2016年6月19日

2016年6月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ADA:ビクトーザはMACEを13%削減 
  • ファイザー、抗CD22ADCのALL試験が成功 
  • AriadもALK阻害剤を承認申請 
  • マラソン社、筋ジストロフィー用薬を米国で承認申請 
  • ロシュ、Gazyvaが欧州でも適応拡大 
  • FDAがSGLT2阻害剤の急性腎障害を警告 


【今週の話題】


ADA:ビクトーザはMACEを13%削減
(2016年6月13日発表)

ノボ ノルディスクのGLP-1作用剤、Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)のLEADER心血管アウトカム試験の結果がADA米国糖尿病学会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。Victozaで血糖値を矯正した群はVictoza以外の薬だけを投与した群と比べてMACE(主要有害心血管イベント)が13%少ないという、大変良い結果になった。

LEADER試験は二型糖尿病で心血管リスクの高い患者9340人をVictozaを一日一回皮注する群と偽薬皮注群に無作為化割付して、心筋梗塞、脳卒中、心血管疾患による死亡のリスクをメジアン3.8年間に亘って追跡したもの。両群とも、他の血糖治療薬等を併用可。患者背景は、平均64歳、HbA1c8.7%、BMIは32.5kg/m2。心血管疾患歴が81%、リスク因子のみが19%。被験者の35%が欧州、30%が北米、7%がアジアの施設で組み入れられた。

結果は、主評価項目である心血管疾患死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の複合評価項目がハザードレシオ0.87、95%信頼区間0.78~0.97、発生率は13.0%対14.9%となり、Victozaは他の二型糖尿病薬と比べて劣っていない(非劣性)ことが確認された。シーケンシャルに実施された優越性解析も成功、リスクを有意に削減することが明らかになった。

サブ分析もおおむね良好。心血管疾患死のリスクはハザードレシオ0.78、95%信頼区間0.66~0.93、発生率4.7%対6.0%。全死亡は100人年当り2.1対2.5でp=0.02、全心筋梗塞(サイレントMIを含む)は1.6対1.9でp=0.04、脳卒中は1.0対1.1でp=0.16。サブグループ分析で交絡p値が0.05を下回ったのは心血管疾患歴(ない患者はハザードレシオが1を上回る)と腎機能(60ml/分/1.73m2以上では信頼区間が1を跨ぐ)程度。

但し、地域別の集計で北米のハザードレシオが1.01であることは気にかかる。患者のコンプライアンス(指示通りに注射する)があまりよくなかった模様だが、米国でレーベル追加申請を行う時にボトルネックになるかもしれない。治療方針、人種、スタチンやアスピリンなど他の薬の服用状況などが国によって異なるかもしれないからだ。また、日本ですらKYOTO HEART STUDYやJIKEI HEART STUDYのような不正が起きたのだから、規制が厳しい国のデータは軽視できない。

有害事象では、膵炎は両群同程度、悪性新生物も同程度だったが膵臓腫瘍は13人対5人(発生率は0.3%対0.1%)だったことが気にかかる。

血糖治療薬の心血管疾患予防効果は、希望と失望が交錯している。DPP試験でmetforminに兆候が見られたため様々な試験が行われたが、何れも有意な予防効果を示すことができず、無理やり下げるのは却って有害であることを示唆した試験もあった。

諦めた頃になってやっと成功したのがSGLT2阻害剤のJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)だ。EMPA-REG試験でハザードレシオ0.86と、今回のVictozaに匹敵する効果を示した。心血管死のハザードレシオは0.62とVictozaより良いが、95%信頼区間は0.57~0.82でかなり重なっており、似たようなものと考えたほうが良いだろう。

こうなると、心血管アウトカム試験はFDAの要求に応じて、いやいやながら、最低限の予算と時間で実施するものではなくなり、販売競争を勝ち抜くために何としてでも有意差を出さなければならなくなった。報道によるとPF-04971729(ertugliflozin)を共同開発しているファイザーとMSDは心血管アウトカム試験の目標組入れ数を倍増して優越性解析も行うことを決めた由。

JardianceとVictozaのデータは有意と言っても95%上限は1に近い。今後、様々な新薬のデータが揃うにつれて、JardianceやVictozaのデータがフェイクなのか、リアルなのか、クラスイフェクトなのか、ユニークなのかが次第に判明するだろう。

リンク: Marsoらの抄録(NEJM)
リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

【新薬開発】


ファイザー、抗CD22ADCのALL試験が成功
(2016年6月12日発表)

ファイザーはCMC-544(inotuzumab ozogamicin)の第三相急性リンパ性白血病試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたこと、及び、アップデート・データがEHA欧州血液学協会会議で発表されたことを明らかにした。承認申請に向けて当局と相談中。

CMC-544は英国のセルテック(後にUCBが買収)がワイス(ファイザーが買収)と共同開発したADC(抗体薬物結合剤)で、腫瘍化したB細胞が発現するCD22に結合するヒト化抗体と、抗CD33ADCであるMylotarg(gemtuzumab ozogamicin、和名マイロターグ)に使われているのと同じ細胞毒を結合したもの。最初に非ホジキン型リンパ腫で第三相入りしたがフェールした。

