2015年6月28日

海外医薬ニュース2015年6月28日


【ニュース・ヘッドライン】


  • オルプロリクス、EUでも承認申請受理
  • 経口ファブリー病薬がEUで承認申請受理
  • Relistorの経口剤を米国で承認申請
  • CHMPがアレクシオンやノバルティスの新薬の承認を支持
  • 米国のワクチン委員会がB群髄膜炎菌ワクチンを限定的に推奨
  • cangrelorが米国でも承認
  • エーザイのFycompaが強直間代発作に承認


  • 【承認申請】


    オルプロリクス、EUでも承認申請受理
    (2015年6月26日発表)

    バイオジェン(Nasdaq:BIIB)とSwedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)は、Alprolix(eftrenonacog、和名オルプロリクス)をEUで承認申請し受理されたと発表した。用途はB型血友病患者の出血治療・予防。血液凝固第IX因子と免疫グロブリンの定常領域を融合したもの。予防用途では既存の薬剤が週2~3回投与するのに対して1回あるいはそれ以下で足りることが長所。

    米国では昨年3月、日本でも7月に承認されたが、EUは成人だけでなく小児の適応も同時に申請するよう求めているため後になった。

    リンク: 両社のプレスリリース

    経口ファブリー病薬がEUで承認申請受理
    (2015年6月25日発表)

    アミカス・セラピュティクス(Nasdaq:FOLD)は、EUがAT1001(migalastat)の承認申請を受理したと発表した。承認されればファブリー病の経口剤としては初になる。米国でも今年後半に承認申請する考え。

    ファブリー病はアルファ・ガラクトシダーゼAという酵素の遺伝子異常が原因でグロボトリアオシルセラミド(GL-3)が分解されず臓器に蓄積、機能障害を齎す希少疾患。治療薬はジェンザイムの酵素補充療法、Fabrazyme(agalsidase beta)が2001~2004年に欧米日で承認された。二週間に一回点滴静注する。

    アミカスは、ファーマシューティカル・シャペロンの研究で有名な希少疾患用薬開発会社。折り畳み異常の蛋白に結合してその蛋白が働くべき場所(アルファ・ガラクトシダーゼAの場合はライソゾーム)に移行するのを助ける、経口投与できることが長所で、migalastatは150mgを一日二回服用する。

    ファブリー病の遺伝子変異は様々なタイプがありmigalastatに反応する患者としない患者があるようだ。第三相試験では事前にヒト胎児由来腎臓細胞アッセイを用いて薬物応答性を調べ、一定以上の改善を示した患者だけを組入れた。治験中にGLP(医薬品試験実施基準)に対応したアッセイが開発されたため途中で切り替えた。ファブリー病患者の3~5割が応答するようである。

    EUのガイダンスに基づいて実施した実薬対照試験では二種類の方法で腎濾過率を測定・推測したが、どちらもFabrazymeのような酵素補充療法群と大差なかった。一方、FDAとの相談に基づいて実施した偽薬対照試験では腎臓間質性毛細血管におけるGL-3蓄積量の変化を観察したが、主評価項目の半減達成率も二次的評価項目のメジアン減少率も有意ではなかった。観察期間が6ヶ月では足りなかったのか延長試験は良好な結果になったが、途中でアッセイを変えたことが影響している可能性もあり良く分からない。

    migalstatの開発を巡っては07年にシャイアと提携したが権利返還、10年にはグラクソ・スミスクラインと提携したがまた返還と、紆余曲折している。ファーマシューティカル・シャペロンの臨床開発品第一号であったisofagamineはゴーシェ病試験がフェールし開発中止になった。第二号の首尾はどうなるか、エビデンスが盤石ではないので不透明なところがある。

    リンク: アミカスのプレスリリース

    Relistorの経口剤を米国で承認申請
    (2015年6月23日発表)

