2015年8月23日

2015年8月23日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 優先審査バウチャーを430億円で売却
  • 元米国大統領がKeytrudaによる治療を受ける
  • ロシュの抗PD-L1抗体、承認申請に向かう可能性
  • SGLT2阻害剤の心血管アウトカム試験が成功
  • B群髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンの第三相が成功
  • Keytruda、一次治療の承認申請が米国で受理
  • 武田、経口プロテアソーム阻害剤の承認申請をEUが受理
  • ファイザー、CDK阻害剤をEUでも承認申請
  • 二重あご治療薬が欧州でも承認申請
  • ゼプリオン3か月持続製剤がEUで承認申請
  • 女性の性的欲望低下障害用薬が米国で承認
  • アドセトリス、地固め療法も承認
  • ノバルティス、OdomzoがEUでも承認

【今週の話題】


優先審査バウチャーを430億円で売却
(2015年8月19日発表)

ユナイテッド・セラピューティックス(Nasdaq:UTHR)は、希少小児疾患優先審査バウチャーをアッヴィに3.5億ドルで売却すると発表した。このバウチャーは、患者数が少ない小児疾患における新薬開発を促進する目的で米国で制度化されたもの。別の新薬の承認申請を行う時に優先審査を受けることができる。他社が購入して用いることも可。

承認が4ヶ月早まるだけで、申請内容によっては半年では終わらないかもしれないのだが、開発競争の激しい分野や主力薬の特許切れを控えて一刻も早く発売したい会社は、文字通り、時間を買うことができる。

バウチャー購入第一例となったリジェネロン/サノフィは、バイオマリンから6750万ドルで購入したバウチャーを生かして、アムジェンより早くPCSK9阻害剤を発売することができた。Viread(tenofovir disoproxil fumarate)の特許切れを3年後に控えるギリアド(Nasdaq:GILD)は、Knight Therapeuticsから1億2500万ドルで購入したバウチャーを使って後継薬とすべき合剤の一つで優先審査を求めた。

今年の5月にはサノフィがRetrophinから2.45億ドルで購入、今回は3.5億ドルと、価格は正にうなぎ登りだ。希少疾患用薬の治験は規模が小さいので3億ドルの値が付くなら開発投資を早期に回収することができるだろう。抗生物質や熱帯病用薬などもバウチャー制度があるので、商業的な理由で開発を中止したパイプラインを再開または売却するチャンスである。

リンク: ユナイテッド・セラピューティックスのプレスリリース

元米国大統領がKeytrudaによる治療を受ける
(2015年8月20日報道)

各紙の報道によるとジミー・カーター元米国大統領が転移性黒色腫を罹患し、MSDの抗PD-1抗体、Keytruda(pembrolizumab)による治療を受けるとのこと。軽快を祈りたい。90歳という年齢を考えると抗癌剤治療は驚きである。抗PD-1抗体の効果や安全性に対する評価が如何に高いかという例証だろう。

リンク: Newsweekの記事

【新薬開発】


ロシュの抗PD-L1抗体、承認申請に向かう可能性
(2015年8月17日発表)

ロシュは、RG7446(atezolizumab、ジェネンテックの開発コードであるMPDL3280Aの方が有名)の第二相肺癌試験が成功しFDAと今後を相談する旨、発表した。ブレークスルー・セラピー指定を受けているので承認申請に向かう可能性がある。但し、肺癌では3月にBMS/小野のOpdivo(nivolumab)が一部の肺癌に承認、MSDもKeytruda(pembrolizumab)の適応拡大申請を行っており、指定取消の可能性もあるのではないか。

RG7446は抗PD-L1抗体で、OpdivoやKeytrudaのような抗PD-1抗体とは標的がレガンドか受容体かという違いだ。今回の第二相はPD-L1が高発現している局所進行性/転移性の非小細胞性肺癌のサルベージ療法としての反応率を検討した単群試験。1200mg/kgを三週間に一回投与するスケジュール。

ロシュはPD-L1発現検査を診断機器部門と共同で開発、腫瘍だけでなく浸潤した免疫細胞も検査する手法で先鞭を付けた。Keytrudaの適応拡大申請は前後してDACO社が検査アッセイのPMA(販売前承認申請)を行っており、おそらく、PD-L1陽性癌だけに絞り込んでいるのではないか。一方、Opdivoの承認はPD-L1陽性に限定していない。同じような薬で何故違うのか分からないが、三社のデータが出揃えばヒントになるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

