2018年6月10日

2018年6月10日


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:MSD、キイトルーダのデータ続々 
  • ASCO:PARP阻害剤は前立腺癌にも有効? 
  • ASCO:アストラゼネカ、抗CD22ADCのデータを発表 
  • ファイザー、PARP阻害剤を承認申請 
  • ロシュ、RituxanがPVに適応拡大 
  • ジェネンテック、bcl-2阻害剤が併用療法も承認 
  • タグリッソ、EUで一次治療が承認 
  • アムジェン、プラリアがEUで適応拡大 


【新薬開発】


ASCO:MSD、キイトルーダのデータ続々
(2018年6月3日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)はBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)と激しい首位争いをしている。臨床開発はOpdivoが先行したが、Keytrudaが追い抜き抗PD-1抗体の承認第一号に。Opdivoは適応拡大を進めて年商で首位に立ったが、非小細胞性肺癌試験の成否で明暗が分かれ、Keytrudaが再び首位に立った。

BMSは同社のYervoy(ipilimumab)との併用や、Tumor Mutation Burdenという新しいバイオマーカーの適用で差別化を図っているが、非小細胞性肺癌に関しては今のところ、裏目に出てしまった。

今年のASCO臨床腫瘍学会では、Keytrudaの第三相試験の結果が続々と発表され、耳目を集めた。他のPD-1/PD-L1阻害剤のデータも数多く発表されたのだが、印象に残るデータ、忘れてはいけない研究成果はKeytruda一色に染まっている。

まず、KEYNOTE-407試験。転移性扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療試験で、carboplatinとpaclitaxel(またはnab-paclitaxel)の標準療法と更にKeytrudaを追加する三剤併用を比較したところ、主評価項目の全生存期間のハザードレシオは0.64で有意な差があった。各群のメジアン値は各11.3ヶ月と15.9ヶ月だった。

PD-L1発現と薬効の関連性はどうか?MSDが採用しているTPSが1%未満のサブグループではハザードレシオ0.61、1~49%では0.57、50%以上では0.64と何れも良い結果が出た。但し、50%以上のデータは95%上限が1.10なので有意ではない。被験者全体に占める各サブグループの比率は35%、37%、26%となっており、症例数が少ないことが影響したのかもしれない。

PFS(第三者査読後)のハザードレシオは0.56、ORR(客観的反応率)は各群38%と58%で、いずれも三剤併用群が有意に優れていた。一方、治療関連有害事象による治験離脱は12%対23%で増加。治療関連有害事象で死亡した患者は6人(2.1%)対10人(3.6%)となった。

6月3日号で取り上げたロシュのTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower131試験のデータと見比べると、どちらも主目的を達成したが、Tecentriqは少なくとも現時点では未だ全生存期間延長効果が確認されていない。中間解析におけるメジアン生存期間は14.0ヶ月で標準療法群を0.1ヶ月上回っただけであることが判明した、PFSでは有意差があったがメジアン値の群間差は1ヶ月足らずだ。オープンレーベル試験なので担当医評価に基づくPFSだけではエビデンスとしての頑強性に欠ける。データの量、質、共に、Keytrudaに軍配を上げざるを得ない。

次に、KEYNOTE-042試験は局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療においてcarboplatinとnab-paclitaxelの併用とKeytrudaのモノセラピーを比較したもの。TPSが1%以上の患者が対象で、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になる患者は対象外。主評価項目は全生存期間で、TPSの閾値に応じてシーケンシャルな解析が行われた。

まず、TPS≧50%サブグループでは、ハザードレシオ0.69で有意、メジアンは各12.2ヶ月対20ヶ月。このタイプに対する一次治療モノセラピーは米国では2年前に承認されているが、その根拠となった042試験のハザードレシオは0.6なので、まあまあ再現された。次に、TPS≧20%では0.77で有意、各13.0ヶ月と17.7ヶ月。最後に、intent-to-treat(TPS≧1%)は0.81で有意、各12.1ヶ月と16.7ヶ月だった。

ところが、探索的に行われたTPSが1~49%のサブグループ解析は、ハザードレシオが0.92で95%信頼区間が1を跨いでいた。042試験の成功が発表された時は対象患者数が増加すると期待したが、実現しないかもしれない。

