2015年10月11日

2015年10月11日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュ、ocrelizumabのデータ発表
  • 遅発性ジスキネジア用薬の第三相が成功
  • ヴァーテックス、Kalydecoの対象をさらに拡大へ
  • オプジーボ、NSNSCLCに承認


+++ 来週は都合によりお休みさせていただきます +++


【新薬開発】


ロシュ、ocrelizumabのデータ発表
(2015年10月8日発表)

ロシュは、RG1594(ジェネンテックの開発コードPRO70769、一般名ocrelizumab)の第三相多発性硬化症試験の結果をECTRIMS学会で発表した。再発型を対象とした実薬対照試験二本も、一次進行型の偽薬対照試験も成功。16年始めに承認申請する予定。

ocrelizumabはBセルの表面分子であるCD20を標的とする抗体医薬。同社がIDEC(現バイオジェン)からライセンスして共同開発したRituxan(rituximab)がマウス由来の可変領域をヒト由来の定常領域と繋げたキメラ抗体であるのに対して、ocrelizumabは可変領域の一部もヒト抗体のアミノ酸に置換したヒト化抗体。効果や安全性で優れる可能性があるため、特に自己免疫疾患用途で、Rituxanの後継薬になることが期待されていた。

ところが、リウマチ性関節炎の第三相試験で深刻な感染症が特にアジア地域の施設で増加、死亡例も発生した。免疫抑制効果の高さの裏返しであり用量調整で管理できる可能性もあるが、Rituxanの有効性が明らかな疾患ではリスクを冒してまで効果を高める必然性が乏しい。結局、多発性硬化症以外の開発は中止となった。

このような経緯を踏まえて今回のデータを見ると、まず、再発型を対象とした二本は、2年間の再発リスクをRebif(メルク・セローノのインターフェロン beta-1a)と比較した。副作用リスクがあるので偽薬を上回るだけでは足りない、という考え方だろう。

ocrelizumabは24週サイクルでサイクル当り600mgを点滴静注(再発型は初回だけ、一次進行型は全期間に亘って、第1日と15日に300mgずつ投与)。Rebifは44mcgを週3回、皮注するインターフェロンでは最も効果の高い用法。投与方法が全く異なるため夫々の偽薬を用意して二重盲検化した。

結果は、試験薬群の方がリスクが46~47%小さかった。EDSS症状評価スコアが悪化するリスクも低下した。有害事象は点滴箇所反応の発生率が34%対10%と多かったが、深刻な有害事象は6.9%対8.7%と大差なく、深刻な感染症も大差なかった。

多発性硬化症は歩行障害などの症状が出たり、寛解したりを繰り返す再発寛解型が多い(やがて、寛解期を挟まずに悪化していく二次進行期に進む)。一部の患者は最初から寛解期なしで悪化するため、一次進行型と呼ばれる。治療は専ら対症療法で進行を遅らせる薬はない。これらのことから、臨床試験は偽薬対照でEDSS進行リスクを主評価項目とした。EDSSはあまり鋭敏・精緻ではなく、その時々で変動する可能性もあるため、一定期間持続した場合だけ悪化を認定した。

結果は、リスクが25%小さかった。p値は0.0365なのであまり良い数値ではない。25フィート歩行時間の悪化を抑制する効果も見られたが、こちらもp=0.04。鋭敏でも精緻でもないスコアを使うとあまりよいp値は出ないものだが、再発型の試験ではEDSSのp値が二本とも0.01未満だった。偽薬と比べてこの程度なのだから、結局、効果は小さいと考えざるを得ない。

FDAは再発型に関してはEDSSを重視していないようだ。一次進行型は話が違うかもしれないが、p値があまりよくないだけに、承認されるかどうか不確かだろう。

忍容性面では、偽薬群の数値の悪さが目立つ。点滴箇所反応発生率は試験薬群39.9%、偽薬群は25.5%。深刻な有害事象は20.4%対22.2%で大差なかった。

深刻な感染症のリスクは高まらなかった模様。リウマチ試験ではサイクル当たり1000mgを投与した群でリスクが倍近く増加したが400mgの群は偽薬と大差なかった。今回の試験で安全域が600mgまで広がったことになる。

