【ニュース・ヘッドライン】
- ファイザー、鎌状赤血球症用薬を自主回収
- JNJ、国際骨髄腫学会で多くの発表
- アッヴィ、パーキンソン病薬の第3相がまた成功
- ガザイバのループス腎炎試験が成功
- アムジェン、二種類の自己免疫疾患の第3相が成功
- 第一三共/アストラゼネカの抗体薬物複合体、肺癌に続き乳癌でも延命効果が確認されず
- Biohaven、脊髄小脳失調症用薬の長期試験が成功
- アベクマの新患多発骨髄腫試験が不人気中止に
- MSDも大腸癌のPD-1・LAG-3デュアル・ブロック試験がフェール
- FDA諮問委員会、胃癌などにおけるPD-L1要件厳格化を支持
- デュピクセントが好酸球性COPDに適応拡大
- 新規冠動脈トレーサーが承認
- 画期的作用機序の統合失調症薬が承認
- タグリッソが化学放射線療法後の維持療法に適応拡大
- またまたNPC用薬が承認
- UCB、ビンゼレックスが3疾患に適応拡大
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
ファイザー、鎌状赤血球症用薬を自主回収
(2024年9月25日発表)
ファイザーは、19~22年に米欧で承認された鎌状赤血球症(SCD)治療薬、Oxbryta(voxelotor)の全ロットを自主回収すると発表した。市販後の臨床試験で血管閉塞クリーゼや致死的事象に偏りが見られたため。臨床試験や早期アクセスプログラムにおける投与も中止する。承認審査機関にデータや自主回収計画を連絡済み。EMAのCHMPは9月26日に特別会議で検討し、承認停止を推奨した。FDAも自主回収に関するアラートを発し、安全性を検討中であることを明らかにした。。
22年にGlobal Blood Therapeuticsを企業価値ベース54億ドルで買収して入手した、HbS(鎌状ヘモグロビン)治療薬。ヘモグロビンに可逆的に結合して酸素親和性を増強し重合・鎌状化を阻害、ヘモグロビン値を上昇させる。12歳以上が適応。成人の場合1500mgを一日一回、経口投与する。
上記のレジストリー試験は、2~14歳のSCD患者236人を組入れて脳梗塞予防効果をTCD(経頭蓋ドップラー)フロー・ベロシティ検査によって検討した032試験と、12歳以上の足潰瘍を合併するSCD患者88人を組入れて潰瘍治療効果を検討した042試験。7月にリスク評価を開始したCHMPによると、前者では死亡者が8人(うちマラリアによるものが3人、敗血症が2人)、偽薬群は2人だけだった。後者はまだ進行中だが、死亡9人中、既に盲検期間が終了した8人はすべて試験薬群だった(うち4人はマラリアが死因/影響)。マラリアが多いのはアフリカの施設の組入れが多かったからだろう。
承認のエビデンスとなった第3相HOPE試験(偽薬対照パートの組入れは274人)では死亡者数の偏りは見られなかった。試験薬群の一死亡例はマラリアを発症し抗生剤の治療を受けた後に肝不全を合併したが、FDAの審査官は、この抗生剤の肝毒性が原因ではないかと審査文書でコメントしている。米国のレーベルの警告・事前注意事項は過敏反応とヘモグロビン検査値に影響すること程度で、特別なものはない。
ファイザーは自主回収について、at this timeと付記している。症例検討などを進めて死亡との関連性は低いと結論できるようなら、出荷を再開する考えなのだろう。CHMPも予備的な措置としている。
鎌状赤血球症ではノバルティスの抗Pセレクチン抗体Adakveo(crizanlizumab-tmca)が19~20年に米欧で承認されたが、EUは市販後薬効確認試験であるSTAND試験がフェールしたため承認取消となった。遺伝子治療分野では二製品が承認されているが、需要は伸び悩んでいるようだ。
リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: EMAのプレスリリース(9/26付、承認停止勧告について)
リンク: FDAのアラート(9/26付、自主回収について)
【新薬開発】
JNJ、国際骨髄腫学会で多くの発表
(2024年9月27日発表)
IMS(国際骨髄腫学会)でジョンソン・エンド・ジョンソンの三剤の治験成績が発表された。まず、Legend Biotech(Nasdaq:LEGN)から共同開発販売権を取得したBCMA標的CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)、Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)。4月に欧米でlenalidomide抵抗性多発骨髄腫の2次治療に適応拡大した時のエビデンスであるCARTITUDE-4試験で全生存期間の解析が成功した。メジアン34ヶ月追跡で対照群(PVdレジメン(pomalidomide+bortezomib+dexamethasone)またはDPdレジメン(daratumumab+pomalidomide+dexamethasone)を施行)比のハザードレシオが0.55(95%信頼区間0.39-0.79)、30ヶ月生存率は各群76%と64%だった。CAR-Tの同様な試験で延命効果が確認されたのは初めて。承認審査機関に報告する考え。