非小細胞性肺癌の一次治療で、治験成績が一番良いのはKeytrudaと化学療法の三剤併用だ。TPSが低い患者にも有効なので、忍容できそうな患者なら第一選択、もし化学療法不適でもTPS≧50%ならKeytrudaモノセラピー、という使い分けになりそうだ。正し、EGFRやALKの活性化変異のある癌はEGFR阻害剤やALK阻害剤が第一選択。

尚、この試験における治療関連有害事象死亡は各群14人と13人で大差なかった。全割付数は1274例なので、2%強に相当する。

次に、KEYNOTE-427試験。第二相の末期腎細胞腫一次治療試験で、ORR(総合反応率)は38%。PD-L1高発現サブグループでは50%、中高リスクグループでは42%だった。末期腎細胞腫ではOpdivoがモノセラピーで二次治療に、Yervoy併用で一次治療に、承認されているが、後者のORRは41%なので、モノで38%なら悪くない。尤も、免疫強化療法の真価を測るためにはORRではなく全生存期間を見る必要がある。単群試験ではエビデンスとして弱いので、対照試験のデータを見てみたい。

腎細胞腫では、KEYNOTE-526試験のデータが目を引く。MSDが大金を賭けて共同開発販売権を取得した、エーザイのLenvima(lenvatinib)と併用したP1b/2バスケット試験だ。腎細胞腫コフォートのORR(独立放射線学的査読後)が66%と、30例ほどの小規模なデータではあるものの、Opdivo・Yervoy併用よりだいぶ見栄えのする数字が出ている。

一方で、有害事象による治験離脱が26%と多いのは気になるところ。超強力な抗癌剤を使って癌を殺すことに成功しても患者が死んだら意味がない。ORRのデータしかない場合は、副作用リスクにも十分に目配りする必要がある。

Lenvima・Keytruda併用は末期腎細胞腫用途でFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。第三相は腎細胞腫一次治療と子宮内膜症二次治療の二本が治験登録されている。

リンク: MSDのプレスリリース(407試験)
リンク: 同(042試験)
リンク: 同(427試験)
リンク: エーザイとMSDのプレスリリース(Keytruda・Lenvima併用試験)

ASCO:PARP阻害剤は前立腺癌にも有効?
(2018年6月4日発表)

MSDは、Keytrudaの併用レジメン開発に際して、他社と積極的に提携している。ASCOでは上記のLenvima併用試験データのほかに、アストラゼネカのLynparza(olaparib)の第二相前立腺癌モノセラピー試験の結果も発表された。

LynparzaはPARP阻害剤で、BRCA変異型の卵巣癌や乳癌に承認されている。今回の試験は、転移性去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxelによる治療歴を持つ患者142人を、abiraterone(JNJのZytiga)とprednisoneを併用する対照群と更にLynparzaを用いる群の放射線学的PFSを比較したもの。HRR(homologous recombination repair:相同組換え修復)ステータスは不問。

結果は、各群のメジアン値は8.2ヶ月と13.8ヶ月、ハザードレシオは0.65となり、有意な差があった。一方全生存の解析は各20.9ヶ月と22.7ヶ月、ハザードレシオ0.91で有意差なし。また、有害事象による治験離脱は10%対30%で3倍。深刻な心血管イベントは1対7で7倍だった。報道によると、致死的有害事象の発生率も1%対6%、6倍であった模様。

Lynparzaは12年前にKuDOS社を買収して入手したコンパウンドで、本命はBRCA変異乳癌だった。前立腺癌に有効というのは初耳で、驚いた。もっと大規模な試験で便益と危険のバランスが適切かどうか、確認する必要がありそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

ASCO:アストラゼネカ、抗CD22ADCのデータを発表
(2018年6月4日発表)

アストラゼネカの子会社のインターミューンは、CAT-8015(moxetumomab pasudotox)を有毛細胞白血病の三次治療薬として米国で承認申請し、4月に受理されたが、根拠となった第三相試験のデータがASCOで発表された。再発性/難治性の80人を組入れた単群試験で、主評価項目の持続的(血液学的寛解が180日超持続)完全反応率が30%、客観的反応率は75%だった。

