2018年6月3日

2018年6月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:テセントリク、肺癌一次治療試験成功 
  • ASCO:PI3Kアルファ阻害剤の第三相が成功したが... 
  • アストラゼネカ、ファセンラのCOPD試験は三連敗に 
  • JNJ、イムブルビカをWM血症の一次治療薬として適応拡大申請 
  • カタリスト社、LEMS用薬を承認申請 
  • ノバルティス、レボレードを再生不良性貧血の一次治療薬として適応拡大申請 
  • 田辺三菱、ALS用薬を欧州でも承認申請 
  • CHMPがトランスサイレチン・アンチセンス薬などの承認に肯定的意見 
  • イーライリリー、FDAがオルミエントをやっと承認したが... 
  • ゼルヤンツ、潰瘍性大腸炎に承認 
  • クロビス、RubracaがEUで承認 
  • ロシュ、パージェタによるアジュバント療法がEUで承認 
  • EU、膀胱癌におけるキイトルーダとテセントリクの適応を限定 


【新薬開発】


ASCO:テセントリク、肺癌一次治療試験成功
(2018年6月2日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用試験二本の結果を発表した。一本は扁平上皮性だけを組入れたIMpower131試験で、ASCO米国臨床腫瘍学会でデータ発表された。もう一本は扁平上皮以外を組入れたIMpower130試験で、成功したことだけがプレスリリースで公表された。

非小細胞性肺癌の一次治療標準療法併用試験は扁平上皮型だけ別にするのが一般的だ。標準療法の一つであるAlimta(pemetrexed)が有効でないからだ。131試験の場合は、carboplatinとAbraxane(nab-paclitaxel)を併用するC群(以下、標準療法群)と、更にTecentriqを追加するB群(三剤併用群)を比較した。このほかに、通常のpaclitaxelとcarboplatin、そしてTecentriqを併用するA群も設定されている。

主評価項目はB群とC群のPFS(無進行生存期間)と全生存期間の二つ。多重性を回避するために、A群の解析は共同主評価項目が両方成功するのを待って実施する。

ASCOではPFS解析が発表された。メジアン値は標準療法群が5.6ヶ月、三剤併用群は6.3ヶ月とそれほど大きな差はないが、ハザードレシオは0.71(95%信頼区間0.60-0.85)、ログランクp=0.0001なので、免疫療法らしくディケイが長い。腫瘍細胞と浸透免疫細胞のPD-L1発現状況との関連性は、高発現サブグループではハザードレシオ0.44、低発現は0.70、一方、陰性サブグループは0.81で有意差なしとなっている。

一方、全生存解析はまだ中間解析で有意差が出ていない。この試験盲検ではなく、PFS判定の査読も行われていない。深刻な治療関連有害事象の発生率が標準療法群の10%から三剤併用は20%と倍増したことも懸念材料だ。従って、全生存の解析が成功するまで、本試験が成功したとは、名実ともに、言えないだろう

130試験は、carboplatinとAbraxaneの併用を標準療法として更にTecentriqを追加する効果を検討した。主評価項目は、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になるEGFR/ALK変異型を除外したユニバースのPFSと全生存期間。どちらも成功した。

非扁平上皮性非小細胞性肺癌一次治療では、carboplatinとpaclitaxel、そしてAvastinの三剤併用を標準療法と見做して更にTecentriqを追加したIMpower150も成功している。paclitaxel系を好む医師や患者には朗報となる。一方、Alimtaを好む医師・患者にはそれほどでもないだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース(131試験について)
リンク: 同(130試験について、5/29付)

ASCO:PI3Kアルファ阻害剤の第三相が成功したが...
(2018年6月2日発表)

ロシュ・グループのGDC-0032(taselisib)の最初の第三相試験の結果もASCOで発表された。PFSが有意に伸びたものの忍容性があまりよくなく、承認申請を見送る可能性がありそうだ。

GDC-0032はPI3K(phosphoinositide-3 kinase)阻害剤だがアルファ・アイソフォーム選択的であることがPI3Kガンマ阻害剤であるギリアドの慢性リンパ性白血病薬、Zydelig(idelalisib)や、ロシュのPI3K阻害剤、RG7321/GDC-0941(pictilisib)との違いだ。

