【ニュース・ヘッドライン】
- ファイザー、ATTR心筋症の第三相が成功
- テセントリクの4剤併用肺癌試験はOS解析も成功
- BiohavenのCGRP受容体アンタゴニストも第三相成功
- Lexicon社、SGLT阻害剤を一型糖尿病に承認申請
- オプジーボとヤーボイをMSI-H癌に適応拡大申請
- 武田が買収する企業の細胞療法がEUで承認
- FDA、Blincytoの適応拡大を承認
- ヘムライブラ治療患者の死亡が5例に
【新薬開発】
ファイザー、TTR心筋症の第三相が成功
(2018年3月29日発表)
ファイザーは、Vyndaqel(tafamidis meglumine、和名ビンダケル)の第三相トランスサイレチン心筋症試験が成功したと発表した。データは未公表。Vyndaqelは欧州や日本では神経機能改善効果が評価され承認されたが、米国では臨床的転帰改善作用を確認するよう求められた。本試験の成功で米国承認の道が開けたことになる。
トランスサイレチン心筋症は、神経症と並ぶ、トランスサイレチン・アミロイドーシスの典型的な合併症で、発症すると余命3~5年と言われる。今回の第三相は家族性及び後天性の患者441人を偽薬、20mg(欧日の承認用量)、80mgの何れかに無作為化割り付けして30ヶ月間の心血管イベント(心血管関連入院や全死亡)を観察したところ、偽薬比有意な差があった。どの用量の話なのかプレスリリースには明記されていないが、治験登録によると、主評価項目は20mgと80mgのプール分析とのことだ。
リンク: ファイザーのプレスリリース
テセントリクの4剤併用肺癌試験はOS解析も成功
(2018年3月26日発表)
ロシュの抗PD-L1完全ヒト化抗体であるTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)のIMpower150試験は、共同主評価項目の一つが昨年1月に成功認定されたが、今回、もう一つも成功した。複雑な試験である上に数値が未公表なので何とも言えないが、抗PD-L1/PD-1抗体は臨床開発競争が激しく、結果の取りこぼしも少なくないので、成功したことは取り敢えずポジティブだ。適応拡大済みかどうかは不明。プレスリリースには、今回のデータを承認審査機関に提出する考えであることだけが記されている。
この第三相は扁平上皮以外の末期・転移性非小細胞性肺癌の一次治療試験で、carboplatin、paclitaxel、bevacizumabの三剤併用療法を対照群に、更にTecentriqを追加する効用を検討したもの。主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)の解析は、メジアン6.8ヶ月が8.3ヶ月に延長、ハザードレシオ0.617で統計的に有意だったことが昨年12月に発表された。。
その時点では共同主評価項目であるOS(全生存期間)の解析はハザードレシオ0.775、p=0.0262と好ましい数値だったが閾値を上回り非有意だった。今回、やり残した宿題を終えたことになる。
この試験はcarboplatin、paclitaxel、Tecentriqの三剤併用群もテストされた。昨年12月のPFS解析は対照群と大差なく、今回のOS中間解析も有意差がなかったが、今後も解析が予定されているようだ。
抗PD-L1/PD-1抗体を開発している会社は多いが、抗VEGF抗体の開発はロシュが、抗CTLA4抗体ではBMSが圧倒的に先行しているので、自社品同士の併用を積極的に開発することが他社品との差別化の点でも、収益最大化の面でも、至適戦略だ。だが、高価な新薬の併用は患者や社会の費用負担が大きい。副作用の増加も見逃せないコストだ。
それだけに、4剤併用だけでなく3剤併用のデータを見たいな、そこその効果があったら良いな、と思う。Avastinは一次治療薬だがYervoyなどは再発治療に取っておくこともできるのだろうから。
リンク: ロシュのプレスリリース
BiohavenのCGRP受容体アンタゴニストも第三相成功
(2018年3月26日発表)
片頭痛の治療や予防では、CGRP( calcitonin-gene-related peptide)やその受容体を標的とする抗体医薬や小分子薬の開発が活発化している。代表的な治療薬であるトリプタン系はCGRPの放出を抑制する一方で血管収縮促進作用もあるため、心血管リスクに気を付ける必要がある。CGRPや受容体を阻害すると血管拡張が抑制されるが収縮促進より悪影響が小さいかもしれない。
