2016年7月10日

2016年7月10日号


*** ギリアド・サイエンス社のZydeligを過去にZydeliqと誤記していたことに気づきました。お詫びして訂正いたします。ホームページのバックナンバーは訂正いたしました。 ***

【ニュース・ヘッドライン】

  • CAR-Tがクリニカルホールドに
  • スーテント、アジュバント試験が今度は成功
  • Insys社、ドロナビノール経口液の承認取得
  • 抗CD25抗体がEUで多発硬化症に承認
  • アドセトリスがEUで適応拡大
  • カイプロリスもEUで適応拡大
  • ギリアドの汎遺伝子型抗HCV薬がEUで承認
  • PRAC、Zydeligの再検討を終了


【今週の話題】


CAR-Tがクリニカルホールドに
(2016年7月7日発表)

CAR-T領域で最先端を行く企業の一つであるJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、FDAがJCAR015の開発にクリニカルホールドを命じたことを明らかにした。治験許可は停止され、臨床試験の一部または全部を止めなければならない。

CAR(キメラ抗原受容体)は、腫瘍抗原に結合する抗体の可変領域の軽鎖と重鎖、T細胞の共刺激受容体、そしてTCRの細胞内シグナル伝達部位を結合したもの。CAR遺伝子が導入されたT細胞(CAR-T)は、抗原提示細胞による抗原提示がなくても抗原を認知し攻撃する。制御的T細胞に抑制されないように、CAR-Tを体内に戻す前に化学療法薬でプリコンディショニングする。

ROCKET試験は再発性難治性B細胞急性リンパ芽球性白血病(ALL)の第二相試験。成功すれば承認申請して来年にも承認、というのがこれまでの期待だった。治験停止命令の端緒は、3名が脳浮腫で死亡したこと。現時点では、プリコンディショニングが強すぎたことが原因と推測されている模様。治療を受けた20人のうち、最初の2/3はcyclophosphamideだけを用いたが、残りの1/3はfludarabineを併用した。死亡した3名は何れも併用だったので、発生率は高い。。

Junoは治療プロトコルやインフォームド・コンセントを修正してFDAに提出することによって治験停止の解除を求める考えだ。

偶然か、狙ったのか、ライバル二社のうちKite Pharma社はこのタイミングで第二相試験の組入れが目標の72人に達したことを発表した。成功ならJunoより先に承認される可能性がある。

cyclophosphamideとfludarabineの併用はこの試験でも採用されている模様。CAR-Tの総説にもよく出てくるプリコンディショニング法なので、併用が悪いという単純な話ではないのではないかと想像される。用量の問題なのだろうか。.

リンク: Junoのプレスリリース

【新薬開発】


スーテント、アジュバント試験が今度は成功
(2016年7月8日発表)

ファイザーは、VEGFR阻害剤Sutent(sunitinib、和名スーテント)の腎細胞腫アジュバント試験(S-TRAC試験)が成功したと発表した。腎癌の切除を受けたが再発のリスクが高い720人を組み入れて偽薬群とSutent群の無病生存期間を比較したもの。Sutentは50mgを一日一回、4週間連続服用して2週間休むサイクルで1年間施行。再発の判定は第三者委員会が査読した。主評価項目であるグローバル解析が成功、中国だけの解析も今後、実施される予定。データは未発表。

VEGFR阻害剤は末期腎細胞腫の一次治療などに承認されている。アジュバントは米国の共同治験グループが1923人規模の大きなASSURE試験を行い、SutentおよびバイエルのNexavar(sunitinib)の再発予防効果を偽薬と比較したが、中間解析でメジアン無再発期間が各群5.6~5.7年、5年無再発生存率は偽薬群55.8%に対してNexavar群52.8%、Sutent群53.8%となり、フェールした

矛盾した結果になっている。後者の試験は目標症例数の2/3を登録した段階で用量を減らしたが、それだけでは説明できないだろう。

結果発表と、両試験の比較検討が待望される。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認】


Insys社、ドロナビノール経口液の承認取得
(2016年7月5日発表)

Insys Therapeutics(Nasdaq:INSY)は、FDAがSyndros(dronabinol)経口液を承認したと発表した。適応症は、AIDS患者の体重低下を伴う食欲不振と、既存薬に反応しない化学療法誘導性悪心嘔吐の治療。大麻の陶酔成分であるtetrahydrocannabinolの異性体で、経口液は初。開口後も常温で28日間保存が可能。規制物質であるため、麻薬取締局のカテゴリー分類(スケジューリング)を待って発売することになる。

リンク: Insysのプレスリリース

抗CD25抗体がEUで多発硬化症に承認
(2016年7月5日発表)

