2018年3月11日

2018年3月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:プラルエントもMACEを15%削減 
  • 新作用機序コレステロール治療薬の第三相が成功 
  • シャイアが便秘治療薬を米国でも承認申請 
  • 新作用機序の抗HIV薬が承認 
  • オプジーボの4週毎投与が承認 
  • EMA:ゾーフィゴをザイティガと併用するな 


【新薬開発】


ACC:プラルエントもMACEを15%削減
(2018年3月10日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発販売している抗PCSK9フルヒト化抗体、Praluent(alirocumab、和名プラルエント)の心血管アウトカム試験の結果がACC米国心臓学会で発表された。同じメカニズムを持つアムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)と同様に、MACE(主要有害心血管イベント)を偽薬比15%削減した。

事前に計画されていた、LDL-Cのベースライン値に基づくサブグループ分析では、100mg/dL以上のサブグループでは相対リスク削減24%とより良い結果が出たが、80~100mg/dLサブグループでは4%のみ、80mg/dL未満でも14%削減に留まり、効果は判然としなかった。

コレステロール治療の目標はコレステロール値を下げることではなくMACEを削減することなので、今回のODYSSEY OUTCOMES試験の成功によって、Praluentの臨床的な便益が初めて確立したと言えるだろう。尤も、この試験のNumber-needed-to-treatは60と決して高くない。薬剤費を掛けたDollar-needed-to-treatは200万ドル前後に達する。

そのせいか、両社は、値下げに応じる用意があることを表明した。LDL-C値が100mg/dL以上の患者について、医療の費用対効果評価機関であるICERの評価(高リスク患者で年4500~8000ドル)を念頭に置いて交渉する考えの模様だ。これは米国の話で、日本など海外での対応は不明。

ODYSSEY OUTCOMES試験は急性冠症候群を発症してから1~12ヶ月経った、スタチンの最大耐容量を服用してもLDL-Cが70mg/dL以上の患者18924人をPraluent群と偽薬群に無作為化割付けしてMACE発生リスクを比較した。MACEは冠状心疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または不安定狭心症による入院。Praluent群は75mg(二週間に一回皮注)で開始、LDL-C値が50mg/dL以上に留まる場合は150mgに、25mg/dL未満に下がったら偽薬に、盲検を維持したままスイッチした。

LDL-C値のベースライン値は87mg/dL、一年後には群間で54mg/dLの差が生じた。スタチンの臨床試験ではLDL-C低下幅とMACE削減率の間に相関性が見られるが、PraluentのLDL-C低下幅とMACE削減率の関係はスタチンのデータがおおむね当てはまる。相対リスク削減15%というのは大方の予想通りの結果である。

Repathaの試験と比べて良かったのは全死亡のハザードレシオが0.85、nominal p=0.026と、統計学的には有意とは言えないが数値上はよい結果が出たこと。但し、冠状心疾患による死亡のハザードレシオは0.92と大したことないので、解釈が難しい。

リンク: サノフィのプレスリリース
リンク: 同(価格改定について)

新作用機序コレステロール治療薬の第三相が成功
(2018年3月7日発表)

エスペリオン(Nasdaq:ESPR)は、ETC-1002(bempedoic acid)の第三相試験成功を発表した。今回の試験はハードルが低いので、5月以降に結果が判明する二本や2021年頃と想定される心血管アウトカム試験のデータが注目される。

ETC-1002はコレステロール生合成パスウェイに関与するATPクエン酸リアーゼ(ACL)を阻害する小分子薬。LDL受容体をアップレギュレートする作用もある由。

今回の第三相試験の対象は、アテローム硬化性心血管疾患でLDL-C値が高く、ezetimibeによる治療を受けても十分に下がらない患者。スタチン併用者は最低用量以外は除外。269人をETC-1002(180mg、一日一回経口投与)または偽薬に2対1割付けして12週間のLDL-C値の変化を観察したところ、試験薬群の23%低下に対して偽薬群は5%上昇し、治療効果は28%だった。

hsCRPは各33%低下と2%上昇。面白いことに、LDL-C低下はrosuvastatinのほうが大きく、抗IL-1ベータ抗体のcanakinumabは殆ど下がらないのだが、hsCRP低下は三剤とも同程度になっている。

さて、今回の試験が今一つなのは、中高量スタチンを併用している患者が対象外であることだ。

コレステロール治療の新薬の出番は、中高量スタチンを服用してもLDL-C値が十分下がらない患者の需要だ。最近のコレステロール治療ガイドラインの中にはLDL-C値の目標値を定めていないものもある。スタチンのアウトカム試験では、「Treat-to-Target」的な治療方針ではなく特定のブランドの特定の用量を忍容する限り投与し続ける手法が採用されているからだろう。

「下がらぬなら下げて見せようLDL-C値」という考え方はコンセンサスではなくなったのである。同時に、重要なのは使用する薬でありLDL-C値が下がればどれでもよい訳ではない、という考え方も広がっている。

同社はezetimibe配合剤も並行して開発しているのでezetimibe併用試験が商業的に重要なのだが、患者にとっては中高量スタチンに追加する用途のほうが大事なのではないか?

