2024年9月14日

第1072回

【ニュース・ヘッドライン】

  • セレブに誤解を招くCMをさせてはいけない 
  • シュンレンカの曝露前予防試験が二本目も成功 
  • デュピクセントの適応拡大試験が二本成功 
  • 第二の抗IGF-1R抗体の甲状腺眼症試験が成功 
  • イーライリリー、週一回型インスリンの一型糖尿病試験が成功 
  • 抗IL-5抗体が好酸球性喘息症の増悪を抑制 
  • Dato-DXdの全生存解析は承認申請範囲でもフェール 
  • MAPキナーゼ阻害剤の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー試験がフェール 
  • FDA諮問委員会、Ocalivaはエビデンス不足と判定 
  • FDA諮問委員会、新規ペネム系抗菌剤の適応限定に肯定的 
  • アトピー用抗IL-13抗体が米国でも承認 
  • ジェネンテック、二製品の皮下注用製剤が承認 
  • トレムフィアが潰瘍性大腸炎に承認 
  • アステラスの更年期障害薬、肝障害警告が強化 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


セレブに誤解を招くCMをさせてはいけない
(2024年9月11日公表)

FDAは8月29日付でアッヴィに送付したuntitled letterをウェブサイトで公開した。片頭痛治療薬Ubrelvy(ubrogepant)のTVCMの内容を自主的に改善するよう求めるもので、誤解を招く表現や示唆の一例として、片頭痛がクイックに解消するとか、一回の服用で素早く解消とかの文言を指摘している。臨床試験では2時間以内に解消したのは被験者の2割程度に過ぎなかったことと合致しないという訳だ。FDAは2020年にアラガンの広告に同様な指摘を行った由だが、同社を買収したアッヴィには引き継がれなかったのだろうか。

untitled letterは警告状を発出すべき事案には該当しない違反行為について自主的な解消を求めるもの。警告書簡と異なり、是正されなかったら法的措置を取る旨の文言はない。だからといって法的措置を取るつもりがない訳ではなく、そもそも、untitled letterを出さずに法的措置を取ることも可能である。

FDAは最近のuntitled letterを一覧できるページを用意しており、決して珍しくないものではないことが窺えるが、今回取り上げたのは、TVCMでテニスの女王、Serena Williamsが絡んでいるからだ。「一回の服用で素早く作用し片頭痛を解消する」などのセールストークもどきを発言している。実体験なのだろうが、FDAは、セレブのアスリートを起用するのは誤解を招く表現を増強し視聴者が信じやすくなる懸念があるため好ましくない、と指摘した。

米国では俳優や歌手、トップ・アスリートのCM出演は日本ほど頻繁ではない。おそらく、不祥事が発生した時にイメージが悪化するリスクをお互いに意識するのだろう。一方、処方薬のTVCMは日本より普及していて、様々な規制の下に、今回のように有名人が個人の感想を語るCMも多く流されている。

広告の内容が妥当ならセレブに難は及ばないのだが、くれぐれも油断なされるな。アメリカで活躍する日本人のセレブが増えて巨額の使い込み被害にあう事例もあった。対岸の火事ではないかもしれない。

リンク: FDAのアッヴィ宛untitled letter(8/29付)
リンク: FDAが作成した当該CMのシーン・キャプチャー

【新薬開発】


シュンレンカの曝露前予防試験が二本目も成功
(2024年9月12日発表)

ギリアド・サイエンシズはlenacapavirの第3相HIV曝露前予防(PrEP)試験、PURPOSE 2が中間解析で目的を達成したと発表した。PURPOSE 1試験も6月に中間解析で目標を達成しており、年内に適応拡大申請する考え。

長期作用性カプシド阻害剤で、22~23年に欧米日で多剤耐性HIV-1感染症治療薬として承認された。負荷投与後は半年に一回の皮下注で足りることが長所。今回の試験は、米州と南ア、タイの施設で出生児に男性と診断された人とセックスする16歳以上のシスジェンダー男性、トランスジェンダーの男性又は女性、そしてノンバイナリーの3200人超を組入れて、HIV発症リスクを検証した。lenacapavir群は2180人中2人で100人年当り0.10となり、文献データ(「バックグラウンドHIV」)の2.37を有意に下回った。この用途で承認されているTruvada(tenofovir DF、emtricitabine)を投与した群は1087人中9人、0.93で、この群と比較してもlenacapavir群のリスクは89%小さかった。

