2015年12月27日

2015年12月27日号



【ニュース・ヘッドライン】


  • エグゼリキシス、腎細胞腫用薬を承認申請 
  • サノフィ、リキスミアとランタスのプリミックスを承認申請 
  • アストラゼネカ、痛風薬が米国で承認 
  • アクテリオン、肺動脈高血圧症治療薬が承認 


*** 新年は1月10日スタートの予定です。今年は読んで頂きありがとうございました。来年も宜しくお願いします。 ***


【承認申請】


エグゼリキシス、腎細胞腫用薬を承認申請
(2015年12月23日発表)

エグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)はCometriq(cabozantinib)の米国における適応拡大申請を完了したと発表した。末期腎細胞腫の二次治療に用いるもので、臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とノバルティスのAfinitor(everolimus)を投与した群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.58、統計的に有意だった。全生存のハザードレシオは0.67、p=0.005だったが中間解析(閾値は0.0019)なので未だ有意差は出ていない。

CometriqはVEGFR2やmet、ret、kitなどを阻害する小分子薬で、末期・転移性切除不能甲状腺髄用癌用薬として米国で12年、EUでも14年に承認された。対象患者は少ないが、VEGFR阻害剤は既に様々な薬が様々な用途に承認されているので、Cometriqも適応拡大の余地が大きい。前立腺癌の第三相はフェールしたが、今回の腎細胞腫はVEGFR阻害剤の典型的な用途なので成功しても驚きはない。

リンク: エグゼリキシスのプレスリリース

サノフィ、リキスミアとランタスのプリミックスを承認申請
(2015年12月23日発表)

サノフィはGLP-1作用剤Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)と管理放出性インスリンLantus(insulin glargine、和名ランタス)の合剤を米国で承認申請した。

LyxumiaはデンマークのZealand Pharmaからライセンスした一日一回皮注型製品。Lantusは一日一回皮注型インスリンのベストセラーで、特許切れを前に高濃度製剤が商品化されたが今回のプリミックスはLantusと同じ100単位/mL。

同様な合剤では、ノボ ノルディスクがXultophy(liraglutide、insulin degludec)を欧州で今年発売、米国でも9月に承認申請した。3ヶ月ビハインドだが、サノフィはRetrophinから2.45億ドルで買収した優先審査バウチャーを利用する考え。

サノフィはリジェネロンと共同開発した抗PCSK9抗体のPraluent(alirocumab)を承認申請した時もバイオマリン社から0.67億ドルで買収した優先審査バウチャーを使用、承認申請はアムジェンのRepatha(evolocumab)のほうが早かったが承認は先んじた。

余談になるが、RetrophinやTuring Pharmaceuticalsの創立者でCEOだったMartin ShkreliがFBIに証券詐欺の疑いで逮捕された。ヘッジファンド・マネージャー出身の変わり種で、Retrophinでは新薬の販売ではなく優先審査バウチャーを取得・転売することで大きな利益を上げ、Turingでは特許が失効した後も一社しか販売していない薬の権利を取得し価格を56倍に引き上げることで荒稼ぎをするなど、色々な点で注目されていた人物だ。

嫌疑内容は値上げ事件とは無関係のようだが、危ない橋を何度も渡りすぎたのだろう。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認】


アストラゼネカ、痛風薬が米国で承認
(2015年12月22日発表)

FDAはアストラゼネカのZurampic(lesinurad)を高尿酸血症の治療薬として承認した。選択的URAT1阻害剤で、腎臓近位管トランスポータであるURAT1を阻害して尿酸の排泄を促進する。allopurinolやfebuxostatのようなキサンチン酸化酵素阻害剤だけでは尿酸値を十分に管理できない患者に追加投与する。

第三相試験では200mgと400mgの二用量を検討したが、後者の群では心血管疾患や急性腎不全が増加した。モノセラピー試験でもリスクが見られた。このため、200mgのアドオン用途しか承認されず、急性腎不全のリスクが枠付き警告された。

12年に12.6億ドルで買収したArdea Biosciencesの開発品。

リンク: FDAのリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アクテリオン、肺動脈高血圧症治療薬が承認
(2015年12月22日発表)

FDAはスイスのアクテリオン社のUptravi(selexipag)を肺動脈高血圧症の治療薬として承認した。08年に日本新薬からライセンスしたプロスタサイクリン受容体作動剤。この作用機序は肺動脈高血圧症治療薬では一般的だが、経口剤(一日二回服用)であることが特徴。臨床試験では増悪による入院や疾病進行のリスクを抑制することができた。2016年発売予定。

リンク: FDAのリリース
リンク: アクテリオンのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年12月20日

2015年12月20日号

 

【ニュース・ヘッドライン】


  • Xa阻害剤の拮抗剤が承認申請 
  • FDA諮問委員会、エゼチミブの心血管リスク削減効果を認めず 
  • CHMP、アストラゼネカなどの新薬の承認を支持 
  • ブリディオン、遂に米国で承認 
  • Keytruda、末期黒色腫一次治療に承認 
  • ガーダシル9、対象年齢が拡大 
  • アムジェン、EUでウイルス療法が承認 
  • CHMPがジレニアの副作用リスクをアップデート 


【承認申請】


Xa阻害剤の拮抗剤が承認申請
(2015年12月18日発表)

サウス・サンフランシスコの新興製薬会社であるPortola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT4445(andexanet alfa)を米国で承認申請したと発表した。遺伝子組換え型血液凝固第Xa因子で、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)などのXa阻害剤を服用している患者が出血事故に会ったり緊急手術を受ける時に抗凝固作用をオフセットする目的で用いる。

PortolaはCor Therapeuticsで抗血小板薬Integrilin(eptifibatide)を開発したメンバーが02年にミレニアム・ファーマシューティカルズに企業買収された時に創設した会社。自社でも経口Xa阻害剤PRT054021(betrixaban)やP2Y12阻害剤PRT060128(elinogrel)を開発しているが、何れも類薬が存在するので、andexanet alfaが最大の出世作になりそうだ。

リンク: Portolaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、エゼチミブの心血管リスク削減効果を認めず
(2015年12月14日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、MSDのコレステロール治療薬、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)やVytorin(simvastatinとezetimibeの合剤)の心血管リスク削減効果について検討した。IMPROVE-ITという長期大規模試験のエビデンスが存在するにも係わらず、効能追加に反対する委員が10名と賛成の5名を上回った。そこまで酷評しなくても、という意外な結果だが、何れにせよ小さな効果しかないので、大勢には影響ないかもしれない。

IMPROVE-IT試験は、急性冠症候群を発症して10日以内の患者を組入れて、同社のsimvastatinとVytorinの心血管疾患予防効果を比較した二重盲検試験。ezetimibeはLDL-C値を穏やかに引き下げる効果を持つが、心血管疾患を防ぐ効果は未だ確認されていない。各群の平均LDL-C値はベースライン時点の100mg/dLが1年後に69.9mg/dLと53.2mg/dLに低下しており、70mg/dLより更に引き下げる超強化治療に関する初のエビデンスという意義もある。

当初の解析計画では1万人を2年間追跡してリスクを9.375%削減する効果を検出する予定だったが、途中で目標症例数と追跡期間が拡大され、結局、1.8万人をメジアン6年間追跡した。このため、開票が3~4年遅れることになった。ezetimibeと言えばENHANCE試験の結果が中々公表されずデータ隠しの疑いが浮上したり、SHARP試験で癌の疑いが生じたりしたため、色々な意味で注目されていた。

結果は昨年のAHA米国心臓協会科学会議で発表された。ハザードレシオ0.936、95%信頼区間は0.89~0.99、p=0.016で高度ではないが有意な再発予防効果が示された。各群の発生率は7年時点のカプラン・マイヤー推定で34.7%と32.7%だった。非致死的心筋梗塞と非致死的虚血性脳卒中が有意に減少した一方で、死亡リスク削減効果は見られなかった。癌の発生率は各群10%で大差なかった。

諮問委員会に際して、FDAはエビデンスの頑強性に係わる弱点を三点、指摘した。第一は、6%というリスク削減率が臨床的に十分な意義を持つかどうか。通常は20%以上、欲しい所である。そもそも、95%上限は0.99なので、真の上乗せ効果は殆ど無い可能性が残っている。他に適当な選択肢がないのなら止むを得ないが、atorvastatinの80mgとかrosuvastatinの40mgが使えるかもしれない。

第二は、サブグループ分析。75歳以上(全症例の15%を占めた)には効果があったがそれ以外は有意差がなかった。また、糖尿病(27%)には効果があったがそれ以外には無かった。この二つは交互作用p値が0.05を下回っており、軽視できない。

第三は、フォローアップ率が不十分な可能性があること。全症例の11%が追跡不能となり打切り例として扱われた。7年時点の主評価項目発生率の差は2%に過ぎず、もし打ち切り例に大きな群間差が発生していたとしたら、結論がひっくり返ってしまうかもしれない。

上記の脆弱性の根源は、効果が小さいことだ。コレステロール治療薬の心血管疾患予防効果はLDL-C低下と相関するので、ezetimibeの効果が小さいであろうことは予見できた。そこで、アウトカム試験の検出力を決めるイベント発生数を増やすために組入れ数と観察期間を大きく取ったのだが、この方法にはリスクがある。

上記の第一番と第二番は、感度が高まりすぎた結果、仮説に置いた小さな効果より更に小さくても有意差が出てしまったり、ノイズを拾ってしまうリスクが顕在化したもの。第三番は、0.1mmの精度しかない機器であることを忘れて0.001mmの差を議論するのに似ている。

IMPROVE-IT試験は、小さな差を検出するために大規模な試験を行なう時の注意点を教えてくれた。

リンク: MSDのプレスリリース

CHMP、アストラゼネカなどの新薬の承認を支持
(2015年12月18日発表)

EUの薬品承認機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議でアストラゼネカの抗癌剤などの承認に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月のうちにEU全域で承認されることになるだろう。

2015年一年間に肯定的意見を出した新薬は、ジェネリック品を含めて、93製品となった。

リンク: CHMPのプレスリリース

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib)は、非小細胞性肺癌のうち、Tarceva(erlotinib)などのEGFR阻害剤による治療を既に受けた、EGFRにT790M変異を持つ患者に用いる。第二相試験の反応率データに基づく条件付き承認で、今後の試験で延命効果を確認する必要がある。

T790M変異は第一世代のEGFR阻害剤に反応しなくなった患者でしばしば見られる抵抗性変異。TagrissoはEGFR阻害剤だがこのタイプにも有効で、第二相単群試験二本の合計で反応率が66%だった。主な有害事象は下痢や皮膚毒性、深刻なものは肺の炎症が心臓障害、胎児毒性など。

米国では今年11月に承認。日本でも今年8月に承認申請された。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク:
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカのZurampic(lesinurad)は高尿酸血症の治療薬。キサンチン酸化酵素阻害剤だけでは十分に管理できない患者に追加投与する。URAT1阻害剤で、腎臓近位管のトランスポータを阻害して尿酸の再吸収を妨げる。第三相試験で、承認申請された用量の倍を投与した群では腎臓や心血管有害事象が増加した。

米国でも承認審査中。諮問委員会は安全性に疑義を持つ委員が7名、問題ないとする委員が6名、棄権1名と意見が分かれたが、承認については賛成10人、反対4人と賛成が上回った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イーライリリーのPortrazza(necitumumab)はEGFRを標的とする完全ヒト化抗体で、局所進行性・転移性でEGFR陽性の扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に三剤併用する。第三相試験では、gemcitabineとcisplatinの二剤を投与した群のメジアン生存期間が9.9ヶ月であったのに対して、Portrazzaと三剤併用した群は11.5ヶ月と1ヶ月超の延命効果があった。

抗EGFRキメラ抗体のErbitux(cetuximab)を開発したイムクローン社がDyax社のファージディスプレイ技術を用いて創製したもの。イーライリリーは08年にイムクローンを65億ドルで買収した。

バイエルのKovaltry/Iblias(octocog alfa)は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子。A型血友病の出血治療や予防に用いる。培養生産過程でヒトや動物由来のタンパクを使用していないこと、第VIII因子の全長を用いていることが特徴。

リンク: バイエルのプレスリリース

適応拡大・効能追加では、アストラゼネカの抗血小板薬Brilique(ticagrelor)の長期投与が支持された。現在は急性冠症候群の患者にアスピリン併用で90mgを一日二回投与することが承認されているが、一年経過後も高リスク患者については60mgを一日二回、継続投与する。PEGASUS TIMI-54試験では、3年間の心筋梗塞・脳卒中・心血管死発生率が7.77%と偽薬群の9.04%より低かった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イーライリリーのCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)を非小細胞性肺癌や結腸直腸癌の二次治療に用いることも支持された。前者はdocetaxelと併用。後者はFOLFIRI(irinotecan、5-FU、folinic acidの併用レジメン)と併用する。現在は胃癌の二次治療に承認されている。

VEGFR-2を標的とする完全ヒト化抗体で、上記のPortrazzaと同様に、イムクローンがファージディスプレイ技術で創製したもの。

さて、最近の話題はヘッジファンド出身の新興製薬会社社長の逮捕と、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤の試験に纏わる懸念である。CHMPが言及したので記しておこう。

Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)はROCKET-AF試験で心房細動患者の脳卒中を予防する効果がワーファリンと非劣性であることが確認され、欧米は11年に、日本でも12年に、この用途で承認された。ところが、この試験でワーファリン群の用量調整に用いられたPT-INR検査に欠陥が判明、米国でリコールされる事態になったのである。

ワーファリンはセラプティック・ウインドウが狭く、効きすぎると出血リスクが高まり、効かなさすぎると脳梗塞予防効果が低下する。同じ量を服用していても効果が変動するため、定期的に検査を行って用量を調整する必要がある。この検査が不適切であったならば、ワーファリンの効果がフルに発揮されなかった可能性があり、それと非劣性ならば、Xareltoの効果がワーファリンと非劣性ということは出来ないことになる。

この試験を主導したDuke Clinical Research Instituteがバイエルなどと連携して検証している模様。CHMPは16年の第1四半期に結論を出す考え。

リンク: バイエルのプレスリリース(ドイツ誌の報道に対するもの、12/9付け)

【承認】


ブリディオン、遂に米国で承認
(2015年12月17日発表)

MSDはBridion(sugammadex、和名ブリディオン)がFDAに承認されたと発表した。rocuroniumやneostigmineなどの筋弛緩剤に結合、患者が全身麻酔から覚めるのを早める。07年に日米欧で承認申請、EUは08年、日本は10年に承認されたが、米国は過敏反応の懸念や治験実施施設の立入り調査などで遅延、専ら日本で使われていた。

リンク: MSDのプレスリリース

Keytruda、末期黒色腫一次治療に承認
(2015年12月18日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)を悪性黒色腫の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。braf阻害剤が適応になるbraf-V600変異型にも承認された点でライバルのOpdivo(nivolumab)を半歩リードしたが、向こうも早晩、承認されるだろう。

BMSのYervoy(ipilimumab)と直接比較した第三相試験では、10mg/kgを二週間に一回投与した群の全生存ハザードレシオ(対Yervoy)が0.63、三週間に一回投与した群は0.69だった。尚、この試験で採用された用法は承認されず、2mg/kgを三週間に一回投与と従来と同じになった。抗PD-1抗体は用量反応相関があまり見られず、一方、免疫刺激による副作用は用量相関するため、OpdivoもKeytrudaも第三相試験の用法が至適でないことがある。

リンク: MSDのプレスリリース

ガーダシル9、対象年齢が拡大
(2015年12月15日発表)

MSDは、子宮頸がん予防ワクチンのGardasil 9の対象年齢拡大申請がFDAに承認されたと発表した。これまでは9~26歳の女性と9~15歳の男性に承認されていたが、新たに16~26歳の男性も適応となった。

子宮頸がんなどの原因であるヒトパピローマウイルスは性的感染するので、感染を根絶するには女性だけでなく男性も接種するのが理想的だ。米国ではワクチン委員会のACIPが、11~12歳の男女と、未接種なら20代の男女にも、接種を推奨している。

リンク: MSDのプレスリリース

アムジェン、EUでウイルス療法が承認
(2015年12月17日発表)

アムジェンは、Imlygic(talimogene laherparepvec)がEUで承認されたと発表した。ステージIIIB、IIIC、IVM1aの悪性黒色腫で内臓などに転移していない患者に用いる。

