2021年2月13日

第986回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アクテムラの大規模試験が成功 
  • COVID-19:FDA、イーライリリーの抗体カクテルにEUA 
  • COVID-19:VIPの試験は本当に成功したのか? 
  • COVID-19:南アがアストラゼネカのワクチンの接種を一時停止 
  • maribavirが12年の雌伏を経て第3相成功 
  • ASCO GU:オプジーボの膀胱癌アジュバント試験が成功 
  • アミカス、ポンペ病の酵素補充療法を承認申請へ 
  • ガラパゴス/ギリアド、オートタキシン阻害剤の臨床試験を中止 
  • 抗TF抗体薬物複合体を子宮頸がんに承認申請 
  • FDA諮問委員会、キイトルーダのTNBC術前術後適応はまだ早いと判定 
  • FDA、CDK4/6阻害剤を化学療法誘導性好中球減少症の抑制に承認 
  • FDA、リジェネロンの抗ANGPTL3抗体をHoFH薬として承認 
  • リジェネロン、抗PD-1抗体が基底細胞癌に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:アクテムラの大規模試験が成功
(2021年2月11日発表)

オックスフォード大学が主導するRECOVERY試験はCOVID-19の治療に有効な薬を発掘するため様々な既存薬や新薬を次から次へとテストしている。医療リソースがひっ迫する中、医療従事者の負担を軽減するため収集する情報量を抑制し、二重盲検ではなくオープンレーベル試験とする一方で、28日間の生存状況という客観的で強固な主評価項目を設定した。これまでにdexamethasoneの有効性、hydroxychloroquineやchloroquine、lopinavir・ritonavir、そして回復期血漿の無効性を明らかにする成果を上げているが、今回、中外製薬が創製しロシュが欧米などで販売している抗IL-6受容体抗体、Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)が酸素投与・人口換気を必要とし炎症が亢進しているCOVID-19患者に有効であることを確認した。治験論文草稿がmedRxivで公開される。

この試験は、他の薬の試験に無作為化割付した患者のうち、酸素飽和度(室温)が92%未満または酸素投与/換気を必要としている、CRPが75 mg/dL以上の患者4116人を、ファクトリアル・デザインでActemra群と標準療法だけの群に再無作為化割付した。Actemraの用量は体重に応じて決定、一回投与して改善しなかったら12~24時間後に再投与可能。被験者の29%が2回超の投与を受けた。被験者のメジアンCRP値は143 mg/dLだった。82%がdexamethasoneなどの全身性ステロイドによる治療を受けた。

結果は、標準療法群の28日死亡率が33%、Actemra群は29%で率比は0.86(95%信頼区間0.77-0.96)、p=0.007だった。通常のフェイスマスク装着だけだったサブグループから人工呼吸器装着ICU入室サブグループまですべてに便益があった。入院から無作為化割付まで2日以内でも2日超でも便益があった。28日生存したまま退院率で見ても47%対54%、率比1.23(95%信頼区間1.12-1.34)、p<0.0001だった。

p値の割には信頼区間が広いのが気にかかるが、点推定値に全集中すると、25人に投与すれば1人を救命できる計算になる。他の24人は投与しなくても結果は同じだが、得るものが命なので価値がある。

あとは、追跡不能例がどの程度あったか、そもそも個々の症例報告がどの程度正確か(こういう状況下なのでミスが多発しても不思議ではない)など、執行面の検証を確認したいところだ。

Actemraなどの抗IL-6受容体抗体のCOVID-19試験は区々な結果になっている。ロシュが主導した試験は一本がフェール、もう一本は成功したものの28日死亡率は、統計的に有意ではないとはいえ、10.4%と対照群の8.6%より高かった。日本で行われたJ-COVACTA試験は単群試験なので自然回復と見分けがつかない。一方、RECOVERY試験と同様に英国で実施され、ICU入室または換気・循環サポートを受けている危機的患者を組入れたREMAP-CAP試験は成功した。この試験では効果とCRP水準の関連性は見られなかったようだ。

RECOVERY試験との整合性が気になるところだが、4000人超という前例とは比べ物にならない規模の試験なので、自ずから、説得力が高い。

リンク: RECOVERY試験のプレスリリース

COVID-19:FDA、イーライリリーの抗体カクテルにEUA
(2021年2月9日発表)

