2022年2月26日

第1039回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • オミクロン株対応のため予防用抗体カクテルの用量を倍増 
  • BA.2流行に備えて治療用抗体の適応に関する文言を一部改訂 
  • mRNAワクチンの二回目は8週後のほうが良い? 
  • タバコ培養型ワクチンがカナダで承認 
  • 吸入用ベータ・インターフェロンの第3相がフェール 
  • その他の領域: 
  • エンハーツ、her2低発現乳癌の第3相が成功 
  • アッヴィ、cariprazineを鬱病のアジャンクトに適応拡大申請 
  • マリンクロットの肝腎症候群用薬は今回も審査完了通知 
  • CHMP、ブドウ膜黒色腫用薬などの承認を支持 
  • ジャディアンスが駆出率保持心不全にも承認 


【COVID-19関連】


オミクロン株対応のため予防用抗体カクテルの用量を倍増
(2022年2月24日発表)

FDAはアストラゼネカのEvusheld(tixagevimab、cilgavimab同梱製品)について、初回の投与量を各剤300mgずつと、従来比倍増した。ワクチンに応答し難いまたは不耐不適な人に使うCOVID-19感染予防用の抗SARS-CoV-2抗体カクテルで、昨年12月にEUA(非常時使用認可)されたが、オミクロン株(BA.1とBA.1.1)に対する中和力価が低下することが判明したため、見直した。3mlずつと投与量が増えるため、臀筋などに注射する。

既に150mgずつ筋注済みの人は速やかに150mgずつ追加する。必要に応じて6ヶ月毎に再投与することができることになっているが、流行株が変遷する可能性もあるため、現時点では適切な投与間隔や用量は不明とのことだ。

尚、BA.2型には力価低下は見られないようだ。

米国は日本と同様にBA.2型ではなくBA.1.1型が主流になった。CDC(米国疾病管理予防センター)によると、2月13日に始まる週の構成比は、BA.1.1が75.6%、B.1.1.529(BA.1)が20.6%、BA.2が3.8%を占め、デルタなど他の株は検出されなかった。

リンク: FDAのプレスリリース


BA.2流行に備えて治療用抗体の適応に関する文言を一部改訂
(2022年2月25日)

FDAはグラクソ・スミスクラインがVir Biotechnology(Nasdaq:VIR)から導入・開発して軽中等症COVID-19感染の重症化・死亡リスクを抑制する薬として販売しているsotrovimab(欧州などの商品名Xevudy、日本ではゼビュディ)の適応に関する文言を一部改訂した。この薬に感受しない変異株が流行している地域で用いることは認められない、というもの。但し、現時点ではどの地域も該当しないとのこと。

他の抗SARS-CoV-2抗体は、感受しない株が散見されるようになったため、既に同様な文言が導入され、州毎の利用可否一覧表が定期的にアップデートされている。sotrovimabはオミクロン株にも活性を維持している貴重な医薬品だが、BA.2株に対する力価は10倍以上低下すると言われており、この機会に文言の足並みを揃えたのだろう。

リンク: FDAのプレスリリース


mRNAワクチンの二回目は8週後のほうが良い?
(2022年2月22日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は、mRNAワクチンの初回と二回目の投与間隔について、12歳以上の一部の人には8週間が至適かもしれないと結論した。暫定ガイドラインに文言を追加した。

BioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran)は3週後、モデルナのSpikevaxは4週後に接種という従来の勧告は維持しているが、特に12~39歳の男性については、ごく稀な心筋炎のリスクが他の年齢層や女性より高いため、接種間隔を空けても良いと判断した。効果に関するある程度のエビデンスもあるとのことだ。

心筋炎を懸念してワクチン接種を忌避する人を懐柔するために8週後にしても良いと言っているのか、12~39歳の男性は8週後にした方が良いと考えているのか、明確にしてほしいものだ。

