2017年4月23日

2017年4月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 先進国初の遺伝子療法が承認返上に 
  • アッヴィ、PARP阻害剤の第三相二本がフェール 
  • ライジェル、Syk阻害剤をITP治療薬として承認申請 
  • CHMP、新薬4品などに肯定的意見 
  • Tecentriqが一次治療薬として承認 


【今週の話題】


先進国初の遺伝子療法が承認返上に
(2017年4月20日発表)

オランダのuniQure biopharma(Nasdaq:QURE)は、Glybera(alipogene tiparvovec)のEUにおける販売承認を更新しないことを決めた。先進国で初めて承認された遺伝子療法だが残念な結果になった。

この薬は、重度家族性リポプロテイン・リパーゼ欠乏症(高カイロミクロン血症)という100万人に1~2人が罹患する超希少疾患の治療薬で、リポプロテイン・リパーゼの遺伝子をアデノ随伴ウイルスをベクターとして導入する。高脂血症の治療で優れた実績を持つアムステルダム大学アカデミック・メディカル・センター出身のバイオベンチャー、uniQureが2012年に承認を取得、Chiesi Farmaceuticiが販売している。

15年にベルリンで承認後初めての患者が治療を受けたと報じられたが、結局、最初で最後の患者になった模様だ。年110万ユーロと著しく高価だが、超希少疾患薬は数十万ユーロ級の薬が珍しくない。個人負担は大きくはないだろうし、健康保険にとっては高血圧症や高脂血症、糖尿病に係る支出のほうがはるかに大きい。従って、費用の問題というよりは薬の効果やリスクの問題なのだろう。臨床的な転帰を改善する効果が実証されていないため、適応が膵炎を頻繁に発症する患者に限定されていることなどが影響したのだろう。

Glyberaは、例外的環境条項に基づいて承認された。治療が難しい深刻な疾患で、患者が少ないために十分な規模の臨床試験を行うことができない場合に、承認のハードルを引き下げる制度だ。販売許可保有者は、患者登録などの市販後監視、追加的な臨床試験、リスク管理などの実施が課せられる。uniQureはこれらの負担や供給体制維持に関わる費用を節減するために、5年間の承認期間が終了する今年10月25日をもって販売終了を決めた。Chiesiに対する補償を考慮しても年200万ユーロのコスト削減になる由だ。

欧州では、昨年、グラクソ・スミスクラインもStrimvelisの承認を取得している。イタリアの研究機関が開発したex vivo遺伝子療法で、ADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重症複合免疫不全症)の治療に用いる。これも年60万ユーロと高いが、病気が極めて深刻で治療法の選択肢が限られているため効用が大きい。グラクソは成功報酬制度を用意するなどの工夫も行っている。

折角の画期的新薬が不発に終わるのは残念だが、便益と費用・副作用リスクのバランスが取れないのならば止むを得ない。患者が欲しているのは新しい薬ではなく有益な薬なのだから。

リンク: uniQureのプレスリリース

【新薬開発】


アッヴィ、PARP阻害剤の第三相二本がフェール
(2017年4月19日発表)

アッヴィはPARP阻害剤ABT-888(veliparib)の第三相試験を様々な癌に実施しているが、扁平上皮非小細胞性肺癌のcarboplatin・paclitaxel併用一次治療試験と、早期トリプルネガティブ乳癌ネオアジュバント試験がフェールしたことが発表された。残りは非扁平上皮非小細胞性肺癌とBRCA1/2型の乳癌と卵巣癌の三本。

他社のPARP阻害剤はBRCA1/2型の乳癌や卵巣癌を狙うことが多く、肺癌で第三相を行うのは珍しいため、フェールしても意外感はあまりない。今回の試験の主評価項目は喫煙経験者だけの解析となっているので、おそらく、このサブグループなら成功すると信じる根拠があったのだろう。一方、乳癌のほうは大変意外だ。

