申請したが、受理されなかった。肥満症の適応拡大などに備えて新増設した生産施設に関する追加情報を要求された模様だ。ノボは第2四半期に提出する予定。

二型糖尿病用バイオ薬におけるライバルであるイーライリリーはGLP-1だけでなくGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の受容体も作動するLY3298176(tirzepatide)の第3相試験を行っている。直接比較試験でOzempicの1mgより高いHbA1c低下作用と体重削減作用を示した。ノボは2mgが承認されれば差を付けられずに済むだろう。

リンク: ノボのプレスリリース



【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、抗NGF抗体の安全性を懸念
(2021年3月25日発表)

FDAは関節炎諮問委員会と薬品安全性リスク管理諮問委員会の共催会議を招集し、ファイザーがイーライリリーと提携して開発し中重度変形性関節炎治療薬として承認申請したPF-4,383,119(tanezumab)について意見を聞いた。ファイザーが提案するREMS(リスク評価管理戦略)を採用すれば便益が危険を上回るか、という諮問に対して、19人の委員がNo、一人がYesと回答した。FDAがブリーフィング資料で示した懸念が支持されたので、おそらく、承認されないだろう。

このIgG2型抗ヒトNGF抗体は、ジェネンテックのスピンアウトであるRinat Neuroscienceを06年に買収して入手したコンパウンドの一つ。ジェネンテックはNGFを同定し筋萎縮性側索硬化症などのPOC試験を行ったがフェールした。疼痛が増大したという副作用報告があったため抗体でブロックする試験を行ったところ、疼痛緩和作用が確認され、変形性関節炎などに臨床開発が進められた。一時は制癌作用が期待されたTNFが、自己免疫疾患を治療するためにブロックすべき標的として蘇ったのと似ているが、明暗は分かれた。

ファイザーだけでなくリジェネロン/サノフィやアストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど多くの会社が抗NGF抗体の変形性関節炎臨床試験を推進したが、2010年になって、変形性関節炎の急速な悪化(RPOA)が一部の患者で観察され、FDAが癌性疼痛以外の用途の臨床試験を停止した。関節炎諮問委員会が開発続行を支持したことなどから12年8月に解除されたが、他社が行った毒性試験で末梢神経影響が見られたため、4ヶ月後に再び部分停止命令。ファイザー自身が検証を終え、解除されたのは15年3月のことだった。

他社は開発を断念したが、ファイザーはイーライリリーとリスク・シェアリング契約を結んで複数の大規模な第3相試験を行い、効果やRPOAリスクを検証した。結果は、5mgは副作用リスクがやや高く、2.5mgは効果がそれほどでもなかった。

承認申請の内容は、中重度変形性関節炎に伴う、既存薬に不応不耐の、慢性疼痛の治療に2.5mgを8週毎皮注するというもの。NSAIDs不応患者を組入れた臨床試験では、5mgにスイッチした群はNSAIDs継続投与群比有意に疼痛が緩和したが、2.5mgは大差なかった。従って、この予定適応症の妥当性は議論の余地がある。

RPOAの発生率は1型(関節裂隙狭小化)は2.3%でNSAIDs群の1.1%、偽薬群のゼロと比べて統計的に有意。より進行した2型(関節損傷・破壊)は0.4%対0.1%で有意ではないが検出力不足なのだろう。偽薬群はゼロだった。転帰を見ると、1型発症者の15%、2型の60%が、関節全置換術(TJR)を受けた。リスク因子は不明、投与を止めても損傷が進行し、NSAIDs併用患者では発生率が2-3倍高かった。

提案されたREMSの内容は、RPOAとTJRの枠付警告、医師などの研修・認証プログラム、治療前と年一回の造影検査、NSAIDs併用を避けるよう注意など。可逆性がないとなると早期に発見しても手遅れの可能性がありそうだ。鎮痛剤は服用を続けるうちに効果が感じられなくなって思わず服用量を増やしてしまうdose creep現象が見られるので、ダメを押してもNSAIDsを服用してしまう患者がいるかもしれない。

