2015年8月30日

2015年8月30日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ノボ、経口GLP-1作用剤を第三相へ
  • アムジェン、副甲状腺機能亢進症治療薬を承認申請
  • SareptaのDMD治療薬も承認申請受理
  • 抗CD38抗体のローリング承認申請が完了
  • BI、afatinibを扁平上皮非小細胞性肺癌に適応拡大申請
  • 第二の抗PCSK9抗体が米国で承認
  • FDA、DPP4阻害剤の関節痛リスクを警告


【新薬開発】


ノボ、経口GLP-1作用剤を第三相へ
(2015年8月26日発表)

ノボ ノルディスクはsemaglutideの第三相二型糖尿病試験中だが、経口製剤も第三相に進めると発表した。GLP-1作用剤では初。体重削減作用もあるので、こちらの開発も注目される。

Emisphere Technologies社の技術を用いて、受動的細胞内輸送によって吸収されるSNACというキャリアと共に錠剤化。吸収後に分離して作用、排泄される。第二相二型糖尿病試験では、一日2.5mgから40mgのレンジでHbA1cが0.7~1.9%用量依存的に低下、偽薬群の0.3%と比べて各用量とも統計的に有意だった。皮注用製剤(1mg週一回)を投与した群は1.9%低下。体重低下作用も見られた。GLP-1作用剤のボトルネックは悪心嘔吐だが、経口剤の最大用量は皮注用より発生率が高かった。

第三相試験では、3mg、7mg、14mgをテストする模様だ。FDAのガイダンスに基づき心血管アウトカム試験も実施する。

リンク: ノボのプレスリリース

【承認申請】


アムジェン、副甲状腺機能亢進症治療薬を承認申請
(2015年8月25日発表)

アムジェンはAMG 416(etelcalcetide)を米国で承認申請したと発表した。慢性腎疾患透析期患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いる。

慢性腎疾患では腎機能低下に対応して副甲状腺ホルモンが増加しカルシウムやリンの濃度を正常に維持するが、機能低下が進むと副甲状腺ホルモンが著しく増加しカルシウムやリンが過剰になってしまう。

AMG 416はカルシウム感受受容体を作動し副甲状腺ホルモンの分泌を抑制する。週三回の透析後に静注した第三相試験では、副甲状腺ホルモン抑制奏効率が74~75%と偽薬群の8~9%を有意に上回った。血清リン濃度もカルシウム濃度も有意に減少した。同社のSensipar(cinacalcet、和名レグパラ)と直接比較した試験では効果が非劣性だった。主な有害事象は低カルシウム血症。

アムジェンが2012年に3.15億ドルで買収したKAI Pharmaceuticalsの開発品。日本の権利は小野薬品が取得、ONO-5163として第三相試験中。

リンク: アムジェンのプレスリリース

SareptaのDMD治療薬も承認申請受理
(2015年8月25日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、米国でAVI-4658(eteplirsen)のローリング承認申請を完了しFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は16年2月26日。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のうち、ジストロフィン遺伝子のエクソン51などに疾病関連変異を持つタイプ(DMD患者の13%程度)に用いる。

DMDは新生男児の3500人に一人が罹患する遺伝子疾患で、ジストロフィンの遺伝子に塩基配列の重複や欠損が見られる。病状は様々だがDMDは他の型より進行が速い。eteplirsenはRNAのスプライシングに介入、不完全だがある程度機能するジストロフィンを作れるようになる。

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)も類薬であるdrisapersenを4月に承認申請、優先審査を受け審査期限は今年12月27日となっている。順調に進めば2ヶ月の間に続々と承認されることになる。

どちらも6分歩行検査で測定した治療効果は決して大きくないが、最近のFDAは、治療オプションが限られている領域では最低限必要な調査研究を行えば承認するスタンスのように見える。バイオマリンはFDAの要請に前向きに取り組んできた。SareptaもFDAに批判的なCEOが退任し協調路線に転じたようだ。

リンク: Sareptaのプレスリリース

抗CD38抗体のローリング承認申請が完了
(2015年8月27日発表)

デンマークの抗体医薬開発企業であるジェンマブ(OMX:GEN)は、抗CD38完全ヒト化抗体daratumumabの第二相多発骨髄腫試験の結果がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたことと、導出先であるジョンソン・エンド・ジョンソンが米国におけるローリング承認申請を完了したことを発表した。

承認申請のエビデンスとなったこの第二相試験では、三種類以上の前治療を受けた患者106人にdaratumumabを投与したところ、16mg/kgのコフォートで42人中2人が完全反応、ORR(客観的反応率)は36%だった。前治療歴がメジアン5レジメンで被験者のほとんどがプロテアソーム阻害剤にもRevlimid(lenalidomide)のような免疫調停剤にも抵抗性であったことを考えれば良好な結果だ。この用途でFDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。

daratumumabは多発骨髄腫で過剰発現しているCD38を標的とし、アポトーシスを誘導する。ジョンソン・エンド・ジョンソンが12年に世界独占開発販売権を取得。同時に、ジェンマブの株式の10%を取得した。ジェンマブの過去の創薬実績としては、ノバルティスの抗CD20完全ヒト化抗体Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)がある。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

