2022年5月8日

第1049回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • パキロビッドの曝露後予防試験がフェール 
  • FDA、パキロビッドの使い方について一言 
  • FDA、JNJのワクチンの適応を大幅縮小 
  • その他の領域: 
  • Clovis、PARP阻害剤の適応拡大申請にFDAが後ろ向き 
  • ユルトミリスのNMOSD試験も成功 
  • フォシーガもHFpEF試験が成功 
  • バイエル、ニュベクオの適応拡大を申請 
  • イミフィンジを胆道癌に適応拡大申請 
  • オラペネムの新規塩はFDAがエビデンスに疑問 
  • Axsomeの片頭痛治療薬はCRL 
  • 中国発の抗癌剤がまた承認されず 
  • ハチソン、VEGFR阻害剤が承認されず 
  • エンハーツが二次治療薬に昇進 
  • タケキャブが8年遅れで米国でも承認 
  • トリエンチンの新規塩が承認 


【COVID-19関連】


パキロビッドの曝露後予防試験がフェール
(2022年4月29日発表)

ファイザーはCOVID-19治療薬PAXLOVID(nirmatrelvir錠とritonavir錠の抱き合わせ製品)の第2/3相EPIC-PEP試験がフェールしたと発表した。ウイルス検査で確認された症候性COVID-19感染者と同居していた、無症状かつ検査陰性の成人2957人を組入れて、5日コース群と10日コース群の発症かつ陽性判定となるリスクを14日間にわたって追跡したところ、相対リスク削減率が偽薬比各32%と37%になったものの、有意水準には達しなかった。

敗因は明らかではない。現在の主流株であるオミクロンは抗ウイルス薬の効果が感じられ難いところがある。PAXLOVIDは軽中等症感染者の入院・死亡リスクを抑制するが、オミクロン株は元々リスクが小さいのでNumber-Needed-to-Treatが大きくなる。感染力は高いが無症状で済むことも多いので本試験のように症候性感染に絞り込むと検出力が足りなくなる恐れがある。まあ、どちらの用途でもPAXLOVIDで治療する意義がデルタ株などと比べて小さいことにはなるのだが...

因みに、リジェネロン/ロシュの抗SARS-CoV-2抗体、REGEN-COV(casirivimab、imdevimab、和名ロナプリーブ)は、暴露後予防試験で発症率が1.5%と偽薬群の7.8%より81%低かった。観察期間は4週間だが半分以上は第1週の発症だった。但し、この試験が行われたのはオミクロンの流行前だ。オミクロンはREGEN-COVに感受しないため、EUA(非常時使用認可)が適用されない。

リンク: ファイザーのプレスリリース


FDA、パキロビッドの使い方について一言
(2022年5月4日発表)

FDAのJohn Farley感染症部ディレクターは、PAXLOVIDを使う医療従事者向けに幾つかの見解を示した。ファイザーやエキスパートの意見が確立した知見ではないことを示す目的であるようだ。

注目されるのは、まず、ブレークスルー感染時の再投与/延長コースの当否。臨床試験では5日コース完了・PCR検査陰転後に陽転する現象がPAXLOVID群や偽薬群の患者の1~2%で発生した。多くは無症状で入院・死亡には繋がらなかった。抗菌剤なら投与を再開したり他の抗菌剤に切り替えるところだが、PAXLOVIDは10日コースに延長したり投与再開したりする事例があるようだ。

しかし、Farley博士は、そのような使用法の便益を示すエビデンスがないことを指摘した。PAXLOVIDでは確認されていないが、3CL阻害剤は耐性ウイルスを選択する潜在的なリスクがあるので、漫然と継続することを懸念した面もあるのではないか。

もう一つはワクチンとの関係。PAXLOVIDは重症化リスクの高い患者に用いるが、リスク因子は変遷するので、ワクチン接種の有無も考慮するのが適切と述べた。承認の根拠となった第3相試験はワクチン未接種者を対象としており、接種者を組入れた試験の結果はまだ公表されていない。FDAは接種者に投与することも認めているが、見直し中なのかもしれない。

リンク: FDAの発表


FDA、JNJのワクチンの適応を大幅縮小
(2022年5月5日発表)

FDAはジョンソン・エンド・ジョンソンのCOVID-19ワクチン、Ad26.COV2.SのEUAを見直し、適応を、他のワクチンが利用不能、臨床的に不適、または本人が拒否、の場合に限定した。稀だが重篤なTTS(血小板減少を伴う血栓症候群)のリスクが見られ、治療を誤ると火に油を注ぐことになりかねないため。

