2022年2月19日

第1038回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • リムパーザ、ザイティガ併用でmCRPCの進行を抑制 
  • ゼジューラ、ザイティガ併用はHRR変異のあるmCRPCの進行を抑制 
  • omecamtivの二本目の心不全試験はフェール 
  • Sage社のデュアルADT試験が成功も効果の持続性に疑問が残る 
  • デュピクセントのゾレア不応不耐蕁麻疹試験がフェール 
  • 長期作用性抗RSV抗体をEUで承認申請 
  • Mirati社、KRAS G12C阻害剤を承認申請 
  • her2エクソン20変異型NSCLC用薬を承認申請 
  • ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬が承認 


【新薬開発】


リムパーザ、ザイティガ併用でmCRPCの進行を抑制
(2022年2月14日発表)

アストラゼネカと開発販売パートナーのMSDは、Lynparza(olaparib)の第3相PROpel試験が中間解析で成功認定されたことを昨年9月に公表したが、データをASCO泌尿器癌カンファレンスで発表した。化学療法未施行の転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)の治療法の一つであるヤンセンのZytiga(abiraterone)とprednisoneのレジメンにLynparzaを追加するとrPFS(放射線学的無進行生存期間)を延ばせることを示した。

主評価項目である治験医評価に基づくrPFSはハザードレシオが0.66、p<0.0001、メジアン値は24.8ヶ月と偽薬追加群の16.6ヶ月を上回った。副次的評価項目のうち全生存期間のハザードレシオは0.86と好ましい数値が出ているが、必要イベント数の29%しか到達していないため、まだ有意ではない。盲検独立中央評価に基づくrPFSはハザードレシオ0.61、メジアン値は各群27.6ヶ月対16.4ヶ月と、似たような結果になっている。

LynparzaはPARP阻害剤である種の卵巣癌や乳癌、そして、mCRPCでは相同組換え修復(HRR)関連遺伝子変異を持ちabirateroneなどによる治療後に進行した患者に用いることが欧米で承認されている。PROpel試験はHRR変異のない患者も組入れたが、rPFSの探索的サブグループ分析(n=552)でハザードレシオが0.76(95%上限0.97)と、HRR変異あり(n=226)の0.50よりは高いものの、良好な結果が出た。

リンク: 両社のプレスリリース


ゼジューラ、ザイティガ併用はHRR変異のあるmCRPCの進行を抑制
(2022年2月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンはTesaro(後にグラクソ・スミスクラインが買収)からライセンスしたPARP阻害剤Zejula(niraparib)をある種の卵巣癌向けに開発販売しているが、化学療法未治療のmCRPCに同社のZytiga(abiraterone)とprednisoneを併用するレジメンに追加する便益を検討した第3相試験の結果をASCO泌尿器癌カンファレンスで発表した。

相同組換え修復(HRR)関連遺伝子に変異のあるサブグループと無いサブグループにおける有効性を夫々検討するデザインになっていて、後者は中間で無益認定されたが、前者(n=423)はrPFS(放射線学的無進行生存期間、盲検独立中央評価)がハザードレシオ0.73、p=0.022と、高度ではないが統計的に有意な差があった。

有害事象による治験離脱率は10.7%と偽薬追加群の4.7%を上回った。

HRR変異型腫瘍にPARP阻害剤を使うと左足で立っている人の左足を蹴とばすような効果が期待できるかもしれないが、変異のないタイプにはあまり効かないかもしれない。Zejulaの治験成績は想定の範囲内だが、上記のように、LynparzaはHRR野生型にも有効だった。変異型におけるハザードレシオも見劣りする。何が違うのか不思議である。

リンク: JNJのプレスリリース


omecamtivの二本目の心不全試験はフェール
(2022年2月15日発表)

米国南サンフランシスコのCytokinetics(Nasdaq:CYTK)はCK-1827452(omecamtiv mecarbil)の第3相3METEORIC-HF試験がフェールしたと発表した。データはACC(米国心臓学会)で発表する予定。一本目のアウトカム試験が成功し米国で承認申請が受理されたばかりなのでサプライズだが、デザインは一本目のほうが良いので、現時点では、承認審査に大きな影響を与えるとは考えにくい。承認の期待確率は元々高くないが、もし承認された場合の商業的なポテンシャルが低下したと考えられる。

この試験は駆出率低下型慢性心不全(NYHAクラスII/III)で運動機能が低下した276人を組入れて試験薬(漸増目標50mg一日二回)と偽薬に2対1割付した。主評価項目はCPET(心肺運動負荷試験)のpVO2(最大酸素摂取量)。

一方、承認申請の根拠となるGALACTIC-HF試験は駆出率低下型慢性心不全(NYHAクラスII~IV)でナトリウム利用ペプチド上昇の見られる心不全入院中/過去1年間に入院/ER歴のある8256人を組入れて、心不全による入院/ER入室/心血管死を偽薬と比較した。結果はハザードレシオ0.92(95%信頼区間0.86-0.99)、p=0.0252、メジアン21.8ヶ月の発生率37.0%、偽薬群は39.1%だった。副次的評価項目の心血管死は両群同程度だった。

慢性心不全の治療は多くの薬を併用するため、もう一つ追加するハードルは高い。治験成績が今一つだったせいか、ライセンシーのアムジェンも、欧州でのサブライセンシーのセルビエも、GALACTIC-HF試験の結果判明後にライセンスを返還した。

