2015年11月29日

2015年11月29日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ファイザーが節税合併を断行 
  • FDA諮問委員会、DMD用新薬のエビデンスに否定的 
  • オプジーボの適応拡大とCRL 
  • FDA、イーライリリーの抗EGFR抗体を承認 
  • FDA、肺炭そ用ワクチンを適応拡大 
  • FDA、アジュバント入りインフルエンザ・ワクチンを承認 
  • EUでノバルティスの心不全治療薬などが承認  

【今週の話題】


ファイザーが節税合併を断行
(2015年11月23日発表)

ファイザーはアラガン(NYSE:AGN)と合併で合意した。法人税率が低いアイルランドに籍を置くアラガンが名目上の存続会社だが、社名はファイザーに変わる。ファイザーの株主は一株を新会社の株式一株と、アラガンの株主は同じく11.3株と、交換する。実質的にはファイザーによるアラガン買収で、買収額はエンタープライズ・バリューで1600億ドルに相当する。大変な巨額だが、アイルランドの人たちは自国のGDP(2013年に2321億ドル)の方が大きいと胸を張るかもしれない。

アラガンの評価額は発表前の時価を30%上回っており、この分、ファイザー株主の財産がアラガン株主に移転することになる。見返りが、第一に、合併後に生み出されるシナジー。ファイザーは合併3年後に年20億ドル規模と予想している。第二は節税。プロ・フォーマ・ベースの税率を17~18%と予想している。ファイザーの経営陣には特別なメリットがある。役員の成果目標の一つは営業収益額なので、大型合併を断行すればもし他のステークホルダーに無益であったとしても役員報酬を増やすことができる。

アイルランドは工業所有権使用料などの知的財産権収入に対する課税が少なく、製薬会社やブランド商品メーカーの一部に人気がある。近年は米国の大企業ですら今回のファイザーのような方法でアイルランドに移籍する動きが活発化、政府や連邦議会が規制強化を進めているところだ。抜け道が完全に塞がれる前に駆け込みを図った、と呼んでもよいだろう。

タックスヘブンとの競争は他人事ではなく、日本でも法人税率引き下げが政策アジェンダになっている。私見では、法人減税は価格競争と同じで、自分が下げてもライバルが対抗する限りエンドレス、互いの首を絞めるだけである。タックスヘブンに直接、あるいは、アイルランドだったらEUを通じて、圧力を掛けて極端な優遇税制を止めさせるべきだ。

当然のことながら、受益者負担の精神に則り、税金を払わない企業や国民に対する行政サービスも止めるべきである。しかし、おそらく、アイルランド籍となった後もファイザーと役職員は一般的な企業や米国人より多くの税金・社会保険料を負担するだろうから、愛国心は無いのか、という類の批判は当たらないだろう(笑)。

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、DMD用新薬のエビデンスに否定的
(2015年11月24日発表)

FDAは末梢中枢神経系薬諮問委員会を招集し、バイオマリン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:BMRN)が特定のタイプのDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の治療薬として承認申請したKyndrisa(drisapersen)の臨床試験のエビデンスについて意見を求めた。設問の構成が通常の諮問委員会と異なるため分かりにくいが、FDA自体が承認に否定的である模様であり、委員会も承認しないことに反対ではないようだ。12月27日が審査期限だが、承認されない可能性が高まった。

drisapersenは、特定の遺伝子の特定の箇所が翻訳されるのを妨げちゃんとした蛋白が作られるのを防ぐ、アンチセンス薬。DMDはジストロフィン遺伝子の欠損・重複・置換が原因でジストロフィンが十分に機能しない。このうち、エクソン51に変異があるタイプに有効と考えられているのがdrisapersenで、不整合箇所が無視されるようになるため、完全ではないがある程度は機能するジストロフィンが作れるようになる。

一本目の第二相試験で6分歩行試験成績が有意に改善、大きな注目を集めた。しかし、二本目はトレンドに留まり、第三相試験もフェール。開発パートナーだったグラクソ・スミスクラインは権利を返還した。同様な薬を開発しているSarepta(Nasdaq:SRPT)も当時のCEOがFDAとの対立を深める一方であったため、私はエクソン51スキッピング薬は終わったと認識していた。

流れが変わったのは今年に入ってからで、両社の承認申請が受理された。他の希少疾患用薬でもエビデンスが不十分であることを諮問委員会やFDAが容認し承認するケースがあったため、drisapersenとSareptaのeteplirsenが承認される期待が高まった。

それだけに諮問委員会は意外な結果になった。ポイントは二つあるようだ。一つは上述のように薬効のエビデンスが脆弱であったこと。主評価項目の解析は頑強性も弱く、二次的評価項目でも十分な効果は見られなかった。希少疾患とはいえ186人を試験薬と偽薬に2対1割付したのでサンプル数は決して少なくない。もう一つは副作用。深刻な有害事象は血小板減少症、腎障害、点滴箇所反応などで、命に係る症例もあった模様だ。

今回の諮問委員会で変則的なのは、承認の是非は問わず、個々の臨床試験の所見について全体的なエビデンスを補強するか、弱体化するか、どちらでもないかを問うたことだ。理由は不明だが、二つ考えられる。一つは、承認に必要な様々な要件のうち、諮問事項以外の要件に疑惑があるケース。例えば、生産管理が不十分であるため薬効や忍容性に問題が無くても直ぐには承認できないというパターンだ。

もう一つは、Sareptaのeteplirsenとの違いを明確にする意図なのかもしれない。承認申請が4ヶ月遅く、諮問委員会は来年1月22日、審査期限は2月26日。申請内容は企業の知的財産に関わるので、それ以前のタイミングで濫りに公表することはできない。そこで、データの違いを浮き彫りにするのは1月22日に先送りして、違いのある項目についてそのことを重視すべきであるかどうかだけを問うたのかもしれない。尚、命に係る有害事象は諮問事項に上がっていない。自明ということだろう。

eteplirsenも第二相の6分歩行試験がフェールしたので、drisapersenと同じ結果になると考えるのが標準シナリオだろう。しかし、もしeteplirsenに命に係る服用の懸念が無いならば、薬効のエビデンスが不十分であったとしても、異なった評価を受ける可能性が残っているだろう。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

