2021年3月6日

第989回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ワクチンは変異型にも有効か 
  • COVID-19:EMA、ロシアのワクチンのローリング審査を開始 
  • COVID-19:コルヒチンはCOVID-19入院患者を救命できない 
  • COVID-19:抗体医薬の入院患者試験がまた無益認定 
  • FDA、ALSコミュニティーの批判に回答 
  • イーライリリー、新薬が直接比較試験でノボの競合品に勝つ 
  • イーライリリー、JAK1/2阻害剤の第3相円形脱毛症試験が成功 
  • チャンピックスの活性成分をドライアイに承認申請 
  • MSD、慢性咳嗽治療薬を承認申請 
  • 経口パクリタキセルは審査完了に 
  • ロキサデュスタットの米国承認が更に遅延へ 
  • MSD、キイトルーダの小細胞性肺癌適応を返上へ 
  • ロシュ、アクテムラが全身性硬化症の間質性肺疾患に適応拡大 
  • ファイザー、ローブレナが二次治療限定解除 
  • ADHDのメチルフェニデート系配合剤が米国で承認 
  • FDA、ペプチド薬物複合体を承認 
  • FDA、モリブデン補因子欠乏症A型用薬を承認 
  • ジセレカは精巣安全性試験で懸念は浮上しなかったが... 


【今週の話題】


COVID-19:ワクチンは変異型にも有効か
(2021年3月1日発表)

米国のワクチン接種に関する委員会、ACIPの3月1日の会合で、CDC(疾病予防管理センター)のHeather Scobie(PhD, MPH)がSARS-CoV-2の変異型に対するワクチンの効果について、プレゼンテーションを行った。学術誌に刊行された論文や査読前原稿、プレスリリースなどをまとめたもので、拙稿で以前取り上げたものも多かったが、私にとって初耳だったのは二点。変異型に対する免疫誘導が遅い、あるいは一回接種では足りないことを示唆する研究結果と、アストラゼネカのワクチンの南ア型変異に関するデータだ。

前者はBioNTech/ファイザーのワクチンを接種した人の血清を用いて、変異型と同様な変異を導入した別のウイルスを中和する能力を調べた複数の小規模な研究結果を一つのグラフにまとめたもの。B.1.1.7系統(以下、英国型)やB.1.351系統(以下、南ア型)は第2週でも対照群(D614G変異を持つ在来型のウイルス)ほどは中和されなかった。英国型は第3週には対照群とそれほど変わらない水準まで改善したが南ア型は第2週から少し改善した程度だった。二回目の接種後の第4週には両型とも対照群並みに改善したが、一部の人はほとんど反応しなかった。

ワクチンを二回接種する代わりに一回ずつ、より多くの人に接種したほうが流行鎮静化に役立つ、という議論が欧米で活発化しているが、難点が二つある。一つは効果の持続期間がどの程度変わるのか分からないこと(ワクチンの効果に関するエビデンスは2-4ヶ月分しかない)、もう一つは変異型に対して十分な効果があるかどうか分からないことだ。上記研究は、南ア型(そしておそらくはブラジル型も)が流行したら一回接種ではあまり防げなくなるリスクがあることを示唆している。

試験管試験と大規模な感染予防試験をブリッジングできるほどの情報はCOVID-19に関しては未だ無いので、効果は臨床試験で検討するのが望ましい。氏がまとめたこれまでの臨床試験成績を見ると、リピッド・ナノパーティクル・ワクチンではBioNTech/ファイザーの承認後データを見ると、英国(殆どの感染者が英国型変異)では予防効果が86%、イスラエル(英国型が8割)では94%だった。一方、Novavax(Nasdaq:NVAX)は英国試験で英国型の感染を86%、それ以外の感染は96%、予防した。南ア(95%が南ア型の感染)では60%に留まり、南ア型に限定すると51%だった。