FDAは、イーライリリーの抗体医薬二剤を併用で軽中等症COVID-19感染症の外来治療に用いることをEUA(非常時使用認可)した。一つはカナダのAbCellera Biologicsからライセンスして共同開発したLY-CoV555(bamlanivimab)で、昨年11月に同じ適応でEUAされている。もう一つは中国のJunshi Biosciencesが中国科学院微生物研究所と共同開発しイーライリリーが中国以外でインライセンスしたLY-CoV016(etesevimab)で、SARS-CoV-2のスパイク蛋白の異なったエピトープに結合する。

軽中等症で入院はしていないが重症化するリスクが高い患者1035人(平均で発症後4日と早い)を組入れた第3相試験では、偽薬群の入院・死亡率が7.0%であったのに対してこの二剤を併用した群は2.1%に留まり、相対リスク削減率70%、p=0.0004だった。偽薬群は10人(1.9%)が死亡したが試験薬群はゼロだった。深刻有害事象は各5人と7人で試験薬群のほうが少なかったが、有害事象による死亡は各2人と0人だった。

上記の相対リスク削減率は、bamlanivimabだけを投与した臨床試験とほとんど同じだ。奇妙な話だが、イベント数がそれほど多くないので、どちらも信頼区間が広いのだろう。

尚、この試験では夫々の薬を2800mgずつ点滴静注したが、EUAの用量はbamlanivimabが単剤投与時と同じ700mg、etesevimabは1400mgとなった。臨床的に同等とのことだ。bamlanibimabの点滴時間は60分以上と長かったが、今回、16分以上に短縮された。二剤併用時は一緒に、16分以上かけて点滴静注する。外来治療用なので短時間で済む方が良い。

bamlanivimabの2020年第4四半期の売上高は8.7億ドルに達したが、これは米国政府への売上高で、末端需要はもっと小さい模様だ。ウイルス検査を受けたが症状が重くないため自宅に帰った患者を、診断確定後に医療施設に呼び戻すのはロジスティクス面で簡単ではなく、また、医療施設としてもリソースは重症・深刻患者に割きたいだろう。エビデンスは併用のほうがしっかりしているので今後、普及する可能性もあるが、一方で、米国でも散見される南ア型には効果が低いとも言われており、今回の二剤併用が決定版とは呼べないだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

COVID-19:VIPの試験は本当に成功したのか?
(2021年2月8日発表)

NeuroRxは、RLF-100(aviptadil)の後期第2相/第3相COVID-19呼吸不全治療試験の当初結果を発表した。見出しには退院を早める効果があったと記されているが、プレスリリース本文には明快な記載がなく、信憑性は曖昧だ。同社は9月に集中治療を受けていて既存療法を使い果たした患者を対象とするEUA(非常時使用認可)を申請し、まだ承認されていないが、今回もEUA申請する考え。

RLF-100はヒトVIP(血管作動性腸管ペプチド)を化学合成したもの。VIPの7割は肺の二型肺胞細胞に分布しており、導入元であるスイスのRelief Therapeutics(SIX:RLF)はバイオジェンと提携して肺動脈高血圧症の第2相試験を行ったこともある(その後、提携解消)。

今回の試験は危機的COVID-19感染症で呼吸不全の203人を試験薬群と標準治療のみの群に2対1割付して12時間点滴静注し、転帰を比較した。主評価項目の28日内退院率は各群48%と46%で大差なかった。28日生存率も各群67%と70%で大差なかった。同社は標準治療の進歩が影響した可能性に鑑み、60日生存率を検討すべく追跡調査する予定。

高流量鼻カニュラ酸素(HFNC)療法あるいは人工呼吸器による治療を受けていたサブグループでは、16の副次的評価項目のうち15項目でアドバンテージが見られた。入院期間がメジアン5日間短く(p=0.043)、特にHFNC療法サブグループはメジアン15日と対照群の26日を大きく下回った。

FDAのEUAは正式な承認ではなく、薄弱なエビデンスに基づくEUAも散見される。だから、もし上記サブグループのデータにノイズがなく、忍容性面で脅威がなかったら、EUAを得る可能性もゼロではないだろう。

NeuroRxは不動産開発グループであるビッグ・ロック・パートナーズの企業買収特別目的会社、Big Rock Partners Acquisition Corp.(Nasdaq:BRPAU)と合併で合意している。

リンク: NeuroRxのプレスリリース

COVID-19:南アがアストラゼネカのワクチンの接種を一時停止
(2021年2月7日発表)