【承認】


オプジーボの適応拡大とCRL
(2015年11月23日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の様々な適応拡大申請の結果を相次いで発表した。まず、FDAが末期腎細胞腫に用いることを承認。ファイザーのSutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤を既に使ってしまった患者が対象。ノバルティスのmTOR阻害剤、Torisel(temsirolimus)と直接比較した試験で、メジアン生存期間が各25ヶ月と19.6ヶ月、ハザードレシオ0.73と、有意に上回った。

BMSがこの適応拡大申請が受理されたと発表したのは今月16日、つまり、1週間前だ。申請から受理までのリードタイムは1~2ヶ月なので、FDAの承認審査は2ヶ月前後で終わった計算になり、驚かされる。審査期限は来年3月だった。

次は、切除不能/転移性黒色腫の一次治療に単剤投与することを承認。黒色腫の半分はbrafにV600変異を持つタイプでこのタイプの一次治療はbraf阻害剤が有効。BMSは両方のタイプに承認を求めたが、野生型しか承認されず、V600変異型は審査完了通知(CRL)を受領した。Yervoy(ipilimumab)併用の一次治療も野生型しか承認されていないが、V600変異型の対象患者拡大申請を行った時にOpdivo単剤投与のデータも提出した由なので、一緒に承認されることになるのだろう。

EUでは、Opdivoという製品名で取得した承認とNivolumab BMS名の承認(『リコンシレーション』)の調整が承認された。米国は、上記の例のように異なった適応拡大申請をパラレルに進めることが可能だが、EUは一つ一つ順番に行う必要がある。そこで、BMSはEUと相談の上で、悪性黒色腫をOpdivo名で、扁平上皮非小細胞性肺癌をNivolumab BMS名で承認申請し、承認後に整理する方法を選んだのである。今回の調整でNivolumab BMSの承認は返上、Opdivoに統合された。

リンク: FDAのリリース(腎細胞腫承認、11/23付)
リンク: BMSのプレスリリース(同)
リンク: 同(黒色腫の単剤一次治療承認、11/24付)
リンク: 同(野生braf審査完了通知、11/27付)
リンク: 同(EUの調整、11/24付)

FDA、イーライリリーの抗EGFR抗体を承認
(2015年11月24日発表)

FDAはイーライリリーのPortrazza(necitumumab)を末期扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療薬として承認した。gemcitabine及びcisplatinと併用する。扁平上皮以外の非小細胞性肺癌の試験がフェールしたことが明記された。深刻な有害事象は皮膚ラッシュと低マグネシウム血症。後者と心停止、突然死のリスクが枠付き警告された。

PortrazzaはEGFRを標的とする抗体医薬で、08年に65億ドルで買収したImClone社の開発品。ImCloneの代表作であるErbitux(cetuximab)との違いは、キメラではなくDyaxのファージディスプレイ法に基づく完全ヒト化抗体であること。直接比較試験は行われていないので臨床的な違いは不明。

Erbituxは非小細胞性試験がフェールしたが、Portrazzaも一本はフェール、今回の承認につながった試験でも、メジアン生存期間が二剤併用の9.9ヶ月から11.5ヶ月に2ヶ月足らず伸びるだけ、ハザードレシオも0.84、p=0.012と、胸を張るほどではない。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

FDA、肺炭そ用ワクチンを適応拡大
(2015年11月23日発表)

FDAはエマージェント・バイオソリューションズ(NYSE:EBS)のBioThraxを肺炭そ曝露後予防に用いる適応拡大を承認した。抗生剤と共に用いる。1970年に肺炭そ曝露前予防で承認されたワクチンで、今回はワクチンで初めて、アニマル・ルールに基づいて承認された。

アニマル・ルールは、臨床試験を行うことが倫理に反するような致死的な疾患に用いる薬について、薬効を動物試験のデータに基づいて認定するもの。肺炭そ治療薬では複数のニューキノロンが動物データで承認された。BioThraxの場合は、臨床試験で安全性と免疫原性を調べ、動物のデータに基づいて、死亡リスクが70%削減されると推定した。

リンク: FDAのリリース
リンク: エマージェント・バイオソリューションズのプレスリリース

FDA、アジュバント入りインフルエンザ・ワクチンを承認
(2015年11月24日発表)

FDAはノバルティスのFluadを65歳以上のインフルエンザ予防に用いることを承認した。欧米はA型とB型の抗原を二種類ずつ配合する4価ワクチンに一足先にシフトしたが、今回の承認は3価ワクチンが対象だ。

MF59というエマルジョン・ベースのアジュバント(免疫刺激を強化するための添加物)を用いている。インフルエンザでアジュバント入りは初。高齢者はワクチンの効果が減衰するため有益、という考え方なのかもしれない。

欧州では97年にイタリアなどの国で65歳以上に承認された。その後、ノバルティスが小児用に適応拡大申請したが後に撤回。また、14年にイタリアで高齢者が死亡する事象があり、バッチベースの販売停止措置が取られたことがある。

リンク: FDAのリリース

EUでノバルティスの心不全治療薬などが承認
(2015年11月24日発表)

9月と10月のCHMPで肯定的意見を受けた新薬や適応拡大が続々と承認された。

まず、ノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)。駆出率低下を伴う慢性心不全の治療に用いる。アウトカム試験で心血管死リスクを削減することが確認された。ネプリライシン阻害剤LBQ657のプロドラッグであるsacubitrilとDiovan名で知られるARBのvalsartanを一つの分子にしたもので、新種の合剤と考えることができる。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(11/24付)

ノバルティスはCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を乾癬性関節炎と強直性脊椎炎の治療に用いる適応拡大も承認された。前者は疾病修飾的薬に、後者は伝統的な治療法に、十分反応しない患者が対象。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(11/23付)

アムジェンのBlincyto(blinatumomab)は12年にマイクロメットを11.6億ドルで買収して入手した抗CD19BiTE抗体で、再発性難治性でフィラデルフィア染色体陰性の急性リンパ芽球性白血病に用いる。BiTE抗体は二つの可変領域チェーンが夫々異なったターゲットに結合する。Blincytoの場合はBセルのCD19と細胞障害性TセルのCD3に夫々結合し、副刺激なしに後者を活性化する。キメラ抗原受容体Tセル療法(CAR-T)を連想させる。日本はアステラスと共同開発。

リンク: アムジェンのプレスリリース(11/23付)