BI、afatinibを扁平上皮非小細胞性肺癌に適応拡大申請
(2015年8月25日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはafatinibを扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療薬として欧米で適応拡大申請し受理されたと発表した。不可逆的EGFR・her2阻害剤で、EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の治療薬として13年に欧米で承認、米国ではGilotrif、EUではGiotrif名で販売されている。

今回の申請はTarceva(erlotinib)対照二次治療試験に基づくもの。PFS(無進行生存期間)がメジアン2.4ヶ月対1.9ヶ月、ハザードレシオ0.82で有意に上回り、全生存期間の解析もメジアン7.9ヶ月対6.8ヶ月、ハザードレシオ0.81だった。

Tarcevaは一次治療に関してはEGFR活性化変異を持つタイプが適応だが、二次治療に関しては変異を問わず適応になる。二次治療で承認された当時はEGFR活性化変異と応答性の関連が十分に検討されていなかったので、効かないというエビデンスがなかったから適応外にならなかったのかもしれない。EUのレーベルによれば、活性化変異のないタイプの二次治療における延命効果やそれ以外の重要な効能は確認されていない。

今回の試験の対象である扁平上皮腫はEGFR活性化変異が少ないと言われており、薬効を比較する対象として適切かどうかは議論の余地があるだろう。もし偽薬並みの延命効果しかなかったとすると、afatinibはメジアン1ヶ月上回るだけなのだから、効果は限定的だ。抗PD-1抗体の方が有望だろう。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース

【承認】


第二の抗PCSK9抗体が米国で承認
(2015年8月27日発表)

FDAはアムジェンの抗PCSK9抗体、Repatha(evolocumab)を承認した。7月に承認されたリジェネロン(Nasdaq:REGN)/サノフィのPraluent(alirocumab)と似たような薬で、適応は若干広く、価格は若干安い。価格競争を予想する向きもあったが、過去の事例と同様に、最初の二社は喧嘩せず市場拡大を最優先する戦略を取った。

抗PCSK9抗体はLDL-C受容体の零落に関わるproprotein convertase subtilisin/kexin type 9をブロック、LDL-C値を55~75%削減する高い効果を持つ。難点は二週間に一回の皮注薬であることと、スタチンと異なり心血管疾患リスクを削減する効能は確認されていないこと。

それ以上に大きいボトルネックは価格が高いこと。Praluentは75mgと150mgのどちらもWAC(問屋取得価格)が560ドルで年間薬剤費は14600ドル、Repathaは140mgが542.31ドルで年14200ドル、ホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)の場合は年16500ドルと高価。

適応は、ヘテロ接合型家族性高脂血症(HeFH)またはアテローム性心血管疾患で運動療法に加えてスタチンの最大耐容用量を服用しているがLDL-C値をもっと下げる必要のある患者。RepathaはHoFHでLDL-C治療薬を服用しているが十分低下していない患者にも承認されているが、対象患者はそれほど多くなく、リジェネロン/サノフィは承認申請しなかった。

もっと下げる必要がある、という要件は定義が曖昧だ。米国の代表的なコレステロール管理ガイドラインは目標値を設定していないので、結局、個々の医師の判断になる。目標値が必要と考える医師は以前のガイドラインや欧州のガイドラインに則って適否を判定するのだろう。目標を70mg/dL以下と考えると、米国の対象患者数は1100万人程度と報じられている。

米国の医療保険は高齢者と低所得者以外は民間が担っている。大手医療保険会社であるAetnaはPraluentを事前承認の対象とし、承認された適応に加えて、高力価スタチンをezetimibeと併用しても不十分、別の高力価スタチンとezetimibeを併用しても不十分であった患者などに限定する方針のようだ。価格についても、C型肝炎治療薬と同様に、入札によって値引きを引き出す方法を取るのではないか。

リンク: FDAのリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: AetnaのPraluent事前承認に関する情報ページ

【医薬品の安全性】


FDA、DPP4阻害剤の関節痛リスクを警告
(2015年8月28日発表)

FDAは、二型糖尿病の治療に用いるDPP4阻害剤が重度で行動制約的な関節痛を引き起こす可能性があることを警告した。トップシェアを持つMSDのJanuvia(sitagliptin)など、DPP4阻害剤を含有する薬のレーベルにリスクを記載した。

FDAの有害事象報告システムであるFAERSデータベースを検索したところ、Januviaが承認された06年10月から昨年末までの7年間に重度関節痛が33例、特定された。いずれも日常行動のレベルが低下し、10例は入院した。21例はステロイドや非ステロイド系鎮痛剤など薬物治療を受けた。

33例中22例はDPP4阻害剤の服用を止めてから1ヶ月以内に症状が解消。その後、同じまたは別のDPP4阻害剤を再開した患者では8例が再発した(ポジティブ・リチャレンジは当該薬剤が原因である可能性を示唆する)。DPP4阻害剤ではなく自己免疫疾患が原因である可能性も検討されたが、明確ではなかった。