リンク: 同社のプレスリリース


デュピクセントの適応拡大試験が二本成功
(2024年9月11日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)の二つの適応症に関する第3相試験が成功したと発表した。

一つは中重度慢性特発性蕁麻疹(CSU)のLIBERTY-CSU CUPID試験のスタディC。6歳以上の抗ヒスタミンに不十分応答/不耐な、バイオ薬未治療のCSU患者151人に追加/代替投与したところ、ISS7(掻痒重症度スコア)の低下が8.64点と、偽薬追加群の6.10点を上回った(p=0.02)。副次的評価項目のUAS7(掻痒膨疹重症度スコア)の低下も各群15.86点と11.21点で上回った(p=0.02)。有害事象は注射箇所反応や過剰投与過誤、COVID-19感染症などが偽薬群より多かった。

この適応は、同様なデザインのスタディAが既に成功しており、日本では今年2月に適応拡大が承認された。米国は昨年10月に薬効の挙証が不十分として審査完了通知を受領したため、今回のデータを追加提出して承認取得を目指す。尚、スタディAではISS7の低下が10.24点対6.01点、UAS7の低下は20.53点対12.0点となっており、今回のデータは偽薬群の数値は大差ない一方で試験薬群の数値が低下していることが印象的。

付記すると、当試験のスタディBは承認薬である抗IgE抗体omalizumabに不十分応答/不耐な患者における便益を検討した。事前に設定された83人の中間解析で無益認定されたが、どういう訳か、盲検試験が続行され、108人の最終解析で抗ヒスタミンに試験薬を追加した群のISS7低下が8点、偽薬追加群は5点、p=0.0449となり、最終解析に割り当てられたアルファの0.043を惜しくもクリアできなかった。UAS7の低下は各群14点と9点でp=0.0039だが主評価項目がフェールしたため統計学的には有意とは言えない。

スタディAとスタディBはISS7やUAS7のベースライン値が大差ない割には治療効果の多寡に差がある。スタディCのベースライン値は不明だが、治療効果の点ではスタディBに近い。良く分からない。

この適応では医師や患者はomalizumabと比較して選択することになる。Xolairの米国のレーベルを見ると、12週でISS7の掻痒サブスコアが150mg群は6.6点、300mg群は9.4点低下し、偽薬群は3.6点の低下に留まった。膨疹サブスコアは各群7.8点、11.4点、4.4点の低下。ISS7自体の数値は記されていないが、単純合算すると各群14点、21点、8点の低下となっており、特に300mgの数値はDupixentより見栄えする。

リンク: 同社のプレスリリース(慢性特発性蕁麻疹)

もう一本のADEPT試験は成人の中重度水疱性類天疱瘡の患者106人を組入れて持続的疾病寛解率を偽薬群と比較した。判定基準は厳しく、臨床的完解を達成して、16週までに経口コルチコステロイドの漸減を完了し、全36週間に亘って再燃もレスキュー治療もないこと。試験薬群は20%が達成し、偽薬群の4%を大きく上回った(p=0.0114)。有害事象は末梢浮腫や関節痛、背痛、霞目、喘息症、結膜炎などが偽薬群より多かった。適応拡大申請に向かうのではないか。

リンク: 同(水疱性類天疱瘡)


第二の抗IGF-1R抗体の甲状腺眼症試験が成功
(2024年9月10日発表)

米国の新興医薬品開発会社、Viridian Therapeutics(Nasdaq:VRDN)は、VRDN-001(veligrotug )の第3相甲状腺眼症(TED)試験で主評価項目や副次的評価項目を達成したと発表した。もう一本の結果が年末に判明するのを待って、25年下期に承認申請する考え。

このTHRIVE試験は、TEDの症状を発現してから15ヶ月以内でCAS(臨床的活性度スコア、0-7で評価)が3以上の患者113人を試験薬群と偽薬群に2対1割付けして、3週毎に5回点滴投与し、15週(最終投与の3週後)時点のPRR(眼球突出応答率::眼球突出度計測で試験眼の突出が2mm以上改善し反対側の目が2mm以上悪化しない)を比較したところ、各群70%と5%となり有意な差があった。突出減少は各群2.9mmと0.5mm、複視解消奏効率は54%と12%でどちらも有意。治療時発現有害事象が各群71%と24%で見られた。20年に米国で承認された類薬、Horizon Therapeutics/アムジェンのTepezza(teprotumumab-trbw)は聴力障害のリスクがあるが、VRDN-001の発生率は16%(偽薬群は10.5%)でTepezzaの試験ほどではなかった。