アデノウイルス・ベクターのワクチンでは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの第3相試験(中重症感染だけをカウント)では米国では74%、ブラジル(69%がブラジルP.2型)では66%、南ア(95%が南ア型)では52%だった。アストラゼネカの試験成績は英国で英国型感染を75%、それ以外の感染を84%予防した。Madhiらの治験論文草稿によると、南ア(93%が南ア型)では軽中等症感染を20%しか防げず、南ア型だけに絞ると10%だけだった。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの試験でも重症・危機的感染だけを見ると7割以上予防できているので、アストラゼネカのワクチンも南ア型による重症感染を防ぐ効果はもっと高いかもしれない。しかし、軽中等症感染を殆ど防げないとなると、他の人にうつるリスクもあまり削減できないだろうから、大流行を鎮静化するには非力かもしれない。

リンク: ScobieのACIPプレゼンテーション・スライド
リンク: Madhiらの治験論文草稿(medRxiv)


COVID-19:EMA、ロシアのワクチンのローリング審査を開始
(2021年3月4日発表)

EMAは、ガマレヤ疫学・微生物研究所が開発しロシアで接種が進められているCOVID-19ワクチン、Sputnik Vのローリング審査を開始した。前臨床などのデータの評価を前倒しすることによって承認申請後の審査期間を短縮する。尚、欧州ではドイツのR-Pharmaが承認申請を行う。

ソビエトが世界に先駆けて打ち上げた人工衛星の名前を引き継いだこのワクチンは、遺伝子組換え型アデノウイルス26型と同5型をベクターとする二種類のスパイク蛋白核酸ワクチンを前者はプライム、後者はブースターとして21日置いて接種する。アデノウイルスは自然感染を通じて抗体を獲得している人が少なくないので、特殊な亜型をベクターとして使い、二回目はそのベクターに抗体ができて接種の効果が低減するのを防ぐために別の亜型を使う狙いと推測される。

Lancet誌で発表された第3相論文によると、モスクワの18歳以上の21977人を組入れた試験で、ワクチン効率(初回接種後28日目からメジアン20日間の症候性感染をカウント)は91%、深刻有害事象の発現率は0.4%で偽薬群の0.3%と大差なかった。

リンク: EMAのプレスリリース


COVID-19:コルヒチンはCOVID-19入院患者を救命できない
(2021年3月5日発表)

オックスフォード大学の主導で英国などで実施されているRECOVERY試験は、COVID-19入院患者の治療薬候補を次々とテスト、死亡リスク抑制に有効な薬と期待できない薬の仕訳を進めている。これまでにdexamethasoneやActemra(tocilizumab)の有効性を明らかにする大きな成果を上げた。一方で、hydroxychloroquineやKaletra(lopinavir+ritonavir)、azithromycin、回復期血漿は十分な効果が見られず組入れ打ち切りとなった。

今回、痛風治療薬colchicineも無効認定された。独立データ監視委員会が定期会議で効果や安全性をチェックしたところ、被験者11162人の28日死亡率がcolchicine群は20%、通常医療だけの群は19%、リスク比は1.02で95%信頼区間0.94-1.11だった。同委員会の勧告を受け入れ、組入れ終了が決まった。

リンク: RECOVERY試験共同主任研究員の声明


COVID-19:抗体医薬の入院患者試験がまた無益認定
(2021年3月3日発表)

COVID-19治療薬候補のスクリーニングで大きな成果を上げた、オックスフォード大学と並ぶ組織が、米国のNIH(国立衛生研究所)だ。ACTT-1試験でVeklury(remdesivir)の便益を確立し、ACTT-2試験でVekluryにOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)を追加すると退院が若干早まり死亡率が低下する可能性があることを示した。

NIHはACTIVシリーズの臨床試験もロンチ、ACTIV-1では抗TNFアルファ抗体など、ACTIV-2は抗SARS-CoV-2抗体などを外来患者を対象に、ACTIV-3は抗SARS-CoV-2抗体などを入院患者を対象に、ACTIV-4は抗血栓・抗血小板薬、ACTIV-5はインターロイキンやGM-CSFを標的とする抗体などを第2相試験として、テストしている。