発症のタイミングは治療開始から1ヶ月以内が22例だったが、数年後もあるようだ。

FDAはDPP4阻害剤を服用している患者に対して、勝手に服用を止めるべきではないと念を押した上で、もし重度関節痛が持続するようなら直ぐに医療専門家にコンタクトするよう推奨した。

DPP4阻害剤は広く用いられているので年4~5例なら発生頻度は決して高くない。しかし、頻度が低いだけにもし発生した場合に診断が遅れる可能性がある。糖尿病と関節痛は専門医が異なるので、もし整形外科などで診てもらう場合はDPP4阻害剤を服用していることを伝えることが重要だろう。

リンク: FDAの安全性通知


今週は以上です。

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2015年8月23日

2015年8月23日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 優先審査バウチャーを430億円で売却
  • 元米国大統領がKeytrudaによる治療を受ける
  • ロシュの抗PD-L1抗体、承認申請に向かう可能性
  • SGLT2阻害剤の心血管アウトカム試験が成功
  • B群髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンの第三相が成功
  • Keytruda、一次治療の承認申請が米国で受理
  • 武田、経口プロテアソーム阻害剤の承認申請をEUが受理
  • ファイザー、CDK阻害剤をEUでも承認申請
  • 二重あご治療薬が欧州でも承認申請
  • ゼプリオン3か月持続製剤がEUで承認申請
  • 女性の性的欲望低下障害用薬が米国で承認
  • アドセトリス、地固め療法も承認
  • ノバルティス、OdomzoがEUでも承認

【今週の話題】


優先審査バウチャーを430億円で売却
(2015年8月19日発表)

ユナイテッド・セラピューティックス(Nasdaq:UTHR)は、希少小児疾患優先審査バウチャーをアッヴィに3.5億ドルで売却すると発表した。このバウチャーは、患者数が少ない小児疾患における新薬開発を促進する目的で米国で制度化されたもの。別の新薬の承認申請を行う時に優先審査を受けることができる。他社が購入して用いることも可。

承認が4ヶ月早まるだけで、申請内容によっては半年では終わらないかもしれないのだが、開発競争の激しい分野や主力薬の特許切れを控えて一刻も早く発売したい会社は、文字通り、時間を買うことができる。

バウチャー購入第一例となったリジェネロン/サノフィは、バイオマリンから6750万ドルで購入したバウチャーを生かして、アムジェンより早くPCSK9阻害剤を発売することができた。Viread(tenofovir disoproxil fumarate)の特許切れを3年後に控えるギリアド(Nasdaq:GILD)は、Knight Therapeuticsから1億2500万ドルで購入したバウチャーを使って後継薬とすべき合剤の一つで優先審査を求めた。

今年の5月にはサノフィがRetrophinから2.45億ドルで購入、今回は3.5億ドルと、価格は正にうなぎ登りだ。希少疾患用薬の治験は規模が小さいので3億ドルの値が付くなら開発投資を早期に回収することができるだろう。抗生物質や熱帯病用薬などもバウチャー制度があるので、商業的な理由で開発を中止したパイプラインを再開または売却するチャンスである。

リンク: ユナイテッド・セラピューティックスのプレスリリース

元米国大統領がKeytrudaによる治療を受ける
(2015年8月20日報道)

各紙の報道によるとジミー・カーター元米国大統領が転移性黒色腫を罹患し、MSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)による治療を受けるとのこと。軽快を祈りたい。90歳という年齢を考えると抗癌剤治療は驚きである。抗PD-1抗体の効果や安全性に対する評価が如何に高いかという例証だろう。

リンク: Newsweekの記事

【新薬開発】


ロシュの抗PD-L1抗体、承認申請に向かう可能性
(2015年8月17日発表)

ロシュは、RG7446(atezolizumab、ジェネンテックの開発コードであるMPDL3280Aの方が有名)の第二相肺癌試験が成功しFDAと今後を相談する旨、発表した。ブレークスルー・セラピー指定を受けているので承認申請に向かう可能性がある。但し、肺癌では3月にBMS/小野のOpdivo(nivolumab)が一部の肺癌に承認、MSDもKeytruda(pembrolizumab)の適応拡大申請を行っており、指定取消の可能性もあるのではないか。

RG7446は抗PD-L1抗体で、OpdivoやKeytrudaのような抗PD-1抗体とは標的がレガンドか受容体かという違いだ。今回の第二相はPD-L1が高発現している局所進行性/転移性の非小細胞性肺癌のサルベージ療法としての反応率を検討した単群試験。1200mg/kgを三週間に一回投与するスケジュール。

ロシュはPD-L1発現検査を診断機器部門と共同で開発、腫瘍だけでなく浸潤した免疫細胞も検査する手法で先鞭を付けた。Keytrudaの適応拡大申請は前後してDACO社が検査アッセイのPMA(販売前承認申請)を行っており、おそらく、PD-L1陽性癌だけに絞り込んでいるのではないか。一方、Opdivoの承認はPD-L1陽性に限定していない。同じような薬で何故違うのか分からないが、三社のデータが出揃えばヒントになるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