GM-CSFを組入れた遺伝子組換え型単純ヘルペスウイルスで、腫瘍細胞内で増殖するよう改変してある。腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが増殖して腫瘍を破壊。暴露したウイルスとGM-CSFが刺激になって腫瘍抗原に対する免疫を誘導、他の腫瘍細胞を攻撃させる。第三相試験では、持続的反応率25%、総合反応率40%だった。延命効果は確認されていない。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


CHMPがジレニアの副作用リスクをアップデート
(2015年12月18日発表)

CHMPはノバルティス/田辺三菱製薬のGilenya(fingolimod、和名ジレニア又はイムセラ)の副作用についてアップデートした。まず、進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスク。同じ多発性硬化症の治療薬であるバイオジェンのTysabri(natalizumab)で有名になった免疫抑制剤の副作用で、Gilenya服用者のPML症例のうちTysabri経験者の疑い例が17例あるが、未経験者の確認例も3例あった。こうなると、Gilenya自体にリスクがあると考えざるを得ないだろう。

もう一つは基底細胞腫で151例が報告されている。Gilenyaのこれまでの服用状況は21.9万人年とのことなので、一年間服用すると1450人に一人が、10年だと145人に一人が発症する計算になる。癌の中では予後が比較的良い、治療できる癌だが、患者は注意が必要だろう。

リンク: CHMPのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年12月13日

2015年12月13日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 早期乳癌の手術は早いほうが良い 
  • ASH:イムブルビカのマントル細胞腫試験成功 
  • ASH:ノバルティス、FLT阻害剤の第三相が成功 
  • アッヴィ、bcl阻害剤を承認申請 
  • ノボ、食後インスリンを承認申請 
  • ファイザー、Ibranceを用法追加申請 
  • ファイザー、ザーコリの適応拡大を申請 
  • FDA諮問委員会、テバの抗IL-5抗体を支持 
  • アレセンサ、米国でも承認 
  • アレクシオン、Kanumaが承認 
  • バクスアルタの遺伝子組換え型vWFも承認 
  • サノフィ、デング熱ワクチンがメキシコで初承認 


【今週の話題】



早期乳癌の手術は早いほうが良い
(2015年12月10日発表)

医師にも生活があるし人気の施設ほど込み合うので時には処置が遅れることもある。一例は休診時の急性心筋梗塞だろう。医師を呼び出すのがベストなのだろうが、薬物療法だけで月曜まで待つことも広く行われているようだ。勿論、患者の利益を無視しているわけではない。米国ではキチンと臨床研究を行って、直ぐに手術しても月曜まで待っても予後は大差ないことを確認している。

早期乳癌の切除手術は何ヶ月も順番待ちすることで有名だ。医療施設や医師の数に比べて患者が多いのでやむをえないのだろうが、患者に害はないのか?検証した米国の疫学研究がJAMA Oncology誌に刊行された。

Fox Chase Cancer CenterのBleicherらがSEER-Medicare Data BaseとNational Cancer Data Base(NCDB)を用いて分析したもので、前者は早期乳癌と診断された65歳以上の94544人、後者は18歳以上の新患115790人を対象に、30日以内に手術を受けた患者とそれ以降の患者の死亡リスクを比較した。

SEER-Medicareの分析では、手術が30日遅れる度に死亡リスクが高まった(ハザードレシオ1.09、95%信頼区間1.06~1.13)。診断時にステージIであった患者(ハザードレシオ1.13)も、ステージII(1.06)も、有意に高まった。乳癌関連死は、60日遅れる毎に増加した(ハザードレシオ1.26倍)。NCDBの分析でも、手術が30日遅れる度に死亡リスクが高まった(ハザードレシオ1.10、95%信頼区間1.07~1.13)。

不都合な真実だが、どちらのデータベースでも7割前後の患者は30日以内に手術を受けているので、手術が遅れたせいで早死にした患者は一部だけのはずだ。ハザードレシオは1.1なので遅れても被害はそれほど大きくない。更に、遅れた原因も医療施設の都合だけとは限らない。患者がセカンド・オピニオンを求めたり、仕事で忙しく後回しにしたのかもしれない。

それでも、医療が進むべき方向を指し示した研究であることに間違いは無い。手術待ちの行列を短くするために医療施設や行政に何ができるのか、検討すべきである。

リンク: Bleicherらの研究論文(JAMA Oncology、オープンアクセス)


【新薬開発】



ASH:イムブルビカのマントル細胞腫試験成功
(2015年12月7日発表)

迅速承認制度は有望な新薬を一刻も早く患者に届ける上で大きな貢献をしているが、薬効や安全性のエビデンスを十分に蓄積する前に市販することになるので、市販後も検証し続けることが重要だ。

アッヴィ(NYSE:ABBV)のBtk阻害剤Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)は第二相試験のデータに基づいて米国で13年にマントル細胞腫に、14年には慢性リンパ性白血病にも、承認されたが、並行して第三相試験も実施された。ASH(米国血液学会)で多くの治験データが発表されたが、今回はマントル細胞腫の第三相試験に注目したい。直接比較試験で優れた効果を示した。

このRAY試験は、再発性難治性の患者に560mgを経口投与する群と、ファイザーのmTOR阻害剤であるTorisel(temsirolimus、和名トーリセル)を投与する群のPFS(無進行生存期間)を比較した。結果は、ハザードレシオ0.43、メジアン値は14.6ヶ月対6.2ヶ月と有意に優れていた。完全反応率は各26%と1%。有害事象による治験離脱は7%と26%だった。

承認審査機関に本承認・用法追加申請することになるだろう。慢性リンパ性白血病の第三相も成功し、承認審査中。

Imbruvicaはアッヴィが買収したファーマサイクリクスの開発品。買収前にジョンソン・エンド・ジョンソンが共同開発販売権を取得、米国外では主導権を持っている。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ASH:ノバルティス、FLT阻害剤の第三相が成功
(2015年12月6日発表)

ノバルティスはPKC412(midostaurin)の第三相試験の結果をASHで発表した。変異型FLTを持つ急性骨髄性白血病(AML)がFLT阻害剤に応答することは以前から知られていたが、臨床試験は中々成功しなかったので、快挙と言えるだろう。

この試験は、60歳以下の初めて治療を受けるAML患者のうち、FLT3にTKD(チロシンキナーゼドメイン)変異あるいはITD(インターナルタンデムデュプリケーション)変異を持つ患者を組入れて、cytarabineとdaunorubicinを用いる導入・地固め療法と、更にPKC412を用いる療法を比較したもの。

結果は、全生存のハザードレシオが0.77となり死亡リスクが有意に減少した。メジアン生存期間は25ヶ月から74ヶ月に延長、5年生存率は43%から50%に上昇した。治療関連有害事象による死亡は2.5%で二剤だけの群の3.1%と大差なかった。

白血病は6種類に分類されるが、今後、研究が進めば更に細分化され、夫々に適した治療法が登場してくるだろう。FLT3変異はAMLの35%に見られるので、大きな小分類になりうる。ノバルティスは2016年に承認申請する予定。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】



アッヴィ、bcl阻害剤を承認申請
(2015年12月6日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ASHの学会発表に合わせて、ABT-199(venetoclax)を欧米で承認申請したことを明らかにした。ジェネンテック/ロシュと共同開発したbcl-2阻害剤で、今回の承認申請は17番染色体短腕(17p)欠損型の再発性難治性慢性リンパ性白血病(CLL)の治療に当てるもの。

申請の根拠となった第二相単群試験では、107人中85人が反応した(ORR79%)。死亡例のうち、7例は病気の進行、4例は有害事象によるもので内容は脳卒中、敗血症、心肺不全、肝障害となっている。

bcl-2はリンパ球などのアポトーシス抵抗性に係わる蛋白で、CLLでは過剰発現が見られる。ジェンタ社がサノフィと提携してbcl-2阻害剤の第三相試験を実施したことがあるが、惜しくも有意水準に届かなかった。FLT阻害剤と同様に、今回の成功は快挙と言えるだろう。

注意点は、ABT-199は腫瘍壊死症候群(TLS)のリスクがあり、注意深く少しずつ増量する必要があること。具体的には、一日20mgで開始して週一回増量、5週後に維持用量の400mgまで持っていく。経口剤だが、一定期間、入院が必要かもしれない。

17p欠損は、診断されたばかりの患者には少ないが再発性難治性の患者では30~50%を占めると言われている。高リスクだが有効な薬は少なく、ABT-199は重要な選択肢になるだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ノボ、食後インスリンを承認申請
(2015年12月9日発表)

ノボ ノルディスクは、より速効性のインスリンを米国で承認申請した。同社のNovoRapid(insulin aspart)はミールタイム・インスリンと呼ばれ、従来のインスリンより遅いタイミングで注射しても間に合うが、今回のインスリンは食後でも間に合うというもの。ビタミンやアミノ酸を用いてinsulin aspartの初期の吸収を向上し作用のオンセットを早めたとのことだ。

リンク: ノボのプレスリリース

ファイザー、Ibranceを用法追加申請
(2015年12月10日発表)

ファイザーはIbrance(palbociclib)の用法追加申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は来年4月。

IbranceはCKD4/6阻害剤で細胞分裂時の細胞周期進行を阻害、アポトーシスを誘導する。米国では今年2月に承認された。適応は、閉経後転移性乳癌のうちエストロゲン受容体陽性、her2陰性(全体の6割程度)の患者の一次治療。ノバルティスのアロマターゼ阻害剤、Femara(letrozole)と併用する。

今回の用法はプロゲスチン受容体陽性、her2陰性の患者にエストロゲン受容体零落剤fulvestrantと併用するもの。閉経前後を問わず、また、一次治療/二次治療の両方をカバーする。申請の根拠となったPALOMA-3試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン9.2ヶ月とfulvestrant単剤投与群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.42、統計的に有意だった。EUでも5月に承認申請が受理されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ファイザー、ザーコリの適応拡大を申請
(2015年12月8日発表)

ファイザーはXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)をROS1陽性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は来年4月。

Xalkoriは11年に米国でALK変異陽性非小細胞性肺癌に承認された。日本の研究者がALK変異型肺癌の発見をNatureで発表したのは07年のことであり、ベンチとベッドを4年という超速で結びつけた快挙だった。

その後、ノバルティスや中外製薬/ロシュがXalkoriに反応しなくなった癌にも有効なALK阻害剤を発売。今後は一次治療でも競合が激化するだろう。ALK変異陽性は非小細胞性肺癌の5%程度と小さいのでパイの取り合いになる。ROS1陽性は非小細胞性肺癌の1%程度。ALK変異と重複しない模様なので承認されれば対象患者数が2割程度増えることになり、売上面では重要な適応拡大だろう。

臨床試験では、50人中3人が完全反応、33人が部分反応で、総合反応率は72%。メジアン反応持続期間は17.6ヶ月だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認審査・委員会】



FDA諮問委員会、テバの抗IL-5抗体を支持
(2015年12月10日発表)

FDAの肺アレルギー薬諮問委員会は、テバ(NYSE:TEVA)が好酸球性喘息症用薬として承認申請した抗IL-5ヒト化抗体、reslizumabを討議し、18歳以上の患者に関しては14人の委員中11人が承認を支持したが、12~17歳については(症例数がごく少ないため)全員一致で反対した。審査期限は来年3月。

承認が支持されたのはポジティブだが、11月に承認されたグラクソ・スミスクラインの抗IL-5ヒト化抗体、Nucala(mepolizumab)は12~17歳も使うことが可能で、また、reslizumabのような命に係わるアナフィラキシーやクレアチンホスホキナーゼ上昇が見られないので、競争力に疑問が残る。

reslizumabは11年に買収したセファロンの開発品。

リンク: テバのプレスリリース


【承認】



アレセンサ、米国でも承認
(2015年12月11日発表)

FDAはジェネンテックのAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性の局所進行性・転移性非小細胞性肺癌でファイザーのXalkori(crizotinib)を既に使った患者の二次治療薬として承認した。二本の第二相試験の反応率データに基づく承認で、一本は客観的反応率38%、メジアン反応持続期間7.5ヶ月、もう一本では44%と11.2ヶ月だった。

Alecensaは米国では第三のALK阻害剤。中外製薬が創製し、ジェネンテックやロシュにライセンスした。特徴は中枢神経移行性が高く排出されにくいこと。上記の治験では脳転移のある患者の61%が縮小・消失した。FDAはプレスリリースの中で、医師が理解すべき重要な作用と特筆している。

リンク: FDAのリリース
リンク: ジェネンテックのプレスリリース

アレクシオン、Kanumaが承認
(2015年12月8日発表)

FDAは、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のKanuma(sebelipase alfa)をリソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症の初めての治療薬として承認した。

LAL欠乏症は脂肪が肝臓や血管壁に蓄積する。生後直ぐに発症するWolman疾患と比較的遅いコレステロールエステル蓄積疾患の二種類あり、前者は6ヶ月以内に死亡することが多い。有病率は前者が100万出生に2人、後者は25人でどちらも希少疾患。

Kanumaは遺伝子組換え型LAL。急速進行型の乳幼児9人を組入れた試験では、6人が12ヶ月以上生存した。

ユニークなのは生産方法で、鶏の卵管細胞にLALの遺伝子を導入し卵白に分泌させる。導入される遺伝子は、米国の法体系では動物薬として扱われるため、FDAの動物薬担当部署が別途、鶏に悪影響を与えないことを確認した。また、環境に大きな影響を与えないことも確認した。

アレクシオンは超希少疾患用薬の開発販売会社。Kanumaは11年にSynageva BioPharmaを84億ドルで買収して入手した。

リンク: FDAのリリース

バクスアルタの遺伝子組換え型vWFも承認
(2015年12月8日発表)

FDAはバクスアルタ(NYSE:BXLT)のVonvendi(開発コードBAX111)をフォン・ヴィレブランド病の出血治療・管理薬として承認した。常染色体性遺伝子疾患で、罹患率は1~2%と思ったより高いが、病状は区々である模様だ。Vonvendiは遺伝子組換え型フォン・ヴィレブランド因子。第8因子を殆ど含んでいないため、不必要な量を同時供給しなくて済む。

リンク: バクスアルタのプレスリリース

サノフィ、デング熱ワクチンがメキシコで初承認
(2015年12月9日発表)

サノフィは、デング熱ワクチンのDengvaxiaがメキシコで承認されたと発表した。WHOの重点分野の一つでありながらワクチンの開発は難航、今回が嬉しい初承認となった。

残念なのは対象年齢で、9~45歳に限定された。アジアで実施された第三相試験は2~14歳を組入れたがラテンアメリカの試験は9~16歳だったので、当然といえば当然なのかもしれないが、9歳未満の犠牲者も多いはずである。

Dengvaxiaは弱毒化黄熱病ウイルスにデングウイルスの抗原遺伝子を導入したもので、4種類のセロタイプに対応している。08年にAcambisを5億ドルで買収して入手したもの。

リンク: サノフィのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年12月6日

2015年12月6日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • イーライリリー、PEGリスプロの開発を中止
  • JNJ、ステラーラをクローン病に適応拡大申請
  • アムジェン、KyprolisをEUでも適応拡大申請
  • ギリアド、SOF/VEL配合剤を欧州でも承認申請
  • gepironeは粘り勝ちできそうにない
  • FDA、BMSの多発骨髄腫用薬を承認


【新薬開発】


イーライリリー、PEGリスプロの開発を中止
(2015年12月4日発表)

イーライリリーはLY2605541(peglispro)の開発中止を発表した。短期作用性インスリンHumalog(insulin lispro、和名ヒューマログ)をPEG化して作用を長期化するとともに、肝臓指向性を高めて末梢作用に付随する体重増加の抑制を図ったもので、サノフィのランタスやノボのトレシーバと競う基礎インスリンとなるはずだった。しかし、第三相試験で肝機能検査値異常や肝脂肪蓄積が見られ、安全性確認に時間や費用が掛かることから、ドロップした。

イーライリリーはランタスのバイオシミラーを開発しており、基礎インスリンのラインアップは維持することができる。糖尿病領域で提携しているベーリンガー・インゲルハイムは2年前にLY2605541に関する権利を返還したがランタス・シミラーの協業は継続している。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、ステラーラをクローン病に適応拡大申請
(2015年11月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗IL-12/23完全ヒト化抗体Stelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を中重度活性期クローン病の治療に用いる適応拡大申請を米国とEUで行った。第三相治療試験二本のうち一本では、伝統的な治療に反応しない患者を偽薬、130mg、体重に応じて260~520mgの三群に無作為化割付して一回点滴静注したところ、6週時点のCDAI100反応率が各群29%、52%、56%となり、試験薬二群とも偽薬群を有意に上回った。