関節炎の治療を期待したのに悪化してしまったら患者は救われないだろう。

リンク: 両社のプレスリリース



CHMP、PI3K阻害剤などの承認を支持
(2021年3月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、PI3K阻害剤などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Verastem(Nasdaq:VSTM)がインフィニティ社から世界開発販売権を取得して開発したCopiktra(duvelisib)は、PI3K(phosphoinositide 3-kinase)デルタとガンマの選択的阻害剤。二次以上の治療歴を持つ再発/難治CLL(慢性リンパ性白血病)や二次以上の治療に難治性だった濾胞性リンパ腫に用いることが支持された。

米国では18年に承認、日本はヤクルトが開発販売権を取得した。尚、VerastemはCopiktraに関する資産を昨年9月にSecura Bio社に売却しており、EUでのライセンスも譲渡されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンのPonvory(ponesimod)はS1P1調節剤。臨床/画像診断により活性期と判定された再発型多発硬化症に用いる。米国で今週、承認された(下記)。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

ベルギーのMithra(Euronext:MITRA)が15年にActavisからライセンスして開発した、estetrol(新規エストロゲン)とdrospirenone(プロゲスチン)の合剤は経口避妊薬。子会社のEstetra SPRLがLydisilkaという製品名で、ライセンシーであるハンガリーのGedeon RichterはDrovelis名で、肯定的意見を得た。日本は富士製薬が16年に権利を取得、FSN-013として開発している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース

英国のDiurnal Group(AIM:DNL)のEfmodyはhydrocortisoneの新規調整放出製剤で、12歳以上の先天性副腎過形成症に用いる。一日二回、経口投与する。通常のコルチコイドと比べて早朝の17-hydroxyprogesteroneのピークが小さいことが特徴。副作用は副腎機能不全、疲労、頭痛、食欲亢進、眩暈、体重増など。欧州の先天性副腎過形成症患者は41000人と推定されている。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、グラクソ・スミスクラインのBenlysta(belimumab)を成人の活性期ループス腎炎に用いることが支持された。米国では昨年12月に承認。BenlystaはHuman Genome Sciencesを買収して入手した抗BLyS抗体で、全身性エリテマトーデスに承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

ヴァーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)のKaftrio(米国名Trikafta:elexacaftor、tezacaftor 、ivacaftor)は嚢胞性線維症の治療薬。12歳以上で両親から引き継いだCFTRの両方にF508欠損がある、または、片方がF508欠損でもう片方が最小機能変異である患者に承認されているが、後者の最小機能変異限定を解除することが支持された。臨床試験でゲーティング変異や残存機能変異にも効果が確認されたため。文言は、F508欠損が一つ以上ある場合、となる予定。

三剤のうちivacaftorだけは一日二回、服用する必要があるため、朝はKaftrio、夕方はKalydeco(ivacaftor)を服用する。Kaftrioの限定解除に伴い、Kalydecoの当該適応における限定も解除される予定。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

ロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をPD-L1高発現の転移非小細胞性肺癌の一次治療に用いることも支持された。腫瘍細胞における発現が50%以上、または腫瘍浸潤免疫細胞における発現が10%以上で、EGFRやALKに変異のない癌に、単剤投与する。臨床試験では全生存期間の化学療法比ハザードレシオが0.59だった。米国では昨年5月、日本でも12月に、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

アステラス製薬がファイザーと共同開発販売しているXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を転移性ホルモン感受前立腺癌に用いることも支持された。アンドロゲン枯渇療法と併用する。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、CHMPが承認に後ろ向きで申請撤回となったのがアストラゼネカのP2Y12阻害剤、Brilique(ticagrelor、和名ブリリンタ)。THEMIS心血管アウトカム試験の成果に基づいて、冠動脈疾患と二型糖尿病を併発しPCIを施行した成人の心筋梗塞初発リスクを抑制する目的でアスピリンと併用する適応拡大を狙ったが、米国とは異なり、認められなかった。

THEMIS試験は成功したが予防効果は決して大きくなく、出血リスクが増加した。サブスタディではPCI歴を持つサブグループ以外は効果が見られなかった。これを受けてFDAはPCI歴など高リスク患者に絞って承認したが、CHMPは、便益が明確ではなくPCIに絞る理由や妥当性もあいまいと見做していた。

