2018年7月22日

2018年7月22日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 塩野義のゾフルーザはインフルエンザ合併症も抑制 
  • ロシュ、テセントリクのアリムタ・白金薬併用試験が良好な結果に 
  • 武田、ニンラーロの維持療法試験が成功 
  • ダイエット補助薬の心血管アウトカム試験がフェール、否、成功 
  • Agios社、昨年のIDH2阻害剤に続いてIDH1阻害剤も承認 
  • マラリアの新薬が60年ぶりに承認 
  • ノバルティス、Kisqaliが適応拡大 



【新薬開発】


塩野義のゾフルーザはインフルエンザ合併症も抑制
(2018年7月17日発表)

塩野義製薬と海外の開発販売権を持つロシュは、夫々、インフルエンザ治療薬ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)のCAPSTONE-2試験の成功を発表した。喘息症や心臓病、高齢などのリスク因子を持つインフルエンザ患者を組入れて、ゾフルーザの治療効果を偽薬やタミフル(オセルタミビル)と比較したグローバル試験で、ゾフルーザはインフルエンザ罹病期間が偽薬比有意に短かった。二次的評価項目のウイルス排出期間やウイルス量の減少では偽薬だけでなくタミフルと比べても有意な差があった。

この試験の狙いは、合併症のリスクが高いが故にインフルエンザ治療の必要性が高い患者群に、ちゃんと効くか確認すること、即ち、合併症削減効果の確立だ。治験登録を見ると、副次的評価項目の17番目に、治療開始から22日間の合併症(入院、死亡、副鼻腔炎、中耳炎、気管支炎、または肺炎)の群間比較が列記されている。結果は、偽薬比有意に抑制された。

タミフルの試験でも合併症予防効果が示唆されたが、様々な理由で、確立したとは言えなかった。タミフルが海外で発売された頃は、高リスク患者以外にインフルエンザ治療を行うことは貴重な医療資源の浪費という意見が根強かったため、日米など以外の国では普及率が低かった。しかし、WHOが包括的なトリ・インフルエンザ対策を推進したり、実際に新型インフルエンザが流行した結果、プロアクティブな治療が広がり、合併症予防効果の重要性が低下した。

とはいえ、ロシュが今年6月に米国で行った承認申請の適応は16歳以上の合併症のないインフルエンザとなっており、今でも、こだわりが残っている。このため、ゾフルーザが期待に応えた意義は大きい。後述のダイエット補助薬とは対照的だ。おそらく、ロシュが改めて効能追加申請することになるのではないか。

尚、プレスリリースには合併症がタミフルより有意に少なかったとは記されていない。おそらく、有意な差はなかったのだろう。罹病期間も有意差はなかった模様であり、臨床的には決定的な差はないのだろう。むしろ、一日二回5日間ではなく一日一回の経口投与で済む利便性のほうが評価できるだろう。

リンク: 塩野義製薬のプレスリリース(和文、pdf)

ロシュ、テセントリクのアリムタ・白金薬併用試験が良好な結果に
(2018年7月19日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相IMpower132試験の主目的の一つであるPFS(無進行生存期間)延長効果が確認されたと発表した。もう一つの全生存期間はまだ中間解析で有意差が出ていないので、来年の解析を待つ必要がある。データは学会で発表される予定。承認機関と相談するとは記されていないので、今回のデータで適応拡大申請できるとは考えていないのではないか。

この試験は、末期非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療としてpemetrexedと白金薬(cisplatinまたはcarboplatin)の標準療法と更にTecentriqを追加する三剤併用の効果を検討した。PFSは担当医評価で第三者査読を受けていない。盲検試験ではないので、データの客観性は万全とは言えない。全生存期間の解析が共同主評価項目に設定されたのは、この弱点を補完する意図だろう。

尚、Tecentriqはこの用途ではpaclitaxel、carboplatin、bevacizumabと4剤併用で米国で承認審査中。

リンク: ロシュのプレスリリース

武田、ニンラーロの維持療法試験が成功
(2018年7月12日発表)

武田薬品は、Ninlaro(ixazomib cirate、和名ニンラーノ)の多発骨髄腫維持療法試験が成功したと発表した。適応拡大申請に進むのではないか。

このTOURMALINE-MM3試験は、大量化学療法と自家造血幹細胞移植による初治療が奏功以上だった患者を偽薬群とNinlaroに無作為化割付して、PFSを比較したもの。維持療法試験の成功はプロテアソーム阻害剤では初。

多発骨髄腫は薬の選択肢が増えたため二次治療、三次治療のために取って置く必要が低下し、初治療から三剤併用、四剤併用が可能になってきた。今回の維持療法も同じコンテクストだろう。承認されたら、患者の体力や再発リスクに基づいて選択の余地が広がる。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)

ダイエット補助薬の心血管アウトカム試験がフェール、否、成功
(2018年7月17日発表)

