2015年11月8日

2015年11月8日号



【ニュース・ヘッドライン】


  • 長期作用性抗HIV薬が第三相へ 
  • BMS、オプジーボの腎細胞腫適応拡大申請をEUが受理 
  • FDA、抗IL-5抗体を重度喘息症に承認 
  • FDA、ギリアドのTAF配合剤を承認 
  • FDA:プラビックスを長期投与しても死亡リスクは高まらない 
  • EMA:子宮頸がんワクチンとCRPS/POTSの関連性は無い 

【新薬開発】


長期作用性抗HIV薬が第三相へ
(2015年11月3日発表)

GSK、ファイザー、塩野義製薬の抗HIV薬合弁であるViiVヘルスケアとジョンソン・エンド・ジョンソンは、4週間または8週間に一回、筋注するだけで足りる抗HIV薬二剤の第二相併用試験が成功したと発表した。来年、第三相試験に進む予定。ウイルスが検出不能になった患者の維持療法という位置付けだが、成功すればピルバーデンが大きく改善する。

二剤のうちViiVの新薬はGSK-1265744/S-265744(cabotegravir)で、インテグラーゼ・トランスフェラーゼ阻害剤Tivacay(dolutegravir、和名テビケイ)の類縁体。一日一回の経口剤と筋注用ナノサスペンション製剤の二つが並行開発されている。もう一つはJNJの核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine、和名エジュラント)の筋注用ナノサスペンション製剤。

HIV/AIDSの標準療法であるHAARTでは、三種類以上の抗ウイルス剤を併用することによって特定の薬剤に対する耐性ウイルスが出現、増殖するのを防ぐ。効果が高いが副作用も多く、また、一日に多くの薬を服用するのでピルバーデンや薬剤費負担が重い。

ピルパーデンに関しては製薬会社が提携し一日一回一錠服用するだけで足りる合剤を数種類、実用化した。一方、治療が成功しウイルスが検出不能になった患者が一定期間休薬するドラッグホリディは複数の臨床試験がフェールした。次は、薬の数を減らす手法の当否である。ViiVとJNJは、3剤併用でウイルス治療に成功した患者の維持療法としてdolutegravirとrilpivirineの合剤だけを用いる第三相試験を実施中。

この延長線上に位置付けられるのが今回の二剤併用だ。cabotegravirの経口剤と二種類の核酸系逆転写阻害剤を用いてHIV治療に成功した患者約300人を筋注用二剤併用群(4週間に一回投与と8週間に一回の二群)と当初治療継続群に割付けて32週間治療したところ、ウイルス抑制維持成功率は94~95%となり、スイッチしなかった群の91%と同程度だった。有害事象は注射箇所反応など。

抗HIV/AIDS薬の第三相試験は2年間治療するのが一般的なので、今回の試験だけでは未だ成功確実とは言い難い。長期間続けるほど耐性ウイルス出現リスクが高まるだろう。少なくとも、経口剤よりはリスクが高いのではないかと思われる。問題は、そのリスクの発生頻度が許容範囲内であるかどうかだ。

リンク: ViiVのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボの腎細胞腫適応拡大申請をEUが受理
(2015年11月5日発表)

BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の腎細胞腫適応拡大申請がEUに受理されたと発表した。ファイザーのSutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤を既に使ってしまった患者の二次治療に用いる。

ノバルティスのAfinitor(everolimus)と比較した第三相試験では、メジアン生存期間が25ヶ月とAfinitorの19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.002だった(中間解析なので0.0148を下回れば統計的に有意)。グレード3以上の治療時発現有害事象の発生率は19%対37%で低かった。米国でも承認申請中と推測される。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認】


FDA、抗IL-5抗体を重度喘息症に承認
(2015年11月4日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)を重度喘息症の維持療法として承認した。好酸球数が多く、喘息発作を十分に予防できていない12歳以上の患者が適応になる。尚、6月の諮問委員会では12~17歳は安全性の検討が不十分で承認すべきではないと反対意見のほうが多かった。

Nucalaは好酸球の活性化や移行、サバイバルに関わるIL-5に結合、阻害するヒト化抗体。100mgを4週間に一回、医療従事者が皮注する。報道によると、100mgバイアルの問屋取得価格は2500ドル。欧州や日本でも承認審査中。

リンク: FDAのリリース
リンク: GSKのプレスリリース

FDA、ギリアドのTAF配合剤を承認
(2015年11月5日発表)

FDAはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗HIV合剤、Genvoyaを承認した。3種類の抗HIV薬とブースターを配合した合剤で、一日一回一錠服用するだけで足りる。

