2016年7月31日

2016年7月31日号


☆ サノフィの社名を長年に亘ってサノフィ・アベンティスと誤記していたことに今頃気付きました。お詫びして訂正いたします。 ☆

【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、エボラワクチンがブレークスルー・セラピー指定
  • Adaptimmune、開発品をEMAがPRIMEに採用
  • レブラミド、DLBCLメンテ試験はフェール
  • バイオマリン、CLN2病の酵素補充療法を承認申請
  • サノフィ、GLP-1受容体アゴニストが米国でついに承認


【今週の話題】


MSD、エボラワクチンがブレークスルー・セラピー指定
(2016年7月25日発表)

MSDは、開発中のエボラワクチンがFDAにブレークスルー・セラピー指定されたと発表した。6月にはEUの類似した制度であるPRIMEスキームにも採用されている。どちらも、初期段階の臨床試験でunmet medical needsに応える可能性を示したパイプラインの開発・実用化を後押しするもので、ブレークスルー・セラピー指定の場合、第三相試験の結果が出るのを待たずに承認申請に向かった例が少なくない。

エボラはギニアなどにおける流行は沈静化してきたようだが、過去の例でも数年おきに流行しており、油断はできない。寛解後にウイルスが再発見された症例もあり、他のウイルス性疾患と同様に、根絶ではなくどこかに隠れているだけの可能性がある。

MSDのV920ワクチンは遺伝子組換え型弱毒化生ワクチン。Public Health Agency of Canadaからライセンスを取得したNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)が開発し、ワクチン大手であるMSDにバトンタッチしたもの。ギニアの第三相で発症者の家族などハイリスクポピュレーションに接種したところ、中間解析でワクチン効率100%だった。

リンク: MSDのプレスリリース

Adaptimmune、開発品をEMAがPRIMEに採用
(2016年7月28日発表)

Adaptimmune(Nasdaq:ADAP)は、NY-ESO標的T細胞療法が欧州の薬品審査機関であるEMAのPRIMEスキームに採用されたと発表した。NY-ESO-1腫瘍抗原を標的とする自家CAR-T細胞療法で、CD4、CD8、親和性増強T細胞受容体をT細胞と組み合わせたもの。適応症は限定的で、NY-ESO-1抗原を発現する切除不能または転移性滑膜肉腫で、HLA-Aの0201、0205、または0206アレルを持ち、化学療法を既に受けた患者に用いる。

PRIMEの採否はEMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPが毎月の会議で決定している模様だ。5月の会議以来、NY-ESO標的T細胞療法を含めて8品目が採用された。領域は腫瘍学が多いが、CAR-Tのシェアが8品中3品と高いことが目立つ。

リンク: Adaptimmuneのプレスリリース

【新薬開発】


レブラミド、DLBCLメンテ試験はフェール
(2016年7月25日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、フランスの研究者共同治験グループであるLYSAが主導したREMARC試験についてアップデートした。主評価項目であるPFS(無進行生存期間)の解析が成功したが、全生存の中間解析で延命効果が見られなかったため、適応追加申請は行わないというもの。

この試験は、びらん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療としてR=CHOPと呼ばれる多剤併用療法を施行し反応した患者を組み入れて、Revlimidによる維持療法の効果を偽薬と比較したもの。対象疾患と対照療法は先週取り上げたロシュのGazyva(obinutuzumab)のGOYA試験と似ており、R-CHOPに勝つのはハードルが高いことを示している。

Revlimidは多発骨髄腫やMDS(骨髄異形成症候群)に承認されている。非ホジキン型リンパ腫では、今回の試験のほかに、びらん性大細胞型B細胞リンパ腫のうちABCサブタイプだけを組み入れた試験や、濾胞性リンパ腫の一次治療や再発治療試験なども進行中。発売から10年経ったが用途開発は未だまだ進行中だ。

リンク: セルジーンのプレスリリース

【承認申請】


バイオマリン、CLN2病の酵素補充療法を承認申請
(2016年7月27日発表)

バイオマリン・ファーマスーティカル(Nasdaq:BMRN)は、Brineura(cerliponase alfa)を小児CLN2病の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年1月27日。EUでもEMAに販売承認申請した。

CLN2病は、TPP1/CLN2遺伝子の変異が原因でトリペプチジルペプチダーゼが機能せず、ライソゾームで分解されるべきものが蓄積する急進行性神経変性疾患。典型的には2~4歳で発症し6歳までに歩行・会話能力を喪失する。罹患率は20万人に一人の希少疾患。

cerliponase alfaは遺伝子組換え型ヒト・トリペプチジルペプチダーゼ。第1/2相試験で24人を組み入れて300mgを二週間に一回、脳室内点滴投与したところ、48週間の運動言語機能の悪化(CLN2スケールで計測)が0.43単位と、自然歴データの2.1単位より小さかった。治療時発現深刻有害事象は過敏反応と点滴反応など。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

【承認】


サノフィ、GLP-1受容体アゴニストが米国でついに承認
(2016年7月28日発表)

FDAは、サノフィのAdlyxin(lixisenatide、和名リキスミア)を二型糖尿病薬として承認した。アストラゼネカのByetta(exenatide)と同様なexendin類縁体で、胃腸ホルモンのGLP-1と同様に、食欲や胃腸の食物移動を抑制し、食後の血糖値上昇時にインスリン分泌を刺激する。一日一回皮注。10mcgで開始して2週間後に20mcgに増量する。

主な有害事象は悪心嘔吐などの胃腸系副作用。重大な副作用は低血糖、急性膵炎、アナフィラキシーなど。癌原性試験で甲状腺C細胞腫瘍が見られたことも併せて、GLP-1作用剤のクラスイフェクトを持っている。

デンマークのZealand Pharmaからライセンスしたもの。承認がEUや日本より3年遅れたのは、承認申請用の試験でMACE(主要有害心臓イベント)のハザードレシオが十分に低くなかった(1.25、95%上限は2.35)ため。急性冠症候群安定期の患者を組み入れた心血管アウトカム試験で95%上限が1.168と良好な結果となったため、疑いが晴れて無事、承認となった。