抗体医薬は三社が発作予防薬として承認申請中だ。受容体を阻害する経口剤もBiohaven Pharmaceuticals(NYSE:BHVN)がBMSからライセンスしたBHV-3000/BMS-927711(rimegepant)を、アラガン(NYSE:AGN)はMSDからライセンスしたMK-1602(ubrogepant)を、2019年に急性片頭痛治療薬として承認申請する計画。
このうち、BHV-3000の第三相試験が二本とも成功したことが発表された。75mgを経口投与したところ、2時間後に無痛だった患者の比率が一本は19.2%で偽薬群を5ポイント上回り、もう一本は19.6%で7.6ポイント上回った。共同主評価項目である、最も煩わしい片頭痛症状が解消した患者の比率は36.6%と37.6%で、偽薬群を各9ポイントと12ポイント上回った。何れも統計的に有意。
アラガンの第三相のデータと見比べると、治療効果(偽薬群との差)がやや小さい。直接比較試験の結果が出るまでハッキリしたことは言えないのだが、直接比較試験が行われるとは限らないのだから、今、目の前にあるデータを素直に受け止めるしか方法はない。
MSDがCGRP受容体アンタゴニストの開発を止めたのは、リードコンパウンドであったMK-0974(telcagepant)とバックアップのMK-3207の臨床試験で肝毒性懸念が浮上したことが原因だろう。ubrogepantは化学構造が異なるので一緒くたにはできないが、臨床試験で少数ながら肝機能検査値異常(正常値上限の3倍超)が発生した。BHV-3000も一例あったとのことなので、油断はできないだろう。
リンク: Biohaven社のプレスリリース
【承認申請】
Lexicon社、SGLT阻害剤を一型糖尿病に承認申請
(2018年3月29日発表)
Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)は、開発販売パートナーのサノフィがLX4211(sotagliflozin)を欧米で承認申請したと発表した。糖の輸送体であるSGLTを阻害して尿中のグルコースが血中に戻るのを妨げる。特徴は、既存薬が主として腎臓尿細管に分布するSGLT2を選択的に阻害するのに対して、小腸にも分布するSGLT1も阻害することと、二型糖尿病ではなく一型糖尿病で最初に承認申請されたこと。
第三相試験では一日一回の経口投与でHbA1cが0.5%程度低下した。体重や血圧も低下した。
先行企業がSGLT2選択性を重視したのは、初期に臨床入りした非選択的なコンパウンドが下痢の副作用で開発中止になったためだ。LX4211も忍容性が疑われたが、下痢はあまり増えなかった。
SGLT2阻害剤は稀にケトアシドーシスという重要な副作用が発生する。高血糖を伴わない症例も少なくなく、インスリン欠乏以外のメカニズムも関わっているようだ。一型糖尿病に経口剤を追加投与する場合は、インスリンを減量しないと低血糖のリスクが高まり、減らしすぎると糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが生じるが、SLGT2阻害剤は後者のリスクがさらに高まる懸念がある。
メカニズム的には一型糖尿病にも有効なはずで現にオフレーベル使用されている模様だが、メーカーが正式に開発しないのは、これが理由だろう。
ケトアシドーシス・リスクの点ではSGLT2選択的でないコンパウンドのほうが良いという説もあるようだが、LX4211の第三相の一つではアシドーシス関連有害事象の発生率が8.6%と偽薬群の2.4%を上回った。
先行品と差別化するために一型糖尿病をリードインディケーションに据えたLexiconの戦略が奏功するかどうかは、ケトアシドーシス・リスクの評価次第だろう。尚、二型糖尿病の第三相試験も進行中ではある。
リンク: Lexiconのプレスリリース
Loxo社、TRK阻害剤のローリング申請を完了
(2018年3月26日発表)
Loxo Oncology(Nasdaq:LOXO)と開発販売パートナーのバイエルは、LOXO-101(larotrectinib)のローリング承認申請を完了したと発表した。NTKR変異陽性腫瘍に用いる。NTKRはニューロンの制御に関与するTRK(tropomyosin receptor kinases)の遺伝子で、他の遺伝子と融合してレガンド結合ドメインを喪失すると、レガンドの刺激なしで活性化してしまう。
該当するのは癌患者の1%以下と推定されており少ない。唾液腺癌や分泌乳癌で比較的多いと言われ、このほかに、承認申請のエビデンスとなった単群試験では、乳児線維肉腫、甲状腺癌、結腸癌、肺癌、黒色腫、紡錘細胞肉腫、胆管癌、筋周皮腫などの成人小児が組入れられた。55例の中央評価確認客観的反応率は75%だった。有害事象は神経認知性有害事象が中心だった。