SGLT2阻害剤の心血管アウトカム試験が成功
(2015年8月20日発表)

糖尿病領域で開発販売提携を結んでいるベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験が成功し、非劣性だけでなく優越性解析も有意であったことを発表した。データは9月17日にEASD(欧州糖尿病研究学会)で発表される予定。

血糖治療薬では武田薬品のActos(pioglitazone)のPROactive試験が成功したが心不全のリスクも見られた。それ以外はリスクが高まらないことが確認されただけで削減する効果は見られなかったので、今回の成功は快挙だ。勿論、リスク削減率がどの程度なのか、深刻な副作用はどの程度増えたかなどを確かめる必要がある。

Jardianceは二型糖尿病用のSGLT2阻害剤。腎臓で血液から分離されたグルコースはSGLT2などのトランスポーターによってまた血液に戻るが、SGLT2阻害剤を使うと尿と一緒に排泄される量が増加する。グルコース通過量が増えるせいか、尿道や性器で感染症のリスクが高まることが独特な副作用だ。

今回のEMPA-REG OUTCOME試験は、二型糖尿病で心血管疾患リスクが高く、HbA1cが7%以上でBMIが45kg/m2以下の患者7034人を偽薬、10mg/日、25mg/日の三群に無作為化割付した二重盲検試験。各地域のガイドラインに即して血糖値などの治療を行い、偽薬群とJardiance群(プール分析)の心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的脳卒中リスクを比較した。

主評価項目は非劣性解析、副次的評価項目は不安定狭心症による入院も含めた4種類のイベントの非劣性解析、3種類のイベントの優越性解析、4種類のイベントの優越性解析などで、多重性を回避するため、この順番で解析する。上位解析がフェールしたら、その後の解析は数値が有意でも統計学的には有意と呼べないことになる。優越性の検出力はハザードレシオ0.785で80%とのことなので、最近よくある、検出力が高すぎて小さな差でも有意差が出るフールプルーフ試験ではなさそうだ。

もしデータが極めて良好であったならば、SGLT2阻害剤に対する評価が一変するだろう。他のSGLT2阻害剤のアウトカム試験の開票は17年以降なので、当面は、Jardianceだけがエビデンスに基づく治療ということになる。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Zinmanらの治験デザインペーパー(Cardiovascular Diabetology誌、オープンアクセス)

B群髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンの第三相が成功
(2015年8月21日発表)

ファイザーは、Trumenbaの第三相試験二本が成功したと発表した。10~25歳の健常者6900人を組入れて特定の株のB群髄膜炎菌に対する免疫原性を評価したもので、全ての評価項目で目的を達成したとのこと。Trumenbaは昨年10月に米国で承認、対象は10~25歳だが、政府のワクチン委員会は16~23歳を対象にケースバイケースで適否を判断することを勧告した。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


Keytruda、一次治療の承認申請が米国で受理
(2015年8月18日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を悪性黒色腫の一次治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は12月19日。 BMS/小野のOpdivo(nivolumab)は4ヶ月早く申請されたが、先週号で書いたように、審査期限が11月27日に延期された。この二剤の鍔迫り合いはどこまでも続く。

リンク: MSDのプレスリリース

武田、経口プロテアソーム阻害剤の承認申請をEUが受理
(2015年8月21日発表)

武田薬品は、MLN9708(ixazomib cirate)をEUで承認申請し受理されたと発表した。米国でも7月に承認申請済み。

週一回経口投与するプロテアソーム阻害剤で、作用の面では同社がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売しているVelcade(bortezomib)と似ている。用途は多発骨髄腫の二次治療。代表的なレジメンの一つであるRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneと三剤併用すると、この二剤だけよりPFS(無進行生存期間)を長期化できる。但し、データはまだ発表されていない。

リンク: 武田薬品のプレスリリース(和文)

ファイザー、CDK阻害剤をEUでも承認申請
(2015年8月20日発表)

ファイザーはIbrance(palbociclib)をEUで承認申請したと発表した。ホルモン受容体陽性、her2受容体陰性の転移性乳癌の二次治療としてfulvestrant(アストラゼネカが開発したエストロゲン受容体零落剤)と併用する。米国では第二相試験に基づいて一次治療にletrozole(ノバルティスが開発したアロマターゼ阻害剤)と併用することが2月に承認された。おそらく、今回の用法もFDAに適応拡大申請するのだろう。

第三相二次治療試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン9.2ヶ月とfulvestrantだけの3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.42と大変良い結果が出た。

リンク: ファイザーのプレスリリース

二重あご治療薬が欧州でも承認申請
(2015年8月18日発表)