南アフリカでは昨年11月以来、B.1.351系統と呼ばれる変異種が流行し、今では太宗を占めるようになった。英国で9月以来流行しているB.1.1.7系統と同様にN501Y変異を持ち細胞感染力が高いことに加えて、自然感染やワクチン接種で獲得される抗体に抵抗性を持つK417N変異とE484K変異を持っているため、英国型変異とは比べ物にならないほど重要な脅威だ。ブラジルの一部地域で流行し日本でも検出されたB.1.1.248系統もN501Y、K417T、E484Kの三点セットを持っている。異なった地域で同じ変異が生じたのだから、他の地域でも三点セットが自然発生することもあるかもしれない。

尤も、ワクチンは液性免疫だけでなく細胞性免疫も誘導するため、偽ウイルス中和試験で解決するほど単純な話ではない。実際に臨床試験で予防効果を確認することが望ましい。

第984回で報告したように、ジョンソン・エンド・ジョンソンが米国でEUA申請したAd26.COV2.Sワクチンは南アの試験でワクチン効率が57%と米国試験の72%より低く、Novavax(Nasdaq:NVAX)の抗原ワクチンも南ア試験は60%と英国試験の89%より低かった。それでも、水準自体はインフルエンザ・ワクチンの疫学データと比べて見劣りするものではなく、一安心と言える。もし必要なら南ア型に対応したワクチンを年内に実用化することも可能だろう。

ところが、Novavaxの試験を主導したウィッツウォーターズランド大学が、オックスフォード大学が創製しアストラゼネカと共同開発販売しているChAdOx1-S(AZD1222)について、臨床試験で軽中等症感染を防ぐ効果がごく小さかったことを発表した。メジアン31歳の低リスク層を組入れたため中重症感染や入院、死亡を防ぐ効果を検討することはできなかった。

査読中の治験論文をプリプリント・サーバーに提出したとのことだが、見当たらないので、おそらくまだ公開されていないのだろう。報道によると、ワクチン効率は22%だったが、南ア型変異の感染に限定すると、ほとんど効果がなかったようだ。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの接種が始まったことも考慮してか、南ア政府はアストラゼネカのワクチンの接種を一時的に停止したという。mRNAワクチンと比べてワクチン効率が低く、高齢者の症例が少なく、二回接種の間隔に4-12週間と幅があり何がベストなのかエビデンスが乏しく、南ア型やブラジル型変異には効果が弱いことを示唆するエビデンスしかないワクチンなのだから、少なくとも南アでは、敢えて使う必要はないと判断したのだろう。政府は他国に転売するオプションも検討しているようだ。インドで生産された低所得向け低価格製品なので、EUや日本に売却する可能性は低いだろう。

リンク: Witsワクチン感染症分析リサーチ・ユニットのプレスリリース


【新薬開発】


maribavirが12年の雌伏を経て第3相成功
(2021年2月12日発表)

武田薬品は昨年12月にTAK-620(maribavir)の第3相移植後サイトメガロウイルス(CMV)感染症/疾患試験の成功を発表したが、具体的な内容がTCT(移植・細胞治療学会議)で発表された。最初の第三相は12年前にフェールしたが、4倍の量を投与した今回の試験は既存のCMV治療薬を上回る成果を挙げた。

maribavirはCMVのUL97プロテインキナーゼを阻害する経口剤。グラクソ・スミスクラインが創製、03年にライセンスしたViroPharmaが他家造血幹細胞移植後のCMV感染を予防する第3相試験を実施したが、6ヶ月間の発症率が4.4%と偽薬群の4.8%と大差なく、肝移植患者を対象とした臨床試験も打ち切った。ViroPharmaを13年に買収したシャイアが第3相治療試験を開始、19年にシャイアを買収した武田薬品が開発を承継した。

今回の第3相は、臓器移植や造血幹細胞移植後にCMV感染症/疾患を発症した難治性の患者(抵抗性も可)を組入れて、200mg錠2錠を一日二回、8週間に亘って経口投与する群のウイルス消失奏効率を実薬(ganciclovirやvalganciclovirなどから医師が選択)と比較した。結果は、各55.7%と23.9%となり、統計的に有意な差があった。臓器移植レシピエント(55.6%対26.1%)にも、造血幹細胞移植レシピエント(55.9%対20.8%)にも、効果があった。

副次的評価項目の、8週間の治療を完了した後さらに8週間経った時点においてウイルス消失を維持するとともに症状管理も良好な患者の比率は18.7%、対照群は10.6%となり、有意な差があった。ウイルス消失率だけの数値は明らかではないが、おそらく、再燃が多かったのだろう、治療直後より低下している。難治性CMVの治療の難しさが窺われる。

