2016年6月12日

2016年6月12日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO:トップニュースはDarzalex 
  • ASCO:抗PD-1抗体はMSI-H型結腸直腸癌に有効な可能性 
  • ASCO:BRAF阻害剤とMEK阻害剤の併用はBRAF変異型NSCLCに有効 
  • EHA:Blincytoの市販後薬効確認試験が成功 
  • FDA諮問委員会がCDI再燃予防薬の承認を支持 
  • 米国でコレラの経口ワクチンが承認 
  • ロシュ、日本のエビデンスでEUで承認取得 


【新薬開発】


ASCO:トップニュースはDarzalex
(2016年6月5日発表)

Darzalex(daratumumab)の多発骨髄腫三次治療試験の結果がASCO米国臨床腫瘍学会で、二次治療試験の結果がEHA欧州血液学協会会議で、それぞれ発表された。武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)乃至はセルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)をステロイドと併用する標準的な併用レジメンに更にDarzalexを追加したところ、PFS(無進行生存期間)が大きく向上した。

多発骨髄腫用薬は98年に米国でサリドマイドが正式に承認されて以降、新薬が続々と登場し、二剤併用が一般的になっただけでなく、三剤併用も複数、開発された。その中でもDarzalexのデータは良く、今回のASCOの白眉という声が多いようだ。Velcadeや武田薬品のNinlaro(ixazomib cirate)のようなプロテアソーム阻害剤でも、Revlimidやサリドマイドのような免疫調整薬でもない第三の作用機序を持つので、出番が多そうだ。

Darzalexはデンマークのジェンマブ社がメダレックス社のトランスジェニックマウス技術を用いて創製した抗CD38完全ヒト化抗体。多発骨髄腫の表面に過剰発現する膜貫通型外酵素、CD38に結合してアポトーシスを誘導する。12年にジョンソン・エンド・ジョンソンが世界独占開発販売権を取得、15年に米国で、16年に欧州で、多発骨髄腫の四次治療薬として単剤投与が承認された。

ASCOで発表された三次治療試験は、Velcadeとdexamethasoneの併用と、三剤併用のPFSを比較した。中間解析でハザードレシオ0.39となり、成功認定された。メジアンPFSは二剤併用が7.16ヶ月、三剤併用は未到達。ORR(客観的反応率)は63%対83%、完全反応率は19%対43%と何れも有意に改善した。

EHAで発表された二次治療試験は、Revlimidと低量dexamethasoneを併用するRdレジメンと三剤併用のPFSを比較。こちらも中間解析でハザードレシオ0.37となり成功認定された。ORRは76%対93%、完全反応率は9%対19%で有意に優れていた。

主な有害事象は、好中球減少症や血小板減少症などの骨髄抑制。Velcade併用試験では末梢知覚神経症が二剤併用群と比べても増加した。治療時発現有害事象による治験離脱は両群大差なかったようだ。

リンク: Dimopoulosらの抄録(EHA第21回会議)
リンク: JNJのプレスリリース(6/10付)
リンク: Palumboらの抄録(ASCO 2016)
リンク: JNJのプレスリリース(6/5付)

ASCO:抗PD-1抗体はMSI-H型結腸直腸癌に有効な可能性
(2016年6月5日発表)

BMS(が買収したメダレックス社)が小野薬品と共同開発したOpdivo(nivolumab)やMSDのKeytruda(pembrolizumab)のような抗PD-1抗体は、マイクロサテライト不安定性(MSI)結腸直腸癌に有効であることを示唆する治験結果がASCOで発表された。

ゲノム配列のうち、同じ塩基配列が何度も繰り返される箇所はDNA複製時に間違えが起きやすい。通常は修復機構が働くが、関連遺伝子に機能低下多型を持つ人は、複製ミスが残りやすくなる。腫瘍化した細胞は活発に遺伝子複製、分裂するため、ミスが増えていく。腫瘍細胞と正常な細胞の繰り返し箇所を比較して、反復回数が大きく異なる患者(MSI-Hと呼ばれる)は複製ミス修復機能低下多型を持つと推測できる。結腸直腸癌の場合、早期転移性患者の15%、末期患者の4%が該当する模様だ。

OpdivoはCheckMate-142という第二相試験で検討された。再発性転移性結腸直腸癌でMSI-Hの患者では、ORR(客観的反応率)が単剤投与で25.5%、Yervoy(ipilimumab)併用で33.3%、6ヶ月無進行生存率は各45.9%と66.6%、9ヶ月生存率は75.0%と85.1%だった。

KeytrudaはJohns Hopkins Kimmel Cancer CenterとMSDが協力して実施した第二相試験の結果が発表。再発性急進行性転移性結腸直腸癌のうち、DNAミスマッチ修復(MMR)が不十分な癌と十分な癌、そして、MMR不十分な結腸直腸以外の癌に単剤投与したところ、ORRは各57%、ゼロ、53%となった。一群20~30人の小さな試験だが、MMRがKeytrudaの有効性予測因子であることを示唆している。尚、MMRの評価はマイクロサテライト不安定性に基づくものなので、BMSの試験と基準が同じではないかもしれないが似たようなものと考えてよいだろう。

リンク: BMSのプレスリリース(6/5付)
リンク: MSDのプレスリリース(6/6付)

ASCO:BRAF阻害剤とMEK阻害剤の併用はBRAF変異型NSCLCに有効
(2016年6月6日発表)

