2017年7月2日

2017年7月2日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、CEPT阻害剤の心血管アウトカム試験が成功? 
  • ロシュ、画期的な血友病治療薬の第三相試験が成功 
  • アドセトリス、一次治療試験が成功 
  • バイオマリン、フェニルケトン尿症の新薬を承認申請 
  • ファイザーの抗体薬物複合体が承認 
  • ベクティビックスの適応がRAS野生型に限定 
  • ジカディア、EUでも一次治療承認 
  • 抗IL-6受容体抗体がEUでも承認 



【新薬開発】


MSD、CEPT阻害剤の心血管アウトカム試験が成功?
(2017年6月27日発表)

MSDは、MK-0859(anacetrapib)の第三相心血管アウトカム試験が主目的を達成したと発表した。データは8月29日にESC(欧州心臓学会)で発表される予定。

anacetrapibはコレステロール・エステルをHDL-CからLDL-Cに輸送するCETPを阻害する薬物で、LDL-Cを40%削減し、HDL-Cを130%増やす。他社のCETP阻害剤のアウトカム試験は全てフェールしたことを考えるとサプライズだが、プレスリリースのトーンは抑制的で、承認申請するかどうかこれから検討する様子だ。脂肪蓄積にも言及しており、副作用面で何か懸念材料があるのかもしれない。

このREVEAL試験はオックスフォード大学の臨床試験ユニットが主導して欧州、北米、中国の医療施設で実施した。対象は心筋梗塞、脳梗塞など脳血管アテローム性疾患、末梢動脈疾患、または症候性冠動脈疾患を合併する糖尿病の患者約3万人。介入方法・対照療法はatorvastatinによるランイン治療を受けた、平均LDL-C値61mg/dL、HDL-C値40mg/dLの患者に偽薬または100mgを一日一回投与。主評価項目は冠状疾患死/心筋梗塞/冠血行再建術の複合評価項目。

仮説は偽薬群の発生率が年1.8%、anacetrapibの相対リスク削減率は15%。検出力(p<0.01)は88%。心血管アウトカム試験は費用と時間がかかるせいか、ボリュームを目一杯引き上げて小さな音でも拾えるようにデザインすることが多く、この試験もフェールするリスクを抑制している。

CETP阻害剤で最初に第三相に進んだファイザーのtorcetrapibは、約13000人の冠状心疾患患者を組み入れたILLUMINATE試験が中間解析で打ち切りとなった。心血管イベントのリスクが偽薬群の1.25倍、全死亡リスクが1.58倍と高かったからだ。原因は明らかではないが、疑われているのはアルドステロンやコルチゾルが増加することや、血圧上昇だ。

後者は投与期間依存的で、前期第二相、後期第二相、第三相、1年試験、心血管アウトカム試験とステージアップするにつれて影響が拡大していった。もう一つ気になったのは、HDL-C値が3~6ヶ月でプラトーに達せず、少しずつだが上がり続けること。HDL-Cだけなら問題ないかもしれないが、副作用も期間相関しないか、心配だ。

イーライリリーのLY-2484595(evacetrapib)はACCELERATE試験の中間解析で無益性が認定され、開発中止となった。代理マーカーの変化を見ると、LDL-Cが37%低下、HDL-Cは130%増加しており、anacetrapibと大差ない。両剤とも血圧上昇副作用は小さく、ACCELERATE試験の収縮期血圧の群間差は1 mmHgに過ぎなかったので、副作用で違いが出るようことも考えにくい。

にも関わらず、主評価項目(不安定狭心症による入院なども含む5項目)も、ハードなエンドポイントである心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的脳卒中の3項目だけの評価でも、群間差はほとんどなかった。

それでは、anacetrapibは、あるいはREVEAL試験は、何が違うのか?最初に目につくのは、REVEAL試験の主評価項目に脳卒中が入っていないことだ。尤も、evacetrapibの試験では複合評価項目を構成する個々の項目でも群間差が無かったし、torcetrapibと違って血圧は上昇しないのだから、脳卒中増加を疑う理由はない。

次に考えられるのは、相対リスク削減率が仮説より小さく臨床的な意義が限定的であった可能性。あるいは、何かの副作用の発生率がこれまでの試験より高かった可能性。ボリュームを目一杯上げればノイズも煩くなるのは当たり前だが、副作用はリアルであることを前提に検討せざるを得ない。

