2015年11月29日

2015年11月29日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ファイザーが節税合併を断行 
  • FDA諮問委員会、DMD用新薬のエビデンスに否定的 
  • オプジーボの適応拡大とCRL 
  • FDA、イーライリリーの抗EGFR抗体を承認 
  • FDA、肺炭そ用ワクチンを適応拡大 
  • FDA、アジュバント入りインフルエンザ・ワクチンを承認 
  • EUでノバルティスの心不全治療薬などが承認  

【今週の話題】


ファイザーが節税合併を断行
(2015年11月23日発表)

ファイザーはアラガン(NYSE:AGN)と合併で合意した。法人税率が低いアイルランドに籍を置くアラガンが名目上の存続会社だが、社名はファイザーに変わる。ファイザーの株主は一株を新会社の株式一株と、アラガンの株主は同じく11.3株と、交換する。実質的にはファイザーによるアラガン買収で、買収額はエンタープライズ・バリューで1600億ドルに相当する。大変な巨額だが、アイルランドの人たちは自国のGDP(2013年に2321億ドル)の方が大きいと胸を張るかもしれない。

アラガンの評価額は発表前の時価を30%上回っており、この分、ファイザー株主の財産がアラガン株主に移転することになる。見返りが、第一に、合併後に生み出されるシナジー。ファイザーは合併3年後に年20億ドル規模と予想している。第二は節税。プロ・フォーマ・ベースの税率を17~18%と予想している。ファイザーの経営陣には特別なメリットがある。役員の成果目標の一つは営業収益額なので、大型合併を断行すればもし他のステークホルダーに無益であったとしても役員報酬を増やすことができる。

アイルランドは工業所有権使用料などの知的財産権収入に対する課税が少なく、製薬会社やブランド商品メーカーの一部に人気がある。近年は米国の大企業ですら今回のファイザーのような方法でアイルランドに移籍する動きが活発化、政府や連邦議会が規制強化を進めているところだ。抜け道が完全に塞がれる前に駆け込みを図った、と呼んでもよいだろう。

タックスヘブンとの競争は他人事ではなく、日本でも法人税率引き下げが政策アジェンダになっている。私見では、法人減税は価格競争と同じで、自分が下げてもライバルが対抗する限りエンドレス、互いの首を絞めるだけである。タックスヘブンに直接、あるいは、アイルランドだったらEUを通じて、圧力を掛けて極端な優遇税制を止めさせるべきだ。

当然のことながら、受益者負担の精神に則り、税金を払わない企業や国民に対する行政サービスも止めるべきである。しかし、おそらく、アイルランド籍となった後もファイザーと役職員は一般的な企業や米国人より多くの税金・社会保険料を負担するだろうから、愛国心は無いのか、という類の批判は当たらないだろう(笑)。

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、DMD用新薬のエビデンスに否定的
(2015年11月24日発表)

FDAは末梢中枢神経系薬諮問委員会を招集し、バイオマリン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:BMRN)が特定のタイプのDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の治療薬として承認申請したKyndrisa(drisapersen)の臨床試験のエビデンスについて意見を求めた。設問の構成が通常の諮問委員会と異なるため分かりにくいが、FDA自体が承認に否定的である模様であり、委員会も承認しないことに反対ではないようだ。12月27日が審査期限だが、承認されない可能性が高まった。

drisapersenは、特定の遺伝子の特定の箇所が翻訳されるのを妨げちゃんとした蛋白が作られるのを防ぐ、アンチセンス薬。DMDはジストロフィン遺伝子の欠損・重複・置換が原因でジストロフィンが十分に機能しない。このうち、エクソン51に変異があるタイプに有効と考えられているのがdrisapersenで、不整合箇所が無視されるようになるため、完全ではないがある程度は機能するジストロフィンが作れるようになる。

一本目の第二相試験で6分歩行試験成績が有意に改善、大きな注目を集めた。しかし、二本目はトレンドに留まり、第三相試験もフェール。開発パートナーだったグラクソ・スミスクラインは権利を返還した。同様な薬を開発しているSarepta(Nasdaq:SRPT)も当時のCEOがFDAとの対立を深める一方であったため、私はエクソン51スキッピング薬は終わったと認識していた。

流れが変わったのは今年に入ってからで、両社の承認申請が受理された。他の希少疾患用薬でもエビデンスが不十分であることを諮問委員会やFDAが容認し承認するケースがあったため、drisapersenとSareptaのeteplirsenが承認される期待が高まった。

それだけに諮問委員会は意外な結果になった。ポイントは二つあるようだ。一つは上述のように薬効のエビデンスが脆弱であったこと。主評価項目の解析は頑強性も弱く、二次的評価項目でも十分な効果は見られなかった。希少疾患とはいえ186人を試験薬と偽薬に2対1割付したのでサンプル数は決して少なくない。もう一つは副作用。深刻な有害事象は血小板減少症、腎障害、点滴箇所反応などで、命に係る症例もあった模様だ。

