2021年3月13日

第990回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:JNJのワクチンがEUでも承認 
  • COVID-19:VIR/GSKの抗体が入院・死亡を9割近く抑制 
  • COVID-19:イーライリリーの抗体カクテルが入院・死亡を9割近く抑制 
  • COVID-19:ポリメラーゼ阻害剤のPOC成功 
  • COVID-19:ブラジルの試験で抗アンドロゲンが良績 
  • COVID-19:抗CCR5抗体のサブグループ分析 
  • COVID-19:アクテムラの重症患者試験がフェール 
  • FDA、抗PD-1/PD-L1抗体の加速承認取消の当否について諮問へ 
  • ロシュも抗PD-L1抗体の尿路上皮腫二次治療を承認返上へ 
  • ノバルティス、抗IL-1抗体の肺がん治療試験がフェール 
  • イドルシア、オレキシン受容体アンタゴニストを承認申請 
  • AVEO社のVEGFR拮抗剤、8年を経て遂に承認 
  • FDAがイエスカルタを濾胞性リンパ腫に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:JNJのワクチンがEUでも承認
(2021年3月11日発表)

EUはジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを18歳以上のCOVID-19疾患予防に条件付き承認した。米国でも2月にEUA(非常時使用認可)されている。アデノウィルス26型をベクターとしてSARS-CoV-2のスパイク蛋白の遺伝子を接種者の細胞に導入するもので、ワクチン効率(接種の14日後以降、1ヶ月程度の期間の中重度感染症予防効果)は67%だった。地域別の成績は変異株の流行次第で変動し、米国では74%、南アでは52%、ブラジルでは66%だったが、、重症や危機的な感染症だけに限定すると各国7-8割で大差なかった。他社のワクチンは軽症も含めてワクチン効率を算出しているが、JNJの第3相では軽症患者数が中重症と比べてあまりにも少なく、おそらく、報告漏れが相当あるのではないかと思われるので、比較できない。。

有害事象はワクチンに一般的なものが多いが、印象的なのは、最近欧州でオックスフォード大学/アストラゼネカのチンパンジー・アデノウイルスをベクターとするワクチンに関して話題になっている血栓塞栓イベントの発生数が、15例と偽薬群の10例より数値上、多かったこと。1000~2000人に一人程度の発現率になるが、因果関係は不明。

他のワクチンと比べて特徴的なのは、接種が一回筋注だけであること、超低温環境は必要なく通常の冷蔵庫で最大3ヶ月保存可能であること、そして、パンデミック中は儲け無しで販売されること。

ECDC(欧州疾病予防管理センター)の3月11日時点の集計によると、EUなど30ヶ国に配布されたCOVID-19ワクチンは約5500万本、接種実績は約4200万本で接種進捗率は77%。このうち、BioNTech/ファイザーのワクチンは約3800万本配布、進捗率は88%と高いが、Modernaとアストラゼネカのワクチンは、どちらも、約3400万本配布して進捗率は52%と低い。

アストラゼネカのワクチンは高齢者のエビデンスが少なく、受託生産が多いせいか品質管理に問題が生じて供給が滞ったり、血栓塞栓イベントで死亡例が発生したため複数の国が接種を一時停止したりしているので、進捗が遅くても不思議はないが、Modernaの進捗も低いとなると、先行者利潤が相当大きいと想像できる。

JNJのワクチンはワクチン効率がリピッド・ナノパーティクル・ワクチンより見劣りするため米国では、拒否すべきではないというキャンペーンが行われている。データの不利と後発の不利をどの程度、克服できるか、注目される。

リンク: EUのプレスリリース
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース


COVID-19:VIR/GSKの抗体が入院・死亡を9割近く抑制
(2021年3月10日発表)

米国サンフランシスコのVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)とグラクソ・スミスクラインは、共同開発している抗SARS-CoV-2抗体、VIR-7831/GSK4182136の第3相試験が良好な結果になったと発表した。米国などでEUA(非常時使用認可)などを申請する考え。

VIR社はCRISPRのようなゲノム編集技術とin silico解析、そして機械学習を組み合わせて抗ウイルス薬のターゲットを特定する技術を持っている。VIR-7831はSARS-CoV-1と共通の、よく保存された部位に結合する抗体で、Xencor社(Nasdaq:XNCR)の技術を適用して肺における生物学的利用率や半減期を向上したもの。