Kythera Biopharmaceuticalsは、ATX-101(deoxycholic acid)を欧州で承認申請したと発表した。非中央化手続きにより、スエーデンで申請した。米国では4月にKybella名で承認されている。天然の食物脂肪分解物質を化学合成したもので、患部に月一回、最大4回注射する。二本の臨床試験では奏効率7割と、偽薬群の2割を有意に上回った。

同社はAllerganが21億ドルで買収することで合意している。

リンク: Kytheraのプレスリリース

ゼプリオン3か月持続製剤がEUで承認申請
(2015年8月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、TrevictaをEUで承認申請したと発表した。米国ではInvega Trinza名で5月に承認。筋注用非定型向精神薬paliperidone palmitateの新製剤で、効果が3ヶ月持続する。既存の製剤(米国はInvega Sustenna、EUはXeplion、日本はゼプリオン名で販売)は1ヶ月。

余談だが、下記のプレスリリースには面白い工夫がある。製品名をダブルクリックして選択すると、Listenというポップアップが現れ、クリックすると発音を聞くことができるのだ。最近の新薬は取り違え事故を防ぐために斬新な名前を付けることが多いが、斬新すぎて読み方がわからないことがあるので、便利だ。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認】


女性の性的欲望低下障害用薬が米国で承認
(2015年8月18日発表)

FDAは、ADDYI(flibanserin)を女性の全般性性的欲望低下障害用薬として承認したと発表した。ベーリンガー・インゲルハイムが承認申請してから5年、この病気の初めての治療薬が遂に承認された。権利を取得したSprout Pharmaceuticalsが申請していたもので、同社はヴァレアント(NYSE:VRX)が10億ドルと達成報奨金・利益分配金を払う条件で買収合意している。

セレトニン受容体である5-HT1Aを作動し5-HT2Aを阻害する薬で元々は抗鬱剤として開発された。ファイザーの勃起障害用薬Viagra(sildenafil)とは異なり毎晩服用する。効果は穏やかで、有効率が偽薬を10ポイント上回る程度。重度低血圧や失神のリスクが枠付き警告されている。特に、アルコールや中度以上の3A4阻害作用を持つ薬の同時摂取、そして肝機能障害を持つ患者はリスクが高まり、発生した時の症状も重いため、禁忌となっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Sprout社のプレスリリース
リンク: 買収合意に関するリリース(8/20付)

アドセトリス、地固め療法も承認
(2015年8月17日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の用法追加をFDAが承認したと発表した。自家造血幹細胞移植を受けたが再発リスクの高いホジキン型リンパ腫患者の地固め療法として、3週間に一回、最大16サイクル、投与するもの。臨床試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が42.9ヶ月と偽薬群の24.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.57で有意だった。16回投与すると薬代が20万ドルを超える。

Adcetrisは加速承認制度に基づいて11年に再発性難治性ホジキン型リンパ腫に承認されたが、今回、偽薬対照試験でPFS延長効果が確認されたため、本承認に切り替わった。

抗CD30抗体をモノメチルアウリスタチンEという細胞毒とつなげたもので、CD30に結合してインターナライズすると細胞内のたんぱく分解酵素でリンカーが外れ、毒性を発揮する。北米以外の権利は武田薬品と子会社のミレニアム・ファーマシューティカルズが保有している。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

ノバルティス、OdomzoがEUでも承認
(2015年8月20日発表)

ノバルティスは、SMO阻害剤Odomzo(sonidegib)がEUで切除・放射線療法不応不適の局所進行性基底細胞腫用薬として承認されたと発表した。米国では7月に承認。第二相試験で反応率が54%、PFS(無進行生存期間)はメジアン22ヶ月だった。

哺乳類の発育・形態形成に関わるヘッジホッグ・シグナリング・パスウェイに介入する経口剤。このパスウェイは基底細胞腫を除いてあまり機能していないため、標的として適している。但し、妊婦は禁忌。また、重度以上の横紋筋融解症が9%程度の患者で発生する。

類薬としてはロシュがキュリス社からライセンスして開発したErivedge(vismodegib)が米国で12年に、EUでは13年に承認されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年8月16日

2015年8月16日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ABT-199の承認申請用試験が成功
  • オプジーボの適応拡大が遅延


【新薬開発】


ABT-199の承認申請用試験が成功
(2015年8月12日発表)

アッヴィとロシュは、ABT-199(venetoclax)の承認申請用第二相試験が成功したと発表した。再発性難治性の慢性リンパ性白血病(CLL)で17p欠損を持つ患者107人を組入れた単群試験で、反応率が所定の要件を満たした。アッヴィが年末までに欧米で承認申請する予定。

ABT-199はbcl-2阻害剤。bcl-2は細胞のアポトーシスを抑制する機能を持ち、CLLでは過剰発現が見られる。Bcl-2をアンチセンスする小分子薬、Genasense(oblimersen)が第三相試験で効果の兆しを示したが、開発企業が再試験を行わず規制当局とのネゴで承認を目指したことが災いし、患者の期待を裏切る結果になった。

