【ニュース・ヘッドライン】
- テセントリクの肺癌一次治療試験成功
- CHMPがPARP阻害剤などの販売承認を支持
- FDAがアドセトリスの適応拡大を承認
- GSK、シングリックスが欧州でも承認
【新薬開発】
テセントリクの肺癌一次治療試験成功
(2018年3月19日発表)
ロシュとジェネンテックは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相IMpower131試験のPFS(無進行生存期間)解析が成功したと発表した。末期扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療としてcarboplatin及びAbraxane(アルブミン懸濁型paclitaxel、和名アブラキサン)と併用する群(B群)をcarboplatinとAbraxaneだけの群(C群)と比較した試験で、もう一つの主評価項目である全生存期間はまだ中間解析段階で有意差は出ていない。
欲張った試験で、carboplatin及びpaclitaxelと併用する群(A群)とC群のPFS、そして全生存期間の解析も主評価項目に設定されており、上記二項目の解析が成功したら、シーケンシャルに実施されることになる。
二次的評価項目としてPD-L1発現度に基づくサブグループ分析も行われる予定。
抗PD-1/PD-L1療法の肺癌試験は区々な結果になっており、それが薬のせいなのか、組入れ基準や試験デザイン、実施方法のせいなのか、判然としない状態が続いている。今回はまだ数値すら発表されていないので、主評価項目の解析が終了し詳細が公表されるまで、何とも言いようがない。
リンク: ジェネンテックのプレスリリース
【承認審査・委員会】
CHMPがPARP阻害剤などの販売承認を支持
(2018年3月23日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、3月の会合で、クロビス・オンコロジー(Nasdaq:CLVS)のPARP阻害剤などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。一方で、Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)のXa阻害剤などが否定的意見となった。また、EPA/DHAの心血管疾患再発予防効果の再検討を開始したことも明らかにされた。
リンク: EMAのプレスリリース
クロビスのPARP阻害剤、Rubraca(rucaparib)は卵巣癌の三次治療薬。BRCA遺伝子に生殖細胞系あるいは体細胞系有害変異を持ち、過去の治療でプラチナ薬に感受したがこれ以上繰り返すのは忍容できない患者に用いる。臨床試験では反応率が54%、メジアン反応持続期間は9.2ヶ月だった。生殖細胞系BRCA変異は卵巣癌の約18%、体細胞系BRCA変異は約7%とされる。
BRCAは遺伝子の複製ミスを修正するメカニズムに関与している。複製ミスは頻繁に発生するため、修正できないと癌のリスクが高まる。PARP(ポリ(ADP-リボーズ)ポリメラーゼ)も別の複製ミス修正メカニズムに関与している。癌細胞は細胞分裂に伴う遺伝子複製が活発に行われ、それだけミスも積み重なりやすいので、BRCA変異患者のPARPを阻害することによって、癌細胞の増殖を妨げることができる。
興味深いのはPARP阻害剤の効用は必ずしもBRCA変異に依存しないことだ。Rubracaはプラチナ感受性卵巣癌二次治療後維持療法試験が成功したが、BRCA変異のない患者でもPFSが長期化した。今後、Rubracaや他社のPARP阻害剤のエビデンスが積み重なれば、これがクラスイフェクトなのか、Rubracaだけなのか、はたまた偶然の悪戯なのか、明らかになるだろう。
クロビスは2011年にファイザーから世界開発販売権を取得した。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: クロビスのプレスリリース
ヴィーヴヘルスケアのJulucaも肯定的意見を受けた。インテグラーゼ阻害剤のTivicay(dolutegravir)とジョンソンエンドジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine)の活性成分を配合しており、HIV/AIDSの維持療法に用いる。
HIV/AIDSはHAART(高度積極的抗レトロウイルス療法)と呼ばれる多剤併用療法が主流だが、Julucaは二種類だけで足りることが最大の特徴。ウイルスを6ヶ月以上抑制できていて、インテグラーゼ阻害剤や非核酸系逆転写阻害剤に抵抗性のない患者がスイッチできる。米国でも承認審査中。
ヴィーヴ社はグラクソ・スミスクラインとファイザーのHIV/AIDS事業を統合した合弁会社で、今では塩野義製薬も加わっているので、Julucaは4社相乗り製品ということになる。HAARTはプロテアーゼ阻害剤のように毎日たくさんのピルを服用しなければならないレジメンもあるため、患者支援団体や医師が相乗り合剤の開発を製薬会社に呼び掛けた。製薬会社にとっても、先進国や途上国における高薬価批判などにより事業としての魅力が低下したことなどを背景に、事業機会の最大化を求めて相乗りに応じる会社が増加した。
今日では、アルツハイマー病用薬では開発リスク・シェアリングを目的として、抗癌剤では多様な癌種や併用法における開発スピードアップのため、合従連衡が珍しくなくなった。日本の製薬会社も静観してはいられない。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴ社のプレスリリース
適応拡大では、Cabometyx(cabozantinib)を転移性腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。リスク評価が中等度以上の症例が対象になる。第二相のSutent(sunitinib)対照試験では、メジアンPFSが8.2ヶ月とSutent群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69だった。
Exelixis(Nasdaq:EXEL)の開発品で、欧州はイプセンが開発販売権を持っている。腎細胞腫の再発治療薬として12年に米国で、14年には欧州でも承認された。日本は武田薬品が開発中。
リンク: EMAのプレスリリース
