【ニュース・ヘッドライン】
- アステラス、新作用機序の更年期障害治療薬の第3相が成功
- リムパーザの早期乳癌試験が成功
- ASCO GU:キイトルーダとレンビマの併用が腎臓がんに良績
- ブルーバード、遺伝子療法試験を一時停止
- インサイト、JAK1/2阻害剤のクリーム製剤をアトピーに承認申請
- 抗Nectin-4抗体薬物複合体の適応範囲拡大を申請
- BeiGene、米国でBTK阻害剤の適応拡大申請
- ノバルティス、エンレストの適応範囲が拡大
【新薬開発】
アステラス、新作用機序の更年期障害治療薬の第3相が成功
(2021年2月19日発表)
アステラス製薬は、fezolinetantの第3相更年期血管運動症状(VMS)治療試験が二本とも成功したと発表した。中重度血管運動症状を患う欧米の閉経期女性を偽薬、30mg、45mgの何れかを一日一回経口投与する群に無作為化割付して、第4週時点と第12週時点の中重度VMSの頻度や重症度を比較したところ、全主評価項目で偽薬比有意な差があった。深刻有害事象の発生率は3%未満だった。
当試験は52週間行う予定で、終了後にデータ発表する予定。後期第2相試験では60mgを投与した患者のうち2人で深刻有害事象が発生した(肝臓障害と胆石症)。前者が薬物誘導性であった場合、用量を半分に減らす程度で回避できるとは限らないので、注目される。
fezolinetantは17年にベルギーのOgeda社を買収して入手したNK3受容体拮抗剤。類薬ではMillendo TherapeuticsがアストラゼネカからpavinetantをライセンスしてVMSなどの第2相試験を行ったが一部の被験者で肝機能検査値異常が見られたことなどから17年に開発中止した。一方、バイエルはグラクソ・スミスクラインからスピンアウトした会社のスピンアウトからライセンスしたNK1/3受容体拮抗剤、NT-814/BAY3427080で第3相を開始する予定。
リンク: 同社のプレスリリース(和文)
リムパーザの早期乳癌試験が成功
(2021年2月17日発表)
アストラゼネカとMSDはLynparza(olaparib、和名リムパーザ)の第3相早期乳癌アジュバント試験の独立データ監視委員会が中間解析で成功認定したと発表した。適応拡大申請に向かう見込み。
Lynparzaは06年にKuDOS社を買収して入手したPARP阻害剤。BRCA変異を持つ卵巣癌や乳癌などに承認されている。BRCAに有害変異を持つ人はゲノム複製ミスの修復が上手く行かず、卵巣癌や乳癌のライフタイム・リスクが高い。PARPは別のメカニズムによる修復プロセスに係る酵素で、BRCA機能低下とPARP阻害が重なると、癌化して活発に複製が行われ必然的にミスも増加する癌細胞の成長・分裂を抑制することが可能になる。
今回のOlympiA試験は、生殖細胞系BRCA有害変異を持つher2陰性の早期乳癌の患者で、摘出術後の再発リスクが高く、術前/術後化学療法を受けた患者を組入れて、150mg錠を二錠ずつ、一日二回、最大12ヶ月間服用する群のiDFS(侵襲性無病生存期間)を偽薬群と比較した。データは未発表。
PARP阻害剤の開発は同社もサノフィらも難航し、アストラゼネカはKuDOS買収時に計上した暖簾の減損を計上したこともあったが、見事に蘇り、今日では前立腺癌など意外な癌にも承認されるようになった。
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO GU:キイトルーダとレンビマの併用が腎臓がんに良績
(2021年2月13日発表)
MSDとエーザイは、第3相CLEAR試験(KEYNOTE-581/307試験)の結果をASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿器がんシンポジウム)で発表した。抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を進行腎細胞腫の一次治療に用いたもので、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、第三者評価)も副次的評価項目の全生存期間も、Sutent(sunitinib)群を有意に上回った。どちらも類薬が色々あるが、各種併用法と見比べても良さそうに見える。
PFSのハザードレシオは0.39、メジアン値は各23.9ヶ月と9.2ヶ月。全生存期間は0.66、メジアン値は両群とも未達だった。
この試験では、LenvimaとノバルティスのmTOR阻害剤、Afinitor(everolimus、和名アフィニトール)を併用する群も試験された。PFSはハザードレシオ0.65、メジアン値は14.7ヶ月でSutent群を有意に上回ったが、全生存期間は1.15(95%信頼区間は0.88-1.50)で有意な差はなかった。