アッヴィとジェネンテック/ロシュは07年にbcl-2阻害剤とVEGFR阻害剤の共同開発提携を結んでおり、ABT-199もその対象のようだ。

17p欠損は17番染色体の短腕の欠損で、再発性難治性CLLの30~50%で見られ、メジアン生存期間3年以下と予後が悪い。アッヴィが買収したファーマサイクリクスがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発したImbruvica(ibrutinib)が14年に17p欠損型を含むCLLに承認されている。

リンク: アッヴイのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


オプジーボの適応拡大が遅延
(2015年8月12日発表)

BMSはOpdivo(nivolimab、和名オプジーボ)を末期黒色腫の一次治療に用いる適応拡大をFDAに承認申請しているが、審査期限が8月27日から11月27日に延期されと発表した。

審査期間延長制度は、不都合なデータを審査期限直前に提出し時間切れ承認を狙う不埒な手法に対抗するために導入された。FDAは、申請内容の主要な変更に該当する情報が期限まで3か月以内の時期に追加提出された場合、最大3ヶ月、延長できる。

今回のケースは、BMSが野生braf型に関するデータを提出したことが主要変更とみなされたようだ。第三相試験ではbraf阻害剤が適応になるbraf V600変異型は除外した。従って、承認もV600変異以外に限定するのが自然だが、V600変異型を組入れた試験では有効性が示唆されているので、もし有効と推測できるならば、限定しない方が医師や患者に親切である。その後の試験でもし無効と判定されたら改めて限定すればよい。

一次治療試験ではないが、JAMA Oncology誌の7月号に掲載された4本440人の試験の事後的プール分析を見ると、野生型に対する反応率は34.6%、変異型は29.7%でそれほど変わらなかった。メジアン反応持続期間も各14.8ヶ月と11.2ヶ月と大差ない。一次治療でも同様ならば、野生braf型に限定せずに承認される可能性がある。対象患者が二倍に増えることになる。この場合、braf変異を調べないことも可能になるので、結果的に、検査アッセイとbraf阻害剤の需要が低下するだろう。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: Larkinらのプール分析(JAMA Oncology、オープンアクセス)


今週は以上です。

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2015年8月9日

2015年8月9日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 画期的なカルチノイド症候群治療薬の第三相が成功
  • Clovis、rociletinibを欧米で承認申請
  • ジレニアでもPMLが発生

【新薬開発】


画期的なカルチノイド症候群治療薬の第三相が成功
(2015年8月3日発表)

テキサス州のLexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)はLX1032(telotristat etiprate)の第三相カルチノイド症候群試験が成功したと発表した。

カルチノイド症候群は消化管などの神経内分泌細胞が腫瘍化しセレトニンが過剰分泌されることによって重度の下痢などを発症する。ソマトスタチン系の薬で治療する。LX1032はセロトニン産生の調律酵素であるトリプトファン水酸化酵素を阻害する対症療法。

第三相試験は、既存薬に十分反応しない患者105人に偽薬、250mg、または500mgを一日三回経口で追加投与した。主評価項目の腸活動回数は各群17%、29%、35%減少し、二用量とも偽薬比有意だった。副次的評価項目の持続的腸活動改善率も20%、44%、42%で両用量とも偽薬比有意。

米国ではファーストトラック指定と希少疾患用薬指定を受けており、承認申請に向かうことになりそうだ。

日本と米国以外の権利はフランスのイプセンが保有している。

リンク: Lexiconのプレスリリース

【承認申請】


Clovis、rociletinibを欧米で承認申請
(2015年8月3日発表)

コロラド州のClovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、CO-1686(rociletinib)を欧米で承認申請したと発表した。適応は、EGFR活性化変異型でEGFR阻害剤による前治療歴を受けT790M変異陽性の非小細胞性肺癌。FDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。

EGFR阻害剤は活性化変異型に高い反応率を示すが、60%程度の頻度でT790M変異が発生し抵抗性が生じる。CO-1686は活性化変異したEGFRに選択的に作用し、また、T790M変異にも活性を持つことが特徴。今年のASCOで第二相試験の概要が発表されたが、500mgを一日二回、経口投与した群ではT790M陽性患者の6割前後が反応した。T790M変異の判定は腫瘍標本を用いた検査でも血液検査でも概ね同様な反応率を示した。

G3以上の治療関連有害事象は血糖値上昇が500mg群の17%で発生、用量依存性が見られた。間質性肺疾患は500mg群ではゼロだったが全体では1.5%程度で発生、致死例は無し。治療関連有害事象による治験離脱は500mg群で2.5%。

リンク: Clovisのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ジレニアでもPMLが発生
(2015年8月4日発表)

FDAは再発寛解型多発硬化症用薬Gilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)による治療を受けた患者二例でPML(進行性多病巣性白質脳症)が発症したことをレーベルに記載すると発表した。服用中の患者に対しては、脱力や思考変化などの症状が発生・悪化したら直ぐに医療専門家にコンタクトするよう勧告した。

PMLは脳のJCウイルス感染が原因。キャリアは少なくなく、通常は無害だが、免疫力が低下した患者でPMLが発生することがある。MRI画像や脳脊髄液のDNA検査、症状に基づいて診断する。