アムジェンの抗PCSK9完全ヒト化抗体、Repatha(evolocumab)の心血管リスク削減効果も支持された。確立したアテローム性心疾患で忍容最大量のスタチンを服用している患者が適応になる。エビデンスのFOURIER試験では主評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院、冠血行再建術)のリスクが偽薬比15%低下した。
リンク: EMAのプレスリリース
否定的意見を受けたPortola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)のXa阻害剤は、Dexxience(betrixaban)。米国では昨年6月にBevyxxa名で承認されている。一昨年来、FDAの承認のハードルが下がったような印象だが、EMAは厳しくなったのか、評価の食い違い例が増えている。
Xa阻害剤は先行品が多いせいか、Portolaは急性心不全や脳卒中、肺炎などにより入院した75歳以上で静脈血栓塞栓リスクが高い患者を組入れてAPEX試験を実施、35~47日間経口投与の予防効果をenoxaparinの6~14日間皮注コースと比較した。複数の主評価項目のうち一部のサブグループだけを対象とした最初の解析がフェールしたため、2番目のサブグループ分析のp値が0.029、3番目の全集団の解析がp=0.006となったのに、無為になってしまった。
薬ではなく治験がフェールした、典型的な事例と思われるが、統計学的にはフェールはフェールである。Xa阻害剤の血栓予防効果は出血リスクと裏腹なので、便益と危険のバランスを評価しなければならない。CHMPは統計学的な挙証が不十分であることや、出血リスクを重視した。Portolaは再審査を要求する考え。
Portolaは2002年にミレニアム・ファーマスーティカルズがCor Therapeuticsを買収した時にCorからスピンアウトした会社で、betrixabanはミレニアム時代はMLN-1021という開発コードで呼ばれていた。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Portolaのプレスリリース
Radius Health(Nasdaq:RDUS)のEladynos(abaloparatide)も米国では昨年4月にTymlos名で承認されたがCHMPは否定的意見となった。ヒト副甲状腺ホルモン関連ペプチド(1-34)で、遺伝子組換え型ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)であるイーライリリーや旭化成のteriparatide(テリパラチド)と同様に造骨細胞増強作用を持ち、閉経後骨粗鬆症の治療に用いる。
米国のレーベルでは骨肉腫のリスクが枠付き警告されていて、2年以上の投与は推奨しない旨が記されているが、これはteriparatideも同じであり、teriparatideをリコールしないのならabaloparatideを承認しないと不公平、と考えることもできる。
CHMPの問題意識は、臨床試験実施施設のうち2ヶ所でcGCP(臨床試験基準)違反が発覚し治験データの信憑性が損なわれたことや心毒性の懸念だった。日米欧の承認審査機関は情報提供協定を結んでいるので査察結果はFDAも理解しているはずであり、なぜ欧米で判断が分かれたのか、不思議だ。Radius社は再審査請求する考え。
リンク: EMAのプレスリリース(pdfファイル)
リンク: Radius社のプレスリリース
スペインのPharmaMar(マドリッド証券取引所:PHM)は16年にAplidin(plitidepsin)を多発骨髄腫四次治療薬として承認申請し、昨年12月に否定的意見を得た。再審請求が認められたものの、結局、評価を覆すことはできなかった。臨床試験でメジアンPFSが1ヶ月しか延びなかったことや延命効果が確立していないこと、そして、深刻な副作用が増加することが理由。
リンク: EMAのプレスリリース
アムジェンがAranesp(darbepoetin alfa)の適応拡大申請を撤回したことも公表された。骨髄異形成症候群による貧血の治療に用いるもので、CHMPは、二本の試験のうち一本はデザイン変更や除外症例の多さなどの問題がありもう一本は欧州の医療風土と異なった治療を受けていることから、薬効の挙証が不十分とみなしていた模様だ。
リンク: EMAのプレスリリース
さて、EMAはオメガ3脂肪酸(EPAやDHA)製剤を心臓発作の再発予防に使うことに関して再検討を開始したと発表した。今年、JAMA Cardiology誌に刊行されたAungらのメタアナリシスによると、心筋梗塞や脳卒中などの心臓循環器問題を防ぐ効果は確認されなかった。過去にも同様な研究結果が発表されている。このため、スエーデンの承認審査機関がEMAに危険と便益の再評価を求めたもの。
米国と比べると欧州はEPA/DHAの再発予防効果に肯定的だったが、いよいよ、再検討に踏み切ったことになる。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Aungらの論文(JAMA Cardiol 2018)
【承認】
FDAがアドセトリスの適応拡大を承認
(2018年3月20日発表)
FDAは、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を古典的ホジキン型リンパ腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。ステージIIIまたはIVの患者に化学療法と併用する。標準的療法であるABVD四剤併用レジメンとbleomycinに代えてAdcetrisを用いる四剤併用を比較した臨床試験では、2年無進行生存率が各77.2%と82.1%でABVDレジメンを上回った。
FDAのプレスリリース リンク:
リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース
GSK、シングリックスが欧州でも承認
(2018年3月23日発表)
グラクソ・スミスクラインは、帯状疱疹ワクチンのShingrixが欧州で承認されたと発表した。米国では昨年10月、日本でも今月、承認されている。既存製品であるMSDのZostavaxが弱毒化生ワクチンであるのに対して、ShingrixはVZV gE抗原とMPLアジュバントを用いた遺伝子組換え型ワクチンで、免疫力が低下していてワクチン効果が小さくなりがちな70代でも高い予防効果が得られることが長所。50歳から適応になる。
リンク: GSKのプレスリリース
今週は以上です。
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。