2016年6月26日

2016年6月26日


【ニュース・ヘッドライン】

  • ラジカット、米国に再チャレンジ 
  • イデベノン、欧州で筋ジストロフィーに適応拡大申請 
  • CHMPが遺伝子療法などの承認を支持 
  • 米国で二次性副甲状腺機能亢進症治療薬が承認 
  • アデムパスをPH-IIPに用いるのは禁忌に 
  • 免疫チェックポイント阻害剤に関節リウマチのリスク 


【承認申請】


ラジカット、米国に再チャレンジ
(2016年6月20日発表)

田辺三菱製薬は、米国でエダラボンをALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬として承認申請したと発表した。承認されたらこの疾患ではサノフィのRilutek(riluzole)以来20年振りの新薬となる。このフリーラジカル・スカベンジャーは2001年に日本で脳梗塞急性期治療薬として承認された。海外で第三相に進んだ薬は全てフェールした難しい分野なので、世界中から導入の申し込みが殺到し欧米で実用化されても不思議はなかったが、なぜか実現しなかった。

ALSは日本で二本目の薬効確認試験が成功し、昨年、適応拡大された。米国申請も日本のデータに基づく模様だ。通常なら患者や医療風土が異なるかもしれないので欧米試験が求められるところだが、難病であり希少疾患なので、ハードルが引き下がる可能性がある。

Rilutekは延命効果が認められて承認に至った(実際はプロトコルに定めた解析方法は二本ともフェールしたが代替的な解析が受け入れられた)。エダラボンの効能は病状判定スコアの悪化が偽薬群より2.5ポイント(ベースライン値の6%に相当)小さいことなので、臨床的にどの程度価値があるのかがポイントになろう。但し、QOL指標などでも有意な差があったようなので、二の矢三の矢がありそうだ。

脳梗塞試験の論文は承認後も中々刊行されず、やっと掲載されたのは超一流誌ではなかった。ALS試験の成功も快挙なのだから、早く論文刊行してほしい。

リンク: 田辺三菱製薬のプレスリリース

イデベノン、欧州で筋ジストロフィーに適応拡大申請
(2016年6月21日発表)

サンセラ・ファーマシューティカルズ(SIX:SANN)はidebenoneをデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に用いる適応拡大申請を欧州で行い、受理されたことを発表した。52週間の臨床試験ではピークフロー(PEF %予測値)が53%から50%に悪化したが偽薬群の9ポイント悪化より有意に小さかった(p=0.04)。

イデベノンは86年に脳梗塞脳出血後遺症治療薬アバンとして日本で承認されたが薬効再試験が成功せず98年に承認取消となった。欧州の一部ではサプリ用途も含めて根強い人気があり、昨年、サンセラがレーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON)の治療薬としてEUの初承認を取得した。

リンク: サンセラのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが遺伝子療法などの承認を支持
(2016年6月24日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品専門家委員会、CHMPは、6月の会合で、ハプロ造血幹細胞移植附随療法の条件付き承認などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されるだろう。

ところで、英国の国民投票を受けて、EMAの本拠を英国から移す圧力が高まっているようだ。EUは他の加盟国の追随を防ぐために足抜けを決めた英国に厳罰を与え、見せしめとしなければならない。欧州議会議員とか、オリンピック委員会とか、東京都知事とか、おいしい地位を失いたくない気持ちは庶民もセレブも同じである。

リンク: EMAのリリース

ミラノのMolMed社のZalmoxisは、ex vivo遺伝子療法。深刻な血液癌でHLAが片方だけ適合するハプロ造血幹細胞移植を受ける成人に用いる。ドナーの血液から精製したT細胞に短縮低親和性ヒト神経成長因子と単純ヘルペスIウイルス・チミジンキナーゼの遺伝子を導入することによって、作用をオフにできないという細胞療法・遺伝子療法の弱点を克服したもの。

ハプロ移植はドナーになれる近親者が多いのと、患者の癌化した血液細胞を攻撃する力が強いという長所を持つが、正常な細胞を攻撃してしまう移植片対宿主病(GvHD)のリスクがある。Zalmoxisなら抗ヘルペスウイルス薬であるganciclovirを投与してやれば導入したT細胞を除去することができる。

30人に投与した臨床試験では、23人が免疫再建に成功した。GvHDが10人で発生したが、うち9人はganciclovirの投与を受け、死亡や長期的深刻な障害という転帰を免れた。もう一本の試験と合わせて、1年生存率は49%と、ハプロ造血幹細胞移植を受けた140例のデータベース値である37%を上回った。

MolMedは20年前にベーリンガー・マンハイムとScience Park Rafの細胞療法分野での合弁として設立された。今年5月にEUで承認されたADA-SCID患者の自家遺伝子療法、StrimvelisもMolMedが生産(患者から採取したCD34陽性細胞にヒトADAの遺伝子を導入)する。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: EMAのリリース
リンク: MolMedのプレスリリース(pdfファイル)