今回の諮問委員会で変則的なのは、承認の是非は問わず、個々の臨床試験の所見について全体的なエビデンスを補強するか、弱体化するか、どちらでもないかを問うたことだ。理由は不明だが、二つ考えられる。一つは、承認に必要な様々な要件のうち、諮問事項以外の要件に疑惑があるケース。例えば、生産管理が不十分であるため薬効や忍容性に問題が無くても直ぐには承認できないというパターンだ。

もう一つは、Sareptaのeteplirsenとの違いを明確にする意図なのかもしれない。承認申請が4ヶ月遅く、諮問委員会は来年1月22日、審査期限は2月26日。申請内容は企業の知的財産に関わるので、それ以前のタイミングで濫りに公表することはできない。そこで、データの違いを浮き彫りにするのは1月22日に先送りして、違いのある項目についてそのことを重視すべきであるかどうかだけを問うたのかもしれない。尚、命に係る有害事象は諮問事項に上がっていない。自明ということだろう。

eteplirsenも第二相の6分歩行試験がフェールしたので、drisapersenと同じ結果になると考えるのが標準シナリオだろう。しかし、もしeteplirsenに命に係る服用の懸念が無いならば、薬効のエビデンスが不十分であったとしても、異なった評価を受ける可能性が残っているだろう。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

【承認】


オプジーボの適応拡大とCRL
(2015年11月23日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の様々な適応拡大申請の結果を相次いで発表した。まず、FDAが末期腎細胞腫に用いることを承認。ファイザーのSutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤を既に使ってしまった患者が対象。ノバルティスのmTOR阻害剤、Torisel(temsirolimus)と直接比較した試験で、メジアン生存期間が各25ヶ月と19.6ヶ月、ハザードレシオ0.73と、有意に上回った。

BMSがこの適応拡大申請が受理されたと発表したのは今月16日、つまり、1週間前だ。申請から受理までのリードタイムは1~2ヶ月なので、FDAの承認審査は2ヶ月前後で終わった計算になり、驚かされる。審査期限は来年3月だった。

次は、切除不能/転移性黒色腫の一次治療に単剤投与することを承認。黒色腫の半分はbrafにV600変異を持つタイプでこのタイプの一次治療はbraf阻害剤が有効。BMSは両方のタイプに承認を求めたが、野生型しか承認されず、V600変異型は審査完了通知(CRL)を受領した。Yervoy(ipilimumab)併用の一次治療も野生型しか承認されていないが、V600変異型の対象患者拡大申請を行った時にOpdivo単剤投与のデータも提出した由なので、一緒に承認されることになるのだろう。

EUでは、Opdivoという製品名で取得した承認とNivolumab BMS名の承認(『リコンシレーション』)の調整が承認された。米国は、上記の例のように異なった適応拡大申請をパラレルに進めることが可能だが、EUは一つ一つ順番に行う必要がある。そこで、BMSはEUと相談の上で、悪性黒色腫をOpdivo名で、扁平上皮非小細胞性肺癌をNivolumab BMS名で承認申請し、承認後に整理する方法を選んだのである。今回の調整でNivolumab BMSの承認は返上、Opdivoに統合された。

リンク: FDAのリリース(腎細胞腫承認、11/23付)
リンク: BMSのプレスリリース(同)
リンク: 同(黒色腫の単剤一次治療承認、11/24付)
リンク: 同(野生braf審査完了通知、11/27付)
リンク: 同(EUの調整、11/24付)

FDA、イーライリリーの抗EGFR抗体を承認
(2015年11月24日発表)

FDAはイーライリリーのPortrazza(necitumumab)を末期扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認した。gemcitabine及びcisplatinと併用する。扁平上皮以外の非小細胞性肺癌の試験がフェールしたことが明記された。深刻な有害事象は皮膚ラッシュと低マグネシウム血症。後者と心停止、突然死のリスクが枠付き警告された。

PortrazzaはEGFRを標的とする抗体医薬で、08年に65億ドルで買収したImClone社の開発品。ImCloneの代表作であるErbitux(cetuximab)との違いは、キメラではなくDyaxのファージディスプレイ法に基づく完全ヒト化抗体であること。直接比較試験は行われていないので臨床的な違いは不明。

Erbituxは非小細胞性試験がフェールしたが、Portrazzaも一本はフェール、今回の承認につながった試験でも、メジアン生存期間が二剤併用の9.9ヶ月から11.5ヶ月に2ヶ月足らず伸びるだけ、ハザードレシオも0.84、p=0.012と、胸を張るほどではない。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA、肺炭そ用ワクチンを適応拡大
(2015年11月23日発表)