リンク: FDAのリリース
リンク: サノフィのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年7月24日

2016年7月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Gazyva、今度はリツキサンに勝てず 
  • プーマ、汎erbB阻害剤を承認申請 
  • アムジェン/UCB、抗Sclerostin抗体を骨粗鬆症に承認申請 
  • オプジーボ、頭頸部癌に適応拡大申請 
  • メルク、cladribineを欧州で再申請 
  • CHMPがIBS-D治療薬などに肯定的意見 
  • FDA諮問委員会、ルミセフの承認を支持 


【新薬開発】


Gazyva、今度はリツキサンに勝てず
(2016年7月18日発表)

ロシュはGazyva(obinutuzumab)の第三相GOYA試験が成功しなかったことを明らかにした。データは未発表。

GazyvaはCD20を標的とするフコース欠如ヒト化抗体。同社の抗CD20キメラ抗体であるRituxan(rituximab、和名リツキサン)よりマウス由来のアミノ酸が少なく、翻訳後装飾でフコースが付加されていないためNK細胞やマクロファージのFcガンマ受容体IIIaとの結合力が高く抗体依存性細胞傷害活性が優れている。13年に米国で、14年には欧州でも承認された。

開発戦略で特徴的なのは、Rituxan直接比較試験が数多く行われていること。狙いは、フコース欠如抗体技術の優秀性を確立することと、Rituxanの特許切れ対策と推測される。過去の成果は見事なもので、慢性リンパ性白血病の一次治療としてchlorambucilと併用した試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン26.7ヶ月とchlorambucil・Rituxan併用群の15.2ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.39だった。

もう一つの適応である非ホジキン型リンパ腫でも、濾胞性リンパ腫の一次治療として化学療法と併用したGALLIUM試験の中間解析で、PFSがRituxan・化学療法併用群を上回り、成功認定された(データは未発表)。

今回のGOYA試験も非ホジキン型リンパ腫のRituxan対照試験で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の一次治療として、化学療法4剤とRituxanを使うR-CHOPレジメンと、Rituxanに代えてGazyvaを用いるG-CHOPを比較した。似たような内容なので優越性が出なかったのは意外だ。この二つの試験の詳細が発表された段階で、何が異なり何が同じなのか、検討されることになるだろう。

非ホジキン型リンパ腫のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は約3割、濾胞性は2割程度を占める。前者は進行が速いが薬物療法応答性が高く、寛解の可能性がある。後者は低悪性度だが薬物療法応答性はやや劣る。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


プーマ、汎erbB阻害剤を承認申請
(2016年7月21日発表)

プーマ・バイオテクノロジー(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)をher2陽性早期乳癌の術後延長補助療法として米国で承認申請したと発表した。EUでも6月に申請済み。

ワイスがHKI-272として開発していた不可逆的汎erbBチロシンキナーゼ阻害剤。ワイスを買収したファイザーが11年にライセンスアウトした。プーマは、クーガー・バイオテクノロジーの創業者がZytiga(abiraterone、和名ザイティガ)の前立腺癌治療薬としての開発に目途を立て企業ごとジョンソン・エンド・ジョンソンに9.7億ドルで売却した後に設立した会社。第三相は末期乳癌で複数開始されたはずだが、まだ朗報は聞こえてこない。

承認申請の根拠になった第三相ExteNET試験は、her2陽性早期乳癌の切除術後にHerceptin(trastuzumab)による附随療法を受けた患者を組み入れて、偽薬またはneratinib(240mgを一日一回、経口投与)を1年間投与して浸潤性乳癌の再発リスクを比較したもの。日本の施設も参加した。結果は、主評価項目である2年後の浸潤性乳癌無再発生存率が93.9%と偽薬群の91.6%を上回り、ハザードレシオは0.67、95%信頼区間0.50-0.91、ログ・ランクp値0.009となり、成功した。

ホルモン受容体陽性サブグループや、セントラルラボでher2陽性であることが再確認されたサブグループでも有意差があった。主な有害事象は下痢など。

リンク: プーマ社のプレスリリース

アムジェン/UCB、抗Sclerostin抗体を骨粗鬆症に承認申請
(2016年7月21日発表)

アムジェンとUCBは、AMG785/CDP7851(romosozumab)を米国で承認申請したと発表した。Wntや骨形態形成蛋白のシグナル伝達パスウェイに介入して造骨細胞を抑制するsclerostinを標的とするヒト化抗体で、閉経後骨粗鬆症で骨折リスクの高い患者に用いる。210mgを月一回、皮注する。

アムジェンは抗RANKL抗体Prolia(denosumab、和名プラリア)も持っているため、romosozumabのコースの前、あるいは後にProliaを投与するシーケンシャル用法も検討されている。作用機序の違いが効果や安全性にどう影響しているか、詳細分析が待望される。

日本ではアムジェンとアステラス製薬の共同開発提携の対象。

リンク: 両社のプレスリリース

オプジーボ、頭頸部癌に適応拡大申請
(2016年7月18日発表)

BMSは、抗PD-1抗体のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を再発性転移性のSCCHN(頭頸部扁平上皮腫)用薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査で審査期限は11月11日。第三相のCheckMate-141試験では、白金薬による前治療歴を持つ患者を組み入れて3mg/kgを二週間に一回投与し、医師の選んだ薬を投与する群と全生存期間を比較したところ、中間解析でメジアン7.5ヶ月対5.1ヶ月、ハザードレシオ0.70となり、成功認定された。

サブグループ分析では、ヒトパピローマウイルス陽性でも陰性でも、あるいは、PD-L1陽性1%以上でも未満でも、ハザードレシオは1を下回ったが、症例不足なのか信頼区間が1を跨いでいるものもある。

リンク: BMSのプレスリリース

メルク、cladribineを欧州で再申請
(2016年7月18日発表)

独メルクは、cladribineを再発寛解型多発性硬化症用薬として欧州で再申請し受理されたと発表した。深刻な副作用の発生率が許容できる範囲なのか、注目される。

cladribineはプリン類縁体でDNA合成を阻害する。ジョンソン・エンド・ジョンソンが93年に有毛細胞性白血病用薬として発売したが、やがて、多発性硬化症に効く可能性が浮上した。アイバックス社(後にテバが買収)が開発した経口剤をセラノ(後にメルクが買収)がインライセンス、2005年に第三相試験を開始した。投与スケジュールが珍しく、年に一回、4~5日連続服用する。