今回のおSANDPIPER試験は、エストロゲン受容体陽性でher2陰性の局所進行性/転移性乳癌でアロマターゼ阻害剤歴を持つ患者をfulvestrant群とGDC-0032併用群に1対2割付した。主評価項目はPIK3CA変異サブグループの担当医評価に基づくPFS。結果は、ハザードレシオ0.70、pは0.0037、各群のメジアンは5.4ヶ月と7.4ヶ月となった。全生存の解析は未成熟。一方、有害事象による治験離脱は各群2%と17%で失望的な結果になった。

リンク: ASCOのプレスリリース

アストラゼネカ、ファセンラのCOPD試験は三連敗に
(2018年5月30日発表)

アストラゼネカは、Fasenra(benralizumab、和名ファセンラ)の二本目の第三相中重度COPD試験がフェールしたと発表した。一本目も、POC試験もフェールしており、三連敗である。

Fasenraは協和発酵キリングループのBioWaからライセンスした、IL-5受容体アルファ鎖を標的とするPOTELLIGENT抗体で、重度管理不良喘息症のうち好酸球が増加しているタイプに追加する薬として日米欧などで承認されている。

競合薬であるグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)は、2年ほど早く好酸球型重度管理不良喘息症に承認されている。COPDの第三相は、一本では好酸球型サブグループに良い結果を出したが全体の解析はフェール、好酸球型だけを組入れた試験はフェールしたが、昨年11月に米国で適応拡大申請された。

もしNucalaの適応拡大が認められるならば、そしてもしFasenraの臨床試験で好酸球型サブグループの解析が良い結果になっているならば、Fasenraの適応拡大も認められる可能性がありそうだ。しかし、常識的に考えれば、どちらの薬も適応拡大が認められないだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、イムブルビカをWM血症の一次治療薬として適応拡大申請
(2018年6月1日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)のワルデンシュトレーム型マクログロブリン(WM)血症一次治療試験の結果がASCOで発表された機に、米国で適応拡大申請したことを明らかにした。慢性リンパ性白血病などに承認されているBTK阻害剤で、WM血症に関しては現在は二次治療と化学療法不耐の一次治療に限定されている。

第三相一次治療試験が成功したことは昨年12月に発表済みだが、今回、データが明らかになった。rituximabと併用した群のPFSのハザードレシオはrituximabだけの群と比べて0.2となり、総合反応率も72%から92%に上昇した。

リンク: JNJのプレスリリース

カタリスト社、LEMS用薬を承認申請
(2018年5月29日発表)

カタリスト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:CPRX)は、米国でFirdapse(amifampridine phosphate)をランバート・イートン筋無力症候群(LEMS)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。審査期限は11月28日。

LEMSは多くの患者でカルシウムチャネルに対する自己抗体が見られ、血漿交換やステロイド治療に反応する。小細胞性肺癌などとの関連が見られ傍腫瘍性神経症候群と認識されている。

Firdapseはカリウムチャネルブロッカーで、09年にEUで文献データに基づき例外的承認を受けた。前後して、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)がHexley社を買収、権利を取得した。カタリストは12年に北米の権利を取得、15年にLEMSと先天性筋無力症の対症療法として承認申請したが、FDAは受理しなかった。相談を踏まえて今回、LEMSに絞って承認申請。先天性筋無力症は承認申請用試験を開始した。

リンク: カタリスト社のプレスリリース

ノバルティス、レボレードを再生不良性貧血の一次治療薬として適応拡大申請
(2018年5月30日発表)

ノバルティスは、Promacta(eltrombopag olamine、和名レボレード)を再生不良性貧血の一次治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査。期限は公表されていない。

トロンボポイエチン受容体を作動する経口剤で、特発性血小板減少性紫斑症の治療薬として08年に発売された。再生不良性貧血は5年生存率60%程度の深刻な疾患で、カルシニューリン阻害剤などの免疫抑制剤が第一選択になる。Promactaは14年に二次治療薬として承認された。一次治療では免疫抑制剤と併用する。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

田辺三菱、ALS用薬を欧州でも承認申請
(2018年5月28日発表)

