2022年3月12日

第1041回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 米国は人口の4割が既に感染 
  • インド発の不活化ワクチンはEUAされず 
  • その他の領域: 
  • 新規複合セファロスポリンの第3相cUTI試験が成功 
  • アッヴィ、経口CGRP阻害剤の慢性片頭痛予防試験が成功 
  • 週一回静注用第VIII因子を承認申請へ 
  • ギリアド、Trodelvyの試金石試験が成功? 
  • イムブルビカを未治療マントル細胞腫に二種変更申請 
  • IDH1阻害剤を一次治療に適応拡大申請 
  • Nymox社、今度こそオオカミが来た? 
  • リムパーザがBRCA変異早期乳癌のアジュバント療法に承認 


【COVID-19関連】


米国は人口の4割が既に感染
(2022年2月25日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)は、民間のラボがCOVID-19感染以外の理由で採取した血液標本のCOVID-19抗原検査を行って、無症候性感染も含めた感染状況を間歇的に調査している。約7万検体を対象とした1月の分析によると血清陽性率は43%だった。米国人口に当てはめると感染経験者は1.4億人と推定され、これは、累計感染者数約7400万人の倍近い。2020年頃に言われていたのと似た結果になった。

年齢別には、0~17歳は58%、18~49歳は48%、50~64歳は37%、65歳以上は23%となっている。

過去のデータを見ると、昨年の2月時点では20%、9月は29%だった。連続性があるのか不明だが、下記サイトに掲示されている推移のグラフを見ると、昨秋以降、急上昇している。

アメリカは20年12月にワクチン接種が始まったが1年後にオミクロン株の流行で新規感染者数が急増した。最近になって人口当たりの数値が日本並みに低下したのは、ブースター接種だけでなく、自然感染による免疫獲得が進んだことも寄与したかもしれない。

興味深いのは、昨年のデータでも0~17歳の数値が最も高く年齢層が上がるにつれて低下している。オミクロン株は青少年の感染者が多いと言われているが、過去の株は無症状で顕在化していなかっただけで、感染率自体は変わっていないのかもしれない。

リンク: CDCのデータ・トラッカー(3月10日アクセス)


インド発の不活化ワクチンはEUAされず
(2022年3月4日発表)

米国ペンシルバニア州の遺伝子療法・ワクチン開発会社、Ocugen(Nasdaq:OCGN)は、Covaxinを2~18歳のCOVID-19予防用ワクチンとしてFDAにEUA(非常時使用認可)申請していたが、認められなかった。

インドのBharat Biotechが開発したvero細胞培養による不活化全粒子ワクチンで、昨年1月にインドでEUA、11月にはWHOにEUL(非常時使用リスト収載)された。18歳以上の約26000人を組入れたインドの第3相で症候性感染症に対するワクチン効率が77.8%、重症感染だけでは93.4%、無症候性感染症は63.6%という成績を挙げた。

Ocugenはインドで2~18歳の約500人を組入れて免疫原性を成人データと比較したブリッジング試験のデータを用いて昨年11月にEUA申請したが、直後に第3相のIND(治験許可)が停止されるなど(2月に解除)、不透明感があった。

承認されたワクチンが複数ある中で米国人における効果や安全性が確立していない製品を緊急認可する必要があるようには思えない。日本でも、ブースター接種試験で違うワクチンを交互接種した群の中和抗体価が同じワクチンを接種した群と大差ないという不思議なワクチンが話題になっているが、新規参入組が存在価値を認めてもらおうと思ったら、相応の努力と実績が必要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


新規複合セファロスポリンの第3相cUTI試験が成功
(2022年3月10日発表)

米国ペンシルバニア州の未上場抗生剤開発企業、Venatorx Pharmaceuticalsは、ベータ・ラクタマーゼ阻害剤VNRX-5133(taniborbactam)と第4世代セフェム系抗生剤cefepimeを併用で複雑性尿路感染症(腎盂腎炎を含む)の治療に充てる第3相試験が成功したと発表した。22年第4四半期に承認申請する予定。

このCERTAIN-1試験は欧米や中国、ロシア、ウクライナなどの施設で成人患者661人を試験薬群とmeropenem群に2対1割付けしてTest of Cure(第19~23日)における微生物学的かつ臨床的な奏効率が非劣性であることを検証した。試験薬は2.5gを2時間静注、meropeenemは1gを30分静注、どちらも8時間おきに7日間(菌血症の場合は14日間)投与した。