このワクチンは26型アデノウイルスをベクターとしてSARS-CoV-2のスパイク蛋白遺伝子の一部を送り込み、体内で発現させる。FDAは21年2月にEUAしたが、CVST(脳静脈洞血栓症)などが報告されたため、2ヶ月後に接種の一時中止を勧告した。発生率は100万人に一人程度であったため便益が上回ると判断、再開を認めたが、12月になってCDC(米国疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種委員会)がBioNTech/ファイザーやモデルナのmRNAワクチンを優先して接種すべきと勧告。今回、FDAも追随した。

TTSは上記のCVST症例も含む包括的な概念で、血小板減少が見られるが、ヘパリン誘導性血小板減少症と同様に、ヘパリンを投与すると悪化するので厄介。FDAはTTSリスクをファクト・シート(処方情報類似の文書)の冒頭に記載させた。FDAのワクチン有害事象報告システムに届出された症例のうち60例がTTSと判定され、うち死亡例は9人。発生頻度は100万回当たり3例で、幅広い年齢層の、男女ともに発生しているが、比較的高いのは30~49歳の女性で100万回当り8回。発生は接種の1~2週間後とラグがあるようだ。

21年の売上高は24億ドル、JNJは今年の売上高を30~35億ドルと予想していたが、適応縮小が公表される前に撤回した。

リンク: FDAのプレスリリース

【今週の話題】


Clovis、PARP阻害剤の適応拡大申請にFDAが後ろ向き
(2022年5月5日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は2021年第1四半期財務報告書(10-Q)の中で、FDAがRubraca(rucaparib)の適応拡大申請に後ろ向きであることを公表した。前日の5月4日の決算発表リリースでは欧米で申請予定としか記されていなかったが、5月3日と4日のFDAとのミーティングでフィードバックがあったようだ。

Rubracaはファイザーからライセンスして開発したPARP阻害剤。BRCA変異のある卵巣癌や前立腺癌の一部と、難治白金感受卵巣癌の化学療法応答後維持療法に承認されている。様々な適応拡大試験のうち、進行卵巣癌の一次治療応答者を組入れた維持療法試験、ATHENA-MONOが成功、欧米で適応拡大申請する予定だった。主評価項目はHRD(相同組換え不全)を持つサブグループのPFS(無進行生存期間、担当評価)で、ハザードレシオ0.47、メジアン値は28.7ヶ月(偽薬群は11.2ヶ月)となり、成功時に行われるシーケンシャルな主評価項目であるintent-to-treatベースの検定でも各0.52と20.2ヶ月(同9.2ヶ月)となった。探索的に実施されたHRD陰性のサブグループ分析でも0.65、12.1ヶ月(同9.1ヶ月)と良さそうな結果が出ていた。

しかし、FDAは延命効果の確認を要求。必要イベント数の50%に達した段階で解析するよう求めた。現時点の進捗は25%で到達は2年後と予想されている。

全生存の直近の解析ではHRD陽性サブグループで0.96、intent-to-treatは0.97とのこと。

FDAは、それ以前に申請するなら諮問委員会を招集する考えを伝えたとのこと。諮問委員会は招集するのが原則なので、FDAが敢えて言及したということは、何か良くないデータがあるのだろう。米国は適応拡大試験の学会・論文発表だけでオフレーベル使用されることがあるが、FDAが入手するデータは遥かに多いので、諮問委員会で思わぬ事実を知らされることがある。

FDAが延命効果確認を求めたもう一つの理由は、BRCA変異を持つ卵巣癌の3次治療試験で全生存期間が化学療法より見劣りしたこと。主評価項目であるPFSのハザードレシオは0.639、p=0.001だったが、全生存のハザードレシオは1.55(95%信頼区間1.085-2.214)、メジアン値は19.6ヶ月(化学療法群は27.1ヶ月)だった。このデータを受けて欧州でもCHMPが3次治療における承認の再検討を開始、結論が出るまで新規に投与しないよう推奨している。

一次治療後維持療法は類薬であるアストラゼネカのLynparza(olaparib)やグラクソ・スミスクラインのZejula(niraparib)がPFSデータに基づき承認されている。FDAが方針を変えたのは上記に加えて、unmet medical needでないことや、PD-1/PD-L1阻害剤やPI3K阻害剤などで市販後薬効確認試験のフェールがしばしば発生していることも影響しているのだろう。