今回の第三相は、再発性難治性のCD22陽性急性リンパ性白血病を組み入れて、反応率と延命効果を化学療法(cytarabineなどを併用)と比較したもの。反応率(完全寛解、血液学的回復が不十分な症例も含む)は80.7%となり、化学療法群の29.4%を有意に上回った。幹細胞移植に進んだ患者の比率は41%対11%。一方、もう一つの主評価項目である全生存期間はメジアン7.7ヶ月対6.7ヶ月、ハザードレシオ0.77で有意な差はなかった。

有害事象では、静脈閉塞性肝疾患の発生率が11%と化学療法群の1%を大きく上回った。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: Kantarjianらの治験論文

【承認申請】


AriadもALK阻害剤を承認申請
(2016年6月17日発表)

Ariad Pharmaceuticals(Nasdaq:ARIA)は、AP26113(brigatinib)のローリング承認申請に着手したと発表した。まず前臨床に係る書類を提出し、残りのCMC(化学製造管理)や臨床試験の書類は第3四半期(7-9月)に提出する予定。

ALK阻害剤で、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)に反応しなかったALK陽性非小細胞性肺癌に用いる。第二相試験では180mg(一日一回経口投与)群110人に対する確認客観的反応率が54%、メジアンPFS(無進行生存期間)は12.9ヶ月だった。この適応でFDAからブレークスルー・セラピー指定と希少疾患用薬指定を受けている。

リンク: Ariadのプレスリリース

マラソン社、筋ジストロフィー用薬を米国で承認申請
(2016年6月14日発表)

米国イリノイ州の希少疾患用薬開発会社、マラソン・ファーマシューティカルズは、MP-104(deflazacort)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬としてFDAに承認申請した。経口投与用のグルココルチコイドで、欧州や南米、アジアの一部で承認されているがDMD用途は未承認の模様。オフレーベルでprednisoneを用いることがある模様で、米国未承認のdeflazcortなら新薬の価格で販売できるという思惑かもしれない。

米国で希少疾患用薬指定、ファーストトラック指定、希少小児疾患指定を受けている。このうち、希少小児疾患指定は承認時に優先審査バウチャーがもらえるので経済的価値が著しく高い。

リンク: マラソン社のプレスリリース

【承認】


ロシュ、Gazyvaが欧州でも適応拡大
(2016年6月16日発表)

ロシュはGazyva(obinutuzumab)を濾胞性リンパ腫に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。Rituxan(rituximab)に反応しなかった患者にbendamustine併用コースを施行し、その後もGazyvだけの維持療法を最長2年間続ける。第三相試験ではbendamustineだけの群に対するPFS(無進行性生存期間)のハザードレシオが0.48となった。

Gazyvaは抗CD20ヒト化抗体で、抗CD20キメラ抗体であるRituxanとは結合箇所が異なり、また、フコースが付与されていないためADCC(抗体依存的細胞傷害)活性が高い。最初の適応症である慢性リンパ性白血病では直接比較試験でRituxanを上回る効果を示した。非ホジキン型リンパ腫でも将来は取り替わるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがSGLT2阻害剤の急性腎障害を警告
(2016年6月14日発表)

FDAは、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)とFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の急性腎障害リスクについて警告強化を発表した。この二剤による治療を開始する場合は急性腎障害のリスク因子を検討する。具体的には、血量低下、慢性腎不全、慢性心不全、そして利尿薬、ACE阻害剤、ARB、あるいは非ステロイド抗炎症薬の同時服用などである。投薬前に腎機能を評価し、その後も定期的に監視する。急性腎障害が発生したら速やかに薬を止めて腎臓を治療する。

13年3月から15年10月までに急性腎障害の確認可能例が101件、FDAの市販後有害事象報告システムに報告された。うち73例はInvokana、28例はFarxiga。過半は投与開始から1ヶ月以内の発症で、投与中止後に多くは改善した。101人の転帰は 死亡4人、透析15人。同時服用薬は51人がACE阻害剤を、26人は利尿薬を服用していた。尚、canagliflozinやdapagliflozinを服用する患者は合わせて年150万人に達するので、発生頻度は高くはない。

この二剤はSGLT2という輸送酵素を阻害することによって、腎臓で漉し取られたグルコースが再び血液中に戻るのを妨げる。SGLT2阻害剤はもう一つ、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)もあるが、今回の警告強化の対象ではない。

別扱いの理由はわからないが、EMPA-REGアウトカム試験の裏付けだろう。丁度、糖尿病性腎症の進行を遅らせる効果を検討したサブスタディ論文が刊行されたところだ。ごく稀にしか発生しない有害事象は数千人規模の長期アウトカム試験でも検出するのは困難だが、データが悪くなければある程度、安心できる。おそらく、市販後有害事象報告もそれほど多くないのだろう。

EMPA-REG試験では心血管疾患リスク削減効果も見られた。metforminやpioglitazoneが類薬で唯一、生き残ったように、SGLT2阻害剤でもサバイバルゲームが始まったのだろうか。

リンク: FDAの安全性警告
リンク: WannerらのEMPA-REG腎臓サブスタディ論文(NEJM)

今週は以上です。



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