失望的なニュースが多いのがACTIV-3試験で、今回、二種類の抗SARS-CoV-2抗体レジメンの組入れが打ち切りとなった。一つはサンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)がグラクソ・スミスクラインと共同開発しているVIR-7831(GSK4182136)。組入れ拡大の当否を判定するために、投与後5日間の病状改善の中間解析を行ったところ、基準を上回る数値が出たものの、ベースライン時点の病状の違いを調整した感受性分析が思わしくなかったため、データ監視委員会が無益認定した。

もう一つは中国系のBrii Biosciencesが創製した、異なったエピトープに結合する二種類の抗体、BRII-196とBRII-198のカクテル。こちらは組入れ拡大判定基準をクリアできなかった。

これらの抗体医薬は英国変異や南ア変異にも有効と言われていたため、期待されたが、少なくとも入院患者に関しては失望的な結果になってしまった。

イーライリリーのLY-CoV555(bamlanivimab)は米国で軽中等症外来患者向けにEUA(非常時使用認可)されているが、入院治療に関してはACTIV-3試験で十分な肺機能改善が見られず、無益認定された。抗SARS-CoV-2抗体で生き残っている抗SARS-CoV-2抗体は、ACTIV-3試験のAZD7442(アストラゼネカがVanderbilt University Medical Centerからライセンスした二種類の抗体のカクテル)とRECOVERY試験のREGN-COV2(リジェネロンが創製した二種類の抗体のカクテル)くらいになってしまった。

REGN-COV2も入院不要な軽中等症患者にEUAを得ている。なぜ、入院患者には十分な効果を発揮できないのだろうか?炎症や免疫反応が亢進し肺などに合併症が出た後で抗ウイルス治療をしても手遅れ、あるいはピント外れなのだろうか?それとも、LY-CoV555の入院試験論文が可能性の一つとして言及している、抗体依存性感染増強(ADE:ウイルスが抗体と一緒に細胞内に取り込まれてしまう現象)なのか?

もしADEが原因だとしたら、ワクチンで誘導される抗体によるADEが発生する可能性もあるのではないか?特に、HIV感染者や免疫用製剤を常用している患者の場合、あるいは、南ア変異のようなワクチンの効果が低下する可能性のある変異型に感染した場合、リスクが高まるのではないか?

ワクチンよりも抗体医薬のほうが症例分析しやすいだろうから、フェールした原因を是非とも探求してほしいものだ。

リンク: NIHのプレスリリース(3/4付)
リンク: Vir社とGSKのプレスリリース
リンク: Brii社のプレスリリース


FDA、ALSコミュニティーの批判に回答
(2021年3月2日発表)

BrainStorm Cell Therapeutics(Nasdaq:BCLI)はNurOwnをALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請する考えだったが、FDAのフィードバックは、止めはしないが承認に必要なエビデンスは整っていない、という否定的なものだった。同社が2月22日のプレスリリースで公表したところ、ALSの医師、患者、患者支援団体などが次々に失望や不満を表明したらしく、FDAは、極めて異例ながら、状況を説明するプレスリリースを出した。

NurOwnは再生医療の一種で、患者から採取した間葉系幹細胞(MSC)を神経栄養因子(NTF)分泌能を増強しながら培養したもの。急速進行性患者189人を組入れた第3相試験で8週毎に3回、髄腔内投与して、その後28週間のALSFRS-Rスコアの変化を偽薬群と比較したところ、奏効率(月平均1.25ポイント以上の改善)が34.7%と偽薬群の27.7%を上回ったが、解析計画の前提より差が小さくp=0.453と有意ではなかった。低下幅も5.52対5.88で大差なかった。

しかし、事前に設定されたサブグループ分析で早期患者に良い数値が出たことに同社は希望を見つけた模様だ。

守秘義務があるのでFDAの説明は簡素なものにならざるを得ないが、NurOwn群の奏効率が32.6%と会社側発表より低いことが注目される。死亡数が偽薬群をある程度上回ったというのも初耳だ。