複数の第三相が成功し再発リスク削減効果が確認されたが、腫瘍リスクが浮上した。白血病治療でもリスクが見られ、用量は経口剤でも実質的に大差ないので、危惧された通りと言っても良いだろう。メルクは欧米で承認申請を断行したが、承認されなかった。これも、予想された通りと言って良いだろう。

メルクは追加試験・分析を行い、今回の再承認申請に至った。今回も、予想された通りと言わなければならない結果になるのか、注目される。

リンク: メルクのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがIBS-D治療薬などに肯定的意見
(2016年7月22日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、7月の会合でIBS-D治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Aptalis Pharma SASのTruberzi(eluxadoline)は局所作用性オピオイド受容体作動剤。オピオイド受容体のうちミューとカッパ受容体にはアゴニストとして作用するが、デルタに対してはアンタゴニストなので便秘のような副作用が緩和される由。IBS-D(下痢主導型過敏性腸症候群)の治療に用いる。臨床試験では、EU基準の奏効率が偽薬群は20%前後であったのに対して75mg群(一日二回経口投与)は23~30%、100mg群は25~29%だった。主な有害事象は便秘、悪心、腹痛など。

Aptalisはアラガンのグループ会社。eluxadolineはジョンソン・エンド・ジョンソンから権利を取得して開発したFuriex Pharmaceuticalsがフォレストに買収され、フォレストはアクタビスに買収され、アクタビスがアラガンと合併と変遷した。米国では昨年5月にViberziというブランド名で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース

二種類のVEGF受容体阻害剤も肯定的意見を受けた。フランスのイプセンが米国のエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスして承認申請したCabometyx(cabozantinib)とエーザイのKisplyx(lenvatinib)で、どちらも活性成分は甲状腺癌用薬として承認されているが、新たに、他のVEGF受容体阻害剤による前治療歴を持つ腎細胞腫に用いることが支持された。

Cabometyxは錠剤で60mgを一日一回経口投与。甲状腺癌用の製品名はCometriqカプセルで140mg一日一回。Kisplyxは18mgカプセルを一日一回。腎細胞腫用はブランド名Lenvimaで24mg一日一回。米国のブランド名はLenvimaで統一されている。

甲状腺癌は患者数が比較的少ないため価格を高く設定しないとペイしないが、腎細胞腫は他にも多くのVEGF受容体阻害剤が承認されているので高いと売れない。新製品という位置づけになっているのは、おそらくこれが理由だろう。

Cabometyxは単剤投与する。ノバルティスのmTOR阻害剤であるAfinitor(everolimus)と直接比較した試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月対3.8ヶ月で上回り、ハザードレシオ0.58だった。KisplyxはAfinitorと併用する。臨床試験ではPFSがメジアン14.6ヶ月対5.5ヶ月で上回り、ハザードレシオ0.40だった。少なくとも効果の点ではKisplyx・Afinitor併用のほうが高そうだ。

リンク: EMAのプレスリリース

英国の小児用薬会社、Proveca社のSialanar(glycopyrronium bromide)はPUMA(小児用販売承認)の肯定的意見を受けた。慢性的神経学的疾患の3歳以上の患者の、重度流涎症状を治療する。CHMPは、安全性に関する検討が不十分でありQOL改善作用も確立していないことを理由に4月に否定的意見を出したが、再審請求・専門家諮問を経て、重度患者に短期間使うことを認めた。

PUMAは07年に導入された制度で、既に特許が切れた活性成分でも、新たに小児用製剤を開発し臨床試験を行ってPUMAを獲得すれば、新規活性成分と同様に10年間の市場独占権が与えられる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Proveca社のプレスリリース

バクスアルタのOnivydeは、トポイソメラーゼI阻害剤irinotecanのPEG化リポソーム製剤。転移性膵腺腫に肯定的意見を受けた。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、ギリアド・サイエンシズの抗HIV薬Truvada(tenofovir DFとemtricitabineの合剤)をHIV/AIDSの曝露前予防(PrEP)に用いることが支持された。感染者と性交渉を持つ男女が予防のために常用する。米国では12年に承認された。耐性ウイルスが増えるのではないかとか、油断する、金が掛かるなど反対意見も多いが、米国に続いてEUでも承認されればPrEPが大勢に変わる。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)をROS1陽性末期非小細胞性肺癌に用いる適応拡大も支持された。承認用途であるALK活性化変異型は非小細胞性肺癌の1~7%が該当、ROS1再構成型は1%程度と少ない。非小細胞性肺癌は特定のサブタイプだけに強い薬が多いので、様々な分子発現検査が必須になった。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA諮問委員会、ルミセフの承認を支持
(2016年7月19日発表)

FDAの皮膚学眼科用薬諮問委員会が中重度乾癬治療薬として承認申請されたbrodalumabについて検討し、18人全員が便益がリスクを上回ると判定した。承認に一歩近づいたが、類薬が複数存在する中、どの程度普及するか、不透明だろう。審査期限は11月16日。

brodalumabはIL-17受容体を標的とする完全ヒト化抗体。受容体ではなくIL-17を標的とする抗体医薬としては、ノバルティスが15年にCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を、イーライリリーが今年、Taltz(ixekizumab)を、発売している。

アムジェンが開発、日本周辺の権利は協和発酵が取得し、それ以外の地域ではアストラゼネカと共同開発していたが、15年にアムジェンが降りた。臨床試験で自殺思慮・自殺行動(SIB)が多数発生したため、レーベルに警告が記載されれば販促面で不利と判断したことが理由のようだ。アストラゼネカは単独で商品化を検討したが、結局、米国などの開発販売権をヴァレアントに、欧州はLEO Pharmaに、供与した。