今回のCOMET-ICE試験は軽中等症で入院していない患者を組入れて500mgを一回、静注した無作為化割付偽薬対照二重盲検試験。昨年10月に第3相ポーションに進み、今回、中間解析(583人、過半がヒスパニック/ラテン系)で独立データ監視委員会が薬効を認定し新規組入れを中止するよう勧告した。28日入院・死亡リスクが偽薬比85%小さかった(p=0.002)。24週間追跡するため現在も盲検が続いている。

静注ではなく筋注用製剤も開発しており、第2四半期中に外来治療や予防の第3相を開始する予定。

尚、この抗体医薬は(この抗体医薬も)、中等症入院患者の試験がフェールしている。NIH(米国立衛生研究所)傘下のNIAID(国立アレルギー・館戦争研究所)がActiv-3試験で症状改善効果を検討したが、当初300人の解析で群間の偏りを補正すると十分な効果が見られなかったため、組入れ拡大が見送られた。

VIR-7831はシュードウイルスの試験で英国や南ア、ブラジルの変異株にも有効だった。シュードウイルスはSARS-CoV-2とは違うし人間の体はin vitroほど単純ではないので臨床試験で確認する必要があるが、今のところは、次項のイーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体よりは期待できそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース


COVID-19:イーライリリーの抗体カクテルが入院・死亡を9割近く抑制
(2021年3月10日発表)

イーライリリーはカナダのAbCellera Biologicsからライセンスした抗SARS-CoV-2抗体、bamlanivimabを単剤で、及び中国のJunshi Biosciencesからライセンスした抗SARS-CoV-2抗体、etesevimabと併用で開発し、入院の必要がない軽中等症COVID-19感染症の治療薬としてFDAのEUA(非常時使用認可)を取得した。併用法のエビデンスとなる臨床試験では各剤2800mgずつ、一回、点滴静注したが、今回、EUAの推奨用量である各700mgと1400mgを投与した試験の結果が発表された。薬力学面・薬物動態面だけでなく、入院・死亡リスクの面でも2800mgの試験と見劣りしないことが明らかになった。

この試験は、第3相二重盲検試験、BLAZE-1のコフォートの一つとして行われた。発症から数日以内で軽中等症だが重症化リスク因子を持つ12歳以上の患者769人を偽薬群と抗体カクテル群に1:2の比率で無作為化割付し、1回投与後の入院・死亡リスクを比較した。結果は、各群15人と4人が入院・死亡し、相対リスク削減率は87%、p<0.0001だった。死亡者は各群4人(全員がCOVID-19関連死)とゼロだった。

2800mgずつ投与したコフォートの入院・死亡リスク削減率は70%、p=0.0004、死亡は10人対ゼロ(この試験は1:1割付)だったので概ね同様な結果だ。尚、bamlanivimab単剤のコフォートは入院・ER入室リスクが72%小さかったので、併用の効果と大差ないが、リアルなのかフェイクなのか良く分からない。

二本合計すると、偽薬群の入院・死亡率は6.6%、抗体カクテル群は1.5%で、20人に投与すると1人を入院・死亡から救うことができる計算になる(残りの19人は投与してもしなくても結果が同じ)。イベント数が少ないので信頼性は低いものの、死亡も56人で1人救う恰好なので、なかなか良い。

問題は、このデータが勢力を増しつつある英国型や南ア型、ブラジル型にも当てはまるのかどうかだ。また、今のところ、抗SARS-CoV-2抗体は入院患者に対する効果が確立しておらず、逆に、有害である可能性すら示唆されている。本試験のように、発症早期の患者に絞り込むことが重要なのだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


COVID-19:ポリメラーゼ阻害剤のPOC成功
(2021年3月6日発表)

MSDとマイアミの抗ウイルス薬開発会社、Ridgeback Biotherapeuticsは、MK-4482/EIDD-2801(molnupiravir)の前期第2相試験の途中経過をCROI(レトロウイルスと日和見感染症学会)で発表した。第5日時点で感染力を持つウイルスが消失という大変良い内容だった。外来患者や入院患者の第2/3相試験で臨床的な効用が確認されるかどうか、注目される。

molnupiravirはエモリー大学で創製されたRNAポリメラーゼ阻害剤。昨年3月にRidgeback Biotherapeuticsがライセンスし、5月にMSDに世界開発商業化権を供与した。