有害事象では、ganciclovirやvalganciclovirと比べて好中球減少リスクが小さく、foscarnetと比べて急性腎障害懸念が小さかった。治療時発現有害事象による治験離脱率は13.2%対31.9%と低かった。

今年上期に米国で承認申請する予定。承認されたら初めての難治・抵抗性CMVの治療薬になる。他の地域でも申請予定。

リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)

ASCO GU:オプジーボの膀胱癌アジュバント試験が成功
(2021年2月8日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは昨年9月、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-274試験の成功を公表したが、具体的な内容をASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム)で発表した。抗PD-1/PD-L1抗体の膀胱癌試験は成功したりフェールしたりしていて良く分からないところがあるが、この試験に関しては良好な結果になった。

筋層浸潤尿路上皮癌で切除術を受けたが再発リスクの高い患者709人を組入れて、偽薬または240mgを2週毎に最長1年間投与した試験で、中間解析でDFS(無病生存期間)に有意な差が確認された。共同主評価項目のうち、intent-to-treatベースのDFSは、各群のメジアン値が10.9ヶ月と21.0ヶ月、ハザードレシオ0.70(98.31%信頼区間0.54-0.89)、p<0.001となった。もう一つのPD-L1陽性(≧1%)サブグループのDFSは偽薬群のメジアン値が10.8ヶ月、Opdivo群は未達、ハザードレシオ0.53(98.87%信頼区間0.34-0.84)、p<0.001となった。

G3/4有害事象の発生率は17.9%と偽薬群の7.2%を上回った。

全生存期間や疾病関連の死亡リスクを評価するため、臨床試験は盲検のまま続行しているとのこと。

リンク: BMSのプレスリリース

アミカス、ポンペ病の酵素補充療法を承認申請へ
(2021年2月11日発表)

アミカス・セラピューティクス(Nasdaq:FOLD)は、AT-GAAの第3相遅発型ポンペ病実薬対照試験の結果を発表した。優越性解析がフェールしたが、FDAに承認申請する考えだ。

AT-GAAは細胞取込強化を意図して糖鎖最適化処理を行ったアルファ・グルコシダーゼであるATB200(cipaglucosidase alfa)をAT2221(miglustatカプセル)と併用するもの。後者はアクテリオンを買収したジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているゴーシェ病I型治療薬、Zavesca(和名ブレーザベス)の活性成分と同じだが、グルコシルセラミド合成阻害作用ではなく、cipaglucosidase alfaに結合して安定化し活性を増強する作用が期待されているようだ。

第3相のPROPEL試験は歩行可能で人工呼吸器に依存していない123人をAT-GAA群とLumizyme(alglucosidase alfa)群に2対1無作為化割付した。酵素補充用薬はどちらも20mg/kgを点滴静注、miglustatは260mgを経口で、2週毎に52週間投与した。主評価項目の6分歩行テストはベースライン平均値の約355mから試験薬群は21m、実薬群は7m改善し、差は有意水準には達しなかった。副次的評価項目の%努力性肺活量(% pre. FVC)はベースライン平均値の70%から各群0.9ポイントと4.0ポイント低下し、p=0.023だが、主評価項目がフェールしたので統計的に有意とは言えない。

被験者の77%は治験参加までLumizymeによる治療を受けていた。このサブグループを対象とする事前に設定されていた解析では、6分歩行テストの改善が各16.9mと0m、p=0.046、%努力性肺活量は各0.1ポイント改善と4.0ポイント低下、p=0.006となった。数値は良さそうに見えるが、メインの解析がフェールしたことや歩行テストのp値がそれほど低くないので、説得力は十分でない。

治療時発現深刻有害事象の発現率は9.4%でLumizyme群の2.6%より高かった。治験前からLumizymeを使っていた患者はあまり有害事象が出なかっただろうから、差が出るのは当然だが、やや大きいような印象を受ける。

二剤併用しても効果が単剤を大きく上回らず、副作用は若干増えるというのは今一つ。株価下落が頷かれる。

リンク: 同社のプレスリリース

ガラパゴス/ギリアド、オートタキシン阻害剤の臨床試験を中止
(2021年2月10日発表)