諮問委員会で詳細が開示されたが、SIBは40例、うち完成自殺は6例とのこと。偶然なのだろうが、気持ち悪い。抗IL-17抗体でも同様なリスクがあるのかもしれないが、今のところ、brodalumabだけである。専門医は乾癬が改善すれば精神学的副作用のケアは精神科医に任せればよいが、患者はどちらも自分のことなので人任せにできない。悩ましいところである。

brodalumabは日本で今年7月にルミセフという製品名で承認された。

リンク: ヴァレアント社のプレスリリース




今週は以上です。

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2016年7月17日

2016年7月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • Juno、CAR-Tの治験を再開へ
  • ウルトラジェニクス、MPS VIIの第三相試験が成功
  • イデベノン、FDAは承認申請を認めず
  • FDA、シャイアーのドライアイ治療薬を承認
  • アムジェン、レパーサの月一回自己注用ディバイスが承認


【新薬開発】


Juno、CAR-Tの治験を再開へ
(2016年7月12日発表)

Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、FDAがJCAR015の第二相試験のクリニカルホールドを解除したと発表した。患者組入れを再開する予定。

JCAR015はキメラ抗原受容体=T細胞(CAR-T)と呼ばれる新しいタイプの細胞療法。再発性難治性急性リンパ芽球性白血病の第二相試験、ROCKET試験で脳浮腫による死亡が三例発生したことから、FDAが治験許可停止を通知していた(16年7月10日号参照)。

CAR-Tを施行する時は制御的T細胞が増殖を妨げないように事前にcyclophosphamideなどの化学療法剤でプリコンディショニングする。ROCKET試験は当初は単剤投与だったが、増殖速度が高まるfludarabine併用を開始した途端、脳浮腫死亡が発生した。これ以外の共通点は年齢が20代半ば以下であることだけである模様。

副刺激受容体として4-1BBを使った他のCAR-T(JCAR014と推測される)でも併用で脳浮腫死亡が発生したことがある模様なので、結局、これが一番怪しい。このため、治験再開後は単剤投与に戻す。

もう一つのCAR-TパイプラインであるJCAR017の場合は、併用でプリコンディショニングする時のcyclophosphamideの用量がJCAR015のケースより少なく、今のところ、忍容性は良好である模様。今後、JCAR015でも探索される可能性がありそうだ。但し、Kite Pharma(Nasdaq:KITE)との開発競争に負ける訳にはいかないので、当面は単剤プリコンディショニング法で全力を尽くすのだろう。

リンク: Junoのプレスリリース

ウルトラジェニクス、MPS VIIの第三相試験が成功
(2016年7月14日発表)

米国カリフォルニア州の希少疾患用薬開発会社であるウルトラジェニクス・ファーマスーティカル(Nasdaq:RARE)は、UX003の第三相試験結果を第14回MPS関連疾患国際シンポジウムで発表するとともに、トップラインデータをプレスリリースで公表した。17年上期の承認申請を目指して当局と相談する予定。超希少疾患なので治療効果を定量的に測定する方法が確立しておらず、組入れ数も少ないので、評価が難しく承認の見通しを立て難い。

この試験は、ムコ多糖症VII(MPS VII、別名Sly症候群)の患者12人を4群に割り付けて、遺伝子組換え型ヒト・ベータグルクロニダーゼであるUX003による酵素補充療法の効果を検討したもの。各群、最初の0、8、16、24週間は偽薬、その後はUX003(4mg/kg)を二週間に一回投与した。一群3人と少なく、年齢も5歳から35歳までと幅がある。各群のデータをどのように集計したのかはリリースに記されていない。

主評価項目はGAG(グリコサミノグリカン)の尿排泄量の減少。二次的評価項目はMDRI(複数ドメインレスポンダーインデックス)で、6分歩行テストやFVCなど様々な症状ドメイン毎に、臨床的に最低限必要と考えられる程度に改善したら1点を付与して算出した。前者は症状改善や合併症リスク削減につながるのか、臨床的な意義がよく分からない。後者は、無理にひとまとめにしないほうが分かり易いのではないか。

事前相談では、EMAは主評価項目で効果が確認されれば条件付き承認の可能性があると判定したが、FDAはどちらも不適切であり治験結果全体を総合的に評価して承認の当否を判断すると回答した模様。

結果は、24週間の治療でGAG尿排泄量が64.8%低下、pは0.0001未満だった。MDRIは平均0.5ドメインの改善で、標準偏差はプラスマイナス0.8、p=0.0527だった。6分歩行テストが改善した9例では平均20m改善した。一方で、患者の状態が不適で検査できなかった項目も少なくなかった模様であり、この評価項目の価値を一層引き下げている。

主な有害事象は点滴反応など。

リンク: ウルトラジェニクスのプレスリリース

イデベノン、FDAは承認申請を認めず
(2016年7月14日発表)

サンセラ・ファーマシューティカルズ(SIX:SANN)はidebenoneをデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬として承認申請するべくFDAに相談したが、否定的な回答を得たことを明らかにした。欧州では別の適応症で承認されDMDでも審査中だが、米国の新薬承認申請は2019年以降になりそうだ。

idebenoneは武田薬品が創製し、1986年に日本で脳卒中後遺症治療薬アバンとして承認されたが、薬効再確認試験が成功せず98年に販売中止となった。欧州の一部の国では利用されていたが、サンセラ社が改めてミトコンドリア異常に関連する疾患の治療薬として用途を探索、ついに、2015年に、LHON(レーバー遺伝性視神経萎縮症)治療薬としてEUの例外的条項に基づく承認を取得した。

DMDは14年に臨床試験が成功、1年間の呼吸能力(PEF%予測値)低下が偽薬群より小さかった。差は5.96%、pは0.04なので十分に小さいとは言えない。組入れ・除外条件を反映して、呼吸機能が低下し始めた、ステロイドを服用していない患者を適応として、5月にEUで承認申請し、受理された。それだけに、FDAが第三相SIDEROSの結果が19年下期に出るまで承認申請を認めなかったのは意外な感じを受ける。

リンク: サンセラのプレスリリース

【承認】


FDA、シャイアーのドライアイ治療薬を承認
(2016年7月12日発表)