今回のPOC試験は、症候性外来患者を偽薬、200mg、400mg、800mgに割付けて、一日二回、5日間に亘って経口投与し、陰転状況をトータルで28日間、追跡した。感染状況はRT-PCRではなく上咽頭スワブ検体をVero細胞で培養して感染力のあるものだけをカウントした。

ベースライン時点の検体で培養・ウイルス検出ができた78人の中間解析で、第5日時点のウイルス検出率は偽薬群が24%であったのに対して試験薬群は3用量ともにゼロだった(名目p=0.001)。薬物関連深刻有害事象は発生しなかった。

経口剤なので外来治療には適している。抗ウイルス効果の試験方法が異なるので既存薬との比較は難しく、また、現時点では症状改善効果やウイルス再燃リスク、抵抗性ウイルス出現リスクなど分からないことが多いが、抗ウイルス剤で有力候補が現れ始めたのは良い兆候だ。

リンク: 両社のプレスリリース


COVID-19:ブラジルの試験で抗アンドロゲンが良績
(2021年3月11日発表)

中国蘇州のKintor Pharmaceutical(HKEX:9939)は、ブラジルで実施されたGT-0918(proxalutamide)の第三相研究者主導試験が良好な結果になったと明らかにした。米国カリフォルニア州のApplied Biology社がブラジル アマゾナス州の病院グループであるSamel Groupと12医療施設で実施した無作為化割付二重盲検試験で、入院後48時間以内の患者588人に300mgまたは偽薬を一日一回、14日間に亘って経口投与したところ、主評価項目の14日WHO序数スケールがベースライン(5.6)から各群4.01ポイントと0.25ポイント低下し、有意(p<0.0001)な差があった。驚くべきは死亡率で、各群3.7%と47.6%と信じられないほど大きな差があった。メジアン入院期間でも各群5日と14日という大きな差があった。

偽薬群の死亡率の高さに驚くのは私だけではないらしく、Kintorのプレスリリースには、注記として、北ブラジルにおけるCOVID-19入院患者の死亡率が50%というLancet誌に掲載された疫学論文のリンクが貼られている。

proxalutamideは非ステロイド系の抗アンドロゲン。COVID-19は女性より男性の方が重症化しやすく、子供は重症化しにくいことや、SARS-CoV-2のスパイク蛋白が宿主細胞のACE2に結合する前にTMPRSS2による切断を受けるが、このセリン・プロテアーゼの発現がアンドロゲンによって誘導されることなどから、今回の試験が着想された。治験登録によると並行して軽中等症非入院患者の試験も行ったはずなので、結果発表が待たれる。また、米国で治験認可が降りたので、再現されるかどうか注目される。

リンク: Kintor社のプレスリリース


COVID-19:抗CCR5抗体のサブグループ分析
(2021年3月5日発表)

カナダのCytodyn(OTC.QB:CYDY)は、Vyrologix(leronlomab)の第3相試験の結果を発表した。主評価項目の28日死亡率は偽薬群と大差なかったが、試験薬群は高齢者の構成比が高かったことが影響した可能性があるようで、65歳超と以下のサブグループ分析や、危機的患者だけの分析結果に会社側は期待している。FDAとの相談を踏まえて危機的患者を更に140人、オープンレーベル試験に組入れる考え。

leronlomabは10年前にProgenics Pharmaceuticals(現Lantheus Holdings(Nasdaq:LNTH))の抗CCR5抗体、PRO 140をライセンスしたもの。HIV/AIDSのピボタル試験を行って昨年5月に承認申請したが、受理されなかった。今上期に再申請する考え。

COVID-19では重症患者394人を試験薬群(700mgを第0日と7日に皮注)と偽薬群に2:1割付して28日死亡率を比較した。結果は20.5%で偽薬群の21.6%と大差なかった。65歳超のサブグループでは40.9%と44.8%、以下では9.9%と14.6%となっており、65歳超の構成比が各33%と23%と偏りがあったことが影響した可能性があるようだ。