    カナダのヴァレアント・ファーマシューティカルズ(NYSE:VRX)と米国のプロジェニクス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:PGNX)は、Relistor錠(methylnaltrexone bromide)を米国で承認申請したと発表した。オピオイド系鎮痛剤の副作用である慢性便秘の治療薬で、皮注用製剤は08年に米国で承認された。

    Relistorは脳血管関門を通過しない末梢選択的なミュー・オピオイド受容体拮抗剤で、オピオイドが腸の受容体を作動するのを妨げる。米国はオピオイドを常用する患者が1.2億人、うち慢性便秘を被る人は数百万人と推定されている。潜在的な市場規模は大きいはずだが、売上高は失望的。販売権を持っていたワイス(現ファイザー)は権利返還、サリックス(後にヴァレアントと合併)が承継した。日本の権利を持っていた小野薬品も提携解消した。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    CHMPがアレクシオンやノバルティスの新薬の承認を支持
    (2015年6月26日発表)

    EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品専門家委員会、CHMPは、6月の会議でアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)の超希少疾患用薬二剤と、ノバルティスの抗癌剤二剤の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: CHMPのプレスリリース

    アレクシオンのKanuma(sebelipase alfa)はリソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症の治療薬。リソソーム貯蔵疾患の一つで脂肪が肝臓や血管壁に蓄積、吸収不良や成長不全、肝臓合併症などを齎す。乳児発症型はWolman疾患とも呼ばれ、寿命は6か月未満と言われる。罹患率は50万出生に一人と推定されている。

    Kanumaはトランスジェニック雌鶏の卵管細胞にヒトLALを分泌させ卵白から回収したもの。LAL欠乏症の治療薬もトランスジェニック雌鶏が作る薬も初めて。日米欧で希少疾患用薬指定されている。臨床試験では肝機能検査値異常が改善し、肝臓脂肪や血中LDL-Cが低下。乳児試験では67%が1歳の誕生日を迎えることができた。深刻な有害事象は過敏反応で、発生率は3%、幼児試験ではもっと高かったようだ。米国でも昨年12月にローリング承認申請を完了したので、年内に承認されるのではないか。

    アレクシオンはカナダの超希少疾患用薬開発会社で、発作性夜間血色素尿症治療薬Soliris(eculizumab、和名ソリーアリス)の開発で知られる。Kanumaは今月、Synageva BioPharmaを84億ドルで買収して入手したもの。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: アレクシオンのプレスリリース

    同じくアレクシオンのStrensiq(asfotase alfa、和名ストレンジック)は低ホスファターゼ血症の治療に用いる酵素補充療法。10万出生に一人(カナダのマニトバ州では2500人に一人と言われている)の遺伝子性疾患で、カルシウムやリンの代謝異常による筋骨格の形成異常や臓器障害を合併、小児発症型は1年生存率5割と言われている。開発が先行した小児発症型で骨合併症のある患者向けに例外的環境条項に基づいて承認することが支持された。成人性患者はデータ待ち状態のようだ。

    米国でも1月にローリング承認申請を完了、日本でも今月、第一部会を通過した。アレクシオンは11年にEnobia Pharmaを6.1億ドル及び達成報奨金最大4.7億ドルで買収して入手した。、

    リンク: CHMPのプレスリリース

    次に、ノバルティスのFarydak(panobinostat、和名ファリーダック)は汎ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤。多発骨髄腫でVelcade(bortezomib)及び免疫調停剤(サリドマイドやRevlimid)を既に使ってしまった患者にVelcade、dexamethasoneと三剤併用で施行する。HDAC阻害剤が承認されればEUでは初。米国では今年2月に承認された。

    臨床試験では二次治療の患者も組入れたが、深刻な有害事象が見られたため、EUでも米国でも上記のサブグループに限定された。このサブグループ分析ではVelcadeとdexamethasoneだけを投与した群よりメジアンPFS(無進行生存期間)が4.8ヶ月長かったが、ノバルティスのプレスリリースには7.8ヶ月向上したと記されているのが不思議なところ。米国のレーベルにも三剤併用群10.6ヶ月、二剤+偽薬群5.8ヶ月と記されているのでノバルティスの説明と食い違う。

