2024年9月28日

第1074回

【ニュース・ヘッドライン】

  • ファイザー、鎌状赤血球症用薬を自主回収 
  • JNJ、国際骨髄腫学会で多くの発表 
  • アッヴィ、パーキンソン病薬の第3相がまた成功 
  • ガザイバのループス腎炎試験が成功 
  • アムジェン、二種類の自己免疫疾患の第3相が成功 
  • 第一三共/アストラゼネカの抗体薬物複合体、肺癌に続き乳癌でも延命効果が確認されず 
  • Biohaven、脊髄小脳失調症用薬の長期試験が成功 
  • アベクマの新患多発骨髄腫試験が不人気中止に 
  • MSDも大腸癌のPD-1・LAG-3デュアル・ブロック試験がフェール 
  • FDA諮問委員会、胃癌などにおけるPD-L1要件厳格化を支持 
  • デュピクセントが好酸球性COPDに適応拡大 
  • 新規冠動脈トレーサーが承認 
  • 画期的作用機序の統合失調症薬が承認 
  • タグリッソが化学放射線療法後の維持療法に適応拡大 
  • またまたNPC用薬が承認 
  • UCB、ビンゼレックスが3疾患に適応拡大
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ファイザー、鎌状赤血球症用薬を自主回収
(2024年9月25日発表)

ファイザーは、19~22年に米欧で承認された鎌状赤血球症(SCD)治療薬、Oxbryta(voxelotor)の全ロットを自主回収すると発表した。市販後の臨床試験で血管閉塞クリーゼや致死的事象に偏りが見られたため。臨床試験や早期アクセスプログラムにおける投与も中止する。承認審査機関にデータや自主回収計画を連絡済み。EMAのCHMPは9月26日に特別会議で検討し、承認停止を推奨した。FDAも自主回収に関するアラートを発し、安全性を検討中であることを明らかにした。。

22年にGlobal Blood Therapeuticsを企業価値ベース54億ドルで買収して入手した、HbS(鎌状ヘモグロビン)治療薬。ヘモグロビンに可逆的に結合して酸素親和性を増強し重合・鎌状化を阻害、ヘモグロビン値を上昇させる。12歳以上が適応。成人の場合1500mgを一日一回、経口投与する。

上記のレジストリー試験は、2~14歳のSCD患者236人を組入れて脳梗塞予防効果をTCD(経頭蓋ドップラー)フロー・ベロシティ検査によって検討した032試験と、12歳以上の足潰瘍を合併するSCD患者88人を組入れて潰瘍治療効果を検討した042試験。7月にリスク評価を開始したCHMPによると、前者では死亡者が8人(うちマラリアによるものが3人、敗血症が2人)、偽薬群は2人だけだった。後者はまだ進行中だが、死亡9人中、既に盲検期間が終了した8人はすべて試験薬群だった(うち4人はマラリアが死因/影響)。マラリアが多いのはアフリカの施設の組入れが多かったからだろう。

承認のエビデンスとなった第3相HOPE試験(偽薬対照パートの組入れは274人)では死亡者数の偏りは見られなかった。試験薬群の一死亡例はマラリアを発症し抗生剤の治療を受けた後に肝不全を合併したが、FDAの審査官は、この抗生剤の肝毒性が原因ではないかと審査文書でコメントしている。米国のレーベルの警告・事前注意事項は過敏反応とヘモグロビン検査値に影響すること程度で、特別なものはない。

ファイザーは自主回収について、at this timeと付記している。症例検討などを進めて死亡との関連性は低いと結論できるようなら、出荷を再開する考えなのだろう。CHMPも予備的な措置としている。

鎌状赤血球症ではノバルティスの抗Pセレクチン抗体Adakveo(crizanlizumab-tmca)が19~20年に米欧で承認されたが、EUは市販後薬効確認試験であるSTAND試験がフェールしたため承認取消となった。遺伝子治療分野では二製品が承認されているが、需要は伸び悩んでいるようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: EMAのプレスリリース(9/26付、承認停止勧告について)
リンク: FDAのアラート(9/26付、自主回収について)

【新薬開発】


JNJ、国際骨髄腫学会で多くの発表
(2024年9月27日発表)

IMS(国際骨髄腫学会)でジョンソン・エンド・ジョンソンの三剤の治験成績が発表された。まず、Legend Biotech(Nasdaq:LEGN)から共同開発販売権を取得したBCMA標的CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)、Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)。4月に欧米でlenalidomide抵抗性多発骨髄腫の2次治療に適応拡大した時のエビデンスであるCARTITUDE-4試験で全生存期間の解析が成功した。メジアン34ヶ月追跡で対照群(PVdレジメン(pomalidomide+bortezomib+dexamethasone)またはDPdレジメン(daratumumab+pomalidomide+dexamethasone)を施行)比のハザードレシオが0.55(95%信頼区間0.39-0.79)、30ヶ月生存率は各群76%と64%だった。CAR-Tの同様な試験で延命効果が確認されたのは初めて。承認審査機関に報告する考え。

リンク: 同社のプレスリリース

次に、Darzalex Faspro( daratumumab、hyaluronidase-fihj、和名ダラキューロ配合)の新患多発骨髄腫におけるMRD(微小残存病変)陰転作用を検討した第3相のCEPHEUS試験とAURIGA試験。前者は移植以外の当初治療を予定する患者を対象に、VRdレジメン(bortezomib+lenalidomide+dexamethasone)に追加する便益を検討したところ、全般的MRD陰転率(感度10万分の1)が60.9%とVRdだけの39.4%を有意に上回った。12ヶ月持続例だけでも48.7%対26.3%、もっと緩やかな奏効判定基準であるCRR(完全反応率)は81.2%対61.6%だった。この試験はPFS(無進行生存期間)も検討しており、ハザードレシオ0.57で有意、メジアン値は未達と52.6ヶ月だった。

多剤併用療法が実現しPFSが延びたのは朗報だが、新薬の効果を確認するのに必要な期間も延びており、代わりに用いられるCRRも標準療法の水準が上がりハードルが高まった。MRD陰転率はより少ない症例数でより短期間に便益を確認しうるサロゲート・マーカーとして、採用が増えていきそうだ。

AURIGA試験はASCT(自家幹細胞移植)でMRD陰性を達成しなかった患者の維持療法としてlenalidomideに追加する用法を検討した。12ヶ月時点のMRD陰転率(感度10万分の1)が50.5%とlenalidomideだけの群の18.8%を上回り、PFSのハザードレシオは0.53、30ヶ月PFS率は82.7%と66.4%だった。G3/4治療関連有害事象の発生率は74%対67.3%で、感染症や好中球減少症などが上回った。

リンク: 同(CEPHEUS試験)
リンク: 同(AURIGA試験)


アッヴィ、パーキンソン病薬の第3相がまた成功
(2024年9月26日発表)

アッヴィはtavapadonの第3相試験で主目的を達成したと発表した。TEMPO-1試験で早期パーキンソン病患者を偽薬、5mg、または15mgを一日一回、26週間経口投与して効果を比較したところ、 MDS-UPDRSのパートII(運動症状患者評価)とIII(同医師評価)の複合評価項目が各群+1.8、-9.7、-10.2増加し、二用量とも偽薬比有意な差があった。副次的なパートIIだけの検定も達成した。年内に一日用量を5~15mgの範囲で調整するTEMPO-2第3相早期パーキンソン病試験も開票する予定。

levodopa治療を受けてウェアリング・オフ症状が出てきた患者に追加投与したTEMPO-3試験は4月に成功した。ジスキネジアを伴わないオンタイムが1.7時間増加と、偽薬群の0.6時間増加を上回った。

Cerevel Therapeuticsを企業価値ベース87億ドルで買収して入手した開発品の一つ。主目的は統合失調症/アルツハイマー病でPOC中のポジティブ・アロステリック・ムスカリンM4受容体調節剤、emraclidineのようだ。

リンク: アッヴィのプレスリリース


ガザイバのループス腎炎試験が成功
(2024年9月26日発表)

ロシュは抗CD20抗体Gazyva(obinutuzumab)を活性期ループス腎炎の治療に当てた第3相REGENCY試験で主目的等を達成したと発表した。標準治療を受けている患者に追加投与したところ、76週完全腎反応(CRR)達成率が偽薬を統計的かつ臨床的に有意に上回った。副次的評価項目のCRR及びステロイド減量達成率や蛋白尿反応率の解析も成功した。適応拡大に向けて当局と協議している。

データは未公表だが、第2相では主評価項目の52週CRR達成率が35%、偽薬群は23%、72週時点では40%対18%だった。

リンク: ロシュのプレスリリース


アムジェン、二種類の自己免疫疾患第3相が成功
(2024年9月24日発表)

アムジェンは二種類の抗体の二種類の第3相試験が成功したと投資家・アナリスト向けウェブキャストで発表した。一つはポテリジェント技術を用いた抗OX40(CD134)抗体、rocatinlimab(AMG 451/KHK4083)のROCKET-Horizon試験。局所性治療に十分応答しないアトピー性皮膚炎の成人726人を日本を含む世界の施設で組入れてEASI75やIGA(FDA向けとEMA向けの二種類ある)などの変化を偽薬と比較したところ、どちらも有意に上回った。尤も、承認されている薬より効果が高いようには見えない。第3相は他に二用量並行群間比較試験などが進行中。活性化T細胞が発現するOX40に結合し免疫異常を抑制する抗体医薬で、21年に協和キリンからライセンスした。

もう一つはNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として承認されている抗CD19抗体、Uplizna(inebilizumab-cdon)の全身性重症筋無力症試験、MINT。AChRまたはMuSKに対する抗体を持つ患者238人を組入れて300mgを二週おいて2回投与し、第26週のMG-ADLを偽薬と比較したところ、各群4.2点と1.9点低下し、有意な差があった。AChR型とMuSK型の両方で便益が見られた。適応拡大申請に着手した。

リンク: ウェブキャスト用プレゼン・スライド(pdfファイル)


第一三共/アストラゼネカの抗体薬物複合体、肺癌に続き乳癌でも延命効果が確認されず
(2024年9月23日発表)

第一三共はアストラゼネカとともに抗TROP2抗体薬物複合体DS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)を開発し、欧米日本で承認申請中だが、エビデンスとなるべき第3相試験で肺癌に続き乳癌でも全生存期間の解析がフェ-ルした。どちらも実薬対照試験で、PFS(無進行生存期間)面では便益があり、重篤有害事象発生率が低いという長所もあるので、一概には言えないが、少なくとも承認のハードルが上がったとはいえるだろう。

この第3相3TROPION-Breast01試験はホルモン受容体陽性、her2低/陰性(IHC法で0/1、または2でISHは陰性)の手術不能/転移性乳癌で内分泌療法と一つ以上の全身性治療歴を持つ732人を組入れて、6mg/kgを3週毎点滴静注する群と化学療法(capecitabine、gemcitabine、eribulin mesylate、vinorelbineの中から医師が選択)を施行する群の転帰を比較した。共同主評価項目のうちPFSは各群のメジアン値が6.9ヶ月と4.9ヶ月、ハザードレシオは0.63となり成功した。この時点ではもう一つの全生存期間は未成熟であるもののハザードレシオは0.84と好ましい傾向が見られていたが、結局、有意水準に達しなかった。

類薬ではギリアド・サイエンシズのTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)が上記と同様だが一つではなく二種類以上の全身性治療歴を持つ患者に米国で昨年1月、EUでは7月に、適応拡大した。第3相TROPiCS-02試験で上記と同様な対照群比PFSハザードレシオが0.66、メジアン値の差は1.5ヶ月、全生存期間のハザードレシオは0.79、差は3.2ヶ月だった。どちらも効果がすごく大きいわけではないが、もしDS-1062が承認されなければ、大きな差が出る。

