2012年4月22日

海外医薬ニュース週末版 2012年4月22日号

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       海外医薬ニュース(週末版) 2012年4月23日号    
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(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

・C型肝炎治療薬の学会発表
・CHMPが三種類の新薬に肯定的意見
・HGSIがGSKの買収オファーを拒否
・EUとFDAがジレニア/イムセラの警告強化
・FDAがラジレスの警告強化

新薬開発


C型肝炎治療薬の学会発表

ILC(国際肝臓学会)で、複数のC型慢性肝炎用新薬の臨床第二相試験データが発表されている。テラビック(telaprevir、海外ではIncivek名で販売)やVictrelis(boceprevir)と同じプロテアーゼ阻害剤の新薬や、ポリメラーゼ阻害剤、NS5A阻害剤などだ。

C型肝炎の治療はテラビックやVictrelisを用いる三剤併用療法の登場で飛躍的な進歩を遂げた。今後の開発課題は、三剤併用に不応、不耐の患者向けだ。インターフェロン抜きの三剤、四剤併用療法が活発に探索されている。

一例が、BMSのBMS-790052(daclatasvir、NS5A阻害剤)とギリアッド(NASDAQ:GILD)のGS-7977(NS5Bポリメラーゼ阻害剤)の第二相試験だ。両剤を一日一回、24週間に亘って経口投与したところ、投与終了の4週後の奏効率(SVR4)がI型ウイルス感染者(44人)は100%、2型・3型感染者(同44人)は91%だった。この試験ではribavirinを併用する群も設定されたが、効果は大差なかった。

かっての標準療法であったインターフェロンもribavirinも使わずにこれだけの成果が挙がったのは意義がある。尤も、喜ぶのは未だ早い。症例数が少なく、また、追跡期間も短いからだ。治療が成功したと言うためには、投薬完了後24週間経った後でもウイルスが探知不能でなければならないが、インターフェロンを使わないレジメンは完了後の再燃が懸念される。

リンク:BMSのプレスリリース

但し、再燃に対する懸念は緩和しつつある。24週間後奏効率(SVR24)でも良いデータが出始めているからだ。例えば、アボットのABT-450(プロテアーゼ阻害剤)とABT-072(ポリメラーゼ阻害剤)をritonavirやribavirinと併用した小規模な試験では、11人中10人がSVR24を達成した。プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低いが、ABT-450はritonavirの3A4阻害作用を利用して一日一回経口投与を実現している。ABT-072も一日一回なので、高い抗ウイルス作用を持つプロテアーゼ阻害剤を簡便に用いることができる。

リンク:アボットのプレスリリース

海外の治験データを見る度に、日本でも開発されているのか心配になる。ILCでは虎ノ門病院などで実施された小規模な第二相試験の結果が発表された。インターフェロンとribavirinの併用に不応、又は不耐・不適なIb型ウイルス感染者に上記のBMS-790052とプロテアーゼ阻害剤BMS-650032(asunaprevir)の二剤併用療法を24週間施行した。その結果、不応患者は21人中19人、不耐不適患者は22人中14人がSVR24を達成した。

リンク:BMSのプレスリリース

第二相段階の新薬で考慮しなければならないのは安全性が十分には確認されていないことだ。今後、症例が増えるにつれて深刻な副作用が顕在化するかもしれない。ILCではノバルティスがスイスのDebio Pharmaからライセンスしたサイクロフィリン阻害剤、Debio 025(alisporivir)の第三相試験がクリニカル・ホールド(治験中断)になったことも公表された。急性膵炎が4例発生し、うち一人が死亡したため、FDAがストップを掛けた。薬との関連性は明確ではなく、この試験で併用されたインターフェロンも膵炎のリスクがあるのだが、前途は楽観できないだろう。

リンク:ビジネスウイークの記事

何れにせよ、これだけ多くの製薬会社がこれだけ多くの新薬を開発しているのだから、前途は明るい。3年後、5年後には様々な併用療法が実用化されるだろう。各社の競争が激化すれば、ウイルス型などに基づいて最適な併用レジメンを選択するテーラーメイド・メディスンも進むだろう。

承認申請・承認


CHMPが三種類の新薬に肯定的意見

EUの医薬品審査機関であるCHMPが4月の会議で三種類の新薬に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月以内に承認されることになる。

Forxiga(dapagliflozin)はBMSがアストラゼネカと共同開発した糖尿病治療薬。SGLT2阻害という新しい作用機序を持つ。SGLT2は、腎臓で血液から濾し取られたグルコースを再び血液中に戻すトランスポーター蛋白で、大阪大学の研究者が同定した。阻害すると、尿と一緒に排泄されるグルコースが増加する。CHMPによると、metforminやSU剤のglipizideと同程度の血糖効果作用を持ち、2年間の試験で作用の持続性を示した。中度以上の腎障害を持つ患者には適さない。

気になるのは治験で一部の癌の発生に偏りがあったことだ。膀胱癌の発生率は0.16%(対照群は0.03%)、乳癌は0.40%(同0.22%)だった。短期間の試験中に癌が発生し発見されるとは考え難いが、FDAが承認しなかったのはこれが原因だろう。このため、BMSとアストラゼネカは市販後に疫学的試験を行い、進行中の心血管アウトカム試験でも癌の発生状況を監視する。

