2017年4月2日

2017年4月2日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ヴァーテックス、嚢胞性線維症の新薬を承認申請へ 
  • ノバルティス、CAR-Tの承認申請が受理 
  • KiteもCAR-Tの承認申請を完了 
  • Cempra、solithromycinの欧州での承認申請を撤回 
  • アトピーの画期的新薬は年37000ドル 
  • Tesaro、PARP阻害剤が米国で承認 
  • ロシュ、多発性硬化症用薬が米国で承認 
  • ファイザー、ゼルヤンツが欧州でやっと承認 


【新薬開発】


ヴァーテックス、嚢胞性線維症の新薬を承認申請へ
(2017年3月28日発表)

嚢胞性線維症治療薬Kalydeco(ivacaftor)とOrkambi(lumacaftor 、ivacaftor)を開発したヴァーテックス・ファーマスーティカルズ(Nasdaq: VRTX)が、第三の新薬tezacaftorの第三相試験に成功した。今年第3四半期に欧米で承認申請する予定。

嚢胞性線維症は遺伝子変異が原因でCFTRの機能が低下、気道の粘液などが除去されずに蓄積する。ivacaftorがCFTRチャネルの開口を長期化するポテンシエイターとして作用するのに対して、tezacaftorはCFTRが細胞表面に移行するのを促すコレクター(矯正薬)として作用する。lumacaftorと同じで、改良版という意味合いがあるだろう。

嚢胞性線維症で最も多いF508欠損ホモ接合型はCFTRが移行しにくいとされ、コレクターのほうが適している可能性がある。臨床成績もKalydeco単剤では十分な効果がなかったが、Orkambiは良績を上げ、このタイプに承認された。尤も、効果は必要最低限で、もっと有効な薬が登場する可能性がある。有力候補と考えられているのがtezacaftorだ。

第三相試験は四本実施された。F508欠損ホモ接合型を組入れた試験が一本、ヘテロは三本で、もう一つのアレルの特性に応じて、CFTR機能が残っていると推定されるアレルの試験、ミニマム機能のアレルの試験、そしてivacaftorに応答するゲーティング変異アレルの試験だ。このうち、F508欠損/CFTRミニマム機能患者の試験は途中で無益性が認定され打ち切られたが、今回、ホモ接合型とF508欠損/CFTR機能残存型の試験が成功した。

ホモ接合型試験では、tezacaftor(100mg)を一日一回とivacaftor(150mg)を一日二回、経口投与して24週間治療したところ、%1秒量(FEV1 % predicted)がベースラインの60%から3.4ポイント改善、偽薬だけを投与した群は0.6ポイント悪化したため、偽薬調整後の治療効果は4.0ポイント、p<0.0001となった。

F508欠損/CFTR機能残存型試験はクロスオーバー試験で、%1秒量がベースラインの62%から6.5ポイント改善した。ivacaftorだけを投与した期間は4.4ポイント改善し、どちらも、偽薬期間(0.3ポイント悪化)を有意に上回った。

Orkambiのデータと見比べると、ホモ接合型の治療効果は0.5~1ポイント、高そうだ。有害事象の発生率もOrkambiほどではない。勿論、直接比較試験ではないので明確なことはいえない。承認されている薬があるのだから偽薬対照ではなくOrkambi対照試験でも良かったのではないかと思われる。

F508欠損/CFTR機能残存型試験では、併用とKalydeco単剤の比較でも有意差があるのかどうかが気になるところだ。クロスオーバー試験であることも弱い。更に、Orkambiの試験はフェールしたがこのサブタイプだけの試験を行えば成功するかもしれない。ヘテロ接合型に関しては、三剤間の比較が十分に行われていないため、釈然としないものがある。それでも、単剤比2ポイントの差があるなら良いのではないかという気もする。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

【承認申請】


ノバルティス、CAR-Tの承認申請が受理
(2017年3月29日発表)