VEGFR阻害剤は数多あるが、Lenvimaは癌や併用薬に応じて用量を細かく調整していることが印象的。放射性ヨウ素抵抗性進行性分化甲状腺癌は24mg、腎細胞腫二次治療にeverolimusと併用する時は18mg、肝細胞腫一次治療は体重に応じて8mgまたは12mg、内膜腫二次治療にKeytrudaと併用する時は20mgを、一日一回、服用する。今回の試験ではKeytruda併用は内膜腫と同様に20mg、everolimus併用は腎細胞腫二次治療と同じ18mgを投与した。
メジアン値(ヶ月) | ハザードレシオ | ||
---|---|---|---|
試験薬群 | sunitinib群 | ||
【PFS】 | |||
Keytruda+Lenvima | 23.9 | 9.2 | 0.39 |
Lenvima+everolimus | 14.7 | 9.2 | 0.65 |
Keytruda+axitinib | 15.1 | 11.0 | 0.69 |
Opdivo+cabozantinib | 16.6 | 8.3 | 0.51 |
(Opdivo+ipilimumab) | 11.6 | 8.4 | 0.82 ns |
【全存期間】 | |||
Keytruda+Lenvima | 0.66 | ||
Lenvima+everolimus | 1.15 ns | ||
Keytruda+axitinib | 0.53 | ||
Opdivo+cabozantinib | 0.60 | ||
(Opdivo+ipilimumab) | 0.63 |
リンク: 両社のプレスリリース
ブルーバード、遺伝子療法試験を一時停止
(2021年2月16日発表)
ブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)は、LentiGlobinの重度鎌状赤血球症(SCD)試験二本と、欧州で輸血依存ベータサラセミア(TDT)治療薬Zyntegloとして承認されている製品の販売を一時停止すると発表した。5年以上前に治験に参加したSCD患者が急性骨髄性白血病と診断されたため。
LentiGlobinは患者のCD34陽性細胞にレンチウイルスをベクターとしてベータ・グロブリン遺伝子を導入する、ex vivo遺伝子療法。Zyntegloも同じ手法を用いている。レンチウイルスのRNAは逆転写を経て宿主細胞のゲノムに組み込まれるので持続的なベータ・グロブリン産生が期待できるが、挿入される箇所が不安定で、癌のリスクを慎重に評価する必要があると考えられている。
TDTの臨床試験では血液癌の発現は報告されていないが、SCDでは以前にも多発骨髄腫を発現した症例があった。今回、多発骨髄腫の2例目も明らかにされた。
遺伝子療法との因果関係は明らかではない。LentiGlobinを投与する前に化学療法薬を投与してコンディショニングを行うが、この化学療法薬は数パーセントの患者で多発骨髄腫などの血液癌が生じるリスクがあるからだ。1例目に関してはbusulfanの副作用と考えられているようである。
因果関係を立証するのは常に困難なので、通常は発生率を観察するが、遺伝子療法の対象になる患者は決して多くないため、疫学的な評価はできないだろう。腫瘍細胞のゲノムを調べて挿入箇所を調べ、それが癌原性とどう係るのか検討することが、レンチウイルス・ベクター全般の研究を進めるうえで、重要だろう。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
インサイト、JAK1/2阻害剤のクリーム製剤をアトピーに承認申請
(2021年2月19日発表)
インサイト(Nasdaq:INCY)は、ruxolitinibを中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査バウチャを用いたため審査期限は6月21日と早い。
ruxolitinibは錠剤が骨髄線維症などの治療薬Jakafi(和名ジャカビ)として承認されているが、アトピー用にクリーム状の製剤を開発した。局所治療を求める12歳以上の患者を二本合計で1200人超、組入れて0.75%と1.5%製剤を一日二回塗布したところ、第8週時点のIGA奏効率も、EASI75達成率も、偽薬を有意に上回った。治療時発現有害事象は偽薬群より少なく、深刻有害事象発現率は大差なかった。
リンク: インサイトのプレスリリース
抗Nectin-4抗体薬物複合体の適応範囲拡大を申請
(2021年2月19日発表)
Seagen(Nasdaq: SGEN)とアステラス製薬は、米国でPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)の追加的生物学的製剤承認申請(sBLA)を行ったと発表した。19年に白金薬およびPD-1/PD-L1阻害剤による治療歴を持つ局所進行性/転移性尿路上皮癌に加速承認されたが、市販後コミットメント試験であるEV-301試験が成功したため、本承認切替を求めた。更に、PD-1/PD-L1阻害剤歴を持ち白金薬不適な患者に用いることも承認申請した。