結果は、奏効率が各70%と58%となり成功。シーケンシャルに行われた優越性解析も成功した。第28~35日に行った追跡評価でも優越性が維持された。治療時発現有害事象発生率は各35.5%と29.0%、治療時発現有害事象治験離脱率は3.0%と0.9%と上回ったが、深刻治療時発現有害事象は2.0%と1.8%で大差なかった。試験薬群で一人が死亡したが治験医は治療関連ではないと判定した。

VenatorxはNIAID(米国立アレルギー感染症研究所)の開発助成金を得ている。次は年内に院内感染細菌性肺炎/人工呼吸器関連細菌性肺炎の第3相をBARDA(アメリカ生物医学先端研究開発局)の資金援助を得て実施する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


アッヴィ、経口CGRP阻害剤の慢性片頭痛予防試験が成功
(2022年3月10日発表)

アッヴィはQulipta(atogepant)の第3相慢性片頭痛予防試験が成功したと発表した。米国で適応拡大申請に向かうとともに、海外でも反復性片頭痛予防と合わせて新薬承認申請する考え。

片頭痛の治療や予防ではCGRP(calcitonin-gene-related peptide)受容体拮抗剤が続々と発売され、中でも、Biohaven Pharmaceutical(NYSE:BHVN)のNurtec ODT(rimegepant)が経口剤の強みを生かしトップ・シェアを獲得したようだ。発作時の治療と反復性片頭痛(月4日以上発生)の予防に承認されており、後者にしか承認されておらず治療は別の製品(Ubrelvy錠)を使うQuliptaよりフレキシブルな使い方ができる。

今回の適応拡大試験成功で競争関係がどう変わっていくか、注目される。

慢性片頭痛は月15日以上発生する状態が3ヶ月以上続く。本試験は1年以上続く778人を組入れて、反復性片頭痛における最大承認量である60mg一日一回に加えて、30mg一日二回もテストした。結果は月間片頭痛日数の減少が各6.88日、7.46日となり、偽薬群の5.05日を有意に上回った。EU向けのestimandベースの解析も同様な結果になった。副次的評価項目の発作日数半減奏効率は各41%、42%、26%とこちらも有意に上回った。

有害事象は便秘や悪心など、多くは軽中度だった。深刻有害事象の発生率は各2.7%、1.6%、1.2%で治療関連と判定されたものはゼロ。

Quliptaは2020年に買収したアラガンが15年にMSDから取得した経口CGRP受容体拮抗剤パイプラインの一つ。因みにNurtecは16年にBMSからライセンスしたもの。

リンク: 同社のプレスリリース


週一回静注用第VIII因子を承認申請へ
(2022年3月9日発表)

サノフィとSwedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)は、BIVV001(efanesoctocog alfa)の第3相A型重症血友病試験が成功したと発表した。予防的投与を受けている12歳以上の患者159人を組入れて、50 IU/kgを週一回、52週間に亘って静注した単群試験で、出血率年率(ABR)がメジアン値はゼロ、平均は0.71と良好な出血予防効果が示された。治験前の既存製剤を用いていた時期との比較では有意に減少した。インヒビターは検出されていない。治療時発現有害事象は頭痛、関節痛、転倒、背痛など。年内に米国などで承認申請する予定。

血液凝固第VIII因子は2010年代に長期作用性製剤が登場、予防的投与の頻度が減少したが、それでも3~5日に一回だ。週一回なら利便性が高まり、中外/ロシュの皮注用抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体、Hemlibra(emicizumab)との差も縮めることができるだろう。

同社のEloctate(efmoroctocog alfa)は第VIII因子に免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合して半減期を延長したもの。efanesoctocog alfaは更にXTEN(商標)ポリペプチドと、当初は第VIII因子を安定化させるがやがてシャペロンとして分解を手助けするフォン・ヴィルブランド因子(vWF)との結合を回避するために、vWFの第VIII因子結合領域も融合した。2月にAmunix Pharmaceuticalsを一時金10億ドル及び目標達成報奨金2.25億ドルで買収して入手した。

リンク: 両社のプレスリリース


ギリアド、Trodelvyの試金石試験が成功?
(2022年3月7日発表)

ギリアド・サイエンシズはTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第3相TROPiCS-02試験が成功したと発表したが、データは公表せず、臨床的に意味のある効果の有無について明言せず、買収時に資産計上したイン・プロセスR&Dの減耗テストに言及し、その企業の本社閉鎖と人員削減を発表した。患者にとって朗報と言えるのかどうか不透明感が残った。

