2013年11月3日

海外医薬ニュース2013年11月3日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • WCLC:PD-1阻害薬はやっぱり凄い
  • ファーザーの抗PCSK9抗体も第三相入り
  • ポテリジェント抗体が第三相入り
  • JNJがibrutinibをEUでも承認申請
  • BMSが日本で経口剤だけのC型肝炎治療法を承認申請
  • FDA諮問委員会が武田のvedolizumabを検討へ
  • FDAはEPAの心血管疾患予防効果に懐疑的
  • ロシュのフコース除去抗体が米国で承認
  • アリアドが抗癌剤の販売を一時中止


【新薬開発】


WCLC:PD-1阻害薬はやっぱり凄い

(2013年10月25日、29日発表)

WCLC(世界肺癌会議)でBMSとMSDの抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌後期第一相試験のデータがアップデートされた。二次治療でメジアン生存期間が各10ヶ月と1年となっており、中々良さそうだ。また、ロシュのRG7446/MPDL3280Aと同様に、PD-L1の発現状況を検査して最適な患者をスクリーニングできる可能性も示唆された。

抗PD-1抗体は、活性化したTセルが発現する抑制刺激受容体であるPD-1に結合して、腫瘍細胞などが発現するレガンドであるPD-L1やPD-L2がTセルを抑制して免疫力を弱体化するのを妨げる。BMS-936558(nivolumab)はトランスジェニック・マウス抗体で小野薬品との共同開発品。MK-3475(lambrolizumab)はヒト化抗体。抗体医薬の固定領域は抗体依存的細胞傷害(NK細胞などを刺激して標的を攻撃させる)を惹起するためにIgG1型を用いることが多いが、両剤はTセルという重要な細胞を標的としているためIgG4型だ。

BMS-936558は2012年に非小細胞性肺癌で第三相入り、2014年後半から2015年にかけて結果が判明するのではないか。腎細胞腫と悪性黒色腫でも承認申請用試験が進行している。MK-3475は今年8月に悪性黒色腫でYervoy(ipilimumab)対照第三相試験がスタート。非小細胞性肺癌でも先月、第二/三相試験が始まったところで、結果はどちらも2015年頃だろう。RG7446/MPDL3280Aはまだ第三相はロンチされていないようだ。

WCLCでは、まず、BMS-936558の後期第一相試験のうち非小細胞性肺癌の途中経過が発表された。二次治療以降の患者を組入れて三種類の量の何れかを二週間に一回、静注投与したところ、129名の患者のメジアン生存期間は9.9ヶ月、1年生存率42%、2年生存率24%となった。前回の発表値と比べて、2年生存率がかなり上昇している。カプラン・マイヤー曲線の右側のデータは症例数が少なく誤差範囲が大きいので過大評価はできないが、何れにせよ、過半の患者が既に三次治療まで受けていたことを考えれば、立派な成果だ。

テストした3用量のうち最も小さい1mg/kgは効果が弱いように見える。第三相では中間の3mg/kgを採用したので、数値の向上が期待できそうだ。

MK-3475の後期第一相試験の途中経過も再発性非小細胞性肺癌が対象。10mg/kgを三週間に一回、静注した。第三者による検証を受けたRECIST反応率は33例中21%、メジアン生存期間は51週間だった。BMS-936558をやや上回るが、症例数が少なく、患者背景が異なる可能性もあるので、比較はできない。

サブグループ分析では、扁平上皮腫は反応率が33%、メジアン生存期間は未達(解析時点で過半の患者が生存)、扁平上皮腫以外は各16%と35週間。扁平上皮肺癌に有効な薬は少ないので注目できる。また、PD-L1発現状況に基づくサブグループ分析では、高発現度(7例)は反応率が57%と大変高く、一方、低発現度(22例)は9%だった。

忍容性面では、BMS-936558は過去の試験で薬物との関連が疑われる間質性肺炎が3%程度の患者で発生、非小細胞性肺癌2例を含む3例が死亡している。MK-3475の試験でもグレード3(重度)の肺浮腫が38例中1例で発生した。応答性がPD-L1発現状況に依存する可能性があることや、重度・重篤な有害事象が見られることを考えれば、事前にスクリーニングしてPD-L1陽性の患者だけに用いることも視野に入れるべきだろう。

リンク:BMSのプレスリリース(10/25付)

リンク:MSDのプレスリリース(10/29付)

ファーザーの抗PCSK9抗体も第三相入り

(2013年10月29日発表)

ファイザーは2013年第3四半期の決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。注目されるのはPF-04950615/RN316(bococizumab)が第三相入りしたこと。リジェネロン/サノフィのREGN727/SAR236553やアムジェンのAMG145と同様な抗PCSK9抗体で、LDL受容体の零落を誘導するproprotein convertase subtilisin/kexin type 9をブロックし、血清LDL-C値を引き下げる。