リンク: 同社のプレスリリース
次に、Darzalex Faspro( daratumumab、hyaluronidase-fihj、和名ダラキューロ配合)の新患多発骨髄腫におけるMRD(微小残存病変)陰転作用を検討した第3相のCEPHEUS試験とAURIGA試験。前者は移植以外の当初治療を予定する患者を対象に、VRdレジメン(bortezomib+lenalidomide+dexamethasone)に追加する便益を検討したところ、全般的MRD陰転率(感度10万分の1)が60.9%とVRdだけの39.4%を有意に上回った。12ヶ月持続例だけでも48.7%対26.3%、もっと緩やかな奏効判定基準であるCRR(完全反応率)は81.2%対61.6%だった。この試験はPFS(無進行生存期間)も検討しており、ハザードレシオ0.57で有意、メジアン値は未達と52.6ヶ月だった。
多剤併用療法が実現しPFSが延びたのは朗報だが、新薬の効果を確認するのに必要な期間も延びており、代わりに用いられるCRRも標準療法の水準が上がりハードルが高まった。MRD陰転率はより少ない症例数でより短期間に便益を確認しうるサロゲート・マーカーとして、採用が増えていきそうだ。
AURIGA試験はASCT(自家幹細胞移植)でMRD陰性を達成しなかった患者の維持療法としてlenalidomideに追加する用法を検討した。12ヶ月時点のMRD陰転率(感度10万分の1)が50.5%とlenalidomideだけの群の18.8%を上回り、PFSのハザードレシオは0.53、30ヶ月PFS率は82.7%と66.4%だった。G3/4治療関連有害事象の発生率は74%対67.3%で、感染症や好中球減少症などが上回った。
リンク: 同(CEPHEUS試験)
リンク: 同(AURIGA試験)
アッヴィ、パーキンソン病薬の第3相がまた成功
(2024年9月26日発表)
アッヴィはtavapadonの第3相試験で主目的を達成したと発表した。TEMPO-1試験で早期パーキンソン病患者を偽薬、5mg、または15mgを一日一回、26週間経口投与して効果を比較したところ、 MDS-UPDRSのパートII(運動症状患者評価)とIII(同医師評価)の複合評価項目が各群+1.8、-9.7、-10.2増加し、二用量とも偽薬比有意な差があった。副次的なパートIIだけの検定も達成した。年内に一日用量を5~15mgの範囲で調整するTEMPO-2第3相早期パーキンソン病試験も開票する予定。
levodopa治療を受けてウェアリング・オフ症状が出てきた患者に追加投与したTEMPO-3試験は4月に成功した。ジスキネジアを伴わないオンタイムが1.7時間増加と、偽薬群の0.6時間増加を上回った。
Cerevel Therapeuticsを企業価値ベース87億ドルで買収して入手した開発品の一つ。主目的は統合失調症/アルツハイマー病でPOC中のポジティブ・アロステリック・ムスカリンM4受容体調節剤、emraclidineのようだ。
リンク: アッヴィのプレスリリース
ガザイバのループス腎炎試験が成功
(2024年9月26日発表)
ロシュは抗CD20抗体Gazyva(obinutuzumab)を活性期ループス腎炎の治療に当てた第3相REGENCY試験で主目的等を達成したと発表した。標準治療を受けている患者に追加投与したところ、76週完全腎反応(CRR)達成率が偽薬を統計的かつ臨床的に有意に上回った。副次的評価項目のCRR及びステロイド減量達成率や蛋白尿反応率の解析も成功した。適応拡大に向けて当局と協議している。
データは未公表だが、第2相では主評価項目の52週CRR達成率が35%、偽薬群は23%、72週時点では40%対18%だった。
リンク: ロシュのプレスリリース
アムジェン、二種類の自己免疫疾患第3相が成功
(2024年9月24日発表)
アムジェンは二種類の抗体の二種類の第3相試験が成功したと投資家・アナリスト向けウェブキャストで発表した。一つはポテリジェント技術を用いた抗OX40(CD134)抗体、rocatinlimab(AMG 451/KHK4083)のROCKET-Horizon試験。局所性治療に十分応答しないアトピー性皮膚炎の成人726人を日本を含む世界の施設で組入れてEASI75やIGA(FDA向けとEMA向けの二種類ある)などの変化を偽薬と比較したところ、どちらも有意に上回った。尤も、承認されている薬より効果が高いようには見えない。第3相は他に二用量並行群間比較試験などが進行中。活性化T細胞が発現するOX40に結合し免疫異常を抑制する抗体医薬で、21年に協和キリンからライセンスした。