バイオジェンのEloctate(efmoroctocog alfa、和名イロクテイト)は血液凝固第VIII因子を免疫グロブリンG2と細胞融合して半減期を長期化したもの。投与頻度が3~5日に一回と少なくて済むので、A型血友病のルーチン予防に適している。既存メーカーや他の新規参入組も持効性製品を開発・発売している。Swedish Orphan Biovitrum(OMX: SOBI)と共同開発。

リンク: バイオジェンのプレスリリース(11/24付)

ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)は同社の直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran etexilate)に結合する完全ヒト化抗体フラグメント。緊急手術を行う時や大出血時にPradaxaの効果を消すために使う。

リンク: ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース(11/26付)

ロシュがエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスして開発したMEK阻害剤、Cotellic(cobimetinib)はbrafV600変異を持つ切除不能転移性黒色腫の一次治療薬。同社のraf阻害剤であるZelboraf(vemurafenib)と併用する。

リンク: ロシュのプレスリリース(11/25付)

ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)は変異ALK陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に用いる。臨床試験では白金薬とAlimtaの併用よりPFS(無進行生存期間)が有意に長かった。

リンク: ファイザーのプレスリリース(Nasdaqのホームページ、11/25付)

インパックス(Nasdaq:IPXL)のNumientはcarbidopaとlevodopaの合剤。パーキンソン病の治療に用いる。即放性と徐放性の製剤をカプセルに収めたもので、典型的には一日三回服用する。米国では1月にRytary名で承認。

リンク: インパックスのプレスリリース(11/25付)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のGenvoyaはHIV/AIDS治療用の合剤。日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤、elvitegravirとその代謝を阻害する3A4阻害剤cobicistat、そして逆転写阻害剤のemtricitabineとtenofovir alafenamide fumarateを配合しており、一日一回一錠の服用で多剤併用療法を施行することができる。

リンク: ギリアドのプレスリリース(11/23付)



今週は以上です。

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2015年11月22日

2015年11月22日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • FDAが遺伝子組換え鮭を承認 
  • ギリアド、Zydeligの延命効果を確認 
  • バイエル、5年IUSを承認申請 
  • CHMPがナルコレプシー用薬などの承認を支持 
  • FDA、武田の多発骨髄腫用薬をスピード承認 
  • FDA、Darzalexもスピード承認 
  • ヴァーテックス、OrkambiがEUで承認 
  • アムジェン、KyprolisがEUで承認 

【今週の話題】


FDAが遺伝子組換え鮭を承認
(2015年11月19日発表)

FDAはAquaBounty Technologies社のAquAdvantageサーモンを承認した。遺伝子組換え(GE)食物で、トウモロコシや大豆など農産物では珍しくなくなったが動物では初。

米国のGE動物の規制は、動物薬の規制に準拠しているようだ。導入される遺伝子を薬の一種とみなして、導入された動物を食べても安全か、動物自身にとっても安全かを審査し、効能を確認する。

AquAdvantageサーモンはキングサーモンの成長ホルモン遺伝子とオーシャン・パウト(ウナギのような魚)のプロモーター遺伝子を組み込んで春夏だけでなく一年中成長するように仕向けたアトランティック・サーモン。米国の鮭養殖業は輸入に圧され衰退したが、養殖期間を短縮化して飼料や人件費を節減することができれば競争力を回復できるかもしれない。

全てメスで、染色体操作により不妊処理してある。カナダとパナマに設置された自然界から隔離された施設で養殖する。た最初の食用動物で、通常のアトランティック・サーモンより早く成体に育つ。

米国はGE食品の表示義務が緩く、栄養学的な特徴などが非GE食品と同じならば表示しなくてよい。だから、『アレルギーを緩和する成分を含有する米』ではなく、『農薬代を節約できるトウモロコシ』のようなGE食品表示不要な製品が主流になっている。FDAはAquAdvantageサーモンは非GEサーモンと同じなので表示不要と判定したが、公聴手続きを開始した。欧州のように開示義務を課す国もあるので、この機会に改めて世論を確認する意図だろう。

リンク: FDAのリリース

【新薬開発】


ギリアド、Zydeligの延命効果を確認
(2015年11月16日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、Zydelig(idelalisib)の再発性慢性リンパ性白血病(CLL)試験が予定より早く成功したと発表した。詳細は12月のASH米国血液学会で発表される。このPI3Kデルタ阻害剤は14年に再発性のCLLや低悪性度非ホジキン型リンパ腫用薬として承認されたが、延命・進行抑制効果が確認されたのは今回が初めて。

この115試験はCLLの標準的な二次治療レジメンの一つであるrituximabとbendamustineに更にZydeligを追加したもので、PFS(無進行生存期間)がメジアン23ヶ月と二剤だけの群の11ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.33だった。全生存のハザードレシオも0.55で、何れも95%上限が1を下回りp値は0.05未満だった。

欧米で効能追加申請されることになるだろう。現時点ではrituximab併用しか承認されていないので、用法の選択肢も拡大することになる。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認申請】


バイエル、5年IUSを承認申請
(2015年11月20日発表)

バイエルは避妊用の低用量ピルや子宮内黄体ホルモン放出システム(IUS)の大手だ。後者は、日本でも14年に過多月経や月経困難症の治療薬として承認されたミレーナと、12~13年に欧米で承認されたSkylaが代表的。

Skylaは黄体ホルモンの放出量を減らしたもので、エストロゲンやプロゲスチンの用量をできるだけ抑えようとする近年の傾向を反映している。弱点は放出期間が最長3年とミレーナの5年より短いこと。今回欧米で承認申請されたLCS-16は最長5年間放出するので、ミレーナにキャッチアップした。臨床試験のパールインデックスは0.29だった。

リンク: バイエルのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがナルコレプシー用薬などの承認を支持
(2015年11月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議で、ナルコレプシー治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認される見込み。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのBioprojet PharmaのWakix (pitolisant)はナルコレプシーの治療に用いる。脱力発作を伴うかどうかは問わない。現在は覚醒剤などが用いられているが、WakixはヒスタミンのH3受容体にアンタゴニスト/インバース・アゴニストとして作用する新作用機序を持つ。臨床試験では日中の傾眠や脱力発作を減らす効果を示した。主な有害事象は頭痛、不眠、悪心。