DS-1062は1~2次の全身性治療歴を持つ進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌でも承認申請中。TROPION-Lung01試験では扁平上皮腫も含む全体の解析でPFS(盲検独立中央評価)がdocetazel群を有意に上回ったが、共同主評価項目の全生存期間の中間解析がそれほどでもなかったためか、サブグループだけの申請となった。結局、全604人の解析はハザードレシオ0.94でフェールした、非扁平上皮腫468人の解析は0.84(95%信頼区間0.68-1.05)、1年生存率58.8%対52.8%と、悪くはないが諸手を上げて喜ぶほどではなかった。因みに、Trodelvyの類似した第3相はフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース


Biohaven、脊髄小脳失調症用薬の長期試験が成功
(2024年9月23日発表)

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)はBHV-4157(troriluzole)の第3相206-RWE試験で脊髄小脳失調症(SCA)の進行を5~7割抑制したと発表した。24年内に米国で承認申請する考え。

活性成分は95~98年に米欧日で筋萎縮性側索硬化症用薬として承認されたriluzoleのプロドラッグで、グルタミン酸伝達経路を阻害し神経保護作用を発揮すると考えられている。第3相206試験に200人超を組入れて200mgを一日一回、48週間経口投与する便益を偽薬と比較したところ、主評価項目のf-SARA(modified functional Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)がベースラインの4.9点から5.1点に上昇と良好だったが、偽薬群も5.2点と大差なかったためフェールした。同社は群間差が比較的大きかったSCA3型のサブグループに限定して23年に米国で承認申請したが受理されなかった。

今回の試験は206試験の盲検期間とその後のオープン・レーベル延長投与期間合わせて3年間の追跡データを、米国の自然歴(Clinical Research Consortium for SCAのデータ)とPSM(傾向スコア・マッチング)方式で比較したもの。f-SARAの上昇が自然歴の50%と有意に小さかった。プレスリリースのグラフを見ると、troriluzole群は0.8点くらい上昇、対照群は1.6点くらい上昇となっている。

長期試験なので解析対象はベースラインの101人から3年後には61人に減少、自然歴は202人から43人に減少となっている。サバイバル・バイアスのチェックが必要だろう。

米国外の承認申請を考慮して欧州の自然歴(EUROSCAベース)との比較も実施したところ、70%小さかった。グラフ読み取り値はtroriluzole群が0.6点位上昇、対照群は2.4点位上昇、試験薬群の症例数は85人から54人に減少、対照群は170人から112人に減少している。

偽薬対照試験の長期追跡データを自然歴と比較というかなり荒っぽいやり方なので、FDAは妥当性を細かくチェックするだろう。

Biohavenは22年にファイザーが買収したが、目的である片頭痛用薬以外の事業はBiohavenとしてスピンアウトされた。

リンク: 同社のプレスリリース


アベクマの新患多発骨髄腫試験が不人気中止に
(2024年9月25日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブと2seventy bio(Nasdaq:TSVT)は、BCMA標的CAR-T療法薬Abecma(idecabtagene vicleucel)の第3相KarMMa-9試験の組入れを打ち切ると発表した。開始から1年近く経っても組入れが目標618人の1割程度しか進んでいないため。2seventy bioは臨床試験費用を8000万ドル節約できることを明らかにした。

Abecmaは二種類以上の治療薬を経験済みの多発骨髄腫などに米欧日などで承認されている。今回の試験は、新患多発骨髄腫の成人で自家幹細胞移植を受けたが完全奏効に至らず、部分奏効/最良部分奏効に留まった患者を組入れて、lenalidomeによる維持療法と併用する便益を検討した。不人気の理由は、このような患者の治療が多剤、長期投与化して、完全奏効率が向上したことなどである模様。要するに、医療が進歩してこの試験に参加する必要のない患者が増えたわけだ。

リンク: 2seventyのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース


MSDも大腸癌のPD-1・LAG-3デュアル・ブロック試験がフェール
(2024年9月25日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)と抗LAG-3(lymphocyte activation gene-3)抗体MK-4280(favezelimab)の合剤を転移結腸直腸癌(CRC)の治療に用いた第3相KEYFORM-007試験がフェールしたと発表した。KeytrudaはMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)/dMMR(ミスマッチ修復欠損)の転移CRCの再発治療に承認されているが、この試験はマイクロサテライト安定性で前治療歴を持つCRC患者を日本も含む世界の施設で組入れて、全生存期間を医師が選んだ薬(regorafenibまたはtrifluridine/tipiracil合剤)と比較したもの。

BMSの抗PD-1抗体・抗LAG-3抗体合剤、Opdualag(nivolumab、relatlimab-rmbw)の類似した第3相であるRELATIVITY-123も昨年12月に無益中止が発表されており、再現された格好。

MSDの合剤は古典的ホジキン型リンパ腫のサルベージ療法としての便益を医師が選んだ薬(bendamustineまたはgemcitabine)と比較する第3相008試験も進行中。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、胃癌などにおけるPD-L1要件厳格化を支持
(2024年9月26日発表)

FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、抗PD-L1抗体の胃・食道癌一次治療における適応をPD-L1陽性に限定することについて意見を効いた。殆どの委員が陰性患者を適応とするのは妥当ではないと判定したため、承認内容の見直しが行われるだろう。EUにおける適応範囲や診断・治療ガイドラインとの整合性が高まることになる。

俎板に上がったのはBMSのOpdivo(nivolumab)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)、そしてBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)が承認申請中のtislelizumabの、her2陰性、マイクロサテライト安定性の進行胃/胃食道接合部腺腫の一次治療化学療法併用に関する治験成績と、これらの抗PD-1抗体及びBMSのYervoy(ipilimumab、Opdivoと併用する)の、切除不能食道扁平上皮腫一次治療併用試験成績。何れも全生存期間が化学療法だけより向上したが、ハザードレシオはPD-L1発現度が高いほど低くなる(効果が高い)傾向が見られた。

FDAは複数の試験で再現されたことから、今回、適応縮小の検討を始めた。FDAの分析によると、PD-L1発現が1以上のサブグループと1未満のサブグループのおけるハザードレシオは、胃/胃食道接合部腺腫では、Opdivoの649試験では0.76と0.92、Keytrudaの859試験では0.73と0.92、tislelizumabの306試験では0.78と0.98だった。諮問委員会では、PD-1阻害剤をPD-L1発現が1未満の進行her2陰性マイクロサテライト安定性胃/胃食道接合部腺腫の一次治療に用いる便益は危険を上回るかという質問に対して、YESが2名、NOが10名、棄権1名と多数が否定した。

食道扁平上皮腫でPD-L1が1未満なのは1割程度でサンプル数が少ないが、同様な傾向が見られる。諮問委員会では、抗PD-1抗体をPD-L1発現が1未満の切除不能、転移食道扁平上皮腫の一次治療に用いる便益は危険を上回るかという質問に対して、YESが1名、NOが11名、棄権1名と再び多数が否定した。尚、設問の語彙がやや異なる理由は不明。

閾値は1より10のほうが点推定値の違いが明確になり、サンプル数が増え信頼度が向上するように感じられるが、FDAは1を閾値にする考えのようだ(発現検査の内容や閾値は会社により、疾病により区々なので最終決定がどうなるかは分からないが)。

欧米の適応範囲は「よきに計らえ」部分が少なく併用薬も列記されるのが一般的だが、臨床試験の組み入れ、除外条件と比べてどの程度適応を広げるかは裁量の余地がある。上記適応に関してEUは初めからPD-L1陽性に限定しており、学会のガイドラインもPD-L1発現度に応じてエビデンス・レベル(推奨強度)を変えているようだ。医療現場ではPD-L1陰性患者に施行する例は多くない模様なので、今回の事件は、FDAの当初のレーベルが気前良すぎただけと受け止めることもできるだろう。

リンク: FDAの諮問委員会資料開示ページ
リンク: BeiGeneのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

【承認】


デュピクセントが好酸球性COPDに適応拡大
(2024年9月27日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、FDAが抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を成人の好酸球性COPDの維持療法として承認したと発表した。他の薬で治療しても管理不良な患者に追加投与する。第3相試験二本で急性中重度COPD増悪が偽薬比30~34%少なかった。この用途でバイオ薬が承認されたのは初めて。EUでは7月に承認、日本でも一変申請中。

リンク: 両社のプレスリリース


新規冠動脈トレーサーが承認
(2024年9月27日発表)

FDAはGEヘルスケアのFlyrcado(flurpiridaz F 18)を成人の冠動脈疾患(疑い例も含む)のPET検査補助薬として承認した。臨床試験二本で、動脈の50%以上狭窄を判定する感度が一本では74-89%(3人の評価者の成績のレンジ、以下同じ)、もう一本では63~77%だった。特異度は夫々53~70%と66~86%だった。有害事象は息切れ、頭痛、狭心症、共通、疲労、STセグメント変化など

リンク: FDAのプレスリリース


画期的作用機序の統合失調症薬が承認
(2024年9月26日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのCobenfy(xanomeline、trospium chloride)を成人の統合失調症急性期治療薬として承認した。非定型向精神薬はD2ドパミン受容体を阻害するものが多いが、xanomelineはムスカリンM1受容体を作動してアセチルコリンを抑制したり、M4受容体を作動してGABAを増強したりすることで間接的にドパミンを減少する、画期的な作用機序を持つ。trospiumは過活動膀胱薬として承認されている末梢作用性ムスカリン受容体アンタゴニストで、M1作動による末梢性有害事象を緩和する意図のようだ。

第3相試験二本では、第5週PANSS総スコアが偽薬修正後で8~10点改善した。有害事象警告事項は尿貯留、心拍数増加、胃運動性低下、顔や唇における血管浮腫など。中度以上の腎障害や肝障害を持つ患者には適さない。非定型向精神薬のレーベルには高齢認知症併発患者に投与すると死亡リスクが高まるという共通枠付き警告が記されているが、Cobenfyにはない。報道によると、価格は30日分が1850ドルと、競合ブランド薬と同水準に設定される模様。

イーライリリーにおける同剤の開発担当者が創業したKaruna Therapeuticsを3月に140億ドルで買収して入手したもの。

リンク: FDAのプレスリリース


タグリッソが化学放射線療法後の維持療法に適応拡大
(2024年9月25日発表)

FDAはアストラゼネカのTagrisso(osimertinib)を非小細胞性肺癌の治癒的化学放射線療法後維持療法に用いることを承認した。EGFRにエクソン19欠損またはエクソン21-L858変異を持つ、ステージIIIの切除不能癌が適応になる。80mgを一日一回、経口投与した第3相LAURA試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン39.1ヶ月と偽薬群の5.6ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.16だった。全生存期間の解析は未成熟で、偽薬群は進行後に8割がTagrissoにクロスオーバーしたため単純な比較はできなくなっているが、今年のASCOで発表されたハザードレシオは0.81(95%信頼区間00.42-1.56)と好ましい方向を指している。G3以上の有害事象発生率は35%対12%で高かった。

TagrissoはEGFR変異非小細胞性肺癌の様々な段階における治療薬として承認されている。今回の適応は日本でも承認申請中。

リンク: FDAのプレスリリース


またまたNPC用薬が承認
(2024年9月24日発表)