リンク: JNJのプレスリリース

アムジェン、KyprolisをEUでも適応拡大申請
(2015年12月5日発表)

アムジェンはEUでプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib)の適応拡大申請を行った。欧州では多発骨髄腫の二次治療にRevlimid及びdexamethasoneと三剤併用することが11月に承認されたばかり。今回は、同じく二次治療にdexamethasoneと二剤併用するもので、米国では7月に承認申請済み。

申請の根拠となったENDEAVOR試験では、同じ作用機序を持つ大先輩である、武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と直接比較した。結果は、メジアンPFS(無進行生存期間)が18.7ヶ月とVelcadeの9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.53、95%信頼区間0.44~0.65だった。

過半の患者がVelcadeによる前治療歴を持っていてVelcadeには不利な試験なのだが、それでも良い成績だ。但し、承認用法より投与量が多いせいか、心不全や急性腎不全の発生率がVelcade群よりやや高かった。一方、神経障害の発生率はVelcadeより低かった。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ギリアド、SOF/VEL配合剤を欧州でも承認申請
(2015年12月4日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-7977(sofosbuvir、略称SOF)とGS-5816(velpatasvir、略称VEL)の合剤をEUで承認申請し受理された。米国でも10月に承認申請済み。遺伝子型1~6型の慢性C型肝炎の治療に用いる。

前者はNS5Bポリメラーゼ阻害剤で、Sovaldi(和名ソバルディ)という名称で発売され、効果の高さと早さ、そして値段の高さで名を馳せた。後者はNS5A複製複合体阻害剤で様々な遺伝子型のウイルスに活性を持つことが特徴。非代償性肝硬変を合併していない患者ならこの合剤を一日一回、12週間服用するだけで殆どの患者がウイルス検出不能になる(SVR12)。合併患者はribavirin併用12週間コースが最も奏効率が高い。

遺伝子型一型に対する効果はSOFとNS5A複製複合体阻害剤ledipasvirの合剤であるHarvoni(和名ハーボニー)と大差なさそうなので、出番はそれ以外になりそうだ。遺伝子型検査を割愛できる可能性があるので、医療リソースが不十分な国に適しているかもしれない。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


gepironeは粘り勝ちできそうにない
(2015年12月1日発表)

FDAは精神学薬諮問委員会を招集し、ヒューストンのFabre-Kramer Pharmaceuticalsが抗鬱剤として承認申請したgepironeについて意見を聞いた。審査担当者は薬効に懐疑的、13人の委員のうち9人も同意したので、おそらく、承認されないだろう。

この5HT1A作用剤はBMSが20年以上前に開発を断念、Fabre社に導出した。オルガノン(当時はアクゾ・ノーベルの子会社)がインライセンスして99年に承認申請したが受理されず、01年に申請受理されたが結果は非承認可能通知を受領。03年に修正申請したが再び非承認可能通知を受領。オルガノンから権利返還を受けたFabreが今度はグラクソ・スミスクラインと開発販売提携して07年に修正申請したが、また、非承認可能通知を受領した。

審査難航の原因は、第一に、多くの臨床試験がフェールしたこと。第二に、抗鬱剤の臨床試験は承認されている薬でもしばしばフェールするため試験フェール=薬効不十分とは断定できないこと。効果があまり高くないという側面と、薬効評価スケールの感度が不十分という側面がありそうだが、そもそも、患者によって効く薬が違うのかもしれない。

偶々、効く患者が多く集まればよい数字が出て、少なければフェールするのかもしれないのだ。現実の医療では、一つの薬に反応しないなら別の種類の薬にスイッチすることで対応できるので、向き不向きは試行錯誤で克服できる。そして、試行錯誤するためには、例え一部の患者にしか効かなくても、異なった作用機序の薬が多種存在する方が好ましいかもしれないのである。

これらのことから、鬱病や統合失調症の薬の臨床試験のデザインはこの10年ほどで大きく変わった。例えば、承認されている薬を投与する群を設けて、もし試験薬がフェールした場合に、もし実薬群もフェールなら試験がフェール、そうでないなら試験薬がフェールと判定する。あるいは、偽薬効果を抑制するために被験者を入院患者のような特に病態が重く症状の変化を観察しやすい集団に絞り込む。最後の手段としては、被験者全てに試験薬を投与し反応した患者を偽薬群と継続投与群に無作為化割付する離脱試験方式で薬効を証明する、などだ。

第三相試験は通常、二本実施されるが、抗鬱剤では三本、四本行うことが珍しくない。一本や二本フェールすることは初めから覚悟しているのだ。承認審査機関も寛容で、二本成功すれば、他の二本がフェールでもおそらく承認されるだろう。

話をgepironeに戻すと、最大の難問は、12本の試験のうち成功したといえるのは2本だけであることだ。残りのうち3本は実薬投与群がないため何とも言えなず、3本は試験がフェールと判定できるが、4本は実薬群が偽薬比有意、またはトレンドが見られた。これでは諮問委員会の支持を得られなくても当然だろう。本来ならもう一度薬効確認試験を行うべきなのだが、粘ってFDAの評価を覆すことに注力しているのは、成功する自信が無いからと思われてもしょうがないだろう。

幸い、gepironeが4度目の非承認可能通知を受領する可能性は低い。FDAは承認可能通知と非承認可能通知の使い分けを止め、審査完了通知に統一したからである。

【承認】


FDA、BMSの多発骨髄腫用薬を承認
(2015年11月30日発表)

FDAはBMSのEmpliciti(elotuzumab)を承認した。多発骨髄腫の二次治療薬としてRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと三剤併用する。9月に承認申請が受理されたばかりなのでスピード承認だ。

Emplicitiは骨髄腫細胞やNK細胞の表面に特異的に発現するSLAMF7を標的とする抗体医薬。NK細胞を活性化するとともに、骨髄腫細胞に対する抗体依存的細胞毒性を誘導する。第三相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月とRevlimid・dexamethasoneの二剤だけの群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。主な有害事象は疲労、下痢、発熱など。

08年にPDLからライセンスしたもの。PDLは後にアッヴィに買収されたため、プレスリリースは両社の連名となっている。

リンク: FDAのリリース
リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年11月29日

2015年11月29日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ファイザーが節税合併を断行 
  • FDA諮問委員会、DMD用新薬のエビデンスに否定的 
  • オプジーボの適応拡大とCRL 
  • FDA、イーライリリーの抗EGFR抗体を承認 
  • FDA、肺炭そ用ワクチンを適応拡大 
  • FDA、アジュバント入りインフルエンザ・ワクチンを承認 
  • EUでノバルティスの心不全治療薬などが承認  

【今週の話題】


ファイザーが節税合併を断行
(2015年11月23日発表)

ファイザーはアラガン(NYSE:AGN)と合併で合意した。法人税率が低いアイルランドに籍を置くアラガンが名目上の存続会社だが、社名はファイザーに変わる。ファイザーの株主は一株を新会社の株式一株と、アラガンの株主は同じく11.3株と、交換する。実質的にはファイザーによるアラガン買収で、買収額はエンタープライズ・バリューで1600億ドルに相当する。大変な巨額だが、アイルランドの人たちは自国のGDP(2013年に2321億ドル)の方が大きいと胸を張るかもしれない。

アラガンの評価額は発表前の時価を30%上回っており、この分、ファイザー株主の財産がアラガン株主に移転することになる。見返りが、第一に、合併後に生み出されるシナジー。ファイザーは合併3年後に年20億ドル規模と予想している。第二は節税。プロ・フォーマ・ベースの税率を17~18%と予想している。ファイザーの経営陣には特別なメリットがある。役員の成果目標の一つは営業収益額なので、大型合併を断行すればもし他のステークホルダーに無益であったとしても役員報酬を増やすことができる。

アイルランドは工業所有権使用料などの知的財産権収入に対する課税が少なく、製薬会社やブランド商品メーカーの一部に人気がある。近年は米国の大企業ですら今回のファイザーのような方法でアイルランドに移籍する動きが活発化、政府や連邦議会が規制強化を進めているところだ。抜け道が完全に塞がれる前に駆け込みを図った、と呼んでもよいだろう。

タックスヘブンとの競争は他人事ではなく、日本でも法人税率引き下げが政策アジェンダになっている。私見では、法人減税は価格競争と同じで、自分が下げてもライバルが対抗する限りエンドレス、互いの首を絞めるだけである。タックスヘブンに直接、あるいは、アイルランドだったらEUを通じて、圧力を掛けて極端な優遇税制を止めさせるべきだ。

当然のことながら、受益者負担の精神に則り、税金を払わない企業や国民に対する行政サービスも止めるべきである。しかし、おそらく、アイルランド籍となった後もファイザーと役職員は一般的な企業や米国人より多くの税金・社会保険料を負担するだろうから、愛国心は無いのか、という類の批判は当たらないだろう(笑)。

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、DMD用新薬のエビデンスに否定的
(2015年11月24日発表)

FDAは末梢中枢神経系薬諮問委員会を招集し、バイオマリン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:BMRN)が特定のタイプのDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の治療薬として承認申請したKyndrisa(drisapersen)の臨床試験のエビデンスについて意見を求めた。設問の構成が通常の諮問委員会と異なるため分かりにくいが、FDA自体が承認に否定的である模様であり、委員会も承認しないことに反対ではないようだ。12月27日が審査期限だが、承認されない可能性が高まった。

drisapersenは、特定の遺伝子の特定の箇所が翻訳されるのを妨げちゃんとした蛋白が作られるのを防ぐ、アンチセンス薬。DMDはジストロフィン遺伝子の欠損・重複・置換が原因でジストロフィンが十分に機能しない。このうち、エクソン51に変異があるタイプに有効と考えられているのがdrisapersenで、不整合箇所が無視されるようになるため、完全ではないがある程度は機能するジストロフィンが作れるようになる。

一本目の第二相試験で6分歩行試験成績が有意に改善、大きな注目を集めた。しかし、二本目はトレンドに留まり、第三相試験もフェール。開発パートナーだったグラクソ・スミスクラインは権利を返還した。同様な薬を開発しているSarepta(Nasdaq:SRPT)も当時のCEOがFDAとの対立を深める一方であったため、私はエクソン51スキッピング薬は終わったと認識していた。

流れが変わったのは今年に入ってからで、両社の承認申請が受理された。他の希少疾患用薬でもエビデンスが不十分であることを諮問委員会やFDAが容認し承認するケースがあったため、drisapersenとSareptaのeteplirsenが承認される期待が高まった。

それだけに諮問委員会は意外な結果になった。ポイントは二つあるようだ。一つは上述のように薬効のエビデンスが脆弱であったこと。主評価項目の解析は頑強性も弱く、二次的評価項目でも十分な効果は見られなかった。希少疾患とはいえ186人を試験薬と偽薬に2対1割付したのでサンプル数は決して少なくない。もう一つは副作用。深刻な有害事象は血小板減少症、腎障害、点滴箇所反応などで、命に係る症例もあった模様だ。

今回の諮問委員会で変則的なのは、承認の是非は問わず、個々の臨床試験の所見について全体的なエビデンスを補強するか、弱体化するか、どちらでもないかを問うたことだ。理由は不明だが、二つ考えられる。一つは、承認に必要な様々な要件のうち、諮問事項以外の要件に疑惑があるケース。例えば、生産管理が不十分であるため薬効や忍容性に問題が無くても直ぐには承認できないというパターンだ。

もう一つは、Sareptaのeteplirsenとの違いを明確にする意図なのかもしれない。承認申請が4ヶ月遅く、諮問委員会は来年1月22日、審査期限は2月26日。申請内容は企業の知的財産に関わるので、それ以前のタイミングで濫りに公表することはできない。そこで、データの違いを浮き彫りにするのは1月22日に先送りして、違いのある項目についてそのことを重視すべきであるかどうかだけを問うたのかもしれない。尚、命に係る有害事象は諮問事項に上がっていない。自明ということだろう。

eteplirsenも第二相の6分歩行試験がフェールしたので、drisapersenと同じ結果になると考えるのが標準シナリオだろう。しかし、もしeteplirsenに命に係る服用の懸念が無いならば、薬効のエビデンスが不十分であったとしても、異なった評価を受ける可能性が残っているだろう。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

【承認】


オプジーボの適応拡大とCRL
(2015年11月23日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の様々な適応拡大申請の結果を相次いで発表した。まず、FDAが末期腎細胞腫に用いることを承認。ファイザーのSutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤を既に使ってしまった患者が対象。ノバルティスのmTOR阻害剤、Torisel(temsirolimus)と直接比較した試験で、メジアン生存期間が各25ヶ月と19.6ヶ月、ハザードレシオ0.73と、有意に上回った。

BMSがこの適応拡大申請が受理されたと発表したのは今月16日、つまり、1週間前だ。申請から受理までのリードタイムは1~2ヶ月なので、FDAの承認審査は2ヶ月前後で終わった計算になり、驚かされる。審査期限は来年3月だった。

次は、切除不能/転移性黒色腫の一次治療に単剤投与することを承認。黒色腫の半分はbrafにV600変異を持つタイプでこのタイプの一次治療はbraf阻害剤が有効。BMSは両方のタイプに承認を求めたが、野生型しか承認されず、V600変異型は審査完了通知(CRL)を受領した。Yervoy(ipilimumab)併用の一次治療も野生型しか承認されていないが、V600変異型の対象患者拡大申請を行った時にOpdivo単剤投与のデータも提出した由なので、一緒に承認されることになるのだろう。

EUでは、Opdivoという製品名で取得した承認とNivolumab BMS名の承認(『リコンシレーション』)の調整が承認された。米国は、上記の例のように異なった適応拡大申請をパラレルに進めることが可能だが、EUは一つ一つ順番に行う必要がある。そこで、BMSはEUと相談の上で、悪性黒色腫をOpdivo名で、扁平上皮非小細胞性肺癌をNivolumab BMS名で承認申請し、承認後に整理する方法を選んだのである。今回の調整でNivolumab BMSの承認は返上、Opdivoに統合された。

リンク: FDAのリリース(腎細胞腫承認、11/23付)
リンク: BMSのプレスリリース(同)
リンク: 同(黒色腫の単剤一次治療承認、11/24付)
リンク: 同(野生braf審査完了通知、11/27付)
リンク: 同(EUの調整、11/24付)

FDA、イーライリリーの抗EGFR抗体を承認
(2015年11月24日発表)

FDAはイーライリリーのPortrazza(necitumumab)を末期扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認した。gemcitabine及びcisplatinと併用する。扁平上皮以外の非小細胞性肺癌の試験がフェールしたことが明記された。深刻な有害事象は皮膚ラッシュと低マグネシウム血症。後者と心停止、突然死のリスクが枠付き警告された。

PortrazzaはEGFRを標的とする抗体医薬で、08年に65億ドルで買収したImClone社の開発品。ImCloneの代表作であるErbitux(cetuximab)との違いは、キメラではなくDyaxのファージディスプレイ法に基づく完全ヒト化抗体であること。直接比較試験は行われていないので臨床的な違いは不明。

Erbituxは非小細胞性試験がフェールしたが、Portrazzaも一本はフェール、今回の承認につながった試験でも、メジアン生存期間が二剤併用の9.9ヶ月から11.5ヶ月に2ヶ月足らず伸びるだけ、ハザードレシオも0.84、p=0.012と、胸を張るほどではない。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA、肺炭そ用ワクチンを適応拡大
(2015年11月23日発表)

FDAはエマージェント・バイオソリューションズ(NYSE:EBS)のBioThraxを肺炭そ曝露後予防に用いる適応拡大を承認した。抗生剤と共に用いる。1970年に肺炭そ曝露前予防で承認されたワクチンで、今回はワクチンで初めて、アニマル・ルールに基づいて承認された。

アニマル・ルールは、臨床試験を行うことが倫理に反するような致死的な疾患に用いる薬について、薬効を動物試験のデータに基づいて認定するもの。肺炭そ治療薬では複数のニューキノロンが動物データで承認された。BioThraxの場合は、臨床試験で安全性と免疫原性を調べ、動物のデータに基づいて、死亡リスクが70%削減されると推定した。

リンク: FDAのリリース
リンク: エマージェント・バイオソリューションズのプレスリリース

FDA、アジュバント入りインフルエンザ・ワクチンを承認
(2015年11月24日発表)