リンク: EMAのプレスリリース

medac GmbHのSpectrila(asparaginase)はアスパラギンを分解する酵素で、リンパ球増殖時の核酸合成を妨げる。アスパラギナーゼに過敏反応を持つ人に用いるのがバクスアルタ(NYSE:BXLT)のOncaspar (pegaspargase) で、PEG化により作用長期化と免疫原性改善を実現した。どちらも急性リンパ芽球性白血病の多剤併用療法の一部として承認することが支持された。尚、Oncasparはドイツで20年の市販歴を持つ。バクスアルタは7月にSigma-Tauから権利を取得。

UCBのBriviact(brivaracetam)も支持された。癲癇部分発作の治療に用いる。シナプス小胞2A作動剤で、選択性や力価が同社のKeppra(levetiracetam、イーケプラ)より高い。三種類の用量をテストした第三相試験では、28日間部分発作発生率が偽薬比19~24%低下した。発作半減成功率は35~39%で偽薬群の20%を上回った。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: UCBのプレスリリース

ドイツのBirken AGのEpisalvanも肯定的意見。皮膚の中間層損傷の治療に用いる。カバノキ樹皮抽出物で、炎症を調停したり、ケラチノサイトを補助したりして、損傷治癒を早める。

Samsung BioepisのBenepaliも肯定的意見。EU初のEnbrel(etanercept)のバイオシミラーで、リウマチ性関節炎、乾癬性関節炎、軸性脊椎関節炎、プラク乾癬の治療に用いる。関節リウマチの試験ではACR20が80.8%とEnbrelの81.5%と同程度だった。

この会社は韓国のサムソン・バイオロジックスとバイオジェンの合弁で、他にも様々なバイオシミラーを開発・承認申請している。CelltrionもRemicade(infliximab)のバイオシミラーで先行しており、韓国勢の台頭が著しい。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

【承認】


FDA、武田の多発骨髄腫用薬をスピード承認
(2015年11月20日発表)

FDAは、武田薬品の米国子会社であるミレニアム・ファーマシューティカルズが開発した経口プロテアソーム阻害剤、Ninlaro(ixazomib cirate)を多発骨髄腫の二次治療薬として承認した。第三相試験を開始したのは2012年、最初の中間解析で成功認定されたのが今年2月、承認申請が7月で審査期間は4ヶ月というスピード開発、スピード承認だ。

この第三相は、前治療歴1~3ラインの再発性難治性多発骨髄腫で過去にRevlimid(lenalidomide)やプロテアソーム阻害剤に抵抗性を示さなかった722人を組入れて、Revlimidと低量dexamethasoneを併用するRdレジメンと共に、偽薬またはNinlaroの4mgを28日サイクルで第1、8、15日に経口投与した。

結果は、Ninlaro群のメジアンPFS(無進行生存期間)は20.6ヶ月、偽薬群は14.7ヶ月でハザードレシオ0.74、統計的に有意だった。全生存の解析は未だのようだ。グレード3以上の有害事象は骨髄抑制、下痢、ラッシュなど。

多発骨髄腫は新薬が続々と登場している。今年はノバルティスのFarydak(panobinostat)が2月に承認され、今週はジョンソン・エンド・ジョンソンのDarzalex(daratumumab)もスピード承認された(次項)。

幹細胞移植不適な場合の代表的なレジメンは武田/JNJのVelcade(bortezomib)か、セルジーンの免疫調停剤であるThalomid(thalidomide)またはRevlimidを使うレジメンで、どちらかを一次治療、もう一つを二次治療に使う。今回の被験者は7割がVelcadeによる前治療歴を持っているので、不応患者以外は二次治療でも武田のプロテアソーム阻害剤を使うことができるようになる。

リンク: FDAのリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(和文、11/21付)

FDA、Darzalexもスピード承認
(2015年11月16日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンがデンマークのジェンマブから権利を取得して開発・申請した抗CD38完全ヒト化抗体、Darzalex(daratumumab、ジェンマブの開発コードHuMax-CD38)を多発骨髄腫の4次治療薬として承認した。ローリング承認申請が完了したのは今年7月、審査期限は来年3月だったので、これもスピード承認。

薬効のエビデンスは第二相試験の反応率データ。一本は29%、もう一本は36%だった。前者の試験では被験者の95%がプロテアソーム阻害剤にも免疫調停剤にも難治性だった。主な有害事象は点滴関連反応、疲労、悪心、骨髄抑制など。

リンク: FDAのリリース
リンク: JNJのプレスリリース

ヴァーテックス、OrkambiがEUで承認
(2015年11月20日発表)

ヴァーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)はOrkambi(lumacaftorとivacaftorの合剤)がEUで12歳以上のF508欠損ホモ接合型嚢胞性線維症の治療薬として承認されたと発表した。

嚢胞性線維症はCFTRの遺伝子に欠損や置換が生じ機能が低下・喪失する。F508欠損は一番多いパターンで、両方の遺伝子に持つ12歳以上の患者は12000人と推定されている。lumacaftorはCFTR蛋白が細胞の表面に移行するのを助長し、ivacaftorはCFTRをポテンシエートすると考えられている。臨床試験では一秒量が穏やかに改善、増悪を抑制する作用も見られた。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

アムジェン、KyprolisがEUで承認
(2015年11月19日発表)

アムジェンはKyprolis(carfilzomib)がEUで多発骨髄腫の二次治療薬として承認されたと発表した。武田/JNJのVelcade(bortezomib)と同様な点滴静注用プロテアソーム阻害剤で、末梢神経障害のリスクが小さいと考えられている。Revlimid及びdexamethasoneと三剤併用するので、用途としては武田のNinlaroとバッティングすることになる。米国では12年に承認。日本は小野薬品がライセンス、8月に承認申請した。

アムジェンが13年に104億ドルで買収したオニクス社が09年に8億ドルで買収したProteolixの開発品。

リンク: アムジェンのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年11月15日

2015年11月15日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • AHA:降圧目標は120mmHgの方が良い
  • アストラゼネカのT790Mキラーが米国で承認
  • ロシュのMEK阻害剤も米国承認
  • バクスアルタ、A型血友病用薬が欧米で承認
  • ハーボニーが適応拡大

【今週の話題】


AHA:降圧目標は120mmHgの方が良い
(2015年11月9日発表)