FDAは、米国テキサス州オースチンの新興医薬品開発会社、IntraBioのAqneursa(levacetylleucine)を体重15kg以上の小児と成人のNPC(ニーマン・ピック病C型)治療薬として承認した。35kg以上の場合、朝は2g、昼は1g、夕は1gを水、オレンジジュース、またはミルクに混ぜて服用する。臨床試験では第12週のfSARA(運動失調評価尺度の全5ドメインのうち4ドメインの複合評価項目)が偽薬比有意に低下した。

ニーマン・ピック病は酸性スフィンゴミエリナーゼが欠損するA型、B型と、NPC1またはNPC2蛋白の異常によって起こるC型に分類される。米国ではC型の治療薬が承認されていなかったが、今月はZevra Therapeutics(NasdaqGS:ZVRA)のMiplyffa(arimoclomol)も2歳以上の患者に承認された。

リンク: FDAのプレスリリース


UCB、ビンゼレックスが3疾患に適応拡大
(2024年9月23日発表)

UCBは抗IL-17A/F抗体Bimzelx(bimekizumab-bkzx)が米国で適応拡大したと発表した。21~23年に欧日米で成人の中重度プラク乾癬に承認されたが、今回、成人の、活性期の、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、そして乾癬性関節炎に用いることが承認された。乾癬は160mgを一度に二回ずつ皮下注するが、他の適応は160mg一回皮下注を4週毎に反復する。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
24/10/8BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法)
24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
諮問委員会
24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)



今週は以上です。

2024年9月22日

第1073回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アセンディス、週一回型軟骨骨無形成症用薬を承認申請へ 
  • ESMO: ニュベクオのmHSPC二剤併用試験が成功 
  • ESMO:カボザンチニブのmCRPC試験で延命効果は確認されず 
  • ESMO:イミフィンジが筋層浸潤膀胱癌の術前術後に有効 
  • ESMO:キイトルーダの第3相試験三本 
  • ESMO:インサイト、抗PD-1抗体が肛門がんに有効 
  • ESMO:taletrectinibを年内に承認申請へ 
  • Vandaのtradipitantはやはり承認されず 
  • CHMP、卵巣癌用抗体薬物複合体などの承認を支持 
  • 米国初のニーマン・ピック病C型用薬が承認 
  • フルミストの自己点鼻が承認 
  • サークリサが一次治療に適応拡大 
  • ヤンセンのアミバンタマブが適応拡大 
  • ファセンラもEGPAに適応拡大 
  • ノバルティスのCDK4/6阻害剤が早期乳癌に承認 
  • キイトルーダが悪性胸膜中皮腫に承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アセンディス、週一回型軟骨骨無形成症用薬を承認申請へ
(2024年9月16日発表)

デンマークのアセンディス・ファーマ(Nasdaq:ASND)はTransCon CNP(navepegritide)のApproaCH試験で主目的を達成したと発表した。2~11歳の軟骨無形成症患者84人を100mcg/kgを週一回皮下注する群と偽薬群に2対1割付けしてAGV(身長の年率成長ベロシティ)を比較したところ、試験薬群は5.89cm/年、偽薬群は4.41cm/年となり、群間差は1.49cm/年、p<0.0001だった。この年代の人たちの平均成長速度を上回る、キャッチアップ現象が見られたようだ。5歳未満では群間差が1.02cm、5歳以上では1.78cmだった。忍容性は注射箇所反応が0.41/人年の率で発生したがそれほど多くはない。血圧低下作用は見られなかった由。

同社は天然のペプチドの半減期を延長するMPEG(methoxypolyethylene glycol)化技術を開発、これまでに成長ホルモン薬と副腎皮質ホルモン薬を実用化した。軟骨無形成症治療薬はバイオマリンの一日一回皮下注用CNP(C型ナトリウム利尿ペプチド)、Voxzogo(vosoritide)が21~22年に欧米日で承認されたが、アセンディスの開発品はMPEG化CNPを一週間分まとめて皮下注できる。効果は大きな違いがあるようには見えない。

Voxzogoの適応年齢はEUは2歳以上だが米国では制限がなく、レーベルには体重3kg時の用量も記載されている。投与実績下限は4.4ヶ月児のようだ。TransConも米国で年齢制限が課されないか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


ESMO: ニュベクオのmHSPC二剤併用試験が成功
(2024年9月16日発表)

ESMOでバイエルの非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニスト、Nubeqa(darolutamide)の第3相ARANOTE試験の成績が発表された。アンドロゲン枯渇療法を受けるmHSPC(転移性ホルモン感受前立腺癌)の新患669人を600mgまたは偽薬を一日二回経口投与する群に2対1割付けしてrPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)を比較したところ、ハザードレシオが0.54と有意なリスク抑制効果が確認された。全生存期間の解析は未成熟だがハザードレシオは0.81と望ましい方向を指している。治療時発現有害事象による治験の離脱率は各群9%と6.1%だった。用法追加申請に向かう考え。

Nubeqaは米欧日でnmCRPC(非転移性去勢抵抗性前立腺癌)や新患mHSPCにアンドロゲン枯渇療法だけでなくdocetaxelも併用する用法に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


ESMO:カボザンチニブのmCRPC試験で延命効果は確認されず
(2024年9月15日発表)

ESMOでExelixis(Nasdaq:EXEL)のVEGFR拮抗剤Cabometyx(cabozantinib)とロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)を骨盤外軟部組織疾患を伴うmCRPC(転移去勢抵抗性前立腺癌)の治療に用いたCONTACT-02試験の最終全生存解析の結果が発表された。近年の新しいアンドロゲン受容体アンタゴニスト(abiraterone、apalutamide、darolutamideまたはenzalutamide)のうち一剤による治療歴を持つ患者を組入れて、上記二剤の併用群とabirateroneまたはenzalutamideにスイッチする群の効果を比較したところ、共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.64で有意、各群のメジアン値は6.3ヶ月と4.2ヶ月、となった。しかし、全生存期間のハザードレシオは0.89、p=0.30、メジアン値は14.8ヶ月と15.0ヶ月、となりフェ―ルした。G3/4治療時発現有害事象が各群48%と23%の患者で発生したことや費用を考えると、実薬と同程度なら悪くない、とは言い難い。

両社は提携して複数の併用試験をロンチしたが、これまでのところ、思わしい成果は上がっていない。今回の成績はプロにとっても微妙なようで、Exelixisは適応拡大申請する考えを明らかにしたが、欧州などの権利を持つイプセンは見送ると発表した。

リンク: Exelixis のプレスリリース
リンク: イプセンのプレスリリース


ESMO:イミフィンジが筋層浸潤膀胱癌の術前術後に有効
(2024年9月15日発表)

アストラゼネカの抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相NIAGARA試験の成績がESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された。筋層浸潤膀胱癌の全摘出術の前にgemcitabine及びcisplatinのレジメンに追加し、術後に単剤投与する効果を検討したオープン・レーベル試験で、主評価項目のEFS(無イベント生存期間)のハザード・レシオが0.68、統計的に有意、メジアン値は未達だが2年EFS率推定値は67.8%とgemcitabine及びcisplatinだけの群の59.8%を上回った。副次的評価項目の全生存期間はハザード・レシオ0.75、有意、2年生存率推定値82.2%と75.2%だった。

この適応ではOpdivo(nivolumab)を術後に投与することが欧米などで承認されている。臨床試験ではDFS(無病生存期間)のハザード・レシオが0.70、PD-L1陽性(≧1%)のサブグループでは0.55だった。また、Keytruda(pembrolizumab)の第3相AMBASSADOR/KEYNOTE-123試験も昨年10月に共同主評価項目のうちDFSの中間解析が成功した。但し、全生存期間の数値は未成熟とは言え好ましくないほうを向いている。

単純なアジュバント試験と比べるとNIAGARA試験は考え方は単純だが解釈は複雑で、むやみに投与することが過剰治療にならないか、議論の余地がある。術後投与だけでは足りないのか?pCR(病理学的完全反応)を達成した患者にも術後投与すべきか?pCRを達成しなかった患者に術後投与するのは如何なものか?それともpCRにはあまり拘らないほうが良いのか、などなどである。

今後開票するであろう他の抗PD-(L)1抗体のデータと見比べて悩み続ける必要がありそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ESMO:キイトルーダの第3相試験三本
(2024年9月14、15日発表)

ESMOでMSDのKeytruda(pembrolizumab)の第3相試験成績が幾つか発表されたが、三本だけ取り上げる。一つはエーザイとの共同開発提携プロジェクトの一つ、LEAP-012試験。切除不能非転移性肝細胞腫のTACE(経動脈化学塞栓術)に際してKeytrudaとエーザイのVEGFR拮抗剤Lenvima(lenvatinib)を併用する便益を検討した無作為化割付け偽薬対照二重盲検試験で、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が14.6ヶ月と偽薬二剤併用群の10.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.66で統計的に有意だった。共同主評価項目の全生存期間は未成熟だが、ハザードレシオ0.8、p=0.0867と好ましい方向を指している。忍容性面ではG3以上の治療時発現有害事象の発生率が71.3%対31.1%と大きく増加し、うち試験薬群は4人(1.7%)、偽薬群は1人(0.4%)が死亡した、

リンク: MSDとエーザイのプレスリリース(9/14付)

KEYNOTE-811試験はher2陽性の進行胃/胃食道接合部腺腫の一次治療として化学療法と抗her2抗体trastuzumabのレジメンにKeytrudaを追加する便益を検討したもので、今回、全生存期間の解析結果が公表された。Intent-to-treatベースではハザードレシオ0.80、p=0.004、メジアン値は20.0ヶ月対16.8ヶ月、PD-L1陽性(CPS≧1)サブグループでは各0.79、20.1ヶ月、15.7ヶ月だった。

米国では、この試験のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が中間解析で74%と偽薬追加群の52%を上回り反応の持続性も良好であったため、21年に加速承認された。しかし、その後、PD-L1陽性(CPS≧1)のみに適応縮小され、EUでもこの範囲しか承認されなかった。主評価項目のPFS解析でPD-L1陽性にしか便益が見られず、陰性例ではハザードレシオ1.4と好ましくない方向を指していたためだ。陰性は症例数が少ないので誤差範囲が広く、全生存期間の解析がどうなるか注目されたが、プレスリリースでは言及されていない。

リンク: MSDのプレスリリース(9/14付)

KEYNOTE-522試験は未治療の高リスク早期トリプル・ネガティブ乳癌における術前化学療法レジメンにKeytrudaを追加し、術後にも9回、単剤投与する効果を偽薬と比較したもので、主評価項目のpCR(病理学的完全反応率)とEFS(無イベント生存期間)を達成、21~22年に米欧で適応拡大が認められた。今回、全生存期間のアップデートが行われた。メジアン75ヶ月追跡で、ハザードレシオ0.66(95%信頼区間0.50-0.87)、5年生存率推定値は86.6%対81.7%で5ポイント程度上回った。PD-L1発現を問わず便益が見られた。

リンク: MSDのプレスリリース(9/15付)


ESMO:インサイト、抗PD-1抗体が肛門がんに有効
(2024年9月14日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は抗PD-1抗体Zynyz(retifanlimab-dlwr)の第3相3POD1UM-303/InterAACT2の結果をESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表した。全身性化学療法歴のない手術不能局所再発/転移性の肛門管扁平上皮癌(SCAC)を組入れて、carboplatinとpaclitaxelの標準的療法にZynyzを追加する群と偽薬追加群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較したところ、ハザードレシオ0.63、p=0.0006、メジアン値は各群9.3ヶ月と7.4ヶ月となった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟だがハザードレシオ0.70、メジアン値は29.2ヶ月と23.0ヶ月で好ましい方向を向いている。年内に適応追加申請する考え。