もう一本のTHRIVE-2試験は発症15ヶ月以上のTED患者をCASの多寡は不問で組入れており、投与レジメンや評価方法は同じ。

同社は、皮下注が可能で半減期の長いVRDN-003も第3相試験中。順調なら26年に承認申請する考え。

Tepezzaは60~90分点滴静注を3週毎に8回投与するが、VRDN-001は30分点滴を3週毎5回投与するだけ。VRDN-003は自己注可能で、第3相では8週毎2回または4週毎5回投与するレジメンを検討している。

リンク: 同社のプレスリリース


イーライリリー、週一回型インスリンの一型糖尿病試験が成功
(2024年9月10日発表)

イーライリリーはLY3209590(insulin efsitora)を二型糖尿病と一型糖尿病の血糖管理薬として開発している。前者を組入れた第3相4本に続いて、一型の第3相試験も成功したことがEASD(欧州糖尿病学会)とLancet誌で発表された。

このQWINT-5試験は基礎インスリンとミールタイム・インスリンで治療している患者を組入れて26週間治療し、HbA1cの変化をinsulin degludecと比較した。Efficacy estimandベースでは各群0.53%と0.58%、Treatment-Regimen Estimandベースでは0.51%と0.56%の低下となり、非劣性解析が成功した。

低血糖リスクはdegludecより高かった。52週追跡データを元に推定した人年当りの重度又は臨床的に重要な低血糖の発生頻度は各群14.03対11.59、重度低血糖だけの頻度は0.14と0.04だった。

ノボ ノルディスクは週一回型インスリンAwiqli(insulin icodec)を開発し欧日では承認されたがFDAは一型糖尿病における低血糖リスクや製造問題を指摘、審査完了通知を出した。ONWARDS 6試験における人年当りの重度又は臨床的に重要な低血糖の発生頻度は17.0、degludec群は9.2だった。efsitoraのリスク倍率はやや低いが、重度低血糖に関しては3倍でnumber-needed to-halmは1000人年当り一人となり、軽視し難い。週一回型は一型糖尿病には適さないのだろうか?

【訂正とお詫び】


先週のイーライリリーの週一回型インスリンに関する記事で、『尚、LY3209590は一型糖尿病の第3相は実施されていないようだ。』と書いてしまいましたが、確認不足による過ちでした。お詫びして訂正・削除いたします。

リンク: 同社のプレスリリース


抗IL-5抗体が好酸球性喘息症の増悪を抑制
(2024年9月9日発表)

GSKは、半年に一回皮下注するだけで足りる長期作用性抗IL-5抗体、GSK3511294(depemokimab)で第3相重度好酸球性喘息症試験を二本、実施し二本とも主目的を達成したと5月に発表したが、今回、具体的な成績がNew England Journal of Medicine誌で発表された。中高量吸入コルチコステロイドを含む二剤を併用しても増悪を十分に管理できない患者を100mgまたは偽薬群に2対1割付けして第0週と26週に皮下注射する便益を52週間追跡したところ、臨床的に重要な増悪の年率発生率がSWIFT-1試験では各群0.46と1.11で率比0.42、SWIFT-2試験では0.56と1.08で率比0.52となり、統計的に有意且つ臨床的に意味のあるリスク削減効果が示された。

米国で24年内に、日欧等でも25年に、承認申請する考え。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Jacksonらの治験論文(NEJM)


Dato-DXdの全生存解析は承認申請範囲でもフェール
(2024年9月9日発表)