テバ(NYSE:TEVA)のCinqair(reslizumab)も肯定的意見を受けた。抗IL-5ヒト化抗体で、重度の管理不良好酸球性喘息症に用いる。主な有害事象はCPK上昇、筋痛、アナフィラキシー反応など。臨床試験では悪性新生物の発生に群間の不均衡が見られた。類薬ではグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)が昨年、欧米で承認されている。

リンク: EMAのリリース

適応拡大では、MSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)をPD-L1陽性非小細胞性肺癌の二次治療に用いることが肯定的意見を受けた。臨床試験ではORR(客観的反応率)41%という高い成績を上げた。

リンク: EMAのリリース(pdfファイル)

ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)を活性期スティル病に用いる適応拡大も支持された。スティル病は慢性関節炎と皮疹、発熱などを伴う難病で、小児発症型と成人発症型があるが、Ilarisは両方に効果があるようだ。

リンク: EMAのリリース(pdfファイル)

更に、ロシュの抗IL-6受容体抗体、RoActemra(tocilizumab)を重度で活性期、進行性のリウマチ性関節炎でMTXによる治療をまだ受けていない成人患者に用いることも支持された。

リンク: EMAのリリース(pdfファイル)

また、MSDのPAR-1阻害剤、Zontivity(vorapaxar)を症候性末梢動脈疾患に用いることも支持された。

リンク: EMAのリリース(pdfファイル)

一方で、Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)を慢性リンパ性白血病の治療後に維持療法として用いることは否定的意見となった。CHMPによると、主評価項目であるPFS(無進行生存期間)が対照群より有意に長かったが、全生存期間は改善せず、QOLの向上も見られなかった由。意外な結果になった。

Arzerraは抗CD20完全ヒト化抗体で、デンマークのジェンマブが元々はグラクソ・スミスクラインと共同開発したが、GSKは腫瘍学事業をノバルティスに売却した。

リンク: EMAのリリース(pdfファイル)

CHMPは5月の会合で武田薬品が再発性難治性多発骨髄腫用薬として申請したNinlaro(ixazomib cirate)に否定的意見を纏めたが、武田から再審査請求を受けたことを明らかにした。米国では承認されており、何が問題なのか、分からないのは私だけではないだろう。

【承認】


米国で二次性副甲状腺機能亢進症治療薬が承認
(2016年6月21日発表)

Opko Health(NYSE:OPK)は、FDAがRayaldee(calcifediol)を二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬として承認したと発表した。ステージ3~4(透析期より前の段階)の慢性腎疾患でビタミンD欠乏を伴う患者に用いる。米国の対象患者は900万人と推定されている。臨床試験では血漿副甲状腺ホルモン量削減成功率やビタミンD欠乏解消率が偽薬群を上回った。

リンク: Opkoのプレスリリース

【医薬品の安全性】


アデムパスをPH-IIPに用いるのは禁忌に
(2016年6月24日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、バイエルのAdempas(riociguat、和名アデムパス)のレーベルを変更し、特発性間質性肺炎に伴う症候性肺高血圧症(症候性PH-IIP)の治療に用いることを禁忌にすると発表した。第二相試験の結果が悪かったため。

Adempassは可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤で、酸化窒素合成酵素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイを増強する。13年に米国で、14年にEUでも、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)と肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療に承認された。この二つは肺高血圧症のWHO分類で夫々グループ4と1に属する。今回のPH-IIPはグループ3に属し、比較的予後が悪い。

問題の第二相試験では、呼吸能力低下や肺感染症などの深刻な有害事象や死亡例が偽薬群より多く発生したため、予定より早く打ち切られた。運動機能を改善する効能は見られなかった。第二相なので信頼性は第三相ほどではないが、被害の重大さを踏まえて、オフレーベル使用しないよう警告したのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

免疫チェックポイント阻害剤に関節リウマチのリスク
(2016年6月23日発表)

抗癌剤として用いられている抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体はリウマチ性関節炎のリスクを高めるという論文がAnnals of Rheumatic Diseasesに掲載された。Johns Hopkinsのリウマチクリニックの疫学研究で、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)やYervoy(ipilimumab)の副作用でリウマチ性免疫関連有害事象を発症した患者が過去4年間に13人、特定された。

意外性はなく、免疫関連有害事象ならもっと深刻なものも数多いが、このような警告は重要だ。これまでの抗癌剤は免疫を弱める副作用を持つものが多かったので、医師は自己免疫疾患の経験が乏しいかもしれないからだ。患者も癌の病状に気を取られて関節痛を訴えるのを失念するかもしれない。末期癌なら後遺症に配慮する必要はないかもしれないが、今後は治癒目的の切除術後の附随療法にも用いられる可能性があるので、QOLの悪化にも目を配らなければならない。

新しい作用機序には新しい副作用が付き物だ。審査機関も製薬会社も研究者も、そしてメディアも、便益だけでなく副作用リスクを十分に伝えなければならない。

リンク: Cappelliらの治験論文抄録(Ann Rheum Dis)
リンク: Johns Hopkinsのプレスリリース




今週は以上です。

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