AHA米国心臓協会の科学会議とNew England Journal of Medicine誌でSPRINT試験の結果が発表された。高血圧の強化療法を検討した米国の心血管アウトカム試験で、収縮時血圧140mmHg以下を目標とするより120mmHg以下の方が良いことが示された。細かい点で違和感もあるが、心血管疾患による死亡や全死亡が減少しており説得力がある。治療ガイドラインの見直しにつながる重要なエビデンスになりそうだ。

SPRINTはNIH米国医療研究所がスポンサーとなって行われた研究者主導の無作為化割付オープンレーベル試験だ。PICOを纏めると、患者(P)は収縮時血圧が130~180mmHgで心血管リスクが高い50歳以上の9361人。糖尿病と脳卒中既往は除外した。介入方法(I)は収縮時血圧を120mmHg未満に下げる強化療法(実際には、一年後の平均血圧は121.4mmHgだった)。対照群(C)は140mmHg未満に下げる標準療法(同136.2mmHg)。

降圧剤はアルファブロッカーを含め様々な薬剤を許容したが、米国の治験らしく、サイアザイド系利尿薬が第一選択。また、ARBの標準薬が心血管アウトカム試験のデータが他のARBに見劣りするlosartanと、裏付けのないazilsartan(武田などが寄付した)であることが印象的。

主評価項目(O)は複合評価項目で、心筋梗塞、それ以外の急性冠症候群、脳卒中、急性非代償性心不全、心血管疾患による死亡をカウント。心筋梗塞はサイレントMIも可。心不全は入院・救急治療例のみ。担当医が3ヶ月に一回、患者から発生の有無をヒアリングし、発生例は委員会が盲検方式で査読した。

中間解析でデータ安全性委員会が成功認定し、予定より1年早く、メジアン追跡期間3.26年で終了した。標準療法群の主評価項目発生率は年2.19%で、ほぼ事前の解析計画通りだった。強化療法群は年1.65%で、ハザードレシオは0.75(95%信頼区間0.64、0.89)、p値は0.001未満だった。

各評価項目のハザードレシオを見ると、心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中は0.8~1.0で有意な差は無かった。一方、心不全は0.62、心血管疾患死は0.57、二次的評価項目である全死亡は0.73で、何れも95%上限が1を下回りp値は0.01未満だった。

標準療法群の心筋梗塞と心不全の発生数は大差なく、前者で有意差が出なかったのは検出力不足が原因ではないだろう。素直に、心不全が減少するが心筋梗塞はあまり減らないと受け止めたい。あとは、強化降圧の便益がどの範囲まであてはまるかだ。

75歳以上のサブグループではハザードレシオ0.67と75歳未満より良い数値が出ているが、忍容性のサブグループデータも欲しいところだ。全ユニバースでも深刻な低血圧や失神が増加したので、高齢者ではもっと増えたかもしれない。Jカーブを示唆するエビデンスとの整合性も検討すべきだろう。

二型糖尿病は対象外だったが、二型糖尿病で高血圧を合併する患者を組入れたACCORD試験が参考になる。有意差は出なかったがトレンドは見られた。尤も、心筋梗塞が有意に減少した一方で心不全は減らず、SPRINT試験と合致しない点もある。

心不全合併患者の降圧目標も議論になりそうだ。

リンク: SPRINT試験論文(NEJM、15/11/15時点ではオープンアクセス)

【承認】


アストラゼネカのT790Mキラーが米国で承認
(2015年11月13日発表)

FDAはアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、開発コードAZD9291)を承認した。非小細胞性肺癌でEGFR阻害剤による前治療を受けた、EGFRにT790M変異を持つ患者が適応になる。

EGFR阻害剤はEGFRが活性化変異したタイプに有効だが、過半はやがてT790M変異が発生し抵抗性を生じる。TagrissoはT790M変異型や野生型にも活性を持つことが特徴。臨床試験ではORR(客観的反応率)が一本は57%、もう一本は61%だった。二次治療や一次治療でも延命効果確認試験中。

主な有害事象は下痢や皮膚毒性。深刻有害事象は間質性肺疾患や不整脈、胎毒性。

日本でも8月に承認申請された。日本肺癌学会が厚労省に早期承認を要請している。

リンク: FDAのリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ロシュのMEK阻害剤も米国承認
(2015年11月10日発表)

FDAはロシュのCotellic(cobimetinib)を承認した。BRAFにV600変異を持つ切除不能転移性黒色腫に同社のBRAF阻害剤、Zelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)と併用する。臨床試験では全生存期間のハザードレシオがZelboraf単剤投与群と比べて0.63だった。主評価項目のPFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.56、メジアンは12.3ヶ月で単剤群は7.2ヶ月。主な重度有害事象は心筋症、横紋筋融解症など。

cobimetinibはエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスしたMET阻害剤。同じパスウェイの川上と川中に同時介入することによって、標的の変異による影響を受け難くするアイディアで、皮膚扁平上皮腫のような副作用を抑える効果もありそうだ。同様な併用法ではノバルティスも一足先にMET阻害剤MekinistとBRAF阻害剤Tafinlarを販売している。価格競争を期待したいところだが、薬品業界では二社だけなら喧嘩しない。

リンク: FDAのリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

バクスアルタ、A型血友病用薬が欧米で承認
(2015年11月13日発表)

バクスアルタ(NYSE:BXLT)は二種類のA型血友病用薬が一つは米国で、もう一つはEUで承認されたと発表した。米国で承認されたのはAdynovate(開発コードBAX 855)。全長第VIII因子をPEG化して半減期を長期化したもので、出血事故を予防する用途では週二回の投与で足りる。既存製品である同社のAdvate(和名アドベイト)は週3~4回とされるので、患者の負担が若干緩和される。日本でも4月に承認申請された。

EUで承認されたObizur(susoctocog alfa)は、遺伝子組換え型のブタ第VIII因子で、インヒビターを持つ後天的A型血友病患者の止血に用いる。12年に会社更生法を申請したインスピレーション社から買収したもの。米国では昨年、承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: バクスアルタのプレスリリース(米承認)
リンク: 同(EU承認)

ハーボニーが適応拡大
(2015年11月12日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はFDAがHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤、和名ハーボニー)の適応拡大を承認したと発表した。

昨年10月に遺伝子型1型の慢性C型肝炎の治療薬として承認。今回、遺伝子型4型、5型、6型も対象になった。HIV共感染患者に用いることも認められた。更に、肝硬変を合併する1型患者の二次治療では24週間服用する必要があるが、ribavirin併用12週間コースも承認された。

