2016年8月28日

2016年8月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • リジェネロン、MERS治療用抗体医薬を開発へ
  • ノバルティス、BAF312の二次進行型多発性硬化症試験が成功
  • クロビス、PARP阻害剤の承認申請をFDAが受理
  • アムジェン、Parsabivが審査完了に
  • ファイザー、乱用されにくい鎮痛剤が承認
  • ギリアド、ツルバダを予防に用いることをEUが承認



【今週の話題】


リジェネロン、MERS治療用抗体医薬を開発へ
(2016年8月22日発表)

リジェネロン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:REGN)は、HHS(米国連邦保健福祉省)傘下のBARDA(生物医学先端研究開発局)とMERS(中近東呼吸器症候群)の予防や治療に有効な可能性のある二種類の抗体療法の生産・研究について合意したと発表した。抗体医薬の充填包装、治験許可申請、そしてNIH(米国立医療研究所)が主導する臨床試験を支援するために、HHSが最大で890万ドルの資金を提供する。

リジェネロンは新進気鋭のバイオ企業で、ヒトVEGF受容体融合蛋白のZaltrap(ziv-aflibercept)とEylea(aflibercept)、そして抗PCSK9完全ヒト化抗体であるPraluent(alirocumab、和名プラルエント)と、次々と新薬を発売している。基盤となるのはトランスジェニックマウスにヒト抗体を発現させる技術だが、特徴的なのは、固定領域はいじらずに可変領域だけをヒト由来のアミノ酸配列に置換すること。ヒト由来の抗原に対する反応を減衰させないためだ。

パイプラインも豊富だが、この技術を用いてエボラやジカなど、様々なウイルス感染症の治療薬も開発しており、昨年9月には、エボラウイルス疾患の治療薬の研究開発でもBARDAと抵抗している。

ファイザーが140億ドルで買収を決めたメディベーション(Nasdaq:MDVN)は、自社ではドラッグ・ディスカバリーを行わず他社のパイプラインをライセンスして臨床開発を行うビジネスモデル。目利きが上手く行けば前立腺癌用薬Xtandi(enzalutamide)のように大型薬に育つが、アルツハイマー病用薬候補だったDimebon(latrepirdine)のように空振りに終わることもある。

インライセンスも競争が激しいので、大手製薬会社と違う道に踏み込む勇気が必要だが、この長所は大手に吸収されると失われるだろう。買収対象としては、即戦力の超大型薬を持つ会社よりもリジェネロンのようにパイプラインが豊富な会社のほうが好ましいように思うが、どうだろうか。

リンク: リジェネロンのプレスリリース(pdfファイル)

【新薬開発】


ノバルティス、BAF312の二次進行型多発性硬化症試験が成功
(2016年8月25日発表)

ノバルティスは、BAF312(siponimod)の第三相EXPAND試験が成功したと発表した。二次進行型多発性硬化症の患者を2mg一日一回服用群と偽薬群に2対1割付してEDSS疾病評価スコアが悪化するリスクを比較したところ、BAF312群が有意に優れていた。データは9月17日にECTRIMS学会で発表される予定。

作用機序はノバルティスが吉富製薬(当時、現在は田辺三菱製薬)からライセンスして開発したGilenya(fingolimod)と同じで、スフィンゴシン1燐酸受容体アゴニスト。アイソタイプのうちS1P1とS1P5受容体に選択的で、S1P3作用が小さいので、心血管副作用が小さい可能性がある。また、Gilenyaは再発型の多発性硬化症向けだが、BAF312は病気が進行して寛解を挟まずに悪化し続ける二次進行型がリードインディケーションであることが特徴。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


クロビス、PARP阻害剤の承認申請をFDAが受理
(2016年8月23日発表)

クロビス・オンコロジー(Nasdaq:CLVS)は、CO-338(rucaparib)の承認申請がFDAに受理されたと発表した。PDUFA審査期限は来年2月23日。PARP-1とPARP-2を阻害する経口剤で、生殖細胞系あるいは体細胞性のBRCA変異を持つ卵巣癌の三次治療に用いる。EUでも16年中に承認申請する予定。