FDAは、シャイアーがドライアイ治療薬として承認申請していたLFA-1阻害剤、Xiidra(lifitegrast)を承認した。臨床試験の成績は百戦百勝ではなかったが、ドライアイの兆候と症状を治療するという効能が認められたので販促面で有利になった。

13年に1.6億ドル及び達成報奨金と引き換えに買収した SARcode Bioscienceの開発品。白血球の接着分子であるLFA-1を阻害して、ドライアイの患者の角膜結膜組織で過剰発現しているICAM-1との交互作用を妨げる。一日二回、点眼する。

リンク: FDAのリリース
リンク: シャイアーのプレスリリース(7/11付)

アムジェン、レパーサの月一回自己注用ディバイスが承認
(2016年7月11日発表)

アムジェンは、Repatha PushtronexがFDAに承認されたと発表した。8月4日に発売する予定。

Repatha(evolocumab、和名レパーサ)はPCSK9(プロタンパク転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)に結合する完全ヒト化抗体で、LDL-C受容体の零落を妨げることによって血清LDL-Cを削減する。15年に欧米で、今年1月には日本でも承認された。

高脂血症の患者は140mgを二週間に一回または420mgを月一回、皮注する。後者は競合品であるリジェネロン/サノフィのPraluent(alirocumab、和名プラルエント)にはない差別化ポイントだが、140mgを三回皮注するので一ヶ月の注射回数は増加する。今回の420mg規格の承認・発売が注目されていたが、意外に複雑な製品だった。

一回分の薬剤が入ったカートリッジを装着したディバイスを注射箇所に張り付け、青のランプが点滅しているのを確認してスイッチを押すと緑の点滅に変わり、薬剤が29ゲージ針を通じて9分かけて点滴皮注される。終了すると緑のランプが点灯に変わる。使用中でも、歩いたり、手を伸ばしたり、体を折り曲げたりする程度なら可能。価格はWAC(問屋取得価格)ベースで14000ドルとなり、既存の製剤と同じ。

このディバイスはWest Pharmaceutical ServicesのSmartDose技術を用いたとのこと。皮注薬は深刻なアナフィラキシーのようなリスクがない限り自己注が可能だが、時間をかけて投与する薬の自己注は珍しく、もし点滴用薬に適用できるなら面白くなる。

リンク: アムジェンのプレスリリース



今週は以上です。

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2016年7月10日

2016年7月10日号


*** ギリアド・サイエンス社のZydeligを過去にZydeliqと誤記していたことに気づきました。お詫びして訂正いたします。ホームページのバックナンバーは訂正いたしました。 ***

【ニュース・ヘッドライン】

  • CAR-Tがクリニカルホールドに
  • スーテント、アジュバント試験が今度は成功
  • Insys社、ドロナビノール経口液の承認取得
  • 抗CD25抗体がEUで多発硬化症に承認
  • アドセトリスがEUで適応拡大
  • カイプロリスもEUで適応拡大
  • ギリアドの汎遺伝子型抗HCV薬がEUで承認
  • PRAC、Zydeligの再検討を終了


【今週の話題】


CAR-Tがクリニカルホールドに
(2016年7月7日発表)

CAR-T領域で最先端を行く企業の一つであるJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、FDAがJCAR015の開発にクリニカルホールドを命じたことを明らかにした。治験許可は停止され、臨床試験の一部または全部を止めなければならない。

CAR(キメラ抗原受容体)は、腫瘍抗原に結合する抗体の可変領域の軽鎖と重鎖、T細胞の共刺激受容体、そしてTCRの細胞内シグナル伝達部位を結合したもの。CAR遺伝子が導入されたT細胞(CAR-T)は、抗原提示細胞による抗原提示がなくても抗原を認知し攻撃する。制御的T細胞に抑制されないように、CAR-Tを体内に戻す前に化学療法薬でプリコンディショニングする。

ROCKET試験は再発性難治性B細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)の第二相試験。成功すれば承認申請して来年にも承認、というのがこれまでの期待だった。治験停止命令の端緒は、3名が脳浮腫で死亡したこと。現時点では、プリコンディショニングが強すぎたことが原因と推測されている模様。治療を受けた20人のうち、最初の2/3はcyclophosphamideだけを用いたが、残りの1/3はfludarabineを併用した。死亡した3名は何れも併用だったので、発生率は高い。。

Junoは治療プロトコルやインフォームド・コンセントを修正してFDAに提出することによって治験停止の解除を求める考えだ。

偶然か、狙ったのか、ライバル二社のうちKite Pharma社はこのタイミングで第二相試験の組入れが目標の72人に達したことを発表した。成功ならJunoより先に承認される可能性がある。

cyclophosphamideとfludarabineの併用はこの試験でも採用されている模様。CAR-Tの総説にもよく出てくるプリコンディショニング法なので、併用が悪いという単純な話ではないのではないかと想像される。用量の問題なのだろうか。.

リンク: Junoのプレスリリース

【新薬開発】


スーテント、アジュバント試験が今度は成功
(2016年7月8日発表)

ファイザーは、VEGFR阻害剤Sutent(sunitinib、和名スーテント)の腎細胞腫アジュバント試験(S-TRAC試験)が成功したと発表した。腎癌の切除を受けたが再発のリスクが高い720人を組み入れて偽薬群とSutent群の無病生存期間を比較したもの。Sutentは50mgを一日一回、4週間連続服用して2週間休むサイクルで1年間施行。再発の判定は第三者委員会が査読した。主評価項目であるグローバル解析が成功、中国だけの解析も今後、実施される予定。データは未発表。

VEGFR阻害剤は末期腎細胞腫の一次治療などに承認されている。アジュバントは米国の共同治験グループが1923人規模の大きなASSURE試験を行い、SutentおよびバイエルのNexavar(sunitinib)の再発予防効果を偽薬と比較したが、中間解析でメジアン無再発期間が各群5.6~5.7年、5年無再発生存率は偽薬群55.8%に対してNexavar群52.8%、Sutent群53.8%となり、フェールした

矛盾した結果になっている。後者の試験は目標症例数の2/3を登録した段階で用量を減らしたが、それだけでは説明できないだろう。

結果発表と、両試験の比較検討が待望される。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認】


Insys社、ドロナビノール経口液の承認取得
(2016年7月5日発表)