もう一つはNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として承認されている抗CD19抗体、Uplizna(inebilizumab-cdon)の全身性重症筋無力症試験、MINT。AChRまたはMuSKに対する抗体を持つ患者238人を組入れて300mgを二週おいて2回投与し、第26週のMG-ADLを偽薬と比較したところ、各群4.2点と1.9点低下し、有意な差があった。AChR型とMuSK型の両方で便益が見られた。適応拡大申請に着手した。
リンク: ウェブキャスト用プレゼン・スライド(pdfファイル)
第一三共/アストラゼネカの抗体薬物複合体、肺癌に続き乳癌でも延命効果が確認されず
(2024年9月23日発表)
第一三共はアストラゼネカとともに抗TROP2抗体薬物複合体DS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)を開発し、欧米日本で承認申請中だが、エビデンスとなるべき第3相試験で肺癌に続き乳癌でも全生存期間の解析がフェ-ルした。どちらも実薬対照試験で、PFS(無進行生存期間)面では便益があり、重篤有害事象発生率が低いという長所もあるので、一概には言えないが、少なくとも承認のハードルが上がったとはいえるだろう。
この第3相3TROPION-Breast01試験はホルモン受容体陽性、her2低/陰性(IHC法で0/1、または2でISHは陰性)の手術不能/転移性乳癌で内分泌療法と一つ以上の全身性治療歴を持つ732人を組入れて、6mg/kgを3週毎点滴静注する群と化学療法(capecitabine、gemcitabine、eribulin mesylate、vinorelbineの中から医師が選択)を施行する群の転帰を比較した。共同主評価項目のうちPFSは各群のメジアン値が6.9ヶ月と4.9ヶ月、ハザードレシオは0.63となり成功した。この時点ではもう一つの全生存期間は未成熟であるもののハザードレシオは0.84と好ましい傾向が見られていたが、結局、有意水準に達しなかった。
類薬ではギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)が上記と同様だが一つではなく二種類以上の全身性治療歴を持つ患者に米国で昨年1月、EUでは7月に、適応拡大した。第3相TROPiCS-02試験で上記と同様な対照群比PFSハザードレシオが0.66、メジアン値の差は1.5ヶ月、全生存期間のハザードレシオは0.79、差は3.2ヶ月だった。どちらも効果がすごく大きいわけではないが、もしDS-1062が承認されなければ、大きな差が出る。
DS-1062は1~2次の全身性治療歴を持つ進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌でも承認申請中。TROPION-Lung01試験では扁平上皮腫も含む全体の解析でPFS(盲検独立中央評価)がdocetazel群を有意に上回ったが、共同主評価項目の全生存期間の中間解析がそれほどでもなかったためか、サブグループだけの申請となった。結局、全604人の解析はハザードレシオ0.94でフェールした、非扁平上皮腫468人の解析は0.84(95%信頼区間0.68-1.05)、1年生存率58.8%対52.8%と、悪くはないが諸手を上げて喜ぶほどではなかった。因みに、Trodelvyの類似した第3相はフェールした。
リンク: 同社のプレスリリース
Biohaven、脊髄小脳失調症用薬の長期試験が成功
(2024年9月23日発表)
Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)の第3相206-RWE試験で脊髄小脳失調症(SCA)の進行を5~7割抑制したと発表した。24年内に米国で承認申請する考え。
活性成分は95~98年に米欧日で筋萎縮性側索硬化症用薬として承認されたriluzoleのプロドラッグで、グルタミン酸伝達経路を阻害し神経保護作用を発揮すると考えられている。第3相206試験に200人超を組入れて200mgを一日一回、48週間経口投与する便益を偽薬と比較したところ、主評価項目のf-SARA(modified functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)がベースラインの4.9点から5.1点に上昇と良好だったが、偽薬群も5.2点と大差なかったためフェールした。同社は群間差が比較的大きかったSCA3型のサブグループに限定して23年に米国で承認申請したが受理されなかった。