また、解析対象384人のうち人工呼吸器・ECMO装着の危機的患者62人のサブグループ分析では、28日死亡率が27.9%対36.8%、平均入院期間33.0日対38.5日、28日生存退院率27.9%対10.5%だった。

サブグループ分析はアテにならず、intent-to-treatで重要な因子に群間の偏りがあったのならば、サブグループ分析では別の偏りがあっても不思議はない。追加試験はオープンレーベルとのことだが、もし偽薬対照試験であるならば、症例数が増加するだけでなく前向き試験で仮説検証することになるので、価値があるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Form 8-K(3/8付のIRミーティングで用いられたスライド、pdfファイル)


COVID-19:アクテムラの重症患者試験がフェール
(2021年3月11日発表)

ロシュは、Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)の第3相無作為化割付偽薬対照重症COVID-19肺炎試験、REMDACTA試験がフェールしたと発表した。Veklury(remdesivir)と併用することにより退院の早期化を図ったが、達成できなかった。データは医学誌などで発表する考え。

Actemraを中心とする抗IL-6受容体抗体のCOVID-19治療試験は結果が区々で、何を信じたらよいのか分からないのが現状だ。ポジティブなエビデンスの筆頭は英国でオックスフォード大学が主導したRECOVERY試験で、酸素飽和度低下またはCRP上昇を伴う患者の28日死亡率が偽薬比14%小さかった。4116人と組入れ数が圧倒的に大きいため説得力が高いが、二重盲検でないことや、他の薬の試験とファクトリアル・デザインで実施された特殊性が弱点だ。尚、率比0.86という水準はそれほどでもないが、100人に投与すると4人を死亡から救う計算になるので、軽視できない。

英国などで行われたREMAP-CAP試験も成功した。重度COVID-19肺炎でICUで呼吸または循環サポートを始めた患者803人の臓器無サポート日数(最大21日間追跡)や院内死亡率が対照群より良好だった。尚、この試験ではリジェネロン/サノフィの抗IL-6受容体抗体であるsarilumabも一部の患者で使われ、良い成績を挙げた。

一方、ロシュ主導試験は区々で、重症患者を組入れたCOVACTA試験は28日症状改善率も副次的評価項目の28日死亡率も偽薬群と大差なかった。また、酸素濃度が低下しているが人工呼吸器装着には至っていない患者を組入れたEMPACTA試験は、28日死亡・人工呼吸器装着率が12.2%と偽薬群の19.3%を下回り、ハザードレシオ0.56、p=0.0348となったが、28日死亡率は10.4%対8.6%と有意ではないが好ましくない数値だった。

リンク: ロシュのプレスリリース


FDA、抗PD-1/PD-L1抗体の加速承認取消の当否について諮問へ
(2021年3月12日発表)

FDAは、4月27日から29日の三日間、腫瘍学薬諮問委員会を招集して、加速承認後の市販後コミットメント試験がフェールした事例について現状を報告する。対象は3種類の抗PD-L1/PD-1抗体の4種類の適応症(下記)。各種報道によると、メーカー側が自発的な承認返上に同意しなかった事例について、委員会の意見を求める趣旨のようだ。もし諮問委員会が承認取消に同意した場合、公聴会を経て1年くらい後に断行されるのではないか。

【4月27日】
ロシュのTecentriq(atezolizumab):PD-L1陽性の切除不能局所進行性/転移性トリプル乳癌(nab-paclitaxelを併用)

【4月28日】
MSDのKeytruda(pembrolizumab)とロシュのTecentriq:局所進行性/転移性尿路上皮腫(cisplatinを含む化学療法に不適な場合)

【4月29日】
MSDのKeytruda:PD-L1陽性難治局所進行性/転移性胃・胃食道接合部腺腫(二次以上の治療歴を持つ場合)
MSDのKeytrudaとBMSのOpdivo(nivolumab):肝細胞腫(sorafenibによる治療歴を持つ場合)


米国の加速承認制度は、命に係わる難病を治療する新薬の開発・承認をスピードアップするために、本来求められる薬効(抗癌剤の場合、延命効果またはそれに準じるものや、QOLの改善など)に代えて、反応率やPFS(無進行生存期間)などの代理マーカーに基づいて承認する制度だ。加速承認を得たものは、市販後コミットメントとして、本来求められる薬効を持っていることを別の臨床試験などを通じて立証しなければならない。