ノバルティスは、CTL019(tisagenlecleucel-T)を米国で承認申請し受理されたことを発表した。予定適応は青少年の再発難治性B細胞急性リンパ芽球性白血病。優先審査を受ける。

CTL019はCAR-Tと呼ばれる細胞療法で、B細胞特異的に発現するCD19に結合する抗体の単鎖可変領域とTCRの共刺激伝達領域である4-1BB及びCD3ゼータチェーンを融合した遺伝子を、患者から採取したT細胞に導入し、培養・活性化したもの。患者に戻すと、T細胞が抗原提示がなくてもB細胞を攻撃する。FDAが小児と成人の再発難治性急性リンパ芽球性白血病用薬としてブレークスルー・セラピー指定している。

ペンシルバニア大学から共同開発販売権を取得したノバルティスが日米欧などの施設で実施した試験では、客観的反応率が82%となった(50例のうち、血球数の回復が不十分な症例も含めて41人が完全寛解)。CAR-Tはサイトカイン放出症候群がボトルネックで、G3/4だけでも48%の患者で発生し、人工心肺や透析を必要とする低血圧も起きたが、致死例はなかった。G3神経学的精神学的有害事象(脳症、せん妄など)も15%で発生したがG4はなかった。

CAR-Tは次項のKite Pharmaも含めて三社が先陣争いしているが、今のところ、CTL019が承認第一号になりそうだ。ノバルティスは、年内にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の適応も申請する予定。EUでも年内申請予定。

最近の画期的新薬は信じられないほど高い。NICE(英国政府の医療技術評価組織)によると、急性リンパ芽球性白血病のCAR-Tによる治療は64.9万ドルでも正当化できるとのことなので、保健機関にとってまた頭痛の種になりそうだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

KiteもCAR-Tの承認申請を完了
(2017年3月31日発表)

Kite Pharma(Nasdaq:KITE)はKTE-C19(axicabtagene ciloleucel)の米国におけるローリング承認申請を完了したと発表した。予定適応は他家造血幹細胞移植不適の再発難治性アグレッシブ非ホジキン型リンパ腫。EUでも年内に承認申請する計画。日本では第一三共が1月に製造開発販売権を取得した。

CTL019と同様なCAR-T療法で、主な違いは共刺激ドメインに4-1BBではなくCD28を採用していることと、組換え遺伝子を導入する時のベクターがレンチウイルスではなくレトロウイルスであること。

101人を組入れた第二相試験では、客観的反応率が82%、完全寛解率は54%、但し8.7ヶ月後時点では各44%と39%に低下した。サブグループの客観的反応率は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が82%、転換濾胞性リンパ腫(TFL)と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)は83%だった。主なG3以上の有害事象は骨髄抑制、脳症、サイトカイン放出症候群、神経学的毒性など。治療時発現有害事象による死亡は3例。

もう一社、CAR-Tの先陣争いに加わっていたJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、JCAR015の開発が脳浮腫による死亡が数例発生したため打ち切りとなり、後退した。プリコンディショニングに用いた化学療法の用量用法が原因とも言われているが、真相はわからない。FDAは詳細な報告を受けているだろうから他のCAR-Tの承認審査に影響したとしても不思議はないだろう。このJCAR015はCD28、レトロウイルスなのでどちらかと言えばKTE-C19に似ている。

リンク: Kiteのプレスリリース
リンク: LockeらのAACR抄録

【承認審査・委員会】


Cempra、solithromycinの欧州での承認申請を撤回
(2017年3月28日発表)

Cempra(Nasdaq:CEMP)は、CEM-101(solithromycin)の欧州における承認申請を撤回した。米国と同様に承認の見込みが遠退いたため。日本は16年に富山化学が第三相試験を開始したところ。

Optimer Pharmaceuticalsから取得したマクロライド/ケトライド系開発プログラムの成果で、市中細菌性肺炎治療薬として欧米で承認申請されたが、FDAから大規模な肝安全性試験の実施を求められた。ケトライドの第一号であるKetek(telithromycin)も肝毒性が見られ、大規模肝安全性試験でリスクは限定的であることが立証されたが、後に不正報告が発覚した経緯がある。