MSDの新薬開発は周到・徹底的なので、上記の脂肪蓄積問題について、長期的な影響を検討する前臨床試験を別途、行ったかもしれない。そこで懸念材料が浮上し、確認のために未だ時間が必要という話である可能性もありそうだ。

ESCでの発表内容が注目される。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: LandrayらのREVEAL試験デザインペーパー(American Heart Journal)
リンク: REVEAL試験の治験登録

ロシュ、画期的な血友病治療薬の第三相試験が成功
(2017年6月26日発表)

ロシュは、ACE910/RG6013/RO5534262(emicizumab)の第三相試験成功を発表した。詳細は7月10日にISTH(国際血栓止血学会)で発表される予定。

中外製薬が創製したヒト化二重特異性抗体で、第VIII因子インヒビターを持つA型血友病の出血予防に用いる。活性化第VIII因子の代わりに第IX因子と第X因子に結合・架橋して血液凝固カスケードを進捗させる。週一回皮注なので、頻繁に出血する患者が予防目的でルーチンに投与するのに適している。

第三相試験は青年成人と小児の二本行われた。前者は109人を組入れて、そのうちBPA(バイパス剤)による出血予防歴を持つ患者をemicizumabによる予防を行う群と予防せず出血時にBPAで治療する群に2対1割付して出血状況をメジアン31週間追跡した。結果は予防群が年率2.9回、出血時治療群が23.3回、リスクレシオ0.13、p<0.0001となった。

また、BPAによる出血予防歴を持つ患者24人にemicizumabによる予防を施行した群は、年率3.3回と、BPAによる予防を行っていた頃の15.7回と比べてリスクレシオ0.21、p<0.0003と、こちらも有意に減少した。

既報のように、この試験ではemicizumab群で深刻な血栓塞栓イベントが2例、血栓性微小血管症が3例、発生し、うち1名は死亡した。何れもブレークスルー出血時に活性化プロトロンビン複合体(aPCC)を投与しており、emicizumabの副作用なのか他の薬または併用に伴うリスクなのか、判然としない。薬効解析対象となった77例のうち対照群は18例、23%に過ぎず、発生率の比較は困難である。当局が個々の症例報告を精査するのを待つしかないだろう。

A型血友病の治療・出血予防は遺伝子組換え型第VIII因子が有効だが、一部の患者は生まれつき、または投与を繰り返すうちに、インヒビターができて無効になる。遺伝子組換え型活性化第VII因子などのBPAが適応になるが、血液凝固を促す薬なので必然的に血栓塞栓リスクも高まる。emicizumabも例外ではなかった。となると、問題はリスクと便益のバランスと価格だ。予防的に使う薬なので安全性のハードルは高めになり、新薬はトラックレコードが乏しいので更に高くなる。

年内に欧米日本で承認申請される予定。貴重な選択肢なので承認はされるだろうが、普及には時間がかかるかもしれない。

リンク: ロシュのプレスリリース

アドセトリス、一次治療試験が成功
(2017年6月26日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)と武田薬品は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の古典的ホジキン型リンパ腫一次治療試験が成功したと発表した。ABCDレジメン(adriamycin、bleomycin、vinblastine、dacarbazineの四剤併用)と、bleomycinに代えてAdcetrisを併用する方法を比較したところ、修正PFS(無進行生存期間、独立放射線学的査読後)のハザードレシオが0.77、p=0.035と有意に改善した。

2年mPFS率は各群77.2%と82.1%だった。全生存解析は未成熟で有意差はなかったが、改善トレンドが見られた由。

高額な薬剤である割には2年mPFSの差は5%弱と小さい。延命効果が明確になれば説得力が増すが、正式解析は4年後のようだ。

尚、5剤併用ではなく4剤併用に留めたのは、ABCDとAdcetrisを5剤併用した試験で肺有害事象の発生率が40%と大きく上昇したからだろう。bleomycinの肺毒性が増強されたと考えられており、この二剤の併用は禁忌になっている。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

【承認申請】


バイオマリン、フェニルケトン尿症の新薬を承認申請
(2017年6月30日発表)

バイオマリン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:BMRN)は、PEGPAL(pegvaliase)をフェニルケトン症治療薬としてFDAに承認申請した。同社のKuvan(sapropterin dihydrochloride)などの既存療法に十分反応しない患者を想定している模様だ。欧州でも年内に承認申請の予定。