リンク: Clovisのform 10-Q

【新薬開発】


ユルトミリスのNMOSD試験も成功
(2022年5月5日発表)

アストラゼネカはUltomiris(ravulizumab-cwvz)の第3相NMOSD(視神経脊髄炎)試験が成功したと発表した。抗アクアポリン4自己抗体陽性の患者58人を欧米日亜の施設で組入れ、メジアン73週間治療したところ、誰も再発しなかった。Soliris(eculizumab)の同様な試験の偽薬群(年率再発率0.350)と比べ有意に少なかった。

UltomirisはSolirisの効果の持続性を高めたもの。後者の特許切れ対策として一つ一つ、適応症をキャッチアップさせてきた。上記試験でSolirisの年率再発率は0.016だったので、効果の差は歴然としないが、投与頻度が少ない長所は残る。

リンク: 同社のプレスリリース


フォシーガもHFpEF試験が成功
(2022年5月5日発表)

アストラゼネカはFarxiga(dapagliflozin)の第3相DELIVER試験が成功したと発表した。左室駆出率が40%超の心不全で二型糖尿病ではない患者を組入れたアウトカム試験で、心血管死/心不全入院/心不全救急のイベントリスクが偽薬を下回った。適応拡大に向かう見込み。

同じSGLT阻害剤であるベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのJardiance(empagliflozin)も類似した試験が成功、心血管死/心不全入院のハザードレシオは0.79だった。減少したのは入院イベントが主。また、左室駆出率があまり高くないサブグループのほうがハザードレシオが小さかった。Farxigaのデータがどの程度なのか注目される。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


バイエル、ニュベクオの適応拡大を申請
(2022年5月3日発表)

バイエルはNubeqa(darolutamide)をホルモン感受前立腺癌の転移後一次治療レジメンに追加する適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。欧日中でも申請中。

非ステロイド系のアンドロゲン受容体アンタゴニストで、転移していないが高リスクの去勢抵抗性前立腺癌にGnRH作用剤などと併用することが米欧日で承認されている。今回の申請はARASENS試験に基づくもので、docetaxelとアンドロゲン枯渇療法に追加したところ、全生存期間のハザードレシオが偽薬追加群比0.68、p<0.001だった。

リンク: 同社のプレスリリース


イミフィンジを胆道癌に適応拡大申請
(2022年5月4日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を進行胆道癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年第3四半期。第3相のTopa-1試験に基づくもので、gemcitabineとcisplatinに追加したところ、全生存期間のハザードレシオが0.80、メジアン値は12.8ヶ月(偽薬追加群は11.5ヶ月)、2年生存率は25%(同10%)だった。PFSのハザードレシオは0.75、メジアンは7.2ヶ月(同5.7ヶ月)。2年生存率以外のデータはそれほどでもないが、深刻な癌なので軽視できない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


オラペネムの新規塩はFDAがエビデンスに疑問
(2022年5月3日発表)

Spero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)はSPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)を複雑尿路感染症の治療薬としてFDAに承認申請したが、6月27日の審査期限を前に、FDAが薬効のエビデンスが不十分と見做していると公表した。3月に、申請内容に欠陥がありレーベルや市販後コミットメントの協議に進めない旨の通知があったので、サプライズではない。

臨床試験では奏効率がertapenem比非劣性だったが、FDAの感受性分析では異なった結果になったようだ。

この試験はCOVID-19の影響を理由に非劣性マージンが当初計画の10%から12.5%に緩和された。結果は試験薬群のほうが3.3%低かったが、95%上限は9.7%なので、閾値が10%でも成功は成功だがボーダーライン上となる。

SPR994はMeiji Seikaファルマからライセンスした、オラペネム(テビペネム ピボキシル)の新しい塩。

リンク: Spero社のプレスリリース


Axsomeの片頭痛治療薬はCRL
(2022年5月2日発表)

米国NY州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)はAXS-07を片頭痛治療薬として承認申請していたが、CRL(審査完了通知)を受領した。FDAから問題点の指摘がありCRLに終わりそうであることが4月に発表済みなので意外ではない。指摘事項は製品や生産プロセスに関するもので、臨床試験の実施は求められていない由。

AXS-07はNSAIDのmeloxicamと5-HT1作動剤rizatriptanの合剤。

リンク: 同社のプレスリリース


中国発の抗癌剤がまた承認されず
(2022年5月2日発表)