FDAはノバルティスのFluadを65歳以上のインフルエンザ予防に用いることを承認した。欧米はA型とB型の抗原を二種類ずつ配合する4価ワクチンに一足先にシフトしたが、今回の承認は3価ワクチンが対象だ。

MF59というエマルジョン・ベースのアジュバント(免疫刺激を強化するための添加物)を用いている。インフルエンザでアジュバント入りは初。高齢者はワクチンの効果が減衰するため有益、という考え方なのかもしれない。

欧州では97年にイタリアなどの国で65歳以上に承認された。その後、ノバルティスが小児用に適応拡大申請したが後に撤回。また、14年にイタリアで高齢者が死亡する事象があり、バッチベースの販売停止措置が取られたことがある。

リンク: FDAのリリース

EUでノバルティスの心不全治療薬などが承認
(2015年11月24日発表)

9月と10月のCHMPで肯定的意見を受けた新薬や適応拡大が続々と承認された。

まず、ノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)。駆出率低下を伴う慢性心不全の治療に用いる。アウトカム試験で心血管死リスクを削減することが確認された。ネプリライシン阻害剤LBQ657のプロドラッグであるsacubitrilとDiovan名で知られるARBのvalsartanを一つの分子にしたもので、新種の合剤と考えることができる。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(11/24付)

ノバルティスはCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を乾癬性関節炎と強直性脊椎炎の治療に用いる適応拡大も承認された。前者は疾病修飾的薬に、後者は伝統的な治療法に、十分反応しない患者が対象。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(11/23付)

アムジェンのBlincyto(blinatumomab)は12年にマイクロメットを11.6億ドルで買収して入手した抗CD19BiTE抗体で、再発性難治性でフィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ芽球性白血病に用いる。BiTE抗体は二つの可変領域チェーンが夫々異なったターゲットに結合する。Blincytoの場合はBセルのCD19と細胞障害性TセルのCD3に夫々結合し、副刺激なしに後者を活性化する。キメラ抗原受容体Tセル療法(CAR-T)を連想させる。日本はアステラスと共同開発。

リンク: アムジェンのプレスリリース(11/23付)

バイオジェンのEloctate(efmoroctocog alfa、和名イロクテイト)は血液凝固第VIII因子を免疫グロブリンG2と細胞融合して半減期を長期化したもの。投与頻度が3~5日に一回と少なくて済むので、A型血友病のルーチン予防に適している。既存メーカーや他の新規参入組も持効性製品を開発・発売している。Swedish Orphan Biovitrum(OMX: SOBI)と共同開発。

リンク: バイオジェンのプレスリリース(11/24付)

ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)は同社の直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran etexilate)に結合する完全ヒト化抗体フラグメント。緊急手術を行う時や大出血時にPradaxaの効果を消すために使う。

リンク: ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース(11/26付)

ロシュがエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスして開発したMEK阻害剤、Cotellic(cobimetinib)はbrafV600変異を持つ切除不能転移性黒色腫の一次治療薬。同社のraf阻害剤であるZelboraf(vemurafenib)と併用する。

リンク: ロシュのプレスリリース(11/25付)

ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)は変異ALK陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いる。臨床試験では白金薬とAlimtaの併用よりPFS(無進行生存期間)が有意に長かった。

リンク: ファイザーのプレスリリース(Nasdaqのホームページ、11/25付)

インパックス(Nasdaq:IPXL)のNumientはcarbidopaとlevodopaの合剤。パーキンソン病の治療に用いる。即放性と徐放性の製剤をカプセルに収めたもので、典型的には一日三回服用する。米国では1月にRytary名で承認。

リンク: インパックスのプレスリリース(11/25付)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGenvoyaはHIV/AIDS治療用の合剤。日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤、elvitegravirとその代謝を阻害する3A4阻害剤cobicistat、そして逆転写阻害剤のemtricitabineとtenofovir alafenamide fumarateを配合しており、一日一回一錠の服用で多剤併用療法を施行することができる。

リンク: ギリアドのプレスリリース(11/23付)



今週は以上です。

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2015年11月22日

2015年11月22日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • FDAが遺伝子組換え鮭を承認 
  • ギリアド、Zydeligの延命効果を確認 
  • バイエル、5年IUSを承認申請 
  • CHMPがナルコレプシー用薬などの承認を支持 
  • FDA、武田の多発骨髄腫用薬をスピード承認 
  • FDA、Darzalexもスピード承認 
  • ヴァーテックス、OrkambiがEUで承認 
  • アムジェン、KyprolisがEUで承認 

【今週の話題】


FDAが遺伝子組換え鮭を承認
(2015年11月19日発表)

FDAはAquaBounty Technologies社のAquAdvantageサーモンを承認した。遺伝子組換え(GE)食物で、トウモロコシや大豆など農産物では珍しくなくなったが動物では初。

米国のGE動物の規制は、動物薬の規制に準拠しているようだ。導入される遺伝子を薬の一種とみなして、導入された動物を食べても安全か、動物自身にとっても安全かを審査し、効能を確認する。

AquAdvantageサーモンはキングサーモンの成長ホルモン遺伝子とオーシャン・パウト(ウナギのような魚)のプロモーター遺伝子を組み込んで春夏だけでなく一年中成長するように仕向けたアトランティック・サーモン。米国の鮭養殖業は輸入に圧され衰退したが、養殖期間を短縮化して飼料や人件費を節減することができれば競争力を回復できるかもしれない。

全てメスで、染色体操作により不妊処理してある。カナダとパナマに設置された自然界から隔離された施設で養殖する。た最初の食用動物で、通常のアトランティック・サーモンより早く成体に育つ。

米国はGE食品の表示義務が緩く、栄養学的な特徴などが非GE食品と同じならば表示しなくてよい。だから、『アレルギーを緩和する成分を含有する米』ではなく、『農薬代を節約できるトウモロコシ』のようなGE食品表示不要な製品が主流になっている。FDAはAquAdvantageサーモンは非GEサーモンと同じなので表示不要と判定したが、公聴手続きを開始した。欧州のように開示義務を課す国もあるので、この機会に改めて世論を確認する意図だろう。

リンク: FDAのリリース

【新薬開発】


ギリアド、Zydeligの延命効果を確認
(2015年11月16日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Zydelig(idelalisib)の再発性慢性リンパ性白血病(CLL)試験が予定より早く成功したと発表した。詳細は12月のASH米国血液学会で発表される。このPI3Kデルタ阻害剤は14年に再発性のCLLや低悪性度非ホジキン型リンパ腫用薬として承認されたが、延命・進行抑制効果が確認されたのは今回が初めて。

この115試験はCLLの標準的な二次治療レジメンの一つであるrituximabとbendamustineに更にZydeligを追加したもので、PFS(無進行生存期間)がメジアン23ヶ月と二剤だけの群の11ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.33だった。全生存のハザードレシオも0.55で、何れも95%上限が1を下回りp値は0.05未満だった。

欧米で効能追加申請されることになるだろう。現時点ではrituximab併用しか承認されていないので、用法の選択肢も拡大することになる。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認申請】


バイエル、5年IUSを承認申請
(2015年11月20日発表)

バイエルは避妊用の低用量ピルや子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)の大手だ。後者は、日本でも14年に過多月経や月経困難症の治療薬として承認されたミレーナと、12~13年に欧米で承認されたSkylaが代表的。

Skylaは黄体ホルモンの放出量を減らしたもので、エストロゲンやプロゲスチンの用量をできるだけ抑えようとする近年の傾向を反映している。弱点は放出期間が最長3年とミレーナの5年より短いこと。今回欧米で承認申請されたLCS-16は最長5年間放出するので、ミレーナにキャッチアップした。臨床試験のパールインデックスは0.29だった。

リンク: バイエルのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがナルコレプシー用薬などの承認を支持
(2015年11月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議で、ナルコレプシー治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのBioprojet PharmaのWakix (pitolisant)はナルコレプシーの治療に用いる。脱力発作を伴うかどうかは問わない。現在は覚醒剤などが用いられているが、WakixはヒスタミンのH3受容体にアンタゴニスト/インバース・アゴニストとして作用する新作用機序を持つ。臨床試験では日中の傾眠や脱力発作を減らす効果を示した。主な有害事象は頭痛、不眠、悪心。

リンク: EMAのプレスリリース

medac GmbHのSpectrila(asparaginase)はアスパラギンを分解する酵素で、リンパ球増殖時の核酸合成を妨げる。アスパラギナーゼに過敏反応を持つ人に用いるのがバクスアルタ(NYSE:BXLT)のOncaspar (pegaspargase) で、PEG化により作用長期化と免疫原性改善を実現した。どちらも急性リンパ芽球性白血病の多剤併用療法の一部として承認することが支持された。尚、Oncasparはドイツで20年の市販歴を持つ。バクスアルタは7月にSigma-Tauから権利を取得。

UCBのBriviact(brivaracetam)も支持された。癲癇部分発作の治療に用いる。シナプス小胞2A作動剤で、選択性や力価が同社のKeppra(levetiracetam、イーケプラ)より高い。三種類の用量をテストした第三相試験では、28日間部分発作発生率が偽薬比19~24%低下した。発作半減成功率は35~39%で偽薬群の20%を上回った。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: UCBのプレスリリース

ドイツのBirken AGのEpisalvanも肯定的意見。皮膚の中間層損傷の治療に用いる。カバノキ樹皮抽出物で、炎症を調停したり、ケラチノサイトを補助したりして、損傷治癒を早める。

Samsung BioepisのBenepaliも肯定的意見。EU初のEnbrel(etanercept)のバイオシミラーで、リウマチ性関節炎、乾癬性関節炎、軸性脊椎関節炎、プラク乾癬の治療に用いる。関節リウマチの試験ではACR20が80.8%とEnbrelの81.5%と同程度だった。

この会社は韓国のサムソン・バイオロジックスとバイオジェンの合弁で、他にも様々なバイオシミラーを開発・承認申請している。CelltrionもRemicade(infliximab)のバイオシミラーで先行しており、韓国勢の台頭が著しい。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

【承認】


FDA、武田の多発骨髄腫用薬をスピード承認
(2015年11月20日発表)

FDAは、武田薬品の米国子会社であるミレニアム・ファーマシューティカルズが開発した経口プロテアソーム阻害剤、Ninlaro(ixazomib cirate)を多発骨髄腫の二次治療薬として承認した。第三相試験を開始したのは2012年、最初の中間解析で成功認定されたのが今年2月、承認申請が7月で審査期間は4ヶ月というスピード開発、スピード承認だ。

この第三相は、前治療歴1~3ラインの再発性難治性多発骨髄腫で過去にRevlimid(lenalidomide)やプロテアソーム阻害剤に抵抗性を示さなかった722人を組入れて、Revlimidと低量dexamethasoneを併用するRdレジメンと共に、偽薬またはNinlaroの4mgを28日サイクルで第1、8、15日に経口投与した。

結果は、Ninlaro群のメジアンPFS(無進行生存期間)は20.6ヶ月、偽薬群は14.7ヶ月でハザードレシオ0.74、統計的に有意だった。全生存の解析は未だのようだ。グレード3以上の有害事象は骨髄抑制、下痢、ラッシュなど。

多発骨髄腫は新薬が続々と登場している。今年はノバルティスのFarydak(panobinostat)が2月に承認され、今週はジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab)もスピード承認された(次項)。

幹細胞移植不適な場合の代表的なレジメンは武田/JNJのVelcade(bortezomib)か、セルジーンの免疫調停剤であるThalomid(thalidomide)またはRevlimidを使うレジメンで、どちらかを一次治療、もう一つを二次治療に使う。今回の被験者は7割がVelcadeによる前治療歴を持っているので、不応患者以外は二次治療でも武田のプロテアソーム阻害剤を使うことができるようになる。

リンク: FDAのリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(和文、11/21付)

FDA、Darzalexもスピード承認
(2015年11月16日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンがデンマークのジェンマブから権利を取得して開発・申請した抗CD38完全ヒト化抗体、Darzalex(daratumumab、ジェンマブの開発コードHuMax-CD38)を多発骨髄腫の4次治療薬として承認した。ローリング承認申請が完了したのは今年7月、審査期限は来年3月だったので、これもスピード承認。

薬効のエビデンスは第二相試験の反応率データ。一本は29%、もう一本は36%だった。前者の試験では被験者の95%がプロテアソーム阻害剤にも免疫調停剤にも難治性だった。主な有害事象は点滴関連反応、疲労、悪心、骨髄抑制など。

リンク: FDAのリリース
リンク: JNJのプレスリリース

ヴァーテックス、OrkambiがEUで承認
(2015年11月20日発表)

ヴァーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)はOrkambi(lumacaftorとivacaftorの合剤)がEUで12歳以上のF508欠損ホモ接合型嚢胞性線維症の治療薬として承認されたと発表した。

嚢胞性線維症はCFTRの遺伝子に欠損や置換が生じ機能が低下・喪失する。F508欠損は一番多いパターンで、両方の遺伝子に持つ12歳以上の患者は12000人と推定されている。lumacaftorはCFTR蛋白が細胞の表面に移行するのを助長し、ivacaftorはCFTRをポテンシエートすると考えられている。臨床試験では一秒量が穏やかに改善、増悪を抑制する作用も見られた。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

アムジェン、KyprolisがEUで承認
(2015年11月19日発表)

アムジェンはKyprolis(carfilzomib)がEUで多発骨髄腫の二次治療薬として承認されたと発表した。武田/JNJのVelcade(bortezomib)と同様な点滴静注用プロテアソーム阻害剤で、末梢神経障害のリスクが小さいと考えられている。Revlimid及びdexamethasoneと三剤併用するので、用途としては武田のNinlaroとバッティングすることになる。米国では12年に承認。日本は小野薬品がライセンス、8月に承認申請した。

アムジェンが13年に104億ドルで買収したオニクス社が09年に8億ドルで買収したProteolixの開発品。

リンク: アムジェンのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年11月15日

2015年11月15日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • AHA:降圧目標は120mmHgの方が良い
  • アストラゼネカのT790Mキラーが米国で承認
  • ロシュのMEK阻害剤も米国承認
  • バクスアルタ、A型血友病用薬が欧米で承認
  • ハーボニーが適応拡大

【今週の話題】


AHA:降圧目標は120mmHgの方が良い
(2015年11月9日発表)

AHA米国心臓協会の科学会議とNew England Journal of Medicine誌でSPRINT試験の結果が発表された。高血圧の強化療法を検討した米国の心血管アウトカム試験で、収縮時血圧140mmHg以下を目標とするより120mmHg以下の方が良いことが示された。細かい点で違和感もあるが、心血管疾患による死亡や全死亡が減少しており説得力がある。治療ガイドラインの見直しにつながる重要なエビデンスになりそうだ。

SPRINTはNIH米国医療研究所がスポンサーとなって行われた研究者主導の無作為化割付オープンレーベル試験だ。PICOを纏めると、患者(P)は収縮時血圧が130~180mmHgで心血管リスクが高い50歳以上の9361人。糖尿病と脳卒中既往は除外した。介入方法(I)は収縮時血圧を120mmHg未満に下げる強化療法(実際には、一年後の平均血圧は121.4mmHgだった)。対照群(C)は140mmHg未満に下げる標準療法(同136.2mmHg)。

降圧剤はアルファブロッカーを含め様々な薬剤を許容したが、米国の治験らしく、サイアザイド系利尿薬が第一選択。また、ARBの標準薬が心血管アウトカム試験のデータが他のARBに見劣りするlosartanと、裏付けのないazilsartan(武田などが寄付した)であることが印象的。

主評価項目(O)は複合評価項目で、心筋梗塞、それ以外の急性冠症候群、脳卒中、急性非代償性心不全、心血管疾患による死亡をカウント。心筋梗塞はサイレントMIも可。心不全は入院・救急治療例のみ。担当医が3ヶ月に一回、患者から発生の有無をヒアリングし、発生例は委員会が盲検方式で査読した。

中間解析でデータ安全性委員会が成功認定し、予定より1年早く、メジアン追跡期間3.26年で終了した。標準療法群の主評価項目発生率は年2.19%で、ほぼ事前の解析計画通りだった。強化療法群は年1.65%で、ハザードレシオは0.75(95%信頼区間0.64、0.89)、p値は0.001未満だった。

各評価項目のハザードレシオを見ると、心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中は0.8~1.0で有意な差は無かった。一方、心不全は0.62、心血管疾患死は0.57、二次的評価項目である全死亡は0.73で、何れも95%上限が1を下回りp値は0.01未満だった。