承認申請の根拠となった第二相試験では、プラチナ感受性患者42人に対するORR(客観的反応率)が60%、プラチナ抵抗性64人では50%だった。G3以上の有害事象は貧血・ヘモグロビン減少、疲労、ALT/AST異常上昇(但し殆どの症例は総ビリルビン上昇を伴わなかった)。

リンク: クロビスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


アムジェン、Parsabivが審査完了に
(2016年8月24日発表)

アムジェンはParsabiv(etelcalcetide)を透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。委細不明。今後の開発方針を当局と相談する考え。

Parsabivは12年に3億ドルで買収したKAI Pharmaceuticalsの開発品。カルシウム感受受容体を作動して副甲状腺の亢進を抑制する。日本は小野薬品が権利を保有、今年1月に承認申請した。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認】


ファイザー、乱用されにくい鎮痛剤が承認
(2016年8月19日発表)

ファイザーは、FDAがTroxyca ERを承認したと発表した。オピオイドの常用を必要とするほど重度の疼痛で、他の治療法では効果が不十分な患者に用いる。naltrexoneを内側に、oxycodoneを外側に配置したペレット・カプセル。徐放製剤なので娯楽目的で服用しても直ぐには効果が表れず、破砕すると二つの活性成分が作用を相殺してしまうので、乱用抑制的。11年にKing Pharmacceuticalsを36億ドルで買収して入手した乱用抑制型オピオイド製剤の一つ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ギリアド、ツルバダを予防に用いることをEUが承認
(2016年8月22日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、EUがTruvada(和名ツルバダ)をHIV/AIDSの曝露前予防に用いることを承認したと発表した。臨床試験では、感染者の性的パートナーの感染リスクを75%削減、高リスクグループ(男性同士、多数のセックスパートナー、売春婦)でも42%削減した。米国では12年に承認されている。

Truvadaは二種類の逆転写阻害剤、tenofovir DFとemtricitabineの合剤。元々はHIV/AIDSの治療薬として04年に米国で、05年にEUや日本でも発売され、多剤併用療法の基盤として広く用いられるようになった。患者シェアがあまりに高いため耐性ウイルスが心配になるが、少なくとも今のところは、深刻な脅威にはなっていない。予防用途はそれ以上に心配だが、耐性ウイルスの治療手段がインテグラーゼ阻害剤などの登場で増えた今日では、感染を広げないことの方が重要、という考え方なのだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年8月21日

2016年8月21日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、米国でPAR-1阻害剤の販促を中止へ
  • JNJ、Darzalexを適応拡大申請
  • PortolaのXa中和剤は審査完了に


【今週の話題】


MSD、米国でPAR-1阻害剤の販促を中止へ
(2016年8月15日発表)

Philadelphia Inquirer誌の報道によると、MSDはPAR-1阻害剤Zontivity(vorapaxar)の米国での販促を9月2日付けで打ち切ることを決定した。販売・管理スタッフ148名をレイオフすることがフィラデルフィア州のウェブサイトで公表されたため、発覚した模様だ。米国でFDAの販売承認を取得することは容易ではないが、それで終わりではない、医師や患者の支持を得ることが最も重要であることを思い知らされる。

Zontivityは、トロンビンが血小板を活性化する時に用いる受容体、PAR-1を阻害する抗血小板薬。MSDが09年に400億ドル余で買収したシェリング・プラウの開発品で、作用がアスピリンなど既存の抗血小板薬と補完的であるため併用が可能で、血小板活性化プロセスが動き出した時に作用するため不必要に出血リスクを高めないことが期待された。

最初の第三相試験はフェールした。心血管疾患リスクを十分に削減できなかっただけでなく、頭蓋内出血のような重大な出血事故が増加したため前途が憂慮された。ところが、二本目の試験は成功。サブポピュレーション分析の結果、脳卒中・TIA既往を禁忌とすれば便益が利益を上回るという結論になり、心筋梗塞歴を持つ患者や末梢動脈疾患患者の心筋梗塞リスクを削減する用途で承認申請され、14年に米国で、15年にはEUでも承認された。

しかし、対象患者層が若干異なるとはいえ、最初の試験がフェールした理由や、脳卒中・TIA既往以外なら本当に大丈夫なのかという疑問は残る。また、もし服用中にTIAが発生した場合に、医師や患者が気付いて投薬中止することはできるのか?自動運転技術の開発者なら、センサーが夕日で利かなくなるのは仕方ない、ビデオを見ていて速やかに対応できなかった人間が悪い、と言えるかもしれないが、医療は空論を排し、医師も患者も完全ではないことを承知した上で対応を決めなければならない。