論点には違和感はないが、このようなプレスリリースを出して患者と向き合う姿勢を示した点に、新しいFDAを感じる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: BrainStorm社のプレスリリース(2/22付)


【新薬開発】


イーライリリー、新薬が直接比較試験でノボの競合品に勝つ
(2021年3月4日発表)

イーライリリーはGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)・GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体アゴニストのLY3298176(tirzepatide)を二型糖尿病治療薬として開発、来年にも承認申請する考えだ。長期投与が必要な慢性疾患で新旧の競合品も多いことから様々な第3相試験が進行中だが、今回、SURPASS-2試験の成功が発表された。

第一選択薬であるmetforminを服用しても血糖値を十分に管理できない二型糖尿病の成人を、5mg、10mg、または15mgを週一回皮注する群に割付けて、HbA1c引き下げ効果をノボ ノルディスクのGLP-1受容体アゴニスト、Ozempic(semaglutide)1mgを週一回皮注する群と比較したオープンレーベル試験で、主評価項目(10mg及び15mgのOzempicに対する非劣性解析)が成功した。

副次的項目の5mg対Ozempicの非劣性解析も成功した。更に、三用量の優越性解析も成功した。具体的には、ベースライン(8.28%)比で各群2.09%、2.37%、2.46%、1.86%低下した。

GLP-1作用剤は血糖治療薬としては珍しく体重が減るのが特徴。本試験では、ベースライン(93.7kg)比で各群8.5%、11.0%、13.1%、6.7%低下し、三両量ともOzempicを有意に上回った。

血糖治療薬の典型的な副作用である低血糖(54mg/dL未満に低下)の発現率は各群0.6%、0.2%、1.7%、0.4%、有害事象による治験離脱率は5.1%、7.7%、7.9%、3.8%だった。当然と言えば当然だが、忍容性は若干見劣りする。

ノボはOzempicの2.0mgを欧米で承認申請した。夫々の臨床試験のデータを見比べると、LY3298176の15mgと大差なさそうなので、結局、どちらが優れているとも言えない状況だろう。何れにせよ、GLP-1作用剤は悪心嘔吐の発現率が比較的高く、高用量にステップアップできない患者が少なくないので、最高用量は客寄せパンダのようなものかもしれない。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


イーライリリー、JAK1/2阻害剤の第3相円形脱毛症試験が成功
(2021年3月3日発表)

イーライリリーは、Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)の第3相重度円形脱毛症試験の一つが成功したと発表した。データは未発表。もう一本も6月までに判明する見込みなので、二本成功なら適応拡大申請に向かうのではないか。

Olumiantはインターロイキン受容体などの細胞内シグナル伝達に係るJAK1/2を阻害する経口剤。インサイト(Nasdaq:INCY)から共同開発販売権を取得した。中重度リウマチ性関節炎や日欧では中重度アトピー性皮膚炎にも承認されている。また、COVID-19による肺炎で酸素投与や人工呼吸器装着の患者に米国でEUA(非常時使用認可)された。

今回のBRAVE-AA2試験は、脱毛歴8年以内、毛髪50%以上喪失の患者546人を日本を含む9ヶ国の施設で組入れて、2mgまたは4mgを一日一回投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目は36週後の奏効率(Alopecia Areata Investigator Global Assessmentが0または1、かつ、ベースライン比で2ポイント以上改善した患者の比率)。

JAK阻害剤は血栓塞栓性疾患や感染症、腫瘍などのリスクが指摘されているが、この試験では主要有害心血管イベントや血栓塞栓イベント、死亡などは発生しなかったとのこと。

FDAはJAK阻害剤の安全性について日欧の承認審査機関より強い関心を持っている。Olumiantは日欧では4mgまで承認されているが、米国では2mgだけだ。アトピー性皮膚炎の適応拡大は米国だけ申請が遅く未だ審査中だが、安全性問題が背景にあるのかもしれない。リウマチほど日常生活に差し障る病気ではなく激しい痛みもないという点では似ているので、取り敢えず、米国でアトピーに承認されるかどうかが注目だ。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