高脂血症・異脂血症で心血管疾患のリスクが高い患者やヘテロ接合型家族性高脂血症を対象に、LDL-C値引き下げ効果を検討する。心血管アウトカム試験も計画されている。開発コードから推測すると、2001年にジェネンテックの中枢神経系領域部門がスピンアウトし2006年にファイザーが買収されたRinat Neuroscienceのパイプラインなのだろう。

リンク:ファイザーの決算リリース

ポテリジェント抗体が第三相入り

(2013年10月30日発表)

アストラゼネカのメディミューン部門は、MEDI-563(benralizumab)の第三相試験開始を公表した。協和発酵キリングループのBioWaからBIW-8405をライセンスしたもので、抗IL-5受容体アルファ抗体の糖鎖をBioWaのポテリジェント技術で修飾し、抗体依存的細胞傷害活性を高めたもの。適応は管理不良の重度喘息症。第二相試験のデータはまだ発表されていない模様だが、好酸球の多い患者で有意な増悪抑制作用と肺機能改善作用を示したようだ。但し、第三相では好酸球数が増多していない患者も組入れる模様。

好酸球性気道炎症は世界で1000万人程度、重度喘息症患者の4~6割が該当するとのことなので、これだけでも市場性は大きい。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


JNJがibrutinibをEUでも承認申請

(2013年10月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはPCI-32765(ibrutinib)をEUで承認申請したと発表した。適応症は7月に行った米国と同様で、再発性/難治性のマントルセル・リンパ腫、慢性リンパ性白血病、糜爛性大B細胞リンパ腫の三疾患。第一/二相試験の反応率データに基づく申請と推測される。

リンク:JNJのプレスリリース

BMSが日本で経口剤だけのC型肝炎治療法を承認申請

(2013年11月1日発表)

BMSはBMS-790052(daclatasvir:NS5A複製複合体阻害剤)とBMS-650032(asunaprevir:NS3プロテアーゼ阻害剤)を日本で遺伝子型Ib型の慢性C型肝炎の治療薬として承認申請したと発表した。インターフェロンもribavirinも併用せずに、この二剤だけを併用する。

日本は高齢患者が比較的多く、インターフェロンだけでなくribavirinに不耐な患者が少なくないため、DAA(直接作用抗ウイルス薬)だけのレジメンが求められている。遺伝子型I型のうち、日本に多いIb型はプロテアーゼ阻害剤によく感受するため、二剤だけでも高い奏効率が期待できる。NS5A阻害剤は様々な遺伝子型に有効で、注目すべき新薬。BMS-790052が最も開発が進んでいる。

日本で行われた第三相試験では、Ib型のウイルスに感染しているインターフェロンまたはribavirinに不適/不耐(135人)、またはインターフェロン・ベースの治療に反応しなかった患者(87人)を組入れて、BMS-790052は60mgを一日一回、BMS-650032は100mgを一日二回、24週間に亘って経口投与したところ、SVR24(治療完了の24週間後になってもウイルスが検出されなかった患者の比率)が84.7%に達した。不適/不耐患者では87.4%、不応では80.5%だった。

治療成果は65歳以上の患者でも未満の患者でも大差なく、65歳以上の不適/不耐患者のSVR24は91.9%、同じく不応患者は85.2%だった。

発生頻度の高い有害事象は鼻咽頭炎(30%)、ALT上昇(16%)、AST上昇(13%)、頭痛(16%)など。深刻な有害事象の発生率は5.9%。有害事象による治験離脱の発生率は5%で、11例中10例はALT/AST上昇によるもの。これらの患者の8割は治療を早期に止めたにもかかわらずSVR24を達成し、ALT/ASTは正常値に戻った。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が武田のvedolizumabを検討へ

FDAは12月9日に胃腸薬諮問委員会(GIDAC)と薬品安全性リスク管理諮問委員会(DSRMAC)の共同会議を開催して、武田薬品が6月に承認申請したMLN0002(vedolizumab)について検討することを発表した。この抗アルファ4ベータ7インテグリン・ヒト化抗体は中重度潰瘍性大腸炎と中重度クローン病の二次、三次治療薬として申請され、前者は優先審査指定を受けている。クローン病試験は成績が満点ではなかったせいか、標準審査。

不思議なのはDSRMACと共催であることだ。考えられるのは、バイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab;主用途は多発性硬化症だがクローン病でも承認されている)と比べて進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスクが小さいという長所を認めるかどうか検討すること。MLN0002はアルファ4ベータ1サブユニットには結合しないため、PMLが発生し難いと考えられており、実際に、第三相では一例も発生しなかった模様だ。

クローン病は様々なバイオ薬が発売されているが、それらの薬に反応しない患者はTysabriのような第三の作用機序の薬が必要になる。PMLリスクが小さいならMLN0002のほうが好ましいが、もし隠れたリスクがあった場合、安易に用いるのは危険だ。Tysabriの場合、長期間使えば使うほどリスクが高まるようなので、MLN0002も長期追跡データが必要だ。かといって、Tysabriのように厳重な規制の下でしか使えないようにすると、患者の治療を受ける権利が損なわれる。