今回の試験は206試験の盲検期間とその後のオープン・レーベル延長投与期間合わせて3年間の追跡データを、米国の自然歴(Clinical Research Consortium for SCAのデータ)とPSM(傾向スコア・マッチング)方式で比較したもの。f-SARAの上昇が自然歴の50%と有意に小さかった。プレスリリースのグラフを見ると、troriluzole群は0.8点くらい上昇、対照群は1.6点くらい上昇となっている。
長期試験なので解析対象はベースラインの101人から3年後には61人に減少、自然歴は202人から43人に減少となっている。サバイバル・バイアスのチェックが必要だろう。
米国外の承認申請を考慮して欧州の自然歴(EUROSCAベース)との比較も実施したところ、70%小さかった。グラフ読み取り値はtroriluzole群が0.6点位上昇、対照群は2.4点位上昇、試験薬群の症例数は85人から54人に減少、対照群は170人から112人に減少している。
偽薬対照試験の長期追跡データを自然歴と比較というかなり荒っぽいやり方なので、FDAは妥当性を細かくチェックするだろう。
Biohavenは22年にファイザーが買収したが、目的である片頭痛用薬以外の事業はBiohavenとしてスピンアウトされた。
リンク: 同社のプレスリリース
アベクマの新患多発骨髄腫試験が不人気中止に
(2024年9月25日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブと2seventy bio(Nasdaq:TSVT)は、BCMA標的CAR-T療法薬Abecma(idecabtagene vicleucel)の第3相KarMMa-9試験の組入れを打ち切ると発表した。開始から1年近く経っても組入れが目標618人の1割程度しか進んでいないため。2seventy bioは臨床試験費用を8000万ドル節約できることを明らかにした。
Abecmaは二種類以上の治療薬を経験済みの多発骨髄腫などに米欧日などで承認されている。今回の試験は、新患多発骨髄腫の成人で自家幹細胞移植を受けたが完全奏効に至らず、部分奏効/最良部分奏効に留まった患者を組入れて、lenalidomeによる維持療法と併用する便益を検討した。不人気の理由は、このような患者の治療が多剤、長期投与化して、完全奏効率が向上したことなどである模様。要するに、医療が進歩してこの試験に参加する必要のない患者が増えたわけだ。
リンク: 2seventyのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース
MSDも大腸癌のPD-1・LAG-3デュアル・ブロック試験がフェール
(2024年9月25日発表)
MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)と抗LAG-3(lymphocyte activation gene-3)抗体MK-4280(favezelimab)の合剤を転移結腸直腸癌(CRC)の治療に用いた第3相KEYFORM-007試験がフェールしたと発表した。KeytrudaはMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)/dMMR(ミスマッチ修復欠損)の転移CRCの再発治療に承認されているが、この試験はマイクロサテライト安定性で前治療歴を持つCRC患者を日本も含む世界の施設で組入れて、全生存期間を医師が選んだ薬(regorafenibまたはtrifluridine/tipiracil合剤)と比較したもの。
BMSの抗PD-1抗体・抗LAG-3抗体合剤、Opdualag(nivolumab、relatlimab-rmbw)の類似した第3相であるRELATIVITY-123も昨年12月に無益中止が発表されており、再現された格好。
MSDの合剤は古典的ホジキン型リンパ腫のサルベージ療法としての便益を医師が選んだ薬(bendamustineまたはgemcitabine)と比較する第3相008試験も進行中。
リンク: MSDのプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、胃癌などにおけるPD-L1要件厳格化を支持
(2024年9月26日発表)
FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、抗PD-L1抗体の胃・食道癌一次治療における適応をPD-L1陽性に限定することについて意見を効いた。殆どの委員が陰性患者を適応とするのは妥当ではないと判定したため、承認内容の見直しが行われるだろう。EUにおける適応範囲や診断・治療ガイドラインとの整合性が高まることになる。