【承認申請】


チャンピックスの活性成分をドライアイに承認申請
(2021年3月2日発表)

Oyster Point Pharma(Nasdaq:OYST)は、OC-01(varenicline)をドライアイの治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は10月17日。ドライアイ治療薬としてはファースト・イン・クラスだがFDAは現時点では諮問委員会の招集を考えていない。

アルファ4ベータ2選択的ニコチン受容体部分作動剤で、禁煙補助薬Chantix(和名チャンピックス)として商業化したファイザーから、眼科用途や点鼻用薬に関する特許の非独占的実施権を19年に取得した。点眼ではなく点鼻スプレーで、鼻腔の三叉神経のニコチン・アセチルコリン受容体を刺激することによって、涙を制御する副交感神経を活性化する狙い。

二種類の濃度を一日二回、点鼻した第3相試験では、奏効率(シルマー試験で10mm以上改善)が各44%と47%となり、対照群の26%を有意に上回った。但し、主観的症状評価はトレンドに留まった。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、慢性咳嗽治療薬を承認申請
(2021年3月1日発表)

MSDは、MK-7264(gefapixant)を難治性又は原因不明の慢性咳嗽の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は12月21日。FDAは諮問委員会を招集する考え。

選択的P2X3受容体アンタゴニストで、気道粘膜の炎症などにより放出されるATPが迷走神経のC線維上に多く分布するP2X3受容体に結合し過剰感作して咳を誘発させるのを妨げる。第3相試験二本では45mgを一日二回、経口投与した群の咳頻度がベースライン値の18回/時から7回/時に減少、偽薬比14~19%の相対リスク削減効果が見られた。

味覚関連有害事象が用量依存的に増加、45mg群は58~69%の患者が経験したが、大半は軽中度だった。有害事象による治験離脱率は15~20%で偽薬群の3~5%を上回った。味覚障害はこの薬の泣き所で、発生率が低い15mg群が注目されたが、忍容性だけでなく効果も偽薬と大差なかった。

ロシュのスピンアウトであるAggerent Pharmaceuticalsを16年に買収して入手したコンパウンド。日本でも今月、承認申請された。塩野義製薬なども類薬を開発しているので、諮問委員会を注目するだろう。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


経口パクリタキセルは審査完了に
(2021年3月1日発表)

Athenex(Nasdaq:ATNX)はOraxol(paclitaxel、encequidar)を転移乳癌用薬として承認申請し、優先審査を受けたが、審査完了通知を受領した。好中球減少症のリスクや薬効評価の不透明性がネックになったようだ。もう一本臨床試験を行うことになるのではないか。

OraxolはP糖蛋白阻害剤HM30181A(encequidar)をpaclitaxelと同時服用することにより点滴用薬を経口投与できるようにしたもの。可溶化paclitaxelの30mgカプセルを205mg/m2相当とencequidar 15mg錠を3日服用して4日休む。paclitaxel(175mg/m2)を2週毎に3時間点滴静注する群比較した第3相では、cORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)やPFS(無進行生存期間)、全生存期間が有意に上回り、G3神経症は少なかった。一方、G3/4の好中球減少症は30%対28%で若干増加、G3/4の下痢や悪心嘔吐も増加した。

好中球減少症が若干増えるだけならと思っていたが、重度重篤例が多かったのかもしれない。FDAは用量の再検討や高リスク患者の除外などのリスク回避策の作成を求めた。反応率についても、査読に進むプロセスでバイアスが生じた可能性を指摘したとのことなので、担当医評価と食い違いがあったのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