13年に開始したArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)との研究開発提携の成果。バイエルは17年11月に共同開発・商業化で提携、米国は共同販促し、海外はバイエルが販売する。欧州でも年内に承認申請する予定。
リンク: Loxo社のプレスリリース
オプジーボとヤーボイをMSI-H癌に適応拡大申請
(2018年3月27日発表)
ブリストル・マイヤーズスクイブは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)をMSI-H/dMMR転移性結腸直腸癌の再発治療に用いる適応拡大を米国で申請し受理されたと発表した。標準的な一次治療/二次治療薬であるfluoropyrimidine、oxaliplatin、そしてirinotecan歴を持つ患者が対象になる。審査期限は7月10日。
MSI-H(マイクロサテライト不安定性-高)は塩基配列の繰返し箇所の繰返し回数が腫瘍と正常細胞で異なる。同様に、dMMRは塩基配列ミスマッチの修復が異なる。この二つはオーバーラップすることもある。 転移性結腸直腸癌の5%程度が該当する。142試験では、併用群の客観的反応率は55%、1年生存率は85%だった。対照群ではないが、Opdivoだけを投与した群の1年生存率は73%だった。
リンク: BMSのプレスリリース
【承認】
武田が買収する企業の細胞療法がEUで承認
(2018年3月26日発表)
ベルギーのTiGenix社と武田薬品は、Alofisel(darvadstrocel)がEUで承認されたと発表した。同種異系脂肪由来の幹細胞療法で、非/軽度活動性クローン病の肛囲複雑瘻孔の治療に用いる。 臨床試験では24週寛解率が50%と偽薬群の34%を有意に上回った。米国は別途、第三相試験が進行中。
武田薬品は16年に米国外の開発販売権を取得、今年1月に友好的買収で合意した。総額5.2億ユーロ規模。条件であるEU承認が実現したのでTOBに向けて一歩前進した。
リンク: 武田のプレスリリース(和文)
FDA、Blincytoの適応拡大を承認
(2018年3月29日発表)
FDAは、アムジェンのBlincyto(blinatumomab)を前駆B急性リンパ芽球性白血病(前駆B-ALL)の地固め的療法に用いる適応拡大を承認した。
Blincytoは白血病細胞の表面分子であるCD19とT細胞などの表面分子のCD3を架橋する二重特異性抗体で、再発性難治性前駆B-ALLの治療薬として14年に米国で、15年には欧州でも、承認された。
今回の承認用途は、他の薬を用いて寛解に成功したが癌細胞がごく少量残っている(minimal residual disease:MRD)患者に投与して再発を防ぐというもの。第二相試験では81%の患者が癌細胞探知不能になった。MRDのある患者は再発リスクが高いと言われるが、この試験ではメジアン無再発生存期間が22ヶ月だった。
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース
【医薬品の安全性】
ヘムライブラ治療患者の死亡が5例に
(2018年3月27日発表)
HFA(米国血友病財団)は、中外製薬が創製し米国ではジェネンテック、欧州などではロシュが販売するHemlibra(emicizumab-kxwh、和名ヘムライブラ)に関して、治療を受けた患者の死亡例が5例に増えたことを明らかにした。ジェネンテックから連絡を受けたもの。2016年に一名、2017年に二名、2018年に入って更に二名が物故した。うち三例の死因は頭蓋内や結腸の出血、一例は血管手術後に死亡、残りの一例は腹部偽腫瘍の合併症であった模様。
一人は第三相試験、他はCUPやトリートメントINDなどの未承認薬例外的使用制度を通じて投与を受けた。何れのケースも担当医は薬剤との関連性なしと判定した。HFAは、心配な向きはジェネンテックの問い合わせ窓口に電話するようアドバイスした。
何とも中途半端な情報であり、なぜわざわざ公表したのか、訝ってしまう。おそらく、噂を聞いた医療関係者や患者から問い合わせがあり、HFAがジェネンテックに照会したのだろう。新薬は発売後に重要な新情報が出ることがあり、また、競合品メーカー経由で得た情報は念のためということもあるので、財団が窓口になってメーカーに情報を求めるのは有益だ。今回も、現時点で分かっている範囲内で事実を正確に伝えることを重視したのだろう。
リンク: HFA(米国血友病財団)のプレスリリース
リンク: 同(3/28付けアップデート)
今週は以上です。
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