SGLT2阻害剤の心血管アウトカム試験が成功
(2015年8月20日発表)

糖尿病領域で開発販売提携を結んでいるベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験が成功し、非劣性だけでなく優越性解析も有意であったことを発表した。データは9月17日にEASD(欧州糖尿病研究学会)で発表される予定。

血糖治療薬では武田薬品のActos(pioglitazone)のPROactive試験が成功したが心不全のリスクも見られた。それ以外はリスクが高まらないことが確認されただけで削減する効果は見られなかったので、今回の成功は快挙だ。勿論、リスク削減率がどの程度なのか、深刻な副作用はどの程度増えたかなどを確かめる必要がある。

Jardianceは二型糖尿病用のSGLT2阻害剤。腎臓で血液から分離されたグルコースはSGLT2などのトランスポーターによってまた血液に戻るが、SGLT2阻害剤を使うと尿と一緒に排泄される量が増加する。グルコース通過量が増えるせいか、尿道や性器で感染症のリスクが高まることが独特な副作用だ。

今回のEMPA-REG OUTCOME試験は、二型糖尿病で心血管疾患リスクが高く、HbA1cが7%以上でBMIが45kg/m2以下の患者7034人を偽薬、10mg/日、25mg/日の三群に無作為化割付した二重盲検試験。各地域のガイドラインに即して血糖値などの治療を行い、偽薬群とJardiance群(プール分析)の心血管死/非致死的心筋梗塞/非致死的脳卒中リスクを比較した。

主評価項目は非劣性解析、副次的評価項目は不安定狭心症による入院も含めた4種類のイベントの非劣性解析、3種類のイベントの優越性解析、4種類のイベントの優越性解析などで、多重性を回避するため、この順番で解析する。上位解析がフェールしたら、その後の解析は数値が有意でも統計学的には有意と呼べないことになる。優越性の検出力はハザードレシオ0.785で80%とのことなので、最近よくある、検出力が高すぎて小さな差でも有意差が出るフールプルーフ試験ではなさそうだ。

もしデータが極めて良好であったならば、SGLT2阻害剤に対する評価が一変するだろう。他のSGLT2阻害剤のアウトカム試験の開票は17年以降なので、当面は、Jardianceだけがエビデンスに基づく治療ということになる。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: Zinmanらの治験デザインペーパー(Cardiovascular Diabetology誌、オープンアクセス)

B群髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンの第三相が成功
(2015年8月21日発表)

ファイザーは、Trumenbaの第三相試験二本が成功したと発表した。10~25歳の健常者6900人を組入れて特定の株のB群髄膜炎菌に対する免疫原性を評価したもので、全ての評価項目で目的を達成したとのこと。Trumenbaは昨年10月に米国で承認、対象は10~25歳だが、政府のワクチン委員会は16~23歳を対象にケースバイケースで適否を判断することを勧告した。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


Keytruda、一次治療の承認申請が米国で受理
(2015年8月18日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)を悪性黒色腫の一次治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は12月19日。 BMS/小野のOpdivo(nivolumab)は4ヶ月早く申請されたが、先週号で書いたように、審査期限が11月27日に延期された。この二剤の鍔迫り合いはどこまでも続く。

リンク: MSDのプレスリリース

武田、経口プロテアソーム阻害剤の承認申請をEUが受理
(2015年8月21日発表)

武田薬品は、MLN9708(ixazomib cirate)をEUで承認申請し受理されたと発表した。米国でも7月に承認申請済み。

週一回経口投与するプロテアソーム阻害剤で、作用の面では同社がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売しているVelcade(bortezomib)と似ている。用途は多発骨髄腫の二次治療。代表的なレジメンの一つであるRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneと三剤併用すると、この二剤だけよりPFS(無進行生存期間)を長期化できる。但し、データはまだ発表されていない。

リンク: 武田薬品のプレスリリース(和文)

ファイザー、CDK阻害剤をEUでも承認申請
(2015年8月20日発表)

ファイザーはIbrance(palbociclib)をEUで承認申請したと発表した。ホルモン受容体陽性、her2受容体陰性の転移性乳癌の二次治療としてfulvestrant(アストラゼネカが開発したエストロゲン受容体零落剤)と併用する。米国では第二相試験に基づいて一次治療にletrozole(ノバルティスが開発したアロマターゼ阻害剤)と併用することが2月に承認された。おそらく、今回の用法もFDAに適応拡大申請するのだろう。