ロキサデュスタットの米国承認が更に遅延へ
(2021年3月1日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)とアストラゼネカはFG-4592(roxadustat、和名エベレンゾ)を透析期及び非透析依存の慢性腎臓疾患患者の貧血治療薬として米国で承認申請している。審査期限は一度延期されて3月20日となったが、FDAが今になって心臓腎臓薬諮問委員会を招集する意向を通知してきた。日程はこれから決定するとのことなので、期限に間に合わない可能性が高く、それどころか、スムーズに承認されないリスクを意識せざるを得ないだろう。

roxadustatはHIF2-PH阻害剤。経口投与できるので特に保存期慢性腎疾患のヘモグロビン矯正には使いやすい。ライセンシーのアストラゼネカが18年に中国で、同じくアステラス製薬が19年に日本で、承認取得した。

米国はエポエチンなどの積極利用による心血管リスクに敏感で、新薬についても赤血球生成刺激薬(ESA)よりリスクが高まらないことを確認するよう求めている。日本ではHIF2-PH阻害剤が既に三剤承認されているが、roxadustatは国内の透析期と保存期の試験でダルベポエチンアルファ群より重篤な血栓塞栓症が多かった。海外でも保存期の試験で心血管疾患や痙攣発作が若干多かった。このため、日本のリスク管理計画書では、重要な特定されたリスクとして、脳梗塞や心筋梗塞などの血栓塞栓症や高血圧症、痙攣発作、腫瘍悪化リスクなどを指摘している。多くはクラス・イフェクトだがroxadustatは特に目立つように感じられる。

これまでの流れから推測すると、FDAが懸念事項を更に検討するために必要なデータをメーカーから取得し、申請内容の重大な変更として審査期限延長を決定。精査の上でメーカーと今後の方策を協議したが合意に達しなかったため、諮問委員会の意見を聞くことになったのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース


MSD、キイトルーダの小細胞性肺癌適応を返上へ
(2021年3月1日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)を転移性小細胞性肺癌の三次治療に用いる米国での承認を返上すると発表した。FDAが、再び、加速承認の食い逃げに厳しくなったことが背景のようだ。

米国は難病における充足されないニーズに応え得る新薬に関して、比較的小規模・短期間の試験でも結果が出る代理マーカーに基づく薬効評価を受け入れる、加速承認制度を持っている。承認後に本来の薬効評価方法(抗癌剤の場合は延命効果やQOL改善効果)を確認する必要があるが、試験が成功するとは限らず、また、既に承認され入手可能な薬の偽薬対照試験を行うのは倫理に反する可能性があるため、波乱含みだ。

Keytrudaの場合、ORR(客観的反応率、盲検独立委員会評価)と反応持続期間のデータに基づいて19年6月に加速承認された。MSDは市販後コミットメントとして進展期小細胞性肺癌の実薬対照試験で延命効果を確認し21年3月までに提出することをコミットしたが、KeyNote-604試験(進展期小細胞性肺癌一次治療、化学療法併用試験)でPFS(無進行生存期間)は中間解析で達成したものの、全生存期間は最終解析でも未達だった。

尤も、ハザードレシオは0.80、95%信頼区間は0.64-0.98だった。メジアン生存期間は10.8ヶ月で化学療法だけの群の9.7ヶ月と大差ないものの、全然ダメとは思えない。この試験は(この試験も)評価項目が複数設定され中間解析も行うため個々の解析に付与されたアルファが小さく、全生存期間のp値は0.0164と決して悪くはなかったのだが、最終解析のアルファは0.0128しかなかったため、フェールしたのである。

この内容なら再試験の猶予を獲得できるのではないかと思ったが、何か事情があったのだろう、FDAと協議の上、自主返上を決めた。

ここ数ヶ月に抗癌剤の適応返上が相次いでいる。昨年12月、BMSがOpdivo(nivolumab)の小細胞性肺癌三次治療における適応を返上すると発表した。市販後コミットメントを19年7月までに履行する予定だったが二次治療試験がフェール、一次治療後維持療法試験もフェールしたので止むを得ない。Opdivoは肝細胞腫二次治療の加速承認も、一次治療のCheckMate-459試験がフェールしたため、at riskと言えるだろう。