Insys Therapeutics(Nasdaq:INSY)は、FDAがSyndros(dronabinol)経口液を承認したと発表した。適応症は、AIDS患者の体重低下を伴う食欲不振と、既存薬に反応しない化学療法誘導性悪心嘔吐の治療。大麻の陶酔成分であるtetrahydrocannabinolの異性体で、経口液は初。開口後も常温で28日間保存が可能。規制物質であるため、麻薬取締局のカテゴリー分類(スケジューリング)を待って発売することになる。

リンク: Insysのプレスリリース

抗CD25抗体がEUで多発硬化症に承認
(2016年7月5日発表)

バイオジェンとアッヴィは、Zinbryta(daclizumab)がEUで多発硬化症用薬として承認されたと発表した IL-2受容体アルファチェーンのCD25を標的とするヒト化抗体で、活性化したT細胞を選択的に抑制し、神経細胞の損傷を防ぐ。免疫細胞数全体には大きな影響がないことが長所。4週間に一回の皮注で自己注可。深刻な有害事象は命にかかわる肝毒性で、治療中は毎月、終了後も6ヶ月間は検査が必要。アナフィラキシーも見られる。

活性成分はロシュが臓器移植後の拒絶反応予防薬Zenapaxとして97年に発売したが、商業上の理由で販売中止。創薬者であるプロテイン・デザイン・ラボが皮注用製剤を開発しバイオジェンと提携するなどして粘り強く開発を続け、今日の承認に至った。PDL社は後に企業分割され、医薬品開発会社のほうをアッヴィが買収した。ZenapaxがあるのでZinbrytaは新薬としての市場独占権は付与されなかった。

PDL社は可変領域のアミノ酸配列を支障のない範囲内でヒト由来の抗体のそれと置き換える、ヒト化抗体技術を持つ会社として一世を風靡した。初期の大型抗体医薬の多くが同社の技術を利用していた。次に注目されたのがマウスやファージにヒトの抗体を発現させるフルヒト抗体技術だ。どちらも独立系のプレイヤーは殆どが大手製薬会社に買収され、残っているのはメダレックス社の欧州におけるライセンシーであるジェンマブ位だ。買収の次の照準は、リジェネロンのような、新しいタイプの抗体を作る技術を持っている会社だろう。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

アドセトリスがEUで適応拡大
(2016年7月6日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)をCD30陽性ホジキン型リンパ腫の地固め療法に用いることがEUで条件付き承認されたと発表した。EU28ヶ国とノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドで有効。

自家造血幹細胞移植を受けたが再発リスクの高い患者に、3週間に一回投与する1年間のコースを施行する。臨床試験では2年無進行生存率が63%と偽薬群の51%を有意に上回った。主な有害事象は末梢知覚神経症、好中球減少症など。

Adcetrisは抗CD30抗体に強力な細胞毒を結合した抗体薬品混合物。リンパ腫細胞の表面に発現するCD30に結合して内部に入り込み、切り離された毒物が中から攻撃する、トロイの木馬だ。11年に米国で、12年にはEUでもホジキン型リンパ腫の再発予防などの用途で承認された。北米以外の権利は武田薬品が保有している。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

カイプロリスもEUで適応拡大
(2016年7月3日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)を多発骨髄腫の二次治療に用いる用法追加がEUで承認されたと発表した。dexamethasoneと併用する。武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同じ点滴用プロテアソーム阻害剤で、dexamethasone併用二次治療直接比較試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン18.7ヶ月対9.4ヶ月で上回り、ハザードレシオは0.53、統計的に有意だった。但し、前治療でVelcade使った患者もいるので、地力がここまで違う訳ではないだろう。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ギリアドの汎遺伝子型抗HCV薬がEUで承認
(2016年7月8日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)は、EpclusaがEUで承認されたと発表した。今やベストセラーとなったNS5Bポリメラーゼ阻害剤、sofosbuvirと、新開発の汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤、velpatasvirを配合したフィルムコート錠で、非代償性肝硬変を合併する患者はribavirin併用で、それ以外の患者はこの合剤だけを一日一回、12週間服用するだけで足りる。HCVには様々な遺伝子型があるが、1型から6型まで有効とカバレッジが広いことが同社のHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤)などの既存薬との違い。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、Zydeligの再検討を終了
(2016年7月8日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAで医薬品市販後監視・リスク評価を担うPRACは、ギリアド・サイエンス (Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)に関する再検討を終了し、14年に承認された適応症である慢性リンパ性白血病と濾胞性リンパ腫に関して、便益が危険を上回ると判定した。

再検討の契機となったは、化学療法併用試験でニューモシスチス・イロヴェチ肺炎などの深刻な感染症が見られたこと。PRACは、全ての患者に抗生剤を投与するよう勧告した。治療が終わった後も2~6ヶ月間、継続する。感染症や白血球数を定期的にモニターする。全身性感染症の患者には使わない。

Zydeligは化学療法に反応し難い17p欠損型などに一次治療で用いることも承認されている。PRACは、感染症リスクが発覚したため、一次治療には使わないよう勧告したが、今回、他に治療法がない場合に限って容認した。

ZydeligはPI3Kデルタ阻害という新しい作用機序を持つ。抗体医薬併用試験は複数、成功が報じられているので、相手を選べば毒性をそれほど高めずにパワーアップすることができるのではないだろうか。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年7月3日

2016年7月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • GW、カンバビノールの二本目の癲癇試験も成功 
  • PKC412の肥満細胞腫試験論文 
  • ESMO:スチバーガも肝細胞腫に有効 
  • ロシュ、多発性硬化症用抗CD20抗体を承認申請 
  • 汎erbB阻害剤が欧州で承認申請 
  • solithromycinがEUで承認申請 
  • ジャディアンスの心血管保護作用は意見が分かれた 
  • FDA、ギリアドの汎HCV治療薬を承認 
  • アストラゼネカ、複合抗生剤がEUで承認 


【新薬開発】


GW、カンバビノールの二本目の癲癇試験も成功
(2016年6月27日発表)