田辺三菱製薬は、欧州でedaravoneを筋萎縮性側索硬化症(ALS)用薬として承認申請したと発表した。フリーラジカル・スカベンジャーで、2001年に日本で脳梗塞急性期治療薬として初承認された薬が14年後にALS治療薬として再誕生するという、正に定年延長の時代を象徴する薬と言えよう。欧米での開発は脳梗塞試験がフェールしたまま滞っているが、FDAは日本の試験データに基づいて17年5月にALS治療薬Radicavaとして承認した。

リンク: 田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)


【承認審査・委員会】


CHMPがトランスサイレチン・アンチセンス薬などの承認に肯定的意見
(2018年6月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、5月の会合で、Tegsediなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Tegsedi(inotersen)はトランスサイレチンの生産を妨げるアンチセンス薬で、先天性ATTR(トランスサイレチン調停アミロイドーシス)の多発神経障害(ステージ2まで)の治療に用いる。アンチセンス薬の開発で実績のあるIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が創製し、スピンアウトであるAkcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)にライセンスした。米国でも審査中で、優先審査指定されたが審査期限は10月6日に3ヶ月延期された。

アンチセンス手法の一つであるRNA介入薬の開発で先行するAlnylam Pharmaceuticals(Nasda:ALNY)もALN-TTR02(patisiran)を前後して承認申請しており、日本でも審査中。治験成績を見比べるとpatisiranのほうが良さそうだ。Tegsediは皮注であることが長所(patisiranは70分点滴静注)。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: IonisとAkceaのプレスリリース

Aimovig(erenumab)は、アムジェンが創製し日米以外ではノバルティスが販売する抗CGRP受容体完全ヒト化抗体。慢性または反復性の偏頭痛の予防に用いる。片頭痛は欧州の有病率15%で、遺伝子の影響が大きいとのこと。月間片頭痛日数が4日以上の患者が対象で、臨床試験では偽薬群より月1~2日少なかった。月一回皮注。米国で今年5月に承認され、問屋取得価格は、抗体医薬としては安価な、年6900ドルと発表された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

Aegerion Pharmaceuticals(Nasdaq: AEGR)のMyalepta(metreleptin)は遺伝子組換え型レプチン・アナログ。脂肪萎縮症(LD)のレプチン欠乏の矯正に用いる。対象となるのは、先天的全身性LD(2歳以上)、後天性全身性LD、そして家族性部分LD(12歳以上)。世界で数千人の超希少疾患。

米国ではアムジェンから権利を取得したアミリンが承認申請し、14年にMyalept名で承認。日本はアミリンからライセンスした塩野義製薬が13年に承認取得した。アミリンはBMS、そしてアストラゼネカに買収され、Aegerionはアストラゼネカから塩野義が保有する以外の権利を譲り受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

大塚製薬のRxulti(brexpiprazole)は統合失調症治療薬。Abilify(aripiprazole)の構造転換で、D2受容体活性が低く、5-HT1A/2A受容体結合力が高い。米国で15年7月にRexulti名で、日本でも今年1月にレキサルティ名で、承認された。ルンドベックとの開発販売提携の対象。

一方、否定的意見となったのはSarepta Therapeutics(Nasdaq:SPRT)のExondys(eteplirsen)。ジストロフィン遺伝子の転写・翻訳プロセスに介入しエクソン51の読み取りをスキップさせる核酸医薬で、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として承認申請された。米国では16年に承認されたが、審査担当者や部門長の反対を上層部が覆した経緯がある。

CHMPは先月、トレンド投票を行って反対意見が多いことを確認した。通知を受けたSareptaが適時開示したため、否定的意見に終わることは予想されていた。同社は再審請求を行うとともに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに詳しい医学者に諮問するよう求めた。再審請求になれば、rapporteur(審査担当)二国が交代することになる。

リンク: Sareptaのプレスリリース


【承認】


イーライリリー、FDAがオルミエントをやっと承認したが...
(2018年6月1日発表)

イーライリリーは、FDAがOlumiant(baricitinib、和名オルミエント)の2mgを中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として承認したと発表した。TNF阻害剤を使っても十分に反応しない患者に、単剤投与またはDMARDsと併用する。