Cempraはモルガン・スタンレーに事業戦略のオプションについてアドバイスを求めている。欧州の申請手続きを打ち切るのは豊富な手元流動性を維持する意図であり、開発を諦めたわけではなさそうだ。

リンク: Cempraのプレスリリース

【承認】


アトピーの画期的新薬は年37000ドル
(2017年3月28日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィが中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として日米欧で承認申請したDupixent(dupilumab)が、まず米国で承認された。ステロイドなどの局所性治療薬に十分反応しない、あるいは適さない患者に用いる。

Th2型免疫反応の惹起・維持に関わるIL-4やIL-13をブロックする抗IL-4受容体アルファサブユニット抗体で、初日は二回、その後は二週間毎に皮注する。二本の第三相試験では全般的奏効率が36~38%となり偽薬群の8~10%を有意に上回った。痒みも改善した。主な有害事象は過敏反応、結膜炎、角膜炎など。好酸球性喘息症用薬としても承認されていることを踏まえてか、喘息症を併発する患者に用いる時も喘息用薬を止めないよう注意している。

WAC(問屋取得コスト)は年37000ドル、正味価格でも3万ドル前後と推測されている。米国の対象患者数は30万人と推定されているので希少疾患用薬ではなく、何十年も使う可能性があることを考えれば驚かされるが、承認と前後してInstitute for Clinical and Economic Researchが公開した評価報告書案によると、年3万ドルでも妥当とのことだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: 両社のプレスリリース(PR Newswire)
リンク: Atopic Dermatitis: Draft Evidence Report(ICER)

Tesaro、PARP阻害剤が米国で承認
(2017年3月27日発表)

FDAは、Tesaro(Nasdaq:TSRO)が申請したZejula(niraparib)を審査期限の3ヶ月も前に承認した。難治性白金感受性卵巣癌で白金薬ベースの治療に反応した患者の維持療法に用いる。BRCA変異限定ではないことが感慨深い。12年にMSDからPARP阻害剤MK-4827をインライセンスしたもので、達成報奨金や売上ロイヤルティを払う。

PARPは遺伝子の複製ミスを修復する二つのメカニズムの一つに関わる酵素で、これまでは、もう一つに関わるBRCAに機能喪失変異を持つ患者の癌に有効と考えられていた。Zejulaの第三相試験でも生殖細胞系BRCA変異を持つ患者ではPFS(無進行生存期間)がメジアン21.0ヶ月で偽薬群の5.5ヶ月を上回りハザードレシオ0.26だったが、持たない患者では各9.3ヶ月、3.9ヶ月、0.45と、前者の方が効果が高い。しかし、持たない患者でも統計的に有意であり、5ヶ月延びるなら臨床的にも大きな価値がありそうだ。

BRCA1/2機能喪失変異は卵巣癌や乳癌のリスクが高いことで知られているが、卵巣癌のうち生殖細胞系BRCA変異は10~15%、米国では年2000人程度である模様。それ以外の患者にも承認されたことは商業的な意義も大きい。

特徴的な副作用は、PARP阻害剤は骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病が増加する可能性があり、発生頻度は稀だが注意が必要だ。

さて、生殖細胞系BRCA変異陽性の転移性乳癌を組入れた第三相化学療法対照試験も行われているが、対照群で治験を離脱しPARP阻害剤にスイッチする患者が多く発生し、データの頑強性が損なわれたことが公表された。クロスオーバーを認めることは被験者を集める上で重要な施策だが、このようなリスクが付き物だ。他社の類似薬が承認された場合にも起こりがちである。治験のデザインや実施地域を吟味して再挑戦するのではないか。