リンク: ギリアドのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年11月8日

2015年11月8日号



【ニュース・ヘッドライン】


  • 長期作用性抗HIV薬が第三相へ 
  • BMS、オプジーボの腎細胞腫適応拡大申請をEUが受理 
  • FDA、抗IL-5抗体を重度喘息症に承認 
  • FDA、ギリアドのTAF配合剤を承認 
  • FDA:プラビックスを長期投与しても死亡リスクは高まらない 
  • EMA:子宮頸がんワクチンとCRPS/POTSの関連性は無い 

【新薬開発】


長期作用性抗HIV薬が第三相へ
(2015年11月3日発表)

GSK、ファイザー、塩野義製薬の抗HIV薬合弁であるViiVヘルスケアとジョンソン・エンド・ジョンソンは、4週間または8週間に一回、筋注するだけで足りる抗HIV薬二剤の第二相併用試験が成功したと発表した。来年、第三相試験に進む予定。ウイルスが検出不能になった患者の維持療法という位置付けだが、成功すればピルバーデンが大きく改善する。

二剤のうちViiVの新薬はGSK-1265744/S-265744(cabotegravir)で、インテグラーゼ・トランスフェラーゼ阻害剤Tivacay(dolutegravir、和名テビケイ)の類縁体。一日一回の経口剤と筋注用ナノサスペンション製剤の二つが並行開発されている。もう一つはJNJの核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine、和名エジュラント)の筋注用ナノサスペンション製剤。

HIV/AIDSの標準療法であるHAARTでは、三種類以上の抗ウイルス剤を併用することによって特定の薬剤に対する耐性ウイルスが出現、増殖するのを防ぐ。効果が高いが副作用も多く、また、一日に多くの薬を服用するのでピルバーデンや薬剤費負担が重い。

ピルパーデンに関しては製薬会社が提携し一日一回一錠服用するだけで足りる合剤を数種類、実用化した。一方、治療が成功しウイルスが検出不能になった患者が一定期間休薬するドラッグホリディは複数の臨床試験がフェールした。次は、薬の数を減らす手法の当否である。ViiVとJNJは、3剤併用でウイルス治療に成功した患者の維持療法としてdolutegravirとrilpivirineの合剤だけを用いる第三相試験を実施中。

この延長線上に位置付けられるのが今回の二剤併用だ。cabotegravirの経口剤と二種類の核酸系逆転写阻害剤を用いてHIV治療に成功した患者約300人を筋注用二剤併用群(4週間に一回投与と8週間に一回の二群)と当初治療継続群に割付けて32週間治療したところ、ウイルス抑制維持成功率は94~95%となり、スイッチしなかった群の91%と同程度だった。有害事象は注射箇所反応など。

抗HIV/AIDS薬の第三相試験は2年間治療するのが一般的なので、今回の試験だけでは未だ成功確実とは言い難い。長期間続けるほど耐性ウイルス出現リスクが高まるだろう。少なくとも、経口剤よりはリスクが高いのではないかと思われる。問題は、そのリスクの発生頻度が許容範囲内であるかどうかだ。

リンク: ViiVのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボの腎細胞腫適応拡大申請をEUが受理
(2015年11月5日発表)

BMSは、抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の腎細胞腫適応拡大申請がEUに受理されたと発表した。ファイザーのSutent(sunitinib)などの血管新生阻害剤を既に使ってしまった患者の二次治療に用いる。

ノバルティスのAfinitor(everolimus)と比較した第三相試験では、メジアン生存期間が25ヶ月とAfinitorの19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.002だった(中間解析なので0.0148を下回れば統計的に有意)。グレード3以上の治療時発現有害事象の発生率は19%対37%で低かった。米国でも承認申請中と推測される。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認】


FDA、抗IL-5抗体を重度喘息症に承認
(2015年11月4日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインのNucala(mepolizumab)を重度喘息症の維持療法として承認した。好酸球数が多く、喘息発作を十分に予防できていない12歳以上の患者が適応になる。尚、6月の諮問委員会では12~17歳は安全性の検討が不十分で承認すべきではないと反対意見のほうが多かった。

Nucalaは好酸球の活性化や移行、サバイバルに関わるIL-5に結合、阻害するヒト化抗体。100mgを4週間に一回、医療従事者が皮注する。報道によると、100mgバイアルの問屋取得価格は2500ドル。欧州や日本でも承認審査中。

リンク: FDAのリリース
リンク: GSKのプレスリリース

FDA、ギリアドのTAF配合剤を承認
(2015年11月5日発表)

FDAはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗HIV合剤、Genvoyaを承認した。3種類の抗HIV薬とブースターを配合した合剤で、一日一回一錠服用するだけで足りる。

配合成分は、日本たばこが創製したインテグラーセ阻害剤elvitegravirとその効果を長持ちさせる3A4阻害剤cobicistat、核酸系逆転写阻害剤emtricitabine、そして、同社の出世作であるヌクレオチド逆転写阻害剤Viread(tenofovir disoproxil fumarate、略称TDF、和名ビリアード)の類縁体であるtenofovir alafenamide fumarate(略称TAF)。Stribild(和名スタリビルド)のTDFをTAFに替えた後継薬に当たる。

TAFもTDFもtenofovirのプロドラッグだが、TAFはHIVが入り込む細胞への分布が良いため10分の1の量で足りる。TDFは腎毒性や骨塩密度低下が見られるがTAFは血中曝露が小さいためTDFよりリスクが低い。TDFは特許切れが数年後に迫っているため、ギリアドはTDFをTAFに置き換えた新製品を次々と開発している。腎毒性・骨毒性が小さいというセールストークがFDAに認められたことはポジティブだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA:プラビックスを長期投与しても死亡リスクは高まらない
(2015年11月6日発表)

FDAはPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)の長期投与時の安全性を検討していたが、死亡リスクは高まりも下がりもしない、癌や癌で死亡するリスクも高まらない、という結論に達した。

調査の発端はDAPT試験だ。薬物溶出ステント留置術後にアスピリンとP2Y12阻害剤の二種類の抗血小板薬を併用するDAPTの長期コースを検討した大規模アウトカム試験で、30ヶ月コースは12ヶ月コースよりもステント血栓や心筋梗塞等が有意に少なかったが、出血性有害事象は有意に増加するという、まあ当然と言えば当然の結果になった。