第三相二次治療試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン9.2ヶ月とfulvestrantだけの3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.42と大変良い結果が出た。

リンク: ファイザーのプレスリリース

二重あご治療薬が欧州でも承認申請
(2015年8月18日発表)

Kythera Biopharmaceuticalsは、ATX-101(deoxycholic acid)を欧州で承認申請したと発表した。非中央化手続きにより、スエーデンで申請した。米国では4月にKybella名で承認されている。天然の食物脂肪分解物質を化学合成したもので、患部に月一回、最大4回注射する。二本の臨床試験では奏効率7割と、偽薬群の2割を有意に上回った。

同社はAllerganが21億ドルで買収することで合意している。

リンク: Kytheraのプレスリリース

ゼプリオン3か月持続製剤がEUで承認申請
(2015年8月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、TrevictaをEUで承認申請したと発表した。米国ではInvega Trinza名で5月に承認。筋注用非定型向精神薬paliperidone palmitateの新製剤で、効果が3ヶ月持続する。既存の製剤(米国はInvega Sustenna、EUはXeplion、日本はゼプリオン名で販売)は1ヶ月。

余談だが、下記のプレスリリースには面白い工夫がある。製品名をダブルクリックして選択すると、Listenというポップアップが現れ、クリックすると発音を聞くことができるのだ。最近の新薬は取り違え事故を防ぐために斬新な名前を付けることが多いが、斬新すぎて読み方がわからないことがあるので、便利だ。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認】


女性の性的欲望低下障害用薬が米国で承認
(2015年8月18日発表)

FDAは、ADDYI(flibanserin)を女性の全般性性的欲望低下障害用薬として承認したと発表した。ベーリンガー・インゲルハイムが承認申請してから5年、この病気の初めての治療薬が遂に承認された。権利を取得したSprout Pharmaceuticalsが申請していたもので、同社はヴァレアント(NYSE:VRX)が10億ドルと達成報奨金・利益分配金を払う条件で買収合意している。

セレトニン受容体である5-HT1Aを作動し5-HT2Aを阻害する薬で元々は抗鬱剤として開発された。ファイザーの勃起障害用薬Viagra(sildenafil)とは異なり毎晩服用する。効果は穏やかで、有効率が偽薬を10ポイント上回る程度。重度低血圧や失神のリスクが枠付き警告されている。特に、アルコールや中度以上の3A4阻害作用を持つ薬の同時摂取、そして肝機能障害を持つ患者はリスクが高まり、発生した時の症状も重いため、禁忌となっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Sprout社のプレスリリース
リンク: 買収合意に関するリリース(8/20付)

アドセトリス、地固め療法も承認
(2015年8月17日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の用法追加をFDAが承認したと発表した。自家造血幹細胞移植を受けたが再発リスクの高いホジキン型リンパ腫患者の地固め療法として、3週間に一回、最大16サイクル、投与するもの。臨床試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が42.9ヶ月と偽薬群の24.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.57で有意だった。16回投与すると薬代が20万ドルを超える。

Adcetrisは加速承認制度に基づいて11年に再発性難治性ホジキン型リンパ腫に承認されたが、今回、偽薬対照試験でPFS延長効果が確認されたため、本承認に切り替わった。

抗CD30抗体をモノメチルアウリスタチンEという細胞毒とつなげたもので、CD30に結合してインターナライズすると細胞内のたんぱく分解酵素でリンカーが外れ、毒性を発揮する。北米以外の権利は武田薬品と子会社のミレニアム・ファーマシューティカルズが保有している。

リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

ノバルティス、OdomzoがEUでも承認
(2015年8月20日発表)

ノバルティスは、SMO阻害剤Odomzo(sonidegib)がEUで切除・放射線療法不応不適の局所進行性基底細胞腫用薬として承認されたと発表した。米国では7月に承認。第二相試験で反応率が54%、PFS(無進行生存期間)はメジアン22ヶ月だった。

哺乳類の発育・形態形成に関わるヘッジホッグ・シグナリング・パスウェイに介入する経口剤。このパスウェイは基底細胞腫を除いてあまり機能していないため、標的として適している。但し、妊婦は禁忌。また、重度以上の横紋筋融解症が9%程度の患者で発生する。

類薬としてはロシュがキュリス社からライセンスして開発したErivedge(vismodegib)が米国で12年に、EUでは13年に承認されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース



今週は以上です。

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