第一三共がアストラゼネカと共同開発して欧米日で承認申請した抗TROP2抗体薬物複合体、DS-1062(datopotamab deruxtecan、略称Dato-DXd)の、TROPION-Lung1試験における全生存解析結果がWCLC(世界肺癌学会)で発表された。共同主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が成功したものの全生存期間の解析はdocetaxel群比ハザードレシオが0.94、p=0.53とフェールした(こちらに割り当てられたアルファはプレスリリースによると0.045、同時に刊行されたNew England Journal of Medicine誌の論文によると0.042)。承認申請の対象となった非扁平上皮腫サブグループのハザードレシオは中間段階では0.77と良さそうだったが、今回、468人の最終解析でも0.84(95%信頼区間0.68-1.05)と有意水準に届かなかったことが明らかになった。メジアン生存期間は14.6ヶ月と12.3ヶ月、1年生存率は58.8%と52.8%と、点推定値は悪くなく、一次治療ではないので必ずしも延命効果は要求されないと思われるが、承認取得のリスク因子にはなりうる。

WCLCではQCS(定量的連続スコアリング)という新開発の画像分析ベースの検査法を用いたサブグループ解析の結果も発表された。TROP2はIHC(免疫組織化学)法で検査しても応答性を予測することはできないとのことで、アストラゼネカは新しい技術であるこの手法で上記試験に参加した患者の腫瘍のデジタル画像を元に表面と内部のTROP2を推測し、応答性との相関性を検討したところ、QCS陽性癌214例におけるPFSハザードレシオは0.57(95%信頼区間0.41-0.79)、陰性138例では1.16(同0.79-1.70)だった。全生存解析におけるデータは不明。

Dato-DXdの目標適応は日本ではホルモン受容体陽性、her2陰性の転移乳癌の2次3次治療だけだが、欧米では上記TROPION-Lung1試験に基づき全身性治療歴のある局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌にも申請されている。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: 同(QCSスタディについて)


MAPキナーゼ阻害剤の顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー試験がフェール
(2024年9月12日発表)

米国マサチューセッツ州のFulcrum Therapeutics(Nasdaq:FULC)は、losmapimodの第3相FSHD(顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)試験がフェールしたと発表した。この用途の開発は中止し経営資源を早期段階のパイプラインにシフトする。

FSHDは名前通り顔や肩、上腕の筋力が低下する希少常染色体性優性遺伝子疾患で、通常は成人では発現しないDUX4遺伝子の発現が見られる。同社はDUX4発現におけるp38MAPキナーゼの役割に着目、GSKのGSK856553をライセンスして第2相を実施、主評価項目はフェールしたが機能面のデータに着目して第3相のREACH試験に進んだ。260人を偽薬または15mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして48週のRWS(腕を伸ばして到達できる作業空間)を比較したところ両群大差なく、p=0.75だった。副次的評価項目の筋脂肪浸潤や肩外転筋強度もp値が高かった。第2相や文献と比べて偽薬群の悪化が小さかった由。治療関連有害事象の発生率は両群大差なかった。

同社は5月にサノフィとライセンス契約を結んだばかり。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、Ocalivaはエビデンス不足と判定
(2024年9月13日発表)

FDAは胃腸薬諮問委員会を招集し、 Intercept Pharmaceuticalsの原発性胆汁性肝硬変治療薬、Ocaliva(obeticholic acid)の市販後薬効確認試験のデータについて意見を聞いた。16年の諮問委員会では17人全員が便益が危険を上回る、つまり承認に値すると答えたが、今回は14人中1人に激減し、10人は上回らないと回答、3人が棄権した。市販後薬効確認試験で臨床的便益が確認されたか、という問いには13人がNoと答えた。

Ocalivaはアルカリフォスファターゼ値や総ビリルビン値を引き下げる作用に基づき16年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されたが、臨床的便益を確立すべき市販後薬効確認試験、COBALT試験がフェールしてしまった。話は複雑で、薬だけが悪いのではなさそうだ。Ocalivaは市販後に多くの肝障害有害事象が報告され、その多くでは非代償性肝硬変を合併しているのに用量が減らされていなかった。警告強化後も散発したため、FDAは21年に非代償性肝硬変や問脈圧亢進症を伴う代償性肝硬変などを禁忌とした。その結果、COBALT試験に組み込まれた334人の被験者の55%が適応外になり、検出力が大きく低下する事態になってしまったのである。補うために、主目的である複合評価項目の分析対象イベント(全死亡、肝移植、MELDスコアが15点以上に上昇、管理不良腹水、静脈瘤出血/再出血または肝性脳症あるいは突発性細菌性腹膜炎による入院)に肝腎症候群など数多くのイベントを追加したが、玉石混淆の難点が増強される結果になってしまった。また、Ocalivaが承認された後の試験なので偽薬群の患者が別途、薬剤を調達して服用するような事例も発生した。