ところが、意外なことに、死亡リスクが高まる傾向が見られた(2.0%対1.5%、ハザードレシオ1.36、95%信頼区間1.00~1.85)。P2Y12阻害剤はPlavixまたはEfient(plavix-yori-sugureruではなくprasugrel)が用いられたが、死亡リスクが増加したのはPlavixだけだった。心血管疾患による死亡は増加しなかったが、癌やトラウマ(外傷)による死亡が増加した。

このため、FDAは他の長期試験のデータとトライアル・レベルのメタアナリシスを行った。対照群はアスピリンだけ、または、DAPTの短期コース。結果は、死亡率(被験者数は12本の試験合計で56799人)が6.7%対6.6%、癌発生率(37835人)で4.2%対4.0%、癌死亡率(40855人)0.9%対1.1%となり、全死亡も癌による死亡も増加しないことが判明した。

死亡リスクが高まるという最悪の仮説は否定されたが、虚血性合併症の減少と出血性副作用の増加のどちらをより重視すべきなのか、というDAPT試験の原点ともいえる設問の回答は未だ得られていない。一歩ずつ進むしか方法が無いのだろう。

リンク: FDAの安全性報告

EMA:子宮頸がんワクチンとCRPS/POTSの関連性は無い
(2015年11月5日発表)

EMA(欧州薬品庁)の薬品市販後監視委員会であるPRACは、ヒト・パピローマウイルス・ワクチンを接種した若い女性の複合性局所疼痛症候群(CRPS)および体位性起立性頻脈症候群(POTS)症例を検討し、両者の間に因果関係はないと結論した。

子宮頸がんワクチンの主対象である10~19歳の女性におけるCRPSの自然発生率は100万人当たり年150人、POTSも年150人以上であり、ワクチン接種者における発生率はこれと大差ないとのことである。

感染症やその合併症を防ぐことは社会全体を守るために必要であり、政府や社会にとって他の病気よりはるかに重要だ。それだけに、政府や国際機関、専門家の利益相反やバイアスのリスクも大きいと考えざるを得ない。結論を発表するだけでなく、根拠となったエビデンスも十分に周知することが重要だろう。

私が5年前に『サーバリックスにできる事とできないこと』を書いたのは、ワクチンの普及を望む人たちの発言がやや調子が良すぎると感じたからだ。ワクチン接種は善、推奨するのも善、副作用や効果の範囲について詳述するのはディスカレッジするかもしれないので悪、という風潮が見られた。子宮頸がんワクチンが先に発売された国では接種後の失神や神経性疼痛が報告されていたのだが、稀なので因果関係は分からなかった。そこで、効果の範囲についてだけ言及した。

その後、日本でも深刻な副作用が報告され、接種勧奨を止める事態になってしまった。重要なのは、立ち止まらないことである。事実を調査し、原因を探求し、対策を考える。何年かかってもやるべきだ。そうしないと、科学が前進しない。10年後、20年後に同じことが起きる。

リンク: EMAのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年11月1日

2015年11月1日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • グラクソ、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
  • シャイア、ドライアイ用薬を再承認申請へ
  • Keytruda、肺癌二次治療試験が成功
  • GSK、p38MAPキナーゼ阻害剤の第三相を中止
  • ギリアド、HCV新薬を承認申請
  • アムジェンのウイルス療法が承認
  • Yervoy、アジュバントに承認
  • エンタカポンに心血管リスクは無い


【新薬開発】


グラクソ、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
(2015年10月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、帯状疱疹ワクチンShingrix(開発コードGSK1437173A、通称HZ/su)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。16年下期に米欧日で承認申請する予定。

帯状疱疹は潜伏していた水痘/帯状疱疹ウイルスが活性化して炎症・神経痛を引き起こす。加齢により免疫力が低下するとリスクが高まる。米国人の9割が感染、うち25~50%が50歳過ぎにヘルペス感染後神経痛を発症すると推定されている。欧米では06年にMSDの弱毒化生ワクチンZostavaxが承認。年間売上高は7.6億ドルに達している。

Shingrixは生ワクチンではなくウイルスのgE蛋白を抗原に用いてAS01-Bアジュバントで免疫原性を高めた。ワクチン効率はZostavaxより高そうだ。50歳以上を対象にした一本目の試験では帯状疱疹が偽薬群比で97%少なかった。70歳以上に限定した二本目の試験でも90%少なかった。この二本のプール分析では、ヘルペス後神経痛の予防効果が50歳以上で91%、70歳以上に限定しても89%と高かった。

リンク: GSKのプレスリリース

シャイア、ドライアイ用薬を再承認申請へ
(2015年10月27日発表)

シャイアはlifitegrastをドライアイ治療薬として米国で承認申請したが10月に審査完了通知を受領した。幸い、三本目の試験が成功したため、年明けに改めて承認申請する予定。

LFA-1阻害剤で一日二回、点眼する。第三相試験では画像評価と症状評価を共同主評価項目としたが、一本は前者だけ、もう一本は後者だけしか有意差が出なかった。従って、承認申請はダメ元だったのだろう。三本目の試験では、二本目で採用した患者自身による症状判定スコアを主評価項目とし、84日間治療したところ、偽薬比7ポイントの有意な差があった由。このEye Dryness ScoreはGoogleしても余りヒットせず、7ポイントの差が臨床的に有意義なのかどうかは分からなかった。

リンク: シャイアのプレスリリース

Keytruda、肺癌二次治療試験が成功
(2015年10月26日発表)

MSDの抗PD-1ヒト化抗体Keytruda(pembrolizumab)は10月に米国で非小細胞性肺癌の二次治療薬として適応拡大されたが、根拠となったのは後期第1相試験の反応率データだった。BMSのOpdivo(nivolumab)と異なり延命効果の裏付けはなかったのだが、今回、第二/三相試験の成功が発表された。

PD-L1発現率が1%以上の癌だけを組入れて2mg/kg、10mg/kg、docetaxelの何れかの群に無作為化割付けした試験で、全症例と50%以上発現例の二つのユニバースで全生存期間とPFS(無進行生存期間)を比較した。全生存期間はどちらのユニバースでもKeytrudaがdocetaxel群を有意に上回り、用量間の差は小さかった。PFSは50%以上のユニバースのみ、何れの用量とも有意に上回った。