リンク: 同社のプレスリリース


Sage社のデュアルADT試験が成功も効果の持続性に疑問が残る
(2022年2月16日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)と開発パートナーのバイオジェンは、SAGE-217/BIIB125(zuranolone)の第3相CORAL試験が成功したと発表した。鬱病の治療に際して担当医が新規に抗鬱剤を処方し、偽薬またはzeranoloneと併用する用法を検討したところ、主評価項目である第3日のHAMD17スコアのベースライン比低下が各群7.0と8.9となり、有意な差があった(p=0.0004)。副次的評価項目である期中平均値(第3、8、12、15日の平均)の低下も各群10.1と11.7となりp=0.0054。一方、元々の主評価項目である第15日の数値は12.9と13.7で有意差がなかった。

19年に産後鬱の治療薬として米国で承認されたZulresso(brexanolone)と同様なGABA A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーターで、点滴静注ではなく経口投与できるので外来治療にも適している。今回の試験の投与期間は14日間と短く、他の試験を見ても、専ら短期的な便益を検討しているが、効果が2週間も持たないなら残念なことだ。

リンク: 両社のプレスリリース


デュピクセントのゾレア不応不耐蕁麻疹試験がフェール
(2022年2月18日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズと開発販売パートナーのサノフィは、抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)の二本目の第3相慢性特発性蕁麻疹試験がフェールしたと発表した。omalizumabに十分に応答しない、または不耐の患者83人を組入れて二週毎皮注する効果を偽薬と比較したところ、副次的評価項目の多くで偽薬を数値上上回ったが、主評価項目で有意な差がなかった。

バイオ薬未経験の患者では138人を組入れた第3相と72人の前期第2相が成功しており、抗ヒスタミンだけでは症状を十分に管理できない患者に適応拡大する余地はあると思われる。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


長期作用性抗RSV抗体をEUで承認申請
(2022年2月17日発表)

アストラゼネカは、MEDI8897(nirsevimab)を乳幼児のRSV関連下部気道感染症予防薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。加速審査を受ける。米国でも承認申請中と推測される。

RSVは多くの人が感染するウイルスで、転帰はあまり悪くないが、低出生体重児や心臓や肺などに持病のある乳幼児は重症化リスクがあるため、同社の子会社であるMedImmuneが創製した抗RSV F蛋白抗体、Synargis(palivizumab)を冬場に月一回、筋注して予防する。

nirsevimabの特徴は、第一に、1シーズンに1回の筋注で足りること。第二に、在胎35週以下または慢性肺疾患や鬱血性心臓疾患を持つ乳幼児を組入れた試験だけでなく、在胎35週以上の健康な1歳未満を対象とした第3相MELODY試験も成功したこと。前者は最初の2回のRSV流行期に、後者は最初の流行期に、投与することを想定している。

アストラゼネカはサノフィと提携、自社が開発生産し、サノフィが商業化を主導する。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


Mirati社、KRAS G12C阻害剤を承認申請
(2022年2月15日発表)

Mirati Therapeutics(Nasdaq:MRTX)はMRTX849(adagrasib)を全身性治療歴のあるKRAS G12C変異陽性非小細胞性肺癌用薬としてFDAに承認申請し受理された。審査期限は12月14日。600mgを一日二回、経口投与した第2相試験で、ORR(客観的反応率、中央独立評価)が43%だった。

KRAS G12C阻害剤はアムジェンのLumakras(sotorasib、和名ルマケラス)ファーストインクラスで、日米欧で上記適応で承認されている。960mgを一日一回経口投与した第2相でORR(同)が36%だった。

LumakrasはFDAが優先審査で承認した。本承認ではない加速承認なのでMRTX849が優先審査指定されなかったのは意外。

リンク: Miratiのプレスリリース


her2エクソン20変異型NSCLC用薬を承認申請
(2022年2月11日発表)

米国ネバダ州に籍を置くSpectrum Pharmaceuticals(NasdaqGS:SPPI)はpoziotinibを米国で承認申請し受理された。審査期限は11月24日。

治療歴のあるher2エクソン20挿入変異陽性の局所進行性/転移非小細胞性肺癌に16mgを一日一回投与した第2相試験で確認ORRが27.8%、メジアン反応持続期間は5.1ヶ月だった。12%が有蓋事象で離脱した。

韓国のHanmi Pharmaceteuticalsから中韓以外の権利を取得したもの。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


ピルビン酸キナーゼ欠乏症治療薬が承認
(2022年2月17日発表)

FDAはAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のPyrukynd(mitapivat)をピルビン酸キナーゼ(PK)欠乏症の成人の溶血性貧血症治療薬として承認した。PK欠乏症は100万人に数人の希少遺伝性疾患。ATPの生成が阻害され赤血球の異常化・脾内補足による溶血症状や黄疸、胆石などを示す。

PyrukyndはPKのスプライシング多型の一つであるPKRのアロステリック・アクティベイター。50mg一日二回を目標に漸増滴定する。輸血の必要のない患者80人を組入れた偽薬対照試験でヘモグロビン奏効率(ベースライン比1.5 g/dL以上増加)が40%と偽薬群のゼロを上回った。有害事象による治験離脱は発生せず、4人(10%)で深刻有害事象が見られた(各、心房細動、胃腸炎、肋骨骨折、筋骨格痛)。

輸血依存27人を組入れた単群試験では奏効率(輸血量がベースライン比33%以上減少)が33%だった。22%の患者は輸血ゼロだった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Agios社のプレスリリース






今週は以上です。

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