このため、メーカー側は薬ではなく臨床試験がフェールしたのだと主張した。一方、FDAは、intent-to-treatベースの偽薬比ハザードレシオが0.84(0.61-1.16)、現在の適応に合致するサブグループでは0.88(95%信頼区間0.47-1.65)とフェールしたことに加えて、副次的評価項目の全死亡/肝移植のハザードレシオが各1.18(0.72-1.93)と4.77(1.03-22.09)と便益どころか危険が示唆されていることに懸念を示した。

審査期限は10月15日。今回の議題は本承認切替の当否だが、仮承認取消の可能性が高いように感じられる。EUではCHMPが条件付き承認の更新に否定的意見を出し欧州委員会が一度は取消を決定したが、欧州連合一般裁判所が一時的差止命令を発したためペンディングになっている。

リンク: MedPageTodayの報道


FDA諮問委員会、新規ペネム系抗菌剤の適応限定に肯定的
(2024年9月10日発表)

FDAは抗菌薬諮問委員会を招集し、Iterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)が成人女性の非複雑性尿路感染症治療薬として承認申請したsulopenem etzadroxilとprobenecidの配合錠について意見を聞いた。票決は行われなかったが、適応範囲などを限定すべきとする意見が多かった模様だ。

前者は新開発のペネム系抗菌剤sulopenemのプロドラッグ。sulpenemは日本で1450人以上の投与実績があるがファイザーは開発を断念、15年にIterumに導出した。後者は痛風治療薬だが有機アニオントランスポーター1(OAT-1)を阻害する作用があり、前者の代謝を抑制してAUC(曝露の曲線下面積)を拡大する目的で配合されている。

当初の第3相はsulopenem点滴静注で開始して数日後に経口剤にスイッチする用法を採用し、複雑性腹腔内感染症や複雑性尿路感染症における実薬対照非劣性試験が実施されたが、いずれもフェールした。その後、経口剤だけをテストしたSURE1試験で成人の非複雑性尿路感染症における奏効率をciprofloxacinと比較したところ、キノロン不感受のサブグループ286人では有意に上回ったが、感受785人では非劣性解析がフェールした。同社は承認申請を断行したが審査完了通知を受領した。実務では感受性検査を待たずに治療を開始するためこの分類はワークしないと判定された。

そこで、REASSURE試験で奏効率をamoxicillin/clavulanate合剤と比較したところ、非劣性解析が成功したため、再承認申請したもの。

諮問委員会における最大の問題意識は、耐性菌感染症の最後の切り札であるペネム系を、症状がそれほど重くない、どんな薬に感受するか分からない段階の患者に使う危険性。sulopenemは既存のペネム系と交叉耐性があるため、治療が上手く行かなかった時に二の矢がなくなってしまう。また、REASSURE試験では奏効率が対照薬を上回ったが、FDAは対照薬の選択が妥当ではないと考えているようだ。

PDUFA(処方薬ユーザー課金法)に基づく審査期限は10月25日。

リンク: Iterum社のプレスリリース

【承認】


アトピー用抗IL-13抗体が米国でも承認
(2024年9月13日発表)

イーライリリーはFDAがEbglyss(lebrikizumab-lbkz)を中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認したと発表した。12歳以上、体重40kg以上で局所性薬に十分応答しない患者に単剤または局所性コルチコステロイド併用で投与する。導入期は二週毎に最初の二回は250mgを二回ずつ、その後は一回ずつ、皮下注し、十分な応答が得られたら維持期として同量を四週毎に投与する。

権利を17年にロシュから取得したDermiraを20年に11億ドルで買収して入手した。日本では今年1月に承認、EUでは23年11月にライセンシーのAlmirallが承認を取得。米国承認が遅れたのはCMO(製造委託先)で製造問題が生じたため。

リンク: 同社のプレスリリース


ジェネンテック、二製品の皮下注用製剤が承認
(2024年9月12、13日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックの皮下注用新製剤二品がFDAに承認された。どちらもHalozyme Therapeutics(Nasdaq:HALO)のヒアルロン酸分解酵素を用いて元々は静注用だった薬を皮下注できるようにしたもので、医療施設にとっては、点滴の準備や時間、場所を効率化できる。