SCACは元々、Zynyzのリード・インディケーションで、21年に二次治療向けに加速承認を申請したが、第2相試験のORR(客観的反応率)だけでは挙証不十分と判定され、審査完了通知を受領。EUでも同様な評価を受け、条件付き承認の申請を撤回した経緯がある。その後、23~24年に、米欧で転移/難治局所進行メルケル細胞腫用薬として加速/条件付き承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


ESMO:taletrectinibを年内に承認申請へ
(2024年9月14日発表)

Nuvation Bio(NYSE:NUVB)はESMOでROS1/NTRK阻害剤taletrectinibの第2相ROS1融合陽性進行非小細胞性肺癌試験二本のプール分析結果を発表した。中台の権利を導出したInnovent Biologicsの中国試験、TRUST-Iと日韓中米などの施設で実施したTRUST-IIの合計で、チロシン・キナーゼ治療歴のない160人ではcORR(確認無進行生存期間、独立放射線学的評価)が89%、メジアン反応持続期間は44.2ヶ月、crizotinibまたはentrectinibによる治療歴を持つ113人では各56%と16.6ヶ月だった。同薬は中枢神経浸透性を持ち、脳転移のある32人中66%で頭蓋内cORRが認められた。

G3以上の有害事象は肝機能検査値異常や下痢、悪心など。治療時発現有害事象による離脱は7%、用量減量は29%で発生した。

同薬は同社が3月に子会社化したAnHeart Therapeuticsが18年に第一三共から権利を取得して開発を進めたもの。TRUST-I試験に基づき中国で昨年11月に承認申請された。日本市場は日本化薬が昨年10月にライセンスした。

リンク: Nuvationのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Vandaのtradipitantはやはり承認されず
(2024年9月19日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq: VNDA)はNK1阻害剤tradipitantを胃麻痺治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加試験を求められた模様だ。第3相はフェールしたので意外ではない。

イーライリリーから2012年にライセンスし、NK1阻害剤の典型的な用途である化学療法誘導性悪心嘔吐の治療・予防とは異なった疾患にPOC試験を進めてきた。胃麻痺は第2相で85mgを一日二回、4週間に亘って経口投与したところ悪心の重症度スコアに偽薬比有意な差が見られ、第3相に進んだが、薬効確認期間が4週間ではなく12週間であることを除けば似たようなデザインなのに主評価項目も、副次的評価項目の無悪心日数も、フェールした。会社側は、コンプライアンスに基づく修正値などの解析に着目して承認申請を断行したが、今回も、FDAの審査を批判するプレスリリースを出す結果になった。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


CHMP、卵巣癌用抗体薬物複合体などの承認を支持
(2024年9月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

アッヴィのElahere(mirvetuximab soravtansine)は葉酸受容体に結合する抗体とDM4微小管阻害剤をリンカーで結合した抗体薬物複合体(ADC)。1~3次の全身性治療歴を持つ成人の葉酸受容体アルファ陽性、白金抵抗性のハイグレード漿液上皮性卵巣癌、卵管癌、原発性腹膜癌に単剤投与する。MIRASOL試験でPFS(無進行生存期間、治験医評価)のメジアン値が5.6ヶ月と医師が選んだ薬(paclitaxelなど)を投与した群の3.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.65だった。副次的評価項目の全生存期間もメジアン16.4ヶ月対12.7ヶ月、ハザードレシオ0.67だった。米国では22年に加速承認、今年3月に本承認。

2月にImmunoGenを企業価値ベース101億ドルで買収して入手した。日本は武田薬品が昨年8月に権利取得。

リンク: EMAのプレスリリース

中国のShanghai Henlius Biotech(2696.HK)のHetronifly(serplulimab)は抗PD-1抗体。 初めて全身性治療を受ける成人の進展型小細胞性肺癌にcarboplatin及びetoposideと併用する。中国など6ヶ国で585人を組入れたASTRUM-005試験の中間解析でメジアン生存期間が15.4ヶ月と偽薬を併用した群の10.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63だった。G3以上の治療関連有害事象の発生率は各群33.2%と27.6%。

中国では4適応症で承認。米国で同疾患の既存薬ブリッジング試験中。グローバル転移結腸癌直腸癌試験も進行中で日本でも治験認可が下りた。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのHympavzi(marstacimab)は抗TFPI(tissue factor pathway inhibitor)抗体。年齢12歳以上、体重35kg以上の小児と成人の、インヒビターを持たないA型・B型血友病のルーチン出血予防に用いる。米日でも承認申請中。類薬ではノボ ノルディスクのアレモ(コンシズマブ
持)が日本でインヒビターの有無を問わず承認されているが、米国は、昨年、審査完了通知を受領した。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのPenbrayaは5価髄膜炎菌ワクチン。10歳以上の人のA、B、C、W、Y群髄膜炎菌による侵襲性疾患を予防する。ABWY群とC群のワクチンはあるが5価ワクチンは初。米国では昨年10月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

Eckert & Ziegler Radiopharma GmbHのTheralugand(lutetium (177Lu) chloride)は放射性核種。EMAのプレスリリースには適応が明記されていない。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も肯定的意見を得た(対象年齢拡大は割愛)。

  • Janssen-Cilag InternationalのDarzalex(daratumumab、hyaluronidase):自家造血幹細胞移植適合のフロントライン多発骨髄腫にbortezomib、lenalidomide、dexamethasoneと併用。欧州では点滴静注用製剤も皮下注用製剤も同一商品名なので分かり難いが、ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリースによると、皮下注用製剤に関わるもの。

  • アストラゼネカのFasenra(benralizumab):成人の再発/難治EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)。米国では今月承認(下記)。

  • MSDのKeytruda(pembrolizumab):再発リスクの高い新患子宮頸癌の同時化学放射線療法に追加と、原発性進行/難治内膜腫の一次治療に追加。米国では各、今年1月と6月に承認。

  • また、24/25年シーズン向けCOVID-19 mRNAワクチンも肯定的意見を得てEMAに承認された。モデルナのSpikevaxはJN.1系統、Comirnatyは6月のJN.1系統に続きKP.2系統ワクチンも支持された。尚、この二製品はこれまで一般名が付与されていたが、少なくともSpikevax(JN.1)の添付文書には記されておらず、いちいち命名しない方針に変わったのかもしれない。

    否定的意見となったのはApellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)が加齢性黄斑変性による地図状萎縮の治療薬として承認申請したSyfovre(pegcetacoplan)。今年1月にCHMPが否定的意見を纏めたが、3月に欧州司法裁判所控訴審が別件(注1)に関して示した判断を受けて審査やり直しとなり、6月に再び否定的意見、再審査を経て再び否定的意見を纏めた。臨床試験で病変の拡大を抑制したが日常生活機能を改善する効果が確立していないことや安全性などが理由。米国では21年に承認された。臨床的な便益が確立していないこと

    (注1:EMAがHopveus(sodium oxybate)をアルコール依存治療薬として承認しなかったためフランスのDebrégeas et associés Pharma SASが提訴した事案で、上訴審が原審を覆し、科学的諮問グループのメンバーの利益相反に関するEMAの判断などを手続法違反と認定した。その後、EMAは他の該当する案件もやり直したため、Syfovraのほかにエーザイ/バイオジェンのアルツハイマー病用薬Leqembi(lecanemab)やPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬Translarna(ataluren)の審査手続きが遅延した。)

    CHMPが懐疑的で申請撤回に至ったのは二件。アッヴィのDurysta(bimatoprost)は開放隅角緑内障治療薬をインプラント化したもの。CHMPは不可逆的な角膜上皮細胞喪失のリスクや、インプラントは生分解性だが5年経っても完全消失しないこと、薬剤の品質などを危惧していた。

    ロシュはIMbrave050試験に基づき早期肝細胞腫の治癒的切除/焼灼術後補助療法としてTecentriq(atezolizumab)とbevacizumabを併用する適応拡大申請を行ったが、撤回した。死亡者数が観察群をやや上回ったことがネックとなった。全生存期間の解析が成熟しハザードレシオが1を上回らなくなれば、再申請の可能性もあるだろう。

    【承認】


    米国初のニーマン・ピック病C型用薬が承認
    (2024年9月20日発表)

    FDAはZevra Therapeutics(NasdaqGS:ZVRA)のMiplyffa(arimoclomol)を2歳以上のニーマン・ピック病C型(NPC)患者における神経学的症状の治療薬として承認した。miglustatと併用する。

    ヒート・ショック・プロテイン増幅作用を持つがNPCにおける作用機序は明確ではない。デンマークのOrphazyme社が第2/3相試験に2~19歳の患者50人を組入れてNPC CSS(Niemann-Pick Disease Type C Clinical Severity Scale)のうち歩行、構語、認知、微細運動、咀嚼の5ドメインの悪化抑制を試みたがフェールした。20年に承認申請を断行したが、米国では審査完了通知を受領、EUではCHMPが否定的意見を出しそうになり申請を撤回、経営破綻に至った。Zevraは事業を買収してFDAと相談を進め、上記5ドメインのうちノイズの影響を受けやすい認知を除外し咀嚼を調整した4ドメインの再分析や4年安全性データなどを用いて昨年12月に再申請した。今年8月には新設されたGeMDAC(遺伝性代謝性疾患用薬諮問委員会)で16人中11人が便益があると判定した。FDAは被験者の8割弱を占めたmiglustat服用サブグループに限定して承認した。

    治験成績は、miglustat服用サブグループの4ドメインNPC CSSがベースライン値の8.9点から1年後に0.2点低下、偽薬群は7点から1.9点増加したため、治療効果は-2.2点で統計的に有意。主な有害事象は過敏反応や胎毒性。

    尚、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤miglustatはアクテリオンがゴーシェ病用薬Zavescaとして発売し、日欧でNPCに適応拡大したが米国では承認されず断念した。つまり、Miplyffaは未承認薬と併用する苦心の用法となっている。

    リンク: FDAのプレスリリース


    フルミストの自己点鼻が承認
    (2024年9月20日発表)

    アストラゼネカはFDAが医療従事者以外がFluMistを投与することを承認したと発表した。オンラインで購入し、18~49歳は自分自身で、2~17歳は保護者や介護者が、点鼻投与する。米国はワクチンも保険還付の対象となっており、薬局で接種できる場合もあるためハードルが低いが、更に下がることになる。

    Flumistはインフルエンザの低温適合弱毒生ワクチン。米国で03年に、EUでは11年に、日本では23年に承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    サークリサが一次治療に適応拡大
    (2024年9月20日発表)

    FDAはサノフィの抗CD38抗体Sarclisa(isatuximab-irfc)を成人の移植不適な新患多発骨髄腫に適応拡大した。bortezomib、lenalidomide、及びdexamethasoneと4剤併用する。PFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)をSarclisa以外の3剤併用と比較したIMROZ試験の中間解析で、ハザードレシオが0.60、統計的に有意だった。G5治療時発現有害事象の頻度は11.0%と対照群の5.5%を上回ったが、曝露期間が長いことを補正した値はむしろ若干低かった。日欧でも適応拡大申請中。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ヤンセンのアミバンタマブが適応拡大
    (2024年9月19日発表)

    FDAはジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen BiotechのRybrevant(amivantamab-vmjw)をEGFRにエクソン19欠損またはエクソン21 L858R置換を持つ局所進行性/転移非小細胞性肺癌の治療に適応拡大した。EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持つ患者にcarboplatin及びpemetrexedと3剤併用する。Tagrisso(osimertinib)歴を持つ患者を組入れたMARIPOSA-2試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン6.3ヶ月とcarboplatin及びpemetrexedだけを投与した群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.48、p<0.0001だった。副次的評価項目の全生存期間は第2次中間解析でメジアン17.7ヶ月、対照群は15.3ヶ月、ハザードレシオは0.73で名目p値は0.039。