ノバルティスはグラクソ・スミスクラインとアセットスワップを行い、ワクチン事業を譲渡する代わりに抗癌剤事業を取得した。商品群の一部であるBRAF阻害剤Tafinlar(dabrafenib、和名タフィンラー)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)はBRAF遺伝子にV600E変異のある転移性黒色腫の治療薬として承認されているが、同じ変異を持つ非小細胞性肺癌にも有効である可能性が示唆された。このような変異があるのは1~2%だけである模様なので、検査の費用対効果も検討課題になりそうだ。

Plancahrdらの抄録やノバルティスのプレスリリースによると、第二相試験でBRAFV600E変異陽性の転移性非小細胞性肺癌の二次治療に用いたところ、確認ORR(客観的反応率)63%、メジアン反応持続期間は9ヶ月、メジアンPFSは9.7ヶ月だった。適応拡大申請に向かうことになりそうだ。

リンク: D. Planchardらの抄録(ASCO 2016)
リンク: ノバルティスのプレスリリース

EHA:Blincytoの市販後薬効確認試験が成功
(2016年6月10日発表)

アムジェンは、EHAでBlincyto(blinatumomab)の第三相試験の結果を発表した。フィラデルフィア染色体陰性で、再発性難治性の前駆B急性リンパ性白血病の患者をBlincyto群と標準療法群(4種類の薬から担当医が選択)に割り付けて全生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.71、階層化p値0.012、メジアン生存期間は各群7.7ヶ月と4.0ヶ月となった。

BlincytoはB細胞のCD19に結合する抗体可変領域と細胞傷害性T細胞のCD3エプシロンに結合する可変領域を持つBiTE抗体で、副刺激なしに細胞傷害性T細胞を活性化する。12年に11.6億ドルで買収したマイクロメットの開発品で、紆余曲折したが、14年に米国で、15年にはEUでも、再発性難治性前駆B急性リンパ性白血病用薬として承認された。日本ではアムジェンとアステラス製薬の提携対象になっている。

第二相試験に基づく承認なので、第三相試験で延命又はそれに準ずる効果を確認しないと承認取り消しになるが、今回の成功で本承認の道が開けた。

尚、米国では命に係ることもあるサイトカイン放出症候群が枠付き警告されている。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がCDI再燃予防薬の承認を支持
(2016年6月9日発表)

FDAの抗菌剤諮問委員会は、MSDがクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)の再燃予防薬として承認申請したZinplava(bezlotoxumab)を検討し、16名の委員のうち10名が承認に賛成、5名が反対、1名が棄権した。難しいところだが、承認されない可能性も残っているように感じられる。審査期限は7月23日。

CDIは多くの国で感染例が増えており、米国では2011年に50万人が感染、29000人が死亡したと推測されている。治療が奏功しても2~3割は再燃してしまうようだ。

Zinplavaはクロストリジウム・ディフィシルのB毒素に対する完全ヒト化中和抗体。マサチューセッツ・バイオロジック・ラボラトリーズがメダレックス(現在はBMS傘下)と共同開発し、09年にMSDに世界開発販売権を供与した。第三相試験ではA毒素に対する完全ヒト化中和抗体、actoxumabを単剤投与・併用する群も設定されたが、無効だった。

第三相は二本実施され、夫々、偽薬、単剤、または両剤を一回投与した後に12週間追跡して再燃リスクを比較した。偽薬群の再燃率は25~28%だったが、Zinplava群は15~18%、併用群も14~16%となり、有意な差があった。尚、再燃率の分母は初期治療非奏功例も含んでいるので、本当に重要な指標である「初期治療が奏功した患者のうち再燃しなかった患者の比率」と比べるとオーバーステートされている。

FDAの懸念は、Zinplava群の初期治療奏効率が偽薬群より見劣りしたことだ。初期治療が成功し且つ再燃しなかった患者の比率(グローバルキュア率)は一本の試験では見劣りした。Zinplavaが初期治療の妨げになる可能性を示唆しているのかもしれない。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認】


米国でコレラの経口ワクチンが承認
(2016年6月10日発表)

FDAはPaxVaxのVaxchoraを承認した。コレラ菌O1型の弱毒化生ワクチンで、18~64歳のコレラ流行国渡航者が少なくとも10日前に、一回、経口接種する。臨床試験では、18~45歳の抗体保有率が93%、46~64歳は90%となった。

流行地居住者や感染・ワクチン接種により既に免疫を持っている人に対する効果は確認されていない。O139などO1血清グループ以外の菌に対する効果も確認されている。

PaxVaxは、熱帯病バウチャー制度に基づく優先審査バウチャーを取得した。最近では2億ドル以上の価格で譲渡された事例もあり、ワクチンを売るより大きな利益になるだろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: ParVaxのプレスリリース

ロシュ、日本のエビデンスでEUで承認取得
(2016年6月8日発表)

ロシュは、Tarceva(erlotinib)とAvastin(bevacizumab)を併用でEGFR活性化変異陽性の末期転移性再発性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いることがEUで承認されたと発表した。承認の根拠となった日本で実施された第二相試験、JO25567試験では、併用群のメジアンPFS(無進行生存期間)が16.0ヶ月、Tarceva単剤投与群は9.7ヶ月、ハザードレシオは0.54だった。

尚、この二剤を非小細胞性肺癌の二次治療に用いる欧米の試験はフェールした。

リンク: ロシュのプレスリリース




今週は以上です。

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