17年に承認された欧州や日本の用量は、第三相試験と同じで、治療開始時は4mgを一日二回、経口投与、応答なら2mgに減量を検討する。しかし、FDAは4mgの深静脈血栓や肺塞栓のリスクが100人年当り0.46と高いことや腫瘍、結核などの増加を懸念。諮問委員会も4mgについては15人の委員の中10人が危険が便益を上回ると判断した。尚、この副作用は日本や欧州のレーベルにも記されている。

インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスしたJAK1/2阻害剤で、類薬は存在するが血栓塞栓リスクは本剤特有のようだ。4mgの採用が奏功し、TNF阻害剤より効果が高いことをアピールできるはずだったが、米国に関しては画餅になった。深刻感染症や腫瘍に加えて、血栓リスクも枠付き警告となった。

リンク: 両社のプレスリリース

ゼルヤンツ、潰瘍性大腸炎に承認
(2018年5月30日発表)

FDAは、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)を中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる適応拡大を承認した。注目された用量は、臨床試験の用法と同様に、5mgではなく10mgを一日二回で開始して、8週間経ったら5mgに減量可。潰瘍性大腸炎で経口剤が承認されたのは初めて。

JAK阻害剤の第一号で12年に米国で中重度リウマチ性関節炎治療薬として承認された。EUの承認は5年後なので、EU承認が先行した上記のOlumiantと正反対だ。免疫抑制力が著しく強く、感染症が腫瘍のリスクが高まる可能性がある薬の難しさを痛感する。

今回の適応拡大は、日本で5月に承認。上記では割愛したが、CHMPも5月の会議で肯定的意見をまとめた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

クロビス、RubracaがEUで承認
(2018年5月29日発表)

クロビス・オンコロジー(Nasdaq:CLVS)は、PARP阻害剤Rubraca(rucaparib)がEUで承認されたと発表した。BRCA遺伝子変異陽性卵巣がんで、白金薬に感受した治療歴を持つがこれ以上の投与は無理という患者の三次治療に用いる。BRCA変異は生殖細胞系(先天的)でも体細胞系(後天的)でも可。

米国では16年に同じ用途で、今年4月には白金薬感受性卵巣癌で白金薬2次治療に応答した患者の維持療法として、承認されている。欧州でも維持療法を承認申請する考え。

リンク: クロビスのプレスリリース

ロシュ、パージェタによるアジュバント療法がEUで承認
(2018年6月1日発表)

ロシュは、Perjeta(pertuzumab、和名パージェタ)をher2陽性早期乳癌の術後アジュバント療法に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。化学療法薬やHerceptin(trastuzumab)と併用で1年間投与する。昨年12月に承認された米国と同様に、対象は高リスク患者(リンパ節転移やホルモン受容体陰性)に限定された。尚、日本でも昨年10月に適応拡大申請されている。

抗2C4ヒト化抗体で、her2がher3などと共益するのを妨げる。今回の承認はAPHINITY試験のエビデンスによるもので、全ユニバースの無再発生存期間解析はハザードレシオ0.81、p=0.045と点推定値もp値もボーダーライン上だったが、高リスクサブグループでは、リンパ節転移はハザードレシオ0.77、ホルモン受容体陰性は0.76と良い数値が出た。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、膀胱癌におけるキイトルーダとテセントリクの適応を限定
(2018年6月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とロシュのTecentriq(atezolizumab)を膀胱癌の一次治療に用いる時の適応を限定すると発表した。これまではPD-L1発現は不問とされたが、陽性患者に限定する。具体的には、Keytrudaはcombined positive scoreが10以上の強陽性。Tecentriqは白金薬不適の一次治療に承認されているが、PD-L1発現5%以上が条件になる。

5月20日号に記したようにFDAも同様な安全性情報を発出したが、適応限定まで踏み込んではいない。

ことの発端は、KeytrudaのKeynote-361及びTecentriqのIMvigor130試験の中間解析で、モノセラピー群の全生存期間が化学療法群より短いことが判明したため。化学療法併用群も設定されているので、今後はこの群の成績が注目される。

リンク: EMAのプレスリリース





今週は以上です。

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