尤も、稀だが深刻な感染症のリスクはじっくりと評価する必要がある。多発性硬化症の最近の新薬は何れも市販後にPML(進行性多病巣性白質脳症)が発生している。Rituxanでも報告されているので、ocrelizumabにもリスクがあるだろう。もし第三相試験で発生しなかったとしたら治験の検出力が不十分であった可能性があり、敷衍して、他の稀な副作用の検出力も疑う余地があるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: ocrelizumabのリウマチ試験の安全性分析論文(Emeryらの抄録、PubMed)

遅発性ジスキネジア用薬の第三相が成功
(2015年10月8日発表)

ニューロクラインバイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)は、NBI-98854(valbenazine)の第三相遅発性ジスキネジア治験の成功を発表した。16年に承認申請する予定。日本の開発販売権は田辺三菱製薬が保有している。

遅発性ジスキネジアは向精神薬のドパミン阻害作用などが原因で無意識に反復的動作を行ってしまう。米国の推定患者数は50万人。valbenazineは神経終末のVMAT2(小胞モノアミントランスポーター2)を阻害してドパミンの取り込みを抑制、機能正常化を誘導する。

今回の第三相は、統合失調症や統合失調性感情障害、双極障害、うつ病などを罹患し遅発性ジスキネジアを発症している234人を偽薬、40mg、80mgを一日一回経口投与する各群に無作為化割付して6週間治療した。主評価項目はAIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale)の変化。

結果は、80mg群の変化が偽薬比3.1ポイント改善、p値は0.0001未満だった。40mgは1.8ポイントに留まりフェール。二次的評価項目であるCGI(Clinical Global Impression)-TDはどちらもフェールした。

過去のP2b試験では100mgと75mgが有効、50mgは不十分だった。今回の結果は整合的であり、第三相は一本だけだが、有効性を示す複数のエビデンスが揃ったと言えるだろう。但し、治療効果が十分なのか、私には知識が無い。

リンク: ニューロクラインのプレスリリース

【承認申請】


ヴァーテックス、Kalydecoの対象をさらに拡大へ
(2015年10月7日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のKalydeco(ivacaftor)は嚢胞性線維症の患者のうち特定のタイプに有効だ。2012年に米国で承認された時点ではCFTR遺伝子にG551D変異を持つタイプだけが対象だったが、その後、更に9種類に適応拡大が認められた。年齢制限も2歳以上に広がった。

今回は、更に23種類の変異を対象に米国で適応拡大申請し、受理された。優先審査で審査期限は来年2月6日。患者数が少ないせいか、臨床試験の裏付けがあるのは数タイプだけで、残りはin vitroのデータしかない模様。

嚢胞性線維症の患者数は世界で7万人。うち、Kalydecoの対象になるのは4000人程度と推測されている。ivacaftorとlumacaftorのコンビ薬であるOrkambiも合わせると3万人に膨らむ。治験には時間が掛かるので、一歩一歩、対象患者拡大を進めることになる。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

【承認】


オプジーボ、NSNSCLCに承認
(2015年10月9日発表)

BMSは、FDAがOpdivo(nivolumab)の適応拡大を承認したと発表した。3月に非小細胞性肺癌のうち扁平上皮腫の二次治療に用いることが承認済みだが、新たに非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の二次治療が認められ、対象患者が約3倍に増加した。

第三相のCheckMate-057試験では、メジアン生存期間が12.2ヶ月とdocetaxelを投与した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.0015だった。Daco社のPD-L1検査も承認されたが、検査は不要でPD-L1発現状況に関わらず適応になる。但し、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤や抗EGFR抗体のように、承認後に適応が見直される可能性はありそうだ。

一次治療は白金薬レジメンや、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になる患者はこれらの薬を使うが、エビデンスが揃えば将来は抗PD-1抗体も選択肢の一つになるだろう。

免疫強化療法は副作用の出方が化学療法と大きく異なるので注意が必要だ。Opdivoの場合、免疫が調停する肺炎、大腸炎、肝炎、内分泌障害、腎炎などのリスクがある。

リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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