Tecentriq Hybreza(atezolizumab、hyaluronidase-tqjs)は16年に初承認された製剤が30~60分の点滴静注用であるのに対して3-18分の持続皮下注で足りる。Tecentriqの成人腫瘍における適応が全て適応になる。3週毎反復投与した臨床試験で薬物動態が静注用製剤と非劣性で、ORR(客観的反応率)や全生存期間も大差なかった。

リンク: FDAのプレスリリース(9/12付)

Ocrevus Zunovo(ocrelizumab、hyaluronidase-ocsa)は成人の再発性あるいは一次進行性の多発硬化症に用いる。17年に米国で承認されたオリジナルの製剤は600mgを最初の二回は3.5時間、それ以降は2時間かけて点滴静注するが、新製剤は10分間の持続皮下注で足りる。投与間隔は半年毎で静注用と同じ。臨床試験で薬物動態がオリジナルの製剤と非劣性、MRI奏効率も大差なかった。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース(9/13付)


トレムフィアが潰瘍性大腸炎に承認
(2024年9月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、抗IL-23p19サブユニット抗体のTremfya(guselkumab)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。200mgを4週毎3回投与したインダクション試験では12週臨床的寛解率が23%と偽薬群の8%を上回った。寛解維持試験では44週臨床的完解率が100mg8週毎投与群が45%、200mg4週毎投与群は50%となり、偽薬スイッチ群の18.9%を有意に上回った。日欧でも適応拡大申請中。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


アステラスの更年期障害薬、肝障害警告が強化
(2024年9月12日発表)

FDAはアステラス製薬のVeozah(fezolinetant)の肝臓副作用に関する警告を強化した。23年に米欧で中重度閉経後血管運動障害の治療薬として承認されたNK3受容体拮抗剤で、肝毒性が見られるため治療開始前と3、6、9ヶ月目に肝機能検査を行うよう当初から推奨されているが、市販後に、開始後40日以内の肝機能検査値異常症例が報告されているため、1、2ヶ月目にも検査するようレーベルを変更した。兆候症状が現れた段階で投薬を止めれば改善する可能性がある。

症状の例は、いつにないほどの疲労感、吐き気、嘔吐、いつにないほどの痒み、便の色が薄い、目や皮膚の黄ばみ(横断)、尿の色が濃い、腹部の腫れ、右上腹部の痛みなど。

リンク: FDAの薬品安全性連絡

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/9推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj、HSCT補助療法)
24/9/18Vanda PharmaceuticalsのVLY-686(tradipitant、胃麻痺)
24/9/21Zevra Therapeuticsのarimoclomol(ニーマン・ピック病C型)
24/9/24IntraBioのIB1001(ニーマン・ピック病C型)
24/9/25MSDのKeytruda(pembrolizumab、未治療胸膜中皮腫)
24/9/26Karuna Therapeutics(BMS)のKarXT(xanomelineとtrospium、統合失調症)
24/9/26Syndax PharmaceuticalsのSNDX-5613(revumenib、難治再発KMT2A再編成急性白血病)
24/9/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/9/27サノフィのSarclisa(isatuximab-irfc、未治療多発骨髄腫4剤併用)
24/10推ファイザーのmarstacimab(血友病)
24/10推CSLのCSL312(garadacimab、遺伝性血管浮腫)
24/10/6Merusのzenocutuzumab(NRG1融合陽性のNSCLCと膵癌)
24/10/8BMSのOpdivo(nivolumab、非小細胞性肺癌術前術後療法)
24/10/15Alfasigma(Intercept Pharmaceuticals)のOcaliva(obeticholic acid、アウトカム試験)
24/10/17アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS G12C変異再発転移結腸直腸癌)
24/10/25Iterum Therapeuticsのsulopenem etzadroxilとprobenecid(単純尿路感染症)
諮問委員会
24/9/18PAC:小児用薬の市販後安全性監視(特別な議題はない由)
24/9/20VrBPAC:百日咳ワクチンの薬効確認試験の手法など
24/9/26ODAC:抗PD-1抗体の胃/食道癌における適応範囲(PD-L1陽性限定の当否)
24/10/10CRDAC:Stealth BioTherapeuticsのelamipretide(バース症候群)
24/10/31EMDAC:Lexiconのsotagliflozin(CKDを伴う一型糖尿病)



今週は以上です。

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