標準療法群の心筋梗塞と心不全の発生数は大差なく、前者で有意差が出なかったのは検出力不足が原因ではないだろう。素直に、心不全が減少するが心筋梗塞はあまり減らないと受け止めたい。あとは、強化降圧の便益がどの範囲まであてはまるかだ。

75歳以上のサブグループではハザードレシオ0.67と75歳未満より良い数値が出ているが、忍容性のサブグループデータも欲しいところだ。全ユニバースでも深刻な低血圧や失神が増加したので、高齢者ではもっと増えたかもしれない。Jカーブを示唆するエビデンスとの整合性も検討すべきだろう。

二型糖尿病は対象外だったが、二型糖尿病で高血圧を合併する患者を組入れたACCORD試験が参考になる。有意差は出なかったがトレンドは見られた。尤も、心筋梗塞が有意に減少した一方で心不全は減らず、SPRINT試験と合致しない点もある。

心不全合併患者の降圧目標も議論になりそうだ。

リンク: SPRINT試験論文(NEJM、15/11/15時点ではオープンアクセス)

【承認】


アストラゼネカのT790Mキラーが米国で承認
(2015年11月13日発表)

FDAはアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、開発コードAZD9291)を承認した。非小細胞性肺癌でEGFR阻害剤による前治療を受けた、EGFRにT790M変異を持つ患者が適応になる。

EGFR阻害剤はEGFRが活性化変異したタイプに有効だが、過半はやがてT790M変異が発生し抵抗性を生じる。TagrissoはT790M変異型や野生型にも活性を持つことが特徴。臨床試験ではORR(客観的反応率)が一本は57%、もう一本は61%だった。二次治療や一次治療でも延命効果確認試験中。

主な有害事象は下痢や皮膚毒性。深刻有害事象は間質性肺疾患や不整脈、胎毒性。

日本でも8月に承認申請された。日本肺癌学会が厚労省に早期承認を要請している。

リンク: FDAのリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ロシュのMEK阻害剤も米国承認
(2015年11月10日発表)

FDAはロシュのCotellic(cobimetinib)を承認した。BRAFにV600変異を持つ切除不能転移性黒色腫に同社のBRAF阻害剤、Zelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)と併用する。臨床試験では全生存期間のハザードレシオがZelboraf単剤投与群と比べて0.63だった。主評価項目のPFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.56、メジアンは12.3ヶ月で単剤群は7.2ヶ月。主な重度有害事象は心筋症、横紋筋融解症など。

cobimetinibはエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスしたMET阻害剤。同じパスウェイの川上と川中に同時介入することによって、標的の変異による影響を受け難くするアイディアで、皮膚扁平上皮腫のような副作用を抑える効果もありそうだ。同様な併用法ではノバルティスも一足先にMET阻害剤MekinistとBRAF阻害剤Tafinlarを販売している。価格競争を期待したいところだが、薬品業界では二社だけなら喧嘩しない。

リンク: FDAのリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

バクスアルタ、A型血友病用薬が欧米で承認
(2015年11月13日発表)

バクスアルタ(NYSE:BXLT)は二種類のA型血友病用薬が一つは米国で、もう一つはEUで承認されたと発表した。米国で承認されたのはAdynovate(開発コードBAX 855)。全長第VIII因子をPEG化して半減期を長期化したもので、出血事故を予防する用途では週二回の投与で足りる。既存製品である同社のAdvate(和名アドベイト)は週3~4回とされるので、患者の負担が若干緩和される。日本でも4月に承認申請された。

EUで承認されたObizur(susoctocog alfa)は、遺伝子組換え型のブタ第VIII因子で、インヒビターを持つ後天的A型血友病患者の止血に用いる。12年に会社更生法を申請したインスピレーション社から買収したもの。米国では昨年、承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: バクスアルタのプレスリリース(米承認)
リンク: 同(EU承認)

ハーボニーが適応拡大
(2015年11月12日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はFDAがHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤、和名ハーボニー)の適応拡大を承認したと発表した。

昨年10月に遺伝子型1型の慢性C型肝炎の治療薬として承認。今回、遺伝子型4型、5型、6型も対象になった。HIV共感染患者に用いることも認められた。更に、肝硬変を合併する1型患者の二次治療では24週間服用する必要があるが、ribavirin併用12週間コースも承認された。

リンク: ギリアドのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年11月8日

2015年11月8日号



【ニュース・ヘッドライン】


  • 長期作用性抗HIV薬が第三相へ 
  • BMS、オプジーボの腎細胞腫適応拡大申請をEUが受理 
  • FDA、抗IL-5抗体を重度喘息症に承認 
  • FDA、ギリアドのTAF配合剤を承認 
  • FDA:プラビックスを長期投与しても死亡リスクは高まらない 
  • EMA:子宮頸がんワクチンとCRPS/POTSの関連性は無い 

【新薬開発】


長期作用性抗HIV薬が第三相へ
(2015年11月3日発表)

GSK、ファイザー、塩野義製薬の抗HIV薬合弁であるViiVヘルスケアとジョンソン・エンド・ジョンソンは、4週間または8週間に一回、筋注するだけで足りる抗HIV薬二剤の第二相併用試験が成功したと発表した。来年、第三相試験に進む予定。ウイルスが検出不能になった患者の維持療法という位置付けだが、成功すればピルバーデンが大きく改善する。

二剤のうちViiVの新薬はGSK-1265744/S-265744(cabotegravir)で、インテグラーゼ・トランスフェラーゼ阻害剤Tivacay(dolutegravir、和名テビケイ)の類縁体。一日一回の経口剤と筋注用ナノサスペンション製剤の二つが並行開発されている。もう一つはJNJの核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine、和名エジュラント)の筋注用ナノサスペンション製剤。

HIV/AIDSの標準療法であるHAARTでは、三種類以上の抗ウイルス剤を併用することによって特定の薬剤に対する耐性ウイルスが出現、増殖するのを防ぐ。効果が高いが副作用も多く、また、一日に多くの薬を服用するのでピルバーデンや薬剤費負担が重い。

ピルパーデンに関しては製薬会社が提携し一日一回一錠服用するだけで足りる合剤を数種類、実用化した。一方、治療が成功しウイルスが検出不能になった患者が一定期間休薬するドラッグホリディは複数の臨床試験がフェールした。次は、薬の数を減らす手法の当否である。ViiVとJNJは、3剤併用でウイルス治療に成功した患者の維持療法としてdolutegravirとrilpivirineの合剤だけを用いる第三相試験を実施中。

この延長線上に位置付けられるのが今回の二剤併用だ。cabotegravirの経口剤と二種類の核酸系逆転写阻害剤を用いてHIV治療に成功した患者約300人を筋注用二剤併用群(4週間に一回投与と8週間に一回の二群)と当初治療継続群に割付けて32週間治療したところ、ウイルス抑制維持成功率は94~95%となり、スイッチしなかった群の91%と同程度だった。有害事象は注射箇所反応など。

抗HIV/AIDS薬の第三相試験は2年間治療するのが一般的なので、今回の試験だけでは未だ成功確実とは言い難い。長期間続けるほど耐性ウイルス出現リスクが高まるだろう。少なくとも、経口剤よりはリスクが高いのではないかと思われる。問題は、そのリスクの発生頻度が許容範囲内であるかどうかだ。

リンク: ViiVのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボの腎細胞腫適応拡大申請をEUが受理
(2015年11月5日発表)

BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の腎細胞腫適応拡大申請がEUに受理されたと発表した。ファイザーのSutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤を既に使ってしまった患者の二次治療に用いる。

ノバルティスのAfinitor(everolimus)と比較した第三相試験では、メジアン生存期間が25ヶ月とAfinitorの19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.002だった(中間解析なので0.0148を下回れば統計的に有意)。グレード3以上の治療時発現有害事象の発生率は19%対37%で低かった。米国でも承認申請中と推測される。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認】


FDA、抗IL-5抗体を重度喘息症に承認
(2015年11月4日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)を重度喘息症の維持療法として承認した。好酸球数が多く、喘息発作を十分に予防できていない12歳以上の患者が適応になる。尚、6月の諮問委員会では12~17歳は安全性の検討が不十分で承認すべきではないと反対意見のほうが多かった。

Nucalaは好酸球の活性化や移行、サバイバルに関わるIL-5に結合、阻害するヒト化抗体。100mgを4週間に一回、医療従事者が皮注する。報道によると、100mgバイアルの問屋取得価格は2500ドル。欧州や日本でも承認審査中。

リンク: FDAのリリース
リンク: GSKのプレスリリース

FDA、ギリアドのTAF配合剤を承認
(2015年11月5日発表)

FDAはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗HIV合剤、Genvoyaを承認した。3種類の抗HIV薬とブースターを配合した合剤で、一日一回一錠服用するだけで足りる。

配合成分は、日本たばこが創製したインテグラーセ阻害剤elvitegravirとその効果を長持ちさせる3A4阻害剤cobicistat、核酸系逆転写阻害剤emtricitabine、そして、同社の出世作であるヌクレオチド逆転写阻害剤Viread(tenofovir disoproxil fumarate、略称TDF、和名ビリアード)の類縁体であるtenofovir alafenamide fumarate(略称TAF)。Stribild(和名スタリビルド)のTDFをTAFに替えた後継薬に当たる。

TAFもTDFもtenofovirのプロドラッグだが、TAFはHIVが入り込む細胞への分布が良いため10分の1の量で足りる。TDFは腎毒性や骨塩密度低下が見られるがTAFは血中曝露が小さいためTDFよりリスクが低い。TDFは特許切れが数年後に迫っているため、ギリアドはTDFをTAFに置き換えた新製品を次々と開発している。腎毒性・骨毒性が小さいというセールストークがFDAに認められたことはポジティブだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA:プラビックスを長期投与しても死亡リスクは高まらない
(2015年11月6日発表)

FDAはPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)の長期投与時の安全性を検討していたが、死亡リスクは高まりも下がりもしない、癌や癌で死亡するリスクも高まらない、という結論に達した。

調査の発端はDAPT試験だ。薬物溶出ステント留置術後にアスピリンとP2Y12阻害剤の二種類の抗血小板薬を併用するDAPTの長期コースを検討した大規模アウトカム試験で、30ヶ月コースは12ヶ月コースよりもステント血栓や心筋梗塞等が有意に少なかったが、出血性有害事象は有意に増加するという、まあ当然と言えば当然の結果になった。

ところが、意外なことに、死亡リスクが高まる傾向が見られた(2.0%対1.5%、ハザードレシオ1.36、95%信頼区間1.00~1.85)。P2Y12阻害剤はPlavixまたはEfient(plavix-yori-sugureruではなくprasugrel)が用いられたが、死亡リスクが増加したのはPlavixだけだった。心血管疾患による死亡は増加しなかったが、癌やトラウマ(外傷)による死亡が増加した。

このため、FDAは他の長期試験のデータとトライアル・レベルのメタアナリシスを行った。対照群はアスピリンだけ、または、DAPTの短期コース。結果は、死亡率(被験者数は12本の試験合計で56799人)が6.7%対6.6%、癌発生率(37835人)で4.2%対4.0%、癌死亡率(40855人)0.9%対1.1%となり、全死亡も癌による死亡も増加しないことが判明した。

死亡リスクが高まるという最悪の仮説は否定されたが、虚血性合併症の減少と出血性副作用の増加のどちらをより重視すべきなのか、というDAPT試験の原点ともいえる設問の回答は未だ得られていない。一歩ずつ進むしか方法が無いのだろう。

リンク: FDAの安全性報告

EMA:子宮頸がんワクチンとCRPS/POTSの関連性は無い
(2015年11月5日発表)

EMA(欧州薬品庁)の薬品市販後監視委員会であるPRACは、ヒト・パピローマウイルス・ワクチンを接種した若い女性の複合性局所疼痛症候群(CRPS)および体位性起立性頻脈症候群(POTS)症例を検討し、両者の間に因果関係はないと結論した。

子宮頸がんワクチンの主対象である10~19歳の女性におけるCRPSの自然発生率は100万人当たり年150人、POTSも年150人以上であり、ワクチン接種者における発生率はこれと大差ないとのことである。

感染症やその合併症を防ぐことは社会全体を守るために必要であり、政府や社会にとって他の病気よりはるかに重要だ。それだけに、政府や国際機関、専門家の利益相反やバイアスのリスクも大きいと考えざるを得ない。結論を発表するだけでなく、根拠となったエビデンスも十分に周知することが重要だろう。

私が5年前に『サーバリックスにできる事とできないこと』を書いたのは、ワクチンの普及を望む人たちの発言がやや調子が良すぎると感じたからだ。ワクチン接種は善、推奨するのも善、副作用や効果の範囲について詳述するのはディスカレッジするかもしれないので悪、という風潮が見られた。子宮頸がんワクチンが先に発売された国では接種後の失神や神経性疼痛が報告されていたのだが、稀なので因果関係は分からなかった。そこで、効果の範囲についてだけ言及した。

その後、日本でも深刻な副作用が報告され、接種勧奨を止める事態になってしまった。重要なのは、立ち止まらないことである。事実を調査し、原因を探求し、対策を考える。何年かかってもやるべきだ。そうしないと、科学が前進しない。10年後、20年後に同じことが起きる。

リンク: EMAのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年11月1日

2015年11月1日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • グラクソ、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
  • シャイア、ドライアイ用薬を再承認申請へ
  • Keytruda、肺癌二次治療試験が成功
  • GSK、p38MAPキナーゼ阻害剤の第三相を中止
  • ギリアド、HCV新薬を承認申請
  • アムジェンのウイルス療法が承認
  • Yervoy、アジュバントに承認
  • エンタカポンに心血管リスクは無い


【新薬開発】


グラクソ、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
(2015年10月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、帯状疱疹ワクチンShingrix(開発コードGSK1437173A、通称HZ/su)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。16年下期に米欧日で承認申請する予定。

帯状疱疹は潜伏していた水痘/帯状疱疹ウイルスが活性化して炎症・神経痛を引き起こす。加齢により免疫力が低下するとリスクが高まる。米国人の9割が感染、うち25~50%が50歳過ぎにヘルペス感染後神経痛を発症すると推定されている。欧米では06年にMSDの弱毒化生ワクチンZostavaxが承認。年間売上高は7.6億ドルに達している。

Shingrixは生ワクチンではなくウイルスのgE蛋白を抗原に用いてAS01-Bアジュバントで免疫原性を高めた。ワクチン効率はZostavaxより高そうだ。50歳以上を対象にした一本目の試験では帯状疱疹が偽薬群比で97%少なかった。70歳以上に限定した二本目の試験でも90%少なかった。この二本のプール分析では、ヘルペス後神経痛の予防効果が50歳以上で91%、70歳以上に限定しても89%と高かった。

リンク: GSKのプレスリリース

シャイア、ドライアイ用薬を再承認申請へ
(2015年10月27日発表)

シャイアはlifitegrastをドライアイ治療薬として米国で承認申請したが10月に審査完了通知を受領した。幸い、三本目の試験が成功したため、年明けに改めて承認申請する予定。

LFA-1阻害剤で一日二回、点眼する。第三相試験では画像評価と症状評価を共同主評価項目としたが、一本は前者だけ、もう一本は後者だけしか有意差が出なかった。従って、承認申請はダメ元だったのだろう。三本目の試験では、二本目で採用した患者自身による症状判定スコアを主評価項目とし、84日間治療したところ、偽薬比7ポイントの有意な差があった由。このEye Dryness ScoreはGoogleしても余りヒットせず、7ポイントの差が臨床的に有意義なのかどうかは分からなかった。

リンク: シャイアのプレスリリース

Keytruda、肺癌二次治療試験が成功
(2015年10月26日発表)

MSDの抗PD-1ヒト化抗体Keytruda(pembrolizumab)は10月に米国で非小細胞性肺癌の二次治療薬として適応拡大されたが、根拠となったのは後期第1相試験の反応率データだった。BMSのOpdivo(nivolumab)と異なり延命効果の裏付けはなかったのだが、今回、第二/三相試験の成功が発表された。

PD-L1発現率が1%以上の癌だけを組入れて2mg/kg、10mg/kg、docetaxelの何れかの群に無作為化割付けした試験で、全症例と50%以上発現例の二つのユニバースで全生存期間とPFS(無進行生存期間)を比較した。全生存期間はどちらのユニバースでもKeytrudaがdocetaxel群を有意に上回り、用量間の差は小さかった。PFSは50%以上のユニバースのみ、何れの用量とも有意に上回った。