転移性膀胱癌の9割以上で発現するNectin-4に結合して細胞の中に入り、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)を放出する抗体薬物複合体。EV-301試験ではメジアン生存期間が12.9ヶ月と化学療法群の9.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。白金薬不適でPD-1/PD-L1阻害剤歴を持つ患者を組入れた第2相ではcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価方式)が52%、メジアン反応持続期間は10.9ヶ月だった。
リンク: 両社のプレスリリース(和文)
BeiGene、米国でBTK阻害剤の適応拡大申請
(2021年2月17日発表)
中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)は、Brukinsa(zanubrutinib)をワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症(WM)の治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は10月18日。欧米などでも申請中とのこと。
btk阻害剤で、19年にマントル細胞腫の二次治療薬として米国で加速承認された。WMは濾胞性B細胞リンパ腫の一種で、非ホジキン型リンパ腫の2%未満と稀。今回のエビデンスとなるなるのは第3相ASPEN試験。MYD88変異を伴うWMをBrukinsa群とImbruvica(ibrutinib)実薬対照群に無作為化割付して反応を比較したところ、VGPR(最良部分奏効)率が各28.4%と19.2%となり数値上は上回ったものの、有意水準には届かずフェールした。太宗を占めた難治再発患者だけの解析でも28.9%と19.8%で有意差なし。安全性では心房細動や粗動、出血事故がImbruvicaより少なかった模様。
このデータでも承認が取れるのか、要注目だ。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
ノバルティス、エンレストの適応範囲が拡大
(2021年2月16日発表)
ノバルティスは、FDAがEntresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)の適応範囲拡大を承認したと発表した。NEP阻害剤とアンジオテンシンII受容体拮抗剤を一つの分子にした珍しいタイプの薬で、米国では15年に駆出率低下を伴う慢性心不全(HFrEF)患者の心血管死や心不全入院を抑制する適応・効能で承認された。今回の適応範囲拡大は、文言上は、駆出力低下という限定が解除された。但し、便益が最も明確なのは左心室駆出率が正常値以下である場合、との注記がある。一方で、駆出率は変動するので適否は臨床的に判断すべきとの注記もあり、どうしろって言うの、とため息が出る。
エビデンスとなるPARAGON-HF試験では、駆出率が維持されている慢性心不全(HFpEF)を組入れて心血管死・心不全入院のリスクをvalsartan群と比較したところ、率比は0.87、p=0.059で僅かにフェールした。ところが、FDAは前向きでノバルティスに承認申請を促したようだ。駆出率が低下した患者に対する便益は確立しており、今回の被験者は多少高いだけであることや、担当医評価に基づく率比(ポストホック分析)は0.84、p=0.01で、主評価項目との違いは、第三者委員会が担当医報告を査読する際にデータ不足で却下した症例が少なくなく、検出力が低下したことが原因と考えられるためだ。
但し、大規模とは言え一本の試験でp=0.01というのは十分に低いとは言えない。サブグループ分析を見ると、女性には良い数値が出たが男性の率比は1.02だった。同様に、駆出率が被験者のメジアン値(57%)未満の患者では良い数値が出たが以上の患者では1.00だった。また、アジア人種やアジアの拠点のサブグループ分析は点推定値が大きく1を上回っている。エビデンスが頑強とは言い難い。
そもそも、駆出率の正常値とは何なのか、Entrestoのレーベルには記されていない。米国では52~54%、日欧では50%が下限と考えられているようだが、PARAGON-HF試験のうちこのレンジ以下のサブグループの率比が幾つだったのかも、記されていない。
結局、FDAが言いたいのは、これまでFDAやEMAが行っていたHFrEFとHFpEFの分別は適切ではなく、個々の患者の増悪・死亡リスクを踏まえて処方の是非を判断すべきということなのだろう。その意味では、日本の考え方に一歩近づいた。
尚、ノバルティスのプレスリリースによると、米国の慢性心不全患者600万人以上のうち、従来はHFrEF300万人が対象だったが、今回の承認で500万人程度に広がったとのこと。
リンク: 同社のプレスリリース
今週は以上です。
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