この点で注目されるのは、ezetimibeと最大耐容量のスタチンを併用する患者に追加投与する二本の第三相だ。atorvastatinの最大用量(80mg)に追加した試験ではLDL-Cがあまり下がらなかったので、結果は今回より見劣りするかもしれない。

会社側は2019年に欧米で承認申請する計画。

リンク: エスペリオンのプレスリリース


【承認申請】


シャイアが便秘治療薬を米国でも承認申請
(2018年3月5日発表)

シャイアはSHP555(prucalopride)を米国で慢性便秘治療薬として承認申請し受理されたことを発表した。審査期限は来年2月21日。

欧州ではResolor名で09年に承認されている。8年遅れの理由は、2000年に販売中止になったPropulsid/Prepulsid(cisapride)の類薬だからだろう。ライセンス元はPropulsidの販売会社であったジョンソンエンドジョンソンで、Resolorは5HT3阻害作用は持たないが5HT4受容体作動は共通する。Propulsidは不整脈や突然死のリスクさえなければ貴重な選択肢だった。もしResolorが安全ならライセンスアウトされなかっただろう。

シャイアは欧州などでの市販後薬物監視データなども活用してFDAを説得する考え。

リンク: シャイアのプレスリリース


【承認】


新作用機序の抗HIV薬が承認
(2018年3月6日発表)

FDAは、TaiMed Biologics(TPEX:TaiMed)のTrogarzo(ibalizumab-uiyk)をHIV/AIDS治療薬として承認した。多剤抵抗性のウイルスに感染していて現在の治療がフェールし始めている患者に用いる。

HIVはCD4陽性T細胞に感染して増殖する。TrogarzoはCD4の細胞外第二ドメインに結合するIgG4型モノクローナル抗体で、ウイルスがCD4に結合した後のプロセスを妨げる、ポスト・アタッチメント・エントリー・インヒビターとされる。

Tanox社が臨床入りさせたが経営が悪化しジェネンテックに買収された。TaiMedはHIV研究の先駆者やTanox出身者などが台湾政府の助成を受けて設立した新興企業で、07年にジェネンテックから権利を取得、16~17年に欧米での販売流通権をTheratechnologies(TSX:TX)に供与した。生産は医薬品開発生産受託会社であるWuXi Biologics(2269.HK)が行う。中国産のバイオ薬が米国で承認されたのは初。

第三相試験(n=40、対照群なし)ではモノセラピーで2000mgを点滴静注したところ、7日後の奏効率(ウイルス量が0.5log10以上減少)が8割を超えた。最適バックグラウンドセラピーと併用で維持療法(800mgを二週間に一回投与)を行ったところ、24週間で1.6log10減少、43%の患者で検知不能(50コピー/mL未満)になった。主な深刻有害事象はラッシュや免疫再構築症候群。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: TaiMedのプレスリリース
リンク: Theratechnologiesのプレスリリース

オプジーボの4週毎投与が承認
(2018年3月6日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を四週間に一回投与する新用法がFDAに承認されたと発表した。240mgを二週間に一回点滴静注する用法の代替策で、一回に480mgを投与する。忍容性で問題がなければ、手間を省くことができるので都合がよいが、Opdivoの用量はがん種や併用薬によって異なり複雑なので、間違えないように注意しなければならない。

リンク: BMSのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA:ゾーフィゴをザイティガと併用するな
(2018年3月9日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、バイエルの放射線核種薬Xofigo(radium-223 dichloride、和名ゾーフィゴ)をジョンソンエンドジョンソンのZytiga(abiraterone、和名ザイティガ)及びprednisoneと併用しないよう勧告した。

何れも前立腺癌治療薬として承認されているが、転移性去勢抵抗性キモナイーブの前立腺癌に対する併用効果を検討した第三相試験で骨損壊や全死亡がZytiga・prednisoneだけの群より多く発生した。発表によると、三剤併用群の死亡率は34.7%、偽薬群は28.2%、骨損壊発生率は各26%対8%。EMAはリスクと便益を再評価中で、今回の勧告は暫定的な措置とのこと。EMAはXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)との併用が確立していないことにも言及している。

この件は昨年11月にバイエルが公表しているが、他の試験ではこのようなリスクは観察されていない由であり、判然としない。EMAの結論だけでなく、FDAや日本がどう評価するかも注目だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: バイエルの昨年のプレスリリース




今週は以上です。

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