非常に優れた制度で、EUは条件付き承認制度として、日本も迅速承認制度として、追随した。一方で不都合な真実も露呈しており、90年代後半には、加速承認の食い逃げを巡ってFDAの軟弱な姿勢を腫瘍学諮問委員会が糾弾したこともあった。承認された薬の偽薬対照試験を行うのは倫理的な問題もあり組入れが中々進まないため、何年経っても完了せず、結局、うやむやになってしまった事例が複数、発生したからだ。対策として、加速承認の時点で市販後コミットメント試験の患者組入れをかなり終えていることが求められるようになったが、今度は、フェールして薬効確認できない事例が増加した。

著名な事例がロシュのAvastin(bevacizumab)だ。08年に転移性乳癌にXelodaと併用することが承認されたが、市販後薬効確認試験が二本ともPFSは成功したものの全生存の解析がフェール、二度の諮問委員会や公聴会を経て、11年11月にFDAが承認を撤回した。尚、欧州や日本では今でも承認されており、判断の難しさを表している。

最近になって、抗PD-1/PD-L1抗体の自発的適応返上が相次いでいる。昨年12月、BMSがOpdivoの小細胞性肺癌三次治療における適応を返上すると発表した。市販後コミットメントを19年7月までに履行する予定だったが二次治療試験がフェール、一次治療後維持療法試験もフェールしたので止むを得ない。

アストラゼネカも今年2月、Imfinzi(durvalumab)を尿路上皮腫の二次治療に用いる適応を自主返上すると発表している。一次治療試験がフェールしたのでこれもやむを得ないだろう。

3月に入って、MSDもKeytrudaを転移性小細胞性肺癌の三次治療に用いる米国での承認を返上すると発表した。次項のように、ロシュもTecentriqの尿路上皮腫二次治療の適応返上を発表した。

残された議題を4月の諮問委員会が検討することになる。

米国でしか承認されていない適応症もあるが、欧州や日本も対岸の火事と懐手している時ではないだろう。制度を適切に運用するためにどのようなアクションが求められるのか、重要な先例になり得るからだ。

リンク: FDAのプレスリリース


ロシュも抗PD-L1抗体の尿路上皮腫二次治療を承認返上へ
(2021年3月8日発表)

ロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)は16年に米国で白金薬による治療歴を持つ局所進行性/転移性尿路上皮腫に初承認された。反応率と反応持続期間に基づく加速承認なので、市販後コミットメント試験であるGO292944試験(IMvigor211試験)で延命効果を確認する必要があったが、PD-L1陽性(IC2/3)患者のメジアン生存期間が11.1ヶ月と化学療法群の10.6ヶ月と大差なく、ハザードレシオ0.87、p=0.41とフェールしてまった。

Tecentriqは17年にcispaltin不適患者の一次治療にも加速承認され、市販後コミットメント試験であるIMvigor130試験がロンチされていた。このため、IMvigor211試験に代えてこの試験で延命効果を確認することになったが、執行猶予は束の間に終わり、この度、二次治療承認を自主的に返上することとなった。

IMvigor130試験は化学療法併用群はPFS(無進行生存期間、担当医評価)が化学療法群を上回り、データは未成熟なものの全生存も数値上は良好だった。しかし、加速承認されているモノセラピーは今一つで推移している。最終結果次第では、モノセラピーの承認も自主返上し、代わりに化学療法併用が承認される、というシナリオもありそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース


【新薬開発】


ノバルティス、抗IL-1抗体の肺がん治療試験がフェール
(2021年3月9日発表)

ノバルティスは、抗IL-1ベータ抗体canakinumabの第3相非小細胞性肺癌試験がフェールしたと発表した。進行/転移非小細胞性肺癌の二次/三次治療を受ける患者237人を組入れてdocetaxelに追加する延命効果を偽薬追加群と比較したが、有意な差がなかった。

canakinumabはIlaris名でクリオピリン関連周期性症候群や全身性若年性特発性関節炎などに承認されている。ノバルティスは炎症が関与する可能性のある様々な疾患に野心的な適応拡大試験を行ってきた。その一つであるCANTOS心筋梗塞再発予防試験の探索的解析で肺癌発症や肺癌死が偽薬群より少なかったことから、非小細胞性肺癌治療試験がロンチされた。