バイオジェンとアッヴィは、Zinbryta(daclizumab)がEUで多発硬化症用薬として承認されたと発表した IL-2受容体アルファチェーンのCD25を標的とするヒト化抗体で、活性化したT細胞を選択的に抑制し、神経細胞の損傷を防ぐ。免疫細胞数全体には大きな影響がないことが長所。4週間に一回の皮注で自己注可。深刻な有害事象は命にかかわる肝毒性で、治療中は毎月、終了後も6ヶ月間は検査が必要。アナフィラキシーも見られる。

活性成分はロシュが臓器移植後の拒絶反応予防薬Zenapaxとして97年に発売したが、商業上の理由で販売中止。創薬者であるプロテイン・デザイン・ラボが皮注用製剤を開発しバイオジェンと提携するなどして粘り強く開発を続け、今日の承認に至った。PDL社は後に企業分割され、医薬品開発会社のほうをアッヴィが買収した。ZenapaxがあるのでZinbrytaは新薬としての市場独占権は付与されなかった。

PDL社は可変領域のアミノ酸配列を支障のない範囲内でヒト由来の抗体のそれと置き換える、ヒト化抗体技術を持つ会社として一世を風靡した。初期の大型抗体医薬の多くが同社の技術を利用していた。次に注目されたのがマウスやファージにヒトの抗体を発現させるフルヒト抗体技術だ。どちらも独立系のプレイヤーは殆どが大手製薬会社に買収され、残っているのはメダレックス社の欧州におけるライセンシーであるジェンマブ位だ。買収の次の照準は、リジェネロンのような、新しいタイプの抗体を作る技術を持っている会社だろう。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

アドセトリスがEUで適応拡大
(2016年7月6日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)をCD30陽性ホジキン型リンパ腫の地固め療法に用いることがEUで条件付き承認されたと発表した。EU28ヶ国とノルウェー、リヒテンシュタイン、アイスランドで有効。

自家造血幹細胞移植を受けたが再発リスクの高い患者に、3週間に一回投与する1年間のコースを施行する。臨床試験では2年無進行生存率が63%と偽薬群の51%を有意に上回った。主な有害事象は末梢知覚神経症、好中球減少症など。

Adcetrisは抗CD30抗体に強力な細胞毒を結合した抗体薬品混合物。リンパ腫細胞の表面に発現するCD30に結合して内部に入り込み、切り離された毒物が中から攻撃する、トロイの木馬だ。11年に米国で、12年にはEUでもホジキン型リンパ腫の再発予防などの用途で承認された。北米以外の権利は武田薬品が保有している。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

カイプロリスもEUで適応拡大
(2016年7月3日発表)

アムジェンは、Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)を多発骨髄腫の二次治療に用いる用法追加がEUで承認されたと発表した。dexamethasoneと併用する。武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同じ点滴用プロテアソーム阻害剤で、dexamethasone併用二次治療直接比較試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン18.7ヶ月対9.4ヶ月で上回り、ハザードレシオは0.53、統計的に有意だった。但し、前治療でVelcade使った患者もいるので、地力がここまで違う訳ではないだろう。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ギリアドの汎遺伝子型抗HCV薬がEUで承認
(2016年7月8日発表)

ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)は、EpclusaがEUで承認されたと発表した。今やベストセラーとなったNS5Bポリメラーゼ阻害剤、sofosbuvirと、新開発の汎遺伝子型NS5A複製複合体阻害剤、velpatasvirを配合したフィルムコート錠で、非代償性肝硬変を合併する患者はribavirin併用で、それ以外の患者はこの合剤だけを一日一回、12週間服用するだけで足りる。HCVには様々な遺伝子型があるが、1型から6型まで有効とカバレッジが広いことが同社のHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤)などの既存薬との違い。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、Zydeligの再検討を終了
(2016年7月8日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAで医薬品市販後監視・リスク評価を担うPRACは、ギリアド・サイエンス (Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)に関する再検討を終了し、14年に承認された適応症である慢性リンパ性白血病と濾胞性リンパ腫に関して、便益が危険を上回ると判定した。

再検討の契機となったは、化学療法併用試験でニューモシスチス・イロヴェチ肺炎などの深刻な感染症が見られたこと。PRACは、全ての患者に抗生剤を投与するよう勧告した。治療が終わった後も2~6ヶ月間、継続する。感染症や白血球数を定期的にモニターする。全身性感染症の患者には使わない。

Zydeligは化学療法に反応し難い17p欠損型などに一次治療で用いることも承認されている。PRACは、感染症リスクが発覚したため、一次治療には使わないよう勧告したが、今回、他に治療法がない場合に限って容認した。

ZydeligはPI3Kデルタ阻害という新しい作用機序を持つ。抗体医薬併用試験は複数、成功が報じられているので、相手を選べば毒性をそれほど高めずにパワーアップすることができるのではないだろうか。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

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