    主な有害事象は下痢、悪心嘔吐、疲労、QT延長、骨髄抑制など。心房細動などの心臓イベントの発生率が17.6%と対照群の9.8%を上回り、失神も6.0%対2.4%で多かった。有害事象による治験離脱の発生率は36.2%。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    同じくノバルティスのOdomzo(sonidegib)は、摘出術・放射線療法不応の局所進行性基底細胞腫に用いる。12年に米国で、13年にはEUでも承認されたロシュのErivedge(vismodegib)と同じSMO阻害剤で、胎児期を除けば基底細胞腫など一部にしか関与しないヘッジホック・パスウェイを阻害する。臨床試験では反応率が54%だった。米国でも昨年第3四半期に承認申請。基底細胞腫のうちこれらの薬の対象になるのは1%程度と少ない。

    リンク: CHMPのプレスリリース

    適応拡大では、ロシュのPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)を乳癌の切除術前化学療法に併用することが支持された。米国は13年に適応拡大承認。

    Herceptin(trastuzumab)と同様にher2に結合するが、エピトープが異なり、her2がher3やher1(EGFR)とヘテロダイマーを形成するのをブロックする。12~13年に日米欧で承認された転移性乳癌用途でも、今回のネオアジュバントでも、her2陽性癌にHerceptinと併用する。高価な遺伝子組換え薬の併用なので、ネオアジュバントでも米国の価格で3~5万ドル掛かる。

    執念の成果と呼べるのがスイスのサンセラ(SIX:SANN)が承認申請したRaxone(idebenone)だ。レーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON)に用いることが支持された。イタリアで血管性疾患・変性疾患による認知行動障害の治療薬Mnesisとして承認されているためか、適応拡大という位置付け。日本で1986年に脳梗塞脳出血治療薬アバンとして承認されたが98年に取り消された。海外のアルツハイマー病試験も打ち切りとなったが、今でもイタリアの他にフランスでも処方薬として用いられているようだ。

    07年にミトコンドリア疾患であるフリードライヒ失調症の治療薬として欧州で承認申請されたが、治験がフェールだったため承認されなかった。同じくミトコンドリア疾患であるLHONに関しても効果は穏やかで、CHMPは13年に否定的意見を出したが、今回、例外的環境条項に基づく承認が支持された。14年にはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの試験でも呼吸能力低下を抑制したことが発表されている。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: サンセラのプレスリリース

    最後に、アッヴィのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)。中重度活性期化膿性汗腺炎(HS)で既存の全身的治療法に十分に反応しない成人患者に用いることが支持された。炎症によりアポクリン腺が詰まることが引き金になり細菌感染で増悪する病気で、軽度なものを含めれば有病率は1%とのこと。

    抗TNFモノクローナル抗体医薬は発売から15年以上経ち、今日では単にTNF阻害剤と呼ばれるほど定着した。適応症は、製品によって違いはあるものの、リウマチ性関節炎、若年性特発性関節炎、軸性脊椎関節炎(強直性関節炎など)、乾癬と乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎など多岐に亘る。Humiraは非感染性ぶどう膜炎の第三相も成功しており、早晩承認されるだろう。

    リンク: CHMPのプレスリリース
    リンク: アッヴィのプレスリリース

    米国のワクチン委員会がB群髄膜炎菌ワクチンを限定的に推奨
    (2015年6月24日発表)

    米国でFDAが予防用ワクチンを承認すると、CDC(疾病管理予防センター)が接種をどのような人に推奨するか、ACIPワクチン諮問委員会に諮問する。昨年から今年にかけてB群髄膜炎菌性髄膜炎の予防用ワクチンが二種類承認され、ACIPが二回、推奨を纏めたが、今回も限定的だった。医師が必要と認めれば保険還元の対象になるので、接種を望む青年には妨げにならないだろう。