上海君実生物医薬(Junshi Biosciences、HKSE:1877)と米国のCoherus BioSciences(Nasdaq:CHRS)は抗PD-1抗体toripalimabを上咽頭癌用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。品質や生産プロセスの変更が求められたが、対処は可能で、22年央に修正承認申請を提出する計画。但し、中国の渡航制限で立ち入り調査ができないこともボトルネックになっている。

toripalimabは18年に中国で悪性黒色腫の二次治療に承認、他の中国企業の抗PD-1抗体とともに、価格競争力を武器に高いシェアを取った。FDAは中国だけで実施された臨床試験に基づく承認申請に懐疑的な姿勢に転じ、次項のsurufatinibも含めて、承認されない事態が連続している。toripalimabの一次治療gemcitabine・cisplatin併用試験は中国以外の施設も参加しており、上咽頭癌の症例は主として東南アジアであることから、同一視できないと考えていたが、別の理由で残念な結果になった。

リンク: 両社のプレスリリース


ハチソン、VEGFR阻害剤が承認されず
(2022年5月2日発表)

和黄医薬(Hutchmed、Nasdaq:HCM)は米国でsurufatinibを神経内分泌腫瘍(NET)用薬として承認申請していたが審査完了通知を受領した。中国で実施された膵NETとそれ以外のNETの試験、そして米国のブリッジング試験に基づいて申請したが、FDAは患者背景が米国と異なることや渡航制限により立ち入り調査できないことなどを指摘。中国以外の施設も参加する多地域臨床試験の実施を推奨した。

suruftinibはVEGFR阻害剤。類薬が存在することもFDAの判断に影響したのではないか。

欧州でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


エンハーツが二次治療薬に昇進
(2022年5月5日発表)

FDAは第一三共がアストラゼネカと共同開発販売している抗体薬物複合体、Enhertu (fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を成人のher2阻害剤による治療歴を持つ転移性乳癌に用いることを承認した。また、3次治療に用いる加速承認を本承認に切り替えた。

先に発売されたロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)と比較した臨床試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立評価)のハザードレシオが0.28だった。全生存期間の解析は未成熟だがハザードレシオは0.56と好ましい数値が出た。

日欧でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース


タケキャブが8年遅れで米国でも承認
(2022年5月3日発表)

Phathom Pharmaceuticals(Nasdaq:PHAT)はVoqueznaのトリプル・パックとデュアル・パックがFDAに承認されたと発表した。ピロリ菌の除菌に用いる。日本で14年に承認された武田薬品のタケキャブが含有するカリウムイオン競合型アシッドブロッカー、vonoprazan錠と、前者はamoxicillinカプセルとclarithromycin錠、後者はamoxicillinカプセルだけを同梱したもの。

臨床試験では除菌奏効率がvonoprazanの代わりにlansoprazoleを用いた群と非劣性だった。第3四半期にロンチする予定。

同梱の必然性は不明だが、私の場合、lansoprazoleだけ口腔内急崩壊錠という訳の分からない組み合わせだったので、一理あるのかもしれない。

vonoprazanはびらん性食道炎や胸やけの治癒や寛解維持にも承認申請中。

Phathomはスミスクラインやグラクソ・スミスクラインの新薬開発を長年牽引し武田薬品の取締役を務めたこともある故山田忠孝氏がFrazier Healthcare Partnersの後押しで設立した会社。

リンク: 同社のプレスリリース


トリエンチンの新規塩が承認
(2022年5月2日発表)

フランスのOrphalan SAはFDAがCuvrior(trientine tetrahydrochloride)をウィルソン病治療薬として承認したと発表した。

この常染色体劣性遺伝による希少疾患の治療はペニシラミンが70年の使用歴を持つ第1選択だが、3分の1を占める不耐患者にはトリエンチンが30年以上に亘り利用されている。Orphalanは欧州で新規の塩を開発、Cuprior名で5歳以上の患者に販売している。今回の四塩化物は第3相のスイッチ試験で24週後の血清NCC(非セルロプラスミン銅)がd-penicillamine継続群比非劣性だったが、銅の24時間尿排出量は274mcg対511mcgで有意に少なかった。臨床試験のデザインや結果が影響したのか、適応はトリエンチンの本来の位置付けと異なる、ペニシラミンに耐容する脱銅した安定ウィルソン病の成人となった。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

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