    この試験では同社のEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤Lacluze(lazertinib)と4剤併用する群も設定され、メジアンPFSは8.3ヶ月、2剤併用対照群比ハザードレシオは0.44と良好な成績を上げたが、承認申請はされていないようだ。昨年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)で発表された全生存期間のハザードレシオが0.96(95%信頼区間0.67-1.35)とパッとしなかったことが影響したのかもしれない。尚、同時点の3剤併用群のハザードレシオは0.77(同0.49-1.21)と、第2次中間と大差ない水準に収まっている。

    RybrevantはEGFRとMETに結合する二重特異性抗体。これまでの適応は、EGFRにエクソン19欠損またはエクソン21 L858R置換を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌では一次治療にLacluze(lazertinib)と2剤併用、EGFRエクソン20挿入変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌では一次治療にcarboplatin及びpemetrexedと併用または白金ベース化学療法に不応再発後に単剤投与。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: JNJのプレスリリース


    ファセンラもEGPAに適応拡大
    (2024年9月18日発表)

    アストラゼネカはFDAがFasenra(benralizumab)を難治再発性EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)に適応拡大したと発表した。IL-5受容体アルファ鎖を標的とするポテリジェント抗体で、この適応取得は類薬であるGSKのNucala(mepolizumab)に次ぐ二番手。直接比較試験で喘息症も併発する、経口コルチコステロイドに応答不十分な患者を組入れた試験で、寛解率(36週と42週にステロイドの用量がprednisolone/prednisone換算で4mg/日以下、且つ、BVAS(Birmingham Vasculitis Activity Score)がゼロ)が59%となりmepolizumab群の57%と非劣性だった。また、41%の患者がステロイドを中止できた(mepolizumab群は26%)。この試験でFasenraは30mg/mLを4週毎皮下注した。mepolizumabは100mg/mLの3回皮下注を4週毎に反復した。

    Fasenraは17~18年に米日欧で重度好酸球性喘息症用薬として承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ノバルティスのCDK4/6阻害剤が早期乳癌に承認
    (2024年9月17日発表)

    FDAはノバルティスのCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)を再発リスクの高いホルモン受容体陽性、her2陰性のステージII/III乳癌のアジュバント療法に承認した。アロマターゼ阻害剤と併用する。第3相NATALEE試験で一日一回経口投与を21日間繰り返し7日間休むスケジュールで最大3年間治療したところ、iDFS(無侵襲性疾患生存期間)のハザードレシオが0.749(95%信頼区間0.628-0.892)、3年iDFS率推定値は90.7%で内分泌療法薬だけの群の87.6%を上回った。特徴的な有害事象は好中球減少症、肝臓関連有害事象、QT間隔延長、間質性肺疾患/肺臓炎など。

    類薬ではイーライリリーのVerzenio(abemaciclib)も同様な早期乳癌に承認されているが、Kisqaliはリンパ節転移の無い患者も適応になっている。

    Kisqaliは17年に米欧でホルモン受容体陽性、her2陰性閉経後転移性乳癌に承認された、日本での開発は中止されたようだ。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: ノバルティスのプレスリリース


    キイトルーダが悪性胸膜中皮腫に承認
    (2024年9月17日発表)

    FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を切除不能進行/転移悪性胸膜中皮腫に適応拡大したと発表した。化学療法による一次治療に追加した第2/3相KEYNOTE-483試験でメジアン生存期間が17.3ヶ月と化学療法だけの群の16.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.79、p値はレーベルによると0.0162、Lancetに掲載された治験論文によると0.0324(両側)だった。事前に計画された探索的サブグループ分析によると、上皮型345人のハザードレシオが0.89であったのに対して、非上皮型95人では0.57(95%信頼区間0.36-0.89)、メジアン生存期間は12.3ヶ月と8.2ヶ月だった。

    リンク: FDAのプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
    24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
    24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
    24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
    24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
    24/10/8BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法)
    24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
    24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
    24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
    諮問委員会
    24/9/26ODAC:抗PD-1抗体の胃/食道癌における適応範囲(PD-L1陽性限定の当否)
    24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)



    今週は以上です。

    2024年9月14日

    第1072回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • セレブに誤解を招くCMをさせてはいけない 
    • シュンレンカの曝露前予防試験が二本目も成功 
    • デュピクセントの適応拡大試験が二本成功 
    • 第二の抗IGF-1R抗体の甲状腺眼症試験が成功 
    • イーライリリー、週一回型インスリンの一型糖尿病試験が成功 
    • 抗IL-5抗体が好酸球性喘息症の増悪を抑制 
    • Dato-DXdの全生存解析は承認申請範囲でもフェール 
    • MAPキナーゼ阻害剤の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー試験がフェール 
    • FDA諮問委員会、Ocalivaはエビデンス不足と判定 
    • FDA諮問委員会、新規ペネム系抗菌剤の適応限定に肯定的 
    • アトピー用抗IL-13抗体が米国でも承認 
    • ジェネンテック、二製品の皮下注用製剤が承認 
    • トレムフィアが潰瘍性大腸炎に承認 
    • アステラスの更年期障害薬、肝障害警告が強化 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    セレブに誤解を招くCMをさせてはいけない
    (2024年9月11日公表)

    FDAは8月29日付でアッヴィに送付したuntitled letterをウェブサイトで公開した。片頭痛治療薬Ubrelvy(ubrogepant)のTVCMの内容を自主的に改善するよう求めるもので、誤解を招く表現や示唆の一例として、片頭痛がクイックに解消するとか、一回の服用で素早く解消とかの文言を指摘している。臨床試験では2時間以内に解消したのは被験者の2割程度に過ぎなかったことと合致しないという訳だ。FDAは2020年にアラガンの広告に同様な指摘を行った由だが、同社を買収したアッヴィには引き継がれなかったのだろうか。

    untitled letterは警告状を発出すべき事案には該当しない違反行為について自主的な解消を求めるもの。警告書簡と異なり、是正されなかったら法的措置を取る旨の文言はない。だからといって法的措置を取るつもりがない訳ではなく、そもそも、untitled letterを出さずに法的措置を取ることも可能である。

    FDAは最近のuntitled letterを一覧できるページを用意しており、決して珍しくないものではないことが窺えるが、今回取り上げたのは、TVCMでテニスの女王、Serena Williamsが絡んでいるからだ。「一回の服用で素早く作用し片頭痛を解消する」などのセールストークもどきを発言している。実体験なのだろうが、FDAは、セレブのアスリートを起用するのは誤解を招く表現を増強し視聴者が信じやすくなる懸念があるため好ましくない、と指摘した。

    米国では俳優や歌手、トップ・アスリートのCM出演は日本ほど頻繁ではない。おそらく、不祥事が発生した時にイメージが悪化するリスクをお互いに意識するのだろう。一方、処方薬のTVCMは日本より普及していて、様々な規制の下に、今回のように有名人が個人の感想を語るCMも多く流されている。

    広告の内容が妥当ならセレブに難は及ばないのだが、くれぐれも油断なされるな。アメリカで活躍する日本人のセレブが増えて巨額の使い込み被害にあう事例もあった。対岸の火事ではないかもしれない。

    リンク: FDAのアッヴィ宛untitled letter(8/29付)
    リンク: FDAが作成した当該CMのシーン・キャプチャー

    【新薬開発】


    シュンレンカの曝露前予防試験が二本目も成功
    (2024年9月12日発表)

    ギリアド・サイエンシズはlenacapavirの第3相HIV曝露前予防(PrEP)試験、PURPOSE 2が中間解析で目的を達成したと発表した。PURPOSE 1試験も6月に中間解析で目標を達成しており、年内に適応拡大申請する考え。

    長期作用性カプシド阻害剤で、22~23年に欧米日で多剤耐性HIV-1感染症治療薬として承認された。負荷投与後は半年に一回の皮下注で足りることが長所。今回の試験は、米州と南ア、タイの施設で出生児に男性と診断された人とセックスする16歳以上のシスジェンダー男性、トランスジェンダーの男性又は女性、そしてノンバイナリーの3200人超を組入れて、HIV発症リスクを検証した。lenacapavir群は2180人中2人で100人年当り0.10となり、文献データ(「バックグラウンドHIV」)の2.37を有意に下回った。この用途で承認されているTruvada(tenofovir DF、emtricitabine)を投与した群は1087人中9人、0.93で、この群と比較してもlenacapavir群のリスクは89%小さかった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    デュピクセントの適応拡大試験が二本成功
    (2024年9月11日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)の二つの適応症に関する第3相試験が成功したと発表した。

    一つは中重度慢性特発性蕁麻疹(CSU)のLIBERTY-CSU CUPID試験のスタディC。6歳以上の抗ヒスタミンに不十分応答/不耐な、バイオ薬未治療のCSU患者151人に追加/代替投与したところ、ISS7(掻痒重症度スコア)の低下が8.64点と、偽薬追加群の6.10点を上回った(p=0.02)。副次的評価項目のUAS7(掻痒膨疹重症度スコア)の低下も各群15.86点と11.21点で上回った(p=0.02)。有害事象は注射箇所反応や過剰投与過誤、COVID-19感染症などが偽薬群より多かった。

    この適応は、同様なデザインのスタディAが既に成功しており、日本では今年2月に適応拡大が承認された。米国は昨年10月に薬効の挙証が不十分として審査完了通知を受領したため、今回のデータを追加提出して承認取得を目指す。尚、スタディAではISS7の低下が10.24点対6.01点、UAS7の低下は20.53点対12.0点となっており、今回のデータは偽薬群の数値は大差ない一方で試験薬群の数値が低下していることが印象的。

    付記すると、当試験のスタディBは承認薬である抗IgE抗体omalizumabに不十分応答/不耐な患者における便益を検討した。事前に設定された83人の中間解析で無益認定されたが、どういう訳か、盲検試験が続行され、108人の最終解析で抗ヒスタミンに試験薬を追加した群のISS7低下が8点、偽薬追加群は5点、p=0.0449となり、最終解析に割り当てられたアルファの0.043を惜しくもクリアできなかった。UAS7の低下は各群14点と9点でp=0.0039だが主評価項目がフェールしたため統計学的には有意とは言えない。

    スタディAとスタディBはISS7やUAS7のベースライン値が大差ない割には治療効果の多寡に差がある。スタディCのベースライン値は不明だが、治療効果の点ではスタディBに近い。良く分からない。

    この適応では医師や患者はomalizumabと比較して選択することになる。Xolairの米国のレーベルを見ると、12週でISS7の掻痒サブスコアが150mg群は6.6点、300mg群は9.4点低下し、偽薬群は3.6点の低下に留まった。膨疹サブスコアは各群7.8点、11.4点、4.4点の低下。ISS7自体の数値は記されていないが、単純合算すると各群14点、21点、8点の低下となっており、特に300mgの数値はDupixentより見栄えする。

    リンク: 同社のプレスリリース(慢性特発性蕁麻疹)

    もう一本のADEPT試験は成人の中重度水疱性類天疱瘡の患者106人を組入れて持続的疾病寛解率を偽薬群と比較した。判定基準は厳しく、臨床的完解を達成して、16週までに経口コルチコステロイドの漸減を完了し、全36週間に亘って再燃もレスキュー治療もないこと。試験薬群は20%が達成し、偽薬群の4%を大きく上回った(p=0.0114)。有害事象は末梢浮腫や関節痛、背痛、霞目、喘息症、結膜炎などが偽薬群より多かった。適応拡大申請に向かうのではないか。