上記のほかに、一次治療レジメンとして白金ベース化学療法及びKeytruda(pembrolizumab)と併用する試験が進行中で、年内に結果が出る見込み。また、早期非小細胞性肺癌の切除後アジュバント試験も組入れ中。

リンク: ノバルティスのプレスリリース
リンク: RidkerらのCANTOS試験探索的研究論文(Lancet、要旨)


【承認申請】


イドルシア、オレキシン受容体アンタゴニストを承認申請
(2021年3月10日発表)

スイスのイドルシア(SIX:IDIA)は、daridorexantを成人の不眠症の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。先般、EUでも承認申請済み。第3相試験二本で主観的・客観的評価項目の改善が偽薬比有意だった。但し、50mgを検討したのは一本だけ、25mgは二本ともテストしたが一部指標は有意水準に届かず、10mgは唯一の試験がトレンドに留まった。多くの解析を行うためにタイプIエラーを大きめに設定したことが影を落としているようだが、エビデンスが強固とは言い難い。

オレキシン受容体アンタゴニストの先輩としてはMSDのBelsomra(suvorexant、和名ベルソムラ)やエーザイのDayvigo(lemborexant、和名デエビゴ)がある。

日本では持田製薬と共同開発販売する。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


AVEO社のVEGFR拮抗剤、8年を経て遂に承認
(2021年3月10日発表)

FDAはAVEO Oncology(Nasdaq:AVEO)のFotivda(tivozanib)を再発/難治性の進行腎細胞腫に承認した。VEGFR阻害剤を含む二次以上の治療歴を持つ患者が適応になる。臨床試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が5.6ヶ月とsorafenib群の3.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.016だった。メジアン生存期間は16.4ヶ月とsorafenib群の19.2ヶ月より短かかったが、ハザードレシオは0.97(95%信頼区間0.75-1.24)で、最終解析で1を上回り承認申請撤回するという最悪のシナリオは実現しなかった。

AVEOはキリンからKRN951をライセンス、アステラス製薬と共に開発し12年にVEGFR阻害剤歴などを持たない患者に承認申請したが、PFSがsorafenibを上回ったとはいえp=0.04と十分に低いとは言えず、全生存期間のハザードレシオは1.245と有意ではないものの好ましくない数値だったためか、13年に審査完了通知を受領、14年にはアステラスが共同開発販売権を返還した。

二本目の第3相三次治療試験が成功し、承認申請したが、ここでもPFSのハザードレシオのpは0.02だった。副次的評価項目である全生存期間のハザードレシオはフラフラしており、最初の解析では1.06だったが、FDAの要請に基づき打切り例の追跡調査を行ったところ1.12に悪化、その後の解析では0.99に改善したがメジアン値は16.4ヶ月対19.6ヶ月と見劣りした。

AVEOは、最終解析で1を超過した場合、申請を撤回することをコミットして承認申請を断行、今回、遂に承認に漕ぎ着けた。

切除不能/転移腎細胞腫は抗PD-1/PD-L1抗体とVGFR阻害剤の併用が一次治療試験で良い成績を挙げており、Fotivdaの試験が行われた頃とは前治療が変わってきている。類薬は複数の適応を持つがFotivdaは一つだけだ。類薬のジェネリック化も始まっており、承認が8年遅れて失ったものは大きい。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: AVEOのプレスリリース


FDAがイエスカルタを濾胞性リンパ腫に適応拡大
(2021年3月5日発表)

FDAはギリアド・サイエンシズのYescarta(axicabtagene ciloleucel)を成人の再発難治濾胞性リンパ腫の3次/4次治療に用いることを加速承認した。辺縁帯リンパ腫も申請していたはずだが、承認されなかったようだ。

B細胞で発現するCD19に結合する抗体のフラグメントやT細胞に副刺激を与えるT細胞受容体の表面分子などを患者から採取したT細胞に導入した、CAR-T療法。17年に米国で再発難治大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として承認されている。

今回の加速承認の根拠となる試験(n=81)では、ORR(客観的反応率)が91%、寛解率は60%だった。8%の患者でG3以上のサイトカイン放出症候群が、21%でG3以上の神経学的毒性が、発生した。

イエスカルタは日本でも第一三共が今年1月、再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫に承認取得した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース





今週は以上です。

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