アストラゼネカも今年2月、Imfinzi(durvalumab)を尿路上皮腫の二次治療に用いる適応を自主返上すると発表している。一次治療試験がフェールしたのでこれもやむを得ないだろう。

こうして見ると抗PD-1/PD-L1抗体ばかりだが、開発競争が激しいためスピードアップのため主評価項目を多数設定することが少なくなく、臨床試験や適応症の絶対数も多いので、取りこぼしが多くても不思議ではないだろう。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認】


ロシュ、アクテムラが全身性硬化症の間質性肺疾患に適応拡大
(2021年3月5日発表)

ロシュは、抗IL-6受容体抗体Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)をSSc-ILD(全身性硬化症関連間質性肺疾患)に用いる適応拡大が米国で承認されたと発表した。全身性硬化症の皮膚病変の治療を試みた臨床試験はフェールしたが、太宗を占めた間質性肺疾患合併患者で副次的評価項目である肺機能の悪化を遅らせる効果が見られた。この効能だと競合薬があるので、効果に優劣があるか、気になるところだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザー、ローブレナが二次治療限定解除
(2021年3月3日発表)

FDAはファイザーのLorbrena(lorlatinib、和名ローブレナ)をALK陽性転移性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大を承認した。18年にALKチロシンキナーゼ阻害剤による治療歴を持つ患者に用いる薬として加速承認したが、市販後コミットメントとして実施された一次治療実薬対照試験が成功したため、二次治療を本承認に切り替えると共に二次治療限定を解除した。

第2世代、第3世代のALK/ROS1チロシンキナーゼ阻害剤で、ファースト・イン・クラスである同社のXalkori(crizotinib)より効果が高く、脳転移を治療する効果も持っている。直接比較試験でXalkoriを負かした新薬は複数あるが、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザード比は0.28とこの薬が一番良い。一方、G3/4の認知影響、気分変動が見られる。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース


ADHDのメチルフェニデート系配合剤が米国で承認
(2021年3月2日発表)

既存薬のプロドラッグを改良薬として、あるいは新用途で開発するビジネスモデルの米国の製薬会社、KemPharm(Nasdaq:KMPH)は、FDAがAzstarys(serdexmethylphenidate、dexmethylphenidate)を6歳以上の青少年と成人のADHD治療薬として承認したと発表した。活性成分のうち前者はdexmethylphenidateのプロドラッグで、30分で作用を発揮、13時間持続する。即放性のdexmethylphenidateと配合することで投与直後の血中濃度のスパイクを抑制しながら、一日一回、経口投与を実現した。

米国では事業投資を目的に資金調達・上場する、投資信託や企業買収ファンドのような『特定目的買収会社』が雨後の筍化している。若干違うものの、AzstarysはKemPharmが戦略的事業・資本提携を結んでいるGurnet Point Capitalの出資先の一つであるCoriumが今年下期に発売する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA、ペプチド薬物複合体を承認
(2021年2月26日発表)

FDAはOncopeptides AB(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxto(melphalan flufenamide)を多発骨髄腫の5次治療薬として加速承認した。3種類の代表的なクラスの薬全てに抵抗性を持つ癌に、dexamethasone併用で、月一回、30分点滴静注する。臨床試験ではORR(客観的反応率)が23.7%、メジアン反応持続期間は4.2ヶ月だった。

ペプチドと結合して親油性を向上するドラッグ・デリバリー技術の応用品。melphalanは造血幹細胞移植を施行する前のコンディショニングも代表的な用途だが、FDAは、この製剤に関してはエビデンスが無いので臨床試験以外で使うことは推奨できないと注意した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Oncopeptidesのプレスリリース(PR Newswire、3/1付)


FDA、モリブデン補因子欠乏症A型用薬を承認
(2021年2月28日発表)

FDAはBridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)とその子会社であるOrigin Biosciencesが開発・承認申請したNulibry(fosdenopterin)をモリブデン補因子欠乏症A型(A型MoCD)の治療薬として承認した。