Zontivityは第三相試験の結果が出るまでは年商50億ドル以上の超大型薬になると考えられていたが、承認申請の時点では、承認が危ぶまれた。承認されたのは意外だが、結局、承認されなかったのと同じようなことになりそうだ。

リンク: The Philadelphia Inquirerの記事
リンク: フィラデルフィア州政府サイト、8月のレイオフ通知

【承認申請】


JNJ、Darzalexを適応拡大申請
(2016年8月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、Darzalex(daratumumab)を多発骨髄腫の二次治療に用いる適応拡大申請をFDAに行ったと発表した。優先審査を要請した。

デンマークのジェンマブが創製した完全ヒト化抗体で、多発骨髄腫の表面に過剰発現する膜貫通型外酵素、CD38に結合し、アポトーシスを誘導する。多発骨髄腫の3~4次治療薬として15年に米国で、今年5月にはEUでも、承認された。

今回の用法は、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)またはVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)とdexamethasoneを併用するRd/Vdレジメンと三剤併用するもの。Rd併用試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオがRdだけの群と比べて0.37、Vd併用試験ではVdだけと比べて0.39だった。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


PortolaのXa中和剤は審査完了に
(2016年8月17日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)はXa阻害剤の抗血小板作用をオフセットする遺伝子組換え型ヒトXa因子を開発し、AndexXa(andexanet alfa)として米国で承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。主として生産に係る追加情報を要求された模様だ。詳細は不明。バイオ薬なので色々なケースが考えられる。

同社は、同じ薬をIndexXaという商品名でEUで承認申請し、受理されたことも発表した。

Xa阻害剤はバイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を始め複数の新薬が登場した。ワーファリンより作用のオンセットやオフセットが早いが、それでも、服用中に交通事故にあったり緊急手術が必要になった時のために、中和剤があったほうが良い。

AndexXa/IndexXaはEliquis(apixaban、和名エリキュース)やSavaysa(edoxaban、和名リクシアナ)、低分子量ヘパリンのLovenox(enoxaparin、和名クレキサン)など様々な直接的・非直接的Xa阻害剤の解毒に使えるようなので、いざという時に備えることができる。

日本はEliquisを販売しているBMS/ファイザーが権利を保有している。

リンク: Portolaのプレスリリース
リンク: 同(EU申請受理、8/19付)



今週は以上です。

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2016年8月14日

2016年8月14日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA:BIA 10-2474の毒性はクラスイフェクトではない
  • アラガン、Vraylarの鬱病試験は一勝一敗
  • アストラゼネカ、MEK阻害剤の肺癌試験がフェール
  • イーライリリー、CDK阻害剤の中間解析は何もなし



【今週の話題】


FDA:BIA 10-2474の毒性はクラスイフェクトではない
(2016年8月12日発表)

FDAは、BIA 10-2474の臨床試験で発覚した毒性はこのコンパウンド固有のものであり、他のFAAH(脂肪酸アミド加水分解酵素)阻害剤にもあてはまるものではないとの見解を発表した。

BIA 10-2474はポルトガルのBial社の開発品。今年1月にCROであるバイオトライアル社がフランスのレンヌ大学で第一相反復投与試験を開始したところ、最初の被験者6人のうち一人が脳死、4人が入院した(2016年1月24日号参照)。

FAAH阻害剤は神経学的障害の治療薬として探索されており、ジョンソン・エンド・ジョンソンもJNJ-42165279の第二相鬱病・不安症試験を行っていたが、この事件の余波で中断を余儀なくされた。

FDAはEUやフランスの規制当局から情報を取得して今回の結論に至ったとのことなので、EMAやフランスのANSMも同じ意見なのだろう。他のFAAH阻害剤は治験停止命令解除になりそうだ。

リンク: FDAのリリース

【新薬開発】


アラガン、Vraylarの鬱病試験は一勝一敗
(2016年8月5日発表)

アラガン(NYSE:AGN)とハンガリーのGedeon Richterは、Vraylar(cariprazine)の二本目の難治性鬱病アジャンクト試験がフェールしたことを明らかにした。もう一本実施して成功なら適応拡大申請する考え。