多発硬化症の再発予防はインターフェロン・ベータが標準療法だったが、Tysabri(natalizumab)、Gilenya、Tecfidera(dimethyl fumarate)などの免疫抑制剤が用いられるようになり、PML症例が散見されるようになった。Gilenyaは以前にもPML報告があったが、今回の二例はインターフェロン以外の前治療歴が無い。インターフェロンでPMLが発生するとは考えられていないため、Gilenyaとの関連が疑われる。

一例は使用歴2.5年、一例は4年なので、Tysabriと同様に、服用を続けるとリスクが高まるのかもしれない。Tecfidera(昨年、FDAがPML症例を警告)のPML症例はリンパ球減少が前触れのように感じられるが、GilenyaのPML症例に前兆が見られるかは明らかではない。

米国では過去5年間に54000人が処方を受けた。副作用は表面化しないケースも多いので発生頻度は明らかではないが、数万人に一人ならそれほど多くは無い。早期発見で重篤化を防げるかもしれないので、定期的にMRI検査を行って疑わしい所見があるなら血液検査を行うことになるだろう。

リンク: FDAの安全性通知


今週は以上です。

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2015年8月2日

2015年8月2日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • FDA、点滴システムのサイバーセキュリティーを警告
  • ファイザー、リピトールのOTCスイッチを断念
  • MSDのエボラワクチンが高い予防効果を示した
  • EUが抗SLAMF7抗体の承認申請を受理
  • エーザイ、ハラヴェンの適応拡大を申請
  • パージェタの術前補助療法がEUでも承認

【今週の話題】


サイバーセキュリティー上の脆弱性をFDAが警告
(2015年7月31日発表)

FDAはホスピーラの点滴システムであるSymbiqのサイバーセキュリティー警告を発出した。ハッカーが院内システムに潜入して薬剤の点滴量を遠隔操作することが可能だという。この分野のエキスパートであるBilly Riosが発見し、国土安全保障省のICS-CERT(産業用制御システム・サイバー緊急対応チーム)に報告。同チームやホスピーラによって確認されたもの。

Symbiqは別の理由で既に販売が中止されているが、アメリカやカナダでは未だ使用されている。実際にハッキングされた事例はない模様。ホスピーラの製品ではPCAという患者が必要な時に操作すると麻酔が投与されるシステムでも脆弱性が指摘されたことがあるが、これもRiosの発見だ。

ネットワークに無線や有線で接続して制御する機器が増え、サイバーセキュリティー面の懸念が指摘されるようになった。先週はフィアット・クライスラーが脆弱性を理由に140万台に及ぶジープ・チェロキーのリコールを発表しているが、とうとう医療機器にも波及し始めた。Symbiqは医療ミスを防ぐ有益なシステムであるはずだが、ネットワークと外したら手作業で情報を入力しなければならないので却って面倒になる。

このような時代になると、ユーザーは導入した後もメーカーや規制当局の情報をフォローし、必要に応じてソフトのアップデートや機器の入れ替えを行わなければならない。多くの場合、導入時には準備して予算を取るがメンテナンスは臨時支出なので手間がかかる。メーカー側も、ソフトやシステムの課金方法を売り切りではなくウイルスバスターのように年間幾らという保守料金制に変えていく必要があるのではないか。

リンク: FDAの安全性通知
リンク: 同(LifeCare PCA3/PCA5の安全性通知、5/13付)
リンク: ICS-CERTのリリース(6/23付)

ファイザー、リピトールのOTCスイッチを断念
(2015年7月28日発表)

ファイザーは2015年第2四半期の決算発表リリースの中で、Lipitor(atorvastatin)のOTCスイッチを断念したことを明らかにした。

Lipitorは年商が史上初めて100億ドルを超えたコレステロール治療薬のベストセラー。ジェネリック化を機に10mgのOTCスイッチを図ったが、ここでネックになったのが、高脂血症は特別な症状が無く患者が自分で診断して自分で服用の是非を判断できるか明らかではないことだ。

FDAの要請を受けActual Use Studyを行ったが、フェールした由。血液検査でLDL-Cが高かったのに服用しなかったり、必要ないのに服用したりする人が多かったのだろう。スタチンは妊婦や活性期肝臓疾患は禁忌で筋障害や腎障害の副作用リスクも伴うので適正使用が重要だ。

処方薬のOTCスイッチは多くの国で医療費抑制手段として位置づけられている。OTC薬は保険還元の対象外であることが多いからだ。Lipitorを服用していた患者全てがOTC版に切り替えるのが理想であり、その意味では、医師の指示でOTC薬を服用するケースも想定されている筈だが、建前はあくまでセルフ・メディケーションなので自己診断・自己処方を前提にせざるを得ない。

スタチンではMSDもsimvasatinのOTCスイッチを試み、英国では承認・発売されたが米国では承認されなかった。OTC判Lipitorも夫々の国の規制や考え方次第、ということになりそうだが、今のところは慎重な国が多いようだ。