FDAはエマージェント・バイオソリューションズ(NYSE:EBS)のBioThraxを肺炭そ曝露後予防に用いる適応拡大を承認した。抗生剤と共に用いる。1970年に肺炭そ曝露前予防で承認されたワクチンで、今回はワクチンで初めて、アニマル・ルールに基づいて承認された。

アニマル・ルールは、臨床試験を行うことが倫理に反するような致死的な疾患に用いる薬について、薬効を動物試験のデータに基づいて認定するもの。肺炭そ治療薬では複数のニューキノロンが動物データで承認された。BioThraxの場合は、臨床試験で安全性と免疫原性を調べ、動物のデータに基づいて、死亡リスクが70%削減されると推定した。

リンク: FDAのリリース
リンク: エマージェント・バイオソリューションズのプレスリリース

FDA、アジュバント入りインフルエンザ・ワクチンを承認
(2015年11月24日発表)

FDAはノバルティスのFluadを65歳以上のインフルエンザ予防に用いることを承認した。欧米はA型とB型の抗原を二種類ずつ配合する4価ワクチンに一足先にシフトしたが、今回の承認は3価ワクチンが対象だ。

MF59というエマルジョン・ベースのアジュバント(免疫刺激を強化するための添加物)を用いている。インフルエンザでアジュバント入りは初。高齢者はワクチンの効果が減衰するため有益、という考え方なのかもしれない。

欧州では97年にイタリアなどの国で65歳以上に承認された。その後、ノバルティスが小児用に適応拡大申請したが後に撤回。また、14年にイタリアで高齢者が死亡する事象があり、バッチベースの販売停止措置が取られたことがある。

リンク: FDAのリリース

EUでノバルティスの心不全治療薬などが承認
(2015年11月24日発表)

9月と10月のCHMPで肯定的意見を受けた新薬や適応拡大が続々と承認された。

まず、ノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)。駆出率低下を伴う慢性心不全の治療に用いる。アウトカム試験で心血管死リスクを削減することが確認された。ネプリライシン阻害剤LBQ657のプロドラッグであるsacubitrilとDiovan名で知られるARBのvalsartanを一つの分子にしたもので、新種の合剤と考えることができる。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(11/24付)

ノバルティスはCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を乾癬性関節炎と強直性脊椎炎の治療に用いる適応拡大も承認された。前者は疾病修飾的薬に、後者は伝統的な治療法に、十分反応しない患者が対象。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(11/23付)

アムジェンのBlincyto(blinatumomab)は12年にマイクロメットを11.6億ドルで買収して入手した抗CD19BiTE抗体で、再発性難治性でフィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ芽球性白血病に用いる。BiTE抗体は二つの可変領域チェーンが夫々異なったターゲットに結合する。Blincytoの場合はBセルのCD19と細胞障害性TセルのCD3に夫々結合し、副刺激なしに後者を活性化する。キメラ抗原受容体Tセル療法(CAR-T)を連想させる。日本はアステラスと共同開発。

リンク: アムジェンのプレスリリース(11/23付)

バイオジェンのEloctate(efmoroctocog alfa、和名イロクテイト)は血液凝固第VIII因子を免疫グロブリンG2と細胞融合して半減期を長期化したもの。投与頻度が3~5日に一回と少なくて済むので、A型血友病のルーチン予防に適している。既存メーカーや他の新規参入組も持効性製品を開発・発売している。Swedish Orphan Biovitrum(OMX: SOBI)と共同開発。

リンク: バイオジェンのプレスリリース(11/24付)

ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)は同社の直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran etexilate)に結合する完全ヒト化抗体フラグメント。緊急手術を行う時や大出血時にPradaxaの効果を消すために使う。

リンク: ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース(11/26付)

ロシュがエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスして開発したMEK阻害剤、Cotellic(cobimetinib)はbrafV600変異を持つ切除不能転移性黒色腫の一次治療薬。同社のraf阻害剤であるZelboraf(vemurafenib)と併用する。

リンク: ロシュのプレスリリース(11/25付)

ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)は変異ALK陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いる。臨床試験では白金薬とAlimtaの併用よりPFS(無進行生存期間)が有意に長かった。

リンク: ファイザーのプレスリリース(Nasdaqのホームページ、11/25付)

インパックス(Nasdaq:IPXL)のNumientはcarbidopaとlevodopaの合剤。パーキンソン病の治療に用いる。即放性と徐放性の製剤をカプセルに収めたもので、典型的には一日三回服用する。米国では1月にRytary名で承認。

リンク: インパックスのプレスリリース(11/25付)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGenvoyaはHIV/AIDS治療用の合剤。日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤、elvitegravirとその代謝を阻害する3A4阻害剤cobicistat、そして逆転写阻害剤のemtricitabineとtenofovir alafenamide fumarateを配合しており、一日一回一錠の服用で多剤併用療法を施行することができる。

リンク: ギリアドのプレスリリース(11/23付)



今週は以上です。

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