ABT-888は政府や医学者が臨床開発をスピードアップするために導入した画期的な試みで用いられたことで有名だ。例えば、フェーズ・ゼロ試験。ファースト・イン・マンを前倒しして、ごく少量を投与することによって早い段階で人間における薬物動態を把握する。あるいは、I-SPY 2。様々な会社の様々な分子標的薬を様々な遺伝子プロファイルを持つ癌に次々と投与することによって、ベストな組み合わせを早く見つける。

ABT-888はI-SPY 2の最初の卒業生だった。トリプルネガティブ乳癌のネオアジュバント療法(摘出術前に腫瘍を小さくする目的で施行する)として300人規模の第三相試験を行えば、成功確率92%と予測された。それなのに、フェールしてしまった。

ベイズ確率は考え方としては有望であるように感じられ、I-SPY 2卒業生の第三相試験に注目していたのだが、第一号は意外な結果になった。

リンク: アッヴィのプレスリリース

【承認申請】


ライジェル、Syk阻害剤をITP治療薬として承認申請
(2017年4月17日発表)

ライジェル・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:RIGL)はR788(fostamatinib disodium)を慢性・持続性免疫性血小板減少症(ITP)治療薬として米国で承認申請した。

マスト細胞やマクロファージ、B細胞などの免疫グロブリンG受容体の細胞内シグナル伝達に係るspleen tyrosine kinaseを阻害し、IL-6やMMP-3を2~3割減少させる効果を持つ。第三相試験は100mgを一日二回、経口投与したところ、一本では奏効率が18%と偽薬群の0%を有意に上回ったがもう一本は18%対4%でフェールした。主な有害事象は悪心、下痢、血圧上昇など。

リンク: ライジェルのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP、新薬4品などに肯定的意見
(2017年4月21日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPが、4月の会議で脊髄性筋萎縮症用薬などの承認とオプジーボの適応拡大などに肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヵ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

肯定的意見を得た新薬は、まず、バイオジェンがIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスして開発したアンチセンス薬、Spinraza(nusinersen)。脊髄性筋萎縮症の治療に用いる。希少疾患で、日米欧の患者数は3~3.5万人と推定されている。殆どの患者がSurvival Motor Neuron(SMN)の遺伝子であるSMN1に変異を持ち、十分に機能するSMNを産生できない。発症時期や重篤さが異なるI型、II型、III型がある。

これまでのアンチセンス薬は特定の蛋白の発現を阻害するメカニズムだったが、Spinrazaは、短いSurvival Motor Neuron(SMN)しか作れないSMN2遺伝子のスプライシングを変えることによって、SMN1遺伝子の代わりに正常なSMNを作らせる、正の作用であることがユニークだ。I型(幼児発症型)試験では、反応率が51%と文献データの0%を大きく上回った。人工呼吸器が恒久的に必要になったり死亡したりするリスクも半減した。II型試験では筋肉機能評価スコアが用量依存的に改善した。

髄腔内投与で最初は2ヶ月間に4回投与、その後は4ヶ月に一回投与する。米国では昨年12月に承認された。日本も臨床試験に参加しており、昨年12月に承認申請された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: バイオジェンのプレスリリース

次に、バイオマリン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:BMRN)のBrineura(cerliponase alfa)は、同社お得意の超希少疾患用の酵素補充療法。適応はCLN2(神経セロイドリポフスチン症2型)。TPP1/CLN2遺伝子の変異が原因でトリペプチジルペプチダーゼを作ることができず、この酵素で分解されるべき蛋白が蓄積してしまう。2~4歳で発症、6歳までに歩行・会話能力を失い、8~12歳で死亡することが多い、深刻な疾患だ。罹患率は20万人に一人。

Brineuraは遺伝子組換え型のヒトTPP1で、二週間に一回、脳室内に点滴投与する。臨床試験では運動機能や言語機能の悪化が文献データ比8割少なかった。

昨年7月に欧米で承認申請された。米国の審査期限は4月27日。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: バイオマリンのプレスリリース