具体的な数値が公表された段階でOpdivoのデータと比較されることになるだろう。用量反応相関が小さいのは過去の抗PD-1抗体の試験と同じで違和感はない。PD-L1問題は相変わらず謎だが、検査手法の違いなど細かい情報が明らかになるにつれてコンセンサスが出来上がっていくだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

GSK、p38MAPキナーゼ阻害剤の第三相を中止
(2015年10月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK856553(losmapimod)の第三相心血管アウトカム試験を中止すると発表した。パートAの解析でパートBに進んでも勝算は無いと判定された。

p38MAPキナーゼ阻害剤はリウマチや乾癬のような自己免疫疾患や心筋梗塞、うつ病などの治療薬になることが期待され、多くの製薬会社が開発していたが、急性冠症候群を治療する心血管アウトカム試験に進んだのはlosmapimodが初めて。おそらく、第三相に進んだのも初めてではないか。

GSKやファイザーのようなビッグファーマの最大の武器は潤沢な予算だ。日本の最大手でも単独では踏み切れないハイリスク・ハイリターン・プロジェクトにも投資することができる。逆に、チャレンジを恐れるようではビッグファーマの存在価値が無い。だが、CETP阻害剤、アルツハイマー病薬、Lp-PLA2阻害剤、そして今回のp38MAPキナーゼ阻害剤と、定義上当然とはいえ手痛い失敗が続いている。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認申請】


ギリアド、HCV新薬を承認申請
(2015年10月28日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はGS-7977(sofosbuvir)とGS-5816(velpatasvir)の合剤を慢性C型肝炎治療薬として米国で承認申請した。前者はNS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(和名ソバルディ)の活性成分で、NS5A複製複合体阻害剤ledopasvirと合剤でHarvoni(和名ハーボニー)としても販売されている。後者は新開発のNS5A複製複合体阻害剤。

Harvoniとの違いは遺伝子型1型だけでなく2~6型の全てに有効であること。非代償性肝硬変を合併する患者はribavirin併用の12週間コースでSVR(持続的ウイルス学的反応率)94%、それ以外はこの配合剤だけの12週間コースで97~100%だった。

遺伝子型の分布は国によって異なるので特定の型にしか効かない薬は使用前に検査が必要だが、財政が豊かな国ばかりではない。この配合剤ならウイルス遺伝子検査が普及していない国や地域の無駄打ちを減らすことができるだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認】


アムジェンのウイルス療法が承認
(2015年10月27日発表)

FDAは、アムジェンのImlygic(talimogene laherparepvec)を切除不能悪性黒色腫用薬として承認した。GM-CSFの遺伝子を組入れた単純ヘルペス1型ウイルスで、腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが増殖して破壊する。腫瘍抗原による免疫刺激をウイルスとGM-CSFが強化、他の腫瘍細胞も攻撃させる。

ステージIIIB以降の患者を組入れた第三相試験では、持続的反応率が16.3%とGM-CSFを皮下注射した群の2.1%を有意に上回った。全生存の解析では有意差が出なかった。主な有害事象は疲労やインフルエンザ用疾患、注射箇所反応など。グレード3以上の有害事象は蜂巣炎など。

投与スケジュールは、第1週、第4週、その後は2週間に一回の頻度で半年以上続ける。患者によって投与回数・費用が異なるが、アムジェンは65000ドルを上限にする考え。

リンク: FDAのリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース

Yervoy、アジュバントに承認
(2015年月日発表)

FDAはBMSのYervoy(ipilimumab)を黒色腫の術後補助療法に用いる適応拡大を承認した。ステージIIIの黒色腫で完全切除に成功したものの再発リスクが高い場合に適応になり、米国では新患の5%、年3100人程度が該当する。臨床試験ではメジアン無再発生存期間が26ヶ月と偽薬群の17ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、統計的に有意だった。3年無病生存率は46%対34%だった。全生存の解析は未だ行われていない。

Yervoyは11年に切除不能悪性黒色腫用薬として承認済みだが、アジュバントの用量は3mg/kgではなく10mg/kgを最初は3週間に一回、5回目からは3ヶ月に一回、点滴静注するので、有害事象や請求書に注意が必要。重度から致死的な免疫調停的有害事象は小腸結腸炎(16%)、肝炎(11%)、内分泌障害(8%)、下垂体機能低下(7%)など。52%の患者が有害事象で治験を離脱した。費用はフルコースで1~2億円と推測されるが、BMSは患者支援プログラムを用意するとのこと。

リンク: FDAのリリース
リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


エンタカポンに心血管リスクは無い
(2015年10月26日発表)

FDAは、entacaponeには心血管疾患リスクはないと発表した。5年を経て疑いが晴れたことになる。

entacaponeはフィンランドのOrion Pharmaが開発したCOMT阻害剤でパーキンソン病の治療に用いる。主要国ではノバルティスがComtan(和名コムタン)として、あるいは、レボドパ・カルビドパ配合剤Stalevo(同スタレボ)として上市したが既にGE化した。

レボドパの効果が長続きしなくなった患者に用いる薬だが、早期治療の効能を検討したSTRIDE-PD試験で心血管疾患リスクが浮上。過去の試験のメタアナリシスを行ったが、他の試験では心血管疾患が少なかったため、明確な結論が出なかった。

そこで、FDAの要請に基づいてノバルティスが疫学的研究を実施したところ、非致死的心筋梗塞のリスクは他のパーキンソン病薬を服用した患者と有意な差が無かった。グラハム博士らが行ったメディケアの疫学研究でもリスクは増加していなかった。

この手の話を聞いていつも感じるのは、科学者の執念だ。市販後に副作用懸念が浮上すると、その話をすること自体がタブーになってしまう。リスクを確認するために症例報告を求めると、疑っているのか、被害者のせいだと言いたいのかと反発されるので、結局、賠償や救済の話ばかりになる。だが、それでは科学が進歩しない。何年かしてほとぼりが冷めた後に同じ失敗を繰り返すことになりかねない。日本のMMRワクチンやヒト・パピローマ・ワクチンが良い例だ。5年かかっても、10年、20年でも真実を突き止めようとする姿勢を学ぶべきである。

リンク: FDAのリリース



今週は以上です。

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2015年10月25日

2015年10月25日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • エボラ治療の新しい候補薬が登場 
  • リリーのCETP阻害剤もフェール 
  • Tysabriの二次進行型試験はフェール 
  • エグゼリキシス、cabozantinibの適応拡大申請に着手 
  • FDA諮問委員会がURAT1阻害剤を支持 
  • CHMP、アムジェンのウイルス療法などに肯定的意見 
  • シャイア、ドライアイ治療薬が承認されず 
  • 低ホスファターゼ血症用薬が米国でも承認 
  • ヨンデリス、米国でも承認 
  • カリウム結合剤は他の薬とも結合? 
  • プラザキサ中和剤が米国で承認 
  • Cresemba、EUでも承認 
  • FDA、アッヴィの抗HCV薬の警告強化 
  • CHMP、TecfideraとCellCeptの警告強化


【今週の話題】


エボラ治療の新しい候補薬が登場
(2015年10月21日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、GS-5734が英国でエボラウイルス疾患(EVD)の患者に投与されたと発表した。効果のほどは未だ明らかではない。EVD治療薬候補としてはこれまでにモノクローナル抗体カクテル療法やRNA介入薬、RNAポリメラーゼ阻害剤、ヌクレオチド系薬などが浮上しているが、新たにGS-5734が加わった。

今回のEVDの流行は既に終わったようだが、中央アフリカでは数年おきにぶりかえしているので、次の流行に備えて治療法や封じ込め策の研究準備を進める必要がある。また、今回の英国人看護師のように、治癒して退院した人が数ヶ月後に再発症するケースも稀にあるようだ。目や精巣に隠れていたウイルスが再燃するらしい。エボラウイルスに感染したが命が助かった人は17000人と言われており、再発した時の治療法を用意しておく必要がある。

GS-5734はヌクレオチド系の抗ウイルス薬。米軍施設で実施された非ヒト霊長類試験でエボラウイルス感染後3日目から投与したところ、死亡例はゼロだったことが今年のIDWeek(IDSAなどの会議)で発表されている。

リンク: ギリアドのプレスリリース
リンク: Warrenらの抄録(2015IDWeek)

【新薬開発】


リリーのCETP阻害剤もフェール
(2015年10月12日発表)

イーライリリーは、LY-2484595(evacetrapib)の開発中止を発表した。2012年に急性冠症候群歴などを持つ患者の心血管疾患リスクを削減すべく第三相試験を開始したが、無益性が認定された。

LY-2484595のようなCETP阻害剤はHDL-Cを大きく増やしLDL-Cを減らす。前者はともかく、後者は心筋梗塞リスクを削減するのに寄与しそうなものだが、期待が裏切られ続けている。それどころか、ファイザーのtorcetrapibもロシュ(JT)のdalcetrapibも、心筋梗塞や全死亡が増加する懸念が浮上し開発中止になった。

まだ生き残っているのがMSDのanacetrapibだ。アウトカム試験の結果が17年に判明する見込みだが、組入れ数が3倍大きいので、良くても悪くても中間解析で結論が出ても不思議はない。第三相に入りそうなのがオランダのデジマファーマのDEZ-001だ。田辺三菱製薬のTA-8995をライセンスしたもので、デジマはベスト・イン・クラスと呼んでいる。今年9月にアムジェンがデジマを当初金と達成報奨金合わせて15.5億ドルで買収すると発表して期待が高まっていたところだが、冷や水を浴びせられた格好。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

Tysabriの二次進行型試験はフェール
(2015年10月21日発表)

バイオジェンは、Tysabri(natalizumab)の二次進行型多発性硬化症第三相試験がフェールしたと発表した。

Tysabriは再発寛解型の多発性硬化症の再発予防薬として承認されている抗アルファ4インテグリンヒト化抗体。市販後にPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクが表面化、一旦販売中止になったことがある。FDA諮問委員会にも上程されたが、第三者が意見を述べることのできるセッションで複数の車椅子の患者が諮問委員に訴えたことが効いたのか、適応範囲を限定して再発売することが認められた。

当時、私は、患者の期待に応えるべくキチンとした臨床試験を行うべきと書いた。Tysabriの臨床試験は歩行に補助が必要な進行した患者を除外していたからだ。今回の二次進行型は、再発寛解型の寛解期間が次第に短くなり殆どなくなった状態で、被験者の大半が歩行支援を必要としていた。期待を裏切る残念な結果になった。それでも、同社がやるべきことをやったことは評価すべきだろう。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

【承認申請】


エグゼリキシス、cabozantinibの適応拡大申請に着手
(2015年10月22日発表)

米国カリフォルニア州のエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)は、Cometriq(cabozantinib)を腎細胞腫の二次治療に用いる適応拡大に関するローリング承認申請に着手したと発表した。

VEGF受容体拮抗剤は腎細胞腫に有効で既に多くの製品がある。エグゼリキシスは切除不能甲状腺髄様癌をリード・インディケーションとして米国で12年に承認を取得。適応拡大試験も各種行ったが、結局、次に成功したのは腎細胞腫だった。他のVEGF受容体拮抗剤/抗VEGF抗体に反応しなくなった患者を組入れた二次治療試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とeverolimus群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58だった、

リンク: エグゼリキシスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がURAT1阻害剤を支持
(2015年10月23日発表)

アストラゼネカは、FDA関節炎諮問委員会が痛風治療薬RDEA594(lesinurad)を検討し14人の委員のうち10人が承認に賛成したと発表した。薬効のエビデンスについては全員が支持、安全性については7人が支持、6人が不支持、一人は棄権した。

RDEA594は12年に12.6億ドルで買収したArdea Biosciencesの開発品で、腎臓近位管で尿酸の排出を調停するトランスポーター、URAT1を阻害する。痛風の標準療法であるキサンチン酸化酵素阻害剤は尿酸の合成を阻害するので、作用機序的に補完性があっても不思議はない。第三相試験では200mgと400mgをテスト、尿酸管理奏効率は400mgの方が高そうだが腎臓や心血管系の有害事象が増える懸念が生じたため、200mgだけを承認申請した。

薬物動態には個人差があるのでセーフティマージンは大き目に取る必要がある。口で言うのは簡単だが判定が難しく、諮問委員も安全性に限定すると意見が二つに割れている。審査期限は12月29日。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

CHMP、アムジェンのウイルス療法などに肯定的意見
(2015年10月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議で、アムジェンのImlygicの承認などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: CHMPのプレスリリース

Imlygic(talimogene laherparepvec)は切除不能なIIIB/IIIC/IVM1a期黒色腫に用いる。骨や脳、内臓に転移した患者は適応外。GM-CSFの遺伝子を導入した単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるウイルス療法で、腫瘍に注射するとウイルスが増殖して癌細胞が崩壊、集まってくる免疫細胞をウイルスとGM-CSFが強力に刺激して他の癌細胞を攻撃させる仕組み。

第三相試験では持続的反応率が25.2%と、GM-CSFだけを投与した群の1.2%を上回った。全生存の解析は、僅かに有意水準に届かなかった。グレード3以上の有害事象では蜂巣炎が増加した。

アムジェンが11年にBioVexを達成報奨金と合わせて10億ドルで買収して入手したもの。それ以前はOncoVEX(GM-CSF)と呼ばれていた。

リンク: CHMPのリリース
リンク: アムジェンのリリース

適応拡大では、ノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第二選択薬として用いることが支持された。現在は尋常性乾癬の治療薬として承認されている。乾癬では一回150mgと300mgが承認されているが今回の用途は150mgだけのようだ。

リンク: ノバルティスのリリース

また、ファイザーのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を一次治療に用いることが支持された。ALKに活性化変異のある非小細胞性肺癌の二次治療薬として承認されているが、一次治療試験で化学療法薬より優れた進行抑制・延命効果が見られた。

シャイア、ドライアイ治療薬が承認されず
(2015年10月19日発表)

英国のシャイアはlifitegrastをドライアイ治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。一般に、承認を取得するためには二つの独立した薬効確認試験が成功する必要があるが、lifitegrastは一本だけなので、承認されなくてもやむを得ない。三本目の試験の結果が年内に判明する見込みであり、成功なら改めて承認を求める予定。

lifitegrastは白血球のLFA-1を阻害する小分子薬で、Tセルが角膜結膜組織に移行するのを妨げる。13年に買収したSARcode Bioscienceの開発品。

リンク: シャイアのプレスリリース(CRL受領、10/16付)
リンク: 同(今後の方針について、10/19付)

【承認】


低ホスファターゼ血症用薬が米国でも承認
(2015年10月23日発表)

FDAは、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のStrensiq(asfotase alfa、和名ストレンジック)を承認したと発表した。希少疾患である低ホスファターゼ血症(HPP)に用いる酵素補充療法。HPPのうち幼児期発症型は1歳まで生きられない患者も少なくないが、Strensiqの試験に参加した患者は97%が生存した。日本では今年7月、EUでは9月に承認されている。

アレクシオンは11年にEnobia Pharmaを達成報奨金と合わせて10.8億ドルで買収して入手した。米国承認に際して希少小児疾患優先審査バウチャーを取得したので、売却して何割かを回収することが可能だろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: アレクシオンのプレスリリース

ヨンデリス、米国でも承認
(2015年10月23日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのYondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)を軟組織肉腫の一部に用いることを承認した。末期の脂肪または平滑筋の肉腫に対するアンスラサイクリンの次の二次治療薬。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン4.2ヶ月とdacarbazine群の1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.55、統計的に有意だった。全生存期間は両群大差なかった。深刻な有害事象は好中球減少症性肺血症、横紋筋融解症、心筋症、肝障害、アナフィラキシー、皮膚壊死、胎毒性など。

ホヤの一種から発見されたアルカロイドを化学合成したもので、スペインのPharmaMarが開発、欧州などの権利をJNJにライセンスしたもの。EUでは07年に卵巣癌用薬として承認されたが、米国では承認されず、仕切り直しとなった。

海から生まれた軟組織肉腫用薬というとエーザイのHalaven(eribulin、和名ハラヴェン)も適応拡大試験が成功、日米欧で承認審査中で米国の審査期限は来年1月29日となっている。臨床試験ではPFSがメジアン2.6ヶ月でdacarbazine群と同じ、但し全生存期間の解析はメジアン13.5ヶ月対11.5ヶ月、ハザードレシオ0.768で統計的に有意だった。どちらが効果が高いのか、議論ができるほど大きな差はどちらにもなさそうだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: JNJのプレスリリース