英国のGW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)は、Epidiolexの第三相Lennox-Gastaut症候群(LGS)試験の成功を発表した。3月にはDravet症候群試験も成功しており、小児の難治性癲癇に対する有効性が明らかになってきた。もう一本のLennox-Gastaut症候群試験の結果が第3四半期に出るのを待って、17年上期に米国で承認申請する予定。この二つの適応で希少疾患用薬指定されている。

同社は大麻の成分(カンナビノイド)を医薬品として開発しており、植物由来のカンナビノイドを世界で初めて、多発性硬化症患者の痙攣治療薬Sativexとして、実用化した。Epidiolexもカンナビノイドの一つであるカンナビジオールを精製・経口製剤化したもの。

Dravet症候群試験では、一日に体重1kg当り20mgを投与したところ、痙攣発作頻度(ベースライン値は月13回)が39%減少し、偽薬群の13%減を有意に上回った。今回のLGS試験では、転倒発作頻度(ベー スライン値は月74回)が44%減と、偽薬群の22%減を有意に上回った。被験者の平均年齢は前者が10歳、後者は15歳。どちらも複数の抗癲癇薬を服用している難治性患者に追加投与した(アジャンクト試験)。

主な有害事象は下痢や傾眠、食欲低下、発熱、嘔吐など。深刻な有害事象が25%の患者で発生した。偽薬群は5%。試験薬群で1名死亡したが、治療関連とはみなされなかった。二本目のLGS試験では10mg/kg群も設定しており至適用量が見直される可能性もある。

リンク: GW社のプレスリリース

PKC412の肥満細胞腫試験論文
(2016年6月30日発表)

ノバルティスは、PKC412(midostaurin)を末期全身性肥満細胞腫に用いる第二相試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたことを発表した。未承認薬だが、命に係る難病にある程度の効果が示されたため、世界的な人道的使用プログラム(CUP)を開始した。

末期全身性肥満細胞腫には、侵襲性全身性肥満細胞腫や肥満細胞白血病、肥満細胞肉腫などの病態がある。肥満細胞が骨髄や肝臓、脾臓で蓄積し、臓器障害を合併する。多くの症例でKITのD816V置換による活性化変異が見られるとのこと。

PKC412は様々な酵素を阻害する小分子薬で、元々は名前の通り、PKCやVEGFRを阻害する活性が注目されたが、第3相にステージアップしたのはFLT3活性化変異型急性骨髄性白血病、つまり、FLT3阻害効果に期待するものだった。完全寛解率は既存療法だけの群と大差なかったが、全生存期間はPKC412併用群のほうが有意に優れていたので、もうそろそろ承認申請されたのではないか。

今回の試験では総合反応率60%、メジアン反応持続期間は24.1ヶ月だった。主な有害事象は好中球減少症、貧血、血小板減少症、疲労、下痢など。56%の患者が有害事象で投与量を減らした。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ESMO:スチバーガも肝細胞腫に有効
(2016年6月28日発表)

Stivarga(regorafenib、和名スチバーガ)の第三相肝細胞腫試験結果がESMO欧州臨床腫瘍学会で発表された。バイエルは適応拡大申請に向かう予定。

StivargaはVEGFRやrafを阻害する小分子薬で、結腸直腸癌やGIST(消化管間質腫瘍)に承認されている。Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)と同様にバイエルとオニクス社(後にアムジェンが買収)の共同研究の成果。

今回の肝細胞腫試験は、一次治療でNexavarを用いたが不応・再発の患者を組み入れて、28日サイクルで最初の21日だけ160mgを毎日投与した。メジアン生存期間は10.6ヶ月と偽薬群の7.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。G3以上の有害事象は高血圧、手足症候群、疲労、下痢など。

リンク: バイエルのプレスリリース

【承認申請】


ロシュ、多発性硬化症用抗CD20抗体を承認申請
(2016年6月28日発表)

ロシュは、Ocrevus(ocrelizumab)を再発型と一次進行型の多発性硬化症の治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。米国の審査期限は12月27日。多発性硬化症は増悪と軽快を繰り返す再発寛解型が多い。病気が進行するにつれて寛解期間が短くなり、やがて寛解のない二次進行型に変わる。一方、一次進行型は初めから寛解期間が見られない。再発型に承認されている、ベータインターフェロンなど多くの薬で適応拡大試験が実施されたが、成功したのはocrelizumabが初めてだろう。

ロシュの抗CD20抗体というとキメラ抗体のRituxan(rituximab)が非ホジキン型リンパ腫(NHL)、慢性リンパ性白血病(CLL)そして関節リウマチに、フコース欠如ヒト化抗体のGazyv(obinutuzumab)がNHLとCLLに、承認されていいる。Ocrevusはプレーンなヒト化抗体で、自己免疫疾患用薬として開発されたが、関節リウマチ試験に参加した日本などアジアの施設で日和見感染症などの増加が見られたため、多発性硬化症以外は開発中止となった。

このような経緯を考えると、日本で使う場合は感染症リスクを十分に検討する必要がありそうだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

汎erbB阻害剤が欧州で承認申請
(2016年6月27日発表)

プーマ・バイオテクノロジー(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)を早期乳癌の延長アジュバント療法薬としてEUで承認申請したと発表した。Herceptin(trastuzumab)の1年コースを終えた患者に更に1年間、240mgを一日一回経口投与したところ、2年後に浸潤性乳癌を再発しなかった生存患者の比率(DFS)が93.9%と偽薬群の91.6%を上回り、ハザードレシオ0.67、p=0.0046となった。G3以上の主な有害事象は下痢。

PB272はワイスがファイザーに買収される前にHKI-272として開発していたが、最初の第三相試験がフェールしたこともあり、11年にプーマにライセンスアウトした。様々なタイプの乳癌における様々な分子標的薬の効果を検討するI-SPY試験の最初の卒業生としても知られている。

リンク: プーマのプレスリリース

solithromycinがEUで承認申請
(2016年6月28日発表)