リンク:CHMPのリリース

BMSのリリース

Jakavi(ruxolitinib)は骨髄線維症の治療薬で、ノバルティスがインサイト(NASDAQ:INCY)から米国以外の開発販売権を取得したもの。JAK1とJAK2という骨髄線維症に関連する酵素を阻害する経口剤。治験では膵臓肥大の改善などの効果が見られた。骨髄線維症は命に係わる血液癌の一種で、EUの有病率は10万人に0.75人、希少疾患指定されている。米国ではインサイトがJakafi名で販売。

リンク:CHMPのプレスリリース

ノバルティスのプレスリリース
Rienso(ferumoxytol)は慢性腎疾患の鉄欠乏性貧血治療薬で、武田薬品がAMAG(NASDAQ:AMAG)から欧州などの権利を取得したもの。静注。米国では2009年にFeraheme名で承認され、2011年の売上高は5000万ドル余。

リンク:CHMPのリリース

AMAGのプレスリリース

一方、Allos Therapeutics(NASDAQ:ALTH)が末梢T細胞リンパ腫用薬として承認申請したFolotyn(pralatrexate)は1月に続いて今回の再評価でも否定的意見となった。CHMPの懸念は、臨床試験のデザインが不十分で薬効が十分に確認されていないこと。具体的には、対照群が設定されておらず、奏効率を調べただけで症状改善効果や延命効果が検討されなかった。尚、AllosはSpectrum社が2億ドルで買収することで合意している。

リンク:CHMPのリリース

Allos社のプレスリリース

製薬会社の動き


HGSIがGSKの買収オファーを拒否

ヒューマン・ジェノム・サイエンス(NASDAQ:HGSI)はグラクソ・スミスクラインの買収オファーを拒否した。一株当り13ドル、総額26億ドルでは過小評価と判断した。米国の上場企業が買収オファーを受けた場合は株主の利益を最優先に考える必要がある。スタンスは企業によって区々だが、HGSIは買収自体を拒否している訳ではなさそうだ。投資銀行などと戦略的選択肢を検討する考えであり、GSKがオファーを引き上げれば受諾する公算がある。

GSKはHGSIと長年の提携関係にあり、全身性エリトマトーデス治療薬Benlysta(belimumab)を共同販売、GLP-1作用剤albiglutideを共同開発している。Benlystaの2011年の売上高は5230万ドルと伸び悩んでおり、HGSIの株価はゲノムブームの2000年の108ドル、Benlystaが承認申請された2010年の32ドルから7ドルまで下落していた。

リンク:グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

HGSIのプレスリリース

医薬品の安全性


EUとFDAがジレニア/イムセラの警告強化

EUと米国の医薬品審査機関が相次いでGilenya(fingolimod、和名ジレニア、イムセラ)の警告を強化した。内容は若干異なるものの、治療を開始する前に心電図、血圧、心拍数を検査し、初回投与後は6時間に亘って一時間毎に血圧・心拍数をモニターし、もし徐脈やAVブロックが発生した場合は一晩監視する。心血管疾患・脳血管疾患歴を持つ患者や不整脈治療薬、心拍数低下薬を服用している患者に用いる場合も、初回投与後は一晩監視する。

Gilenyaはノバルティスが田辺三菱製薬からライセンスして開発した再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬で、米国で2010年、日欧でも2011年に承認された。再発リスク削減効果が高く、また、経口投与できる唯一の薬である。臨床試験で血圧低下や心拍数低下が見られたため、初回投与後は6時間観察するという大変珍しい用法が課せられた。昨年12月に米国で治療開始後24時間以内の死亡例が報告されたため、EUの審査機関であるCHMPと米国のFDAが夫々に安全性を再検討した。

CHMPやノバルティスによると、Gilenyaによる治療を受けた患者は累計28,000人。死亡は15例で、死因は突然死、心臓発作、不整脈などだが原因不明もある。多くは心臓疾患歴や心拍影響を持つ薬の同時服用があった。FDAは特に何も発表していない模様だが、ノバルティスがFDAとレーベル変更で合意したと発表した。

リンク:CHMPのプレスリリース

CHMPの判定に関するノバルティスのプレスリリース

FDAとレーベル変更で合意したことに関するノバルティスのプレスリリース

FDAがラジレスの警告強化

FDAはTekturna(aliskiren、和名ラジレス)の警告を強化した。糖尿病又は中高度腎障害を持つ患者について、ACE阻害剤やARBを併用禁忌とする。ALTITUDE試験で腎障害や低血圧、高カリウム血症のリスクが見られたため。米国ではvalsartan配合剤が承認されているが、ノバルティスは自主的に販売中止を決めた。

FDAによるとaliskirenは2011年に45万人の患者に処方されたが、このうち22%がACE阻害剤又はARB、且つ二型糖尿病薬を同時服用していた。この分の需要が喪失することになる。ALTITUDE試験では心血管疾患による死亡や脳卒中ややや増加したが、FDAは、薬との関連性に関する結論はまだ出ていない、と述べている。

レニン・アンジオテンシン系をブロックする降圧剤の併用は、腎障害の悪化を強力に抑制することができると考えられていた。しかし、ACE阻害剤とARBの併用も、アウトカム試験で効果が見られず、副作用が増えるだけだった。

ノバルティスと言えば、日本で実施されたディオバン(valsartan)のアウトカム試験に疑義を唱える投稿がLancet誌に刊行された。私もKyoto Heart Studyの結果が発表された当時、よく分からない点を書いたことがある。今週は同社にネガティブな報道が続いた。

リンク:FDAのプレスリリース

ノバルティスのプレスリリース

Medicine-Blog valsartanは京都で誰を倒したのか?

今週は以上です。

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