カリウム結合剤は他の薬とも結合?
(2015年10月21日発表)

FDAは、Relypsa(Nasdaq:RLYP)のVeltassa(patiromer)を高カリウム血症の治療薬として承認した。この病気では50年ぶりの新薬になる。カリウム結合ポリマーで、食中に水に溶かして飲むと結腸でカリウムに結合、排泄される。主な有害事象は便秘や低マグネシウム血症など。即効性ではないので救急治療には向かない。

驚くべきことに、この薬は薬物相互作用試験でテストした薬の半分に結合した。薬の効果や安全性に影響する可能性があるため、他の薬と同時使用する時は6時間以上、離す必要がある。Relypsaは市販後に更に相互作用研究を行う。FDAは、Kayexalate(sodium polystyrene sulfonate)やそのジェネリックのメーカーにも同様な薬物結合試験の実施を要求した。

リンク: FDAのリリース
リンク: Relypsaのプレスリリース
リンク: FDAのリリース(Kayexalateの追加試験要請について、10/22付)

プラザキサ中和剤が米国で承認
(2015年10月16日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)を承認した。同社の直接的経口トロンビン阻害剤、Pradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)に結合する完全ヒト化抗体フラグメントで、緊急手術や大出血時の中和剤として用いる。89%の患者で抗凝固作用が4時間以内に解消する。有害事象は低カリウム血症、錯乱、便秘、発熱、肺炎など。

リンク: FDAのリリース

Cresemba、EUでも承認
(2015年10月16日発表)

スイスのBasilea Pharmaceutica(SWX:BSLN)は、Cresemba(isavuconazonium sulfate)がEUで承認されたと発表した。アゾール系抗菌剤で、侵襲性アスペルギルス症とamphotericin Bに不適なムーコル菌症の治療に用いる。米国ではライセンス先であるアステラス製薬が3月に承認を取得している。

【医薬品の安全性】


FDA、アッヴィの抗HCV薬の警告強化
(2015年10月22日発表)

FDAは、アッヴィ(NYSE:ABBV)の二種類の慢性C型肝炎治療製品について肝臓副作用に関する安全性警告を発出した。

一つはTechnivie(和名ヴィキラックス配合錠)でombitasvir、paritaprevir、ritonavirの合剤。もう一つはViekiraパックで、TechnivieとExviera(dasabuvir)を同梱したもの。開発段階から肝毒性の懸念が見られたため何れも中度以上の肝障害を持つ患者は禁忌、Technivieは肝硬変を合併する患者は適応外とされている。

14年12月にViekiraパックが発売されて以来、今年7月までの間に、薬物関連疑い例・可能例が世界で26例、報告された。16例は肝機能不全を伴い、10例は肝不全により死亡または肝移植を受けた。

FDAは禁忌の遵守と肝毒性の兆候の監視を強化するよう求めた。

リンク: FDAの安全性警告

CHMP、TecfideraとCellCeptの警告強化
(2015年10月23日発表)

CHMPは10月の会議で、バイオジェンの再発寛解型多発性硬化症用薬Tecfidera(dimethyl fumarate)とロシュのCellCept(mycophenolate mofetil)の安全性警告を強化するよう勧告した。

TecfideraはPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクに関する警告を強化。リンパ球減少症が持続した後に発症することが多いので定期的な全血球計算が有益と考えられるが、その頻度を、これまでは治療開始前と半年後、その後は6~12ヶ月置きとしていたものを、3ヶ月置きに短縮することを勧告。リンパ球減少が半年以上続いたら中止を検討しなければならない。PMLの診断に役立てるために治療開始前にMRI画像も撮っておく。

ノバルティスが田辺三菱製薬からライセンスして開発したGilenya(fingolimod)もリンパ球減少が見られるため全血球計算が必要だが、頻度は治療開始の3ヶ月後とその後は少なくとも年1回となっている。比較すると、Tecfideraの規制は厳しい。

リンク: CHMPのリリース(Tecfidera)

CellCeptは催奇性警告を強化。臓器移植後の拒絶反応を抑制する薬だが、服用者は男も女も妊娠しないよう避妊を行うことが必要。

リンク: CHMPのプレスリリース(CellCept)



今週は以上です。

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2015年10月11日

2015年10月11日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュ、ocrelizumabのデータ発表
  • 遅発性ジスキネジア用薬の第三相が成功
  • ヴァーテックス、Kalydecoの対象をさらに拡大へ
  • オプジーボ、NSNSCLCに承認


+++ 来週は都合によりお休みさせていただきます +++


【新薬開発】


ロシュ、ocrelizumabのデータ発表
(2015年10月8日発表)

ロシュは、RG1594(ジェネンテックの開発コードPRO70769、一般名ocrelizumab)の第三相多発性硬化症試験の結果をECTRIMS学会で発表した。再発型を対象とした実薬対照試験二本も、一次進行型の偽薬対照試験も成功。16年始めに承認申請する予定。

ocrelizumabはBセルの表面分子であるCD20を標的とする抗体医薬。同社がIDEC(現バイオジェン)からライセンスして共同開発したRituxan(rituximab)がマウス由来の可変領域をヒト由来の定常領域と繋げたキメラ抗体であるのに対して、ocrelizumabは可変領域の一部もヒト抗体のアミノ酸に置換したヒト化抗体。効果や安全性で優れる可能性があるため、特に自己免疫疾患用途で、Rituxanの後継薬になることが期待されていた。

ところが、リウマチ性関節炎の第三相試験で深刻な感染症が特にアジア地域の施設で増加、死亡例も発生した。免疫抑制効果の高さの裏返しであり用量調整で管理できる可能性もあるが、Rituxanの有効性が明らかな疾患ではリスクを冒してまで効果を高める必然性が乏しい。結局、多発性硬化症以外の開発は中止となった。

このような経緯を踏まえて今回のデータを見ると、まず、再発型を対象とした二本は、2年間の再発リスクをRebif(メルク・セローノのインターフェロン beta-1a)と比較した。副作用リスクがあるので偽薬を上回るだけでは足りない、という考え方だろう。

ocrelizumabは24週サイクルでサイクル当り600mgを点滴静注(再発型は初回だけ、一次進行型は全期間に亘って、第1日と15日に300mgずつ投与)。Rebifは44mcgを週3回、皮注するインターフェロンでは最も効果の高い用法。投与方法が全く異なるため夫々の偽薬を用意して二重盲検化した。

結果は、試験薬群の方がリスクが46~47%小さかった。EDSS症状評価スコアが悪化するリスクも低下した。有害事象は点滴箇所反応の発生率が34%対10%と多かったが、深刻な有害事象は6.9%対8.7%と大差なく、深刻な感染症も大差なかった。

多発性硬化症は歩行障害などの症状が出たり、寛解したりを繰り返す再発寛解型が多い(やがて、寛解期を挟まずに悪化していく二次進行期に進む)。一部の患者は最初から寛解期なしで悪化するため、一次進行型と呼ばれる。治療は専ら対症療法で進行を遅らせる薬はない。これらのことから、臨床試験は偽薬対照でEDSS進行リスクを主評価項目とした。EDSSはあまり鋭敏・精緻ではなく、その時々で変動する可能性もあるため、一定期間持続した場合だけ悪化を認定した。

結果は、リスクが25%小さかった。p値は0.0365なのであまり良い数値ではない。25フィート歩行時間の悪化を抑制する効果も見られたが、こちらもp=0.04。鋭敏でも精緻でもないスコアを使うとあまりよいp値は出ないものだが、再発型の試験ではEDSSのp値が二本とも0.01未満だった。偽薬と比べてこの程度なのだから、結局、効果は小さいと考えざるを得ない。

FDAは再発型に関してはEDSSを重視していないようだ。一次進行型は話が違うかもしれないが、p値があまりよくないだけに、承認されるかどうか不確かだろう。

忍容性面では、偽薬群の数値の悪さが目立つ。点滴箇所反応発生率は試験薬群39.9%、偽薬群は25.5%。深刻な有害事象は20.4%対22.2%で大差なかった。

深刻な感染症のリスクは高まらなかった模様。リウマチ試験ではサイクル当たり1000mgを投与した群でリスクが倍近く増加したが400mgの群は偽薬と大差なかった。今回の試験で安全域が600mgまで広がったことになる。

尤も、稀だが深刻な感染症のリスクはじっくりと評価する必要がある。多発性硬化症の最近の新薬は何れも市販後にPML(進行性多病巣性白質脳症)が発生している。Rituxanでも報告されているので、ocrelizumabにもリスクがあるだろう。もし第三相試験で発生しなかったとしたら治験の検出力が不十分であった可能性があり、敷衍して、他の稀な副作用の検出力も疑う余地があるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: ocrelizumabのリウマチ試験の安全性分析論文(Emeryらの抄録、PubMed)

遅発性ジスキネジア用薬の第三相が成功
(2015年10月8日発表)

ニューロクラインバイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)は、NBI-98854(valbenazine)の第三相遅発性ジスキネジア治験の成功を発表した。16年に承認申請する予定。日本の開発販売権は田辺三菱製薬が保有している。

遅発性ジスキネジアは向精神薬のドパミン阻害作用などが原因で無意識に反復的動作を行ってしまう。米国の推定患者数は50万人。valbenazineは神経終末のVMAT2(小胞モノアミントランスポーター2)を阻害してドパミンの取り込みを抑制、機能正常化を誘導する。

今回の第三相は、統合失調症や統合失調性感情障害、双極障害、うつ病などを罹患し遅発性ジスキネジアを発症している234人を偽薬、40mg、80mgを一日一回経口投与する各群に無作為化割付して6週間治療した。主評価項目はAIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale)の変化。

結果は、80mg群の変化が偽薬比3.1ポイント改善、p値は0.0001未満だった。40mgは1.8ポイントに留まりフェール。二次的評価項目であるCGI(Clinical Global Impression)-TDはどちらもフェールした。

過去のP2b試験では100mgと75mgが有効、50mgは不十分だった。今回の結果は整合的であり、第三相は一本だけだが、有効性を示す複数のエビデンスが揃ったと言えるだろう。但し、治療効果が十分なのか、私には知識が無い。

リンク: ニューロクラインのプレスリリース

【承認申請】


ヴァーテックス、Kalydecoの対象をさらに拡大へ
(2015年10月7日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のKalydeco(ivacaftor)は嚢胞性線維症の患者のうち特定のタイプに有効だ。2012年に米国で承認された時点ではCFTR遺伝子にG551D変異を持つタイプだけが対象だったが、その後、更に9種類に適応拡大が認められた。年齢制限も2歳以上に広がった。

今回は、更に23種類の変異を対象に米国で適応拡大申請し、受理された。優先審査で審査期限は来年2月6日。患者数が少ないせいか、臨床試験の裏付けがあるのは数タイプだけで、残りはin vitroのデータしかない模様。

嚢胞性線維症の患者数は世界で7万人。うち、Kalydecoの対象になるのは4000人程度と推測されている。ivacaftorとlumacaftorのコンビ薬であるOrkambiも合わせると3万人に膨らむ。治験には時間が掛かるので、一歩一歩、対象患者拡大を進めることになる。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

【承認】


オプジーボ、NSNSCLCに承認
(2015年10月9日発表)

BMSは、FDAがOpdivo(nivolumab)の適応拡大を承認したと発表した。3月に非小細胞性肺癌のうち扁平上皮腫の二次治療に用いることが承認済みだが、新たに非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の二次治療が認められ、対象患者が約3倍に増加した。

第三相のCheckMate-057試験では、メジアン生存期間が12.2ヶ月とdocetaxelを投与した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.0015だった。Daco社のPD-L1検査も承認されたが、検査は不要でPD-L1発現状況に関わらず適応になる。但し、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤や抗EGFR抗体のように、承認後に適応が見直される可能性はありそうだ。

一次治療は白金薬レジメンや、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になる患者はこれらの薬を使うが、エビデンスが揃えば将来は抗PD-1抗体も選択肢の一つになるだろう。

免疫強化療法は副作用の出方が化学療法と大きく異なるので注意が必要だ。Opdivoの場合、免疫が調停する肺炎、大腸炎、肝炎、内分泌障害、腎炎などのリスクがある。

リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年10月4日

2015年10月4日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュ、抗CD20抗体の一次進行型多発性硬化症試験成功
  • ジャズ、肝静脈閉塞性疾患治療薬を米国で再申請
  • サノフィ、リキスミアを米国で承認申請
  • サノフィ、PraluentがEUで承認
  • MSD、Keytrudaが肺炎に承認
  • BMS、ヤーボイとオプジーボの併用が承認

【新薬開発】


ロシュ、抗CD20抗体の一次進行型多発性硬化症試験成功
(2015年9月28日発表)

ロシュはRG1594(ジェネンテックの開発コードPRO70769、一般名ocrelizumab)の第三相一次進行型多発性硬化症試験が成功したと発表した。再発寛解型試験の成功も発表済みで、欧米で承認申請する予定。データは10月9~10日にECTRIMS欧州多発性硬化症学会議で発表される予定。

ocrelizumabは抗CD20ヒト化抗体。同社のRituxan(rituximab)と比べてマウス由来のアミノ酸が少なく過敏反応が起きにくい可能性があるため、自己免疫疾患領域での後継薬となることが期待された。しかし、第三相関節リウマチ試験で日和見感染症が特に日本の施設で増加したため、Rituxanの開発が進んでいなかった多発性硬化症を除いて、開発中止となった。

RituxanのPOC試験が成功した当時と比べると、多発性硬化症の免疫抑制療法は既に普及し薬の選択肢も経口剤を含めて充実した。しかし、一次進行型に有効性を示した薬は初めてなので、どの程度の進行遅延効果があるのか、データ発表が注目される。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


ジャズ、肝静脈閉塞性疾患治療薬を米国で再申請
(2015年9月30日発表)

ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、defibrotideを肝静脈閉塞性疾患(VOD)治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は16年3月31日。

肝VODは造血幹細胞移植に用いる抗癌剤の深刻な副作用の一つ。defibrotideはブタの小腸粘膜由来の核酸誘導体で血栓溶解作用を持つ。Gentium社が米国で申請したが承認されず、13年に同社を買収したジャズが再挑戦した。EUでは13年10月に例外的環境条項に基づいてDefitelio名で承認されている。

リンク: ジャズのプレスリリース

サノフィ、リキスミアを米国で承認申請
(2015年9月29日発表)

サノフィは、exendin類縁体であるLyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)を二型糖尿病治療薬として米国で承認申請した。EUや日本は13年に承認したが、FDAは脳卒中などの心血管有害事象が増加する可能性を懸念、申請撤回となった。その後、ELIXA心血管アウトカム試験でリスクが大きく増加しないことを確認、今回の再申請に至った。

EU承認時の審査文書によると、主要有害心臓イベントのメタアナリシスでは、ハザードレシオが対照群の1.25倍、95%信頼区間は0.67~2.35だった。心臓疾患が倍増する可能性が否定されていないことになる。

信頼区間が広いのでEUや日本のように大目に見ることもFDAのように厳しく考えることも可能だろう。しかし、自分が服用するとしたら話は別だ。他に選択肢があるのに、わざわざ余計な心配を抱え込むようなことは、普通はしない。サノフィや、同様なパターンで承認が遅れたノボや武田には気の毒だが、時間が掛かっても無垢を確認してから発売するのが仁道だろう。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認】


サノフィ、PraluentがEUで承認
(2015年9月28日発表)

サノフィは、リジェネロン(Nasdaq:REGN)と共同開発した抗PCSK9完全ヒト化抗体、Praluent(alirocumab)がEUで承認されたと発表した。原発性の高脂血症や混合異脂血症でスタチンだけでは不十分な患者、あるいはスタチン不耐患者に用いる。米国では7月に承認。日本は8月に承認申請。

高力価スタチンと同程度の高いLDL-C降下作用を持つ。難点は第一に皮注用薬であること(二週間に一回)、第二に高いこと(米国の問屋取得価格は月1120ドル)。アムジェンの抗PCSK9完全ヒト化抗体Repatha(evolocumab)との違いは低量も製品化していることと、希少疾患であるホモ接合型家族性高脂血症を適応としていないこと。

リンク: サノフィのプレスリリース

MSD、Keytrudaが肺炎に承認
(2015年10月2日発表)