VraylarはドパミンのD3受容体とD2受容体を選択的に部分作動するドパミン・システム・スタビライザー。04年にフォレスト(後にアラガンと合併)がGedeon Richterから北米の権利をライセンス、15年に統合失調症と双極障害I型の急性躁症状の治療薬として米国で承認された。

鬱病での開発は、複数の抗鬱剤を試しても改善しない難治性患者に追加投与した。一本目は一日2~4mgの範囲で決まった量を投与する固定用量方式で、成功。二本目は1.5~4.5mgの範囲で滴定する変動用量方式で、フェールした。鬱病の試験は偽薬効果が比較的大きく、承認されている薬でもフェールは珍しくない。Vraylarも三本目が成功すれば適応拡大承認の道が開けるだろう。

尚、日本では田辺三菱製薬がMP-214という開発コードでP2b/3統合失調症試験中。

リンク: アラガンのプレスリリース

アストラゼネカ、MEK阻害剤の肺癌試験がフェール
(2016年8月9日発表)

アストラゼネカは、AZD6244(selumetinib)の第三相試験がフェールしたと発表した。03年にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)のMEK阻害剤、ARRY-142886をライセンスしたもので、変異krasを持つ非小細胞性肺癌の二次治療薬としてdocetaxelと併用したが、主評価項目のPFS(無進行生存期間)も、全生存期間の解析も、フェールした。

第二相ではPFSのハザードレシオが0.58、p<0.014と良さそうな結果が出たのだが、検出力の低い試験で偶々良い数値が出ても信頼性は低い。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イーライリリー、CDK阻害剤の中間解析は何もなし
(2016年8月10日発表)

イーライリリーは、LY2835219(abemaciclib)の第三相乳癌試験についてアップデートした。中間解析が行われたが何もトリガーされず、17年に予定通り最終解析に向かう見込み。それとは別に、第二相試験に基づいて承認申請すべくFDAと相談中。

abemaciclibは細胞周期進行に関与するサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4とCDK6を阻害する経口剤。ファイザーが15年に米国で発売したIbrance(palbociclib)、そしてノバルティスが開発中のLEE011(ribociclib)に次ぐ、サード・イン・クラスだ。何れも適応はエストロゲン受容体陽性でher2陰性の末期転移性乳癌で、アロマターゼ阻害剤または選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)と併用してシナジーを生む。

Ibranceは一次治療、letrozole(ノバルティスのフェマーラ)併用の第二相偽薬対照試験のデータに基づいて加速承認、同様な内容の第三相試験も成功した。LEE011も一次治療letrozole併用の第三相試験が中間解析で成功、年内に承認申請される見込み。

abemaciclibの第三相試験は複数、進行しているが、今回アップデートされたのはfulvestrant(アストラゼネカのフェソロデックス)併用二次治療試験。また、承認申請に用いられる第二相試験はホルモン療法だけでなく化学療法も経験した患者を対象に反応率を調べたもの(ORR19.7%、反応持続期間のメジアン値は8.6ヶ月だった)。開発が遅れている分、直接バッティングしない用途を最初のターゲットに据えている。

この第三相試験では、中間解析で成功認定するハードルが高く設定されている由であり、順当な結果なのだろう。わざわざ発表したのは、ノバルティスの第三相が中間解析で成功したためabemaciclibの中間解析に期待する声が高まっていたからかもしれない。

さて、abemaciclibの開発が成功すれば、やがては先行二剤と正面からぶつかることになる。特徴は二つあり、分かり易いのは他の二剤が一日一回経口投与であるのに対して、一日二回服用であること。臨床成績に反映されれば面白くなるのが、連続投与であること。CDK4選択性が高いためか、好中球減少症の用量制限毒性が見られないため、他の二剤のような3週間オン、1週間オフという間歇投与スケジュールは採用されていない。上手く行けば、休薬不要な分だけ効果が高まるかもしれない。

リンク: イーライリリーのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年8月7日

2016年8月7日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 脊髄性筋萎縮症用薬の第三相中間解析が成功
  • アドセトリスのCTCL試験が成功
  • オプジーボも肺癌にはPD-L1高度発現が必要?
  • Keytrudaが欧米で適応拡大承認