ベルギーのガラパゴス(Nasdaq:GLPG)と米国のギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GLPG1690(ziritaxestat)の臨床試験を中止すると発表した。第3相特発性肺線維症試験、ISABELA試験の独立データ監視委員会が定期的な便益・危険性評価に基づいて中止を勧告したため。詳細は不明だが、全身性硬化症試験も中止を決めたことから想像すると、安全性懸念が浮上したのではないか。

GLPG1690は線維芽細胞の遊走や神経新生、血管新生など様々なメカニズムに係るリゾホスファチジン酸(LPA)の生成に係る酵素、オートタキシンを阻害する小分子薬で、ガラパゴスが発見し、19年にギリアドに欧州以外の地域での開発販売権をライセンスしたもの。

両社はその後、最初に提携したJAK1阻害剤、Jyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)を含む包括的な研究開発提携を結び、ギリアドは契約一時金として39.5億ドルを払い、ガラパゴスの株式を11億ドル相当取得した。

しかし、Jyselecaは日本や欧州で抗リウマチ薬として承認されたものの、米国はFDAが精巣安全性確認試験を要求したためリウマチでの開発を断念するセットバックがあった。第二のコンパウンドであるGLPG1690も挫折したのは痛い。

バイオ株の株主は持続的な株価成長を望むが、新薬開発の成果をコンスタントに生むのは容易ではなく、特に、ギリアドのように大きな成功を収めた会社がそれ以上の成功を実現し続けるのは至難である。代替策として、経営者は他社の開発品を提携や企業買収の形で数多く入手する方向に動きがちだ。両社の巨大提携も、BMSに買収する前のセルジーンも、このパターンである。

第三者としては、開発者が誰でも結果が出ればそれでよいのだが、入手するために高額を払った企業は、新薬の価格を高く設定して投資を回収しようとするので、典型的な外部不経済である。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


抗TF抗体薬物複合体を子宮頸がんに承認申請
(2021年2月10日発表)

デンマークのジェンマブ(Nasdaq:GMAB)と共同開発パートナーで米国などでの商業化を担当するSeagen(Nasdaq:SGEN、旧称シアトル・ジェネティクス)は、Humax-TF-ADC(tisotumab vedotin)を再発/転移子宮頸がん用薬として加速承認するようFDAに求めたと発表した。化学療法歴のある患者を想定している。

腫瘍の成長や転移、血管新生などに係るとされ子宮頸がんなどで高発現する、TF(組織因子)を標的とする抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体。承認申請の根拠となる三次治療試験では、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が24%、メジアン反応持続期間は8.3ヶ月だった。有害事象は脱毛、鼻血、悪心、結膜炎、疲労、ドライアイなど。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、キイトルーダのTNBC術前術後適応はまだ早いと判定
(2021年2月9日報道)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をトリプル・ネガティブ早期乳癌の摘出術前(ネオアジュバント)及び術後(アジュバント)療法に用いる適応拡大に関して、意見を求めた。延命効果が確認されるまで承認を待つべきという審査担当者の考えを10人全員が支持した。

この適応拡大申請は、19年にESMO(欧州臨床腫瘍学会)で結果が発表され20年にはNew England Journal of Medicineに論文刊行された、KeyNote-522試験に基づくもの。ステージII/IIIで初めて治療を受ける患者を組入れて、ネオアジュバントでは化学療法と併用、アジュバントは単剤投与し、偽薬を併用/単剤投与する群と比較した。

主評価項目はネオアジュバントにおけるpCR(病理学的完全奏功)と、イベント・フリー・サバイバル(EFS)。中間解析でKeytruda併用群のpCRが64.8%と偽薬併用群の51.2%を有意に上回り、成功認定された。EFSはハザードレシオが0.63と良好な内容だったものの、目標イベント数に達していないことや中間解析は閾値が厳しく設定されるため、有意水準に達していない。

諮問委員会用資料を読んで驚かされたのは、中間解析後のデータも含めたアップデート値では、pCRの差が7%強に縮小したという。また、Keytruda群の784人中4人が免疫関連有害事象により死亡した。

FDAはpCRが必ずしも延命またはそれに準じる効果とリンクしないことを指摘。EFSのアップデート値はハザードレシオ0.65、p=0.0025となっているが、この段階の解析に割り当てられたアルファは0.0021なので未だ有意とは言えないと判断し、MSDが承認申請する前から否定的にフィードバックしていた。