参考:COVID-19関連売上高
(2021年、百万ドル)
製品名メーカー売上高
ワクチン:
Comirnatyファイザー36,781
同 22年予想 32,000
Spikevaxモデルナ17,675
同 22年予想 22,000
Vaxzevriaアストラゼネカ3,981
Ad26.COV2.SJNJ2,385
抗SARS-CoV2抗体:
Ronapreveリジェネロン5,828
イーライリリー2製品イーライリリー2,239
XevudyGSK1,322
その他:
Vekluryギリアド5,565
Actemraロシュ3,898
注:予想は会社予想。

リンク: CDCのプレスリリース


タバコ培養型ワクチンがカナダで承認
(2022年2月24日発表)

田辺三菱製薬のカナダの子会社であるMedicagoとグラクソ・スミスクラインは、ヘルス・カナダ(カナダの厚生省)がCovifenzを18~64歳向けのCOVID-19ワクチンとして承認したと発表した。SARS-CoV-2のスパイク蛋白のVLP(ウイルス様粒子)遺伝子をベンサミアナ・タバコに導入して培養・精製した抗原と、グラクソ・スミスクラインのパンデミック用アジュバントを含有している。3.75mcgを21日置いて二回筋注する。約2万人を組入れた第3相試験ではCOVID-19感染率が0.37%(39人)と偽薬群の1.23%(118人を)下回り、ワクチン効率は71%だった。抗原ワクチンなので冷蔵保存可能。

上記試験はデルタ株やガンマ株が中心だった地域・時期に行われた。オミクロン株に対する免疫原性が気になるが、カナダの添付文書には言及されていない。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Covifenzの概要(ヘルス・カナダ)


吸入用ベータ・インターフェロンの第3相がフェール
(2022年2月21日発表)

Synairgen(LSE AIM:SNG)はSNG001(interferon beta-1a、吸入)の第3相COVID-19試験がフェールしたと発表した。罹患期間も重症化・死亡リスクも偽薬群と大差なかった。NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導するACTIV-2外来治療試験は第3相ポーションにステージアップしており、抗ウイルス剤は感染初期で軽症の患者のほうが効果を発揮しやすいので、結果が注目される。

SNG001は第2相二重盲検偽薬対照試験でOSCI(WHOのCOVID-19感染症症状評価序数)の改善オッズ比が2.32、p=0.033、重症化はオッズ比0.28、p=0.064と好ましい効果を示し、入院患者623人を組入れる第3相に進んだ。しかし、共同主評価項目のうち28日退院ハザードレシオは1.06、28日回復ハザードレシオは1.02とどちらも偽薬並みだった。副次的評価項目は35日重症化・死亡オッズ比が0.69、35日死亡オッズ比は0.79と悪くない数値が出たが、統計的に有意ではなかった。

第2相試験当時は用いられていなかった全身性ステロイドをベースライン時点で87%の被験者が用いていたことが影響したのではないかと会社側は考えている。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


エンハーツ、her2低発現乳癌の第3相が成功
(2022年2月21日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の第3相DESTINY-Breast04試験が成功したと発表した。her2陽性だがher2標的薬が適応になるほどではない乳癌の治療に新たな選択肢になる。

Enhertuは抗her2抗体とイリノテカン誘導体を結合した抗体薬物複合体。her2陽性の切除不能/転移性の乳癌・胃癌の3次治療薬として承認されている。

今回の試験はIHC法で1+、または2+且つFISH法で陰性の、治療歴を持つ切除不能/転移性乳癌540人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師が選んだ化学療法薬と比較した。主評価項目であるホルモン受容体陽性サブグループ480人の解析が成功。副次的評価項目の全集団の解析や、全生存期間の同サブグループおよび全集団の中間解析も成功した。数値は未公表だが、臨床的にも意味のある改善が見られた由。適応拡大申請に向かうだろう。