具体的な数値が公表された段階でOpdivoのデータと比較されることになるだろう。用量反応相関が小さいのは過去の抗PD-1抗体の試験と同じで違和感はない。PD-L1問題は相変わらず謎だが、検査手法の違いなど細かい情報が明らかになるにつれてコンセンサスが出来上がっていくだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

GSK、p38MAPキナーゼ阻害剤の第三相を中止
(2015年10月27日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK856553(losmapimod)の第三相心血管アウトカム試験を中止すると発表した。パートAの解析でパートBに進んでも勝算は無いと判定された。

p38MAPキナーゼ阻害剤はリウマチや乾癬のような自己免疫疾患や心筋梗塞、うつ病などの治療薬になることが期待され、多くの製薬会社が開発していたが、急性冠症候群を治療する心血管アウトカム試験に進んだのはlosmapimodが初めて。おそらく、第三相に進んだのも初めてではないか。

GSKやファイザーのようなビッグファーマの最大の武器は潤沢な予算だ。日本の最大手でも単独では踏み切れないハイリスク・ハイリターン・プロジェクトにも投資することができる。逆に、チャレンジを恐れるようではビッグファーマの存在価値が無い。だが、CETP阻害剤、アルツハイマー病薬、Lp-PLA2阻害剤、そして今回のp38MAPキナーゼ阻害剤と、定義上当然とはいえ手痛い失敗が続いている。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認申請】


ギリアド、HCV新薬を承認申請
(2015年10月28日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はGS-7977(sofosbuvir)とGS-5816(velpatasvir)の合剤を慢性C型肝炎治療薬として米国で承認申請した。前者はNS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(和名ソバルディ)の活性成分で、NS5A複製複合体阻害剤ledopasvirと合剤でHarvoni(和名ハーボニー)としても販売されている。後者は新開発のNS5A複製複合体阻害剤。

Harvoniとの違いは遺伝子型1型だけでなく2~6型の全てに有効であること。非代償性肝硬変を合併する患者はribavirin併用の12週間コースでSVR(持続的ウイルス学的反応率)94%、それ以外はこの配合剤だけの12週間コースで97~100%だった。

遺伝子型の分布は国によって異なるので特定の型にしか効かない薬は使用前に検査が必要だが、財政が豊かな国ばかりではない。この配合剤ならウイルス遺伝子検査が普及していない国や地域の無駄打ちを減らすことができるだろう。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認】


アムジェンのウイルス療法が承認
(2015年10月27日発表)

FDAは、アムジェンのImlygic(talimogene laherparepvec)を切除不能悪性黒色腫用薬として承認した。GM-CSFの遺伝子を組入れた単純ヘルペス1型ウイルスで、腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが増殖して破壊する。腫瘍抗原による免疫刺激をウイルスとGM-CSFが強化、他の腫瘍細胞も攻撃させる。

ステージIIIB以降の患者を組入れた第三相試験では、持続的反応率が16.3%とGM-CSFを皮下注射した群の2.1%を有意に上回った。全生存の解析では有意差が出なかった。主な有害事象は疲労やインフルエンザ用疾患、注射箇所反応など。グレード3以上の有害事象は蜂巣炎など。

投与スケジュールは、第1週、第4週、その後は2週間に一回の頻度で半年以上続ける。患者によって投与回数・費用が異なるが、アムジェンは65000ドルを上限にする考え。

リンク: FDAのリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース

Yervoy、アジュバントに承認
(2015年月日発表)

FDAはBMSのYervoy(ipilimumab)を黒色腫の術後補助療法に用いる適応拡大を承認した。ステージIIIの黒色腫で完全切除に成功したものの再発リスクが高い場合に適応になり、米国では新患の5%、年3100人程度が該当する。臨床試験ではメジアン無再発生存期間が26ヶ月と偽薬群の17ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、統計的に有意だった。3年無病生存率は46%対34%だった。全生存の解析は未だ行われていない。

Yervoyは11年に切除不能悪性黒色腫用薬として承認済みだが、アジュバントの用量は3mg/kgではなく10mg/kgを最初は3週間に一回、5回目からは3ヶ月に一回、点滴静注するので、有害事象や請求書に注意が必要。重度から致死的な免疫調停的有害事象は小腸結腸炎(16%)、肝炎(11%)、内分泌障害(8%)、下垂体機能低下(7%)など。52%の患者が有害事象で治験を離脱した。費用はフルコースで1~2億円と推測されるが、BMSは患者支援プログラムを用意するとのこと。

リンク: FDAのリリース
リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


エンタカポンに心血管リスクは無い
(2015年10月26日発表)

FDAは、entacaponeには心血管疾患リスクはないと発表した。5年を経て疑いが晴れたことになる。

entacaponeはフィンランドのOrion Pharmaが開発したCOMT阻害剤でパーキンソン病の治療に用いる。主要国ではノバルティスがComtan(和名コムタン)として、あるいは、レボドパ・カルビドパ配合剤Stalevo(同スタレボ)として上市したが既にGE化した。

レボドパの効果が長続きしなくなった患者に用いる薬だが、早期治療の効能を検討したSTRIDE-PD試験で心血管疾患リスクが浮上。過去の試験のメタアナリシスを行ったが、他の試験では心血管疾患が少なかったため、明確な結論が出なかった。

そこで、FDAの要請に基づいてノバルティスが疫学的研究を実施したところ、非致死的心筋梗塞のリスクは他のパーキンソン病薬を服用した患者と有意な差が無かった。グラハム博士らが行ったメディケアの疫学研究でもリスクは増加していなかった。

この手の話を聞いていつも感じるのは、科学者の執念だ。市販後に副作用懸念が浮上すると、その話をすること自体がタブーになってしまう。リスクを確認するために症例報告を求めると、疑っているのか、被害者のせいだと言いたいのかと反発されるので、結局、賠償や救済の話ばかりになる。だが、それでは科学が進歩しない。何年かしてほとぼりが冷めた後に同じ失敗を繰り返すことになりかねない。日本のMMRワクチンやヒト・パピローマ・ワクチンが良い例だ。5年かかっても、10年、20年でも真実を突き止めようとする姿勢を学ぶべきである。

リンク: FDAのリリース



今週は以上です。

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