希少疾患用薬のスペシャリストで何度も承認を申請取得した経験を持つ会社だが、プレスリリースで改めてFDAの受理手続きを説明しているのが目を引く。受理されないリスクを想定しているのかもしれない。

PEGPALは遺伝子組換え型フェニルアラニン・アンモニア・リアーゼ。中和抗体ができて増量が必要になったり、反応が悪い患者がいたりするため、第三相試験はランイン期間中に投与してある程度以上の反応を示した患者だけを組入れて、継続治療群と投与を止める群を比較する離脱試験方式で行った。結果は、継続治療群の血中フェニルアラニン値が微増に留まったのに対して、中止群は倍以上に増加し、有意な差があった。

レスポンダー率が低い点ではKuvanも同じで、だからこそ代替的な治療手段が必要とも言える。許容範囲なのか。改善の余地があるのか、FDAの判断が注目される。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

【承認】


ファイザーの抗体薬物複合体が承認
(2017年6月30日発表)

ファイザーは、Besponsa(inotuzumab ozogamicin)がEUで承認されたと発表した。成人の再発性難治性CD22陽性前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病に用いる。ワイス(後にファイザーが買収)がセルテック(後にUCBが買収)と共同開発した抗体薬物複合体で、B細胞性腫瘍の9割で発現しているCD22に結合する抗体を細胞毒のカリケアマイシンと結合したもの。第三相試験では完全反応率が80.7%と、FLAGレジメンや高量cytarabineを用いた対照群の9.4%を大きく上回った。

ワイスとセルテックの抗体薬物複合体と言えばMylotarg(gemtuzumab ozogamicin)が加速承認→市販後薬効確認試験フェール→(欧米で)販売中止→用法用量を変えて再チャレンジ成功→再承認申請、という波乱万丈のプロダクトサイクルを経験している。Besponsaも非ホジキンリンパ腫の第三相が一本は組入れ不調で、一本は無益性で、中止になった過去があるが、見事に復活した。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ベクティビックスの適応がRAS野生型に限定
(2017年6月29日発表)

アムジェンは、FDAがVectibix(panitumumab)の適応限定を承認したと発表した。抗EGFR完全ヒト化抗体で末期結腸直腸癌に用いるが、一次治療でFOLFOXレジメンに併用する場合も、代表的な薬が全てフェールした患者のサルベージ療法として単剤投与する場合も、kras及びnrasが変異していない野生型だけに用いる。

米国で最初に承認された時はrasによる限定はなかったが、一年後にEUで承認された時はkrasに変異のない患者に限定された。その後、krasのエクソン2に変異のない患者だけを組入れたFOLFOX併用試験のサブグループ分析で、nras変異型にはほとんど効果がない可能性が浮上した。今回の適応限定はこれらの試験結果に基づくものだが、なぜ今日まで変更されなかったのかが不思議だ。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ジカディア、EUでも一次治療承認
(2017年6月29日発表)

ノバルティスは、Zykadia(ceritinib、和名ジカディア)をALK陽性末期非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。米国は5月に承認済み。

非小細胞性肺癌の3~7%で見られるALK活性化融合蛋白陽性患者が適応になる。非扁平上皮性非小細胞性肺癌の第三相試験ではメジアン無進行生存期間が16.6ヶ月と、白金薬とAlimta(pemetrexed)を併用しAlimta維持療法も施行された対照群の8.1ヶ月より良好だった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

抗IL-6受容体抗体がEUでも承認
(2017年6月27日発表)

リジェネロン(Nasdaq:RGEN)とサノフィは、Kevzara(sarilumab)がEUで抗リウマチ薬として承認されたことを発表した。米国では5月に承認済み。両社の完全ヒト化抗体に関する開発提携の産物で、IL-6受容体のアルファ・サブユニットに結合する、中外/ロシュのActemra(tocilizumab)に似た薬剤。二週間に一回皮注する。Actemraもリウマチ性関節炎に関しては1~2週間に一回、皮注が承認されている。副作用の出方はよく似ている。となると注目は価格だが、米国ではActemraの7掛けの水準に置かれる模様だ。

リンク: リジェネロンのプレスリリース





今週は以上です。

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