EFSの第3回中間解析が今年第3四半期にも行われる見込みと報じられているので、承認は早くても半年間お預けになりそうだ。

さて、ネオアジュバントに用いられる薬の多くはこの用途では未承認だ。早期乳癌のネオアジュバント療法薬として米国で最初に承認されたのはロシュのPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)で、13年のことだ。第2相her2陽性早期乳癌試験でHerceptinとdocetaxelのレジメンに併用した群のpCRが39.3%とHerceptin・docetaxelだけの群の21.5%を上回った。この時もFDAはpCRに基づく承認に否定的だったが、転移後一次治療試験が成功し承認されていることや、別途、延命効果確認試験が行われることから、加速承認なら可と判断した。

今回との違いは、第一に、Keytrudaはトリプル・ネガティブ乳癌の転移後一次治療に用いることが承認されているが、対象はPD-L1陽性(CPS≧10)に限定されている。第二に、ロシュはネオアジュバントの承認を先に取ったが、MSDはアジュバントも一緒に申請したこと。アップデートされたpCRが成功認定された時の数値からだいぶ低下していることもマイナス材料ではあるだろう。


【承認】


FDA、CDK4/6阻害剤を化学療法誘導性好中球減少症の抑制に承認
(2021年2月12日発表)

FDAは米国ノースカロライナ州の新興新薬開発企業、G1 Therapeutics(Nasdaq:GTHX)のCosela(trilaciclib)を承認した。進展型小細胞性肺癌で化学療法を受ける患者の骨髄抑制リスクを削減する目的で使う。臨床試験では重度好中球減少症の発生率や罹患期間が減少した。主な有害事象は疲労、カルシウムやカリウム、リンの減少、肝機能検査値異常など。注射箇所反応や間質性肺疾患/肺臓炎、胚胎毒性にも注意するよう呼びかけた。

静注点滴用の短期作用性サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害剤で乳癌や大腸癌でも開発されている。ベーリンガー・インゲルハイムが米国などで3年間、コプロモする。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、リジェネロンの抗ANGPTL3抗体をHoFH薬として承認
(2021年2月11日発表)

FDAは、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のEvkeeza(evinacumab-dgnb)を12歳以上のホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)治療薬として承認した。HoFHは両親から受け継いだLDL-C受容体などの遺伝子の両方に機能低下・喪失変異を持ち、血清コレステロール値が著しく高い。Evkeezaはアンギオポエチン様タンパクIII型(ANGPTL3)を標的とする抗体で、スタチンや抗PCSK9抗体がLDL-C受容体やその川下に作用するのに対して、トリグリセライドなどを分解するリパーゼを阻害する。

12歳以上の患者65人を組入れて4週毎投与した第3相試験では、LDL-C(ベースライン値は255mg/dL)から24週後に47%低下した。偽薬群は2%上昇した。主な有害事象は鼻咽頭炎やインフルエンザ様疾患など。1名で深刻な過敏反応が見られた。胎児毒性がある。

用量は体重と相関するため薬剤費も患者毎に違うが、会社側は平均で年45万ドルと予想している。上記試験では被験者の98%がスタチンを、81%がPCSK9阻害剤を併用していたが、抗PCSK9抗体だけでも高いのに更に45万ドルは高いように感じられる。米国で推定1300人が罹患する超希少疾患なので止むを得ないと言えばそうなのだが、おそらく、今後、ヘテロ接合型などに適応拡大していくのだろうから、抗PCSK9抗体などの価格水準と並べても良かったのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース

リジェネロン、抗PD-1抗体が基底細胞癌に適応拡大
(2021年2月9日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)を基底細胞癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。第一選択薬であるヘッジホッグ・パスウェイ阻害剤に不応または不耐の患者が適応になる。局所進行性の癌に関しては正式な承認、転移性は加速承認で別途、薬効確認が必要。

第2相単群試験に基づく承認で、局所進行性基底細胞癌ではORR(客観的反応率)が29%(完全反応率6%)、反応例の79%は6ヶ月以上持続、転移性ではORR21%(完全反応なし)、反応した6人全員が6ヶ月以上持続した。深刻有害事象の発現率は32%だった。

Libtayoは抗PD-1抗体。18年に米国で、19年にはEUでも、局所進行/転移皮膚扁平上皮癌に単剤投与する用途で承認された。先行類薬が多いためか、ニッチな領域を最初に攻めたが、本丸であるPD-L1高発現局所進行性/転移性非小細胞性肺癌一次治療でも承認審査中で、米国の審査期限は今月末となっている。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

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