2022年2月12日

第1037回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • オミクロン株にも有効な抗SARS-CoV-2抗体がEUA 
  • コミナティ、4歳以下の適応は先送り 
  • ノバルティス、画期的COVID-19治療薬のEUAを申請 
  • ファイザー、重症入院患者用3CLプロテアーゼ阻害剤は開発中止 
  • COVID-19関連売上高 
  • その他の領域: 
  • Karyopharm、selinexorの内膜腫試験成功 
  • アドセトリス、ホジキン型リンパ腫試験で高い延命効果 
  • ミオシン活性化剤を承認申請 
  • FDAも諮問委員会も初見の中国だけのデータは受け容れず 


【COVID-19関連】


オミクロン株にも有効な抗SARS-CoV-2抗体がEUA
(2022年2月11日発表)

FDAはイーライリリーのLY3853113(bebtelovimab)を重症化リスクのある軽中等症COVID-19の治療薬としてEUA(非常時使用認可)した。成人と、12歳以上かつ体重40k以上の青少年が適応になる。発症7日以内に175mgを30秒以上かけて一回、静注する。

同社にとって最初の抗SARS-CoV-2抗体であるbamlanivimabと同様にカナダのAbCellera Biologicsからライセンスしたもので、in vitroでオミクロン株やその派生とされるBA.2型を含む全ての既知の変異株に活性を示したことが注目点。類薬でオミクロン株に有効なのはグラクソ・スミスクラインのXevudy(sotrovimab)のみ。BA.2に有効性が確認されているものはない。

エビデンスは第2相試験のデータの外挿。発症から平均3.6日の低リスク患者380人を組入れたコフォートではモノセラピー群と同社の既存二剤と併用したトリプレット群のウイルス量の低下が偽薬群を上回り、メジアン罹患期間は各群6日、7日、8日だった。一方、29日間のCOVID-19関連入院・全死亡は各群1.6%(2人)、2.4%(3人)、1.6%(2人)と、低リスクであるが故にイベント数が少ないせいか、各群大差なかった。高リスク患者150人を組入れたコフォートの29日COVID-19関連入院・全死亡率はモノセラピー群が3%(3人)、トリプレットが4%(2人)、偽薬群は設定されていない。トリプレットを176人に投与したオープンレーベル試験では1.7%(3人)だった。

ウイルス量の変化を見てもトリプレットによる上乗せは小さいためモノセラピーで使うことになった。類薬と異なり入院・死亡リスクを抑制する効果が確立していないことと、低リスク患者試験も高リスク患者試験も入院・死亡率が大差ないことが印象的で、オミクロン株やBA.2に有効でなかったら、EUAが認められたかどうか分からないだろう。

類薬と同様に過敏反応や病状悪化リスクが警告注意事項になっている。有害事象発生率は低い。

米国のEUAは正式な承認ではなく、非常事態が鎮静化すれば消滅する。また、正式に承認された薬を使えない(臨床的に不適、または入手できない)場合にだけ用いるよう、各品のファクト・シート(添付文書)に明記されている。1月にギリアド・サイエンシズのVeklury (remdesivir)が上記と同じ適応症で承認されたので、法制上は、抗SARS-CoV-2抗体やファイザーやMSDの抗ウイルス薬の出番は少ないはずだが、FDAは逃げ道を用意している。Vekluryは一日一回、3日間に亘って点滴静注する必要があるため、完全に代替できる治療法ではない、と言うのだ。介護施設入居者など3日コースでも支障のない患者はどうか、などと野暮な突っ込みは自粛すべきだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース
リンク: bebtelovimabのファクト・シート


コミナティ、4歳以下の適応は先送り
(2022年2月11日発表)

BioNTech(Nasdaq:BNTX)/ファイザーはCOVID-19ワクチンComirnaty(tozinameran)の対象年齢拡大に積極的に取り組んでいて、現在の下限は5歳となっている。4歳以下は臨床試験の中間解析結果が今一つであったため、もう一回接種するプロトコル変更を行った。

ところが、FDAはEUAの一部変更申請を行うよう要請。2月15日に諮問委員会を招集すると発表した。どうしたことかと訝ったが、結局、両社はローリング申請を続けることを決定、FDAも諮問委員会を延期した。4月上旬に3回接種の結果がまとまるのを待つ考えだ。

3回接種の結果が4月上旬なら、2回接種の最終結果は2月上旬ごろだろう。つまり、方向転換したのは、最終成績が中間より更に失望的だった、または、接種者の血漿を用いた偽ウイルス試験でオミクロン株に対する力価が今一つだったからではないだろうか。2回でもある程度の効果が見込まれるならば、ブースター接種と同様に、有効性が確認された段階で3回目を追加的にEUAしても支障ないはずだからだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 両社のプレスリリース