    リンク: 同(水疱性類天疱瘡)


    第二の抗IGF-1R抗体の甲状腺眼症試験が成功
    (2024年9月10日発表)

    米国の新興医薬品開発会社、Viridian Therapeutics(Nasdaq:VRDN)は、VRDN-001(veligrotug )の第3相甲状腺眼症(TED)試験で主評価項目や副次的評価項目を達成したと発表した。もう一本の結果が年末に判明するのを待って、25年下期に承認申請する考え。

    このTHRIVE試験は、TEDの症状を発現してから15ヶ月以内でCAS(臨床的活性度スコア、0-7で評価)が3以上の患者113人を試験薬群と偽薬群に2対1割付けして、3週毎に5回点滴投与し、15週(最終投与の3週後)時点のPRR(眼球突出応答率::眼球突出度計測で試験眼の突出が2mm以上改善し反対側の目が2mm以上悪化しない)を比較したところ、各群70%と5%となり有意な差があった。突出減少は各群2.9mmと0.5mm、複視解消奏効率は54%と12%でどちらも有意。治療時発現有害事象が各群71%と24%で見られた。20年に米国で承認された類薬、Horizon Therapeutics/アムジェンのTepezza(teprotumumab-trbw)は聴力障害のリスクがあるが、VRDN-001の発生率は16%(偽薬群は10.5%)でTepezzaの試験ほどではなかった。

    もう一本のTHRIVE-2試験は発症15ヶ月以上のTED患者をCASの多寡は不問で組入れており、投与レジメンや評価方法は同じ。

    同社は、皮下注が可能で半減期の長いVRDN-003も第3相試験中。順調なら26年に承認申請する考え。

    Tepezzaは60~90分点滴静注を3週毎に8回投与するが、VRDN-001は30分点滴を3週毎5回投与するだけ。VRDN-003は自己注可能で、第3相では8週毎2回または4週毎5回投与するレジメンを検討している。

    リンク: 同社のプレスリリース


    イーライリリー、週一回型インスリンの一型糖尿病試験が成功
    (2024年9月10日発表)

    イーライリリーはLY3209590(insulin efsitora)を二型糖尿病と一型糖尿病の血糖管理薬として開発している。前者を組入れた第3相4本に続いて、一型の第3相試験も成功したことがEASD(欧州糖尿病学会)とLancet誌で発表された。

    このQWINT-5試験は基礎インスリンとミールタイム・インスリンで治療している患者を組入れて26週間治療し、HbA1cの変化をinsulin degludecと比較した。Efficacy estimandベースでは各群0.53%と0.58%、Treatment-Regimen Estimandベースでは0.51%と0.56%の低下となり、非劣性解析が成功した。

    低血糖リスクはdegludecより高かった。52週追跡データを元に推定した人年当りの重度又は臨床的に重要な低血糖の発生頻度は各群14.03対11.59、重度低血糖だけの頻度は0.14と0.04だった。

    ノボ ノルディスクは週一回型インスリンAwiqli(insulin icodec)を開発し欧日では承認されたがFDAは一型糖尿病における低血糖リスクや製造問題を指摘、審査完了通知を出した。ONWARDS 6試験における人年当りの重度又は臨床的に重要な低血糖の発生頻度は17.0、degludec群は9.2だった。efsitoraのリスク倍率はやや低いが、重度低血糖に関しては3倍でnumber-needed to-halmは1000人年当り一人となり、軽視し難い。週一回型は一型糖尿病には適さないのだろうか?

    【訂正とお詫び】


    先週のイーライリリーの週一回型インスリンに関する記事で、『尚、LY3209590は一型糖尿病の第3相は実施されていないようだ。』と書いてしまいましたが、確認不足による過ちでした。お詫びして訂正・削除いたします。

    リンク: 同社のプレスリリース


    抗IL-5抗体が好酸球性喘息症の増悪を抑制
    (2024年9月9日発表)

    GSKは、半年に一回皮下注するだけで足りる長期作用性抗IL-5抗体、GSK3511294(depemokimab)で第3相重度好酸球性喘息症試験を二本、実施し二本とも主目的を達成したと5月に発表したが、今回、具体的な成績がNew England Journal of Medicine誌で発表された。中高量吸入コルチコステロイドを含む二剤を併用しても増悪を十分に管理できない患者を100mgまたは偽薬群に2対1割付けして第0週と26週に皮下注射する便益を52週間追跡したところ、臨床的に重要な増悪の年率発生率がSWIFT-1試験では各群0.46と1.11で率比0.42、SWIFT-2試験では0.56と1.08で率比0.52となり、統計的に有意且つ臨床的に意味のあるリスク削減効果が示された。

    米国で24年内に、日欧等でも25年に、承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: Jacksonらの治験論文(NEJM)


    Dato-DXdの全生存解析は承認申請範囲でもフェール
    (2024年9月9日発表)

    第一三共がアストラゼネカと共同開発して欧米日で承認申請した抗TROP2抗体薬物複合体、DS-1062(datopotamab deruxtecan、略称Dato-DXd)の、TROPION-Lung1試験における全生存解析結果がWCLC(世界肺癌学会)で発表された。共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が成功したものの全生存期間の解析はdocetaxel群比ハザードレシオが0.94、p=0.53とフェールした(こちらに割り当てられたアルファはプレスリリースによると0.045、同時に刊行されたNew England Journal of Medicine誌の論文によると0.042)。承認申請の対象となった非扁平上皮腫サブグループのハザードレシオは中間段階では0.77と良さそうだったが、今回、468人の最終解析でも0.84(95%信頼区間0.68-1.05)と有意水準に届かなかったことが明らかになった。メジアン生存期間は14.6ヶ月と12.3ヶ月、1年生存率は58.8%と52.8%と、点推定値は悪くなく、一次治療ではないので必ずしも延命効果は要求されないと思われるが、承認取得のリスク因子にはなりうる。

    WCLCではQCS(定量的連続スコアリング)という新開発の画像分析ベースの検査法を用いたサブグループ解析の結果も発表された。TROP2はIHC(免疫組織化学)法で検査しても応答性を予測することはできないとのことで、アストラゼネカは新しい技術であるこの手法で上記試験に参加した患者の腫瘍のデジタル画像を元に表面と内部のTROP2を推測し、応答性との相関性を検討したところ、QCS陽性癌214例におけるPFSハザードレシオは0.57(95%信頼区間0.41-0.79)、陰性138例では1.16(同0.79-1.70)だった。全生存解析におけるデータは不明。

    Dato-DXdの目標適応は日本ではホルモン受容体陽性、her2陰性の転移乳癌の2次3次治療だけだが、欧米では上記TROPION-Lung1試験に基づき全身性治療歴のある局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌にも申請されている。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース
    リンク: 同(QCSスタディについて)


    MAPキナーゼ阻害剤の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー試験がフェール
    (2024年9月12日発表)

    米国マサチューセッツ州のFulcrum Therapeutics(Nasdaq:FULC)は、losmapimodの第3相FSHD(顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)試験がフェールしたと発表した。この用途の開発は中止し経営資源を早期段階のパイプラインにシフトする。

    FSHDは名前通り顔や肩、上腕の筋力が低下する希少常染色体性優性遺伝子疾患で、通常は成人では発現しないDUX4遺伝子の発現が見られる。同社はDUX4発現におけるp38MAPキナーゼの役割に着目、GSKのGSK856553をライセンスして第2相を実施、主評価項目はフェールしたが機能面のデータに着目して第3相のREACH試験に進んだ。260人を偽薬または15mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして48週のRWS(腕を伸ばして到達できる作業空間)を比較したところ両群大差なく、p=0.75だった。副次的評価項目の筋脂肪浸潤や肩外転筋強度もp値が高かった。第2相や文献と比べて偽薬群の悪化が小さかった由。治療関連有害事象の発生率は両群大差なかった。

    同社は5月にサノフィとライセンス契約を結んだばかり。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、Ocalivaはエビデンス不足と判定
    (2024年9月13日発表)

    FDAは胃腸薬諮問委員会を招集し、 Intercept Pharmaceuticalsの原発性胆汁性肝硬変治療薬、Ocaliva(obeticholic acid)の市販後薬効確認試験のデータについて意見を聞いた。16年の諮問委員会では17人全員が便益が危険を上回る、つまり承認に値すると答えたが、今回は14人中1人に激減し、10人は上回らないと回答、3人が棄権した。市販後薬効確認試験で臨床的便益が確認されたか、という問いには13人がNoと答えた。

    Ocalivaはアルカリフォスファターゼ値や総ビリルビン値を引き下げる作用に基づき16年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されたが、臨床的便益を確立すべき市販後薬効確認試験、COBALT試験がフェールしてしまった。話は複雑で、薬だけが悪いのではなさそうだ。Ocalivaは市販後に多くの肝障害有害事象が報告され、その多くでは非代償性肝硬変を合併しているのに用量が減らされていなかった。警告強化後も散発したため、FDAは21年に非代償性肝硬変や問脈圧亢進症を伴う代償性肝硬変などを禁忌とした。その結果、COBALT試験に組み込まれた334人の被験者の55%が適応外になり、検出力が大きく低下する事態になってしまったのである。補うために、主目的である複合評価項目の分析対象イベント(全死亡、肝移植、MELDスコアが15点以上に上昇、管理不良腹水、静脈瘤出血/再出血または肝性脳症あるいは突発性細菌性腹膜炎による入院)に肝腎症候群など数多くのイベントを追加したが、玉石混淆の難点が増強される結果になってしまった。また、Ocalivaが承認された後の試験なので偽薬群の患者が別途、薬剤を調達して服用するような事例も発生した。

    このため、メーカー側は薬ではなく臨床試験がフェールしたのだと主張した。一方、FDAは、intent-to-treatベースの偽薬比ハザードレシオが0.84(0.61-1.16)、現在の適応に合致するサブグループでは0.88(95%信頼区間0.47-1.65)とフェールしたことに加えて、副次的評価項目の全死亡/肝移植のハザードレシオが各1.18(0.72-1.93)と4.77(1.03-22.09)と便益どころか危険が示唆されていることに懸念を示した。

    審査期限は10月15日。今回の議題は本承認切替の当否だが、仮承認取消の可能性が高いように感じられる。EUではCHMPが条件付き承認の更新に否定的意見を出し欧州委員会が一度は取消を決定したが、欧州連合一般裁判所が一時的差止命令を発したためペンディングになっている。

    リンク: MedPageTodayの報道


    FDA諮問委員会、新規ペネム系抗菌剤の適応限定に肯定的
    (2024年9月10日発表)

    FDAは抗菌薬諮問委員会を招集し、Iterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)が成人女性の非複雑性尿路感染症治療薬として承認申請したsulopenem etzadroxilとprobenecidの配合錠について意見を聞いた。票決は行われなかったが、適応範囲などを限定すべきとする意見が多かった模様だ。

    前者は新開発のペネム系抗菌剤sulopenemのプロドラッグ。sulpenemは日本で1450人以上の投与実績があるがファイザーは開発を断念、15年にIterumに導出した。後者は痛風治療薬だが有機アニオントランスポーター1(OAT-1)を阻害する作用があり、前者の代謝を抑制してAUC(曝露の曲線下面積)を拡大する目的で配合されている。

    当初の第3相はsulopenem点滴静注で開始して数日後に経口剤にスイッチする用法を採用し、複雑性腹腔内感染症や複雑性尿路感染症における実薬対照非劣性試験が実施されたが、いずれもフェールした。その後、経口剤だけをテストしたSURE1試験で成人の非複雑性尿路感染症における奏効率をciprofloxacinと比較したところ、キノロン不感受のサブグループ286人では有意に上回ったが、感受785人では非劣性解析がフェールした。同社は承認申請を断行したが審査完了通知を受領した。実務では感受性検査を待たずに治療を開始するためこの分類はワークしないと判定された。