エーザイは、選択的5-HT2cアゴニストBelviq(lorcaserin)の心血管アウトカム試験、CAMELLIA-TIMI 61試験のポジティブなトップライン結果を発表した。16年に米国でダイエット補助薬として承認された時のフェーズIVコミットメントとして実施されたもので、8ヶ国の医療施設で心血管疾患またはリスク因子を持つ肥満またはオーバーウェートの12,000人を偽薬群とBelviq群に無作為化割付し、MACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中)を追跡した。

結果は、偽薬比非劣性となり、主評価項目である安全性が確認された。次に、拡大MACE(不安定狭心症による入院や心不全、冠再建術を追加)の優越性解析が行われたがフェールした。心血管疾患に関しては毒にも薬にもならないことになる。

二次的評価項目である血圧、脂質、血糖、腎機能などは有意に改善した。二型糖尿病発症も有意に減少した。

二型糖尿病予防効果は重要だが、それ以外の点では、何のためにダイエットを行うのかよくわからないことになる。心血管リスクの介入方法は生活習慣改善も含めて数多あり、ダイエット補助薬の限界効用は小さいということなのだろう。

尚、本試験の最大のテーマが安全性なのは、フェンフェン事件の連想だ。90年代に米国でdexfenfluramineとfenfluramineを併用するフェンフェンが減量薬として流行したが、肺高血圧症や心臓弁障害の副作用が表面化。集団訴訟となり、ワイスは200億ドルを超える賠償金を拠出した。Belviqは5-HT2c受容体に選択的で5-HT2b比で100倍とのことだったが、疑惑を解消することができなかった。

オリジンはArena Pharmaceuticals(Nasdaq:ARNA)。Arenaは他の二社とダイエット補助薬の開発を競ったが、結局、誰も成功しなかった。三社とも開発販売パートナーを求めたが、欧米企業は静観、エーザイがArenaと、武田薬品がOrexigen(今年3月にチャプター11申請)と、手を組んだだけだった。

英国のAlizymeもリパーゼ阻害剤cetilistatを開発していたが、日本以外では承認されず、経営破綻した。その日本でも満足な薬価が付かず、導入した武田薬品は、先日、権利返還を決めた。

リンク: Arenaのプレスリリース


【承認】


Agios社、昨年のIDH2阻害剤に続いてIDH1阻害剤も承認
(2018年7月20日発表)

FDAは、Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のTibsovo(ivosidenib)を難治再発AML(急性骨髄性白血病)用薬として承認したAMLの6-10%を占めるIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)変異型が適応で、アボットが申請していたRealTimeアッセイも同時に承認された。

承認の根拠となった第一相試験では、500mgを一日一回、経口投与したところ、CR/CRh(完全反応/血液学的改善以外完全反応)が174人中32.8%だった。輸血依存の110人のうち37%は56日以上輸血不要だった。

副作用では、命に係わることもある分化症候群のリスクが枠付き警告された。QT延長やギラン・バレー症候群も要注意。

同社は昨年8月にIDH2阻害剤のIdhifa(enasidenib)がIDH2変異型難治再発AML用薬としてFDAに承認されており、一年足らずの間に初承認と二回目の承認を獲得したことになる。Idhifaはセルジーン(Nasdaq:CELG)との共同研究の成果なのでマイルストーンと売上ロイヤルティをもらうだけだが、Tibsovoは単独開発販売。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Agiosのプレスリリース

マラリアの新薬が60年ぶりに承認
(2018年7月20日発表)

グラクソ・スミスクラインとMedicines for Malaria Ventureは、FDAがKrintafel(tafenoquine)を三日熱マラリアのラジカルキュア(根治/再燃予防)として承認したと発表した。マラリアの新薬は60年以上なかったとのこと。GSKは熱帯病優先審査バウチャーを獲得した(言うまでもなく、熱帯病用薬以外の承認申請にも使うことができる)。

三日熱マラリアは治癒しても将来、再燃するリスクがある。その原因である肝臓に潜む休止体に作用できるのがtafenoquineだ。chloroquineや artemisininなどによる抗マラリア治療を受けている16歳以上の患者に、300mgを一回投与する。1978年にWalter Reed Army Institute of Researchが発見、Medicines for Malaria Ventureと協力して開発してきた。

リンク: GSKのプレスリリース

ノバルティス、Kisqaliが適応拡大
(2018年7月18日発表)

ノバルティスは、FDAがCDK4/6阻害剤Kisqali(ribociclib)の適応拡大を承認したと発表した。昨年3月にホルモン受容体陽性her2陰性の閉経後転移性乳癌の一次治療としてアロマターゼ阻害剤と併用する薬として初承認されたが、今回、一次治療または二次治療としてfulvestrant併用や、閉経後、周閉経期、閉経後の一次治療としてアロマターゼ阻害剤及びgoserelinと併用することが認められた。

CDK阻害剤市場では先に発売されたファイザーのIbrance(palbociclib)の後塵を浴びており、適応は一つでも多く欲しいところだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース





今週は以上です。

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