2023年4月15日

第1098回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 分裂する米国、今度は中絶用薬で二権が対立 
  • FDA諮問委員会:レキサルティをアルツハイマー病の激昂に適応拡大すべし 
  • イーライリリー、オンボーは米国では承認見送り 
  • マラリアの新ワクチンがガーナで承認 


【今週の話題】


分裂する米国、今度は中絶用薬で二権が対立

米国は元々、政治や世論の振り子が大きく振れる傾向があるが、近年は勢力間の対立が一層激しくなっている。妊娠中絶については、昨年、避妊を禁じる法律は憲法違反という半世紀前の判決を最高裁が覆し、共和党系知事の州が続々と禁止令を出した。薬物療法に関しては規制があまり進んでいなかったが、妊娠中絶以外の適応を持たないmifepristoneは、今年3月にワイオミング州が販売を禁止したのに続いて、今月、連邦テキサス北部裁判所のトランプ前大統領が指名した判事がFDAに承認停止を命令した。

司法省が控訴したところ、第5巡回裁判所は2000年の承認自体は支持したものの、2016年以降に行われた措置については係争可能と判断し、郵送を解禁したのは違法と判定した。司法省は最高裁に緊急救済を請求、とりあえず4月19日までの猶予を得たところだ。

mifepristoneはフランスのRoussel-Uclafが開発し1980年代後半に同国で承認を取得した。大株主のヘキストを含め多くの抗議を受け、出荷を中止する破目になったが、フランス政府が承認薬はもはや一企業だけのものではないとして再開を命じた。フランス外での開発は進まず、米国の権利はNGOを通じてDanco Laboratoriesが取得、Mifeprex名で販売した。Roussel-Uclafは1997年にヘキストの完全子会社となるや、mifepristoneの生産を中止するとともに、権利をExelgyn社に譲渡した。

この、仏独の文化・宗教的な違いも投影された対立が、30年経って米国で再燃した格好だ。

子供のころ、日本は三権分立ではなくお互いに見なかったふりをする三権別々だと思ったが、米国も正反対の意味で別々だ。今回の件は、暴力による妊娠などの同情すべきケースがあることを考えれば完全禁止するのはやり過ぎのような気がするが、どうだろうか。

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会:レキサルティをアルツハイマー病の激昂に適応拡大すべし
(2023年4月14日発表)

FDAは精神薬理学薬諮問委員会と末梢中枢神経系薬諮問委員会の共催会議を招集し、大塚製薬がルンドベックと共同開発販売している非定型向精神薬Rexulti(brexpiprazole)をアルツハイマー病関連アジテーション(AAD)に適応拡大する当否について意見を聞いた。10人の委員のうち、消費者代表以外の9人が承認を支持した。

FDAは向精神薬を高齢者に投与すると死亡リスクが高まると枠付き警告しているが、アジテーションは介護者の脅威・危険になりうるせいか、学会も容認的のようだ。今回、正式に承認されればオフレーベルや訴訟リスクを回避できるので画期的だ。

RexultiはAbilify(aripiprazole)の類薬で米日欧で統合失調症や鬱病に承認されている。AADでは三本の第3相試験が実施され、うち二本で主評価項目のCMAI(Cohen-Mansfield Agitation Inventory)が偽薬比有意に改善した。一本は2mg群のCMAIがベースライン値の71から12週間で21.6低下、偽薬群は17.8低下で、p=0.04だった。二本目は0.5-2mgのレンジで滴定する方法を検討したところ、ベースラインの71.5から18.9低下し、偽薬群の16.5低下と大差なかった。追加試験では2mg群と3mg群の合計で80.6から22.6低下、偽薬群は17.3低下でp=0.0026と高度に有意な差があった。

安全性の面では枠付き警告されている既存の向精神薬と大差ないとFDAはみなしている。30日間の追加追跡を加えた期間の死亡率は三本合計で1.2%(8人)、偽薬群は0.3%(1人)で、発生率比は4.16(95%信頼区間0.51、33.83)。既存薬はFDAが過去に実施したメタアナリシスによると10週間死亡率が4.5%、偽薬群は2.6%、率比は1.6~1.7だった。Rexultiは率比が高いがイベント数が少ないため信頼性は高くない。9例中6例は30日追加追跡期間中の死亡であることも留意すべき。また、偽薬群の死亡率がかなり違うので被験者の特性が異なる可能性がる。

死亡リスクが高まる懸念があってもFDAや諮問委員が肯定的なのは、便益が確立しているからだろう。米国の承認審査は、かっては、安全性のチェックだけで便益は問わなかった。副作用事件が輩出し安全性審査の強化が求められたが、薬はそもそも安全ではないため、代わりに、薬効の挙証を求めるようになった。今回も同じパターンだ。

リンク: Medpage Todayの報道


イーライリリー、オンボーは米国では承認見送り
(2023年4月13日発表)

イーライリリーは抗IL-23p39サブユニット抗体Omvoh(mirikizumab)を既存治療効果不十分な中重度潰瘍性大腸炎の治療薬として承認申請し、日本では3月に承認、EUでも同月、CHMPの肯定的意見を得たが、米国は審査完了通知を受領した。データや安全性などは問題ないようで、言及されているのは製造問題だけとのこと。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


マラリアの新ワクチンがガーナで承認
(2023年4月13日発表)

インドの大手ワクチン製造会社、Serum Institute of India(SIIPL)は、R21/Matrix-Mワクチンがガーナで承認されたと発表した。オックスフォード大学がNovavax(Nasdaq:NVAX)のMatrix-Mアジュバントを利用して開発したマラリア・ワクチンで、今回が世界初承認。5~36ヶ月児に、当初免疫は3回、一年後にもう一回、接種する。後期第2相試験では1年間の感染リスクを77%抑制した。WHOが目標とする75%予防を達成したのは初めて。但し、WHOは未だ事前認証しておらず、第3相試験も今年、結果が出る見込みなので、勇み足感もある。

マラリアはサブサハラ・アフリカ地域で年40~50万人が死亡する。ワクチンはGSKのMosquirixが昨年、WHOの事前認証を取得し、UNICEFと3年間に1800万回分を最大1.7億ドルで供給する契約を結んだ。

R21/Matrix-Mのほうが効果が高そうなので、第3相で再現されれば、主流になっていくのではないか(Mosquirixの対象は生後6週から17ヶ月児とやや異なるが)。

リンク: SIIPLのプレスリリース

【主なFDA審査期限、諮問委員会(23年4月)】


PDUFA:
  • 23年4月 Emergent BioSolutionsのAV7909(炭疽ワクチン)
  • 23/4/24 第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固めに適応拡大)
  • 23/4/25 バイオジェンのBIIB067(tofersen、SOD1変異のある筋萎縮性側索硬化症)
  • 23/4/26 Seres TherapeuticsのSER-109(クロストリディオイデス・ディフィシル再燃の抑制)
  • 23/4/30 アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン欠乏症)

  • 諮問委員会:
  • 23/4/17 AMDAC(Entasis Therapeuticsのsulbactam-durlobactam、アシネトバクター感染症)
  • 23/4/28 ODAC(アストラゼネカのLynparza(olaparib)、転移CRPCにabiraterone併用)




  • 今週は以上です。

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