2012年4月1日

海外医薬ニュース週末版 2012年4月1日号



ニュース・ヘッドライン

  • 細胞毒搭載型トラスツズマブのフェーズIII試験が成功
  • IL-17標的薬がフェーズIIbで好成績
  • Affymax・武田薬品の貧血症治療薬が米国で承認
  • Chelsea社の起立性低血圧症治療薬は承認されず
  • ヴィーヴァス(田辺三菱製薬)の性的不全治療薬の承認申請が欧州でも受理
  • FDA諮問委員会:肥満症治療薬は全て、心血管安全性を確認すべき
  • アミリン社が買収のターゲットになっている?


新薬開発



細胞毒搭載型トラスツズマブのフェーズIII試験が成功



ロシュは、T-DM1(trastuzumab emtansine)の乳癌フェーズIII試験が成功したと発表した。年内に欧米で承認申請する見込み。

T-DM1はher2陽性乳癌治療薬Herceptinに用いられている抗her2ヒト化抗体に微小管重合阻害剤DM1を結合したもの。DM1は健康な細胞にも障害を与えてしまうリスクがあるので、抗体と組み合わせることで癌細胞だけに作用させるアイディアだ。

今回のEMILIA試験では、タクサン系の抗癌剤とHerceptinによる治療を既に受けた患者を組入れて、capecitabine(ロシュ/中外のゼローダ)とlapatinib(GSKのタイケルブ)の併用療法とPFS(無増悪生存期間)や全生存期間を比較したところ、PFSが有意に優れていた。データは未公表。ASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表されるのではないか。延命効果は未だ解析に必要なイベント数に到達していないので、分からない。

T-DM1は将来的にはHerceptinとタクサン系抗癌剤の併用療法に取り代わるだろう。程度の差はあれタクサン系抗癌剤も正常な細胞に副作用を与えるリスクがあるからだ。フェーズII試験では、T-DM1群の方が忍容性が良かった。

リンク:ロシュのプレスリリース






IL-17標的薬がフェーズIIbで好成績


IL-17や受容体を標的とする抗体医薬のフェーズIIb試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。二剤とも、中重度の乾癬症の治療で高い奏効率を示した。


一つはイーライリリーの抗IL-17ヒト化抗体、LY2439821(ixekizumab)。四用量のうち、25mg以上を投与した群のPASI75奏効率(12週時点)が77-82%となり、偽薬群の8%を有意に上回った。免疫抑制剤は感染症のリスクが高まるが、この試験の発生率は試験薬群も偽薬群も同じ26%だった。用法は最初の3回は2週間おき、その後は4週間おきに皮下注射する。イーライリリーは2011年11月に80mgでフェーズIII試験を開始した。


もう一つはアムジェンの抗IL-17受容体完全ヒト抗体、AMG 827(brodalumab)。四種類の用量用法のうち、140mgと210mgを投与した群でPASI75奏効率(12週時点)が各77%と82%となり、偽薬群の0%を上回った。この二用量の群は最初の二回は週一回、その後は二週間に一回、皮下注射した。280mg月一回投与も試験された。アムジェンはフェーズIII試験を開始する予定。尚、日本などアジアの権利は協和発酵キリンが保有している。


リンク:イーライリリーのプレスリリース

治験論文抄録(PubMed)

アムジェンのプレスリリース

治験論文抄録(PubMed)



承認申請・承認



Affymax・武田薬品の貧血症治療薬が米国で承認

Affymax(Nasdaq: AFFY)が武田薬品と共同で開発している新種の貧血治療薬、Omontys (peginesatide)が米国で承認された。エリスロポイエチン受容体を作動して赤血球の生成を刺激する。透析治療を受けている腎臓疾患患者の貧血症に用いる。保存期の患者や、癌患者の貧血治療に用いることは承認されていない。



このペプチド薬は、Affymaxがアミノ酸配列をランダムに生成、試験して力価の高かった二種類の配列をリンカーで繋げることによって創製したもの。半減期を長期化するためにPEG化してある。既存薬であるエポエチンとの違いは、アミノ酸が21個と少なく(エポエチンは165個)、分子量は4900ダルトンとPEGの40000ダルトンで合計約45000ダルトンであること(30400ダルトン)、化学合成で作られること(エポエチンは遺伝子組換え)、など。1%程度の患者で中和抗体ができるが、エポエチンで稀に発生する中和抗体とは異なり、天然のエリスロポイエチンには影響しない。用法は月一回の皮注/静注なのでエポエチンより回数が少なくて済むが、アムジェンのAranesp(和名ネスプ、darbepoetin α)と同程度だ。常温保存可能と考えられていたが、エポエチンと同様にレーベルには冷蔵保存(摂氏2-8度)と記されている。



米国のエポエチン市場は寡占されていて、透析患者向けはアムジェンがエポエチンを販売しているだけ、慢性腎疾患保存期患者の貧血や抗癌剤誘導性貧血症向けもエポエチン(アムジェンのライセンスでJ&Jが製造販売)とAranespがあるだけだ。Affymax・武田は10年の遅れを巻き返すために割安な価格で競争することになるだろう。


武田薬品は米国で共同販売して費用や利益を折半する。海外は武田薬品が単独販売する。EUで承認審査中。日本では開発しない模様だ。


リンク:FDAのプレスリリース

Affymaxのプレスリリース

武田薬品の日本語プレスリリース



Chelsea社の起立性低血圧症治療薬は承認されず



Chelsea Therapeutics(Nasdaq:CHTP)が起立性低血圧症の治療薬として米国で承認申請したNorthera(droxidopa)は、審査完了(complete response)となった。FDAが承認しなかったのは、臨床試験二本のうち一本しか成功しなかったことや、試験が4週間しか実施されず作用の持続性が明確でないことが原因のようだ。同社は、現在実施中の306試験の解析データをFDAに提出する考えだ。