この疾患は常染色体劣性遺伝疾患で、NOCS1(モリブデン補因子合成1)遺伝子の変異により亜硫酸オキシダーゼの活性が低下、亜硫酸やS-sulfocysteineが蓄積する。患者数は世界で150人未満の超希少疾患。出生後まもなく顕在化し、メジアン生存期間は4年とされる。

NulibryはAlexion Pharmaceuticalsからライセンスした合成cPMP(環状ピラノプテリン一リン酸)。体内で代謝されてモリブデン補因子に転換されるので、補因子補充療法と呼ばれている。

遺伝子組換え型cPMPも含む三本の自然歴対照試験で、死亡のハザードレシオが遺伝子型などがマッチする過去症例と比べて0.18、95%信頼区間0.04-0.72だった。被験者13人の3年生存率は84%、自然歴18人は55%だった。有害事象はカテーテル関連や発熱、ウイルス感染症や肺炎、中耳炎、嘔吐など。動物試験で光毒性が見られたのでサンスクリーンなどで防御する。

希少小児疾患優先審査バウチャが交付される。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Bridgebioのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ジセレカは精巣安全性試験で懸念は浮上しなかったが...
(2021年3月4日発表)

ベルギーのガラパゴス社((Euronext/Nasdaq:GLPG)は、抗リウマチ薬として日欧で承認されているJAK1阻害剤、Jyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)の精巣安全性試験の中間解析概要を公表した。一本は関節リウマチなどの、もう一本は日欧で適応拡大申請中の潰瘍性大腸炎の患者を合計248人組入れて、偽薬または200mgを一日一回、13週に亘って経口投与し、精子濃度半減の発生率を比較したもの。半減した患者は薬の投与を止めて、可逆性を検証する。

今回の中間解析は13週時点のもので、試験薬群の半減発生率は6.7%、偽薬群は8.3%だった。この試験は有意性を検出するパワーを持っていない由。詳細は、可逆性を検討するステージが終了した後で発表する予定。

Jyselecaは毒性試験でオスの生殖機能毒性が示唆された。ラットではヒトに200mg/日を投与した時のAUCの7.3倍に相当する量でも精子形成障害・受胎能低下が見られ、イヌは5.1倍相当量で精子形成障害が発生した。このため、FDAは第2相試験では用量を100mgに抑えるよう要求した。第3相では200mgを許容したが、いざ承認審査の段階になって、複数の臨床試験の実施を求めて審査完了通知を出した。共同開発販売パートナーであるギリアド・サイエンシズは100mgでは競争力がないと判断、米国での関節リウマチの承認取得を断念した。日本の販売権は維持するが、欧州は一部を除いてライセンスを返上した。

精巣安全性試験の結果を待たずにギリアドが戦線縮小を決めたことを考えると、今回の中間解析成功を素直に喜ぶのは難しいだろう。私には知識がないが、精子濃度半減というのは珍しくないことなのだろうか?もし一時的な変動があるのだとしたら、この試験では一定期間後に再検査して持続的な症例だけを抽出するプロセスを取ったのだろうか?それとも、可逆性検討フェーズの結果と照らし合わせることで確認する考えなのか?もしそうだとしたら、偽薬群は8割が回復した(中間解析での低下は一時的だった)が試験薬群は2割に留まった、というような結果になることも考えられないでもないので、結局、中間解析結果だけでは何とも言えないのではないか?

リウマチ性関節炎は日常生活に影響したリ痛みを伴ったりするため、MTXや、他剤不応不耐の患者にはカルシニューリン阻害剤など、副作用を警戒すべき薬も使われている。JAK阻害剤もその一つで、血栓塞栓性疾患や感染症、腫瘍増悪などのリスクが見られるが、承認されている。それでも、類薬が多数ある中でプラスアルファのリスクを持つ製品を敢えて承認する必要があるのか、難しい問題だ。

リンク: ガラパゴスのプレスリリース(GlobeNewswire)





今週は以上です。

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