配合成分は、日本たばこが創製したインテグラーセ阻害剤elvitegravirとその効果を長持ちさせる3A4阻害剤cobicistat、核酸系逆転写阻害剤emtricitabine、そして、同社の出世作であるヌクレオチド逆転写阻害剤Viread(tenofovir disoproxil fumarate、略称TDF、和名ビリアード)の類縁体であるtenofovir alafenamide fumarate(略称TAF)。Stribild(和名スタリビルド)のTDFをTAFに替えた後継薬に当たる。

TAFもTDFもtenofovirのプロドラッグだが、TAFはHIVが入り込む細胞への分布が良いため10分の1の量で足りる。TDFは腎毒性や骨塩密度低下が見られるがTAFは血中曝露が小さいためTDFよりリスクが低い。TDFは特許切れが数年後に迫っているため、ギリアドはTDFをTAFに置き換えた新製品を次々と開発している。腎毒性・骨毒性が小さいというセールストークがFDAに認められたことはポジティブだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA:プラビックスを長期投与しても死亡リスクは高まらない
(2015年11月6日発表)

FDAはPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)の長期投与時の安全性を検討していたが、死亡リスクは高まりも下がりもしない、癌や癌で死亡するリスクも高まらない、という結論に達した。

調査の発端はDAPT試験だ。薬物溶出ステント留置術後にアスピリンとP2Y12阻害剤の二種類の抗血小板薬を併用するDAPTの長期コースを検討した大規模アウトカム試験で、30ヶ月コースは12ヶ月コースよりもステント血栓や心筋梗塞等が有意に少なかったが、出血性有害事象は有意に増加するという、まあ当然と言えば当然の結果になった。

ところが、意外なことに、死亡リスクが高まる傾向が見られた(2.0%対1.5%、ハザードレシオ1.36、95%信頼区間1.00~1.85)。P2Y12阻害剤はPlavixまたはEfient(plavix-yori-sugureruではなくprasugrel)が用いられたが、死亡リスクが増加したのはPlavixだけだった。心血管疾患による死亡は増加しなかったが、癌やトラウマ(外傷)による死亡が増加した。

このため、FDAは他の長期試験のデータとトライアル・レベルのメタアナリシスを行った。対照群はアスピリンだけ、または、DAPTの短期コース。結果は、死亡率(被験者数は12本の試験合計で56799人)が6.7%対6.6%、癌発生率(37835人)で4.2%対4.0%、癌死亡率(40855人)0.9%対1.1%となり、全死亡も癌による死亡も増加しないことが判明した。

死亡リスクが高まるという最悪の仮説は否定されたが、虚血性合併症の減少と出血性副作用の増加のどちらをより重視すべきなのか、というDAPT試験の原点ともいえる設問の回答は未だ得られていない。一歩ずつ進むしか方法が無いのだろう。

リンク: FDAの安全性報告

EMA:子宮頸がんワクチンとCRPS/POTSの関連性は無い
(2015年11月5日発表)

EMA(欧州薬品庁)の薬品市販後監視委員会であるPRACは、ヒト・パピローマウイルス・ワクチンを接種した若い女性の複合性局所疼痛症候群(CRPS)および体位性起立性頻脈症候群(POTS)症例を検討し、両者の間に因果関係はないと結論した。

子宮頸がんワクチンの主対象である10~19歳の女性におけるCRPSの自然発生率は100万人当たり年150人、POTSも年150人以上であり、ワクチン接種者における発生率はこれと大差ないとのことである。

感染症やその合併症を防ぐことは社会全体を守るために必要であり、政府や社会にとって他の病気よりはるかに重要だ。それだけに、政府や国際機関、専門家の利益相反やバイアスのリスクも大きいと考えざるを得ない。結論を発表するだけでなく、根拠となったエビデンスも十分に周知することが重要だろう。

私が5年前に『サーバリックスにできる事とできないこと』を書いたのは、ワクチンの普及を望む人たちの発言がやや調子が良すぎると感じたからだ。ワクチン接種は善、推奨するのも善、副作用や効果の範囲について詳述するのはディスカレッジするかもしれないので悪、という風潮が見られた。子宮頸がんワクチンが先に発売された国では接種後の失神や神経性疼痛が報告されていたのだが、稀なので因果関係は分からなかった。そこで、効果の範囲についてだけ言及した。

その後、日本でも深刻な副作用が報告され、接種勧奨を止める事態になってしまった。重要なのは、立ち止まらないことである。事実を調査し、原因を探求し、対策を考える。何年かかってもやるべきだ。そうしないと、科学が前進しない。10年後、20年後に同じことが起きる。

リンク: EMAのプレスリリース



今週は以上です。

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