リンク:Chelsea社のプレスリリース



ヴィーヴァス(田辺三菱製薬)の性的不全治療薬の承認申請が欧州でも受理


ヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)は田辺三菱製薬のPDE-5阻害剤、TA-1790(avanafil)を導入して欧米で開発、男性の性的不全治療薬として承認申請したが、米国に続いてEUでも受理された。承認・上市されれば、ファイザーのViagra(sildenafil)などに続く第4のPDE-5阻害剤になる。



リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース



FDA諮問委員会:肥満症治療薬は全て、心血管安全性を確認すべき


FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会を召集し、肥満症治療薬の開発に際して心血管安全性を確認することは必須であるかどうか、意見を聞いた。懸念のある薬については身の潔白を証明しなければならないのは当然である。今回の諮問委員会のテーマは、理論的な懸念の無い薬であっても心血管安全性を証明するために大規模な臨床試験を行わなければならないのか、であった。結果は、是が17人、非が6人と多数が心血管安全性確認を求めた。


肥満は心血管疾患のリスクを高めるので、食事療法や運動療法を行う必要がある。問題は十分な効果が得られなかった場合で、手術や薬物療法が適応になるが、それで心血管疾患のリスクが下がるかどうかは明確ではない。過去に承認された医薬品の中には、心弁変形や肺動脈高血圧症の副作用が発覚したり、大規模な市販後安全性確認試験で心血管疾患のリスクが却って高まることが判明し、販売中止になったり適応が縮小されたりしたものもある。医師や患者が良かれと思って使った薬がむしろ有害だった、というのでは酷い話だ。後者のsibutramineは、日本で第一部会を通過した。薬事分科会が承認を先送りしたおかげで、承認・発売直後に欧州の大規模試験の結果が出て日本国内で大騒ぎになる事態を回避できたが、危ないところだった。


FDAの諮問委員会は特定のテーマについて専門家の意見を聞くもので、FDAは票決には拘束されない。ましてや、治験デザインの細かいところに関してはどの程度重視するか、ケースバイケースだろう。それでも、心血管安全性を確認する方法については、血糖治療薬の前例があるので見当が付く。おそらく、フェーズIIb試験とフェーズIII試験で心血管イベント(心筋梗塞、経皮的冠動脈介入術施行、狭心症発作など)を密接に観察し、メタアナリシスを行ってリスクを分析することになるだろう。FDAは、リスクが高そうならば長期大規模な試験の実施を求め、それほどでなければ市販後に長期大規模試験を行う条件で承認するだろう。


日本の学者の中には心血管リスクだけを殊更に重視する必要はないと主張する人もいるかもしれないが、心血管安全性を確認するにはキチンとした試験が必要であり、キチンとした試験を行えば他の副作用リスクについても知見を得ることができるのだから、結局のところ、ここで問題にしているのは副作用全般なのである。グリタゾン系の血糖治療薬に膀胱癌のリスクがある(程度は小さい)ことが初めて判明したのは心筋梗塞治療試験だったことを思い出して頂きたい。日本の糖尿病患者の死因として一番多いのは心血管疾患ではなく癌だが、心血管安全性試験を行えば、癌を誘導するリスクについてもある程度の知見を得ることができるのである。
リンク:MedPageTodayの報道(要登録)



製薬会社の動き


アミリン社が買収のターゲットになっている?


Bloomberg報道によると、BMSがアミリン(Nasdaq: AMLN)に買収オファーを行ったが、断られた。オファーは一株当り22ドル、総額35億ドルで、これは報道の前日である3月28日の引値を46%上回る。報道を受けてアミリンの株価が高騰し、証券会社のアナリストが様々なコメントを出した。アストラゼネカなども買収に乗り出すのではないか、Bydureon(週一回皮注型のGLP-1作用剤)の米国以外の権利をライセンスすべく詳細調査を行ったと推測される武田薬品やサノフィ、MSD(メルク)も買収に動くのではないか、情報がリークされたのはこのライセンス契約をブロックすることが目的なのではないか、等などである。何れも真偽は明らかではない。


米国の場合、上場企業の取締役会が買収オファーに応じるかどうか決定する時には、株主を利益を最大限に考慮しなければならない。つまり、価格が低すぎるという反論なら可能だが、例えば一株当り100ドルとか、1000ドルとか、ありえないほど高いオファーは断れないのである。オファーがリークされたことによって、経営陣に対する株主の圧力が高まり、最終的には最も高い価格を提示した会社に買収されることになりそうだ


アミリンという社名は、膵臓ベータ細胞が分泌する血糖降下性ホルモンであるアミリンに由来している。05年にアミリン誘導体のpramlintideをSymlinとして発売、同年にはGLP-1作用剤のexenatideをByettaとして発売と、血糖治療の画期的新薬を二剤、実用化した。更に、今年1月に米国でexenatideの長期作用性製剤、Bydureonが米国で承認された。皮注用薬なので、投与頻度が一日二回ではなく週一回で済むことは大きな価値がある。この三剤は何れも体重を減らす作用も持つ。


Byettaの開発販売ではイーライリリーと提携していたが、イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと広範な血糖治療薬提携を行ったのを機に、解消した。同社を買収すれば、これら三剤と肥満症パイプラインを入手することができる。



リンク:Bloombergの観測記事





今週は以上です。

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