ファイザーのBesponsa(inotuzumab ozogamicin)は抗CD22ヒト化抗体とカリケアマイシンを結合した抗体薬物複合体。再発難治性、CD22陽性の前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病に用いる。第三相試験では完全寛解率が80.7%と標準療法群の29.4%を上回り、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオは0.45で統計的に有意、全生存期間はメジアン値が各7.7ヶ月と6.7ヶ月、ハザードレシオ0.77で有意ではなかったが方向的には好ましい結果だった。

ワイスがセルテックからライセンスしてCD22陽性非ホジキンリンパ腫でrituximab併用第三相試験を実施したがフェール。ワイスはファイザーに、セルテックはUCBに買収されたが開発は継続され、今日に至った。米国でも承認審査中で8月に結果が出る見込み。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: Kantarjianらの第三相試験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発したKevzara(sarilumab)はIL-6受容体アルファ・サブユニットを標的とする完全ヒト化抗体。中重度活性期リウマチ性関節炎の治療に用いる。

抗IL-6受容体抗体という点では日本発の抗体医薬、中外/ロシュのActemra(tocilizumab)と同じ。皮注薬で、Actemraも関節リウマチ用には皮注用製剤も用意されている。投与頻度は二週間に一回、Actemraも同じだが100kg超の患者は毎週。こちらは完全ヒト化抗体、向こうはヒト化抗体、等々、細かい違いはあるものの概ね同じようなものと考えておけばよいだろう。

米国では昨年10月に審査完了通知を受領した。サノフィの充填最終製剤工場でcGMP上の欠陥が指摘されたようだ。日米欧の規制局はこのような情報の交換協定を結んでいる。欧州でも承認遅延の可能性があるのか、4月23日夕方現在、両社ともCHMP通過に関するプレスリリースを出していない。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)を切除不能な局所進行性・転移性尿路上皮細胞腫に用いることが支持された。白金薬による治療がフェールした患者が適応になる。用量は体重相関ではなく、240mg。60分点滴静注を二週間毎に施行する。第二相試験では持続的反応率が19.6%。PD-L1発現が1%以上のサブグループでは23.8%、1%未満では16.1%と、それほど大きな差はなかった。

抗PD-1抗体Opdivoは、EUでは以下の適応症に承認されている。悪性黒色腫(モノセラピーまたはYervoy併用)、非小細胞性肺癌(モノ、二次治療限定)、腎細胞腫(モノ、二次治療限定)、古典的ホジキン型リンパ腫(モノ、自家造血幹細胞移植及びAdcetrisによる治療を既に受けた患者に限定)、頭頸部扁平上皮腫(モノ、白金薬による治療に不応・再発した患者に限定)。

Yervoy併用試験が活発に実施され学会発表も盛んであるためか、EMAのプレスリリースは黒色腫以外ではモノセラピーしか承認されていないことを明記している。

リンク: BMSのプレスリリース

さて、EMAのプレスリリースには言及されていないが、米国テキサス州のバイオベンチャーであるXbiotech(Nasdaq:XBIT)は、結腸直腸癌用薬として承認申請した抗IL-1アルファ・ヒトモノクローナル抗体、Xilonixに関して、CHMPが否定的な『トレンド』投票を行った旨を公表した。5月の会合で正式に否定的意見が出る見込みである模様だ。

第三相試験では偽薬比有意なQOL改善効果が見られたが、QOLの評価が独自であるため議論の余地が大きそうだ。米国承認申請に向けて別途、第三相試験を実施中なので、この結果を待つことになるのではないか。

リンク: XBiotechのプレスリリース(4/20付け)

【承認】


Tecentriqが一次治療薬として承認
(2017年4月17日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、抗PD-L1抗体医薬Tecentriq(atezolizumab)を局所進行性・転移性尿路上皮細胞腫の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。cisplatinに不適な患者が適応になる。これまでは白金薬による治療を受けた患者の二次治療限定だった。

どちらも第二相試験の反応率データに基づく承認で、一次治療コフォートでは反応率が23.5%、うちPD-L1の発現が5%以上のサブグループは28%、未満では22%とそれほど大きな差はなかった。主な有害事象は肺炎、肝炎、結腸炎、ホルモン分泌障害、神経障害など。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース




今週は以上です。

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