抗her2抗体は当初はIHC法で2+以上なら適応になったが、FISH法と組み合わせることでリファインできることが判明したため、今日では、2+の場合はFISH検査を行って陽性なら適応と判定するようになった。今回の試験は、このher2陽性癌の常識を打ち破り適応範囲を拡大する意義がある。尚、her2検査は判定の個人差が指摘されているが、本試験は中央判定した。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


アッヴィ、cariprazineを鬱病のアジャンクトに適応拡大申請
(2022年2月22日発表)

アッヴィはVraylar(cariprazine)を難治鬱病のアジャンクト・セラピー(抗鬱剤治療を受けている患者に追加投与する)としてFDAに適応拡大申請した

ハンガリーのゲデオン・リヒターから北米の権利を取得して統合失調症の急性期治療と維持療法、そして双極障害I型の鬱病治療の薬として販売している。日本は田辺三菱製薬がライセンスを返還し、昨年、アッヴィが開発・商業化計画を公表した。

難治鬱病は後期第2相フレキシブル・ドウス試験で1~2mg/日の群のMADRSが偽薬比有意に改善したが、3-4.5mg/日群はフェールした。アッヴィが実施した第3相試験二本は3mg群はどちらもフェール、1.5mg群は一勝一敗だった。鬱病の試験は勝ち星を二つ挙げることが重要で、勝率は、よほど低くない限り、問われない傾向がある。1~2mg/日のレンジで二勝したので、3mgのフェールの原因が忍容性(薬効が発揮される前にドロップアウトしてしまう)であるならば、承認される可能性があるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


マリンクロットの肝腎症候群用薬は今回も審査完了通知
(2022年2月22日発表)

マリンクロット(NYSE:MNK)は選択的V1受容体作動剤terlipressinをI型肝腎症候群(HRS)用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知(CRL)を受領した。一回目のCRLは便益と危険に関する情報不足を指摘されたが、今回は工場問題がボトルネックのようだ。同社によると、過去2週間に新しい包装・ラベル工場を特定する必要が生じ、FDAの査察が間に合わないため、承認が見送られた。

terlipressinは合成バソプレシン。欧州の一部の国やオーストラリアでHRSまたは合併症である食道静脈瘤性出血の治療薬として承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、ブドウ膜黒色腫用薬などの承認を支持
(2022年2月25日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ブドウ膜黒色腫用薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら1~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

英国のImmunocore(Nasdaq:IMCR)が開発したKimmtrak(tebentafusp)は切除不能/転移ブドウ膜黒色腫の初めての薬。HLA-A*02:01型の成人に用いる。カフカス人種の5割がこのHLA型を持つとされる。日本人は1割程度のようだ。米国では1月に承認された。

T細胞受容体と抗CD3抗体フラグメント、そして、このHLA型が抗原提示する黒色腫抗原、gp100を結合した融合蛋白。週一回点滴静注した第3相試験では、メジアン生存期間が21.7ヶ月と、主としてKeytrudaをオフレーベル投与した対照群の16ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.51だった。

CHMPは、抗癌剤に習熟しサイトカイン放出症候群に備えのある医師が即時蘇生措置の可能な施設で施行することを求めている。

リンク: EMAのプレスリリース

米国に本社を、イスラエルに工場を持つVBI Vaccines(Nasdaq:VBIV)のPreHevbriはB型肝炎ワクチン。代表格のEngerix-Bと同様に三回接種するが、抗原が一種類を20mcgではなく3種類を10mcgずつ配合されていることが特徴。Engerixと同様にアルミ・アジュバントを使用している。第3相では抗体保有率が91.4%となり、Engerix-B群は76.5%だった。米国では昨年、PreHevbrio名で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