【新薬開発】


脊髄性筋萎縮症用薬の第三相中間解析が成功
(2016年8月1日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)とバイオジェンは、nusinersenが幼児期発症型SMA(脊髄性筋萎縮症)の第三相試験で中間解析用主評価項目を達成したと発表した。治験登録によると、日本の医療施設も参加している。バイオジェンはオプトイン・オプションを行使、数ヶ月内に承認申請とグローバルEAP(未承認薬の早期アクセスプログラム)を開始する考えだ。

SMAは筋力の低下や筋委縮が進行する。幼児期に発症するI型は座ることができず、II型は歩行能力を獲得できない。この二つのタイプでは、神経筋の成長・機能に係るSurvival Motor Neuronの遺伝子(SMN1)の欠損がしばしば見られる。劣性遺伝で両親から欠損遺伝子を引き継ぐと発症する。患者数は日米欧合わせて3~3.5万人と推定されている。

Ionisは元々はISIS Pharmaceuticalsという社名だった。私自身はあちらをISISではなくISILと呼ぶように心していたのだが、昨年12月に、命を救う薬を開発する会社であることを明確にするためにこちらが社名変更した。

RNAに相補的なオリゴヌクレオシドを用いて遺伝子の一部を改変し機能できなくするアンチセンス技術を持つ。1998年に米国で承認されたCMV治療薬、Vitravene(fomivirsen)は販売不振で販売中止になったが、2013年にApoB-100アンチセンス薬、Kynamro(mipomersen)を発売した。

nusinersenは、SMN2遺伝子のスプライシングを変えることによって機能喪失変異を乗り越えさせ、SMNを発現させる。 腰椎穿刺により髄腔内投与する。今回の第三相試験は、生後6ヶ月以内に症状兆候を発現した月齢7ヶ月未満の患者122人を組み入れたシャム対照試験。プレスリリースによれば中間解析の主評価項目として事前に設定された、HINEスコアの運動機能項目の目標達成率がシャム群より有意に高かった。

バイオジェンは7500万ドルを払ってオプトイン・オプションを行使した。売上ロイヤルティは最大で10%台半ば。目標達成報奨金は最大1.5億ドル。

リンク: 両社のプレスリリース

アドセトリスのCTCL試験が成功
(2016年8月2日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)と武田薬品は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の第三相再発性CD30陽性CTCL(皮膚T細胞リンパ腫)試験が成功したと発表した。17年上期に適応拡大申請する予定。

AdcetrisはADC(抗体薬品結合物)と呼ばれるトロイの木馬型医薬品。抗体部位が腫瘍細胞のCD30に結合して細胞内に入り込み、毒物が細胞の中から攻撃する。アイディア自体は昔からあったが、抗体と毒物を繋ぐリンカー(血液中では強固・安定し、細胞内では酵素によって分解されなければならない)が難しかったが、ついにAdcetrisが11年に米国で承認された。現在は、クラシカル・ホジキン型リンパ腫と全身性異形成性大細胞性リンパ腫の再発治療などに承認されている。武田薬品は北米以外の開発販売権を持っている。

今回の第三相は、再発性のCD30陽性CTCLを組み入れて、Adcetris単剤投与の反応率(4ヶ月以上持続することが必要)を医師の選んだ薬(methotrexateまたはbexarotene)と比較した。結果は、56.3%対12.5%となり有意に上回った。代理マーカーによる薬効評価だが、事前にFDAのSPA(特別プロトコル評価)を受けたりEMAと相談したとのことなので、問題はないだろう。尚、CTCLの50%がCD30陽性とのこと。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)

オプジーボも肺癌にはPD-L1高度発現が必要?
(2016年8月5日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-026試験の結果を発表した。PD-L1陽性末期非小細胞性肺癌の一次治療試験で、PFS(無進行生存期間)が標準療法群を上回りチェックメイトを掛けるはずだったが、コンピュータソフトと戦ったプロ棋士と同様に、果たせなかった。詳細は未だ明らかではないが、私のゲスワークは、MSDのKeytruda(pembrolizumab)と同様にPD-L1高発現癌だけに絞り込めば効果があるのではないか。