医療現場の実態も踏まえた判断が必要なのでDSRMACも招集することを決めたのではないだろうか。

リンク:FDAの開催通知

FDAはEPAの心血管疾患予防効果に懐疑的

(2013年10月29日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)は、SEC提出資料の中で、FDAがVascepa(icosapent ethyl)のANCHOR試験に関するSPA(特別プロトコル評価)を取り消したことを明らかにした。試験が終了し承認申請した後になって取り消されても困るが、それだけ、FDAの内部も揺れているのだろう。

Vascepaは2012年に高トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として承認された。ANCHORはトリグリセライド値が200~500mg/dLで心血管リスクの高いスタチン服用者を組入れた試験で、主評価項目はトリグリセライド値だった。当然のことながら成功、適応拡大申請されたが、10月の諮問委員会ではFDAも諮問委員も否定的だった。

今回のSPA取消も理由は同じで、フィブレートをテストしたACCORD-Lipid試験やナイアシンをテストしたAIM-HIGH試験とHPS2-THRIVE試験が何れもフェール、心血管疾患を防ぐ効果が確認されなかったこと。FDAは、トリグリセリドを代理マーカーと見做してトリグリセリドを低下させる薬は心血管疾患も防ぐと考えることは最早できない、と判定した。

尤もな意見で、EPAを用いた心血管アウトカム試験の結果は区々だ。日本のJELIS試験(トリグリセライドが高くない患者も対象)が成功したが、90年代に実施されたせいか併用したスタチンの用量が少なく、今日の標準療法に対する上乗せ効果は明らかではない。

Vascepaは心血管アウトカム試験が進行中だが、アマリンの財務力は決して高くなく、Vascepaの売上も低調となると、無事完遂できるかどうか心配だ。高血圧症における血圧や高脂血症におけるLDL-Cのように、代理マーカーが確立している分野は短期小規模な試験で足りるので新薬の開発が容易だが、トリグリセライドは駄目、HDL-Cは前から駄目となると、これらの領域の新薬開発は大手の独壇場になりそうだ。

リンク:アマリンのフォーム8-K

【承認】


ロシュのフコース除去抗体が米国で承認

(2013年11月1日発表)

FDAは、抗CD20フコース除去ヒト化抗体Gazyva(obinutuzumab)を慢性リンパ性白血病用薬として承認したと発表した。初めて治療を受ける患者にchlorambucilと併用する。主な有害事象は点滴関連反応、骨髄抑制(好中球減少症、血小板減少症、貧血)や筋骨格痛、発熱など。Rituxan(rituximab)など既存の抗CD20抗体と同様に、B型肝炎ウイルスの再活性化と進行性多病巣性白質脳症のリスクが枠付警告された。審査期限は12月20日だったが、1ヶ月以上前倒しで承認。

フコース除去抗体は翻訳後装飾でフコースが付与されないように工夫したもので、抗体依存的細胞傷害活性が高い。Gazyvaも第三相試験でRituxanより高い進行・死亡抑制効果を示した。日本では2012年に協和発酵キリンのポテリジオが承認されたが、米国ではGazyvaが初めて。ポテリジェントではなくロシュが05年に買収したGlycArt社の技術を用いて、CHOセルにグリコシルトランスフェラーゼを過剰発現させることによってフコースをできなくする。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


アリアドが抗癌剤の販売を一時中止

(2013年10月31日発表)

アリアド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARIA)は、2012年12月に米国で慢性骨髄性白血病に承認されたIclusig(ponatinib)の販売を一時的に中止すると発表した。FDAの要請に基づくもので、投与期間相関的な血栓性疾患リスクが原因だ。現在治療を受けて良好に応答している患者は、その患者だけを対象とした治験申請や早期アクセスプログラムを通じて続行することができる。

既報のように、このbcr-abl阻害剤は臨床試験の延長試験で心筋梗塞などの血栓性疾患の懸念が浮上した。今回のFDAのリリースでは発生率が更に高まり、第二相試験の追跡データではメジアン1.3年の追跡で24%、第一相は2.7年で48%。2週間で発生した例もあり、また、用量との関連性も見られなかったようで、無害量も安全に使用できる期間も不明、とのこと。有害事象は心臓発作、卒中、血行不良による末梢組織壊死、末梢・心臓・脳血管の重度狭窄と多岐に亘り致死例を含む。目で発生して失明した症例もあるようだ。

副作用リスクの評価でしばしば問題になるのが、分類方法だ。今回のケースでも心筋梗塞だけなら発生率はもっと低いはずだが、患者にとって重要なのは全体像で、個々の有害事象ではない。当然の話なのだが、学会・論文発表や企業のプレスリリースでは小分類のデータしか記されないことが少なくなく、全体像を把握するのが困難になっている。今回もアリアドが発表した段階ではそれほど重大ではないと感じたが、後にFDAが発表した数値の大きさに驚かされた。

リンク:FDAの安全性情報

リンク:アリアドのプレスリリース

今週は以上です。

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