治療関連有害事象による治験離脱は、溶血性尿毒症症候群によるものが5%、毛細管漏出症候群3%、血清クレアチニン上昇3%で発生した。

有毛細胞腫で高発現するCD22に結合してインターナライズし、内部で細胞毒を放出する、抗体薬物複合体(ADC)。米NCI(国立がんセンター)から開発権を取得した会社が英国の代表的なバイオ開発企業だったCambridge Antibody Technology(CAT)に権利を譲渡、そのCATをアストラゼネカが06年に買収という経緯だ。今回の第三相のスポンサーはNCIなので、アストラゼネカだけでなくNCIもネバーギブアップだったことになる。

抗CD22ADCというと、ファイザーのBesponsa(inotuzumab ozogamicin)が再発性難治性前駆B急性リンパ性白血病用薬として日米欧で承認されている。英国の代表的なバイオ開発会社であったセルテックの創製で、セルテックはUCBが買収、共同開発していたワイスはファイザーが買収と、変遷した。

ウインブルトンと同じで、表舞台に立つことができなくても、裏舞台で戦いを続けるのが英国だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


ファイザー、PARP阻害剤を承認申請
(2018年6月7日発表)

ファイザーは、talazoparibを欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査を受け、審査期限は今年12月。

EMBRACA試験に基づくもので、生殖細胞性BRCA変異を持ち、トリプルネガティブまたはher2陰性の局所進行性転移性乳癌431人を組入れて1mgを一日一回、経口投与したところ、PFSがメジアン8.6ヶ月と対照群(capecitabine、eribulin、gemcitabine、vinorelbineの中から医師が選んで投与)の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54、有意だった。

16年に買収したメディベーション社が前年にBioMarin社からインライセンスしたもの。BRCA変異乳癌は、アストラゼネカのLynparza(olaparib)がタクサン系の薬による治療歴を持つher2陰性乳癌に用いることが承認されている。他にも複数が卵巣癌に承認されており、乳癌でも競争激化の方向にある。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認】


ロシュ、RituxanがPVに適応拡大
(2018年6月8日発表)

ロシュは、Rituxan(rituximab)を中重度尋常性天疱瘡(PV)の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。PVは10万人に3人の希少疾患で、新薬は60年ぶりとのこと。フランスで実施された臨床試験では、24ヶ月時点の完全寛解率が90%と、多くの患者が経口ステロイドを止めることができた。経口ステロイドだけを用いた群は28%だった。

リンク: ロシュのプレスリリース

ジェネンテック、bcl-2阻害剤が併用療法も承認
(2018年6月8日発表)

ロシュグループのジェネンテックは、Venclexta(venetoclax)をRituxan(rituximab)と併用で慢性リンパ性白血病(CLL)や小リンパ球性リンパ腫(SLL)の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。bcl-2阻害剤で、米国ではアッヴィと共同開発販売、米国外はアッヴィが開発販売する。16年に、欧米で、モノセラピーがCLL・SLLの二次治療薬として承認された。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

タグリッソ、EUで一次治療が承認
(2018年6月8日発表)

アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)をEGFR活性化変異陽性非小細胞性肺癌の一次治療に用いることがEUで承認されたと発表した。

80mgを一日一回投与した適応拡大試験で、メジアンPFSが18.9ヶ月とTarceva(erlotinib)またはIressa(gefitinib)を投与した群の10.2ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.46、有意な差があった。グレード3以上の有害事象の発生率や有害事象治験離脱率は対照群より数値上、低かった。

TagrissoはEGFR阻害剤。TarcevaやIressaによる治療が無効になった患者でしばしば見られるT790M変異型に対する効果が高く、この用途で15年に米国で、16年には日本や欧州でも承認された。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アムジェン、プラリアがEUで適応拡大
(2018年6月8日発表)

アムジェンは、Prolia(denosumab、第一三共が販売する日本でのブランド名はプラリア)の適応拡大がEUで承認されたと発表した。グルココルチコイド誘導性骨粗鬆症で骨損壊のリスクが高い患者の予防に用いる。

造骨細胞の活性を制御するRANKLに結合する抗体医薬で、閉経後骨粗鬆や癌の骨転移などに承認されている。骨損壊予防では欧州で三種類目の承認となった。

リンク: アムジェンのプレスリリース








今週は以上です。

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