ノバルティス、画期的COVID-19治療薬のEUAを申請
(2022年2月10日発表)

チューリッヒ大学発のバイオベンチャーであるMolecular Partners(SIX:MOLN)は、ノバルティスがMP0420(ensovibep)をFDAにEUA申請したと発表した。同社は天然のアンキリン繰り返し蛋白由来のDARPin蛋白を組み合わせて標的に結合・阻害する薬を創製する技術を持っている。SARS-CoV-2のスパイク蛋白の受容体結合領域の異なったエピトープに結合する三種類のDARPinを結合したのがensovibepだ。そのままだと半減期が短いためPEG化している。

第2/3相試験では発症7日以内で二つ以上の軽中等症状のある18歳以上の感染者を組入れて、3種類の用量の何れかを一回、点滴静注する効果を検討した。外来407人を組入れたパートAの解析が成功、偽薬群の入院/ER入室/死亡率が6.0%(99人中6人)であったのに対して試験薬群は1.3%(301人中4人)に留まった。死亡は各2人とゼロだった。最低用量の75mgを第3相ポーションでテストする予定。

酸素投与が必要な入院患者が対象のACTIV-3試験で採用され、中間解析で無益認定された点も含めて、抗SARS-CoV-2抗体に似ている。もし実用化され普及するならば、他の病気の治療薬を輩出できるかもしれない宝の山としてDARPin技術に期待が高まるだろう。

リンク: Molecular Partnersのプレスリリース


ファイザー、重症入院患者用3CLプロテアーゼ阻害剤は開発中止
(2022年2月8日発表)

ファイザーは2021年決算発表に合わせてPF-07304814の開発中止を発表した。元々はSARSの治療を想定してスクリーニングした点滴静注用の3CL(Mpro)阻害剤で、重症入院COVID-19の第2/3相試験を進めてきたが、これまでの治験実績などを考慮して決定した。トリガーになったのかどうかは不明だが、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)が主導するCOVID-19入院治療試験、ACTIV-3試験も、PF-07304814群の組入れを打ち切った。

抗ウイルス剤は感染初期の軽中等症患者の治療薬として複数のコンパウンドが実用化されたが、中等症・重症入院患者の試験は中々成功しない。ACTIV-3試験は他にもイーライリリーのbamlanivimab、Vir Biotechnology/GSKのsotrovimab、アストラゼネカのtixagevimab・cilgavimabカクテル、Brii BiosciencesのBRII-196・BRII-198カクテル、Molecular Partners/ノバルティスのensovibepと軒並みフェールしている。最初の3品は軽中等症患者の治療や予防でEUAされたので、効果がないわけではないだろう。炎症が亢進して呼吸障害などを合併した患者にはそちらの治療のほうが最優先なのか、それとも、remdesivirが標準療法になった今では抗ウイルス剤の上乗せ効果は限定的なのか、よくわからない。

リンク: 同社の決算発表プレスリリース


COVID-19関連売上高
(2022年2月12日作成)

製薬会社の2021年決算発表から、COVID-19ワクチンや治療薬の売上高をまとめた。果敢に挑戦した企業が獲得した果実の大きさに改めて驚かされる。日本企業もがんばれ!

COVID-19関連売上高(2021年、百万ドル)
製品名メーカー売上高
ワクチン:
Comirnatyファイザー36,781
Spikevaxモデルナ未発表
Vaxzevriaアストラゼネカ3,981
Ad26.COV2.SJNJ2,385
抗SARS-CoV2抗体:
Ronapreveリジェネロン5,828
イーライリリー2製品イーライリリー2,239
XevudyGSK1,322
その他:
Vekluryギリアド5,565
Actemraロシュ3,898
出所:各社資料より作成



【新薬開発】


Karyopharm、selinexorの内膜腫試験成功
(2022年2月8日発表)

Karyopharm Therapeutics(Nasdaq:KPTI)はselinexor(米国名Xpovio、欧州名Nexpovio)の第3相内膜腫維持療法試験が成功したと発表した。上期中に適応拡大申請する考え。

核外輸送蛋白のexportin 1を阻害して腫瘍抑制蛋白の蓄積を促すXPO1阻害剤で、多発骨髄腫などに用いることが承認されている。今回の試験は進行/再発内膜腫でタキサン系のフロントライン化学療法に部分反応以上した患者263人を80mg(BMI<20kg/m2は60mg)を週一回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けしてPFS(無進行生存期間、治験医評価)を比較した。結果はハザードレシオ0.7、p=0.0486、メジアン値は各5.7ヶ月と3.8ヶ月と、点推定値は良いものだったが統計学的な信頼性はそれほど高くはなかった。

selinexorは腫瘍抑制因子であるp53の蓄積をもたらす。事前に計画されていた、被験者のうちp53が変異していない103人のサブグループ分析では、ハザードレシオ0.38、p=0.0006、メジアン13.7ヶ月対3.7ヶ月と大変良い数値が出た。