Vifor Fresenius Medical Care Renal PharmaのKapruvia(difelikefalin)は透析期慢性腎疾患の中重度掻痒治療薬。血液透析時にボーラス注入する。有害事象は高カリウム血症、傾眠、知覚異常、めまいなど。Cara Therapeutics(Nasdaq:CARA)からフレゼニウスの米国の透析センタや欧州での商業化権を取得した末梢作用性カッパ・オピオイド受容体アゴニストで、米国では昨年承認、丸石製薬が導入しキッセイ薬品と共同開発している日本では1月に第3相の成功が発表されたところ。

リンク: EMAのプレスリリース

大日本住友製薬が19年に子会社化したMyovant SciencesのOrgovyx(relugolix)はGnRH受容体アンタゴニスト。成人の進行性ホルモン感受前立腺癌に用いる。一日一回経口投与した臨床試験では去勢奏効率が96.7%とleuprolideのデポ製剤(22.5mg、但し日台は11.25mg)を3ヶ月毎に皮注した群の88.8%と非劣性だった。米国は20年12月に承認、日本はライセンス元の武田薬品が第3相段階。

relugolixは子宮筋腫、内膜腫の治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)のVydura(rimegepant)はCGRP受容体アンタゴニストの凍結乾燥による口腔内崩壊錠。成人の片頭痛の、急性期治療や、月4回以上発作のある反復性患者の発作予防に用いる。ブリストル マイヤーズ・スクイブから16年にライセンスして開発、米国では20年にNurtec ODT名で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin、和名パドセブ)はネクチン-4に結合する抗体とモノメチルアウリスタチンEの抗体薬物複合体。白金薬及び抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ成人の局所進行性/転移性尿路上皮癌に用いる。CHMPは昨年12月に肯定的意見をまとめたが、新たな安全性関連情報があった模様で、欧州委員会の要請に基づき再検討したとのこと。どのような情報なのかは不明。米国では19年12月に、日本でも昨年9月に承認された。

以下の適応拡大も肯定的意見を得た。

モデルナのSpikevax:COVID-19ワクチンの対象年齢に6~11歳を追加。

ファイザーのComirnaty:COVID-19ワクチンのブースター接種の対象年齢に12~17歳を追加。

ノバルティスのBeovu(brolucizumab、和名ベオビュ):糖尿病性黄斑浮腫による視力低下を適応追加。

イーライリリーのVerzenios(abemaciclib、和名ベージニオ):成人のホルモン受容体陽性her2陰性早期乳癌の術後アジュバント療法を適応追加。再発リスクが高くリンパ節転移のある癌の摘出術後に内分泌療法と併用する(閉経前/周閉経期の女性はアロマターゼ阻害剤及びLHRHアゴニストと併用)。

ブリストル マイヤーズ・スクイブのOpdivo(nivolumab):成人のPD-L1陽性(≧1%)筋層浸潤尿路上皮癌の切除術後アジュバント。米国では昨年8月にPD-L1不問で適応拡大した。

同:成人のPD-L1陽性(≧1%)切除不能進行性、難治性、転移性食道扁平上皮腫の一次治療。fluoropyrimidine及びcisplatin、あるいはYervoy(ipilimumab)と併用する。日本でも適応拡大申請中。

【承認】


ジャディアンスが駆出率保持心不全にも承認
(2022年2月24日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同開発販売しているSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin)の慢性心不全における左室駆出率低下型限定を解除した。NYHAクラスII-IVの心不全のうち、駆出率が40%未満に低下した患者だけでなく、40%以上に使うことも可能になった。

40%以上の患者約6000人を組入れたEMPEROR-Preserved試験で、心不全で入院したり心血管因により死亡したりするハザードレシオが0.79、p<0.001だった(発生率は13.8%、偽薬群は17.1%)。

65%以上の患者に対する効果は明確でなかった模様だ。閾値が曖昧で駆出率を用いること自体の妥当性も議論されているが、リスクの小さい患者ほど便益が小さくなる、あるいは、明確ではなくなると考えるべきなのだろう。

Jardianceは二型糖尿病の成人の血糖管理や心血管疾患リスク抑制などにも承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

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