俎板に上がったのはBMSのOpdivo(nivolumab)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)、そしてBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)が承認申請中のtislelizumabの、her2陰性、マイクロサテライト安定性の進行胃/胃食道接合部腺腫の一次治療化学療法併用に関する治験成績と、これらの抗PD-1抗体及びBMSのYervoy(ipilimumab、Opdivoと併用する)の、切除不能食道扁平上皮腫一次治療併用試験成績。何れも全生存期間が化学療法だけより向上したが、ハザードレシオはPD-L1発現度が高いほど低くなる(効果が高い)傾向が見られた。
FDAは複数の試験で再現されたことから、今回、適応縮小の検討を始めた。FDAの分析によると、PD-L1発現が1以上のサブグループと1未満のサブグループのおけるハザードレシオは、胃/胃食道接合部腺腫では、Opdivoの649試験では0.76と0.92、Keytrudaの859試験では0.73と0.92、tislelizumabの306試験では0.78と0.98だった。諮問委員会では、PD-1阻害剤をPD-L1発現が1未満の進行her2陰性マイクロサテライト安定性胃/胃食道接合部腺腫の一次治療に用いる便益は危険を上回るかという質問に対して、YESが2名、NOが10名、棄権1名と多数が否定した。
食道扁平上皮腫でPD-L1が1未満なのは1割程度でサンプル数が少ないが、同様な傾向が見られる。諮問委員会では、抗PD-1抗体をPD-L1発現が1未満の切除不能、転移食道扁平上皮腫の一次治療に用いる便益は危険を上回るかという質問に対して、YESが1名、NOが11名、棄権1名と再び多数が否定した。尚、設問の語彙がやや異なる理由は不明。
閾値は1より10のほうが点推定値の違いが明確になり、サンプル数が増え信頼度が向上するように感じられるが、FDAは1を閾値にする考えのようだ(発現検査の内容や閾値は会社により、疾病により区々なので最終決定がどうなるかは分からないが)。
欧米の適応範囲は「よきに計らえ」部分が少なく併用薬も列記されるのが一般的だが、臨床試験の組み入れ、除外条件と比べてどの程度適応を広げるかは裁量の余地がある。上記適応に関してEUは初めからPD-L1陽性に限定しており、学会のガイドラインもPD-L1発現度に応じてエビデンス・レベル(推奨強度)を変えているようだ。医療現場ではPD-L1陰性患者に施行する例は多くない模様なので、今回の事件は、FDAの当初のレーベルが気前良すぎただけと受け止めることもできるだろう。
リンク: FDAの諮問委員会資料開示ページ
リンク: BeiGeneのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース
【承認】
デュピクセントが好酸球性COPDに適応拡大
(2024年9月27日発表)
Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、FDAが抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を成人の好酸球性COPDの維持療法として承認したと発表した。他の薬で治療しても管理不良な患者に追加投与する。第3相試験二本で急性中重度COPD増悪が偽薬比30~34%少なかった。この用途でバイオ薬が承認されたのは初めて。EUでは7月に承認、日本でも一変申請中。
リンク: 両社のプレスリリース
新規冠動脈トレーサーが承認
(2024年9月27日発表)
FDAはGEヘルスケアのFlyrcado(flurpiridaz F 18)を成人の冠動脈疾患(疑い例も含む)のPET検査補助薬として承認した。臨床試験二本で、動脈の50%以上狭窄を判定する感度が一本では74-89%(3人の評価者の成績のレンジ、以下同じ)、もう一本では63~77%だった。特異度は夫々53~70%と66~86%だった。有害事象は息切れ、頭痛、狭心症、共通、疲労、STセグメント変化など
リンク: FDAのプレスリリース
画期的作用機序の統合失調症薬が承認
(2024年9月26日発表)
FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのCobenfy(xanomeline、trospium chloride)を成人の統合失調症急性期治療薬として承認した。非定型向精神薬はD2ドパミン受容体を阻害するものが多いが、xanomelineはムスカリンM1受容体を作動してアセチルコリンを抑制したり、M4受容体を作動してGABAを増強したりすることで間接的にドパミンを減少する、画期的な作用機序を持つ。trospiumは過活動膀胱薬として承認されている末梢作用性ムスカリン受容体アンタゴニストで、M1作動による末梢性有害事象を緩和する意図のようだ。
第3相試験二本では、第5週PANSS総スコアが偽薬修正後で8~10点改善した。有害事象警告事項は尿貯留、心拍数増加、胃運動性低下、顔や唇における血管浮腫など。中度以上の腎障害や肝障害を持つ患者には適さない。非定型向精神薬のレーベルには高齢認知症併発患者に投与すると死亡リスクが高まるという共通枠付き警告が記されているが、Cobenfyにはない。報道によると、価格は30日分が1850ドルと、競合ブランド薬と同水準に設定される模様。