抗PD-1抗体Opdivoは悪性黒色腫など多くの癌で承認されているが、欧米は同じ腫瘍でも一次治療、二次治療の別や併用薬、用量用法を一つ一つ承認を取らなければいけないので大変だ。米国の場合、未承認の用法用途でも権威のあるコンペンディアやガイドラインに収載されていれば公的・民間保険の対象になるが、メーカーが積極的に販促するためには正式承認が必要なのである。同じ抗PD-1抗体であるKeytrudaというライバルがいるようなケースでは尚更だ。

第三相入りはMSDに先行、米国発売では後手を踏んだが、16年12月期上半期の売上高はKeytrudaの約3倍に達し、一番重要な販売競争では大差をつけている。その主因が、非小細胞性肺癌に用いる時にPD-L1発現検査が不要であることだ。両剤とも二次治療に承認されているが、KeytrudaはPD-L1発現癌限定なので、事前検査が必要。費用や時間、もし陰性だった場合の患者の失望などを考えれば、Opdivoのほうが気軽に使える。未承認用途である一次治療用途では尚更だ。

Keytrudaは、PD-L1発現率50%以上を対象とした第三相一次治療試験が6月に成功した。しかし、検査が必要である限り、一次治療の正式承認が遅れてもOpdivo優位は変わらないと考えられていた。それだけに、CheckMate-026試験がフェールした衝撃は大きい。

まあ、勝てなかったといっても相手は標準療法(扁平上皮腫はgemcitabineとcisplatinもしくはcarboplatinの併用、またはpaclitaxelとcarboplatinの併用、非扁平上皮腫はpemetrexedとcisplatinもしくはcarboplatinの併用)なので効かないという意味ではないが、承認審査の上では薬効のエビデンスがないことになるので、承認申請が遅れることになる。

この試験ではPD-L1発現率が5%以上の患者だけを主解析対象としたが、Keytrudaと同様に強発現に限定すればもっと良い数値が出るかもしれない。既にオフレーベル使用されているのだから、可能な限り早く詳細を発表することが望まれる。

BMSの株価が下落したことも含めて波紋が大きかったためか、BMSは追加的なプレスリリースを発出し、抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)併用一次治療試験も進行中であることを強調した。

この併用レジメンは悪性黒色腫で既に承認されているが、PD-L1を高発現している癌では効果がOpdivo単剤とそれほど変わらないように見える。どちらも極めて高価な薬であり、また、免疫療法特有の深刻な副作用も持っているので、無駄撃ちは避けたい。上記のYervoy併用試験では、PD-L1陰性患者にOpdivoと標準療法を併用する群も設けられているので、標準療法だけと比べてどの程度上乗せできるのか、明確になるだろう。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース(第二回)

【承認】


Keytrudaが欧米で適応拡大承認
(2016年8月5日発表)

MSDは、FDAがKeytrudaを転移性頭頸部扁平上皮腫に用いる適応拡大を承認したと発表した。白金薬による治療の次に用いる。用量は他の適応症のような体重相関ではなく200mg固定。投与頻度は三週間に一回で同じだ。

一方、欧州では再発性非小細胞性肺癌の適応拡大が承認された。昨年10月の米国承認と同じ内容で、PD-L1が強発現する癌で、白金薬による一次治療の次に用いる。EGFR陽性やALK活性化変異陽性ではEGFR阻害剤やALK阻害剤による治療も優先される。

IL-2のような過去の免疫強化療法は反応が長期間続くことが長所だが、反応する患者は少なく応答予測性も低いことが難点だ。抗PD-1モノクローナル抗体は反応率がIL-2より高く、その上、IL-2が承認されていない癌の幾つかにも効果がある。高価な薬だが、適応はさらに広がり巨大市場を形成するだろう。だからこそ、BMSやMSDに続いて、ロシュやアストラゼネカ、ベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーなど多くの製薬会社が抗PD-1/PD-L1薬の開発競争に手を挙げた。

Keytrudaはオルガノンが06年に英国のMRC Technologyに依頼して創製したとのことだ。07年にシェリング・プラウがアクゾ・ノーベルからオルガノン・バイオ・サイエンスを110億ユーロで買収した時も、その2年後にMSDがシェリング・プラウを400億ドル超で買収した時も、全く注目されなかったパイプラインがこんなに重要な薬になるのだから、薬の開発はサプライズに満ちている。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース(EU非小細胞性肺癌承認、8/2付)



今週は以上です。

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