有害事象による治験離脱率は10.5%だった。

発表されたデータは以上で、副次的評価項目のBICR-PFS(盲検独立評価に基づくPFS)や、p53変異サブグループの数値は不明。学会発表を待つことになる。

リンク: 同社のプレスリリース


アドセトリス、ホジキン型リンパ腫試験で高い延命効果
(2022年2月3日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)は 、Adcetris(brentuximab vedotin)の第3相古典的ホジキン型リンパ腫試験、ECHELON-1の副次的評価項目である全生存期間の解析結果を発表した。メジアン6年間の追跡でハザードレシオ0.59、p=0.009と、mPFS(修正無進行生存期間、第三者評価)に基づき成功認定された時の中間解析値である0.73より更に向上した。

ABVDレジメン(adriamycin、bleomycin、vinblastine、dacarbazine)のbleomycinに代えてAdcentrisを二週毎点滴静注するレジメンとABVDレジメンを比較した試験で、mPFSのハザードレシオは0.77と良い数値だがp値は0.035なので高度に有意ではなく、2年mPFS率は82.1%対77.2%でそれほど大きな差ではなかった。それだけに、全生存期間のハザードレシオは輝いており、メジアン値など詳細発表が待たれる。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


ミオシン活性化剤を承認申請
(2022年2月4日発表)

Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)はCK-1827452(omecamtiv mecarbil)を駆出率低下心不全の治療薬としてFDAに承認申請し、受理されたと発表した。優先審査ではなく、審査期限は11月30日。

心筋を駆動する心臓ミオシンを活性化する経口剤。クラスII~IVの心不全でLVEF(左室駆出率)が35%以下に低下した患者を組入れた第3相GALACTIC-HF試験で、心不全入院/ER入室/心血管死のハザードレシオが偽薬比0.92(95%信頼区間0.86-0.99)、p=0.0252と、臨床的にも統計学的にもまあまあな成績を挙げた。被験者の50%超を占めるLVEF≦28%のサブグループではハザードレシオ0.84(95%信頼区間0.77-0.92)と数値が上向くが28%超では同1.04(0.94-1.16)と好ましくない方向を向いていた。

CK-1827452はアムジェンがPOC試験後の09年にライセンスしたが、上記第3相の結果を公表した翌月、20年11月に、返還を決定した。

ミオシン標的薬ではブリストル マイヤーズ・スクイブが2010年に買収しMyoKardia社のMYK-461(mavacamten)を症候性閉塞性肥大性心筋症の治療薬としてFDAに承認申請中で、審査期限は3ヶ月延期され今年4月28日となっている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDAも諮問委員会も初見の中国だけのデータは受け容れず
(2022年2月10日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、中国のInnovent Biologics(HKEX:01801)がイーライリリーと共同開発し承認申請した抗PD-1抗体、sintilimabについて、意見を聞いた。委員のほぼ全員がエビデンス不足、追加試験を行うべしと判定した。

エビデンスとして提出されたのは、未治療の進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)患者397人を組入れて中国で実施されたORIENT-11試験。pemetrexedと白金薬を併用する当時の標準療法にsintilimabを追加した群のメジアンPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)が8.9ヶ月と偽薬を追加した群の5.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.48と大変よい成績を挙げた。

FDAも諮問委員も、患者背景が米国の人種構成と異なっている点を難じた。FDA側は、事前に臨床試験のデザインを相談していないことや結果の検証ができないこと、効果の高いKeytrudaの三剤併用レジメンが試験中に承認されたことを被験者に通知していないこと、ICH(医薬品規制調和国際会議)の複数のガイドラインから逸脱していることなども指摘した。

米国では中国企業の新薬承認申請が増加しており、順調に承認されたケースもある。アジア人だけの臨床試験に基づいて承認された先例としては、日本発の筋萎縮性側索硬化症治療薬、edaravoneが印象に残る。今回は意外な結果になったが、米国では既にKeytrudaのトリプレットが承認されていて、似たような効果を持つ似たような薬を急いで承認する必要はないという判断なのだろう。

尚、sintilimabは中国では18年に古典的ホジキン型リンパ腫の3次治療薬として初承認され、今回のNSNSCLCを含めて多くの癌に適応拡大された。中国では地元企業が抗PD-1抗体を安価に販売しており、イーライリリーは米国でも価格破壊を期していたが、お預けになった。

リンク: Innovent社のプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース






今週は以上です。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。