PARP阻害剤の第一号はアストラゼネカのLynparza(olaparib)。生殖細胞系または体細胞系BRCA変異を持つ白金薬感受性卵巣癌の維持療法として欧米で承認申請され、欧州では承認されたが、米国では認められず、代わりに生殖細胞系BRCA変異卵巣癌の四次療法として承認された。その後、第三相試験が成功し、米国で改めて生殖細胞系BRCA変異白金感受型卵巣癌の維持療法用薬として承認申請され、受理されたことが先日、公表された。優先審査指定されたので今年第3四半期までに結果が出ることになる。

リンク: FDAのリリース
リンク: Tesaroのプレスリリース(pdfファイル)

ロシュ、多発性硬化症用薬が米国で承認
(2017年3月28日発表)

ロシュのOcrevus(ocrelizumab)が米国で一次進行型と再発型の多発性硬化症の維持療法薬として承認された。患者数の多い再発型はインターフェロンから免疫抑制剤まで様々な薬が承認されているが、一次進行型は殆どの新薬の治験がフェールしており、意義がある。尤も、Rituxan(rituximab)では駄目なのか、という疑問は残る。

ロシュの抗CD20抗体フランチャイズはキメラ抗体のRituxan、ヒト化抗体のOcrevus、フコース欠如ヒト化抗体Gazyva/Gazyvaro(obinutuzumab)が出揃った。このほかにジェネンテックがバイオワのポテリジェント技術を用いてADCC活性を増強した抗CD20抗体を開発していたが、ロシュが完全子会社化した後に開発中止となっている。

OcrevusはRituxanよりマウス由来のアミノ酸が少なく過敏反応リスクが小さい可能性があるため自己免疫疾患に適すると考えられていたが、第三相試験でアジアの施設を中心に深刻な感染症が増加したため、多発性硬化症以外は開発打ち切りとなった。再発型の第三相試験は二本実施され、再発頻度が年率0.15回とRebif(ベータインターフェロン)を投与した群の0.29回を有意に下回った。障害の進行を抑制する効果も見られた。有害事象は点滴箇所反応が多かったが深刻な有害事象は少なかった。

一次進行型では障害進行リスクを偽薬比24%削減した(p=0.0321)。

投与は最初の二回は300mgを二週間置いて、その後は24週毎に600mgを3.5時間以上かけて、点滴静注する。点滴反応を抑制するためにステロイドと抗ヒスタミンなどでプリトリートするのはRituxanと同じ。有害事象で印象的なのは、乳癌が781人中6人で発生、対照群は668人中ゼロなので、リスクがあるのかもしれない。

WAC(問屋取得コスト)は年65000ドル。既存薬の価格はいつの間にか暴騰したらしく、多発性硬化症用薬としては安いほうとのことだ。尤も、Rituxanならもっと安いのではないか。バイオシミラーが発売されたら猶更だ。再発型はRituxanの第二相試験より数字が良いが、偽薬対照試験ではないしこの程度の差なら直接比較試験を行っても有意差は出ないのではないかと思われる。

Rituxanの一次進行型第2/3相試験はフェールしたが、Ocrevusの試験とは主評価項目が異なり、再発頻度のデータは有意ではないもののOcrevusとそれほど変わらない。プリトリートの手間も変わらないので安全性も大差ないのではないか。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース

ファイザー、ゼルヤンツが欧州でやっと承認
(2017年3月27日発表)

ファイザーは、Xeljanz(tofacitinib citrate、和名ゼルヤンツ)がEUで承認されたと発表した。選択的Janus Kinase阻害剤で、疾病装飾的抗リウマチ薬に十分反応しない、または不適な、中重度活性期リウマチ性関節炎の治療に用いる。

米国では12年に、日本でも13年に承認されたが、EUはCHMPが感染症や癌、胃腸穿孔のリスクを懸念したため、承認が遅れた。元々は臓器移植後の拒絶反応予防薬として臨床入りした経緯を持つ強力な免疫抑制剤なので、カルシニューリン阻害剤と同様なリスクがあっても不思議はない。

リンク: ファイザーのプレスリリース





今週は以上です。

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