リンク: EMAのプレスリリース

COVID-19の世界的な流行に伴い、行政に対する批判があちこちで高まっている。EU加盟国ではEMAの承認審査が他の国と比べて遅いのではないか、という批判が高まっているようで、EMAは、幾つかの未承認薬について、加盟国が区々な評価や適応に基づいて承認しないよう、参考情報を発出している。今回は、韓国のCelltrionが開発しEUでローリング審査を受けているCT-P59(regdanvimab)について声明を発した。

他の抗SARS-CoV-2抗体と同様に、軽中等症で酸素補給は不要だが重症化リスクの高い成人COVID-19感染症を適応とするよう勧告した。臨床試験の第1部では入院リスクを抑制する効果が支持されたが、現時点では盤石とは言えないとのこと。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ベタニス、神経因性排尿筋過活動に適応拡大
(2021年3月25日発表)

FDAはアステラス製薬のMyrbetriq(mirabegron、和名ベタニス)錠を3歳以上の神経因性排尿筋化活動に用いる適応拡大と、新規格である内服懸濁液用顆粒を承認した。この疾患は二分脊椎などが原因で発症し、失禁だけでなく腎臓に傷害を与えるリスクもある。Myrbetriqはベータ3受容体作動剤で過活動膀胱に承認されている。血圧上昇や血管浮腫のリスクを持つ。

リンク: FDAのプレスリリース



グルカゴン新製剤がまた承認
(2021年3月22日発表)

デンマークのZealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)は、FDAがZegalogue(dasiglucagon)を6歳以上の糖尿病患者が重症低血糖症になった時のレスキュー治療薬として承認したと発表した。皮注用のグルカゴン類縁体でプリフィルド・シリンジとオート・インジェクターの二種類あり、粉末を調整しなくても使える。常温で最大12ヶ月間保存可能。

米国では19年にイーライリリーの点鼻用薬Baqsimiが4歳以上に、Xeris PharmaceuticalsのGvoke HypoPenが2歳以上にと、二種類のグルカゴン新製剤が承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)



JNJのS1P1調節剤も承認
(2021年3月22日発表)

JNJグループのJanssen Pharmaceuticalは、FDAがPonvory(ponesimod)を成人の再発型多発硬化症用薬として承認したと発表した。17年にアクテリオンを買収した時に入手したS1P1調節剤で、類薬は多いが、オフセットが比較的早いのが特徴。COVID-19に感染したりワクチンを接種する時は免疫抑制作用が妨げになりかねないが、服用を止めれば他のS1P1調節剤よりも早いリンパ球回復が期待できる。

第3相試験では年率再発率が0.202とteriflunomide群の0.290を有意に下回った。欧州でも承認審査中。

リンク: JNJのプレスリリース



キイトルーダが食道癌に適応拡大
(2021年3月22日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を食道・胃食道接合部腫瘍に用いる適応拡大を承認した。転移性/局所進行性で切除術や化学放射線療法が不適の患者にcisplatinおよびfluropyrimidineと併用する。KeyNote-590試験ではメジアン生存期間が12.4ヶ月と化学療法群の9.8ヶ月を上回った。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、シングリックスのレーベルにギラン・バレー症候群の警告を追加
(2021年3月24日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインの帯状疱疹ワクチン、Shingrix(和名シングリックス)のレーベルを改訂してギラン・バレー症候群に関する警告を追加すると発表した。MSDの帯状疱疹生ワクチンであるZostavaxの市販後報告と比べて発生率が高かったため、高齢者医療制度であるメディケアのデータベースを分析して、65歳以上の人の接種後第1日から42日までのリスクを第43日から183日と比べたところ、初回接種では100万回当り6例と増加した。2回目はどちらの期間も大差なかった。

このため、FDAは、市販後観察的試験で接種後42日間はおけるギラン・バレー症候群のリスク増加が観察された、という文言を入れるようGSKに求めた。現段階では関連性に留まり、因果関係は確立していないとのこと。

リンク: FDAの安全性情報





今週は以上です。

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