    髄膜炎菌性髄膜炎はA群、C群、W-135群、Y群の混合ワクチンが普及し被害が減少したが、新たにB群の流行が見られるようになった。昨年はプリンストン大学で流行し、ノバルティスのBexseroを治験として用いる許可をFDAから取得する事態になった。その後、ファイザーのTrumenbaが14年、Bexseroも15年に正式に承認された(その後、ノバルティスはワクチン事業をグラクソ・スミスクラインに譲渡)。

    ACIPは今年2月の会合で、10~25歳の高リスク層に用いることを推奨したが、今回は、16~23歳(望ましいのは16~18歳)が個々の判断に応じて接種することを認めた。小児用ワクチンのようなユニバーサルリコメンデーションを採用しなかったのは、おそらく、B群は株が多くワクチンのカバレッジが十分ではないことや、感染確率があまり高くないためワクチン効率を確認する試験が行われなかったことなどが理由だろう。

    BexseroはEUで13年に承認されたが、保険還元・公的補助の対象にはなっていないようだ。米国が例外という訳ではなく、むしろ、保険が効くだけマシと言えるだろう。米国での価格は一人300~400ドルである模様。

    リンク: ファイザーのプレスリリース
    リンク: グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

    【承認】


    cangrelorが米国でも承認
    (2015年6月22日発表)

    メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は、Kengreal(cangrelor、欧州名Kengrexal)がPCIの補助療法としてFDAに承認されたと発表した。Plavix(clopidogrel)やEfient(prasugrel)などのP2Y12阻害剤でプリトリートされていない、そして施術中にGPIIa/IIIb阻害剤を用いる予定のない患者の周術期心筋梗塞を抑制する。

    アストラゼネカからライセンスした静注点滴用ATP類縁体で、血小板のADP受容体に結合して活性化を阻害する。急性冠症候群・不安定狭心症の急患には取り敢えずPlavixを投与してから血管造影を行い、必要ならPCIを行うのが一般的だが、もし冠動脈バイパス術が適応になった場合はPlavixが体から抜けるまで数日間、待たないといけない。多少の差はあるものの、Efientも同じである。このため、米国ではPlavixでプリトリートしない医療施設もあるようだ。

    cangrelorは作用のオンセットが15分と早く、60分で消えるため、救急医療に適している。臨床試験ではNNTが偽薬比で156だった。156人に投与すれば心筋梗塞やステント血栓、血管再貫通術を一例減らすことができ、残りの155人は投与してもしなくても結果は同じ(投与しても心血管イベントが発生、または、投与しなくても発生しない)、ということになる。

    一方で、抗血小板薬なので出血リスクが高まり、GUSTO基準に基づく中重度出血のNNHは461。NNTとNNHの比率は3倍程度なので、リスクとベネフィットのバランスはそれほど良いとは言えない。諮問委員会で二回、検討されたが、14年は7対2で承認反対が上回り、今年4月の委員会でも12人中2人が反対、一人は棄権した。

    結局、上記の条件を満たす患者だけに使われることになりそうだ。EUでも今年3月に承認された。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: メディスンズ・カンパニーのプレスリリース

    エーザイのFycompaが強直間代発作に承認
    (2015年6月22日発表)

    エーザイは、Fycompa(perampanel)を強直間代発作の治療薬として用いる適応拡大が米国と欧州で承認されたと発表した。2012年に部分癲癇のアジャンクト(既存薬に追加投与)用薬として承認されたAMPA阻害剤で、グルタミン酸による過剰刺激を緩和する。

    癲癇は薬で発作を予防することができるが、複数の薬を併用しても十分に予防できない患者にはFycompaのような異なった作用機序の薬が必要だ。強直発作/間代発作は中でも大きな発作。臨床試験では発作頻度50%削減成功率が64%と偽薬群の39%を有意に上回った。

    リンク: エーザイのプレスリリース(米国承認、和文)
    リンク: エーザイのプレスリリース(EU承認、6/25付、和文)



    今週は以上です。

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