多くの腫瘍で発現するTROP-2(別名EGP-1)を標的とする抗体にirinotecan活性代謝物であるSN-38を結合した抗体薬物複合体で、転移性トリプル・ネガティブ乳癌(8割以上がTROP-2を発現)の三次治療薬として欧米で承認されたている。ギリアドは20年にImmunomedicsを210億ドル、買収プレミアム100%という太っ腹買収で入手した。この頃に断行した他の企業買収が大きな成果を上げていない中、Trodelvyのライフ・サイクルマネジメントの成否が衆目を集めていた。

今回の試験はホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌で内分泌療法、CDK4/6阻害剤、そして2~4次の化学療法歴を持つ543人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師が選んだ薬(eribulin、capecitabine、gemcitabineまたはvinorelbine)と比較した。30%リスク削減を目標に、メジアン期間の差が0.9ヶ月以上なら統計的に有意となる検出力を持たせた。

プレスリリースによると、結果は第1/2相IMMU-132-01試験のホルモン受容体陽性、her2陰性群と整合的だった。同時にSECに提出されたQ&A資料によると、当該群のメジアンPFSは5.5ヶ月だった。

サルベージ療法は無いよりマシ程度でもニーズがあるが、好中球減少症や下痢が枠付警告されていることなどと天秤に掛けると、針がどの程度振れるか分からない。

リンク: 当該発表とQ&Aに関するSEC提出資料(8-K)

【承認申請】


イムブルビカを未治療マントル細胞腫に二種変更申請
(2022年3月8日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンは、Imbruvica(ibrutinib)を自家造血幹細胞移植不適な未治療のマントル細胞腫にbendamustineおよびrituximabと併用する二種変更をEUに申請した。65歳以上の患者を組入れ得た第3相SHINE試験に基づくもので、データは学会で発表する予定。米国などでも申請するのではないか。

Pharmacyclics(現在はアッヴィの子会社)からライセンスしたBruton's tyrosine kinase阻害剤で、難治再発マントル細胞腫における単剤投与や慢性リンパ性白血病やワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の初発/再発治療のための単剤/併用投与が承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


IDH1阻害剤を一次治療に適応拡大申請
(2022年3月7日発表)

セルビエはIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤Tibsovo(ivosidenib)を未治療の強化療法不適IDH1変異AML(急性骨髄性白血病)にazacitidineと併用する方法をFDAに申請し受理された。優先審査を受ける。審査期限は未公表。

20年にAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)から買収した腫瘍学ポートフォリオの一つで、発癌性物質を産生してしまう可能性のある変異IDH1を阻害する。18年にIDH1変異難治/再発AMLに承認、19年には未治療の強化療法不適IDH1変異AMLに単剤投与することも承認された。昨年、IDH1変異のある局所進行性/転移性胆管細胞腫にも承認された。

今回の用法は第3相AGILE試験に基づくもの。EFS(治療フェール、死亡、または24週までに寛解しないリスク)のハザードレシオが0.33、全死亡のハザードレシオが0.44、メジアン生存期間は24ヶ月とazacitidine・偽薬併用群の7.9ヶ月を大きく上回った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Nymox社、今度こそオオカミが来た?
(2022年3月3日発表)

Nymox Pharmaceutical(Nasdaq: NYMX)はNX-1207(fexapotide triflutate)を良性前立腺肥大の症状治療薬として米国で承認申請したと発表した。同社は17年に欧州5ヶ国で承認申請したことを発表、米国でも間もなく申請としていたが数ヶ月後に欧米で申請準備中とトーンダウン。18年には米国で申請前会議が終了し年内に承認申請と発表したが、その後、幾度となく申請予定時期を先送りした実績がある。流石に法的な懸念が生じたのか、最近のプレスリリースには、承認申請の結果に関する如何なる保証も将来予想もしていないというディスクレマーを本文中に付けている。

リンク: 同社のプレスリリース一覧

【承認】


リムパーザがBRCA変異早期乳癌のアジュバント療法に承認
(2022年3月11日発表)

アストラゼネカとMSDは、生殖細胞系BRCA変異を持ちher2陰性の早期乳癌で摘出術を受けたが再発リスクの高い患者のアジュバント療法としてLynparza(olaparib)を用いることがFDAに承認されたと発表した。化学療法によるネオアジュバントまたはアジュバント療法を受けた患者に、150mg錠を二錠ずつ、一日二回、12ヶ月間投与する。

エビデンスとなるOlympiA試験では浸潤癌・死亡のハザードレシオが偽薬比0.58、3年間無浸潤癌生存率は86%で偽薬群の77%を上回った。全生存のハザードレシオは0.68だった。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

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