リンク: ファイザーの15年第2四半期決算発表リリース(8-9頁目に記載、pdfファイル)

【新薬開発】


MSDのエボラワクチンが高い予防効果を示した
(2015年7月31日発表)

MSDは、WHOなどが主導して実施した同社のエボラワクチンの第三相試験が中間解析で高い予防効果を示したことを発表した。治験論文はLancet誌のホームページに掲載されている。治験デザインや統計解析面で疑問が残るものの、効果を疑う根拠は小さいように感じられる。シオラ・レオネでも第三相が進行中なので、結果発表が待望される。

このrVSV-ZEBOVワクチンはカナダのPublic Health Agencyが開発しアイオワ州のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)にライセンス、昨年11月にMSDが世界独占開発販売権を取得したもの。水疱性口内炎ウイルス(VSV)の遺伝子の一部をザイール種のエボラウイルスの遺伝子の一部と置換することで弱毒化とエボラウイルスに対する免疫誘導能を与えた。

ギニアで実施された今回の第三相試験は、感染者の家族など高リスク接触者7651人を対象に、直ぐに筋注する群と21日後に接種する群の発症状況を比較したもの。接種前に感染している可能性もあるため、潜伏期を10日と考えて、接種後10日以上経ってからの発症をカウントした。結果は、即時接種群の発症は2014人中ゼロ、遅延接種群は2380人中16人、予防効果は100%で95%信頼区間は74.7~100.0%、p値は0.0036だった。

論文を読むと、幾つかの疑問点・不透明な点が見つかる。デザイン面では、第一に、盲検が完全ではないのでバイアスが影響する余地がある。第二は、無作為化が不十分な可能性。同じ患者にコンタクトした被験者は全員が即時接種群または遅延接種群に割付けられた模様だが、同じエボラウイルスでも感染力が違うかもしれないので、本来ならコフォート内でも無作為化割付を行うべきだろう。まあ、命に係る疾患なので、発症者の長男には即時接種、次男は遅延接種というやり方は非現実的なのかもしれないが。

第三に、最初の10日間の発症を無視して良いのかという点。逆に、10日以上経った発症は全然別の人から感染したのかもしれず、そうなると、10日間にあちこち出掛けたかどうかに影響される可能性がある。

解析結果の解釈に関しても不透明な点がある。中間解析を行う場合は最終解析との多重性を調整するために成功認定のハードルを高くする必要がある。この中間解析に割り当てられたアルファは0.0027なので、成功認定の基準を満たしていない。本来なら治験を続行して最終解析に向かうべきだろう。

幸いなことにエボラの流行は鎮静化してきたが、新薬やワクチンを開発する側からすると、被験者の組入れが進まず場合によっては治験打切りを懸念しなければならない。そうでなくても、命に係る急性疾患で直ぐにワクチンを投与しない群を設定することは現場の医師にとってジレンマだろう。このような焦りや倫理上のジレンマがあったであろうことを考えれば、上記の欠陥は容認できないものではないだろう。

説得力の点で弱みを持っていることは確かなので、このワクチンが有効であることを認めるためには、もう一本の試験の成功が必要だ。

リンク: Lancetの治験論文(オープンアクセス、pdfファイル)
リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


EUが抗SLAMF7抗体の承認申請を受理
(2015年7月27日発表)

BMSはEmpliciti(elotuzumab)を再発性難治性多発骨髄腫用薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。開発コードはBMS-901608、HuLuc63、PDL-063など。骨髄腫細胞やNKセルに発現する表面分子であるSLAMF7(CS1糖蛋白)を標的とする免疫刺激的ヒト化抗体で、PDL(後に新薬開発事業をアッヴィが買収)が創製しBMSに開発販売権を供与したもの。

Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)及びdexamethasoneと併用した第三相試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月とこの二剤だけの群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70で統計的に有意だった。Velcade(bortezomib)及びdexamethasoneと併用した第二相でもPFSハザードレシオが0.72だった。

米国ではブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: Lonialらの第三相治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

エーザイ、ハラヴェンの適応拡大を申請
(2015年7月30日発表)

エーザイは、転移性乳癌用薬Halaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)を軟部肉腫に用いる適応拡大申請を日米欧で行ったと発表した。アンスラサイクリンを含む二種類のレジメンによる前治療歴を持ち直前の治療に反応しなかった患者に用いる。第三相試験ではメジアン生存期間が13.5ヶ月と、dacarbazineを投与した群の11.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.768、統計的に有意だった。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)

【承認】


パージェタの術前補助療法がEUでも承認
(2015年7月31日発表)

ロシュは、Perjeta(pertuzumab、和名パージェタ)を早期乳癌の摘出術前補助療法に用いることがEUで承認されたと発表した。米国では2013年に承認されている。承認の根拠となった、Herceptin(trastuzumab)及び化学療法薬と併用した第二相試験では、pCR(病理学的完全反応率)が40%とこの二剤だけを投与した患者の21.5%を上回った。

リンク: ロシュのプレスリリース


今週は以上です。

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