イーライリリーにおける同剤の開発担当者が創業したKaruna Therapeuticsを3月に140億ドルで買収して入手したもの。
リンク: FDAのプレスリリース
タグリッソが化学放射線療法後の維持療法に適応拡大
(2024年9月25日発表)
FDAはアストラゼネカのTagrisso(osimertinib)を非小細胞性肺癌の治癒的化学放射線療法後維持療法に用いることを承認した。EGFRにエクソン19欠損またはエクソン21-L858変異を持つ、ステージIIIの切除不能癌が適応になる。80mgを一日一回、経口投与した第3相LAURA試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン39.1ヶ月と偽薬群の5.6ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.16だった。全生存期間の解析は未成熟で、偽薬群は進行後に8割がTagrissoにクロスオーバーしたため単純な比較はできなくなっているが、今年のASCOで発表されたハザードレシオは0.81(95%信頼区間00.42-1.56)と好ましい方向を指している。G3以上の有害事象発生率は35%対12%で高かった。
TagrissoはEGFR変異非小細胞性肺癌の様々な段階における治療薬として承認されている。今回の適応は日本でも承認申請中。
リンク: FDAのプレスリリース
またまたNPC用薬が承認
(2024年9月24日発表)
FDAは、米国テキサス州オースチンの新興医薬品開発会社、IntraBioのAqneursa(levacetylleucine)を体重15kg以上の小児と成人のNPC(ニーマン・ピック病C型)治療薬として承認した。35kg以上の場合、朝は2g、昼は1g、夕は1gを水、オレンジジュース、またはミルクに混ぜて服用する。臨床試験では第12週のfSARA(運動失調評価尺度の全5ドメインのうち4ドメインの複合評価項目)が偽薬比有意に低下した。
ニーマン・ピック病は酸性スフィンゴミエリナーゼが欠損するA型、B型と、NPC1またはNPC2蛋白の異常によって起こるC型に分類される。米国ではC型の治療薬が承認されていなかったが、今月はZevra Therapeutics(NasdaqGS:ZVRA)のMiplyffa(arimoclomol)も2歳以上の患者に承認された。
リンク: FDAのプレスリリース
UCB、ビンゼレックスが3疾患に適応拡大
(2024年9月23日発表)
UCBは抗IL-17A/F抗体Bimzelx(bimekizumab-bkzx)が米国で適応拡大したと発表した。21~23年に欧日米で成人の中重度プラク乾癬に承認されたが、今回、成人の、活性期の、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、そして乾癬性関節炎に用いることが承認された。乾癬は160mgを一度に二回ずつ皮下注するが、他の適応は160mg一回皮下注を4週毎に反復する。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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24/10推 | ファイザーのmarstacimab(血友病) |
24/10推 | CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫) |
24/10/6 | Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌) |
24/10/8 | BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法) |
24/10/15 | Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験) |
24/10/17 | アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌) |
24/10/25 | Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症) |
諮問委員会 | |
24/10/10 | CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群) |
24/10/31 | EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病) |
今週は以上です。