    そこで、REASSURE試験で奏効率をamoxicillin/clavulanate合剤と比較したところ、非劣性解析が成功したため、再承認申請したもの。

    諮問委員会における最大の問題意識は、耐性菌感染症の最後の切り札であるペネム系を、症状がそれほど重くない、どんな薬に感受するか分からない段階の患者に使う危険性。sulopenemは既存のペネム系と交叉耐性があるため、治療が上手く行かなかった時に二の矢がなくなってしまう。また、REASSURE試験では奏効率が対照薬を上回ったが、FDAは対照薬の選択が妥当ではないと考えているようだ。

    PDUFA(処方薬ユーザー課金法)に基づく審査期限は10月25日。

    リンク: Iterum社のプレスリリース

    【承認】


    アトピー用抗IL-13抗体が米国でも承認
    (2024年9月13日発表)

    イーライリリーはFDAがEbglyss(lebrikizumab-lbkz)を中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認したと発表した。12歳以上、体重40kg以上で局所性薬に十分応答しない患者に単剤または局所性コルチコステロイド併用で投与する。導入期は二週毎に最初の二回は250mgを二回ずつ、その後は一回ずつ、皮下注し、十分な応答が得られたら維持期として同量を四週毎に投与する。

    権利を17年にロシュから取得したDermiraを20年に11億ドルで買収して入手した。日本では今年1月に承認、EUでは23年11月にライセンシーのAlmirallが承認を取得。米国承認が遅れたのはCMO(製造委託先)で製造問題が生じたため。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ジェネンテック、二製品の皮下注用製剤が承認
    (2024年9月12、13日発表)

    ロシュの米国子会社であるジェネンテックの皮下注用新製剤二品がFDAに承認された。どちらもHalozyme Therapeutics(Nasdaq:HALO)のヒアルロン酸分解酵素を用いて元々は静注用だった薬を皮下注できるようにしたもので、医療施設にとっては、点滴の準備や時間、場所を効率化できる。

    Tecentriq Hybreza(atezolizumab、hyaluronidase-tqjs)は16年に初承認された製剤が30~60分の点滴静注用であるのに対して3-18分の持続皮下注で足りる。Tecentriqの成人腫瘍における適応が全て適応になる。3週毎反復投与した臨床試験で薬物動態が静注用製剤と非劣性で、ORR(客観的反応率)や全生存期間も大差なかった。

    リンク: FDAのプレスリリース(9/12付)

    Ocrevus Zunovo(ocrelizumab、hyaluronidase-ocsa)は成人の再発性あるいは一次進行性の多発硬化症に用いる。17年に米国で承認されたオリジナルの製剤は600mgを最初の二回は3.5時間、それ以降は2時間かけて点滴静注するが、新製剤は10分間の持続皮下注で足りる。投与間隔は半年毎で静注用と同じ。臨床試験で薬物動態がオリジナルの製剤と非劣性、MRI奏効率も大差なかった。

    リンク: ジェネンテックのプレスリリース(9/13付)


    トレムフィアが潰瘍性大腸炎に承認
    (2024年9月11日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは、抗IL-23p19サブユニット抗体のTremfya(guselkumab)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。200mgを4週毎3回投与したインダクション試験では12週臨床的寛解率が23%と偽薬群の8%を上回った。寛解維持試験では44週臨床的完解率が100mg8週毎投与群が45%、200mg4週毎投与群は50%となり、偽薬スイッチ群の18.9%を有意に上回った。日欧でも適応拡大申請中。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    アステラスの更年期障害薬、肝障害警告が強化
    (2024年9月12日発表)

    FDAはアステラス製薬のVeozah(fezolinetant)の肝臓副作用に関する警告を強化した。23年に米欧で中重度閉経後血管運動障害の治療薬として承認されたNK3受容体拮抗剤で、肝毒性が見られるため治療開始前と3、6、9ヶ月目に肝機能検査を行うよう当初から推奨されているが、市販後に、開始後40日以内の肝機能検査値異常症例が報告されているため、1、2ヶ月目にも検査するようレーベルを変更した。兆候症状が現れた段階で投薬を止めれば改善する可能性がある。

    症状の例は、いつにないほどの疲労感、吐き気、嘔吐、いつにないほどの痒み、便の色が薄い、目や皮膚の黄ばみ(横断)、尿の色が濃い、腹部の腫れ、右上腹部の痛みなど。

    リンク: FDAの薬品安全性連絡

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24/9推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
    24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
    24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/25MSDのKeytruda(pembrolizumab、未治療胸膜中皮腫)
    24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
    24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
    24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
    24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
    24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
    24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
    24/10/8BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法)
    24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
    24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
    24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
    諮問委員会
    24/9/18PAC:小児用薬の市販後安全性監視(特別な議題はない由)
    24/9/20VrBPAC:百日咳ワクチンの薬効確認試験の手法など
    24/9/26ODAC:抗PD-1抗体の胃/食道癌における適応範囲(PD-L1陽性限定の当否)
    24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)



    今週は以上です。

    2024年9月7日

    第1071回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 原発性胆汁性肝硬変用薬がEUで承認取消寸前に 
    • イーライリリー、週一回型インスリンの第3相成績 
    • 31価肺炎球菌ワクチンを第3相に 
    • サノフィ、BTK阻害剤を二次性多発性硬化症に承認申請へ 
    • バイエル、ケレンディアは駆出率低下以外の心不全にも有益 
    • バイエルのXIa阻害剤はパワー不足か 
    • バイオジェン、スピンラザ増量試験が成功 
    • HGF調節剤のアルツハイマー試験がフェール 
    • Axsome社、meloxicam合剤を再承認申請 
    • Travere社のIgA腎症薬が本承認 
    • ノババックスのCOVID-19ワクチンも承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 

    【訂正とお詫び】
    今号のイーライリリーの週一回型インスリンに関する記事で、『尚、LY3209590は一型糖尿病の第3相は実施されていないようだ。』と書いてしまいましたが、確認不足による過ちでした。QWINT-5試験の対象は一型糖尿病です。お詫びして訂正・削除いたします。


    【今週の話題】


    原発性胆汁性肝硬変用薬がEUで承認取消寸前に
    (2024年9月3日発表)

    9月3日、英国のADVANZ PHARMAは、欧州委員会がOcaliva(obeticholic acid)の条件付き承認を取消したと発表、異議申立てなどの手段を取る考えを示した。9月5日、同社は欧州連合一般裁判所(第一審)が承認取消を一時的に差止めたと発表した。少なくとも同裁判所の決定が出るまでは時間を稼げることになる。もし承認取消が認められても司法裁判所に控訴することが可能だろう。

    原発性胆汁性肝硬変(PBC)の標準的治療薬であるUDCA(ウルソデオキシコール酸)の類縁体で、ファルネソイドX受容体作動力価が上回る。Intercept PharmaceuticalsがPBC治療薬として開発し、16年に米国でUDCAに不十分応答/不耐患者向けに加速承認、EUで条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェール、全被験者でも発症早期のサブグループだけでも十分な臨床的便益が見られなかったため、今年6月にCHMP(医薬品諮問委員会)が承認取消を勧告した。FDAもこのCOBALT試験のデータを審査しており、9月13日の胃腸薬諮問委員会に上程、審査期限は10月15日となっている。

    ADVANZは22年に米国外での事業権を取得した。Interceptは23年にイタリアのAlfasigmaに買収された。上場企業であったInterceptが発表したOcalivaの22年売上高は285.7百万ドル、ライセンス先も含めた世界売上高(non-GAAPベース)は343.8百万ドルだった。

    リンク: ADVANZのプレスリリース(9/3付)
    リンク: 同(9/5付)

    【新薬開発】


    イーライリリー、週一回型インスリンの第3相成績
    (2024年9月5日発表)

    糖尿病薬メーカーの双璧であるイーライリリーとノボ ノルディスクは週一回投与型インスリンの開発でも凌ぎを削っている。後者が一足先に承認申請したAwiqli(insulin icodec)は今年5~6月に欧日で二型限定なしで承認されたが、米国は製造問題や一型糖尿病において低血糖リスクが週一回型より高まる可能性があることなどから審査完了通知を受領した。一方、イーライリリーはLY3209590(insulin efsitora)で複数の第3相試験を実施中で、二型糖尿病の実薬対照非劣性試験の成功が5月に二本、今回は更に二本について、発表された。

    QWINT-1試験はインスリン未経験の患者を試験薬群とinsulin glargine群に無作為化割付けして52週のHbA1cをベースラインと比較したところ、efficacy estimandベースでは各群1.31%と1.27%低下し、treatment-regimen estimandベースでは1.19%と1.16%低下した。QWINT-3試験は基礎インスリン経験者を試験薬群とinsulin degludec群に無作為化割付けして26週のHbA1cをベースライン値と比較したところ、efficacy estimandでは各群0.86%と0.75%低下し、treatment-regimen estimandでは0.81%と0.72%低下した。

    重度又は臨床的に重要な低血糖イベントの人年当り発生頻度はQWINT-1では0.50と対照群の0.88より小さかったが、QWINT-3(78週間追跡データ)では0.84と0.74だった。

    尚、LY3209590は一型糖尿病の第3相は実施されていないようだ。

    insulin efsitoraの第3相二型糖尿病試験成績


    HbA1c低下(%)重度/臨床的重要低血糖
    試験名対象、期間試験薬群対照群試験薬群対照群
    QWINT-1ナイーブ、52週1.311.270.500.88
    QWINT-2同上1.341.260.580.45
    QWINT-3経験者、26週0.860.750.840.74
    QWINT-4同上1.071.076.65.9
    注:対照薬はQWINT-1と4がinsulin glargine、2と3がinsulin degludec。
    ナイーブはインスリン未経験者、経験者は経験者。重度/臨床的重要低血糖の数値は人年当り発生頻度を示す。QWINT-4の数値はプレスリリースまま。
    HbA1cはefficacy estimandベース(米国のレーベルに記載されるであろうtreatment-regimen estimandの成績が4本中2本でしか公表されていない)。

    出所:プレスリリースなどから作成。
    リンク: 同社のプレスリリース


    31価肺炎球菌ワクチンを第3相に
    (2024年9月3日発表)

    米国カリフォルニア州のVaxcyte(Nasdaq:PCVX)は31価肺炎球菌ワクチンVAX-31の第1/2相試験成績を公表した。50歳以上の1015人を組入れて、低量群は各血清型の抗原を1.1mcg、中量群は2.2mcg、高量群は3.3mcgずつ接種した(但し、1型、5型、22F型に関しては各群1.65mcg、3.3mcg、4.4mcg)。対照群はファイザーのPrevnar 20を接種した。

    OPA(オプソニン化貪食活性)は、共通する20種類の血清型に関しては非劣性で一部の型ではGMR(幾何平均比)が上回った。中量群では五つの型、高量群では7つの型で有意水準に達していた。本丸であるVAX-31だけがカバーしている11の型ではGMRが有意に上回った。25年央に第3相試験を開始する考え。

    他の肺炎球菌ワクチンのカバレッジはMSDの莢膜ポリサッカライド・ワクチンPnuemovaxが23価、沈降結合型ワクチンのVaxneuvanceが15価、Capvaxiveが21価。開発品ではGSKのGSK5101955が24価となっており、今のところ、VAX-31が一番多い。
    肺炎球菌ワクチンのカバレッジ