米国ノース・カロライナ州のCempra(Nasdaq:CEMP)は、CEM-101(solithromycin)を地域感染細菌性肺炎の治療薬としてEUで承認申請したと発表した。米国でも5月に申請済み。フルオロケトライドという新しいクラスの抗菌剤で、マクロライド系の派生だがリボソームの三ヶ所に作用するためマクロライド耐性株にも活性が期待される。点滴用と経口剤の二種類用意されている。日本は富山化学が導入。

リンク: Cempraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ジャディアンスの心血管保護作用は意見が分かれた
(2016年6月28日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin。和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験、EMPA-REG OUTCOME試験について検討した。心血管疾患による死亡を減らす効果が見られたが、効能を正式に認めることに賛成したのは12人、反対は11人となり、賛否が分かれた。

反対派は、釈然としない点もあるので再現性を確認したいという趣旨のようだ。Jardianceでもう一本実施するのは現実的ではないので、他のSGLT2阻害剤等のの心血管アウトカム試験で代用することになるのではないか。

FDAは糖尿病治療薬を開発する企業に対して、二段階方式で心血管安全性を確認するよう求めている。まず、第二相や第三相試験のプール分析を行って、リスクが大きく高まる可能性が小さいことを確認する。確認されたら承認・発売後に、できなかったら承認前に、もっと大規模な心血管安全性確認試験を行ってリスクが1.3倍以上に高まらない(ハザードレシオの95%上限が1.3未満)ことを確認する。

JardianceはEMPA-REG試験の中間解析で第一段階をクリアして14年に米国で承認された。昨年9月には、EASD欧州糖尿病学会とNEJM誌で最終解析結果が発表され、非劣性だけでなく優越性解析も成功したことが明らかになった。糖尿病治療薬で初めて、MACE(主要有害心血管イベント)を減らす効果が示されたのである。

快挙であるが、狐につままれたような印象も持った。素直に受け入れにくい理由は、第一に、他の血糖治療薬の心血管アウトカム試験は全て、非劣性に留まっており、なぜJardiaceが成功したのか、違いの分かる男になれない。SGLT2阻害剤は利尿を通じた降圧作用を持つが、血圧降下剤の心血管アウトカム試験のデータを見ると、この程度の降圧では十分な心血管保護作用を発揮できないはずである。

第二に、イベント毎の解析を見ると心血管疾患による死亡は有意に減少したが非致死的な心筋梗塞は有意差がなく、非致死的な脳卒中は増加した(但し有意ではない)。心血管保護作用があるなら、スタチンのように、非致死的な心筋梗塞が減りそうなものである。降圧作用が寄与しているのなら、降圧剤と同様に、脳卒中が減りそうなものだ。

第三は、有意と言ってもボーダーライン近辺である。この試験の主評価項目はMACEの非劣性解析だ。中間解析にアルファの一部を割り当てたため、最終解析は95%ではなく95.02%上限が用いられ、0.99であったため成功、シーケンシャル法で第二の解析である不安定狭心症による入院を加えたMACE-4の非劣性解析に進み、成功した。次がMACEの優越性解析で、p=0.04となり成功。第四はMACE-4の優越性解析で、p=0.08となりフェール。

MACEとMACE-4で明暗が分かれたが、p値は大きく異なる訳ではなく、MACEの95.02%上限は0.99なのでリスクが1%しか下がらない可能性も残っている。

p値の閾値が0.05というのは決めごとに過ぎず、現実的な判断が必要だ。確率的には20回に1回の偶然である可能性があり、今日のように数多くの大規模試験が行われれば、偶然に有意差が出てしまう試験がたくさんあっても不思議はない。FDAは、通常、二本の独立した試験でp値が0.05未満であることを求める。このようなことが偶然発生する確率は0.05 x 0.05= 0.0025、400回に一回であり、通常より厳しい閾値を用いていることになる。

EMPA-REG試験の結果は医療メディア等を通じて喧伝されているので、効能が正式に承認されてもされなくても、営業面では大差ないかもしれない。真実探求の上では、これ以上の議論・探求はおそらく困難であり、他の血糖治療薬のエビデンスの検討にシフトすることになるだろう。ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide)も心血管アウトカム試験が成功したので次に俎上に上がることになる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認】


FDA、ギリアドの汎HCV治療薬を承認
(2016年月日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)のEpclusaを慢性C型肝炎の治療薬として承認した。

同社のHarvoni(和名ハーボニー)と同様なコンビ薬で、NS5Bポリメラーゼ阻害剤はどちらもsofosbuvirだが、NS5A複製複合体阻害剤はledipasvirではなく様々な遺伝子型に活性を持つ新開発のvelpatasvirを配合している。このため、Epclusaは2型や3型も含めて1~6の全ての遺伝子型で90%以上の高い持続的奏効率を示す。治療期間は12週間。非代謝性肝硬変を合併する患者にはribavirinを併用する。

FDAによると、米国の慢性C型肝炎の75%は1型、20~25%が2型または3型で、4~6型は少ない。2型、3型はHarvoniのエビデンスが少ないのでEpclusaが普及しそうだ。。1型は様々な用法が探求されている分、Harvoniが有利だが、将来は流動的だろう。

Harvoniやsofosbuvir単剤を配合するSovaldiは高いので有名だが、報道によると、Epclusaの問屋取得価格は12週間分が74760ドルと、SovaldiやHarvoniより1~2割安く設定されるとのこと。実勢価格は別なのだろうが、MSDの参入などで競争が激化していることに配慮したのだろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース

アストラゼネカ、複合抗生剤がEUで承認
(2016年6月28日発表)

アストラゼネカは、Zavicefta(ceftazidimeとavibactamの合剤)がEUで承認されたと発表した。適応はグラム陰性菌による複雑性腹腔内感染症、複雑性尿道感染症(腎盂腎炎を含む)、院内感染肺炎(呼吸器関連肺炎を含む)、そして好気性グラム陰性菌感染症で他の治療手段が限られている場合。

avibactamはベータラクタムと異なった構造を持つベータラクタマーゼ阻害剤で、多剤耐性緑膿菌やカルバペネム耐性グラム陰性菌にも活性を持つ。北米と日本はアラガンが、他の地域はアストラゼネカが権利を持っている。米国では昨年2月に承認済み。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



今週は以上です。

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