FDAは、MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の適応拡大を承認したと発表した。非小細胞性肺癌で、白金薬を用いる一次治療レジメンや適応になる場合はEGFR阻害剤やALK阻害剤にも不応・再発の、PD-L1陽性癌に用いる。用量用法は14年に承認された悪性黒色腫と同じで、2mg/kgを30分点滴静注、三週間に一回施行する。

後期第一相試験の反応率データに基づく加速承認で、別途、延命またはそれに準じる効果を確認する必要がある。ORR(客観的反応率)は18%程度で、再発性非小細胞性肺癌用薬としては高いが、特効薬というほどでもない。ところが、サンプルの50%以上でPD-L1が発現している高発現症例(280例中61例)ではORRが41%と著しく高かった。

BMS/小野の抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab)は、扁平上皮腫やそれ以外の非小細胞性肺癌の三次治療試験でORRが15%前後だった。これらの試験はPD-L1陽性癌に限定していないので、おそらく、低発現癌に対する抗PD-1抗体の効果は陰性癌の場合と大差ないのだろう。

さて、非小細胞性肺癌での両剤の適応範囲を整理すると、現時点ではどちらも二次治療薬で対象はKeytrudaがPD-L1陽性(6割程度が該当)、Opdivoは扁平上皮腫(3割程度が該当)だが非扁平上皮腫(残りの7割)試験の成功がASCO米国臨床腫瘍学学会で発表されているので、承認前に普及するだろう。従って、実質的にはOpdivoのほうが対象患者が多いことになる。エビデンスも、実薬対照試験で延命効果が確認されているので、優れている。PD-L1検査代を節約できるメリットもある。

但し、一次治療に適応拡大する局面ではPD-L1検査が重要な要素になるのではないか。高発現症例のORR41%というのは標準療法である白金レジメンと比べてもそん色なく、延命効果が勝っているようならば、一次治療の選択肢の一つに留まらず文句なしの第一選択になる可能性があり、そうなると、EGFRやALKと同様にPD-L1検査もマストになるだろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: MSDのプレスリリース

BMS、ヤーボイとオプジーボの併用が承認
(2015年10月1日発表)

BMSは、Yervoy(ipilimumab)とOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を悪性黒色腫の一次治療に併用することがFDAに承認されたと発表した。現時点では野生BRAFのみが対象で、活性化変異癌はBRAF阻害剤だけが適応だが、この二剤の併用も同程度の効果がありそうなので、近い将来、限定解除されるのではないか。

承認の根拠となった第二相試験では、cORR(確認客観的反応率)が60%と、Yervoyだけを投与した群の11%を有意に上回った。PFS(無進行生存期間)のメジアン値は8.9ヶ月と4.7ヶ月、ハザードレシオは0.40だった。

効果も高いが副作用リスクや治療費も高い。前者は、非小細胞性肺癌ではOpdivo主、Yervoy従の併用の方が良さそうな結果を出しており、黒色腫でもOpdivoではなくYervoyを減量することで効果を維持しながら忍容性を改善できないものか、もどかしく感じられる。

後者は、米国の標準価格で計算すると、最初の4回は二剤併用で14万ドル、その後はOpdivoだけを月1.25万ドル。合計治療期間を8ヶ月とすると一人20万ドル、実売価格が8掛けで自己負担率3割とすると患者の負担は薬代だけで576万円。臨床試験では薬物関連死亡も複数発生しており、効果だけでなく失うものも大きい。

リンク: BMSのプレスリリース


今週は以上です。

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2015年9月27日

2015年9月27日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • MSD、クロストリジウム・ディフィシレ治療薬を承認申請へ
  • オプジーボは腎細胞腫の二次治療に有効
  • ギリアドの新NS5A阻害剤も第三相が成功
  • BMS、オプジーボとヤーボイの併用一次治療を再び申請
  • CHMPが19剤に肯定的意見
  • 大鵬、遂に米国で承認取得
  • ノボ、トレシーバが米国でも承認


【新薬開発】


MSD、クロストリジウム・ディフィシレ治療薬を承認申請へ
(2015年9月20日発表)

MSDはクロストリジウム・ディフィシレのトキシンAとBを夫々標的とする二種類の抗体医薬の第三相試験を実施していたが、トキシンB中和抗体が再発予防に成功したと発表した。年内に欧州や北米で承認申請する予定。

この二つの抗体はMassachusetts Biologic Laboratories(MBL)とメダレックス社が共同で開発し、09年にMSDにライセンスしたもの。トキシンB中和抗体の一般名はbezlotoxumab、開発コードはMSDがMK-6072、メダレックスはMDX-1388、MBLはMBL-CDB1。トキシンA中和抗体は、各、actoxumab、MK-3415、MDX-066、MBL-CDA1。

第三相試験では二本合計で2600人超の患者を組入れて、偽薬、bezlotoxumab、actoxumab、あるいは両剤を一回投与する四群に割付け、その後12週間の再発予防効果を検討した。actoxumab単剤は効果がなく途中で打ち切られたが、bezlotoxumabを単剤投与した群と二剤を投与した群は再発率が15~17%と偽薬群の25~27%を下回った。副作用は、悪心や下痢、発熱などが若干増加したが深刻なものは少ないようだ。

クロストリジウム・ディフィシレは重度の下痢などを引き起こす細菌で、近年、抗生物質耐性を持つ毒性の強いタイプによる院内感染が増加している。米国では年30万人が発症、20~25%が再発、2%が死亡と推定されている。それだけに、再発リスクの高い患者に有効な薬が現れたことはポジティブ。

メダレックスはトランスジェニック・マウスにヒトの抗体を発現させる技術を持ち、これまでに、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSimponi(golimumab)やBMSのYervoy(ipilimumab)、Opdivo(nivolumab)などを創製した。09年にBMSが24億ドルで子会社化したのは慧眼だった。

リンク: MSDのプレスリリース

オプジーボは腎細胞腫の二次治療に有効
(2015年9月25日発表)

BMSはECC欧州癌学会やNew England Journal of Medicine誌でOpdivo(nivolumab)の第三相腎細胞腫試験の結果を発表した。Sutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤に不応・不耐・再発した患者を組入れて全生存期間をAfinitor(everolimus、和名アフィニトール)群と比較したもので、中間解析が成功したことを7月に発表済み。

メジアン生存期間が25ヶ月とAfinitor群の19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73。p値は0.002で、中間解析に割り当てられたアルファの0.0148を下回った。承認申請に向かう予定。Opdivoは一次治療でもYervoy併用で有望そうなデータを出しており、第三相試験中。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: NEJMの治験論文(オープンアクセス)

ギリアドの新NS5A阻害剤も第三相が成功
(2015年9月21日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)はHIVやHCVなどウイルス感染症の治療薬を数多く実用化すると共に、合剤の開発にも積極的に取り組んでいる。患者はピルバーデンが緩和し、ギリアドは自社のベストセラー製品と抱き合わせで販売することが可能になる。今回は、新規NS5A複製複合体阻害剤を配合した合剤の第三相C型肝炎治療試験が成功したことを発表した。

NS5B阻害剤Sovaldi(sofosbuvir、和名ソバルディ)とNS5A複製複合体阻害剤GS-5816(velpatasvir)の合剤で、一日一回経口投与する。第三相は様々な遺伝子型のC型肝炎ウイルスに感染している患者を組入れて、非代償性肝硬変を合併している患者には12週間コース、24週間コース、12週間でribavirin併用コースの三種類の用法を試験し、それ以外は12週間コースだけを施行した。

結果は、非代償性肝硬変を合併していない患者はこの合剤を12週間服用するだけで持続的ウイルス学的奏効率が97~100%と、大変高い成果が上がった。非代償性肝硬変では、ribavirin併用12週間コースが一番良さそうだ。

sofosbuvirとNS5A複製複合体阻害剤ledipasvirの合剤であるHarvoni(和名ハーボニー)も遺伝子型I型には同様に優れた成績を上げており、しかも、半分程度の患者は8週間の治療で足りることが明らかになっている。実薬に勝つのは容易ではないので、Harvoniの臨床試験があまり行われていない分野でどの程度の成果を上げるかが販促上、重要なテーマになりそうだ。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボとヤーボイの併用一次治療を再び申請
(2015年9月25日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を悪性黒色腫の一次治療に併用する用法追加をFDAに承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年1月23日。

同社は6月にも同様な趣旨の発表を行っているが、審査期限は9月30日だった。前回は第二相試験、今回は第三相試験に基づく承認申請で、用途用法が同じなのだから本来なら一つの承認申請に統合されるべきものと思われるが、一刻も早く承認を取るべく、最初の申請とは別モノ扱いしたのではないか。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが19剤に肯定的意見
(2015年9月25日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは9月の会議で新薬19品について肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: CHMPのプレスリリース

まず、ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)は、経口トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)及びその代謝物に結合する完全ヒト化抗体フラグメントで、Pradaxaの抗血栓作用を5分でオフセットする。脳梗塞などのリスクを削減する目的でPradaxaを服用している患者が、緊急手術を受けたり大出血事故が起きた時に用いる。

PradaxaやXa阻害剤は解毒剤のないことがボトルネックであったが、PradaxaはPraxbind、Xa阻害剤はPortola(Nasdaq:PTLA)のandexanet alfaの開発が進捗している。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース

ノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)はネプリリシン阻害剤sacubitrilとアンジオテンシンII受容体阻害剤valsartanを一つの分子に纏めた、新しいタイプの合剤。症候性慢性心不全で駆出率低下を伴う患者の心不全増悪や心血管疾患死のリスクを抑制する。心不全の薬物療法では久々の超大型薬候補だ。米国では9月に承認。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

アムジェンは二品あり、Kyprolis(carfilzomib)は武田/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤。多発骨髄腫の二次治療にRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと併用する。Velcadeは一次治療にも使われているので、今後、一歩一歩、用途用法を充実させていくことになりそうだ。

米国では2012年に承認。EUは多発骨髄腫用薬の承認のハードルが高く、単群試験で反応率を調べるだけでは駄目、というスタンスであるため遅くなった。日本は小野薬品が8月に承認申請したところ。

もう一つは、Blincyto(blinatumomab)。再発・難治性でフィラデルフィア染色体陰性の成人急性リンパ芽球性白血病向けに条件付き承認することが支持された。第二相試験で6週サイクルで4週間連続点滴静注したところ、3割が完全寛解した。メジアン生存期間は6.1ヶ月に過ぎず、25%の患者で熱性好中球減少症が発生するなど、効果も忍容性も十分ではないが、数少ない治療法の一つになりそうだ。尚、フィラデルフィア染色体を持つタイプにはGleevec(imatinib)のようなbcr-abl阻害剤も選択肢になる。

アムジェンは買収を通じて小分子薬や抗体医薬を拡充してきた。Kyprolisはアムジェンが13年に104億ドルで買収したOnyx社が09年に8億ドルで買収したProteolix社の開発品。一方、Blincytoは12年に11億ドルで買収したMicrometの開発品で、抗CD3抗体フラグメントと抗CD19抗体フラグメントを結合したもの。最近流行りのキメラ抗原受容体療法と似た発想だ。日本はアステラスと共同開発中。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ロシュのCotellic(cobimetinib)はMEK阻害剤で、BRAF-V600変異陽性の悪性黒色腫に同社のZelboraf(vemurafenib)と併用する。ジェネンテックが06年にエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスしたもの。

リンク: ロシュのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)は抗IL-5ヒト化抗体。好酸球数が多い、好酸球性喘息症で吸入ステロイドなどだけでは発作を十分に管理できない患者に用いる。スミスクラインがグラクソと合併する前から注目されていたパイプラインで、何故か開発に時間が掛かった分、他社の開発品が直ぐ後ろに迫っている。

リンク: GSKのプレスリリース

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のOrkambi(lumacaftorとivacaftorの合剤)は、嚢胞性線維症でCFTR遺伝子にホモ接合型F508欠損を持つ12歳以上の患者に用いる。ivacaftorはCFTRポテンシエイターで、Kalydyco名で違ったタイプの嚢胞性線維症の治療薬として承認されている。lumacaftorはCFTRコレクターと呼ばれ、CFTRが細胞の表面に移行するのを手助けする。米国では7月に承認され、年25万ドルという高価格で発売された。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

バイオジェンのEloctate(efmoroctocog alfa)は遺伝子組換え型長期作用性第VIII因子で、A型血友病の治療や出血予防に用いる。後者は重度出血を頻発する患者にルーチンに投与するので投与頻度が少なくて済む長期作用性製剤が求められている。日米では14年に承認されたが、EUは成人と小児を同時に申請することを求めているため、一年遅れになっている。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

Horizon Pharma(Nasdaq:HZNP)のRavicti(glycerol phenylbutyrate)経口液は尿素サイクル異常症(UCD)の補助療法。米国では13年に承認された。UCDは尿素合成サイクルに先天的な異常があり、アンモニアが代謝されずに血中に蓄積し、脳などに重度障害をもたらすリスクがある。Ravictiはアンモニアの窒素が別の経路を通じて排泄されるのを促す。

リンク: Horizon社のプレスリリース

ギリアド(Nasdaq:GILD)のGenvoyaは4種類の成分を配合した合剤でHIV/AIDSの治療に用いる。日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤elvitegravir、その代謝を遅らせ効果を長続きさせる3A4阻害剤のcobicistat、核酸系逆転写阻害剤emtricitabine、そして新開発のヌクレオチド系逆転写阻害剤tenofovir alafenamide fumarate(TAF)を配合している。

別の言い方をすると、Stribild(和名スタリビルド)の活性成分のうちtenofovir disoproxil fumarate(TDF)をTAFに替えたもの。TAFは腎毒性や骨塩密度低下副作用がTDFより小さい長所がある。ギリアドにとっては、TDFの特許切れ対策という面もある。

リンク: ギリアドのプレスリリース

インパックス(Nasdaq:IPXL)のNumientはレボドパとカルビドパの合剤でパーキンソン病の治療に用いる。一日三回服用。米国では1月にRytary名で承認された。

リンク: インパックスのプレスリリース

メディスンズ・カンパニーのIONSYSは、フェンタニル鎮痛剤を電流に乗せて経皮的に供給するクレジットカードサイズの機器。術後疼痛の治療に用いる。従来の静注型システムと異なり針による事故が起きにくく、セットアップも楽。ジョンソン・エンド・ジョンソンが06年に欧米で承認を取得したが誤作動による過剰投与リスクが判明し09年に販売中止。開発権を取得した会社をメディスンズが12年に買収した。

リンク: メディスン・カンパニ-のプレスリリース

BMSのOpdivo(nivolumab)を扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療薬として用いることも支持された。既にNivolumab BMSという製品名で5月にCHMP支持、7月に承認されているので紛らわしい。扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌でも承認審査中。

【承認】


大鵬、遂に米国で承認取得
(2015年9月22日発表)

5-FU系の経口剤といえば大鵬薬品の一連の製品とロシュの日本拠点が創製したXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)が代表的だが、薬物動態が人種により異なるようで、ティーエスワンは欧州では承認されたが米国は未承認。Xelodaは米国人に使う時は量を減らすべきという意見がある。

そんな中、遂に大鵬のロンサーフ配合錠が米国で承認された。転移性結腸直腸癌のサルベージ療法で、第三相試験ではメジアン生存期間が7.1ヶ月と、偽薬群の5.3ヶ月を2ヶ月弱、上回った。

リンク: FDAのリリース
リンク: 大鵬薬品のプレスリリース(9/24付、和文)

ノボ、トレシーバが米国でも承認
(2015年9月25日発表)

FDAはノボ ノルディスクの管理放出性インスリンTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)と短期作用性インスリンとのプリミックスであるRyzodeg(insulin degludec、insulin aspart)を糖尿病治療薬として承認した。2012年に日本で初承認、13年にはEUでも承認されたが、FDAは、Lantus対照試験で心血管疾患リスクが高まる可能性が浮上したため、心血管アウトカム試験で無垢を証明することを要求。ノボは中間解析データを提出し、今回の承認に至った。

トレシーバは日本で価格が折り合わず薬価収載が遅れた。ドイツでも健康保険基金連合会との価格交渉が不調に終わり、今月で販売中止になる。インスリンは三社が寡占しているせいか強気だ。

ノボは、TresibaとVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の合剤であるXultophyを米国で承認申請したことも発表した。EUでは9月に承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: ノボのプレスリリース


今週は以上です。

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