    1
    2
    3
    4
    5
    6A6A/C 6B 7F7C8
    9N9V 10A 11A 12F14
    15A15B15B/C16F17F18C19F19A20
    20B22F23A23B23F24F31
    33F35B
    Pneumovax23価
    Vaxneuvance15価
    Prevnar 2020価
    Capvaxive21価
    VAX-3131価
    GSK510195524価
    出所:各種資料より作成。

    リンク: 同社のプレスリリース


    サノフィ、BTK阻害剤を二次性多発性硬化症に承認申請へ
    (2024年9月2日発表)

    サノフィはSAR442168(tolebrutinib)の第3相試験の結果を公表した。再発の見られない二次性多発性硬化症(nrSPMS)を組入れたHERCULES試験では進行遅延効果が確認された。一方、再発性多発性硬化症を組入れた二本では再発抑制効果が同社のAubagio(teriflunomide)を上回らなかったが、副次的評価項目である悪化遅延効果が二本のプール分析で示唆された。このため、nrSPMS用薬として承認申請する考え。承認されたら初のnrSPMS用薬となる。

    2020年にPrincipia Biopharmaを37億ドルで買収して入手した脳浸透性BTK阻害剤。22年に薬物誘導性肝障害の懸念からFDAや独立データ監視委員会が臨床試験の新規組入れにブレーキをかけたが、上記三本は既に組入れ済みであったため、大きな影響はなかった。

    HERCULES試験ではEDSS(Expanded Disability Status Scale)がベースライン値が5点以下の場合は1点以上、5点超の場合は0.5点以上、上昇するまでの期間を偽薬と比較した。GEMINI試験では再発率を同社のAubagio(teriflunomide)と比較した。データは9月20日にECTRIMS学会で発表する予定。効果の多寡や上記安全性問題のアップデートが注目される。

    リンク: 同社のプレスリリース


    バイエル、ケレンディアは駆出率低下以外の心不全にも有益
    (2024年9月1日発表)

    バイエルは非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤Kerendia(finerenone)の第3相FINEARTS-HF試験の成果をESC(欧州心臓学会)会議で発表した。NYHAクラスII-IVの症候性心不全でLVEF(左心駆出率)が40%以上の患者7463人を日米欧の施設で組入れて、標準治療に加えて最大20mgまたは40mg(未承認用量)を一日一回経口投与する便益を偽薬と比較したもの。

    主評価項目は心血管死または心不全による入院/緊急受診。メジアン32ヶ月の追跡で、試験薬群は3003人中624人で1083回発生したのに対して、偽薬群は2998人中719人で1283件となり、率比は0.84、p=0.007だった。心不全入院/緊急受診が各群842件と1024件と大半を占め、率比は0.82。心血管死の発生率は各群8.1%と8.7%でp=0.076だった。

    有害事象は高カリウム血症が偽薬群より多く低カリウム血症は少なかった。

    Kerendiaは21~22年に米欧日で二型糖尿病による慢性腎疾患の腎機能低下や心血管増悪を抑制する薬として承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    バイエルのXIa阻害剤はパワー不足か
    (2024年9月1日発表)

    バイエルは22~23年に活性化血液凝固第XI因子阻害剤BAY 2433334(asundexian)の第3相試験を二本開始したが、OCEANIC-AF試験は11ヶ月後に独立データ監視委員会が無益認定し、繰上げ中止となった。今回、ESC会議やNew England Journal of Medicine誌でデータが公表されたが、便益は実薬より見劣りし、危険は少ないという抗凝固薬にはありがちなものだった。もう一本は続行中。

    この試験は抗血小板薬を服用している心房細動の患者を組入れて、便益面では卒中/全身性塞栓症のリスクを、危険は大出血(ISTH基準)を、apixaban(BMSのEliquis)と比較したもの。前者は非劣性解析であり、便益は同程度だが出血リスクは小さい、という仮説を立証する意図のようだ。

    結果は、卒中/全身性塞栓症の発生数(率)が98人(1.3%)と対照群の26人(0.4%)を大きく上回り、ハザード・レシオは3.79だった。一方、大出血は各群17人(0.2%)と53人(0.7%)でハザード・レシオ0.32

    もう一本のOCEANIC-STROKEは欧米中日などの施設で非心原性虚血性脳卒中または高リスクTIA(一過性脳虚血発作)の急性期患者を組入れて、抗血小板薬に追加する便益を偽薬追加と比較したもの。今年6月に、組入れ目標が9300人から12300人に拡大されたことがClinicalTrials.govに届出されている。おそらく、データ監視委員会が中間解析時に検出力不測を危惧し、組入れ拡大を勧告したのだろう。同時に、無益性の検定も実施したのではないだろうか。だとしたら、今のところは、大きな懸念が浮上していないということではないだろうか。

    リンク: Picciniらの治験論文抄録(NEJM)
    リンク: バイエルのプレスリリース
    リンク: ESCの報道


    バイオジェン、スピンラザ増量試験が成功
    (2024年9月4日発表)

    バイオジェンは脊髄性筋萎縮症(SMA)薬Spinraza(nusinersen)の投与量を2~4倍に増やす試験の主目的を達成した。承認用量群との比較はトレンドに留まった模様なので、承認されるかどうかは不透明感がある。

    SpinrazaはSMA患者の殆どで欠失しているSMA遺伝子の代わりにSMA2遺伝子を発現させる、髄腔内投与用アンチセンス・オリゴヌクレオチド。16~17年に米欧日で承認された。今回の第2/3相DEVOTE試験のパートBでは、未治療症候性SMAの乳児75人を高量群と承認用量群に2対1割付けしてた。高量群は50mgを2週おいて2回投与し、維持期は28mgを4ヶ月毎に投与した。承認用量群は12mgを2週毎に3回、更に30日後に1回、投与し、維持期は4ヶ月毎投与する。

    主評価項目は高量群の6ヶ月後の運動機能の変化。CHOP-INTEND(Children’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders:16項目を0-4点で評価、大きいほど運動機能が高い)で評価した。対照群はSpinrazaの初承認時のエビデンスであるENDEAR試験のシャム(投与の振りだけ)群から適合する症例を分析したものを代用した。結果は群間差が26.19、p<0.0001だった。承認用量群と比べても上回るトレンドが見られた(数値は未公表)。

    深刻有害事象の発生率は高量群が60%、承認用量群は72%だった。因みにENDEAR試験では後者が76%、シャム群は95%だった。こうして並べてみると、SMA試験に関しては薬の安全性を反映する指標にはならなそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    HGF調節剤のアルツハイマー試験がフェール
    (2024年9月3日発表)

    Athira Pharma(Nasdaq:ATHA)はATH-1017(fosgonimeton)の第2/3相LIFT-AD試験がフェールしたと発表した。薬物治療を受けていない中重度アルツハイマー病患者を組入れて偽薬または40mgを一日一回皮下注し、GST(全般的統計的検定::ADAS-cog11とADCS-ADL23の複合評価方法)の変化を6ヶ月間追跡したが、有意な差はなかった。副次的評価項目のADAS-cog11の低下(悪化)は各群0.39点と1.09点でp=0.35。同じくADCS-ADL23の改善(上昇)は-0.02点と0.65点でp=0.61だった。

    ATH-1017はHGF(肝細胞増殖因子)調節剤のプロドラッグで、ニューロンの増殖生存などを調停するHGF/METシステムに介入、神経保護作用や抗炎症作用を発揮すると想定された。第2相試験で記憶処理速度を改善する作用が見られなかったが、認知運動機能の向上が示唆されたため、第3相ではアセチルコリン還元酵素阻害剤服用者を除外して再挑戦したものの、駄目だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認申請】


    Axsome社、meloxicam合剤を再承認申請
    (2024年9月4日発表)

    米国NY州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)はFDAにAXS-07を再承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年1月31日。

    21年に片頭痛の急性期治療薬として承認申請視したが製造問題などにより22年5月に審査完了通知を受領していた。

    AXS-07はNSAIDのmeloxicamと片頭痛治療薬として承認されている5-HT1作動剤、rizatriptanの合剤。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    Travere社のIgA腎症薬が本承認
    (2024年9月5日発表)

    Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、FDAがAT1受容体・ETA受容体拮抗剤Filspari(sparsentan)の加速承認を本承認に切替えると共に、適応範囲を拡大したことを公表した。23年に米国で成人の急速進行リスクのある原発性IgA腎症のモノセラピーとして加速承認されたが、エビデンスとなったPROTECT試験の長期追跡データで副次的評価項目である110週eGFR(推算糸球体濾過量)の低下が対照薬であるirbesartanより小さかったため。

    IgA腎症の開発は、今回のように、36週時点の尿蛋白クレアチニン比を実薬と比較し有意に上回れば承認申請して加速承認を取得、110週時点のeGFRでも非劣性なら本承認切替を申請、という手順が一般的だ。Filspariは昨年9月、eGFR解析結果を発表したが、FDA向けの解析はp=0.058とフェール、EU向けの第6-110週における解析はp=0.037で成功、という内容だったため、承認されるかどうか当方は危惧していた。驚くべきことに、レーベルに記載されたデータはp=0.0168と様変わりしていた。投与を止めたり免疫抑制剤による治療を開始した患者も継続追跡する、intent-to-treatベースの数値を採用したようだ。期中に免疫抑制剤によるレスキュー治療を開始した患者の比率は試験薬群は3%、irbesartan群は9%と大きくは違わないので、投与を止めてeGFRが悪化した患者の群間差がマジックを可能にしたのではないか。

    レーベルによると、eGFRの低下は試験薬群が3.0mL/分/1.73m2/年、irbesartan群は4.2mL/分/1.73m2/年で、群間差は1.2mL/分/1.73m2/年、p=0.0168だった。

    適応範囲の拡大は、「急速進行リスクのある、一般的にはUPCR≧1.5g/gの、」という限定が、今回、「進行リスクのある」に緩和された。肝毒性と胚胎毒性に関する枠付き警告は従来通り。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ノババックスのCOVID-19ワクチンも承認
    (2024年8月30日発表)

    Novavax(Nasdaq:NVAX)はNuvaxovidの24/25年フォーミュラがFDAにEUA(非常時使用認可)されたと発表した。ビオンテック/ファイザーとモデルナの製品はKP.2系統のmRNAを配合しているが、Nuvaxovidは今となっては唯一の抗原配合型COVID-19ワクチンで、KP.2の親系統に当たるJN.1系統のものを採用している。12歳以上が対象。

    このワクチンは日本でもライセンシーの武田薬品が承認申請し、第二部会で報告されたのでまもなく承認されそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】




    PDUFA
    24/9推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
    24/9/13ロシュのOcrevus皮下注(ocrelizumab、hyaluronidase、多発性硬化症)
    24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
    24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
    24/9/25MSDのKeytruda(pembrolizumab、未治療胸膜中皮腫)
    24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
    24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
    24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
    24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
    24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
    24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
    24/10推イーライリリーのEbglyss(lebrikizumab、アトピー性皮膚炎)
    24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
    24/10/8BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法)
    24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
    24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
    24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
    諮問委員会
    24/9/9AMDAC:Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxil/probenecid錠(非複雑性尿路感染症)
    24/9/13GIDAC:Intercep(Alfasigma)tのOcaliva(obeticholic acid、加速承認維持の当否)
    24/9/18PAC:小児用薬の市販後安全性監視(特別な議題はない由)
    24/9/20VrBPAC:百日咳ワクチンの薬効確認試験の手法など
    24/9/26ODAC:抗PD-1抗体の胃/食道癌における適応範囲(PD-L1陽性限定の当否)
    24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
    24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)



    今週は以上です。